2026年06月06日

宇治で相愛本『橋姫』の変体仮名を読む会(12)と凡例追補のこと

 シェア型書店HONBAKO京都宇治で『源氏物語』の変体仮名を読む会も、今日で12回目となりました。断簡ということもあり、あと2回で「橋姫」は終わりです。次は、「手習」(断簡)を読む予定です。

 今日はまず、[街中の変体仮名]の確認からです。

260606_なか田&祢保希.jpg


 掲示されていた店名が、「奈可田」「な可田」「なか田」と3つの仮名文字が異なります。また、「田」は漢字なのか変体仮名なのか、お店に確認が必要です。
 「祢保希」と「うな希・希々花」の「希」は、変体仮名であれば「け」と読みます。さまざまな使われ方をしていることがわかる例として紹介しました。

 続いて、「橋姫」の[変体仮名翻字版]の確認です。
 仮名文字の確認をする中で、字母をどこまで書かれている字体に忠実に再現表記するか、ということで時間をかけて検討を重ねました。
 「キャンパスプラザ京都で相愛大学本『源氏物語 藤裏葉(断簡)』を読む(第4回)」(2026年05月23日)"http://genjiito.sblo.jp/article/191707795.html"の報告で取り上げたように、「字母(漢字)に近い字体が複数ある時には、付加情報〈*〉を付す場合がある。」としたことです。あの時は、「多/多〈*〉」や「奈れ/奈〈*〉」の例にあげて、判断に迷う時には付加情報として「■/■〈*〉」を追記することを提案しました。

 今日はさらに厳密さと許容を視野に入れて、次の文字に関しても「■/■〈*〉」を付記することになりました。[変体仮名翻字版]の表記基準をより正確にして、再現性の高い翻字になるようにしたものです。

 こうした対処の前提として、すでに国際基準のユニコード(UTF8)に変体仮名が採択されているのに、それが現在作成中の本文データベースに活かされていない、という反省があります。文部科学省は、教育現場が混乱するという理由で、変体仮名は学校教育の中では認めていません。しかし、1900年(明治33年)に1字1音に制限された文字政策が、このままずっと日本だけが死守され続けるとは思われません。世界的な視野に立つと、ユニコードが日本の仮名文字表記の世界に取り込まれる時代が、いづれ来ても不思議ではありません。そうした時代が来た時のことを想定して、現在コンピュータで作成している『源氏物語』の本文データベースにおいて、禁欲的に五十音図に固執することなく、近い将来を見越したデータベースを作ることにしました。

 その意味からも、ユニコードに採択されている変体仮名の字体は、今のうちから、いつでもユニコードを取り込んだより正確な翻字に移行できるようなテキストデータを、極力意識して作成しておくことにしたのです。
 具体例として、「所」「そ」「多」「尓」を例として提示します。

260606_変体仮名分別そたに.jpg


 より崩れた字形を尊重し、それよりも字母である漢字に近いものに対しては、「■/■〈*〉」の形式で草体化する前の字形を付加情報を付けておくのです。そうしておけば、ユニコードを取り入れた本文データベースに転換する際に、比較的容易に文字データの移行が行なえます。今しばらくの、移行期間における暫定的な措置ということです。

 この新しい方針で、今日確認した[変体仮名翻字版]の翻字データをあげます。
 赤字にしている箇所が、その対処がなされている部分です。

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(2)相愛本『源氏物語 橋姫』(断簡)第一四丁裏八行目〜第一六丁表4行目
 [変体仮名翻字]翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
  傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、
  補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部( 「 )・末尾( 」 )、
  底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)
  [追補]字母表記保留(/■〈*〉)
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堂まえと・【思】よらさりし・【一人】こと越・支
き・【給】介ん堂尓・ある毛能を・い登・可
堂葉奈ら無・ナシ・ひきいり川ゝ/(ひきいり川川)・三那きい・
【給】八春・堂ひ/\/(堂ひ堂ひ)・そゝの可し/(そその可し)・きこゑ・
堂まえと・ゝ可く/(と可く)・きこゑ春さひ弖・ナシ・
や三【給】ぬ礼葉・ナシ・い登・くち越しう・於ほ
ゆ・その・川い弖尓も・い/$、(いと)・あやしう/と$あ・よ川
可ぬ・於毛ひやり尓弖/尓〈*〉・春こ春・あ里さま
とも尓・於もひの・本可なる・【事】なと・八川
可しう・於ほい堂り・ひと尓多尓・い可て可/可〈判読〉、(14ウ)
--------------------------------------
しら礼し登・者くゝ身すく世と/(者くく身すく世と)・介ふ・あ
春とん・しらぬ・【身】能・のこり・なさ尓・さ
す可尓/尓〈*〉・ゆく春へ・と越幾・【人】八・於ちあふ
礼弖・佐春らへん/△&佐・【事】・これの三こそ・遣
/尓〈*〉・よ越・八那れん・き王能・本多しなり
介れ登・うち可多らひ・堂まえ葉・【心】
く累しう・身・多てま川里・【給】・王さ
登の・【御】うしろ三堂ち・八か/\し
幾/(八か八かし幾)・すち尓葉・【侍】ら春とん・うと/\し
可ら須/(うとうとし可ら須)・於ほしきこゑさ世んとなん/(15オ)
--------------------------------------
【思】・【給】ふる・し八し毛・な可らへ・【侍】らん・いのち
能・【程】は・ひと【事】毛・可く・うちいて・きこゑ
さ世てん・さま越・堂可く・【侍】まし
くなん奈むと/と申〈判読〉&奈む・申・【給】へ八・い登・う礼志
幾・【事】と・於ほし・乃多まふ・佐弖・
あ可【月】可多尓・【宮】能・【御】をこなひ・し・【給】□/□〈空白〉・
本と尓・可乃・をい【人】・めしい弖ゝ/(めしい弖弖)・あい・【給】へ
里・ひめ【君】乃・【御】うしろ三尓弖/尓〈*〉・さふら
者世・【給】ふ・【弁】の【宮】とそ/そ〈*〉・いひける・とし八・
六十尓・春こし・たらぬ・本と奈れ登・三やひ可尓/ひ〈次頁〉、(15ウ)
--------------------------------------
遊へある・け者ひ・して・毛の奈と/な〈ママ〉・
きこゆ/こえ〈判読〉&こゆ、(きこえ)・【古権大納言宮】/【古】〈ママ〉・よと・ゝも尓(とも尓)・毛能ふ/ふ〈ママ、諸本を〉・【思】
つゝ/(【思】つつ)・やまひつき・八可奈く/△&可・なり・【給】尓し・あ里さ
ま越・きこゑい弖ゝ/(きこゑい弖弖)・なく・【事】・可きり奈し[260606_ココマデ]・(下略)
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 帰りに宇治橋へ行くと、昨日来の大雨とダムの放流の影響もあってか、中の島に架かる橘橋と朝霧橋が通行禁止となっていました。

260606_宇治川の急流.jpg

 この宇治川の急流を見ると、浮舟が入水して亡くなったという話が、いかにも事実であるかのように体感できます。実際に近年、流されて死にかけた方が何人もおられるそうです。
 今日の宇治川の勢いを宇治橋の上から見て、そうしたことが納得できました。




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2026年05月23日

キャンパスプラザ京都で相愛大学本『源氏物語 藤裏葉(断簡)』を読む(第4回)

 キャンパスプラザ京都(京都市大学のまち交流センター)の正面ホールには、いつものように本日の勉強会の案内が掲示されていました。

260523_案内板.jpg

 今日は、過日の相愛大学で調査したことの報告からしました。
 3日前の本ブログに書いたように、持参した顕微鏡でわかったことなどをお話しました。
 相愛大学のこの写本は、700年から800年前に書き写されたと思われるものなので、こうして精密機器を活用することで疑問点などを解明しています。感触としては、ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」「蜻蛉」や、国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」と並ぶか、その少し前に位置する写本ではないか、との思いを抱くようになりました。いずれも、何度か実見しての感想なので、そんなに大きく外れてはいないと思います。その一端の報告を、まだまだ私見ながらも今日少ししました。

 次に、プリントに取り上げた、普通選挙(昭和4年)のポスター(京都新聞、2026.05.12)に書かれていた、「奈」や「尓」の文字の意味を考えました。
 「そん奈ら〜奈いか」とか「【明日】尓」と書かれていることです。この資料は、まだ女性に投票権がない時代のものです。しかし、25歳以上の男子で納税資格の縛りがない条件での選挙だったので、一般市民向けのチラシでありポスターということになります。その中に、今では使われない仮名文字があるので、こうした文字は昭和4年時点で日常生活の中で使われていたということになります。国政選挙ではなく地方議会選挙の時のものなので、貴重な資料です。京都府立京都学・歴彩館で公開されているので、後でゆっくりと拝見することにします。

 お店の看板(伏見区桃山御陵前)に、「うな希」と書いて「うなぎ」、「希々花」と書いて「ののか」と読ませ、「う越弥」の横に「う我弥」と書く看板があることもお話しました。
 これは、先週の日比谷図書文化館でも紹介した例です。街中には、日本語の正しい使い方とは異なる仮名文字が、こうして民間レベルの勝手な解釈や判断や誤認で表記されている事例を見かけます。その一端の報告です。あらためて、仮名文字とは何かを考えさせてくれます。

 「教科書に見る平安朝・小学校−国語」も取り上げました。教科書の監修に関わった池田亀鑑の影響力が大きかったことを、具体例を元にしてお話しました。詳しくは本ブログの「教科書に見る平安朝・小学校−国語(6)教育出版(その3)」(2010年11月22日、http://genjiito.sblo.jp/article/178934956.html)をご覧下さい。

 今日の相愛大学本「藤裏葉(断簡)」の3回目は、第4丁裏から第7丁表の5行目の「めや可なる」までを確認しました。

 まず、凡例に付加情報としての〈*〉を追加して、字母である漢字の再確認がしやすいようにする対処を決めたことの、具体的な説明をしました。参会者のみなさまには。了解していただきました。その新しい方針の元で、今日の[変体仮名翻字版]の確認を進めました。「■/奈〈*〉」となっている箇所がそれです。以下では、赤字で示しています。


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■相愛大学本「藤裏葉(断簡)」(今回:第4丁裏〜第7丁表まで)
  [変体仮名翻字版] (翻字:辻 義孝/確認:伊藤鉄也)
   ・翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
     傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、
     補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部( 「 )・末尾( 」 )、
     底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)
    ※「宇(う)」が特徴的な字形となっている。
    ※「【見】」に「三」を使う傾向がある。(ハーバード本「蜻蛉」と同様)

※字母(漢字)に近い字体が複数ある時には、付加情報〈*〉を付す場合がある。

  [例] 多/多〈*〉


260514_2種類の多.png


※判断に迷う字は次のようにする
  [例] 奈れ/奈〈*〉 (判断に迷う文字(「な」か「奈」)の字母・字体を再確認できるようにする。)

 相愛本「帚木」10丁裏8行目
260514_「帚木」10uL8な奈.jpg


※判断に迷う字で判読を併記する場合
  [例] なりたり/た〈*、判読〉 (「た」を判読として、字母・字体を再確認できるようにする。)

 相愛本「橋姫」14丁表5行目
260514_相愛「橋姫」14uL5なりたり.jpg



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佐毛・於ほし者ゝ可里ぬへ
き/(於ほし者者可里ぬへき)・【事】奈れ八・王多り・【給】ぬ・【御】つ可日の・ろ
く・奈へ弖ならて/奈〈*〉・堂てま川里・【給】へり・
【中将】・を可しき・さ満尓・毛てなし・堂満
ふ・つ祢尓・ひき可く新川ゝ/(ひき可く新川川)・可くろへあり
きし/り〈行末左〉・【御使】・介ふ八・を毛ゝちなと/(を毛毛ちなと)・【人】/\
志弖/(【人人】志弖)・布るまふ免り・うこ乃そうなる・
【人】の・む川まし宇・於ほし・つ可ひ・【給】奈り
遣り・【六条】乃をとゝ毛/(【六条】乃をとと毛)・可くと・きこし
めして・遣ふ・【宰相】・つ祢より毛・いと・い堂う・ひか里/か〈次頁〉、(4ウ)
--------------------------------------
そひ弖・まいり・堂満へれ八・うち
ま本里・堂まひて・遣さは・い可尓・布三なと・
毛能新川や・さ可しき・日と毛・をんなの・
すちは・三堂るゝ/(三堂るる)・多免し・ある越・日と王
ろく・可ゝつらひ/(可可つらひ)・こゝろいられ/(こころいられ)・世弖・春くさ
れ堂る奈ん/奈〈*〉・すこし・日と尓・ぬ遣堂る・三【心】
となむ・於ほえ遣累・をとゝ乃/(をとと乃)・三越き弖乃・
あま里・すく三て・なこり奈く/奈〈*〉・ゝ川をれ/(く川をれ)・多
万ひぬる越・よ【人】毛・い日い川る・【事】・あらむや・
さ里と弖毛・【我】・可堂・ゝ遣う/(堂遣う)・【思】可本尓・心於こり/於〈次頁〉、(5オ)
--------------------------------------
新弖・すき/\しき/(すきすきしき)・こゝろ者へ奈と/(こころ者へ奈と)・
毛らし・【給】奈・さこそ・をいら可尓・於ほきなる・
【心】を幾てと・三ゆ礼と・し堂乃・こゝろ者へ/(こころ者へ)・
をゝし可らす/(ををし可らす)・く勢・【有】弖・日と・三え尓く
き・【所】・川き・堂る・【人】奈り那と・れいの・をしへ・
きこえ・【給】・【事】・うちあひ・めやすき・【御】ゆ可りと・
於ほさる・【御事】毛・みえす・ゝこ新可/(すこ新可)・この
か三とそ・【見】え・堂まふ・本可/\尓弖は/(本可本可尓弖は)・奈
し/±を(を奈し)・可越・う川し多ると・三る越・を満へ尓て
八・さま/\/(さまさま)・あ奈/奈〈*〉・めて多と・みえ・【給】へり・をとゝは/(をととは)、は〈次頁〉、(5ウ)
--------------------------------------
うすき・【御】奈越し・新ろき・【御】その・可ら
免き堂累可・毛む・介さや可尓・川や/\と/(川や川やと)・す
き堂るを・堂弖まつ里て・なを・つき世す・
あ弖尓・なま免可新宇・於八します・【宰
将】のき三八・すこし・【色】・ふ可き・奈をし尓・ちや
新そめの・古可累ゝ満弖/(古可累累満弖)・新める・こゝ/(ここ)・あや能・奈
川可しき越・き・堂まへる・こと佐ら免き弖・
えむ尓・三ゆ・くわむ宇ふ川/宇$、く=卯月八日事也、傍卯〈判読〉、(くわむふ川)・井て・堂て満
川里弖・【御】堂宇し・をそく・まいり遣れは・
ひ・く礼弖・【御】可多/\より/(【御】可多可多より)・わら八へ・川くろ日い多し/(6オ)
--------------------------------------
ふ勢奈と・於ほや遣さま尓八・可者らす・さ満/\
尓/(さ満さ満尓)・新・堂まへ里・をまへ乃・さ本宇越・う川
新弖・き三多ちなと毛・万い里川とひ弖・
奈可/\/(奈可奈可)・う累八しき・【御前】より毛・ナシ・こゝろつ可ひ/(こころつ可ひ)・世
ら礼弖・をくし可ち奈り/△&ち・【宰相】八・し川【心】奈
く・いよ/\/(いよいよ)・遣さうし・日き川くろ日て・いて・
【給】を・王さとなら祢と・奈さ遣堂ち・堂まふ・
王可き・ひと/\八/(ひとひと八)・うらめしと・於もふ毛・【有】介り・と
古ろ乃・川毛り・と里そへ弖・【思】・やうな累・【御】
奈可らひ奈免れ八・三川・毛らむや八・あるしのをとゝ毛/(あるしのをとと毛)、の〈次頁〉、(6ウ)
--------------------------------------
いとゝしき/(いととしき)・ち可まさ里越・う
川くしき・毛乃尓・於ほして・い三し宇・も弖
可新つき・ゝ古え/(き古え)・【給】・ま遣ぬる・可堂能・くちをし
さは・な越・ゝ本勢と/(越本勢と)・川三毛・乃こる満し宇・ま
めや可なる・[2026/05/23 ココマデ] 御こゝろさまなと能/(【御】こころさまなと能)・としころ・事
こゝろ/(【事】こころ)・なくて・祢んしすくし・堂まへるなと
を・【有】可多く・於ほしゆるす/於〈*〉・【女御】の・【御】【有】さ満な
とよ里毛・者那や可尓・免弖堂く・あらま
本し遣れ八・き堂能可多・さ布ら婦・【人】/\
奈とは/(【人人】奈とは)・こゝろよ可らす/(こころよ可らす)・於もひ・いふ毛・あれと・奈尓能/奈〈*〉、尓〈次頁〉、(7オ)
--------------------------------------


 今日も、中身の濃い内容だったと思います。丁寧にお話したので、その意図は伝わったと思っています。

 次回は、来月27日(土)第5講習室で開催します。また楽しく変体仮名を勉強していきましょう。

 帰りに、いつものように京都ヨドバシカメラに行きました。4月から「海鮮回転寿司がんこ 京都ヨドバシ店」が、6階のレストラン街に開店していたことを知りました。早速、行ってみました。
 我が家は、一人一食1,200円以内を原則としています。ここは、価格が少し高めに設定されていたので、小腹を満たす程度にしたはずなのに、2人で3,000円を超えていました。いつものように、最後にはデザートをいただくのに、今日は予算がオーバーしたので別のお店へ行きました。
 回転寿司を標榜するお店にしては、値段が高いグループに入ると思います。もっと安くておいしいお店がいくつもあります。もう京都では、インバウンド客を想定しての営業はしていないお店が多いので、このご時世に高価格となっているのには何か理由があるのでしょう。
 私がよく行く、回転寿司ではないもののイオン京都の中にある高木鮮魚店の方が、価格も味も新鮮さも比べものにならないほど上です。
 ただし、1つだけ興味を惹いたものがありました。壁に懸かっていた絵が、『源氏物語』の絵だったのです。記録として撮影しただけなので、細かな分析は今はできません。また何かの折にでも、正面から撮影したいと思っています。

260523_がんこ寿司のG絵.jpg

 なお、生成AI氏にこの写真を見てもらいました。しかし、どうも私の感触とは大きく隔たる解説だったので、今ここでの紹介は止めておきましょう。さらにきれいな写真が撮れた時に、あらためて生成AI氏に聞くことにします。





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2026年05月16日

日比谷で「宿木」(2)と『百人一首』(13)を読む

 今回も、東京駅に着くとすぐに1駅戻り、有楽町駅で降りました。そして、マロニエゲート銀座の上にある回転寿司のくら寿司へ、お昼ご飯のために直行しました。とにかく、清潔感溢れるお店なので、ゆったりと食事ができました。

 日比谷図書文化館の入口には、いつものように案内が掲示されています。

260516_掲示板.jpg

 講座の最初は、「相愛大学本『源氏物語 宿木』の変体仮名を読む」の2回目です。
 内容は、次の3項目を用意しました。

(1)普通選挙(昭和4年)のポスター(京都新聞、2026.05.12)
(2)お店の看板(伏見区桃山御陵前)「うな希」と「う我弥」
(3)相愛大学本「宿木(断簡)」(今回:第1丁表〜第2丁表まで)

 「宿木」の翻字を始める前に、[変体仮名翻字版]の凡例で新たに作った方針の説明をしました。

※字母である漢字に近い文字の翻字には付加情報〈*〉を付す。

※判断に迷う字は以下のようにする。
 奈/奈〈*〉 (〈*〉を付けて判断に迷う文字(「な」or「奈」)の字母を再確認できるようにする。)

260514_2種類の多.png

 例 相愛「帚木」10丁裏8行目

260514_「帚木」10uL8な奈.jpg

 ※判読を併記する場合
  なりたり/た〈*、判読〉(相愛「橋姫」14丁表5行目)

260514_相愛「橋姫」14uL5なりたり.jpg


 今回、凡例を追補することで、一連の[変体仮名翻字版]の凡例の点検が終わったことにします。近日中に、これまでの凡例を総整理して公開したいと思います。

 今日の翻字の確認は、次の通りです。

--------------------------------------[GBS_497682]
三ち越・ふ三わ遣ける・あとも・みえぬを・三
い堂して・と三尓も・え・いて・【給】八す・いと・け志
幾・ある・み【山木】尓・やとり多る・川多乃・
いろそ・満堂・の古り多る・こ多尓なと・ひ
きとら勢・【給】て・【宮】へと・おほして・も多せ・
【給】・(2026/04/18ココマデ)
「やとりきと・おもひいて須八・【木】乃もとの・
 堂ひねも・い可に・さひし可ら満し」
と・ひとり・【給】越・きゝて/(ききて)・あまき三・
「あれ八つる・くちき乃・もと越・やとりきと/と〈丁末左〉、(1オ)
--------------------------------------
 おもひをき遣累・本との・可なしさ」/さ〈行末左〉・
あく満弖・ふる免き堂れと・ゆへなく
八/く〈行末左〉・あらぬをそ・いさゝ可/(いささ可)・なくさ免尓八・おほし
遣る・【宮】尓・も三ち・堂てまつれ八・おと古
三や・お八しましける・本となり遣里・三な三
乃【宮】よりと弖・な尓【心】も・那く・もて満い
里多る越・【女君】・れいの・むつ可しき・【事】
もそと・くるしう・おほ世と・とり可く
すへき・こと可八・【宮】・を可しき・川多可なと/と〈行末左〉・
堂ゝなら須/(堂堂なら須)・の【給】て・免しよせて・ナシ/±三・【給】/し&【給】・【御】【文】尓八/【文】〈次頁〉、(1ウ)
--------------------------------------
【日】ころ・な尓【事】可・お八しますらん・
【山】さとに・ものし・【侍】て・いとゝ/(いとと)・三ねの・あさき
里に/き〈行末左〉・満とひ・【侍】つる本と乃・【御】【物】可多りとも・
身つ可らなん・可し古の・しむてん・堂う
尓・なすへき・こと・あさり尓・いひつ遣・【侍】尓き/き〈行末左〉・
【御】ゆるし・【侍】て古そ八・本可に・うつす古とも/も〈行末左〉・
も乃し【給】・【侍】ら免・【弁】乃のあまに・さるへき・
おほ世【事】八・つ可八せなんとそ・あ累[260516_ココマデ]・よくも・
川れなく・【事】・【給】へる・ふ三可な・満ろ・あり
とそ・きゝ川【覧】と/(きき川【覧】と)・の【給】も・す古し八・け尓/(2オ)
--------------------------------------


 休憩時間には、新しく翻字を担当してくださっている方からの質問に答えました。
 早急に、新しい凡例を確定しなければなりません。

 次は、「『百人一首』を2種類の変体仮名で読む」です。
 本日は、次の項目を取り上げました。

(1)百人一首ツアー(京都新聞 2026.05.07)
(2)62番歌 清少納言の歌碑(泉涌寺)
  「京洛逍遥(555)洛陽三十三所(20)泉涌寺」
   (2019年05月19日、http://genjiito.sblo.jp/article/186017468.html
(3)小倉山荘の『百人一首』(その1)
(4)慈円が書写したとされる『源氏物語』の写本
 ◎東京国立博物館蔵「保坂本源氏物語」/「薄雲」「初音」「椎本」「早蕨」「蜻蛉」「手習」
 ◎ハーバード大学美術館蔵「須磨」「蜻蛉」
 ◎天理図書館蔵「藤袴」
(5)『変体仮名でよむ 百人一首』  89番歌 式子内親王 から 95番歌 前大僧正慈円 まで

 今日も、盛りだくさんの内容でした。
 2種類の『百人一首』に書かれた文字に拘って進めたので、脇道に逸れることも多く、さまざまな話題を提供することになりました。

 帰りには、新宿駅で書家の宮川さんと待ち合わせをして、相愛大学の『源氏物語』に関する書類を受け渡ししました。
 その後は息子の所へ行き、四方山話に花を咲かせました。




