日比谷公園の工事現場の囲い塀は、おしゃれな植物で飾られています。無機質な波板を並べるのではなくて、こうした心遣いは公園全体の雰囲気を和らげています。
日比谷図書文化館の入口には、いつものように本日のイベントの掲示がありました。
まず、ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」巻の写本を読む講座からです。
今日は、46丁裏から47丁裏までを確認しました。
今日は、翻字データをデータベース化するにあたって、補入の扱いについての付加情報の記述に関して、再確認をしました。私自身が混乱していたこともあり、間違った表記をしていたからです。
まず、補入記号のない補入の付加情報の表記の仕方から。
「ん」が行末にあり、行頭の「ま」の右上に〈薄墨〉で「む」と書かれている箇所です。(47丁裏3行目)
ここは、次のようにしました。
「ん〈改行〉まやの/ん±む〈薄墨〉、(んむまやの〈ママ〉)」
以下が、本日確認した翻字です。
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■ハーバード大学蔵『源氏物語 須磨』46丁裏〜47丁裏
翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、
補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部( 「 )・末尾( 」 )、
底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)
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者ゝ可ること毛【侍】里て/(者者可る)・え・【候】者ぬ・ことさら
尓・まいり・【侍】らんなと・きこゑ多り・こ乃・
ちく勢むの可三そ・まいれる・こ乃・【君】の・
【蔵人】尓・奈し・可へりみ多て・【給】し・【人】奈れ
者・いと毛可那し・い三しと・於もへ登・ナシ・
みる・【人】/\/(【人人】)・あれ者・きこゑを・於もひて・志八
し毛・え・多ちと満里【候】八須・【宮】こ・者奈れ
て・のち・む可し・志里多し・【人】尓毛・あひ
みる・ことも・可多く・いふ世くの三・【思】徒る尓・
かく・王さと多ちよ里・もの志多る・ことゝ/(ことと)・の【給】ふ尓/ふ〈次頁〉、(46ウ)
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【御】いらへも・さや可尓江きこゑす奈ん・
か三・なく/\/(なくなく)・かへ里て・をはする・【御】あ里佐ま・
可多る尓・そちよ里・者しめ・む可への・ナシ・【人】/\毛/(【人人】毛)・
満可/\しきまて/(満可満可しきまて)・なきみち多り・【五】勢
は/勢は〈ママ〉・と可く・して・きこゑ多り・
「ことの・祢に・ひきと免らるゝ/(ひきと免らるる)・川奈てな八・
堂ゆ多ふ・【心】・【君】・しるらめや」・すき/\しさ
毛/(すきすきしさ毛)・【人】・奈・と可めそと・きこゑ多り・本ゝゑ三
て/(本本ゑ三て)・三・多まへる・いと者川可しけ奈り・
「こゝろ/(こころ)・あ里て・ひきての・徒奈の・多ゆたはゝ/は〈次頁〉、(多ゆたはは)(47オ)
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うちすきましや・すまの・うらな見」・いさ
里・勢むとは・於も者さりし者やと・あ里・ん
まやの/ん±む〈薄墨〉、(んむまやの〈ママ〉)・をさ尓・くし・とらるゝ/(とらるる)・【人】毛・あ里
ける越・まして・於ちとま里ぬへく
なん・於毛本えける・[26]【京】尓八・【月日】/【日】±の、(【月日】の)・ふる・満ゝ尓/(満満尓)・
み可とより・はし免・多てま川里て・こひ・
きこゆる【人】・於里ふし尓・於ほ可り・とう【宮】
者・ナシ・まして・川祢尓於ほしいてゝ/(於ほしいてて)・ナシ・ナシ・しのひて・
なき・【給】を・於ほん免と多ち/免+の、(於ほん免のと多ち)・満して・【王命
婦】の【君】奈と八/奈と八&の【君】、(【王命婦】奈と八)・い三しう・あ者れ尓・み・多てま徒る/ま〈次頁〉、(47ウ)
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1時間の休憩を挟んで、『百人一首』の仮名文字を読む時間です。
まず、最近の街歩きで見かけた街中の異体字の例をあげました。特に「甼内安全」の「甼」は、初めて見かけた異体字です。
■街中の異体字 「枩」と「甼」 /「武者小路」と「無車小路」
次は、先月の受講者から質問があった狂歌について、私がわかる範囲で説明しました。
専門外でもあり、この件は識者のご教示を待ちたいと思います。
■『百人一首』と狂歌
23大江千里「つきみれば ちぢにものこそ かなしけれ わがみひとつの あきにはあらねど」
