今日も、キャンパスプラザ京都(京都市大学のまち交流センター)の入口正面には、いつものイベント案内が表示されていました。
まず、街中の変体仮名からです。
新町通錦小路通りで見かけた暖簾に書かれていた「くをん」は、「を」の字形がおもしろいのと、朱の落款が「久遠ん」と読め、今の平仮名の字母がわかる例として紹介しました。
平仮名の字母である漢字がわかる例として、宇治橋通の「左し治」も紹介しました。
今日は、予定通り相愛大学本「帚木(断簡)」を終えることができました。そして、この古写本は草稿本を書き写したものではないか、という視点で変体仮名で書かれた本文を確認していきました。そうした見方で本文を追いかけると、至るところにその片鱗が伺われます。
今回「変体仮名翻字版」で本文を確認したのは、第8丁表から現存する最終丁である第10丁裏までです。
脱字や欠脱、そしてナゾリ書きが何例も確認できました。このままでは意味が通らないので、意味などは考えずに、ただ親本を写したようです。その親本が草稿本というものであったのではないか、ということが、確認を通してその蓋然性が高くなったと言えます。これは、今後の検討で明らかにしていくつもりです。
今日問題とした箇所で、主なものを5例あげます。「文節番号」としているのは『源氏物語別本集成 正・続 第1巻』で用いているものです。
(1)8ウ/8行目 ・文節番号4934「かゝる/寿&る〈判読〉」
これは、「かゝ」に続く文字にナゾリがあり、「寿」と書いた後に「寿」の上から「る」をなぞった例としました。「る」の上に「寿」をナゾッたとはしません。ただし、「る」は微妙な字形で書かれていると判断し、〈判読〉としています。
(2)9ウ/9行目 文節番号5029「△&か」
この右のナゾリは「かの」と読み、下に書かれた文字は判読できないものの、上には「か」と書かれているものです。他本に「この」とあります。しかし、この下の文字は「こ」ではなく、「そ」として「その」と想定しても、いずれもそのような字形の文字が下に書かれているとは思えません。いまは不明としておきます。
(3)9ウ/10行目 文節番号5032「見しかゝめ里なと/し〈虫損、左傍記△、諸本みしかゝりなんと〉
上の写真の左側の行に書かれている「し」の左横の墨の線が何かは、今はわかりません。本日の勉強会の中で最後に、これは「も」ではないか、という意見が出ました。確かに、この形の「も」が前後に見受けられます。そこで、これは「も」であろうとしました。
しかし、帰宅してから諸本の本文異同で「みしかゝりなんと」とか「みしかからんなと」、そして「みしかし」という例もあることから、ここは「も」ではなくて、やはり「し」であるとします。そして、依然として「し」の左横の墨の線は不明とせざるをえません。今後の課題です。
この「帚木」の断簡には、「も」の左横に意味不明な傍線が書かれていたり、不思議な字形で「そ」と書かれていたり、「の」の最後が「ぬ」のように丸く廻っていたり、「け」の最初の棒が二本引かれていたりします。踊り字の「ゝ」が「く」や、次の仮名へのつなぎの線のように見えたりもしています。
とにかく、これまでの古写本には見られない、イレギュラーな字形や意味不明な字句やケアレスミスが散見します。今後とも、この写本の文字列は慎重に読み解いていく必要があります。そして、この写本が「草稿本」ではないか、という可能性も探っていきます。
(4)10ウ/10行目 文節番号5131「り&累〈判読〉」
ここは「者可累/り&累〈判読〉」と読みました。つまり、下には「り」とあり、その上に「累」がナゾられたとしたのです。「者可累」と書いた後に「累」の上から「り」を書いて「者可り」としたのではない、と判断したのです。
これらの判断はあくまでも暫定的なものであり、来春早々に相愛大学で原本を直接調査するので、その時に実見を通して確定していきます。
(5)8ウ/10行目 ・文節番号4942堂可ふへくもあらす/〈行間上部・貼紙「△△」〉
丁末の行頭に〈貼紙〉があります。ただし、千切った和紙を貼り付けた例を、これまでに私は見たことがありません。ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」「蜻蛉」に、貼紙がありました。しかし、それは四角に切られた和紙に文字を書いて貼り付けたものであり、このような間に合わせの対処は初見です。また、書かれている文字も、私には意味不明です。
大方のご教示をお願いします。
以下、本日確認した「変体仮名翻字版」の翻字を引きます。
これで、相愛大学本「帚木(断簡)」は終わりです。
次回は、多くの問題点を抱えるこの写本の課題を整理し、索引の作成に入ります。また、大島本などの現行の『源氏物語』とは大きく異なる本文を伝える写本なので、この本文の性格にまで及べるように調査を進めます。
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■相愛大学本「帚木(断簡)」(今回:第8丁表〜第10丁裏まで)
[変体仮名翻字版] (翻字:辻 義孝/補訂:伊藤鉄也)
・翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、
補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部( 「 )・末尾( 」 )、
底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)