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2026年05月02日

宇治で相愛本『源氏物語 橋姫』の変体仮名を読む会(11)

 シェア型書店HONBAKO京都宇治の玄関先には、カラフルでかわいい雰囲気が漂っています。

260502_本箱入口.jpg


 今日は、先月「街中の変体仮名」として例にあげた、お蕎麦屋さんの仮名文字に関して、話題としなかったことを再確認しました。次の3行目にある、「楚者」と翻字したことです。ここで赤丸を付けた文字は「者」でいいのか、ということです。

260502_「楚者」.png


 いろいろな資料で確認しても、この「生」と思われる文字の字母がわからないのです。
 上の配布した資料には、『携帯かな字典』(角川書店、1984年)から列挙されている「者」と「半」の文字をあげています。すべてが似て非なる文字であり、該当するものがありません。
 結論としては、「楚者」なのか「楚半」なのかの確認はできず、一応無難な「楚者」とすることにしました。識者のご教示をお願いします。

 「橋姫」の[変体仮名翻字版]の確認は、予定したところをすべて終えました。

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(2)相愛大学本『源氏物語 橋姫』(断簡)第一一丁裏八行目〜第一四丁表
  [変体仮名翻字]
翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、
補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部( 「 )・末尾( 」 )、
底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)
--------------------------------------
[20260404_7行目マデ確認済み]
【五六日】・【程】二・うちへ・まうて・【給】ふ・あし
ろ越こそ・古乃ころ葉・【御】らん世免と・き
こゆる・【人】/\/(【人人】)・あれ登・【何】可・その・ひ越んし尓/ん〈次頁〉、(11ウ)
--------------------------------------
あらそふ・【身】尓て・あしろ尓も・よら
むと・そきゝ春弖/ゝ〈ママ、諸本ナシ〉、(そきき春弖)・堂まふ弖礼い乃志
のひや可尓八いてたち堂まひ弖・可ろ
ら可尓・あしろく累ま尓弖・可とり乃・な越
し・さしぬき・ぬ者世弖/△&ぬ・【事】さら尓き・【給】
へ里・【宮】・まちよろこひ/こ〈ママ〉・【給】弖・【所】尓・川け
堂る・於ほんあるしなと・を可しう・し
奈し・【給】い・くれぬれ者・【御】と乃あふら・ち可く
て・さき/\/(さきさき)・三さし・【給】川累・ふ三とん能・
布可きなと・あさり毛・さうしをろして/後し〈次頁〉、(12オ)
--------------------------------------
きなと・い者世/者〈ママ〉・【給】ふ・うち毛・まとろ
ま春・可者可【風】能/後可〈ママ〉・い登・あらましき尓・
【木葉】乃・ち里可ふ・越登・三川乃・ひゝき奈
と/(ひひき奈と)・あ者れ毛・すきて・毛能をそろしく・
【心】本そき・【所】の・さまなり・あ遣可多・ち可く・
なりぬらんと・【思】・本と尓・あ里し/らし&里し・ゝのゝ
免/(しのの免)・【思】い弖られ弖・きん・祢の・あ者れなる・
【事】乃・徒い弖・川くりい弖ゝ/(川くりい弖弖)・さきの・多ひ・
きり尓・まと八さ礼・【侍】し・あ遣本の尓・い
登・めつらし幾・毛乃ゝ祢/(毛乃乃祢)・ひとこゑ・きゝ【給】志/(きき)、(12ウ)
--------------------------------------
乃古りなん・【中】/\/(【中中】)・ナシ・ゆ可しく・あ可春・於もふ・
堂まへら累ゝなんと/(堂まへら累累なんと)・【申】・【給】ふ・いろをも・
可越毛・於もひ春弖ゝし【後】/(於もひ春弖弖し)・む可し・きゝし/し〈行末左〉、(ききし)・
【事】毛・三那・王春れ弖なと・乃多まへ登・
【人】・免して・きん・とりよ世・い登・川き奈
く・なり堂りや・し累へ春る・【物】ゝ祢尓/(【物】の祢尓)・
徒介弖なん・【思】いてら累へ可ん免里介りと
て/ん免$、(【思】いてら累へ可里介りとて)・ひ王・免して・まら【人】尓・そゝろ可し/ろ$の、(そそろ可し、そその可し)・
堂まふ・とり弖・しらへ・【給】ふ・さら尓・本の
可尓・きゝ/(きき)・【給】し・を奈し・毛乃とも・【思】/(13オ)
--------------------------------------
【給】へられさり介り・【御事】能・ひゝき可ら
尓や登こそ/(ひひき可ら尓や登こそ)・於毛ひし可と弖・ナシ・【心】とけ
て毛・可き堂て・【給】八春・いて・あな・さ可奈や・
し可・【御】身ゝと満る八可り能/(【御】身身)・てなんとは・
い徒くより可・こゝまて八/(ここまて八)・つ多八りこん・ある
まし幾・【御事】なりとて・きむ・可き那
ら新・【給】へ累・いと・あ者れ尓・【心】春こし・
可多え葉・三祢・【松風】乃・もて者や春な
累へし・いと・堂登/\しけ尓/(堂登堂登しけ尓)・於ほ免
き・【給】弖・古ゝろ八へあひ/(古古ろ八へ)・弖・【人】八可り尓弖/尓〈次頁〉、(13ウ)
--------------------------------------
や免・堂まひぬ・古乃・王多り尓・を
本え奈くて・越里/\/(越里越里)・本乃免く・さう能
ことこそ・ナシ・古ゝろえ堂る尓やと/(古古ろえ堂る尓やと)・きく・を
里・八んへられと/ら〈ママ〉・身ゝと免弖なんとも/(身身)・あ
らて・ひさしう・なりたりや/た〈判読〉・古ゝろ尓/(古古ろ尓)・ま
可勢て・を能/\/(を能を能)・可きなら春へ可んめ累越・可
はな三八可りや・うちあ者春らん・ろ
なう・毛のゝよふ尓/(毛ののよふ尓)・春八可り能・飛やうし
なとも・とまらし登なん・於ほえ・【侍】とて・
可き奈らし・【給】へと・あ奈多尓・きこゑ/(14オ)
--------------------------------------

 なお、次に画像で示した、14丁表5行目の「たり」の「た」は〈判読〉としました。字形は崩れています。しかし、「太」を字母とする現行の五十音図にある「た」とするしかない、と判断したものです。

260305_相愛橋姫14oL5たり.jpg


 以上、今回確認し終えての感想は、この「橋姫」の書写者は文意をほとんど考えずに、親本の文字の形を自分なりのイメージによる字形で書き写していると思われます。癖字の多い書写者だといえます。「二」「も」「八」「と」「こ」「は」「春」「於」「た」「尓」などに、その傾向が顕著でした。
 こうした点は、再来週に相愛大学へ調査に行く予定となっているので、原本の確認をする際にさらに熟覧して確定したいと思います。
 これまで翻字をしてきた、ハーバード大学美術館蔵「須磨・蜻蛉」や歴博本「鈴虫」とはまったく異なる書写態度であると言えます。その理由は何なのか、今後とも考えていくつもりです。

 帰りに、JR新田駅で見かけた「みやこ路快速」の車体のラッピングが、お茶をテーマにした季節感を漂わせるおしゃれな電車でした。

260502_お茶の列車.jpg


 近鉄の電車も、奈良をイメージした鹿をあしらった車体のデザインです。地域や風土と季節感を感じさせる装飾を身に纏った電車は、旅の人々も楽しんでおられると思います。特定の商品ではなく、こうした気配りは大歓迎です。




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2026年04月25日

キャンパスプラザ京都で相愛大学本『源氏物語 藤裏葉(断簡)』を読む(第3回)

 キャンパスプラザ京都(京都市大学のまち交流センター)の玄関ホールには、本日の勉強会の掲示が出ていました。

260425_掲示板.jpg


 今日は、相愛大学本『源氏物語』の「帚木」(断簡)が大島本と大きく違っているので、それを読み解くことの第2回目を予定していました。しかし、この異文の確認と解釈を始めると、それだけで膨大な手間と時間がかかることになります。この講座では、あくまでも鎌倉時代の変体仮名を読むことに特化した活動が本来の主旨なので、異文の解釈は取り上げないことにしました。
 このことは、いつかテーマの一つとして取り上げるつもりです。

 さて、まずは参考資料としてプリントした、今年の葵祭の斎王代(京都新聞、2026.4.10)に関するニュースを取り上げました。
 さすが会場が京都だけに、斎王代の選定のことなどが話題となり、すでに候補者は順番待ちだとか。また、新聞記事には「同志社大学4年」とあるので、私は京都式に「4回生」とすべきではないかと言うと、同席の同志社大学卒業生から、大学としては正式には「○年」としているとのことでした。ただし、学生はみんな「○回」で言っているようです。その意味では、この記事のこの部分は大学側の視点での表現であり、読者側の意識とは違うことがわかりました。私は、やはり京都方式の視点で「○回」と表現してほしいところだった、と思っています。

 次は、変体仮名を「王」と見るか「者」と見るか、という「謎の文字とされる変体仮名」とされている問題を提示しました。
 次の2文字目の字母を何とするか、ということです。これは、2026年4月19日にXに投稿された画像です。いろいろなコメントが寄せられており、ネットで見る限りではそれらのすべてが変体仮名の「王」とするものです。そして、これは「い王(わ)しや」と読むのだと。

260424_い王しや.jpg

 しかし、私がこれは「王」と読むよりも「者」の可能性が高く、そうであればハ行転呼音の問題と関わりを持ち、語中語尾のハ行音はワ行で読む、という説明にいい資料になるとして提示しました。つまり、「私は」と書いて「わたしわ」と読むことです。
 参会者のみなさんは、すべてが字母は「王」か「者」であり、どちらかと言うとこの字母は私が提示した案の「者」がいいのではないか、ということになりました。当該の会社に問い合わせればいいのかと思われます。しかし、今はこうした問題がある、というところで留めておきます。
 なお、この件でXには[某氏コメント]として次の発言があります。

平安時代から明治33年までは同じ「平仮名」として育ってきたのに、ある日急に「変体仮名」に分類されて「読めない文字」扱いになった不遇の子達ではあるんだが、今読める奴はだいたい「変態」だな。。

 あのドラマ「相棒 コイノイタミ」(2022.12.7 -ABCで放映)で、製作者側が変体仮名についてとんでもない無知をさらけ出したことを思えば、[某氏コメント]は変体仮名について正しい理解を示しておられます。ただし、「今読める奴はだいたい「変態」だな。。」とあることについては、本日集まったすべての者が「変態」ということになります。変体仮名については、まだ日本では理解がなされていないことに変わりはない、というところに落ち着きました。
 そして、「変体仮名」に代わる名称として「京仮名」にしたらどうだろう、という提案がありました。機会を見て、この案を提示することにしましょう。

 続いてのトピックは、「教科書に見る平安朝・小学校−国語(5)教育出版(その2)」です。
 これは、前回の「教科書に見る平安朝・小学校−国語(9)日本書籍(その2)」を受けての、私からの問題提起です。私が京都府立図書館で閲覧・確認したのは、823冊です。その内、小学校国語科教科書についての調査結果を、本ブログで11回にわたって以下の記事にまとめて公開しています。

   【「教科書に見る平安朝・小学校−国語」リスト】
「教科書に見る平安朝・小学校−国語(11)三省堂・信濃教育会出版部」
「教科書に見る平安朝・小学校−国語(10)大阪書籍」
「教科書に見る平安朝・小学校−国語(9)日本書籍(その2)」
「教科書に見る平安朝・小学校−国語(8)日本書籍(その1)」
「教科書に見る平安朝・小学校−国語(7)光村図書出版」
「教科書に見る平安朝・小学校−国語(6)教育出版(その3)」
「教科書に見る平安朝・小学校−国語(5)教育出版(その2)」
「教科書に見る平安朝・小学校−国語(4)教育出版(その1)」
「教科書に見る平安朝・小学校−国語(3)学校図書」
「教科書に見る平安朝・小学校−国語(2)中京出版・大日本図書・二葉図書」
「教科書に見る平安朝・小学校−国語(1)」

 今日のテーマに関しては、配付した資料を以下に画像で引きます。
 画像をクリックすると精細表示となり、文字が読みやすくなります。

260425_相愛「藤裏葉」(3)_1.jpg


260425_相愛「藤裏葉」(3)_2.jpg

260425_相愛「藤裏葉」(3)_3.jpg


260425_相愛「藤裏葉」(3)_4.jpg

 昭和46年度用の教育出版の小学校用の教科書から以降は、教科書から平安時代の雰囲気はまったく排除されていったようです。
 なお、来月は、小学6年生用の「教育出版(その3)」でまとめます。

 前回まったく翻字の確認ができなかった相愛大学本「藤裏葉(断簡)」は、今日が2回目となります。今回は、第3丁表から第4丁表までを確認しました。


■相愛大学本「藤裏葉(断簡)」(今回:第3丁表〜第4丁裏まで)
  [変体仮名翻字版] (翻字:辻 義孝/確認:伊藤鉄也)
   ・翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
     傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、
     補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部( 「 )・末尾( 」 )、
     底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)
    ※「宇(う)」が特徴的な字形となっている。
    ※「【見】」に「三」を使う傾向がある。(ハーバード本「蜻蛉」と同様)
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い堂き・ぬし可奈ゝ(ぬし可奈奈)・か八くちのと
古楚・さしいらへま本新可里つれと・の多満へ八・
をん奈き三・きゝ尓くゝ/(きき尓くく)・於ほ新弖・
「あさき・な越・い日奈可新遣累・可者く
ち八・い可ゝ/(い可可)・毛ら新ゝ/(毛ら新新)・勢き乃・あし可き」/し$らイ、(あら可き)・あさ
ま新と・乃堂まふ・さま・いと・こ免き堂里・す
古し・うち王らひ弖・
「毛里尓介累・くき堂能世き越・可者く
ち能・あさき尓の三八・於ほ世佐らなん」・とし
【月】の・川毛里に・いと・王里奈く・なやま新き尓/き〈次頁〉、(3オ)
--------------------------------------
毛乃・於ほえす・ゑい・可こち弖・具る
新介尓・も弖なして・あく累毛・しらす・
可越奈り・ひと/\/(ひとひと)・きこえ王つらふ越・を
とゝ/(をとと)・し堂里可越奈る・あさい可なと・と可
免・【給】・されと・あ可し八てゝそ/(あ可し八ててそ)・いて・多満
ふ・祢く堂れの・【御】あさ可本・三る・可ひ・【有】可志・
【御文】八・な越・し乃日多り川る・まゝ乃/(まま乃)・【心】川
可ひ尓弖・ある越・な可/\/(な可な可)・介ふ八・え・きこえ・
堂満者ぬを・【事】八りと・毛のい日さ可那
き・こ堂ち・つき新ろふ尓・をとゝ乃/(をとと乃)・王堂里弖/堂〈次頁〉、(3ウ)
--------------------------------------
三・多満ふ尓そ・いとゝ/(いとと)・わ里奈
きや・川き勢さり川累・【御】遣しき尓・い
とゝ/(いとと)・【思】新らるゝ/(【思】新らるる)・三乃本と可奈・堂えぬ・【心】二・
ま堂・き古えぬへき尓毛・
「と可む奈よ・新の日尓・し本累・て毛・
堂ゆ三・遣ふ・あら八るゝ/(あら八るる)・【袖】の・新川くを」/を±奈と(新川くを」奈と)・いと・
なれ可本尓・可幾・【給】へるを・うちゑ三て・
弖越・い三し宇毛・可きな礼尓遣る可奈ゝ
と/(可きな礼尓遣る可奈奈と)・三・堂まふ毛・む可しの・奈こ里・な新・
【御返】・いと・い弖き可多遣奈れ八・いと・三くる新やと弖/新〈次頁〉、(4オ)
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2026年04月18日

日比谷で「宿木」(1)と『百人一首』(12)を読む

 いつものように、午前10時過ぎに新幹線で東京駅に着きました。そして山手線で1駅戻った有楽町駅で降りて、銀座で早い昼食をいただきます。

 今日は、有楽町駅の改札を出たところに、「駅のスタンプ」があることに気付きました。各駅にあるそうです。スタンプラリーが大好きな私は、さっそく有楽町駅の印影を手に入れました。

260418_駅スタンプ.jpg


 かつては、有楽町駅の皇居側にあるヨドバシカメラの上にある回転寿司のスシローに行っていました。しかし、今は反対側の銀座のマロニエゲート銀座の上にある回転寿司のくら寿司に行っています。清潔感とデザートが違うからです。

 数寄屋橋交差点のすぐそばに、北村西望が昭和6年に「燈臺」と銘打った銅造彫刻を造り、昭和8年に関東大震災10周年記念塔に相応しいとして設置されました。数寄屋橋交番の真裏です。その台座には、「不意の地震に不断の用意」という標語が鋳造銘板に刻まれています。その銘板は、次のように「地震に」の箇所が「地震尓」となっており、変体仮名の「尓」が用いられています。

260418_銘板「地震尓」.jpg

 東京の街中では、京都とは真逆で、ほとんど変体仮名を見かけません。飲み屋さん街へ行ってもそうです。銀座に近い門前仲町に住んでいた頃にも、少しだけしか見つけられませんでした。それだけに、こうして銀座に近い有楽町駅の側で変体仮名の「尓」を見かけると、1文字だけであっても嬉しくなります。

 日比谷図書文化館の入口には、いつものように案内が掲示されています。

260418_図書館の掲示.jpg


 今日も最初は、「相愛大学本『源氏物語 宿木』の変体仮名を読む」。
 これは、今日から読み始める相愛大学本『源氏物語 宿木』(断簡)の第1回となります。
 内容は、次の4項目でした。
(1)今年の葵祭の斎王代のこと
(2)本講座の内容
(3)春曙文庫の『源氏物語』に関する説明
(4)相愛大学本「宿木(断簡)」(今回:第1丁表6行目まで)
  第3丁表までの資料を用意していました。しかし、今日からこの講座に参加なさる方が数人いらっしゃったことに加えて、相愛大学本『源氏物語』(断簡)は今日が最初ということなので、少し丁寧に説明をしました。

(1)今年の葵祭の斎王代については、京都新聞の記事を見てもらいました。

(2)本講座の内容については、次の文章を配布しました。

 鎌倉時代の古写本『源氏物語』の第49帖「宿木」(断簡)に書き写された仮名文字を読みます。
 テキストとする古写本は、鎌倉時代中期に書写されたと思われる古写本の一つであり、美麗な美術品です。具体的には、相愛大学の春曙文庫が現蔵する断簡五冊の内、「宿木」巻に書写されている文字を変体仮名に注目して確認していきます。今回使用する資料は、国文学研究資料館から公開されているパブリックドメインの画像です。
 かつてこれは、ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』(「須磨」「蜻蛉」)と、国立歴史民俗博物館蔵「鈴虫」(重要文化財)と一緒に伝えられていた古写本だったと思われます。春曙文庫に伝わる他の四冊は、第二帖「帚木」・第三三帖「藤裏葉」・第四五帖「橋姫」・第五三帖「手習」で、すべて現在は断簡としての本文しか残っていません。
 この古写本に書かれている文字が、とにかく読めるようになることを、当面は第一の目的とします。一人でも多くの方が、日本の文化資産である変体仮名が読めるようになることを願って開催する講座です。そして、これはデータベースの構築へと展開し、今後は生成AIで分析していきます。

[参考資料]
『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」』(伊藤編著、新典社、2013年)
『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「蜻蛉」』(伊藤編著、新典社、2014年)
『国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」』(伊藤・阿部・淺川 共編、新典社、2015年)
『現代の図書館』(vol.62 no.3、通巻251号、日本図書館協会現代の図書館編集委員会編、2024年)
相愛大学図書館「春曙文庫」の蔵書とその最新研究/阿尾あすか
春曙庵主田中重太郎−その人となりと蔵書形成/山本和明
天理図書館と「源氏物語」古典籍資料−蒐集の経緯・名品の紹介/岡嶌偉久子
日本古典文学作品とAI・機械翻訳について/淺川槙子

(3)春曙文庫の『源氏物語』に関する説明では、田中先生の異文に対する驚きを伝えました。

源氏物語本文について(田中重太郎)
 ところで、源氏物語の本文でも定家の証本がいま定本視されているが、いわゆる別本系の本文と読みくらべると、いまの源氏物語の本文は、なんだかばかに整頓され、みがかれ過ぎた感じがする。架蔵の鎌倉初期書写の源氏物語断簡(昭和三十九年十月刊)を読みかえしていると、こんな本文の源氏物語がすくなくとも平安末期にはあって、読まれていたのだと思い、いま行われている源氏物語の本文と読みあわせると、そらおそろしい気がして来る。(下略)(リーフレット「春曙庵主田中重太郎その人とことのは」(2024.03_ver.01)
国文研共同研究「相愛大学「春曙文庫」に関する研究−書物と人」の成果として製作)、(清少納言と「ほのかなり」と『平安文学研究』第四十二輯、昭和四十四年六月号、『枕草子三十五年』再掲)

 写本の影印資料を見ながら、ゆっくりと進めました。とにかく、今日が1回目ですから。
 第1丁表の6行目までで時間が来ました。
 こんな調子でのんびりと進めて行きます。

--------------------------------------
4)相愛大学本「宿木(断簡)」(今回:第1丁表〜第3丁表まで)
  [変体仮名翻字版](翻字:辻 義孝)
・翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
  傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、
  補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部( 「 )・末尾( 」 )、
  底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)
《メモ》「於」ではなく「お」、「奈」がない、〈行末左〉が多い、「も」「せ」が読み取り難い、「思」と「越」の字形が他の相愛大学本の巻と違う。付加情報に〈行末下〉を追補しない。
--------------------------------------[GBS_497682]
三ち越・ふ三わ遣ける・あとも・みえぬを・三
い堂して・と三尓も・え・いて・【給】八す・いと・け志
幾・ある・み【山木】尓・やとり多る・川多乃・
いろそ・満堂・の古り多る・こ多尓なと・ひ
きとら勢・【給】て・【宮】へと・おほして・も多せ・
【給】・(2026/04/18ココマデ)
--------------------------------------

 終わってから、鎌倉時代の『源氏物語』の本文は今読んでいる大島本の校訂本文とどう違うのか、という質問がありました。
 相愛大学の田中重太郎先生が「こんな本文の源氏物語がすくなくとも平安末期にはあって、読まれていたのだと思い、いま行われている源氏物語の本文と読みあわせると、そらおそろしい気がして来る。」とおっしゃっていたことを例にして、その具体的な本文の違いを、これから読み解いていきたいという、現状では明確に言えない問題であることをお話しました。そのためにも、鎌倉時代の古語の意味を確定する必要があることも言い添えました。
 いずれにしても、大島本以外の本文で『源氏物語』を読むことは、これからの『源氏物語』の受容において大切であり、私が運営しているNPO法人〈源氏物語電子資料館〉では、池田本が大島本に取って代わる時代が近い将来来るのではないか、という見通しは示しました。

 1時間の休憩時間に、お2人の方に翻字の説明をしたので、今日は軽食タイムは見送りました。

 次は、「『百人一首』を2種類の変体仮名で読む」です。

(1)上賀茂神社にある藤原家隆の歌碑の変体仮名を確認しました。

260417_上賀茂の家隆.jpg

   藤原家隆
  【風】そ よ ぐ
 ならの【小川】能
  【夕暮】八

 三所ぎぞ【夏】の
   しる志な
     りける

(2)デパートなどにある小倉山荘の『百人一首』の[変体仮名翻字版]を提示しました。
 今回は「その1」です。ただし、今回から参加なさっている方が数人いらっしゃったので、テキストのことなどを丁寧に説明したので、紀貫之の1首だけを確認することに留まりました。