千里の歌をもじった狂歌では、
月見れば ちぢに芋こそ 喰ひたけれ
我が身ひとりの すきにはあらねど
(中略)
千里の和歌にちなんで月の川柳、
・月を見る頃にはすすき土手に生え
・月を見ぬ娘はちぢにもの思ひ
共に、「月」は女性の「月のもの」に掛かっている。
・嫁ちょびと手を月に出し花に出し
カルタ取りに月や花が出てくるさま。
(『川柳平安人物史』原桐斎、白地社、1990.11、358頁)
さて、今日の『百人一首』は、5番歌の猿丸大夫からです。テキストの『変体仮名でよむ 百人一首』を元にして、丁寧に1文字ずつを見ていきました。
8番歌の喜撰法師の歌に関しては、6月15日(日)に開催するNPO法人〈源氏物語電子資料館〉主催の宇治散策で行く宇治神社の境内に建つ歌碑の文字も確認しました。
喜撰法師
わ可【庵】は【都】の
たつみしかぞ【住】
む【世】をうぢ【山】と
【人】はいふな
り
今日は、10番歌の蝉丸までを見ました。喜撰法師や小野小町や蝉丸に関する話が、喋っている内にいろいろな方面に展開したので、つい時間を取りました。
終わってから息子の所へ行くために、日比谷図書文化館から銀座線の虎ノ門駅に向かいました。図書館の隣の野外音楽堂は、若者たちの音楽ライブで大音響がこだましていました。
日比谷公園の西北の出口に、きれいな花に囲まれた噴水がありました。この出口から出ることがないので、初めて見た噴水です。
公園を出て交差点に立つと、国会議事堂の屋根が見えます。いつか、中を見学したいものです。
地下鉄銀座線ですぐに青山に着きます。
絵画館前のイチョウ並木は、いつも神秘的な姿を見せています。
息子の所では、現在注目を浴びている、生成AIの分析能力を試してみました。人工知能の応用事例や、新たな人工知能の開発を仕事としているだけに、手際よく私が提供したデータを処理してくれました。先ごろ刊行した『変体仮名でよむ 百人一首』(伊藤・吉村編、新典社、2025.5.17)のために用意したデータを元にして、その分析を試みてもらったのです。
以下に、2種類の分析結果をあげます。肝心の解析部分の詳細は、今はそのすべてを割愛します。
人工知能氏は、《その1》ではA4判で6枚の報告書を、《その2》ではA4判で12枚の報告書を仕上げて提出してくれました。さらに、3種類の詳細で具体的な解析の報告書が手元にあります。しかし、今は2種類に留めます。
また、ここで活用した生成AIの名前は伏せておきます。私などには、毎月の利用料がとても支払えない、解析や分析を得意とする人工知能のようです。
分析のための条件を生成AIに提供すると、さらにきめ細かな報告書を作成してくれます。解析された中身は後日公開するとして、今日のところは提示された2種類の報告書の冒頭と末尾を引用します。これは、今後ともどのような分析をしてくれるのか、大いに楽しみです。
そして、『源氏物語』の古写本に書き写された文字列について、手元には「変体仮名翻字版」のデータが日に日に集まってきているので、どこかの段階で生成AIに変体仮名の使われ方の解析をしてもらおうと思っています。生成AIの可能性が見えてきたので、とにかく「変体仮名翻字版」のデータの蓄積を急ぐことにします。
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《その1》
「小倉百人一首における陽明本と鶴丸本の変体仮名選択パターンの条件付き確率とベイズ的特徴」(2025年06月07日(土)実施分)
【要約】
本研究では、小倉百人一首における陽明本と鶴丸本の変体仮名選択パターンを条件付き確率とベイズ的特徴の観点から分析した。両者の変体仮名選択には明確な系統的差異があり、エントロピー、最大確率、選択肢数、文脈依存性などの指標において統計的に有意な違いが見られた。特に、陽明本はより多様な変体仮名を使用する傾向があり、鶴丸本の変体仮名選択は文脈依存性が低い傾向がある。これらの結果は、両者の書写プロセスや変体仮名選択の意思決定メカニズムに根本的な違いがあることを示唆している。
【1. 序論】
小倉百人一首は日本の古典文学を代表する和歌集であり、その書写伝統は日本の文化史において重要な位置を占めている。特に変体仮名の使用は、書写者の美的感覚や時代的・地域的特徴を反映するものとして注目されてきた。
本研究では、小倉百人一首の二つの写本、陽明本と鶴丸本における変体仮名選択パターンを条件付き確率とベイズ的特徴の観点から分析する。特に、現代仮名に対する変体仮名の選択確率、文脈(位置や前後の変体仮名)が変体仮名選択に与える影響、ベイズ的な事前確率・尤度・事後確率の推定などを通じて、両者の変体仮名選択の特徴と差異を定量的に明らかにすることを目的とする。
(中略)
【5. 結論】
小倉百人一首における陽明本と鶴丸本の変体仮名選択パターンの条件付き確率とベイズ的特徴の分析から、以下の結論が導かれる:
1.