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ナシ・ナシ・きこゑ【給】・ナシ・いと者川
かし介れ八・ナシ・うちいて尓くゝ/(うちいて尓くく)・於ほさるれと・
いと・よく可多らひ堂万ひ弖【御】ふ三可き
【給】あやしと於もふ尓こま/\とみゝ尓あてゝ/(こまこまとみみ尓あてて)・
いひ志らせ・【給】・かゝる/(かかる)・こと古所八と・ナシ・いとおもひ
可けか多けれと・於さ那・【心】ち・ふ可う毛・堂と
らす・ナシ・もてき多れ八於んなむね川ふれ弖・
あさましき尓・な三多も・於ちぬ・この・古の・於も
ふらん・ことも・者つ可しうて・さす可尓・【御】ふ三を・
お可く新尓/〈ママ、諸本おもかくしに〉・ひきひろけ多り・いとこと・於ほく弖/弖〈丁末左〉、(8オ)
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「みし・ゆ免を・あふ・よ・ありやと・なけく・
ま尓・めさへ・あ者てそひ/ひ$・ころ/ろ+も、(ころも)・へ尓介る」・ぬる・
よ・なけれ八なといと・め・と万りぬへき・【御】可き
さま奈れとみいれられ寿・めも・きり弖・
【心】え可多き三の・すくせ・うさそひ堂り
けるを・ナシ・於もひ川ゝけ/(於もひ川川け)・うちふし・【給】へり・【又】
乃ひ・そのき三越/そ〈判読〉・免し多れ八・まいるとて・
【御】可へり・こへ八・かゝる/寿&る〈判読〉、(かかる、かか寿)・【御】ふ三・みわくへうも
あらすと・ナシ・ナシ・きこ江よと・いへ八・うちわらひて・
堂可ふへくもあらす/〈行間上部・貼紙「△△」〉・の【給】者せし越・ナシ・い可ゝ/(い可可)、(8ウ)
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さは・きこゑむと・いふお・【心】や万しくて・
のこりなう・の【給】・き可せ介ると・於もふ尓・
川らき・こと・かきりなし・いて・およすけ多る・こと
盤・い者ぬ【物】そ・さ八・な・堂万へりそと・ナシ・けしき
あし介れ八・めす尓八・い可ゝとて/(い可可とて)・まいりぬ・かの
三/〈ママ、諸本きのかみ〉・すい多る【心】ち尓・この・まゝ者ゝ能/(まま者者能)・ありさま
を・ナシ・ナシ・よ尓免て多しと於もひて/も〈判読〉・川いせう
し・よるこゝろなれ八/(こころなれ八)・こき三わ八く累
ま尓て/わ〈ママ〉・ナシ・ゐて・ありく・こきみ・めしよせて・
きのふ八・まちくらしてやみ尓き・ナシ・あひおもふましき奈免りと/ま〈次頁〉、(9オ)
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ナシ・の【給】尓・か本・うちあ可め弖/△&う、ちあ可〈墨ヨゴレ〉・
ナシ・い川らと・能【給】尓・志可/\なん/(志可志可なん)・者ら多ち者へ
ると・ナシ・きこゆれ八・ナシ・ナシ・【心】のことやとて・【又】も・多万へ
り・あこ盤・ゑし羅しな・その・いよの・於きな
ともの・さきより・ナシ・み多てまつりそめし/そ〈判読〉・
ひとそ・されと・堂の毛し介なく・ゝひ/(くひ)・本
そと・ふ川徒可奈る・ナシ・こゝろてこしつき
ゑり・ナシ・ナシ・まうけ【給】へ累そかし/△&け・ナシ・ナシ・き三は
あ可・こにて・あれよ・かのをや八/△&か、かの〈ママ、諸本この〉・堂のもし
けなれと・ゆくさき・見しかゝめ里なと/し〈虫損、左傍記△、諸本みしかゝりなんと等〉、(見しかかめ里なと)、(9ウ)
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の【給】へ八・さ毛・あり介ん・いみしかりける・こと
と・於もへ累も・於可しと・於も本寿・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・【又】【御】ふ三
毛・ナシ・【給】へり・されと・この・こ毛・いと・者可那し・
【心】より・本可尓・ち里毛・せは・可ろ/\しき/(可ろ可ろしき)・
奈さへ・そへむ・みの・ありさま越を/越を〈ママ〉・いと・川
き那く・おほえて・免て堂き・ひと奈り
とも・わ可・三こそと・【思】へ八・いとすきか万
しきことのふさ者しからぬうちとけ
堂る・け者ゐ毛・きこゑす・本の可那
りし・【御】けはひ・なとお・け尓・よ尓・なへてなと八/て〈次頁〉、(10オ)
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於もひ・きこ江ぬにしも・あらね
と・を可しき・さま越・みえ・多て万つり弖・
奈尓ゝ/(奈尓尓)・なるへきみそと・於もひ可へ寿
なり介り・き三毛・於ほしおこ多る・ナシ・ナシ・於
り毛なく・こひしきよりも【心】く累し
う・ナシ・ナシ・於もへりしさま越・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・於ほしわ多る・
かろ/\しく/(かろかろしく)・八ひまきれて・堂ちより・
堂万者ん尓も・【人】免・し介く奈れ八/く〈ママ〉・ナシ・す
き/\志き/(すきすき志き)・ふるまひや・あら者れんと・ナシ・ナシ・ナシ・者
者可累とさまかうさま尓於ほしくらす/り&累〈判読〉、(10ウ)
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相愛大学春曙文庫「帚木」以降 落丁
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