(3)テキストである『変体仮名でよむ 百人一首』については、86番歌の西行法師から88番歌の皇嘉門院別当の歌までを確認しました。
 これも、初参加の方を意識して説明したので、3首しかできませんでした。
 興味と関心を逸らさないように注意しながら、のんびりと進めて行きます。

 本日配布した資料は、ほとんどを使わないままに終わりました。
 次回、今日の続きとしてお話をすることにします。

 終わってから、これから[変体仮名翻字版]の作業を手伝ってくださる方と話をしながら、妻が待つ3階の閲覧室に向かいました。この日比谷図書文化館で妻は、窓際のイスにゆったりと座り日比谷公園の大好きな植栽を眺めながら、またその向こうには皇居がある落ち着いた環境に身を置きながら、大好きな本を読むことを楽しみにしています。公園を散策したり本を読みながら、私の講座が終わるまでの4時間を、自由気ままに楽しんでいるようです。

 今日は息子が横浜へ仕事で出掛けているため、我々は赤羽駅の前に宿を取っています。初めて訪れる街です。若者たちで賑わう、活気のある街です。




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2026年04月09日

大阪府立中之島図書館での社会人講座が取り止めになった事情

 今月から、毎月第2土曜日は大阪府立中之島図書館での『源氏物語』と『百人一首』の講座がなくなりました。

260409_中之島図書館.jpg


 そのため、今週はのんびりとした日々を送っています。これまで遅々として進んでいなかった、『源氏物語』の本文データベースの[変体仮名翻字版]の整理をしています。社会人講座があると、その準備に直前の3日は教材研究にかけています。それがなくなるので、こうして積み残しの仕事ができるので助かります。
 大阪での社会人講座がなくなったので、現在は大阪駅前の施設で再開する計画を練っています。ただし、すこし休んでからとの思いもあり、夏ごろに始めようかと思っています。

 さて、大阪府立中之島図書館での講座がなくなったことに関して、いろいろと問い合わせをいただいています。そんな中で、読売新聞オンラインに「大阪・中之島図書館の指定管理者に応募ゼロ、府「直営」に逆戻りでイベント・市民講座が大幅縮小に…人件費高騰が影響か」(2026/03/26)と題する、その背景を記事にしたものを見かけたので、参考までにとりあげます。
 なお、私は「指定管理者 ShoPro・長谷工・TRC共同事業体/指定管理者代表企業 株式会社小学館集英社プロダクション」と契約を結んで、2022年4月から先月までの4年間、『源氏物語』と『百人一首』の講座を担当していました。特に担当者の岩田さんにはスタートする前からおんぶに抱っこで、何から何までお世話になっていました。サポートしてくださっていた山口さんにもお礼申し上げます。ありがとうございました。

 記事を生成AI氏に要約してもらうと、以下のようになります。

 大阪府立中之島図書館では、2026年度以降の指定管理者を2度公募したものの、いずれも応募がなく、4月から大阪府の直営に戻ることになった。背景には人件費高騰があり、提示額を引き上げても採算が合わないと判断されたとみられる。指定管理者制度の下では、文学講座、朗読劇のワークショップ、建物ガイドツアーなど多彩な催しが行われ、2024年度は約400回、約7万人が参加した。しかし直営化に伴い、今後はビジネス支援セミナーなどを除いて、文化事業や市民向けイベントは大幅に縮小される見通しである。一方、本の貸し出しなど通常の図書館業務には影響がないという。

 関係者から私が聞いていることの中には、大阪府立中之島図書館は建物が重要文化財の指定を受けていることもあり、その保全のためにも経費がかかるのだそうです。
 淀屋橋に直結し、大阪駅からも歩いて行け、政治経済の中心地であったところから、私が日比谷図書文化館で開催している社会人講座とよく似た環境でした。しかし、大阪府の姿勢が文化事業を継続することに理解を示さないのであれば、これは致し方のないことです。
 心機一転、また新たな方策を練って、一人でも多くの方が変体仮名を読めるようになる講座の開設に動きたいと思います。会社関係の施設で、交通の便の良いところで、こうした講座を引き受けていただけるところがあれば連絡をお願いします。もしなければ、京都駅前と宇治駅前で実施している形態で、NPO法人〈源氏物語電子資料館〉が主宰の自主講座で当座を凌ぐことになります。
 関係者のご理解とご協力をお待ちしています。




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2026年04月04日

宇治で相愛本『源氏物語 橋姫』の変体仮名を読む会(10)

 小雨が冷たい一日でした。
 宇治駅前のシェア型書店HONBAKO京都宇治の店内は、本を見に来る方が増えています。今日も満員でした。
 本棚も、賑やかになってきました。多彩な本が並んでいるので、これまでに見たこともない本との出会いが楽しめます。

260404_本棚.jpg


 2階のシェアスペースで、今日も以下の内容を、意見を出し合いながらしました。

・京都の佐藤さんと、東京の木村さんからいただいた街中の変体仮名を確認する。
・「ハ行転呼音」を、中学生にもわかる説明文で理解する。
・「須磨」の有名な文章を、関弘子さんの平安朝復元朗読で聴く。
・字母の使われ方で、これまでにわかってきたことを確認する。
・相愛本「橋姫」10丁裏5行目〜11丁裏6行目までの2頁分を確認する。
 (第7回に配布した資料と第9回の資料を使う)

 「ハ行転呼音」は、前回の話の中でP音考について触れたので、それを再確認することにしました。その際、説明は中学生にもわかることを注意して行ないました。一言で言うと、「私は学校へ行きます。」の「は」と「へ」を、口で言う時にはなぜ「わ」とか「え」と言っているのかを説明できるようにする、という意図で取り上げたものです。これは、子供にどうして?と聞かれた時に、親が説明できない実状を踏まえての問題提起となっています。

 配布したプリントには、次の説明文を載せました。これは、ChatGPT Plus に「ハ行転呼音」について中学生にもわかるような説明文を作成してほしい、というリクエストを行ない、その結果を私が少し手を入れて整理したものです。
 もっと内容は盛りだくさんになるはずです。しかし、中学生に親が説明するという設定での回答を元にしているので、その事情をまずはご了解願います。

[ハ行転呼音とは何か](中学生向けの説明として)

ハ行転呼音(はぎょうてんこおん)とは、昔の日本語で、ハ行の音が変化して、ワ行に近い音になったことをいいます。今の日本語では、ハ行は「は・ひ・ふ・へ・ほ」と読みます。しかし、この音は昔からずっと同じだったわけではありません。
 長い歴史の中で、だいたい次のように変わってきたと考えられています。

1 いちばん古いころは P音に近かった
 日本語のハ行の音は、今のようなH音ではなく、もっと古い時代には「パ・ピ・プ・ペ・ポ」のようなP音に近かったと考えられています。つまり、今の「はひふへほ」は、昔には「ぱ・ぴ・ぷ・ぺ・ぽ」に近い音だった、ということです。

2 そのあとF音に近い発音になった
 次の段階では、このP音が少し弱くなって、英語のFに少し似た音になりました。ただし、英語の fan の f とは少し違い、日本語では上下のくちびるを使って出すF音のような音だったと考えられています。これが、「ファ・フィ・フ・フェ・フォ」に少し近い段階です。今でも「ふ」だけは、完全なH音ではなく、口の形が少しF音に近い感じで発音されます。

3 さらに今のH音に近づいた
 その後ハ行の音はさらに変化して、今の「は・ひ・ふ・へ・ほ」のようなH音に近づきました。つまりハ行の歴史を大まかに言えば、「P音→F音→H音」という流れで変わってきたのです。

4 ところが、言葉の中ではさらに弱くなった
 ここで大事なのは、ハ行の音がいつも同じように変化したわけではない、ということです。
 語のはじめでは比較的しっかりした音が残りやすかったのですが、言葉の中や助詞では音が弱くなりやすくなりました。その結果、F音に近かったハ行の音がさらに弱まって、
  は→わ  ひ→い  ふ→う  へ→え  ほ→お
のように、ワ行や母音に近い音で発音されることが起こりました。これをハ行転呼音といいます。

5 なぜ書き方と読み方がずれるのか
 文字づかいは古い形を残した。
 発音は時代とともに変わったので、今のようなずれが生まれました。

6 まとめ
 ハ行の音の歴史を簡単にまとめると、次のようになります。
 とても古い時代には、ハ行はP音に近かった。その後、少し弱まってF音に近くなった。さらに変化して、今のH音に近づいた。
 ただし、言葉の中(語中)や助詞(語尾)ではさらに弱まり、「は→わ」、「へ→え」のような変化が起こった。その名残が、「私は学校へ行きます。」の「は」「へ」の読み方に残っている。

 これで、本日の参会者はほぼ了解してくださいました。
 それでは、ということで、引き続き「須磨」巻の有名なくだりを、関弘子さんによる平安朝復元をした朗読を聴いてもらうことで、平安時代の発音を疑似体験してもらったのです。

須磨には、いとど心づくしの秋風に、海はすこし遠けれど、行平の中納言の、関吹き越ゆると言ひけむ浦波、夜々はげにいと近く聞こえて、またなくあはれなるものは、かかる所の秋なりけり。」(伊井春樹先生作成の校訂本文より)

 「須磨には」の「は」や、「海は」の「は」が「ファ」に、また「言ひ」の「ひ」が「フィ」と聴こえるところに注意をして聴きました。

 続いて、字母の使われ方で新しくわかってきたことを報告しました。例として、「あはれ」の場合を資料には引きました。

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 「あはれ」について、仮名文字の表記が相愛本「帚木」(断簡)では次のようになっています。

(1)相愛本(断簡) 池田本
  あ者れけ奈り  あ八れ【也】
  あ者れ尓    満して
  あ者れの    あ八れの

 これが、ハーバード本『須磨』と池田本『須磨』では次のようになります。
 10桁の数字は『源氏物語別本集成 正・続』で用いた文節番号です。

(2)ハーバード本「須磨」 文節番号 池田本「須磨」

あはれ 120821-000 あ八れの三
あ者れ 120239-000 あ八れと
あ八れ 121647-000 ナシ
あ者れ可り 122154-000 ナシ
あはれと 122820-000 あ者れと
あ者れと 122995-000 あ者れと
あ者れと 123010-000 あ者れ耳
あ者れと 125099-000 あ八れと
あ八れと 120604-000 あ八れと
あはれなり 121317-000 あ八連な里
あ八れな里 122423-000 あ八れ【也】
あはれなる 122832-000 あ八れなる
あは礼なる 124205-000 あ八れなる
あ者れなる 121119-000 あ者れなる
あ者れなる 122056-000 あ八れなる
あ者れなる 123050-000 あ者れなる
あ者れ奈る 121024-000 あ八れなる
あ者れ奈る 124020-000 あ者れなる
あ八れなる 123370-000 あ八れなる
あ八礼奈る 120155-000 あ八連なる
阿者れなる 121167-000 あ八れなる
あ八れなる越 120077-000 あ八連なる越
あ者れなれと 122902-000 可奈し遣れと
あ八れなれとて 120311-000 あ八連奈れとて
あ者れ奈れ者 124099-000 あ者れな連八
あはれ尓 122381-000 あ八れ尓
あはれ尓 122778-000 ナシ
あ者れ尓 120269-000 あ者れ尓
あ者れ尓 120639-000 あ八連に
あ者れ尓 122001-000 あ八れ尓
あ者れ尓 122769-000 あ八れ尓
あ者れ尓 123211-000 あ八連に
あ者れ尓 123232-000 あ者れ尓
あ者れ尓 123976-000 あ者れ尓
あ者れ尓 124667-000 あ者れ尓
あ者れ尓 124789-001 あ八れ尓
あはれ尓て 124277-000 あ八れ尓
あはれ毛 123122-000 ナシ
あ者れを 121250-000 あ八れ
あ者れをも 120197-000 あ八れをも
あ者れを毛 122738-000 あ八れをも
あ者れ奈れ八 123033-000 あ八れなれ半

 ハーバード本「蜻蛉」と池田本「蜻蛉」では次のようになっています。

(3)ハーバード本「蜻蛉」 文節番号 池田本「蜻蛉」

「あ者れ 523917-000 「あ者連
あ者れ 526236-000 あ者連
あ者れと 520607-000 あ者連と
あ者れと 523024-000 あ者連登
あ八れと 523070-000 あ者連と
あ者れなと 525275-000 あ者連なと
あ者れなり 521637-000 あ者連なり
あ者れなり 522066-000 あ者連なり
あ者れなり 522167-000 あ者連なり
あ者れなり 522352-001 あ者連なり
あ八れなり 522361-000 あ者連なり
あ者れなり 523300-000 あ者連なり
あ者れなり 525386-000 ナシ/落丁
あ者れなりける 521783-000 あ者連なりける
あ者れなり介る 525475-000 ナシ/落丁
あ者れなりし 523950-000 あ者連那りし
あ者れなる 520551-000 あ者連那る
あ者れな累 526062-000 あ者連那りける
あ者れなる尓 525944-000 あ者連なる尓
あ者れ尓 521489-000 あ者れ尓
あ者れ尓 522028-000 あ者連耳
あ八れ二 522460-000 ナシ/落丁
いとあ者れ尓 522005-000 いとあ者連尓
ものあ八れなり 521964-000【物】あ者連なり
【物】あ者れなる523844-000ものあ者連なる
ものあ者れなる 523931-000 ものあ者連那る
ものゝあ者れも 521621-000 ものゝあ者連も

 これらを整理すると、暫定的な結論ながら、次のようになります。

 (1)の相愛本「帚木」では「あ者れ」と表記され、池田本「帚木」では「あ八れ」と表記されています。もちろんこの「帚木」は断簡のため、用例数が少ないので現状の確認に留まります。

 これが(2)のハーバード本「須磨」と池田本「須磨」の場合は、ハーバード本は「あ者れ」が優勢で、池田本は「あ八れ」が優勢といえます。
  ハーバード本 「者」=26例/「八」=7例
  池 田 本  「者」=11例/「八」=26例

 また、(3)を加えて通覧すると、ハーバード本の「須磨」と「蜻蛉」には「あ者連」と「連」を使った表記がまったくないのに対して、池田本「須磨」には「あ八連」が42例中6例、「蜻蛉」には「あ者連」が24例中23例と、「連」が頻出します。
 つまり、相愛本「帚木」とハーバード本「須磨」「蜻蛉」は「あ者れ」が優勢です。これに対して、池田本の「帚木」は「あ八れ」、「須磨」は「あ八れ」「あ八連」、「蜻蛉」は「あ者連」が主な表記となっているのです。

 「あはれ」という言葉を表記するにあたって、「は」と「れ」にどのような仮名文字を当てて書いているのかを見ると、写本の分別にヒントを与えてくれることになります。
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 これも、今後ともこの宇治で相愛大本「橋姫」を変体仮名に注目して写本を読んでいく際に、語彙の用字で字母の選定のされかたに気をつけて見ていきましょう、という問題提起で確認を得ました。

 さて、この会でのメインとなる、古写本に書き写された変体仮名の確認に移ります。
 今日は、10丁裏5行目から11丁裏6行目までを、第7回と第11回に配布した資料とで確認を進めました。
 問題とした箇所を箇条書きで列記します。

(1)10丁裏5行目末尾の「月」と、次行の行頭の「徒き」について
 同じ言葉が、漢字と仮名で重複して書写されています。これは、親本に存在した重複書写をそのまま書き写したものである、としました。そして、親本かそれ以前の写本の段階で、まず行末に「月」と書き、行が変わった行頭には、記憶に残っていた言葉を自分の頭に入っていた言葉を音の記憶で「徒き」と書いたのではないか、としたのです。これは、改行されて筆を持つ手も、料紙を見つめる目も動いたために、頭の中で文字をコピーすることから離れた書き写しの行為となったためと判断します。親本かそれ以前の書写者は、漢字で「月」と書きながらも、日常的には「徒き」と仮名文字で表記する習慣があったか、記憶した文字列を書きつける時に、つい仮名文字で書いたのではないでしょうか。こうした例は、これまでにもあったので、今後はその用例を集積しておきたいと思います。あくまでも仮定の説明です。

(2)10丁裏6行目の次のナゾリは、「ぬ&無=む」としました

260404_相愛「橋姫」10丁裏6行目のナゾリ.jpg

 ここは、「まをならむ八や」とある箇所です。まず「ならぬ」と書いてしまい、「ぬ」が間違いだと気付いたために、その上から「無」とナゾリ書きをし、さらに念押しの意味で「む」を右横に傍記した例です。

(3)11丁表5行目の「れ葉」のナゾリでは、下の文字は不明としました

260404_相愛「橋姫」11丁表5行目のナゾリ.jpg


 「葉」をナゾッた箇所の下の文字がわかりません。試しに、「葉」の点画をコンピュータで消してみました。

260404_相愛「橋姫」11丁表5行目のナゾリ加工.jpg


 しかし、これでもどんな文字が下に書かれていたのかは、私には推測できません。後日の課題とします。

 今日は、相愛本「橋姫」の10丁裏5行目から11丁裏6行目までを確認しました。[変体仮名翻字版]で示すと、次のようになります。

--------------------------------------
相愛大学本『源氏物語 橋姫』第一〇丁裏〜第一一丁裏 [変体仮名翻字]

翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、
補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部( 「 )・末尾( 」 )、
底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)
--------------------------------------

(前略)・本の可奈りし・【月】
徒き可けの・三をり/を±と、(三をとり)・世春は・まをならむ八や/ぬ&無=む・
遣者い・あ里さま八・ナシ・さ八可りならんをそ・あ
らま本しき・【程】と・【思】【給】へ・【侍】へきなと・きこゑ・
堂まえ八・者て/\八/(者て者て八)・ま免多ちて・いと・祢
堂く・於ほろ遣乃・ひと尓・【心】・ゆるさぬ・【人】能/(10ウ)
--------------------------------------
可く・ふ可く・【思】へる越・をろ可なら春/可〈判読〉・ゆ可しう・を
本春・【事】・可きりなく・なり【給】ぬ・な越・ま多/\/(ま多ま多)・よく・ナシ・
介しき・三・【給】と・【人】を・春ゝ免/(春春免)・【給】弖・可きり・
ある・【身】の・【程】・よ多遣さ越・い登王し幾まて・
心もとなしと・於ほい堂れ葉/△&葉・ナシ/+を可しうて・い弖や・うるさ
くそ・【侍】・し者し・【世中】尓・ナシ・とゝ免しと/(とと免しと)・【思】・【給】
ふる・や/〈ママ〉・ある・【身】尓て・な越さり【事】毛・徒ゝま
しきなり/(徒徒ましきなり)・毛し・古ゝろな可ら/(古古ろな可ら)・可な者
ぬ・こゝろ川きそ免奈葉/(こゝろ川きそ免奈葉)・於ほきに・ナシ・多
可ふへき・【事】とゝ/(【事】とと)・ナシ・きこゑ・給へ八・い弖・あ奈/(11オ)
--------------------------------------
【事】/\し/(【事事】し)・礼いの・をとろ/\しき/(をとろをとろしき)・ひし
里【事】葉・み者てし可奈登て・王らひ・
【給】ふ・こゝろの/(こころの)・うち尓八・可乃・ふる【人】の・本の免
可しゝ/(本の免可しし)・すち那と能・いとゝ/(いとと)・をとろ可され
て・毛乃あ者れなる尓・を可し登・みる・【事】
毛・めや春しと・きく・あ多里尓も・【何】八可り・
古ゝろ尓も/(古古ろ尓も)・とまらさり介り・【十月】尓・なりて・
(後略)/(11ウ)
--------------------------------------

 今日も、いろいろな問題提起をし、いろいろな疑問点や質問に答えた2時間でした。
 次回は、5月2日(土)です。

 鎌倉時代に書写された、現存する写本の中でも最も古い格式の高いものとして、この「橋姫」に書き写された文字を字母に拘って読んでいます。
 ほとんど試みられていない[変体仮名翻字版]という方式で本文を確認して読んでいくことにより、より平安時代の物語を読む感触を体感しながら進めています。ひいては、その翻字データがNPO法人〈源氏物語電子資料館〉が目標に掲げる、100年計画の壮大な『源氏物語』の本文データベースに成長していくことになります。その過程に関わっていただくことで、古写本が読める方を一人でも多く育っていただこう、ということにもつながります。
 こうした取り組みに、興味と関心をお持ちの方や、たまたま宇治を訪れたので、ということでのスポット参加も歓迎します。一人でも多くの方が、自由に変体仮名を読めるようになっていただきたい、との思いから気長に取り組んでいるNPO活動です。

 なお、今日は妻が「お店番」として、リバティプリントの生地で手作りしたブックカバーの試作品と、生地を多数並べて、今後の作品展示のデモンストレーションをしました。勉強会には参加せずに、一日中ホールにいてリバティの説明などをしていたようです。リバティファンの方がお出でになり、いろいろと話ができたようです。これも、本を仲立ちとして多彩なコミュニティを展開しようという、このシェア型書店HONBAKO京都宇治の主旨の元での支援活動となるものです。

 次は、6月6日(土)に作品を持ち込む予定となっているようです。本以外でのコミュニティ活動も、こうして展開していますので、よろしかったら立ち寄ってみてください。

 帰る時には、JR宇治駅前の桜は淡いきれいな桃色に咲き拡がっていました。

260404_駅の桜.jpg


 今日と明日は、宇治川で「宇治川さくらまつり・炭山陶器まつり」が開催されています。
 ここでいただいた陶器が、我が家には多くあります。
 明日の午後には雨が上がるようです。ブラブラと宇治川を散策なさるのも一興かと思い、お薦めします。




posted by genjiito at 23:32| Comment(0) | ■講座学習

2026年03月28日

[私見追補]キャンパスプラザ京都で相愛大学本『源氏物語 藤裏葉(断簡)』を読む(第2回)

 キャンパスプラザ京都(京都市大学のまち交流センター)の入口ホールには、いつものように本日のイベントの案内が表示されています。モニタの下のキーボードにお人形さんが置かれていたので、写し込んでおきました。

260328_案内板.jpg

 今日の最初の話題は、「教科書に見る平安朝・小学校−国語(9)日本書籍(その2)」です。これは、過日の「中之島で最終回となる『百人一首』と『源氏物語 蜻蛉』の報告」(2026年03月14日)"http://genjiito.sblo.jp/article/191653402.html"の前半部で紹介したことなので、ここでは省略します。

 次に、国宝『寝覚物語絵巻』(断片)発見のニュースを、京都新聞の記事を使ってお話しました。京都の古書店が公開したものです。こうしたものがまだ出て来るので、『源氏物語』の平安時代に書写された写本の一部が出現する可能性があることを、期待をもって説明しました。

 次は、ハーバード本と池田本の「須磨」「蜻蛉」における変体仮名索引が出揃ったので、その確認をしました。加えて、前回確認した、相愛本「帚木」(断簡) の語句索引も参照しました。