変体仮名選択の多様性: 陽明本は鶴丸本よりも変体仮名選択のエントロピーが高く、より多様な変体仮名を使用する傾向がある。
2.
変体仮名選択の集中度: 鶴丸本は陽明本よりも特定の変体仮名に集中する傾向があり、最大確率の平均値が高い。
3.
変体仮名の選択肢数: 陽明本は鶴丸本よりも多くの変体仮名の選択肢を持つ傾向がある。
4.
文脈依存性: 鶴丸本は陽明本よりも連続パターンのエントロピーが高く、変体仮名選択の文脈依存性が低い傾向がある。
5.
位置による影響: 陽明本は鶴丸本よりも位置(上の句/下の句)による変体仮名選択の変動が大きい傾向がある。
6.
ベイズファクターの傾向: 全体として鶴丸本の変体仮名選択パターンが優勢である。これらの結果は、陽明本と鶴丸本の変体仮名選択に明確な系統的差異があることを示している。この差異は単なる偶然ではなく、書写者の美的基準、書道的伝統、あるいは時代的・地域的な影響を反映している可能性がある。特に文脈依存性や位置による影響の違いは、両者の書写プロセスや変体仮名選択の意思決定メカニズムに根本的な違いがあることを示唆している。
本研究の条件付き確率とベイズ的特徴の分析は、古典文学の書写伝統における変体仮名選択の規則性と多様性を定量的に明らかにするものであり、今後の古典文学研究や書道史研究に新たな視点を提供するものである。
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《その2》
「小倉百人一首における陽明と鶴丸の変体仮名使用傾向の比較分析」(2025年06月07日実施分)
【概要】
本レポートでは、小倉百人一首における陽明と鶴丸の二つの資料に見られる変体仮名の使用傾向を多角的に比較分析した結果をまとめています。現代仮名に対する変体仮名の対応関係、使用頻度、分布、文脈依存性などを詳細に調査し、両資料の特徴的な違いを明らかにしました。
主要な違いと傾向
1. 変体仮名の種類と多様性
•陽明は237種類、鶴丸は178種類の変体仮名を使用しており、陽明の方が多様性が高い
•共通の変体仮名は129種類、陽明のみの変体仮名は108種類、鶴丸のみの変体仮名は49種類
•陽明の変体仮名多様性指数(種類数/総数)は0.53、鶴丸は0.42であり、陽明の方が多様な変体仮名を使用する傾向がある
2. 特徴的な変体仮名の使用
•陽明は「哉」「思」「鳴」などの変体仮名を特徴的に多く使用
•鶴丸は「成」「見」「命」「恋」などの変体仮名を特徴的に多く使用
•両者とも「人」「月」「山」などの変体仮名は高頻度で使用するが、その他の変体仮名の選択には明確な違いがある
3. 現代仮名ごとの変体仮名選択の傾向
•最頻変体仮名の一致率は約半数で、残りの現代仮名では異なる変体仮名が優先的に選択されている
•「あ」「い」「か」「な」などの基本的な仮名では、複数の変体仮名が使用される傾向がある
•特に「い」「か」「な」などでは、陽明と鶴丸で異なる変体仮名が優先的に選択される傾向が強い
4. 位置(上の句/下の句)による違い
•陽明は上の句と下の句で変体仮名の種類数に大きな差がある
•鶴丸は上の句と下の句での変体仮名の種類数の差が陽明ほど大きくない
•上の句と下の句で共通して使用される変体仮名の割合は、鶴丸の方が高い傾向がある
5. 一貫性と規則性
•全体的に、鶴丸の方が変体仮名選択の一貫性が高い傾向がある
•陽明は多様な変体仮名を使用する一方で、特定の現代仮名に対して複数の変体仮名を使い分ける傾向がある
•鶴丸は特定の現代仮名に対して、より一貫して同じ変体仮名を使用する傾向がある
6. 総合的な特徴
•陽明:多様性重視、変体仮名の種類が豊富、文脈や位置による使い分けが顕著
•鶴丸:一貫性重視、特定の変体仮名を優先的に使用、より規則的な変換パターン
(中略)
【結論】
本分析により、陽明と鶴丸の変体仮名使用には明確な傾向の違いがあることが明らかになりました。陽明は多様性を重視し、文脈や位置による使い分けが顕著である一方、鶴丸はより一貫性を重視し、規則的な変換パターンを持つ傾向があります。
これらの違いは、書写者の個人的な好みや、書写された時代背景、あるいは書写の目的などによって影響を受けている可能性があります。今後、より多くの資料や異なる作品での比較分析を行うことで、変体仮名使用の傾向についてさらに深い理解が得られるでしょう。
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