 例えば、「あはれ」という語句については、その仮名文字の表記が相愛本「帚木」では次のように異なっています。

(1)相愛本「帚木」(断簡)  池田本「帚木」
あ者れけ奈り  あ八れ【也】
あ者れ尓  満して
あ者れの  あ八れの

 これが、ハーバード本『須磨』と池田本『須磨』では次のようになります。10桁の数字は『源氏物語別本集成 正・続』で用いた文節番号です。

(2)ハーバード本「須磨」_変体 文節番号 池田本「須磨」_変体
あはれ120821-000あ八れの三
あ者れ120239-000あ八れと
あ八れ121647-000ナシ
あ者れ可り 122154-000ナシ
あはれと122820-000あ者れと
あ者れと122995-000あ者れと
あ者れと123010-000あ者れ耳
あ者れと125099-000あ八れと
あ八れと120604-000あ八れと
あはれなり 121317-000あ八連な里
あ八れな里 122423-000あ八れ【也】
あはれなる 122832-000あ八れなる
あは礼なる124205-000あ八れなる
あ者れなる121119-000あ者れなる
あ者れなる122056-000あ八れなる
あ者れなる123050-000あ者れなる
あ者れ奈る121024-000あ八れなる
あ者れ奈る124020-000あ者れなる
あ八れなる123370-000あ八れなる
あ八礼奈る120155-000あ八連なる
阿者れなる121167-000あ八れなる
あ八れなる越120077-000 あ八連なる越
あ者れなれと122902-000 可奈し遣れと
あ八れなれとて 120311-000 あ八連奈れとて
あ者れ奈れ者124099-000 あ者れな連八
あはれ尓122381-000あ八れ尓
あはれ尓122778-000ナシ
あ者れ尓120269-000あ者れ尓
あ者れ尓120639-000あ八連に
あ者れ尓122001-000あ八れ尓
あ者れ尓122769-000あ八れ尓
あ者れ尓123211-000あ八連に
あ者れ尓123232-000あ者れ尓
あ者れ尓123976-000あ者れ尓
あ者れ尓124667-000あ者れ尓
あ者れ尓124789-001あ八れ尓
あはれ尓て124277-000あ八れ尓
あはれ毛123122-000ナシ
あ者れを121250-000あ八れ
あ者れをも120197-000あ八れをも
あ者れを毛122738-000あ八れをも
いとあ者れ奈れ八123033-000 い登あ八れなれ半

 これが、ハーバード本「蜻蛉」と池田本「蜻蛉」では次のようになっています。

(3)ハーバード本「蜻蛉」_変体 文節番号 池田本「蜻蛉」_変体
「あ者れ523917-000「あ者連
あ者れ526236-000あ者連
あ者れと520607-000あ者連と
あ者れと523024-000あ者連登
あ八れと523070-000あ者連と
あ者れなと525275-000あ者連なと
あ者れなり521637-000あ者連なり
あ者れなり522066-000あ者連なり
あ者れなり522167-000あ者連なり
あ者れなり522352-001あ者連なり
あ八れなり522361-000あ者連なり
あ者れなり523300-000あ者連なり
あ者れなり525386-000ナシ/落丁
あ者れなりける521783-000あ者連なりける
あ者れなり介る525475-000ナシ/落丁
あ者れなりし523950-000あ者連那りし
あ者れなる520551-000あ者連那る
あ者れな累/し&累、(あ者れなし)526062-000あ者連那りけるさやう那る
あ者れなる尓525944-000あ者連なる尓
あ者れ尓521489-000あ者れ尓
あ者れ尓/者〈判読〉522028-000あ者連耳
あ八れ二522460-000ナシ/落丁
いとあ者れ尓522005-000いとあ者連尓
ものあ八れなり521964-000【物】あ者連なり
【物】あ者れなる523844-000ものあ者連なる
ものあ者れなる523931-000ものあ者連那る
ものゝあ者れも/(もののあ者れも)521621-000ものゝあ者連も/(もののあ者連も)

 これらを整理すると、暫定的な結論ながら、次のようになります。

 (1)の相愛本「帚木」では「あ者れ」と表記され、池田本「帚木」では「あ八れ」と表記されています。もちろんこの「帚木」は断簡のため、用例数が少ないので現状の確認に留まります。

 これが(2)のハーバード本「須磨」と池田本「須磨」の場合は、ハーバード本は「あ者れ」が優勢で、池田本は「あ八れ」が優勢といえます。
  ハーバード本 「者」=26例/「八」=7例
  池田本 「者」=11例/「八」=26例

 また、(3)を加えて通覧すると、ハーバード本の「須磨」と「蜻蛉」には「あ者連」と「連」を使った表記がまったくないのに対して、池田本「須磨」には「あ八連」が42例中6例、「蜻蛉」には「あ者連」が24例中23例と、「連」が頻出します。
 つまり、相愛本「帚木」とハーバード本「須磨」「蜻蛉」は「あ者れ」が優勢です。これに対して、池田本の「帚木」は「あ八れ」、「須磨」は「あ八れ」「あ八連」、「蜻蛉」は「あ者連」が主な表記となっているのです。

 「あはれ」という言葉を表記するにあたって、「は」と「れ」にどのような仮名文字を当てて書くのかを見ると、写本の分別にヒントを与えてくれることになります。

 こうして、字母にこだわって作成した[変体仮名翻字版]は、写本の分別に有効な指針を与えてくれるのです。今後ともさらなる[変体仮名翻字版]の翻字を進めながら、用例を積み上げることが大切になってきます。

 この他で、こうした変体仮名の使い分けで写本の分別に役立つ例をあげます。

※「なみた」の表記は大体「三多」で固定。ただし、ハーバード本「須磨」は「奈」を使い、「蜻蛉」の池田本では「み多」を使っている。
な三多123062-000な三た
な三多124861-000な三多
奈三多123393-000な三多
な三多くみ123273-000 な三多く満世
な三多なら須そ124690-000な三多曽
奈三多尓120301-000な三多尓
奈三多乃123596-000な三多乃
那三多乃121544-000な三多乃
奈三多乃三古そ121354-000 な三堂能三こ曽
奈三多毛123695-000な三多裳
な三多を124872-000な三多を
な三多越121124-000な三多を
奈三多越124213-000な三多を
 ◆ハーバード本「蜻蛉」は同じ「三多」、池田本は「み多」
な三多521386-000なみ多
な三多二521232-000な三多尓
な三多に523445-000なみ多尓
な三多の521530-000なみ多能
な三多の521558-000なみ多能

 次の「けに」では、「け・介・遣・気」に注目すると、写本毎にその用字の傾向が顕著です。
※ハーバード本は「け・介」を用いる。対して、池田本は「遣・気」を用いる。
け尓121023-000遣尓そ
け尓121322-000遣に
け尓121825-000遣に
け尓121829-000遣尓
け尓123430-000遣に
け尓124443-000ナシ
介尓122268-000け尓
介尓122649-001遣尓
介尓123142-000遣に
介尓123365-000遣に
介尓123495-001遣尓
遣尓124546-000遣に
 ◆池田本「蜻蛉」では「気」を使う
介尓520549-000気尓
け尓521092-000気尓
け尓521548-000気尓
け尓522207-000気尓
け尓523519-000気尓
け尓524764-000気尓
け尓524812-000ナシ/落丁
け尓と526335-000け尓と
け尓や522401-000気尓や

 次は「恋し」です。
※ハーバード本は「【恋】・こひ」と表記し、池田本は「古・日」を使う。
【恋】し可らんと121996-000い可尓と
【恋】志き123607-000 こひしき
こひしき123612-000古ひしき
【恋】しき尓124646-000 【恋】しき尓
【恋】しく122686-000古ひしく
【恋】しく124621-000古ひしく
こひしく123677-000古ひしく
こひしく123703-000古ひしく
こひしく123737-000【恋】しく
こひしく124672-000古ひしく
こひしく毛122779-000 古ひしう毛
 ◆ハーバード本「蜻蛉」では「こひし」のみ
こひしう521315-000こ日しく
こひしう522317-000こ日しく
こひしう525190-000ナシ/落丁
こひしき524506-000【恋】しき
こひしき524613-000こ日しきを
こひしき525479-000ナシ/落丁
こひしく521392-000こ日しく
こひしや525290-000こ日しや

 次は「むすめ」です。
※ハーバード本は「須・春」を使い、池田本は「す」を使う。
む須免124537-000むす免
む須免可ち尓て123771-000 むす免可ち尓て
む春免と毛八123791-000 むす免多ち八
むす免なり124500-000 みむす免な里
む須免越124324-000むすめを
 ◆ハーバード本「蜻蛉」では「春」を使う
む春免523527-000むすめ
む春めなり介りと523546-000  むすめなり気りと
む春めの523265-000むすめの

 他にも、さまざまな変体仮名の用例が写本の分別に示唆を与えてくれます。ただし、今は「須磨」と「蜻蛉」のハーバード本と池田本を見ただけの段階であり、さらに多くの写本の[変体仮名翻字版]を作成すると、文字の使われ方や変体仮名の選定において、多様な諸相が見えてくることでしょう。

 まだまだ緒に就いたばかりの変体仮名の使われ方の検討です。
 今後とも、さらなるデータの積み上げにより、興味深いことが浮き彫りになることでしょう。とにかく今は、[変体仮名翻字版]を一巻でも多くデータ化することに専念することが喫緊の課題です。
 手助けしていただける方の参加を楽しみにしています。

 今日は、こうした[変体仮名翻字版]を用いての仮名文字の使われ方や文字種の選定に関して、話し合いながら進めました。
 最後の結論では、ハーバード本というグループであっても、その中の巻々の写本に書き写された文字は、それぞれに文字の組み合わせの傾向が違うということでした。いろいろな文字を選びながら書かれた系統の違う写本が、たまたまハーバード本のグループに寄り集まって1つの写本群になっているに過ぎない、ということです。一言でいえば、ハーバード本のグループの写本群は、いわゆる「取り合わせ本」だった、と考えられるのです。
 このグループの写本群が書写に用いた用紙は、書家の宮川保子さんがおっしゃるように装飾料紙を含むものだったので、一揃えの写本群と思われます。ただし、そこに書き写された本文は、種々雑多な伝流諸本だったと思われます。もちろん、これはまだ想像の域を出ないものであり、今後の検討で明らかになることです。現時点での、想像を逞しくした仮説、ということで留めておきます。

 とすると、源流にある草稿本に書かれていた文字列は、どのような仮名文字を組み合わせたものだったのでしょうか。違う字母で語句が書かれた物語の本文は、どこから違う字母で表記される写本に分かれてきたのか、また、なぜそのような文字使いの違う写本が写し伝えられてきたのか、ますます不可解で渾沌とした世界に身を置くことになったことを、実感として共有することになりました。
 私がかねてより提示している、異文は傍記された本文注記が本行に取り込まれることで発生する、という仮説があります。それは、あるいはこうしたさまざまな写本の流転の中で形成されていく、ということの蓋然性を支える実態の解明につながるのかもしれません。
 この変体仮名をよむ会を続ける中で、その真相に迫りたいとの思いをますます強くしました。

 なお、この字母の索引を前にして、ああでもない、こうでもない、と思案しているうちに、時間が来ました。
 予定していた相愛大学本「藤裏葉(断簡)」(第3丁表〜第4丁裏まで)は、すべてを次回に回すことで散会しました。

 帰りに、京都駅の伊勢丹沿いの道端に、満開の真っ白なコブシが咲いていました。無機質なビルの壁を背景に、みごとな自然が飛び込んで来たのです。写真では、その美しさが伝わらないものの、思い出すよすがにと思って、シャッターを切りました。

260328_コブシ.jpg

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 参考までに、本日使用した検討用の索引のすべてを公開します。
 A4版のプリント6枚分です。
 この資料の中から、わかりやすい例を本日のブログで適宜とりあげました。その際、以下の用例を引用するあたり、さらに説明文を整理して提示していることをお断わりしておきます。
 興味と関心をお持ちの方には、以下のデータを通覧してのアドバイスなどをいただけると幸いです。

260328_相愛「藤裏葉」(2)_1.jpg


 260328_相愛「藤裏葉」(2)_2.jpg


 260328_相愛「藤裏葉」(2)_3.jpg


260328_相愛「藤裏葉」(2)_4.jpg


260328_相愛「藤裏葉」(2)_5.jpg


260328_相愛「藤裏葉」(2)_6.jpg





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2026年03月21日

日比谷で「須磨」(34)と『百人一首』(11)を読む

 早朝、新幹線で東京に着く直前の品川あたりで、日比谷図書文化館から電話がありました。今日の資料がまだ来ていないとの担当者からの連絡です。昨日の午後、メールに添付して2種類のPDF版の資料を送ったはずです。しかし、それが届いていないとのことなのです。昨年の12月にも、送ったのに届いていない、ということがありました。それ以外では不着の連絡はないので、この日比谷図書文化館とのやりとりに限定されている不具合のようです。

 その理由を調べる前に、とにかく3時間後に始まる講座のための資料を送らなければなりません。幸い、9時半には東京駅に着きました。大急ぎで、改札内にある待合室のパソコン用スペースから、昨日作って今日使用する予定だった送れなかったという資料を、日比谷図書文化館の事務方に無事に送り届けました。日比谷でお世話になって12年。この間、メールに添付してのファイルが届かなかったことはありません。これは、今後のためにも対策が必要です。

 東京駅から1駅戻った有楽町駅で降り、銀座を少し散歩しました。マロニエ通りの手前の銀座インズで、桜が咲いているのを見つけました。

260321_銀座の桜.jpg

 昼食は、いつものようにマロニエゲート銀座2の7階にある「くら寿司 グローバル旗艦店 銀座」です。2024年4月にオープンした、242席の大型店舗です。京都三条にある和風の白い暖簾に囲まれた、清潔感の漂うお店も、行きつけの場所にしています。体調に合わせていただけて、デザートが豊富なので気に入っています。
 しかし、今日はタッチパネルの調子が悪くて、充電不足のエラーが頻繁に出ました。お店の方に言うと、3人が来られ、結局は欠陥品であるパネルの取り換えもなくそのままとなりました。この近辺にはいくつもの回転寿司屋があるので、こんな対応ではイメージがダウンします。生き残ってほしいお店なので、対応の仕方を再検討すべきです。

 日比谷シャンテ前(千代田区有楽町)にある「日比谷ゴジラスクエア」にいる、私が大好きなゴジラが、今日は桜の開花を祝っているかのような姿に見えました。確か東京は昨日、開花宣言があったはずです。

260321_桜とゴジラ.jpg

 日比谷図書文化館の入口には、いつものように今日の講座の掲示がなされていました。

260321_案内板.jpg

 今日も、最初は「ハーバード大学本『源氏物語 須磨』の変体仮名を読む」です。
 まず、来月からは新年度となり、今日までよんで来たハーバード本「須磨」の次に、相愛大学本「宿木」の断簡を取り扱うことを予告としてお話しました。
 冒頭部分の文字の様子だけは、サッと見てもらいました。

 次に、国宝『寝覚物語絵巻』(断片)が発見されたニュースです。今でもこうした国宝級のものが出て来ることの楽しさを、話題にしました。

 続いて、「須磨」巻が終わったので、平安朝復元として関弘子さんが朗読しておられる音声を、会場に流しました。テキストの40丁裏で、小見出しが「須磨での源氏の生活で供人たちと都をしのぶ」(96頁)という箇所を、平安朝の雰囲気で読んでおられるところです。ハ行音は、奈良時代にはP音で発音され、平安時代にはF音に変化し、室町時代以降に現在のようにH音になったという、いわゆるP音考の話を少ししました。「パパ」が「ファファ」になり、そして「ハハ」になった、という話です。そして、この「ファ」だけでもいいので、集中して聞いていただきました。次のような文章で、赤字にした部分に耳を澄ませてもらいました。

「須磨に、いとど心づくしの秋風に、海すこし遠けれど、行平の中納言の、関吹き越ゆると言けむ浦波、夜々げにいと近く聞こえて、またなくあれなるもの、かかる所の秋なりけり。」

 そして、終わったばかりの「須磨」巻で確認をした、変体仮名を正確に読み込んでの語彙索引を、プリントに沿って確認しました。これは、昨日の本ブログで報告したものと同じ資料を使いました。
 ただし、昨日の報告では大急ぎで作成した資料であると言うこともあり、説明に不正確なところがありました。ただし、掲出したデータの補訂はありません。
 今夜は東京にいるので、京都に帰った明日以降に、昨日の不備を正した補正版に入れ替えます。また、用例が欠脱していた箇所の指摘も受けたので、それも追補して提示します。いま少しお待ちください。

 字母を正確に再現した翻字をすると、どのようなことがわかるのかを説明し、納得していただけました。これを受けて、[変体仮名翻字版]の翻字を4月から再開することもお伝えしました。今月中に、新しい凡例を公開しますので、それに沿った[変体仮名翻字版]の作成に取り組みます。ただし、謝金をお渡しする方式ではなく、NPO法人〈源氏物語電子資料館〉のホームページに作業担当者のお名前を明記し、長く感謝の気持ちを伝えていく方針にしたことも、お話しました。これは、昨年のNPOの総会でも了承された活動方針の変更でもあります。
 このお話をした後に、新たにお手伝いしてくださる方が見つかりました。京都に帰ってから、資料を取り揃えてお送りすることになりました。
 100年は掛かるプロジェクトの再始動です。関係するみなさまのご協力を、よろしくお願いします。

 次の『百人一首』の講座までに1時間の休憩があります。この前半の30分は、資料の提供を受けたり、翻字に関する質問にお答えしたりしました。
 それが終わると、すぐに地下のラウンジに移動し、鎌倉時代の臨模本の作成にあたっておられる宮川さんと面談をし、相愛大学本『源氏物語』(断簡)に関する試作版を受け取りました。また、それに関する質問書に加えて、『国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」』の臨模本の清書本を受け取りました。これは、私が宮川さんからいただいていた臨模本をお貸ししていたことがあり、それを私が持っているようにとのことから、再度私の手元に戻ったものです。
 途中から、館内で緑に包まれた日比谷公園を見ながら読書をしていた妻が同席しました。そして、私が後半の講座に行った後は、宮川さんとのお話が、いろいろと弾んだようです。これは、今年の1月に宮川さんのご自宅を訪問したことがあり、親しくお話ができたとのことでした。

 さて、後半は「『百人一首』を2種類の変体仮名で読む」です。
 今日は、77番歌の崇徳院の歌からです。
 そのことに関連して、映画『春の雪』(妻夫木聡+竹内結子[2020年40歳没]/原作:三島由紀夫)が『百人一首』のこの歌を冒頭から登場させ、中盤や後半にもこの崇徳院の歌が深く関わっています。そのため、まずはこの映画の冒頭部分をスクリーンに映写しました。
 画面には、「【瀬】を者やみ 以者尓せ可 留ゝ【瀧川】の〜」というカルタが大写しになります。

 次に、78番歌の源兼昌の歌碑(関守稲荷神社)をプリントに印刷して置いたので、その歌が刻まれた歌碑の変体仮名を確認しました。
 この歌碑については、「目が見えない方々と須磨で『源氏物語』の散策をしました」(2017年07月22日、http://genjiito.sblo.jp/article/180419553.html)で詳しく報告しています。

 今日は、85番歌の俊恵法師までを確認しました。
 4月以降も、引き続きこの『百人一首』をよみ続けます。

 日比谷公園から新橋駅に、のんびりと歩いて行きました。内幸町からは、ビルの合間から国会議事堂が望めます。

 今日は、息子が出張中のため、大森駅にあるホテルを取っています。ここは、私が高校を卒業してから2年間、新聞配達をして学校に通っていたところです。かつて、このことは実際に歩いて報告をしました。明日も、なつかしい所を妻に説明をしながら再訪しようと思います。
 駅前から、シャープな姿の月が天空に輝いているのが見えました。

260321_月.jpg 




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2026年03月14日

中之島で最終回となる『百人一首』と『源氏物語 蜻蛉』の報告

 東京の日比谷図書文化館で実施していた古写本『源氏物語』の変体仮名をよむ講座が、大阪でも開催できないか、ということで検討が進んでいました。そして、2022年3月からスタートした大阪府立中之島図書館(重要文化財)での「新古典塾 平安文学」の講座が、今日で残念ながら最終回となりました。これまでに、多くの参加者がありました。スタッフの方々も、この集まりを支えてくださいました。みなさま、4年という短い間、ご理解とご協力をありがとうございました。

 淀屋橋駅の上から、最終日を迎えた中之島図書館を写しました。奥に写っているレンガ色の建物は、中之島の中央公会堂です。

260314_中之島.jpg

 この重要文化財の建物の中で、変体仮名を読む講座が4年の長きにわたり開催できたことは幸運でした。
 今回、諸般の事情で打ち切りとなります。しかし、来年以降に、また再開となるような気がしています。しばしのお休み、としておきましょう。行政の中で文化イベントの意義を説き、理解を得ることの難しさを、今回のことで痛感しています。

 さて、今日も『百人一首』からです。77番の崇徳院から、テキストに掲載しているカルタに書かれた変体仮名を読みます。
 その前に、崇徳院の歌ということで、三島由紀夫の『春の雪』を映画化した映像を見てもらい、この歌の役割を実感してもらうことにしました。妻夫木聡と竹内結子[2020年40歳没]が主演の映画です。
 映画には、「【瀬】を者やみ 以者尓せ可 留ゝ【瀧川】の〜」と書かれたカルタが、冒頭を始めとして何箇所かに出て来ます。ただし、私が持参したパソコンの調子が悪く、今日はうまくスクリーンに映写できませんでした。そこで、急遽、配布したプリントの記事と写真を使って、言葉で説明をしました。

 テキストの『百人一首』を使っての変体仮名の確認では、88番歌の皇嘉門院別当の「難波江の葦のかりねの一夜ゆへ 身を尽くしてや恋わたるべき」までを終えました。「八八」で末広がりのおめでたい所で一旦止めておきましょう、という苦しい言い訳をして、最後まで出来なかったお詫びとしました。また、この歌には「難波江」と「澪標」という大阪を象徴する言葉があるので、これまた切れのいいところとなります、という弁解も加えました。
 またの機会があれば、次の89番歌である式子内親王の歌からよむことになります。

 30分の休憩を置いて、次はハーバード大学蔵『源氏物語 「蜻蛉」』です。
 これは、すでに巻末まで本文の確認は終わっており、前回は字母索引の一部を提示する中で、いろいろな字母が使われている傾向を見ました。

 今日は、まず小学校の国語の教科書に平仮名がどのように取り扱われているのかを、私の調査の中間報告を交えてお話しました。
 配布したプリントの資料を引きます。

■「教科書に見る平安朝・小学校−国語(9)日本書籍(その2)」

※日本書籍が作成した小学校国語の教科書(127冊の内)で、五年生と六年生の教材を確認します。

昭和40年度用  5/1 「日本の文字」に平仮名とカタカナの字母表
昭和43年度用  5.1 「日本の文字」に平仮名とカタカナの字母表
昭和49年度用 5下 「日本の文字」に平仮名とカタカナの字母表
昭和52年度用 5下 「日本の文字」に平仮名とカタカナの字母表
昭和55年度用 6年上 「日本の文字とことば」に平仮名と『源氏物語』のこと。字母表あり。

*これまでの仮名の説明では『万葉集』だけが引かれており、6年生の「日本の文字とことば」で『源氏物語』に触れるのは珍しい。

「今、わたしたちの使っているひらがなのもとになった漢字、くずした形の表を、次のページに示しておきましょう。ひらがなは、平安時代の婦人たちのあいだで発達したものらしく、古くは「おんな手」とよばれていたようです。「源氏物語」などは、このひらがなによって書かれたけっ作です。
 むかしは、同じ音を表すにもいくつかのひらがながあったのですが、明治時代になってから、今日の形に統一されました。そば屋ののれんに残る「楚者゛」という字は、むかしのひらがなのなごりです。」

 なお、ここに掲載された表では「字母」ではなくて「ひらがなの字源」となっています。
 昭和58年度用 6年上 「日本の文字とことば」に平仮名と『源氏物語』のこと。字母表あり。巻頭に変体仮名で書かれた暖簾のカラー写真を掲載。

昭和54年6年用・志る古・生楚者.jpg


昭和61年度用

6年上 「日本の文字とことば」は書き換えられている。字源(字母)表はそのまま。『源氏物語』のことが消える。

「ひらがなは、平安時代(八〜十二世紀)から女性に主に使われ始め、作りあげられたので「おんな文字」とか「おんな手」とよばれました。」

 「紙の歴史と文化」の項目が充実し、和紙の価値について詳しく書かれ、紙による文化の育成を強調しています。ただし、写本については触れられていません。

「平安時代の半ばごろからさかんになった絵巻物も、和紙に書かれたみごとな芸術品です。
(中略)「紙は文化のバロメーターである。」といいます。紙の消費量が文化の高さの尺度になるというのです。テレビなど映像文化の発展にもすばらしいものがありますが、紙による文化を守り育てていくことの大切さも忘れてはなりません。」

 この教科書では、「昭和58年度用6年上」に変体仮名が用いられている暖簾の写真が、教科書の巻頭に置かれていました。

 こうした、変体仮名の扱われ方を確認した後、最終回にあたって私が1番強調したかった内容を取り上げました。それは、「誤解されている「変体仮名」 『相棒21上』(朝日文庫、2023年10月)」と題するものです。映像資料を提示して、ドラマの中で、現行の平仮名と変体仮名の違いがまったくわからずに、混乱したままで放映された例をスクリーンに映写して再確認をしました。脚本家、監督、出演者、制作スタッフ、果ては杜撰な小道具としての変体仮名の表などなど。どなたも間違いに気付かれなかったのです。

 また、放映後1年経ってから文庫本に収録された脚本の小説化においても、この誤解されたままの混乱が活字として固定化しています。右京の台詞にあった「『えつ』は平仮名でもカタカナでもない、変体仮名だったんですよ」というのがそれです。『えつ』は明らかに現行五十音図の中にある平仮名です。この台本とその小説化においては、共に変体仮名がまったく作成側に理解されていないことが明らかです。日常的に日本語を使って日本で生活する者として、こうした愚かなことが堂々と社会に撒き散らされたことは、非常に残念な出来事です。

 なお、こうしたことは既に2026年03月07日の「宇治で相愛本『源氏物語 橋姫』の変体仮名を読む会(9)」(http://genjiito.sblo.jp/article/191646277.html)で詳細に報告しているので、詳しくはそちらに譲ります。

 続いて、『国文学解釈と鑑賞別冊 源氏物語の鑑賞と基礎知識 No.28 蜻蛉』(伊藤編著、至文堂、2003年)に掲載した「石山寺散策−源氏のゆかりの地を訪ねて−」を印刷したプリントを見ながら、石山寺を中心にして宇治との関わりの確認をしました。これまでこの講座では、古写本に書き写された文字を読解することに特化した内容でした。最終回なので、前回と同様に物語の内容に関することにも話を展開させたのです。

 最後に、受講者のすべてが『源氏物語 千年のかがやき 立川移転記念 特別展示図録』(国文学研究資料館編、2008年10月、思文閣出版)をお持ちだということなので、この展覧会を主体的に担当した者の一人として、当時の会場で来場者にお渡ししていた小冊子「見どころ案内」を、本日の参会者に配布しました。『源氏物語 千年のかがやき』を補う内容が満載の冊子なので、折々に見ていただきたいと思ってお渡ししました。

 大阪府立中之島図書館における『百人一首』と『源氏物語 蜻蛉』の変体仮名をよむ講座は、以上で大過なく終了することができました。

 講座に参加して熱心に勉強をなさった多くの受講者のみなさま、お疲れさまでした。
 また、会場の用意や連絡などで奔走してくださった小学館集英社プロダクションの岩田さまを始めとするスタッフのみなさまにも、この場をお借りしてお礼申し上げます。大変お世話になりました。
 こうした文化事業への理解が深まることで、またの機会が得られれば、装いも新たに変体仮名を読む集いを持ちたいと願ってやみません。
 そのような日が来ることを心待ちにして、しばしの休会となります。
 みなさま、ありがとうございました。




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2026年03月07日

宇治で相愛本『源氏物語 橋姫』の変体仮名を読む会(9)

 今日のJR宇治駅前広場では、「ミモザ・マルシェ」と銘打ったイベントが開催されていました。今日の勉強会の会場であるシェア型書店HONBAKO京都宇治も、ミモザにちなんで「黄色い本」の古本を並べていました。この駅前での宣伝効果があったようで、今日は書店にも来店者が途切れず大盛況です。

260307_本箱.jpg

 さて、2階のフリースペースでの『源氏物語』の変体仮名を読む会は、まずは[誤解されている「変体仮名」]と題して、2022年12月7日に放映されたドラマ『相棒 コイノイタミ』において、「変体仮名」に関して大きな勘違いをした内容だったことを取り上げました。また、その1年後に刊行された『相棒21上』(第8話、朝日文庫、2023年10月)には、その勘違いがそのまま活字化されていたことを、次の引用文を提示してお話しました。

「本書は二〇二二年十月十二日〜二〇二三年三月十五日にテレビ朝日系列で放送された「相棒 シーズン21」の第一話〜第八話の脚本をもとに、全七話に構成して小説化したものです。小説化にあたり、変更がありますことをご了承ください。」(2頁)

「右京と薫は遺体が横たわっていた場所にしゃがみこんだ。カーペットの上に、文字のようなものが書きなぐられている。遺体の下から見つかったもので、いまわの際に被害者が残した血文字だと思われた。
「なるほど。たしかに『えつ』と読めますねえ」
右京の言うとおり、それが文字だとするとひらがなの「え」と「つ」のように見えた。」(362頁)

「問題は被害者が残した血文字の『えつ』。このダイイングメッセージがなにを意味するかです。」(364頁)

「右京はその頃、〈慶明大学〉を訪ね、櫂象仙研究の第一人者である機部昭夫教授と面会していた。
 教授室で待っていると、磯部が数冊の書物を持って現れた。
「お待たせしました。こちらが櫂象仙の資料です。こちらが当時の文献、こちらが最新の研究書です」(380頁)

「可能性を次々否定されて薫がしょんぼりするなか、右京は借りてきた資料の中の古文書を手に取った。
 しばらくして、右京の眼鏡の奥の目がキラリと輝いた。
「亀山くん、大久保さんの残したダイイングメッセージの意味がわかりました」(384頁)

「おや、衣川さんならば、すぐにピンとくると思ったのですがねえ。『えつ』は平仮名でもカタカナでもない、変体仮名だったんですよ」
「変体仮名?」衣川には予想外の答えだった。
変体仮名とは現在使われている平仮名とは字体の異なる平仮名で、平安時代から明治時代まで様々な場面で使われてきました。古文書にも、古美術品を納めた箱や書き付けの類にも変体仮名が多く用いられています」(387頁)

「あんたたちには馴染みのあるものなんでしょうがね」薫が尻ポケットから折りたたんだ紙片を取り出した。広げると変体仮名と現代の文字の対応表が現れた。「いやあ、ややこしいことしてくれましたよ。『え』は漢字の『衣』を崩したもの、『つ』は漢字の『川』を崩したもの」
 右京がとどめを刺す。
「すなわち『えつ』とは衣川さん、あなたのことだったんですよ」
 衣川がその場にくずおれたとき、パトカーのサイレンが聞こえた。」(389頁)

 ここではその説明を繰り返す余裕はないので、資料だけを上に引いておきました。要は、「『えつ』は平仮名でもカタカナでもない、変体仮名だったんですよ」(387頁)とあることに尽きます。「えつ」は変体仮名ではなく、現在の五十音図の中にもあるれっきとした平仮名です。変体仮名とは、1900年(明治33年)にその五十音図からはずされた200数十字の仮名文字なのです。ドラマでも、活字化された本でも、共に間違った理解のままの表現となっています。つまり、このドラマでは「変体仮名」は直接は関係ないのに、その詳しい説明があるのです。「字母」ということであれば、平仮名「えつ」の字母は「衣川」なのでいいのです。しかし、そこに「変体仮名」という概念が間違って引き摺り出され、その用語に関する蘊蓄が縷々語られたことが、脚本における失態だったのです。

 本日、印刷物として提示した画像も、参考までに引いておきます。説明及び出典は、ここでは省略します。

260307_相棒の画像.jpg

 前回に引き続き丹念に仮名文字を追いかけ、折々に参会者から出て来る質問に答えながら進めました。今日の勉強会は前回同様にお2人の女性から、疑問に思われたことなどに関して次々と質問が出ました。これがあるので、この集いは活気があり楽しい勉強会になっています。さまざまな話題で参会者のみなさんと盛り上がりました。前回は和気靄々と会話を交わしながらも、実質的には3行しか進めませんでした。今日は、少し多くて1頁半ほど進みました。
 9丁裏の最終行から次丁にかけての重複書写から、10丁裏5行目までを確認したのです。
 以下に示したのが、今日の成果です。

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(1)相愛大学本『源氏物語 橋姫』第九丁裏〜第九丁裏七行目 [変体仮名翻字]

翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、
補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部( 「 )・末尾( 」 )、
底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)


【給】ふ・さ弖・そ乃・【返事】・【有】介ん葉・【何】と可・三世・【給】身世【給】八さりし/身〈次頁〉、身世【給】〈重複〉、(9ウ)
----(後掲写真参照)----------------------------------
まろならまし可八と・うら見・【給】ふ・
さ可し・い登・さま/\尓/(さまさま尓)・【御】らん春へ可んめる・八し
をた尓そ・三世さ世・【給】者ぬ・可乃・王多り葉・ナシ・いとむ
しん尓・う毛れ多累・三尓・しひ古免弖/古〈ママ〉・やむ
へき・介者ひ尓毛・【侍】ら祢八・可なら春・【御】らん世さ
世八や登・【思】・【給】れ登・い可て可八・堂川祢よら世・【給】へき・
可や春幾【程】こそ・春まゝ本しく八/(春まま本しく八)・い登・よくて・
春きぬへ幾・よ尓て・【侍】介れ・可くろえ・於ほ可免
累【哉】・さ累・可多尓・三登ころ・あ里ぬへき・【女】・毛能
を毛はしく・うちしのひ多累・春見可登ん/(10オ)
--------------------------------------
やまさとめい多累・くまさなと尓/さ〈ママ〉・をのつ
可ら・【侍】らんめり・古乃・きこゑさ春・王多り葉・い登・
よ川可ぬ・ひし里さま尓て・こち/\しうそ/(こちこちしうそ)・
あらんと・登し古ろ・【思】あ奈川里て・ナシ・三ゝ越多
尓こそ/△&そ、(三三越多尓こそ)・とゝ免/(とと免)・さりつれ・本の可奈りし・【月】
--------------------------------------

 今日のポイントを、1点だけあげます。

260307_相愛橋姫9u身世重複.jpg

・9丁裏の丁末にある「三世【給】」と、次丁10丁表の冒頭にある「身世【給】」の重複書写文字に関しては、次のように説明しました。
 「三」と「身」の違いについては、親本は「三」であったのに、書写道具の糸罫を移動させ、親本と書写用紙もずらす行為をしている内に、手と目と筆が離れたことで集中力が途切れて気が散り、覚えた文字列の中の字母「三」が「身」入れ替わったということを想定してみました。書写時に、自分が日常的に使い慣れた「身」を書いたと思われます。これは、同じことが親本の段階で発生し、それをそのまま書写したと結果だとも言ってもいいでしょう。

 ちょうど終了した時に、この勉強会を見学したいという方が4人ほどお越しになりました。活動内容に興味を持っていただけるのは、一人でも多くの方が日本の文化資産である変体仮名が読めるようになることを願って開催するのが主旨の本会にとっては、ありがたいことです。実際に質問に答えながら、変体仮名をよむおもしろさを説明しました。また、参会者の方々も、昔の仮名文字をよむのは楽しいし、おもしろいですよ、と援護射撃をしてくださいました。主宰者として、ホッとしました。

 帰りに、すぐ近くのスナックの看板を見て、日本語のおもしろさを再認識しました。

260307_Ai乃.jpg

 アルファベットと漢字と平仮名で、お店の名前が表記されているのです。海外の方が、パズル感覚で日本の文字を楽しく勉強しておられる背景には、こうした文字の多彩な表現力と組み合わせの妙があるからなのでしょう。私の文字のコレクションに、この例も加えておきます。




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2026年02月28日

キャンパスプラザ京都で相愛本「藤裏葉」を読む(第1回)

 キャンパスプラザ京都(京都市大学のまち交流センター)の玄関ホールには、いつものように本日のイベントの案内が表示されています。

260228_パネル.jpg


 今日の講座は、5階の第5演習室です。

 前回で相愛大学本『源氏物語 帚木』(断簡)が終わり、字母索引を提示してどのような変体仮名で語句が表記されているかを確認しました。そこで今日は、大阪府立中之島図書館で読んでいたハーバード大学本『源氏物語 蜻蛉』が過日終わったことを受けて、その「蜻蛉」の変体仮名の表記と「帚木」を比べてみました。
 例えば、次の2例(江・ゑ・君)はどうでしょうか。
 まず、相愛本「帚木」と池田本「帚木」を比べます。相愛本「帚木」の「江」「ゑ」「き三」は、池田本「帚木」には見られない文字遣いです。表記されている字母に偏りがあることがわかります。

《江・ゑ》(池田本にはナシ)
きこ江志らせんとて  き古えしら世むとてなん
きこ江寿  堂て須
きこ江ぬにしも  き古えぬ尓盤
きこ江よと  き古えよと
きこ江んも  き古えん
きこゑ  き古えなと
きこゑす  き古え須
きこゑむと  【申】さむと

《君》
き三は  あこは
き三毛  きみ八
き三越  古き三
こきみ  き三
こきみは  ナシ
こき三わ八  こ越

 次に、ハーバード本「蜻蛉」と池田本「蜻蛉」の文字表記の違いを列記します。ここでも、「帚木」の場合と同じように、表記されている語彙に用いられている字母が、明らかに区別されていることがわかります。

《江・ゑ》(池田本にはナシ)
きこ江521044-000きこえ
きこ江522366-000きこえ
きこ江させ523007-000きこえさ世
きこ江させ526277-000ナシ/落丁
きこ江させ526311-000ナシ/落丁
きこ江さ勢/え【給】&江さ勢、江=え、(きこえ【給】)526311-004ナシ/落丁
きこ江し523363-000きこえし
きこ江ても523026-000きこえて毛
きこ江めと524570-000きこえめと
きこ江越多に520868-000きこえを多尓/こ〈次頁〉、(11オ)
きこゑし520968-000きこえし
きこゑしものをなと522351-000きこえし【物】をなと
きこゑて520866-000きこえて
きこゑて526048-000きこえて
きこゑをきて521835-000きこえをきて
きこゑん520030-000きこえむ登


《君》
き三多ち522081-000【君】多ち
き三多ちなと524774-000【君】多ちなと
き三多ちなん524337-000【君】多ちならむ
き三多ち尓520525-000【君】多ち尓
き三多ちの524805-000ナシ/落丁
き三多ちをも522236-000【君】多ち毛/ち±を
き三に523461-000【君】尓
き三にも526296-000ナシ/落丁
きみ者521594-000【君】八
きみ者可りや525478-000ナシ/落丁
き三も521991-000【君】も
【君】を526337-000【君】越
き三越八524872-000ナシ/落丁

 こうした例を根拠にして、鎌倉時代の写本に書写されている文字は、それぞれに見られる字母に偏りがあることが判明しました。まだ数例を指摘できる段階に留まっています。今後は、さらに検討を進めることで、単語を表記する際の文字遣いの傾向が明らかになっていくことでしょう。
 また、相愛本「帚木」とハーバード本「蜻蛉」の字母の選択され方がよく似ていることもわかりました。この、鎌倉時代に『源氏物語』が書写されていた環境において、字母に着目することによってその周縁の用字選択の傾向の親疎がわかりだしました。これは、「変体仮名翻字版」のデータが増えることで、さらにおもしろいことがわかる感触を得たことになります。

 次に、書写された本文の内容の確認をして、現在の流布本の大島本との違いも見ました。
 相愛大学本『源氏物語』(断簡)に関しては、その所蔵者であった田中重太郎先生は、「源氏物語本文について」(清少納言と「ほのかなり」と、『平安文学研究』第42輯、昭和44年6月号)で次のような感想を記しておられました。

 架蔵の鎌倉初期書写の源氏物語断簡(昭和三十九年十月刊)を読みかえしていると、こんな本文の源氏物語がすくなくとも平安末期にはあって、読まれていたのだと思い、いま行われている源氏物語の本文と読みあわせると、そらおそろしい気がして来る。

 田中先生が「そらおそろしい気がして来る」とおっしゃった相愛大学本『源氏物語』(断簡)は、一体どのように語られる物語なのかということの確認です。今後は、相愛本「帚木」の本文の確認を毎回少しずつ進める予定です。今日は、その第1回目です。

 まず、相愛大本「帚木」の語り出しの部分を校訂本文(案)にしてあげます。これは、『新編日本古典文学全集』(小学館)「帚木」(98〜102頁)の部分です。

〜て寝たるべき。
「中将の君は、いとこにぞ。人げ遠かき心地してもの難しきひ」と言ふなれば、長押の下に人々臥していとふなり。「下になむ行き(陽)おりて、ただ今なんまうのぼらんとはべりつ」と言ふ。
  (伊藤の小見出し︰30源氏、空蝉の部屋に忍び入る)
 みな静まりぬる気配なれば、掛金を放ちて(陽)こころみに引きみれば、あなたよりは鎖さざりけり。几帳を障子口にさして唐櫃だつもの置きて、乱りがはしき◇を分け入りたまひて、気配するほどによりたまへれば、いとささやかにて臥したり。火はほの暗きに、なま煩はしけれど、上なる衣を押しやり給に女は呼びつる人と思ひけり。いと忍びて(陽)、「中将召しつれば◇人知れぬ思ひのしるしある心地して」といふを、とかうも思ひわかれず、ものに襲はるる心地して、「やや(陽穂)」とおびゆればと、顔に袖の触りて、音も聞こえず。「うちつけに、深からぬ心◇とおぼさんも、ことわりなれど、年ごろ思ひわたる心のうちも聞こえ知らせんとて◇。かかるをりを待ち出でたるも、さらに浅うはあらじと思ひなしたまへ」と、いとやはらかに◇、鬼神も荒だたずまじき御気配なれば、はしたなうあさましう、「ここにはさべき人もはべらずなど違へにこそはべめれ」と言ふも言ふも、息の下なり。

 この場面のいくつかを見ましょう。いずれも、陽明本も同じ本文を伝えるものの、諸本とは相愛本が異なっている例です。

(1)相愛本が「下になむ行きおりて」(陽明本も同じ)とするところは、大島本では「下に湯におりて」となっています。『新編全集』の現代語訳では、「下屋にお湯を使いに出まして」とあります。相愛本よりも大島本の方が、「お湯を使いに」と具体的な表現となっています。

(2)相愛本が「掛金を放ちてこころみに引きみれば」(陽明本も同じ)とするところは、大島本では「掛金をこころみに引きあげたまへれば」となっています。相愛本の「放ちて〜引きみれば」という行文は、この場の雰囲気の表現としては緊張感に欠け、意を尽くしていません。大島本の「引きあげ」の方が、光源氏が空蝉がいる部屋の掛金を外して忍び入る状況がよくわかる表現となっています。

(3)相愛本が「几帳を障子口にさして」とするところを、大島本では「几帳を障子口には立てて」となっています。『新編全集』の現代語訳では、「几帳を襖の入口に立てて」とあります。相愛本の「さして」は「鎖して」で、通れないようにする・閉める、という意味かと思われます。ここは大島本のように、「几帳を襖の入口に立てて」という表現が、この場の状況を簡潔に語る表現となっています。

(4)相愛本が「気配するほどによりたまへれば、いとささやかにて臥したり。」とするところを、大島本では「ただ独りいとささやかにて臥したり」となっています。『新編全集』の現代語訳では、「ただ一人でほんとに小柄な感じで寝ている」とあります。相愛本が光源氏の行動を「寄る」という表現で語るところを、大島本は「ただ独り」と簡潔に語ることでその場の状況を表現しています。

(5)光源氏が空蝉を口説く場面で、相愛本が「いと忍びて」(陽明本も同じ)という言葉を添えているのに対して、大島本はその言葉がありません。光源氏が忍び入った状況においては、この言葉は不要でしょう。

(6)光源氏が空蝉の寝所に押し入った時の空蝉の描写が異なります。
 相愛本は「はしたなうあさましう、「ここにはさべき人もはべらず、など違へにこそはべめれ」と言ふも言ふも、息の下なり」と語ります。
 それに対して、大島本はより詳しく、「はしたなく、(空蝉)「ここに人」ともえののしらず。心地、はた、わびしくあるまじきことと思へば、あさましく、(空蝉)「人違へにこそはべるめれ」と言ふも息の下なり」と語ります。『新編全集』の現代語訳では、「無愛想に、「ここに誰か」と騒ぎたてることもできない。でもやはり、気持はやりきれなく、あってはならぬことと思うので、あまりのことに、「人違いでございましょう」と言うのもやっとのことである。」とあります。窮地に陥っている空蝉の心情にまで立ち入って、その困惑ぶりを活写しています。光源氏が忍び入った状況が、リアルに表現されているのです。

 以上、ほんの一例をあげました。もたもたした感が否めない相愛本の表現に対して、大島本は簡潔な文章で臨場感を持って語ります。こうした違いは、どこから来るのでしょうか。

 この相愛大学本『源氏物語』(断簡)の臨模本の作成に着手しておられる書家の宮川保子さんは、ハーバード大学本『源氏物語』の「須磨」と「蜻蛉」を作成した時の経験から、この相愛本は草稿本・下書き本のような印象を持った、とおっしゃいました。
 それを聞いてから私は、この相愛大学本『源氏物語』(断簡)は、あるいは鎌倉時代に『源氏物語』の草稿本の一つを書き写したものではないか、という可能性を考えるようになりました。
 すでに本文の内容を対比したように、相愛本よりも大島本の方が表現は練られている、と言えるでしょう。このことは、相愛本の本文が草稿の姿を留めているかもしれない、ということと関係しそうです。この証明は難しいとしても、ここまでに書いた本文の違いの検討は、ピンボケではなさそうです。
 今後とも、こうしたことを意識して、相愛本「帚木」の本文の内容についても講座の中で取り上げていくつもりです。

 本日の後半は、相愛大学本「藤裏葉(断簡)」の第1丁表〜第2丁裏までを、「変体仮名翻字版」で確認しました。この本文の確認には、NPO法人〈源氏物語電子資料館〉の会員で古写本の翻字作業に協力してくださっている辻 義孝氏が「変体仮名翻字版」の素案を作り、それを私が確認するというステップで進めているものです。

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■相愛大学本「藤裏葉(断簡)」(今回:第1丁表〜第2丁裏まで)
  [変体仮名翻字版] (翻字:辻 義孝/確認:伊藤鉄也)
   ・翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
     傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、
     補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部( 「 )・末尾( 」 )、
     底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)
    ※「宇(う)」が特徴的な字形となっている。
    ※「【見】」に「三」を使う傾向がある。(ハーバード本「蜻蛉」と同様)
--------------------------------------
奈/[330723]ココカラ残存・三る・【人】可らや・【色】毛・ますらん」・つき/\/(つきつき)・す
む奈可礼堂免礼と・ゑ日の・満きれ尓・八可/\し
可ら弖/(八可八可し可ら弖)・古れよ里/〈墨ヨゴレ〉・まさらす・【七日】乃・【夜】・ゆふ
川くよ・可遣・本乃可奈る尓・い遣乃・可ゝ三/(可可三)・のと可
尓・す三王堂れり三累尓・ま堂・本能可奈る・古
すゑと毛・さ宇/\しき/(さ宇さ宇しき)・ころ奈る尓・い堂宇・遣し
き者三・よこ堂者れる・ま川の・こち堂き・本と
尓八・あらぬ尓・可ゝれる/(可可れる)・者那の・さま・よのつ祢
奈らす・を毛しろ新・れいの・【弁少将】・こゑ・いと・
那つ可新う弖・あし可き越・う堂ふ・をとゝ/(をとと)、(1オ)
--------------------------------------
遣や介く毛・川可宇ま川累もの可奈と・
うち三堂れ・堂まひ弖・とし・へ尓介累・古乃・
いゑのと・うちく八へ・堂まへる・いと・を毛新
ろし・を可しき・本と尓・三多れ可八しき・
【御】あそひ尓弖・毛の越毛ひ・乃こらす・奈
里ぬ免り・や宇/\/(や宇や宇)・【夜】・ふ遣【行】・本と尓・
い堂宇・そらなや三・新弖・三堂り【心】ち・い
と・堂え可堂く・ま可てむ・そら毛・本と/\
新くこそ/(本と本と新くこそ)・者むへりぬへ介れと・ゝ乃井【所】/(と乃井【所】)・
ゆつ里・堂まひ弖むやと・【中将】尓・うれへ・【給】/(1ウ)
--------------------------------------
をとゝ/(をとと)・あそむや・そ乃・【御】や春三ところ・毛
と免よ・をき那・い堂う・ゑい・すゝ身弖/(すす身弖)・
むらい奈礼八・ま可里いりぬと・い日すてゝ/(い日すてて)・
い里・堂満日ぬ・【中将】・八奈の・可遣の・堂ひ祢よ・い可
尓そや・くるしき・新るへ尓そ/そ&そ・者へるやと・乃多
まへ八・ま川尓・【契】礼るは・あ多なる・者那可八・
ゆゝしや八と弖/(ゆゆしや八と弖)・世免・【給】・【中将】八・【心】の・うちに・祢多
乃・王さやと・【思】・【所】・あれと・【人】さまの・於もふ・さま
尓・め弖堂き尓・可う毛・あ里者てなむと・
こゝろよ勢王多る/(こころよ勢王多る)・【事】奈れ八・う新ろやすく/(2オ)
--------------------------------------
【道】日き川・をとこき三は・ゆ免可と・於ほえ・
【給】尓毛・【我】・三・いとゝ/(いとと)・八川可新うそ・於ほえ・【給】遣む
か新・をむ奈八・伊と・者川可しと・於もひし三
て・毛乃し・堂まふ毛・祢日満される・【御】【有】さ
ま・いとゝ/(いとと)・あ可ぬ・ところ・奈く・めや春新・よ
乃・堂免し尓毛・奈里ぬへ可里川累・三越・【心】毛
て古楚・可う満弖・於ほしゆるさ累免れ・あ八
礼を・し里・堂ま者ぬ毛・さま・ことなる・王さ可
奈ゝと/(王さ可奈奈と)・宇ら三・き古え・【給】・【少将】の・すゝ三い多し
川る/(すす三い多し川る)・あし可き乃・於もゝき八/(於ももき八)・三ゝ/(三三)・とゝ免/(とと免)・堂まひ川や/ま〈次頁〉、(2ウ)
--------------------------------------

 今日から始まった相愛本「藤裏葉」の確認では、いろいろなことがわかりました。
 例えば、次の2例は、まず確認しておくものです。

※「【見】」に「三」を使う傾向がある。(ハーバード本「蜻蛉」と同様)
 1丁表1行目「三る」

260228_相愛本「藤裏葉」1oL1三る.jpg



※「宇(う)」が特徴的な字形となっている。
 1丁表6行目「宇」


260228_1oL6宇.jpg


 また、ああでもない、こうでもない、という四苦八苦、試行錯誤の翻字が始まりました。
 気長に、根気強く続けていきます。
 興味と関心をお持ちの方は、ぜひ毎月第4土曜日の午後、キャンパスプラザ京都(京都市大学のまち交流センター)で一緒に考えませんか。連絡をお待ちしています。




posted by genjiito at 23:57| Comment(0) | ■講座学習

2026年02月14日

[その1]中之島での『百人一首』(第21回)と『源氏物語 蜻蛉』(第32回)

 今日は集まりの冒頭で、事務方から大事な連絡がありました。それは、大阪府立中之島図書館での指定管理者代表企業である(株)小学館集英社プロダクションが次年度の契約の更新を出来なかった関係で、この「新古典塾 平安文学」の講座も次年度からは開講できなくなった、ということです。諸般の事情で、こうした文化事業が継続できなくなったことにより、この講座も打ち切りとなったという報告でした。

 来月でこの講座は最終回となり、さらに受講を希望される方は、伊藤が京都の駅前と宇治で開催している講座への参加を勧めてくださいました。私からは、京都駅前と宇治での活動をお話しして、4月からの参加をお誘いしました。
 こうした事業について疎いので舞台裏は知る由もないものの、重要文化財に指定されている図書館の建物の管理も含めて、指定管理者である共同事業体のご苦労は少しはお聞きしていました。特に、(株)小学館集英社プロダクションのスタッフのみなさまには、2022年3月から4年間にわたり、大変お世話になりました。大阪での変体仮名を読む講座がいつかまた再開できることを楽しみにして、一先ずはここで休会ということになります。
 この場をお借りして、多くの関係者にこれまでのお礼を申し上げます。

 本ブログには、大阪府立中之島図書館での講座の立ち上げについて、以下の4本の記事に書いていますので、このイベントの記録として参考までに紹介します。

「大阪府立中之島図書館で社会人講座が始動します」

「大阪府立中之島図書館で源氏講座の新規募集開始」

「大阪府立中之島図書館での源氏講座は予定通り開催」

「古文書塾「てらこや」の今後の講座のご案内」

 この大阪府立中之島図書館で実施した講座の各回の内容は、すべて本ブログに報告しています。「中之島」と「『源氏物語』」で検索していただけると、そのすべての活動の内容が確認できます。

 この新規事業の立ち上げから実施にあたり、統括責任者である斉藤尚さんと、この講座を担当される指定管理代表企業(株)小学館集英社プロダクションの岩田りえさんには、毎月のこととしてお世話になりました。特に岩田えりさんには、チラシの作成や配布資料のことに始まり会場の用意など、細やかな配慮をいただいたお陰で、ここまで来られました。ありがとうございました。さらには、8回も実施できた「平安文学リレー講座」に関しても、すべて私の希望を叶えていただきました。感謝の念しかありません。また何かの形での再起を心待ちにしています。

 今日の講座の最初は、「変体仮名で書かれた『百人一首』を読む」〔入門講座〕からです。
 最初に、2種類の抹茶茶碗と徳利1本に書かれた『百人一首』を取り上げて、民生品における和歌の活用についてお話をしました。
 また、ハーバード大学のイェンチン図書館が所蔵する、非常に珍しい『百人一首』を紹介しました。
 次の画像をクリックすると精細表示となり、文字が読みやすくなります。

260214_ハーバードの『百人一首』.jpg

 今日は、67番の周防内侍から76番の法性寺入道前関白太政大臣(藤原忠通)までを、2種類の『百人一首』に書かれた変体仮名に注意をしながら読み進めました。
 来月でこの中之島の講座は終わりです。各回10首ほどを見てきたので、あと24首のうち、どうしても14首は確認できそうにありません。これは、各自の自習にお任せ、ということになりそうです。

 30分の休憩をおいて、次は「ハーバード大学本『蜻蛉』巻の仮名文字を読む」です。
 ここでも、最初に事務方の連絡として、中之島での変体仮名を読む講座は来月で終了することが伝えられました。
 何人かが京都での2会場に足を運んでくださることを楽しみにして、参加をお待ちしたいと思います。

 さて、2つ目の講座「ハーバード大学本『蜻蛉』巻の仮名文字を読む」は、前回で本文のすべてを変体仮名で確認し終えました。今日は、その結果を踏まえて私が急遽作成した索引を提示しました。写本に書き写された本文の仮名文字を、字母にこだわって作成した索引を見ながら、文字遣いの傾向を確認しました。いろいろなことがわかってきました。
 ただし、そのことは説明が長くなるので、この記事に続く別立ての項目として報告します。

 今日の『源氏物語』の講座では、索引の確認の前に、以下の2つの話題を取り上げました。

(1)メリッサ・マコーミック編ハーバード大学蔵『源氏物語画帖』
(2)「蜻蛉への招待」(至文堂から刊行した拙著使用)

 ここでマコーミック先生のご著書の紹介をしたのは、今回使用したテキストである『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「蜻蛉」』(伊藤編著、新典社、2014年)の巻末に、マコーミック先生の解説文を掲載しているので、その関係で私がお手伝いをした本としてこの『源氏物語画帖』をとりあげました。

 また、前回でハーバード大学本「蜻蛉」の写本に書写された文字の確認が終わり、その内容についてはほとんど触れなかったので、最後に「蜻蛉」の概略だけでもお話をして確認することにしました。提示した資料は、私が2003年に至文堂から刊行したシリーズの1冊である、『国文学解釈と鑑賞別冊 源氏物語の鑑賞と基礎知識 No.28 蜻蛉』の巻頭に掲載した序文です。
 参考までにその序文の全文を以下に引き、まとめの報告の一つとします。

 序文 蜻蛉への招待 −巧みな物語展開と描写− 伊藤鉃也

〔あるかなきかの蜻蛉〕
 五二番目の本巻「蜻蛉」は前巻「浮舟」を受けて、浮舟失踪から語り起こされます。薫二十七歳の春から秋、匂宮二十八歳の時の物語です。
 巻名由来は、薫が巻末部で宇治の姫君たちとの縁を回想する場面で詠んだ、次の歌によっています。
  ありと見て手にはとられず見ればまた
    ゆくへもしらず消えしかげろふ
 薫の求愛を拒絶した宇治の大君は、妹を薫に頼んで死んでいきました(総角)。その妹の中の君は、薫が匂宮に譲ります(総角)。そして浮舟は行方不明となり、薫は四十九日の法要を宇治の寺で営んだのです(蜻蛉)。宇治の女性一人一人との契りが悔いの残るものとなり、物思いに沈む夕暮れと憂愁の中に薫がいるところで「蜻蛉」は巻を閉じます。想いをかけた女性はみな、薫の手からするりと逃げて行ってしまったのです。儚さの象徴である蜻蛉が飛びちがうのを見、行方もわからずに消えてしまった蜻蛉を思って、一人きりになった薫は孤独の中で「あるかなきかの」とつぶやくのでした。「蜻蛉」は読まれる機会の少ない巻の一つだと言われています。しかし、なかなか巧みな描写に支えられた語り口がなされており、読み応えのある巻となっています。

〔生き生きとした脇役たち〕
 「蜻蛉」で印象深い場面を追ってみましょう。
 物語始発部分では、浮舟が行方不明となり、宇治では大騒ぎとなりました。そして、浮舟の死骸の見つからないままに、人目を偽って葬送してしまうのです。母女三宮の病気平癒を祈願するために石山寺に参籠中の薫がそのことを知ったのは、その後のことでした。匂宮も浮舟のことを聞き、悲嘆のあまりに床に臥せるありさまです。遺骸なき火葬という趣向が、読者に物語展開の面白さを予感させます。薫と匂宮がこの事実にどう向き合うのか。読者は、じっと成り行きを見守ることを強いられます。脇役たちも活躍します。薫の家司である仲信と、匂宮の従者である時方は、京と宇治を行き交いし、薫の誠実さを認める右近と、浮舟に近侍し匂宮に心惹かれる侍従の君も、浮舟の密葬に奔走します。それだけでなく、浮舟をめぐる秘密の漏洩を留めるためにも活躍し、真相を隠す手だてを尽くすのです。この二人については、薫と匂宮との関係も含めた動きにも、読者としては目が離せません。また、薫と匂宮が浮舟をめぐるさぐり合いを展開する場面では、薫が浮舟と匂宮の関係をあてこするなど、二人の間で心理劇が繰り広げられます。各人各様の思いが輻輳する物語の語り口を、ぜひ堪能していただきたいと思います。

〔視覚と触覚〕
 この巻では、物語の登場人物の視覚と触覚も生きています。
 透き通る単衣と冷ややかな氷が、印象的な場面を演出する小道具となっているからです。明石の中宮が、光源氏や紫の上を供養するために、法華八講を催しました。それが果てて人けが途絶えた頃、くつろぐ女房たちと氷で遊ぶ女一宮の姿を、薫は垣間見てしまいます。薫の視線で語られるこのあたりのカメラワークは、映像的にもみごとです。あこがれの人であった女一宮を、それも白い薄絹の着物姿の姫宮を、薫は思いがけずも見てしまったのです。

 白き薄ものの御衣着たまへる人(女一宮)の、手に氷を持ちながら、かくあらそふをすこし笑みたまへる(女一宮の)御顔、言はむかたなくうつくしげなり。(本書154頁)

 女一宮が手に「氷を持って」とありますが、「氷を握って」とする本文もあります。女房たちは割った氷を、手に、頭に、そして何と胸に当てたりしています。女一宮は、氷の雫を嫌がりもします。薫が思慕し続けた女一宮が、すぐ目の前にいるのです。衣服の色、女性の声と動き、そして氷の感触などを通して、薫の胸が高鳴っていくさまが伝わってくることでしょう。
 翌朝、薫は正妻である女二宮に、薄物の単衣を着るようにし向けます。昨日の衝撃的な場面を、女二宮によって再現しようとするのです。透き通る衣を、薫は女二宮に手づから着せます。袴も女一宮と同じ紅。さらには氷まで持たせるという念の入れようです。薫の執念のなせる態ともいえましょう。なぜそこまで、と思う先には、女一宮がいるのです。

〔すきばみたる気色と物語絵〕
 薫は明石中宮のもとに参上すると、女一宮から妻女二宮へ文をいただくよう求めます。母から娘への見えざる力を利用するわけです。妻を想う振りをしていますが、実は薫自身が、想いを募らせている人の手跡を見たいからなのです。女一宮から女二宮への文通につけ込もうとの奇策です。この薫の「すきばみたる気色(下心)」には、中宮も気づかなかったようだとあります。やがて薫の策が功を奏し、女一宮からの手紙が女二宮のところに届けられます。思惑通り女一宮の手になる文を見た薫は大感激です。中宮からは、いろいろな物語絵が届きました。薫も女一宮に、さらにおもしろそうな物語絵を贈ります。その中に、今は散逸していて確認できないものですが、『芹川の大将』という物語の絵がありました。そこには、男主人公のとほ君が秋の夕暮れに思いあまって女一宮を訪ねる、という場面が描かれていたようです。この物語絵の男に、薫は自分の気持ちをなぞらえます。そして、とほ君の思慕の対象となっている女性の名前が女一宮だけに、薫の想いはいや増しにオーバーラップしていきます。叶わぬ思慕と物語絵とを重ね合わせる薫の心中には、複雑な思いが去来するのでした。
 「蜻蛉」は、いろいろな読み方が可能です。薫が意識の奥底で求め続ける女性に思いを馳せながら読み進むと、宇治の物語の中のさまざまな場面にも行き会うことになるでしょう。

 ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「蜻蛉」の字母索引は、この記事に続いて明日[その2]としてアップします。鎌倉時代の古写本の中でも、ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「蜻蛉」に書き写されている本文について、字母に着目することで新しいことがいろいろとわかってきました。ただいま整理中なので、明日まで、いま少しお待ちください。




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2026年02月07日

宇治で相愛本『源氏物語 橋姫』の変体仮名を読む会(8)

 シェア型書店HONBAKO京都宇治で開催中の『源氏物語』の変体仮名を読む会も、早いもので今回は8回目です。

 シェア型書店HONBAKO京都宇治は、地域の人々や全国各地の本好きの仲間のコミュニティの場となることを活動の柱としています。さまざまな取り組みで、この空間が人と人との出会いの場となることが期待されます。私が毎月開催する『源氏物語』の古写本の変体仮名を読む会も、そうした場の一つの活動形態として機能すれば幸いです。

 さて、今日の勉強会は前回同様に、さまざまな話題で参会者のみなさんと盛り上がりました。そのためもあり、進んだのは3行だけでした。

 まずは、「宮川保子さんの仕事場から」と題して、雁皮・三椏・麻・二番唐紙(日本での画仙紙)の実物を持参し、触ることで体感していただきました。目に頼る文化が根付いた今の潮流を意識して、私の勉強会では触ることを大事にしています。
 そして、丁子を使った装飾の実際や、料紙を叩く小道具も見てもらいました。

260207_宮川小道具.png

 次に、街中の変体仮名として、「た」の各種バージョンを例示しました。身近な所にある看板などを通して、それぞれの文字に書いた人の字母意識の有無を読み取ってみました。今、ここでは説明の再現は省略します。

260207_たの変相.png

 この時点で、話題が拡散し、変体仮名に関して参会者との意見交換になりました。
 今日は、前回からの参加者と今日からの方を意識したお話しをしたこともあり、いろいろな疑問を抱かせたようです。また、私も具体的な例をあげて変体仮名について説明しました。
 文字は、さまざまな問題を抱え込んだまま、日常に押し流されて意識することなく見過ごしています。街中に散在する変体仮名がそれです。そのために、立ち止まってあらためて見つめると、疑問点が噴出するのです。

 参会者の方には、思いつきでいいので自由に意見を言っていただきました。知的好奇心が旺盛な若い方が集まっておられるので、若いからこそ気付くことがいろいろとありました。こうした意見交換の場は、歳と共に鈍感になっていく私にとっても、いい勉強になります。
 とにかく、正解のない世界を、みなさんと一緒に彷徨いました。

 ということで、本日の相愛本『源氏物語 橋姫』の変体仮名の確認は、9丁裏7行目〜10丁表の冒頭部分に認められる重複書写までの確認で終わりました。実質、3行分です。しかし、充実した時間でした。

(1)相愛大学本『源氏物語 橋姫』第九丁裏〜第九丁裏七行目 [変体仮名翻字]

翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、
補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部( 「 )・末尾( 」 )、
底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)
--------------------------------------
[以下、7行目から丁末まで]
しう・ナシ・乃多まひい弖多累尓・【宮】・い登・世ち尓・
を可し登・於ほい多り・され八よと・【御】介し支を・
みいてゝ/(みいてて)・いとゝ/(いとと)・【御心】・うこきぬへく・いひ川ゝけ/(いひ川川け)・
【給】ふ・さ弖・そ乃・【返事】・【有】介ん葉・【何】と可・三世・【給】身世【給】八さりし/身〈次頁〉、身世【給】〈重複〉、(9ウ)
--------------------------------------

 次回は、3月7日(土)の2時からです。




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2026年01月17日

日比谷で「須磨」(32)と『百人一首』(9)を読む

 日比谷図書文化館の正面入口には、本日の案内が出ています。

260117_掲示板.jpg


 まずは、「ハーバード大学本『源氏物語 須磨』の変体仮名を読む」からです。

 『源氏物語』の翻訳で44番目となる、インドネシア語訳『源氏物語』を回覧しました。

インドネシア語訳G.jpg

 これは昨年入手した本です。昨秋は『探幽筆三十六歌仙』(架蔵粉本)や、版木(『古訓古事記』)と版本(『絵入源氏物語』)を持参して手に取って見ていただいたため、この翻訳本の情報の確認が先延ばしになっていました。

書名:GENJI MONOGATARI
出版元:Boston and New York. Houghton Mifflin Company.
    The Riverside Press Cambridge, 1925年版。
著作権・出版情報:Copyright コピーライトマーク CV. Shinyuu Japanindo
翻訳者:Sutrisno / 編集者:Gafna Raizha Wahyudi
※本書は2024年に出版された。(ただし、2022年と2023年にも出版)
※本書は、アーサー・ウェイリーの英訳(The Tale of Genji, 1925)全6巻の内、第1巻のみの翻訳。例えば、インド語8種類の翻訳は、すべてウェイリーの英訳の第1巻だけをそれぞれの言語に訳したもの。
※参考記事︰「『源氏物語』の44番目の翻訳となるインドネシア語訳を入手」(2025年10月31日、http://genjiito.sblo.jp/article/191531889.html

 昨秋の時点で、『源氏物語』の翻訳本は以下の言語を確認しています。

【『源氏物語』が翻訳されている44種類の言語一覧】(2025年10月31日現在)
アッサム語(インド)・アラビア語・イタリア語・【インドネシア語】・ウクライナ語・ウズベク語・ウルドゥー語(インド)・英語・エスペラント・オランダ語・オディアー語(インド)・カタルーニャ語・クロアチア語・ジョージア語・スウェーデン語・スペイン語・スロベニア語・セルビア語・タミル語(インド)・チェコ語・中国語(簡体字)・中国語(繁体字)・テルグ語(インド)・ドイツ語・トルコ語・日本語(現代)・日本点字・ハンガリー語・ハングル・パンジャービー語(インド)・ビルマ語・ヒンディー語(インド)・フィンランド語・フランス語・ベトナム語・ヘブライ語・ペルシャ語・ポーランド語・ポルトガル語・マラヤーラム語(インド)・モンゴル語・リトアニア語・ルーマニア語・ロシア語

 ハーバード本『須磨』の翻字の確認について、今日は以下の箇所が終わりました。
 今回は、平仮名「ま」と「と」の字形が不安定な書かれ方をしていました。とにかく、紛らわしいのです。この巻を通して、本書の書写者の癖を再確認をすべきことだと思われます。

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■ハーバード大学蔵『源氏物語 須磨』57丁裏3行目〜59丁裏

翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、
補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部( 「 )・末尾( 」 )、
底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)
--------------------------------------
うれを/れ±へ、う〈墨ヨゴレ〉、(うれへを)・【申】いてゝ/(【申】いてて)・そこ者可と・奈く・さ
え徒るも/え〈虫喰、ママ〉・【心】の・ゆくゑは・於奈し・こと奈
る可・こと那る[260117_ココカラ]→あ者れ尓・み【給】・【御】そとも
なと・可川遣さ勢・堂満ふを・いける/へ&い、(へける)・可ひ
と・於もへり・【御】むま奈とも・ち可く・多てゝ/(多てて)・
三や里那る・くら可・な尓そなる・い祢なと・
いふ・毛乃・とりいてゝ/(とりいてて)・可う毛・めつらしく・み・【給】・
あ寿可【井】・すこし・う多ひて・【月】こ
ろの・【御物】可多り・なき身・王らひみ・王可
【君】能・な尓とも・【世】越八・於も者て・毛のし堂満ふ/堂〈次頁〉、(57ウ)
--------------------------------------
可奈しさ越/さ〈墨ヨゴレ〉・於とゝ/(於とと)・あけくれ
尓・徒遣て・於ほし奈介く・こと那と毛・可/〈ママ、諸本かたり〉・
堂満ふ尓・多え可多く・於ほし多り・つき
寿へく毛・あら祢八・【中】/\尓/(【中中】尓)・可多八し
毛・え・ま祢者寿・よ毛す可ら・満とろまて・
ふ三なと・あ可し・【給】・さ・いひな可ら毛・【物】ゝ/(【物】の)・
きこゑを・川ゝ見て/(川川見て)・いそき・可へ里・【給】・
いと・【中】/\な里/(【中中】な里)・【御】可八らけ・まいり弖・
ゑひの・可那しみ・な三多・そゝく/(そそく)・【春】能・
さ可【月】の・うちと・毛ろこゑ尓・すんし・【給】・【御】とも乃/とも〈丁末左〉、乃〈次頁〉、(58オ)
--------------------------------------
ひと/\/(ひとひと)・な三多を・那可す・をの可しゝ毛/(をの可しし毛)・
者る可なる・王可れを・志のふへ可め里・あさ
本らけ乃・そら尓・可り・つらね弖・王多るあ
留し乃【君】・
「ふるさと越・い川れ乃・【春】可・ゆきて・
三ん・うらやましき八・可へる・可り可祢」・【宰相】・
佐ら尓・堂ちいてん・【心】ち・世須・
「あ可奈く尓・可里乃・とこよ越・多ち王可
れ・【花】乃・三やこ尓・三ちや・まと者む」/万&ま〈ママ〉、(万と者む)・さる
へき/さ〈ママ〉・三やこ乃・徒となと・よしある・さ満尓て/て〈次頁〉、(58ウ)
--------------------------------------
あ里・あるし乃【君】・かく・可しこき・【御】を
くり尓とて・くろこ満・堂てま川里・【給】・ゆ
ゆしく八・於ほさるゝとも/(於ほさるるとも)・【風】尓・あ多りて八・
い者えぬへ介れ者奈と・【申】・【給】・よ尓・あ里
可多け奈る・於ほん満の・さまな里・可多
み尓・し・【給】へとて・いみしき・ふえ・多て
まつ里・【給】【人】のと可免徒へきこと八可多三に
えし【給】八須・【日】・やう/\/(やうやう)・さしあ可りて・
【心】あは多ゝし遣れ八/(【心】あは多多し遣れ八)・可へり三の三・し
つゝ/(しつつ)・いて・【給】をみをり【給】介しき/みをり〈ママ、諸本みをくり〉・いと・な可/\なり/(な可な可なり)、(59オ)
--------------------------------------
い川・ま多・堂いめん・多ま者らむと・すらん・
さりとも・かくてやはと・【申】・【給】尓・あるし・
「く毛・ち可く・とひ可ふ・堂川毛・そら尓・三よ/よ〈左傍記〉・
王れ八・者るひ乃・く毛里・那き・みそ」・可
徒者・多のまれ奈可ら・可く・奈りぬ
る尓・【人】八・む可し乃・可しこき・【人】多尓・八
可/\しく/(八可八可しく)・よ尓・【又】ましらふ・こと・可多く・
者へり介れ者・な尓可・【宮】この・さ可ひ
を毛・【又】・【見】む奈と・於ほえ・者へらぬなと・
の【給】・【宰相】/(59ウ)
--------------------------------------

 終了後に受けた質問の中に、今後の翻字方針を補訂すべきことがありました。
 平仮名の「て」の字母に「天」と「弖」があり、「て」と「天」の間の字形に関しては、漢字に近い「て」は「天」がいいのではないか、という提案です。確かに用例を見るとそうなので、今後は「て」の翻字には、さらに厳密な字母を追加して対処することにします。

 1時間の休憩を挟んで、後半は「『百人一首』を2種類の変体仮名で読む」となります。

 プリントにより、「遊びとしての『百人一首』(坊主起し)」と「生成AIによる「坊主めくり」の説明(再編集)」を、『百人一首』の受容史として説明しました。
 また、「57紫式部と58大弐三位の歌碑(廬山寺の境内)の再確認」については、「中之島での『百人一首』(第20回)と『源氏物語 蜻蛉』(第31回)」(2026年01月10日、http://genjiito.sblo.jp/article/191592716.html)の前半に記した通りの説明をしたので、その詳細は上記ブログの記事を参照願います。

 今回追加した新たな情報は、宇治川の氷魚は「琵琶湖から押し出されたか」ということを紹介する、「百人一首に詠まれた宇治川の風景 網代の氷魚 どこ生まれ?」(京都新聞、2026.1.13)という記事です。生態学と歴史学の研究者が、「平安時代の宇治川で盛んだった氷魚漁は、琵琶湖育ちの後期仔魚を対象としたものだった可能性が高い」という研究結果を伝えるものです。
 古典文学や古代文化が今につながっていることを確認できることの楽しさを、いろいろな例をあげてお話しました。

 本題の『変体仮名でよむ 百人一首』は、55番歌の大納言公任から64番歌の権中納言定頼までを、二種類のカルタに書かれた変体仮名を確認しながら終えました。




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2026年01月10日

中之島での『百人一首』(第20回)と『源氏物語 蜻蛉』(第31回)

 今日の大阪府立中之島図書館での講座は、まずは「変体仮名で書かれた『百人一首』を読む」という〔入門講座〕からです。
 お正月ということで、『百人一首』の「坊主めくり」の話から始めました。
 『百人一首』が遊技化した江戸時代以降、明治29年の「坊主起し」を描いた絵が残っています。このことは、本ブログの「集会所で新春恒例の『百人一首』とトランプで遊ぶ」(2026年01月06日、http://genjiito.sblo.jp/article/191589343.html)で報告した通りです。その絵では、3人の子供がいずれもカルタをめくって手元に置いています。歌を読み上げる人はいません。今の競技カルタではなくて、遊びとして『百人一首』が楽しまれていることが確認できる絵です。
 こうしたことを踏まえて、あらかじめ生成AI氏には「坊主めくり」の歴史とその意義について尋ねました。いろいろとやりとりをした結果を次のように整理して、本日提示してみました。


■生成AIによる「坊主めくり」の説明(再編集)
・坊主めくり「坊主=不利・姫=有利」は、歴史的・文学的な必然性はなく絵柄による視覚的な役割分担。
・坊主めくり成立の前提条件︰瞬間識別性/坊主と姫とを一瞬で判別できる。
・坊主が多いのは『百人一首』の作者構成を反映した結果→坊主が多いと波乱が起きやすい。
  坊主30〜35枚、姫君21枚、公家44〜49枚
 (ここで坊主の人数に幅があるのは、その認定に曖昧さがあるためです。
  例えば、蝉丸の場合は、次のような事情が関係します。
  蝉丸は、官人でも女性でもなく、僧とも言い切れない。
  百人一首の中で唯一の「世俗の境界に置かれた例外的存在」。
  僧形・隠者・盲目の楽人、などとして伝えられる歌人。)
・平安〜鎌倉期の和歌の担い手に高僧・出家貴族が非常に多かった
・特に鎌倉期以降は、仏教者=知識人=歌人という構図が強まった
  剃髪:正式な僧→完全に俗世を離れた印象(清僧・遁世者)
  頭巾・被衣:入道・隠棲者→元は貴族・武士で、後に出家した「入道」的存在
  完全な無帽:俗世離脱の強調→公的役割を残す高僧イメージ
・高級百人一首 → 横顔・後ろ姿あり
 普及版・学習用 → 顔が見える向き
・中世貴族文化→ 陽明文庫系
 江戸上層文化(鑑賞・意匠)→ 光琳系
 江戸庶民文化(遊戯)→ 絵札カルタ
 近代教育文化→ 教材・競技かるた
・陽明文庫旧蔵『百人一首』は、遊ぶためのカルタ文化とは交わらず、「書と仮名の正統を体現する百人一首」であり、そのため字形が意図的に難解。
・陽明文庫系が公家内部の書の規範なら、光琳かるたは上層町人も鑑賞できる美術。
・陽明文庫旧蔵『百人一首』は、後代のカルタが切り捨てていく「仮名の多様性」を最後まで保持した基準点であり、そこから光琳的翻訳と競技的単純化が分岐した。


 なにげなく遊んでいる「坊主めくり」も、こんな意味合いを見い出すとおもしろくなってきます。あそびが、さまざまな文化を背負っていることがわかります。

 次に、廬山寺の境内にある紫式部と大弐三位の歌碑について説明しました。それも、石に刻まれた文字に関して、これまで私が読んでいた翻字の修正をすることに及びました。
 このことは、昨日の本ブログの「京洛逍遥(961)廬山寺の歌碑を確認してから京大病院へ」(2026年01月09日、http://genjiito.sblo.jp/article/191591869.html)に詳述しているので、内容についてはそれに譲ります。

 テキストである『変体仮名でよむ 百人一首』については、59番歌の赤染衛門から66番歌の大僧正行尊までを確認しました。「坊主めくり」を思い出させるお坊さんで終わったので、何となく締めのカルタになったようです。

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 30分の休憩を置いて、次は「ハーバード大学本『蜻蛉』巻の仮名文字を読む」です。
 今日でハーバード大学本「蜻蛉」巻を終わるにあたり、まずは巻末に捺されている「月明荘」と「拝土蔵書」という朱印の説明をしました。

260103_月明+拝土.jpg

 右側の「月明荘」という朱印については、次の説明文をあげました。

「月明荘」
 反町茂雄(1901〜1991)
 昭和期の書誌学者、古書籍商。弘文荘代表取締役、文庫の会会長、東京古典会会長、明治古典会会長を歴任。自身を描いた「一古書肆の思い出」(平凡社,1986-1992) や「紙魚の昔がたり」(訪書会,1934)、「定本・天理図書館の善本稀書」などを著した。

 また、左側の「拝土蔵書」という朱印については、次の説明文をあげました。

「拝土蔵書」
 ドナルド・ハイド(Donald Frizell Hyde, 1909年 - 1966年)
 アメリカ合衆国の著名な弁護士であり、世界屈指の稀覯本・写本コレクター。1966年に56歳で亡くなりましたが、彼が収集したコレクションは現在も研究者に広く活用されています。

 このことに関連して、『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」』(伊藤編著、新典社、2013年)に解説を寄せていただいた、前ハーバード大学フォッグ美術館の文子・E・クラストン先生の「ハーバード大学美術館蔵「源氏物語」二冊の古写本の来歴について」と題する文章の一部をプリントに掲げて確認しました。

 この重要文化財又は重要美術品とも成り得る「源氏物語」五十四帖のうち、「すま」の巻(第十二章)と「かげろう」の巻(第五十二章)の二冊(書写された当時は、全五十四帖であったかどうかは不明)のみが市場に出て本館所蔵に帰したのは、今から二十九年前の一九七四年の事でした。
 この記念すべき年は、フォッグ美術館(現在、大改装中)の東洋美術史部門・日本美術史科が、恐らく日本でも珍しい日本美術と日本古典文学(特に古写本、古活字本、絵巻物等等)とを合わせて大々的な「日本古典文芸展」と題する展覧会を開催し大好評を博した一年後のことでした。
 ハイドご夫人はその年を記念してこれらの貴重な古写本二冊を寄贈して下さったのでした。
(中略)
 これらの美麗な稀覯本は、以前、弘文荘〈こうぶんそう〉(東京)の反町茂雄氏(一九〇一〜一九九一年。古本・古写本などを中心に店舗を持たずに販売・買入れを本業とする古本屋で販売目録なども多く出版した)の蒐蔵でしたが、一九六二年にドナルド・ハイドご夫妻が購入され、その所蔵となりました。
(中略)
 東京の弘文荘では、反町氏がその学識と豊富な経験から古写本、絵入り版本、絵巻物など、それこそ重要文化財・重要美術品級の作品を二十種類ばかりご覧に入れたのでした。
 その時、ご夫妻は多くの量は望まれず、質が高く、意義の深い、しかも価値のある日本古典文学の古写本、古版本などを蒐集されるご主旨で、それら二十種類を殆ど購入されました。その時から、ハイドコレクションは始まりました。が、残念なことに、不幸にもドナルド・ハイド氏は一九六六年に永眠されました。(155頁)

 さらには、テキストとして使用している『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「蜻蛉」』(伊藤編著、新典社、2014年)に収録しているハーバード大学のメリッサ・マコーミック先生の解説文の「古写本が伝えること」について、後半だけではあるものの確認をしました。

 最後に、付録として置いた資料編「ハーバード本と大島本との主要本文異同一覧(含・尾州家本、麦生本)」を見て、ハーバード大学本「蜻蛉」と大島本「蜻蛉」の本文の違いも見ました。鎌倉時代中期に書写された『源氏物語』の古写本であるハーバード大学本は、明らかに現在流布する大島本とは違う本文を伝える写本であることを確認するためです。

 拙稿「海を渡った古写本『源氏物語』―「蜻蛉」の場合―」という解説文も見ました。ハーバード大学本の「須磨」と「蜻蛉」を調査して撮影し、その後刊行した本を今回テキストとして使用している経緯についても、詳しくお話しました。

 なお、この拙稿の前半に、次のように記していることを、ここであらためて確認しておきます。それは、現在調査を進めている相愛大学(春曙文庫)本『源氏物語』(断簡5冊)について触れているからです。中山本はすでに刊行しています。

 本書の仲間(ツレ・僚巻)が日本に現存している。中山本(第三八巻「鈴虫」、国立歴史民俗博物館蔵、重要文化財)と、いくつかの断簡(第三三巻「藤裏葉」、第四五巻「橋姫」、第四九巻「宿木」、第五三巻「手習」)である。これら七巻分の古写本は、もとは一揃いの写本であったと思われる。(166頁)

 ここで、「帚木」のことに言及はしていないものの、今から12年前にハーバード本「須磨」「蜻蛉」と歴博本「鈴虫」のツレとなる古写本として、相愛大学(春曙文庫)に『源氏物語』(断簡)があることを明記しているのです。そのことを私が長く失念していたために、干支が一回りした昨年あらためて気付き、慌てて調査を始めました。これは、書家の宮川保子さんからいただいた情報を契機として思い出しました。また、12年前に私の科研付きの研究員(現・名古屋大学)だった淺川槙子さんには、相愛大学本の情報収集をお願いしたまま手を付けていなかったことについて、ここにお詫び申し上げます。現在、調査員の辻義孝さんの支援を得て翻字を鋭意進めていますので、成果の公表はいましばらくお待ちください。

 次の写真は、『源氏物語』の写本の調査をしたハーバード大学アーツミュージアムの入口の様子です。

2018_アーツM.jpg


 今日で最後となる本文の確認は、67丁の表6行目から裏の末尾までです。

--------------------------------------
【前略】
を可し可里し可登・【260110_ココカラ→】堂ゝ【何事】尓/(堂堂)・川介
て毛・可乃・ひ登川ゆ可りそ・於もひいて・
【給】け累・あやし婦・川ら可里介累・ち
きりと母なり介り登・徒く/\登/(徒く徒く登)・於毛ひつゝ
け/(於毛ひつつけ)・な可め・【給】ふ・ゆく礼/〈ママ〉・可遣ろう乃・毛能者可那介尓/者〈次頁〉、(67オ)
--------------------------------------
とひち可ふを・
「あ里登・身て・ゝ尓葉/(て尓葉)・とら礼春・三れ
者・満多・ゆくゑ毛・しら春・きゑし・可介
ろう」・ある可・なき可乃登・礼い乃・ひとりこち・
【給】と可や/可$、(67ウ)
--------------------------------------

 次回は、この「蜻蛉」巻の「変体仮名翻字版」による索引を提示して、鎌倉時代の写本にはどのような字母が使われているのかを、丹念に確認したいと思っています。
 索引は面倒な手順を経て作るので、いろいろと苦心することかと思います。しかし、1ヶ月でなんとか字母別の語意索引を完成させるつもりです。どのようなものが出来上がるのか、自分でも楽しみです。




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2025年12月27日

キャンパスプラザ京都で相愛大学本『源氏物語 帚木(断簡)』を読む(第4回)

 今日も、キャンパスプラザ京都(京都市大学のまち交流センター)の入口正面には、いつものイベント案内が表示されていました。

251227_掲示板.jpg


 まず、街中の変体仮名からです。

250724_くをん.jpg

 新町通錦小路通りで見かけた暖簾に書かれていた「くをん」は、「を」の字形がおもしろいのと、朱の落款が「久遠ん」と読め、今の平仮名の字母がわかる例として紹介しました。
 平仮名の字母である漢字がわかる例として、宇治橋通の「左し治」も紹介しました。

251206_宇治の「左」.jpg

 今日は、予定通り相愛大学本「帚木(断簡)」を終えることができました。そして、この古写本は草稿本を書き写したものではないか、という視点で変体仮名で書かれた本文を確認していきました。そうした見方で本文を追いかけると、至るところにその片鱗が伺われます。
 今回「変体仮名翻字版」で本文を確認したのは、第8丁表から現存する最終丁である第10丁裏までです。
 脱字や欠脱、そしてナゾリ書きが何例も確認できました。このままでは意味が通らないので、意味などは考えずに、ただ親本を写したようです。その親本が草稿本というものであったのではないか、ということが、確認を通してその蓋然性が高くなったと言えます。これは、今後の検討で明らかにしていくつもりです。

 今日問題とした箇所で、主なものを5例あげます。「文節番号」としているのは『源氏物語別本集成 正・続 第1巻』で用いているものです。

(1)8ウ/8行目 ・文節番号4934「かゝる/寿&る〈判読〉」

251226_相愛帚木8uL8寿&る.jpg


 これは、「かゝ」に続く文字にナゾリがあり、「寿」と書いた後に「寿」の上から「る」をなぞった例としました。「る」の上に「寿」をナゾッたとはしません。ただし、「る」は微妙な字形で書かれていると判断し、〈判読〉としています。


(2)9ウ/9行目 文節番号5029「△&か」

251226_相愛帚木9uL9△&か、し.jpg


 この右のナゾリは「かの」と読み、下に書かれた文字は判読できないものの、上には「か」と書かれているものです。他本に「この」とあります。しかし、この下の文字は「こ」ではなく、「そ」として「その」と想定しても、いずれもそのような字形の文字が下に書かれているとは思えません。いまは不明としておきます。


(3)9ウ/10行目 文節番号5032「見しかゝめ里なと/し〈虫損、左傍記△、諸本みしかゝりなんと〉
 上の写真の左側の行に書かれている「し」の左横の墨の線が何かは、今はわかりません。本日の勉強会の中で最後に、これは「も」ではないか、という意見が出ました。確かに、この形の「も」が前後に見受けられます。そこで、これは「も」であろうとしました。
 しかし、帰宅してから諸本の本文異同で「みしかゝりなんと」とか「みしかからんなと」、そして「みしかし」という例もあることから、ここは「も」ではなくて、やはり「し」であるとします。そして、依然として「し」の左横の墨の線は不明とせざるをえません。今後の課題です。
 この「帚木」の断簡には、「も」の左横に意味不明な傍線が書かれていたり、不思議な字形で「そ」と書かれていたり、「の」の最後が「ぬ」のように丸く廻っていたり、「け」の最初の棒が二本引かれていたりします。踊り字の「ゝ」が「く」や、次の仮名へのつなぎの線のように見えたりもしています。

 とにかく、これまでの古写本には見られない、イレギュラーな字形や意味不明な字句やケアレスミスが散見します。今後とも、この写本の文字列は慎重に読み解いていく必要があります。そして、この写本が「草稿本」ではないか、という可能性も探っていきます。


(4)10ウ/10行目 文節番号5131「り&累〈判読〉」

251226_相愛帚木10uL10り&累.jpg

 ここは「者可累/り&累〈判読〉」と読みました。つまり、下には「り」とあり、その上に「累」がナゾられたとしたのです。「者可累」と書いた後に「累」の上から「り」を書いて「者可り」としたのではない、と判断したのです。

 これらの判断はあくまでも暫定的なものであり、来春早々に相愛大学で原本を直接調査するので、その時に実見を通して確定していきます。

(5)8ウ/10行目 ・文節番号4942堂可ふへくもあらす/〈行間上部・貼紙「△△」〉

251227_相愛帚木8uL9-10上部〈貼紙〉.jpg


 丁末の行頭に〈貼紙〉があります。ただし、千切った和紙を貼り付けた例を、これまでに私は見たことがありません。ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」「蜻蛉」に、貼紙がありました。しかし、それは四角に切られた和紙に文字を書いて貼り付けたものであり、このような間に合わせの対処は初見です。また、書かれている文字も、私には意味不明です。
 大方のご教示をお願いします。

 以下、本日確認した「変体仮名翻字版」の翻字を引きます。
 これで、相愛大学本「帚木(断簡)」は終わりです。
 次回は、多くの問題点を抱えるこの写本の課題を整理し、索引の作成に入ります。また、大島本などの現行の『源氏物語』とは大きく異なる本文を伝える写本なので、この本文の性格にまで及べるように調査を進めます。


--------------------------------------
■相愛大学本「帚木(断簡)」(今回:第8丁表〜第10丁裏まで)
  [変体仮名翻字版] (翻字:辻 義孝/補訂:伊藤鉄也)
   ・翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
     傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、
     補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部( 「 )・末尾( 」 )、
     底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)
--------------------------------------
ナシ・ナシ・きこゑ【給】・ナシ・いと者川
かし介れ八・ナシ・うちいて尓くゝ/(うちいて尓くく)・於ほさるれと・
いと・よく可多らひ堂万ひ弖【御】ふ三可き
【給】あやしと於もふ尓こま/\とみゝ尓あてゝ/(こまこまとみみ尓あてて)・
いひ志らせ・【給】・かゝる/(かかる)・こと古所八と・ナシ・いとおもひ
可けか多けれと・於さ那・【心】ち・ふ可う毛・堂と
らす・ナシ・もてき多れ八於んなむね川ふれ弖・
あさましき尓・な三多も・於ちぬ・この・古の・於も
ふらん・ことも・者つ可しうて・さす可尓・【御】ふ三を・
お可く新尓/〈ママ、諸本おもかくしに〉・ひきひろけ多り・いとこと・於ほく弖/弖〈丁末左〉、(8オ)
--------------------------------------[4900]
「みし・ゆ免を・あふ・よ・ありやと・なけく・
ま尓・めさへ・あ者てそひ/ひ$・ころ/ろ+も、(ころも)・へ尓介る」・ぬる・
よ・なけれ八なといと・め・と万りぬへき・【御】可き
さま奈れとみいれられ寿・めも・きり弖・
【心】え可多き三の・すくせ・うさそひ堂り
けるを・ナシ・於もひ川ゝけ/(於もひ川川け)・うちふし・【給】へり・【又】
乃ひ・そのき三越/そ〈判読〉・免し多れ八・まいるとて・
【御】可へり・こへ八・かゝる/寿&る〈判読〉、(かかる、かか寿)・【御】ふ三・みわくへうも
あらすと・ナシ・ナシ・きこ江よと・いへ八・うちわらひて・
堂可ふへくもあらす/〈行間上部・貼紙「△△」〉・の【給】者せし越・ナシ・い可ゝ/(い可可)、(8ウ)
--------------------------------------
さは・きこゑむと・いふお・【心】や万しくて・
のこりなう・の【給】・き可せ介ると・於もふ尓・
川らき・こと・かきりなし・いて・およすけ多る・こと
盤・い者ぬ【物】そ・さ八・な・堂万へりそと・ナシ・けしき
あし介れ八・めす尓八・い可ゝとて/(い可可とて)・まいりぬ・かの
三/〈ママ、諸本きのかみ〉・すい多る【心】ち尓・この・まゝ者ゝ能/(まま者者能)・ありさま
を・ナシ・ナシ・よ尓免て多しと於もひて/も〈判読〉・川いせう
し・よるこゝろなれ八/(こころなれ八)・こき三わ八く累
ま尓て/わ〈ママ〉・ナシ・ゐて・ありく・こきみ・めしよせて・
きのふ八・まちくらしてやみ尓き・ナシ・あひおもふましき奈免りと/ま〈次頁〉、(9オ)
--------------------------------------
ナシ・の【給】尓・か本・うちあ可め弖/△&う、ちあ可〈墨ヨゴレ〉・
ナシ・い川らと・能【給】尓・志可/\なん/(志可志可なん)・者ら多ち者へ
ると・ナシ・きこゆれ八・ナシ・ナシ・【心】のことやとて・【又】も・多万へ
り・あこ盤・ゑし羅しな・その・いよの・於きな
ともの・さきより・ナシ・み多てまつりそめし/そ〈判読〉・
ひとそ・されと・堂の毛し介なく・ゝひ/(くひ)・本
そと・ふ川徒可奈る・ナシ・こゝろてこしつき
ゑり・ナシ・ナシ・まうけ【給】へ累そかし/△&け・ナシ・ナシ・き三は
あ可・こにて・あれよ・かのをや八/△&か、かの〈ママ、諸本この〉・堂のもし
けなれと・ゆくさき・見しかゝめ里なと/し〈虫損、左傍記△、諸本みしかゝりなんと等〉、(見しかかめ里なと)、(9ウ)
--------------------------------------
の【給】へ八・さ毛・あり介ん・いみしかりける・こと
と・於もへ累も・於可しと・於も本寿・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・【又】【御】ふ三
毛・ナシ・【給】へり・されと・この・こ毛・いと・者可那し・
【心】より・本可尓・ち里毛・せは・可ろ/\しき/(可ろ可ろしき)・
奈さへ・そへむ・みの・ありさま越を/越を〈ママ〉・いと・川
き那く・おほえて・免て堂き・ひと奈り
とも・わ可・三こそと・【思】へ八・いとすきか万
しきことのふさ者しからぬうちとけ
堂る・け者ゐ毛・きこゑす・本の可那
りし・【御】けはひ・なとお・け尓・よ尓・なへてなと八/て〈次頁〉、(10オ)
--------------------------------------
於もひ・きこ江ぬにしも・あらね
と・を可しき・さま越・みえ・多て万つり弖・
奈尓ゝ/(奈尓尓)・なるへきみそと・於もひ可へ寿
なり介り・き三毛・於ほしおこ多る・ナシ・ナシ・於
り毛なく・こひしきよりも【心】く累し
う・ナシ・ナシ・於もへりしさま越・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・於ほしわ多る・
かろ/\しく/(かろかろしく)・八ひまきれて・堂ちより・
堂万者ん尓も・【人】免・し介く奈れ八/く〈ママ〉・ナシ・す
き/\志き/(すきすき志き)・ふるまひや・あら者れんと・ナシ・ナシ・ナシ・者
者可累とさまかうさま尓於ほしくらす/り&累〈判読〉、(10ウ)
--------------------------------------[文節番号025131]まで
相愛大学春曙文庫「帚木」以降 落丁
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2025年12月20日

日比谷で「須磨」(31)と『百人一首』(8)を読んだ後は息子に教えを受ける

 肌に感じないほどの霧雨の宇治を早朝に出て、新幹線で3時間かからないうちに微かに霧雨が感じられる有楽町に降り立ちました。うまく雨をすり抜けて東京に来られました。

 早めのお昼ご飯は、西銀座にある回転寿司の「くら銀座」です。開店時間を少し待って入りました。
 ここは、京都の三条通から新京極通を下ったところにあるお店と同じ店構えで、清潔感が漂うお店です。

251220_くら銀座.jpg


 ゆっくりと、お寿司とドリンクとデザートをいただいてから、日比谷公園に向かいました。

 ミッドタウン日比谷の前にいる大好きなゴジラを、今日は斜め後ろから撮りました。初めての角度です。

251220_ゴジラ.jpg

 しばらく公園を散策すると言う妻と別れて、私は先に日比谷図書文化館に入りました。妻は終日図書館で、公園の緑や皇居方面の景色を見ながら、窓辺のイスに座って好きな本を読むことを、ここに来る楽しみにしています。

 掲示板がいつものように立っています。

251220_日比谷の掲示板.jpg


 今日の最初は、「ハーバード大学本『源氏物語 須磨』の変体仮名を読む」です。
 まず、先週の大阪府立中之島図書館と同じように、版木『略解○古訓古事記巻中』と、版本『絵入源氏物語』を実際に触ることで版本の世界を体感していただきました。やはり、実物が訴える重みはズッシリと伝わったようです。

 この講座のメインとなる、ハーバード大学蔵『源氏物語 須磨』については、57丁表から57丁裏3行目まで[変体仮名翻字版]で確認しました。鎌倉時代の古写本の実態について、少し立ち入った話をしたこともあり、予定した範囲の四分の一もできませんでした。すべて、年明けに持ち越すことになりました。

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あさ者可尓・みいれらる・【五】・すく【六】・
堂き乃/堂±ん〈薄墨〉、き〈左濁点〉、(堂んき乃)・てうとやう乃・毛乃・ゐ【中】王さ尓・
し奈し堂る・いと・を可し・【念】寿の・くと
毛ゝ/(くと毛毛)・めつらしき・さ満尓・し徒ゝ/(し徒徒)・をこ
なひ・川と免・【給】介りと・三ゆる・毛の・万いれ
る・さ満那とこと佐ら尓/こ&こ・【所】尓・つけて・けう
あ里て・志那し堂り・あ満とも乃・あさり
して・かい川【物】・毛てまいる越・めしいてゝ/(めしいてて)・
【御】らん春・うらに・とし・ふらん・さ満なと・ゝ
者勢/(と者勢)・【給】へ八・さ満/\尓/(さ満さ満尓)・やすけ奈きみの/(57オ)
--------------------------------------
うれを/れ±へ、う〈墨ヨゴレ〉、(うれへを)・【申】いてゝ/(【申】いてて)・そこ者可と・奈く・さ
え徒るも/え〈虫喰、ママ〉・【心】の・ゆくゑは・於奈し・こと奈
る可・こと那るあ者れ尓・[12.20 ココマデ確認]
--------------------------------------

 1時間の休憩を置いて、次は「『百人一首』を2種類の変体仮名で読む」です。

 ここでも、まずは前列に並べた版木と版本を触ってもらいながら、写本と版本と活字本の違いなどをお話しました。

 続いて、これも中之島図書館で先週紹介した、包装紙に描かれた『百人一首』の例を確認しました。そして、俳優の伊東四朗さんが70歳を過ぎて「百人一首」の暗記にチャレンジしたという話を紹介しました。これは、脳科学の立場からいえば廃用現象を防ぐ賢明な方法だそうです。物覚えに衰えを感じ出した方は、参考になさってはと提案しました。

 次は、廬山寺の境内に建つ57番歌の紫式部と58番歌の大弐三位の歌碑の写真を見ながら、そこに刻まれた『百人一首』の歌を「変体仮名翻字版」で確認しました。
 また、同時に、有馬温泉の瑞宝寺町公園に建つ58番歌の大弐三位の歌を確認しました。これは、変体仮名は1文字もなく、すべてが現行の五十音図の範囲内での平仮名と漢字で書かれたものなので、不鮮明な写真からいかに文字の輪郭を読み取って文字として認識するかの練習になりました。

 この講座のメインである『変体仮名でよむ 百人一首』の確認は、44番歌の中納言朝忠から54番歌の儀同三司母までを終えました。特に注意をした文字は、陽明文庫のカルタに見られる「支」(ki)でした。何度も出て来るにもかかわらず、どうしても文字が仮名として認識しずらいからです。

 最後は、また来年、元気にお目にかかりましょう、という挨拶で終わりました。

 日比谷図書文化館を出てからは、息子がいる青山に直行です。
 今日は、息子から生成AIを使いこなすコツを伝授してもらいました。具体的には、『源氏物語』の鎌倉時代の写本の一覧を生成AIに作ってもらうことを通して、より時間をかけて網羅的な情報を得るための設定を教えてもらったのです。現役で生成AIを使いこなしているだけに、的確なアドバイスに感謝です。「負うた子に教えられ……」とはこのことです。いやいや、今の息子に対して「自分より劣っている」とか「未熟な者」に教えられたと言うのはお門違いです。専門家に教えてもらうことなので、親子の関係などは問題ではありません。根気強く教えてくれる子を、逞しく思いました。




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2025年12月13日

中之島での『百人一首』(第19回)と『源氏物語 蜻蛉』(第30回)

 今日も、最初の90分は「変体仮名で書かれた『百人一首』を読む」〔入門講座〕です。
 配布したプリントは、次の2枚でした。

251213_中之島100人-19_1.jpg

251213_中之島100人-19_2.jpg

 2枚目の「包装紙に描かれた『百人一首』」は、現行の五十音図の平仮名以外の文字、つまり変体仮名をサッと見分ける練習用として配布したものです。みなさん、区別は手早くできていました。これは易しかったようです。
 今日の2種類の『百人一首』の確認は、52番歌の藤原道信朝臣から58番歌の大弐三位までを終えました。
 判別しにくい文字として、「支(き)」「王(わ)」「弖(て)」「帝(て)」「希(け)」「遣(け)」「盤(は)」がありました。
 なお、テキストである『変体仮名でよむ 百人一首』(伊藤鉄也・吉村仁志 編、新典社、2025年5月)において、57番歌である紫式部の作者欄に「『源氏物語』を編纂」と記載していることに関して、私は紫式部を『源氏物語』の作者だと特定していないことの補足説明をしました。

 30分の休憩時間を挟んで、次は「ハーバード大学本『蜻蛉』巻の仮名文字を読む」になります。

 まず、次の2枚のプリントを配りました。

251213_中之島・蜻蛉-30+版本_1.jpg


2251213_中之島・蜻蛉-30+版本_2.jpg

 この講座では、いつも古写本の話ばかりしています。そこで今日は気分転換も含めて、江戸時代の版本に関する資料を持参しました。目で見ることが主体となっている現代の文化を、今日もいま一度見直しましょう、というアピールです。先月は、『探幽筆三十六歌仙』という人物画の作成に使われた模本(粉本)の実物を見て触っていただきました。
 前掲の写真は、架蔵の『略解 ○古訓古事記巻中』の版木です。版木の実物を触ることはなかなかないので、貴重な体験となったことでしょう。写真の上は現物そのものの板面。その下は、コンピュータグラフィックで左右を反転して、刷り上がった状態がわかるように加工したものです。写真をクリックしていただくと、精細な写真が表示されるので文字がよく見えると思います。
 版木の重さのみならず、文字が精細に彫られていることが、目で見るだけでなく、指で触って実感できたことは、こうした印刷物の理解が深まったはずです。

 2枚目の資料の『絵入源氏物語』の版本は、現在はNPO法人〈源氏物語電子資料館〉が所蔵しているものです。山本典子氏より寄贈されたものです。この山本春正編『絵入源氏物語』(漆山文庫旧蔵)の版本は、江戸時代・慶安三年(一六五〇年)の版であり、旧蔵者山本節氏は山本春正のご子孫です。山本典子氏によると、約五〇年以上茶箱に保管されていたものだということなので、編者である山本春正の手元にあった初版本である可能性が高いものです。宇治十帖を持参して並べ、実際に手に取って見ていただいたので、受講者のみなさまには版本の実態が体感できたかと思います。興味津々で、袋とじの本をご覧になっていました。

251213_『絵入源氏物語』.jpg

 ハーバード大学蔵『源氏物語 蜻蛉』を[変体仮名翻字版]で確認することは、今日で巻末まで行く予定でした。しかし、版本の閲覧と実見で時間を取ったために、67丁表6行目までを確認して時間が来ました。あと1頁文が残りました。年明けには、最後まで終えることになります。

 今日問題となったのは、次の2例です。

 (1)65丁裏9行目 「きこ江さ勢/え【給】&江さ勢、江=え」

2251103_ハーバード「蜻蛉」65uL9え給.jpg

 「え【給】」の上から「江さ勢」とナゾリ、その「江」の右横に「え」を傍記しています。
 本行の中でのナゾリなので、書写者自身がナゾッていると思われます。

(2)67丁表5行目 「うち/△&う」

251212_ハーバード「蜻蛉」67oL5うち.jpg

 ナゾッている文字の「う」の下の文字が、私にはどうしても読めません。そこで不読文字として「△」を用いて、「うち/△&う」としました。今後の課題として残すことになりました。

 今日確認したハーバード大学蔵『源氏物語 蜻蛉』の「変体仮名翻字版」は、以下の通りです。


--------------------------------------
■ハーバード大学蔵『源氏物語 蜻蛉』65丁裏9行目〜67丁表6行目

翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部
( 「 )・末尾( 」 )、底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)
--------------------------------------
よろこひきこ江さ勢/え【給】&江さ勢、江=え、(きこえ【給】)・【給】めると・いふ・な三/\
の/(な三な三の)・【人】めきて・【心】ちなの・さ万やと・ものうけれ八/(65ウ)
--------------------------------------
もとより・於ほしす川ましき・すちよりも・いま八・
万して・さるへき・ことに・川介ても・於ほし多つ
ねんなん・うれしかるへき・うと/\しく/(うとうとしく)・【人】川
てなとに・もてなさせ・【給】八ゝ/(【給】八八)・江こそと・能【給】尓・
け尓と・いひさ者きて/=【思】〈薄墨〉、(【思】さ者きて)・【君】を・ひきゆるかすへ
介れ八/す〈虫損〉・万川も・む可しのと能三/も&能、(む可しのとも三)・な可めらるゝも/ゝ±二、(な可めらるるも、な可めらるる二も)・
もとよりなと・能【給】ふ・すちは・万めや可尓・多のも
しくこそ八と・【人】川てとも・なく・いひなし・
【給】へる・こゑ・いと・王可や可尓・あいきやうつき・
やさしき・【所】・そひ多り・堂ゝ/(堂堂)・なへ弖の・かゝる/(かかる)・す三可の/三〈次頁〉、(66オ)
--------------------------------------
【人】と・於も八ゝ/(於も八八)・いと・於可しかるへきを・
多ゝいま/(多多いま)・い可て可八・か者可りも・【人】尓・こゑ・きか
すへき・ものと・ならひ・【給】介ん・な万うしろ
め多し・か多ちも・いといま免可しからんと・み
ま本し幾・け者いの・したる越・この・【人】そ・
【又】・れいの・【御心】・三多るへき・川万なめると・
於かしうも・阿り可多のよやとも【思】い多ま
へり・[35]これこそは・可きり・なき・【人】の・かし
つき・於ほし多て・【給】える/介&え・ひめきみ・【又】・
か者可りそ・於ほく八・あるへき・あやしかりける/(66ウ)
--------------------------------------
【事】葉・さ累・ひし里乃・【御】あ多里尓・【山】能・
ふ登古ろより・いてき堂る・【人】〻の/(【人人】の)・可多本
なる葉・な可り介累こ楚・古の/古〈虫損〉・者可奈し
や・可ろしや奈登・於もひ奈須・【人】毛・可や
うの・うち身累/△&う・介し支八・い身しう楚・
を可し可里し可登・…………途中まで(67オ)
--------------------------------------



 帰りは、大阪駅まで歩きました。途中で、曾根崎心中でよく知られている「お初天神」の境内を通ることになり、久しぶりに「露天神社」にお参りすることになりました。

251213_お初天神.jpg

 ここに来るのは数十年ぶりになります。「恋人の聖地」となっていて、若者がたくさんいました。私が知っていた「お初天神」が明るく様変わりしていたので、とにかく驚きました。

 大阪駅前の阪神百貨店の地下には、いか焼きで有名なお店があります。小さい頃に何度か行って以来なので、懐かしさも手伝ってその場で妻と一緒に立ち食いをし、持ち帰りのお土産もいただいて帰りました。以前は、あまりにも長い行列のために諦めました。551の蓬莱といい勝負です。大阪の粉モン文化は健在です。

 大阪駅からJRで京都駅に出て、その駅前のキャンパスプラザ京都(京都市大学のまち交流センター)に立ち寄りました。3月分の予約をしたままで教室の利用料金の支払いが終わっていなかったので、済ませるためです。
 今日のスケジュールは、これで無事に終わりました。
 京都駅の構内は、相変わらずの雑踏となっています。中国語が飛び交う状況は一変し、多くの東南アジアの方々と擦れ違いました。日本人の観光客は、まだ京都を敬遠しておられるようです。しかし、年末年始は京洛各地で日本古来の文化を背景にした行事が多くなるので、日本の方々が増えることでしょう。




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2025年12月06日

宇治で相愛本『源氏物語 橋姫』の変体仮名を読む会(7)

 シェア型書店HONBAKO京都宇治の入口のガラス戸越しに、通りからクリスマスツリーが見えています。

251206_本箱正面.jpg

 中も、クリスマスムードが感じられるようになりました。本箱も活発に本の入れ替わりがあります。活気が感じられるようになりました。

251206_本箱のツリー.jpg


 そんな中で、今日は「店名:モモ Handmade」が手提げバックのチャリティ販売をする日でした。クリスマスツリーのすぐ前に、手作りのバッグを並べています。妻と姉の手仕事の布小物です。この日のために、姉も遠路芦屋から駆けつけて、お手伝いをしてくれました。姉も箱主なので、立派なオーナーです。
 この催しは月に1回なので、次は新年2月7日(土)です。
 シェア型書店HONBAKO京都宇治は、地域の人々や全国各地の本好きの仲間のコミュニティの場となることを活動の柱としています。さまざまな取り組みで、この空間が人と人との出会いの場となることを願っています。

 さて、今日の勉強会は新しい参加者を得ました。それも、新婚さんお2人です。写本を読むのは初心者だとのことだったので、丁寧に進めていきました。変体仮名とは何か、古写本に関する知識、書写の道具、街中の変体仮名、などなど。
 書写された文字が訂正されている箇所については、次の例を見ました。

251203_相愛「橋姫」9uL3いり墨.jpg

 これは、「まいり/いり〈削、墨〉、=万いり」と翻字した箇所です。
 書写者はまず、「まいり」と親本の文字列を書き写しました。しかし、他の人か後の人が、「いり」の部分を墨で塗り潰し、なかったものとしました。続いて、その右横に「万いり」と正しいとする文字を書き添えています。
 ここで気になるのは、「ま」と「万」の文字表記が異なるにもかかわらずそうではない「いり」が墨で塗り潰されていることです。これは、どのような意味を持つのでしょうか。写本に残された、その意図がよくわからない例として取り上げました。写本に手を入れる、という行為が意味することには、よくわからないことが多いという例です。

 基礎的なことを確認しながら、ということもあって、1ぺージも進みませんでした。
 以下に、本日確認した「変体仮名翻字版」の翻字をあげます。

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(1)相愛大学本『源氏物語 橋姫』第九丁裏〜第九丁裏七行目 [変体仮名翻字]

翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、
補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部( 「 )・末尾( 」 )、
底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)

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の【給】ふ毛の越・支こゑ者遣ま
して・【御心】・者けまひ・堂てま川らんと・於ほい
て・のとや可なる・ゆふくれ尓・まいり/いり〈削、墨〉、=万いり・【給】へり・れい
乃・さま那る・【御】も乃可多里・木こゑ可王し/木〈ママ〉・
【給】ふ・川い弖尓・うち乃三この・【御事】・き古
ゑい弖ゝ/(き古ゑい弖弖)・みし・可【月】の/±あ・あ里さまなと・くは
しう・ナシ・
--------------------------------------

 新年正月は、この宇治での勉強会はお休みです。
 次は、新年2月7日(土)となります。
 みなさま、よいお歳をお迎えください。




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2025年12月04日

中之島図書館での歌舞伎と『源氏物語』の講演会

 大阪万博も終わり、一躍有名になったキャラクターのミャクミャク君は、今は大阪市役所本庁舎の正面玄関前で、向かいに建つ日本銀行大阪支店を眺めながら寝そべっています。多くの方が写真を撮っておられました。

251204_ミャクミャク.jpg


 本日の講演会の会場となっている大阪府立中之島図書館は、このミャクミャク君がいる反対側、市役所の東隣にあります。

 第8回となる平安文学リレー講座は、「歌舞伎と『源氏物語』 〜今話題の映画に思いを寄せて〜」と題して、薮下敦朗氏の歌舞伎語りでした。薮下氏は、早稲田大学や鳴門教育大学大学院で近世文学を専攻され、現在は日本演劇学会や日本音楽表現学会の会員です。

251204_会場.jpg


 歌舞伎の世界では『源氏物語』はあまり扱われなかったようです。その理由は、皇室のスキャンダラスな話となるため、敬して遠ざけられたことにあるようです。昭和26年に、11代目市川團十郎が『源氏物語』をやったことから、世の中が変わったそうです。

 映画「国宝」を観ての感想が至る所に鏤められ、みなさんの興味と関心を集めながらのお話でした。映画では、難曲の「鷺娘」や「道成寺」を踊りで見せる場面は、お見事の一言だそうです。2人の若い役者を絶賛しておられました。

 歌舞伎の歴史を概観し、俳優史から文化・文政以降の演劇界の動きを紹介し、映画「国宝」の時代背景に留まることなく、実際に薮下氏が生の舞台から得たものや、数多くの人間国宝の方々との交流史も交え、豊かな話題で歌舞伎の魅力を語ってくださいました。

 本日の話は、とにかく薮下氏自身の豊富な演劇体験に基づくものであり、書物からの知識ではない、生き生きとした内容が魅力の講演でした。終わってからも、多くの方が質問などをしておられました。

 帰りに本日の講演会場だった中之島図書館を振り返ると、満月がふくよかな顔を見せていました。

251204_満月.jpg

 淀屋橋のすぐ近くにあるカフェで、薮下氏ご夫妻と長時間にわたって話をしました。かつて高校の教員時代の同僚であり、祇園へ何度か連れていってもらったこともあり、思い出話が尽きません。気の置けない仲間との時間は、あっという間に過ぎていきました。




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2025年11月29日

日比谷で「須磨」(30)と『百人一首』(7)を読む

 東京に着くと、いつものようにまずは有楽町に出ます。お昼ご飯は、駅前のビックカメラの中にあるスシローで腹ごしらえをします。その日に合わせて食べる量を調節できるので、消化管を持たない私は重宝しています。最近は、デザートが充実してきました。

 ビルを出ると、東京国際フォーラムの広場で「大江戸骨董市」をやっていました。400もの店舗が出店しているそうです。東京駅の近くまで延びていました。大半が海外からの観光客のようです。ざっと見たところ、弘法市や天神市よりも相当高目の値札が付いていました。

251129_大骨董市.jpg


 日比谷公園に入ると、「魚ジャパンフェス 2025 in 日比谷公園」をやっていました。全国各地の新鮮な魚介を使った料理が集結する、日本最大級の魚食イベントでした。

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 最近私は、お寿司よりも海鮮ものに興味が移っているので、大いに期待して見て廻りました。しかし、その値段が我が家の予算の2倍から3倍だったので、このイベントは無縁のものだと諦め、早々に日比谷図書文化館に入りました。

 入口では、いつもの掲示があります。

251129_掲示板.jpg

 まずは、「ハーバード大学本『源氏物語 須磨』の変体仮名を読む」からです。
 今日は、先日も中之島図書館の講座で見てもらった『探幽筆三十六歌仙』を12枚ほど持参したので、テーブルに拡げ、その概略をお話しました。これは、国宝『源氏物語絵巻』の「鈴虫(1)」(五島美術館蔵)の画面を赤外線写真で調査したところ、彩色の下から文字が出て来たことに関連して、絵に書かれた指示書きというもののお話につなげるものです。
 実際に『探幽筆三十六歌仙』(架蔵粉本、一部数枚)を手に取っていただき、実感実証の体験をしていただきました。私がコンピュータグラフィックを駆使して描いた歌仙絵も見てもらいました。また、30年前に仲間と刊行した『パソコン国語国文学』(啓文社、平成7・1995年1月)を紹介し、その中に収録した「画像としての小野小町」(第4章、伊藤鉄也、添付フロッピーディスクに画像収録)についても話しました。

 次は、前回先送りにした「天」と「弖」について、その識別のポイントを説明しました。併せて、「介」と「个」の識別方法についても説明しました。

 ハーバード大学蔵『源氏物語 須磨』の「変体仮名翻字版」の翻字確認については、55丁表5行目から56丁裏まで、用意した資料のすべてを終えました。以下に、この部分の翻字をあげます。

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堂ゝあま尓毛/(堂堂)・なり奈ん・う三の・そこ尓
毛・いり奈んとそ・【思】ひける・ちゝ【君】/(ちち【君】)・【所】世く・
【思】ひ可し徒きて・とし尓・ふ多ゝひ/(ふ多多ひ)・す三よ
し尓・まうてさせ介り・【神】乃・【御】志る
志を・とく【見】者やとそ・於もひける・【251129_ココカラ】→[31]す満尓八・
としなと・可へりて・【日】・な可く・徒れ/\なる
尓/(徒れ徒れなる尓)・うゑし・王可き乃・さくらの・本の可尓・さ
きそめ・そらの・うらゝ可なる尓/(うらら可なる尓)・よろ川
乃・こと・於ほしいてゝ/(於ほしいてて)・うち奈き・堂満ふ・於里・
於ほ可り・【二月】・【廿】よ【日】尓・なりて・い尓し/(55オ)
--------------------------------------
とし・【京】を・王可れし・【程】・【心】くるし介奈
里し・【人】/\乃/(【人人】乃)・【御】あ里さ満なと・いと・【恋】
しく・【南殿】乃・さくら八・さ可り尓・なり
ぬらん・ひとゝ勢乃/(ひとと勢乃)・【花】の・えむ尓・【院】能・
【御】介しき・【内】の・うへ乃・いと・きよらに・奈
満免きて・【我】可・川くれる・【句】を・春ん
しなとし・【給】ひし【御】あ里佐ま奈と・【思】い
てきこゑ・【給】・
「い徒と・那く・【大宮人】の・【恋】しき尓・
佐くら・可さしゝ/(可さしし)・介ふ毛・きに介り」・[32]いと/(55ウ)
--------------------------------------
徒れ/\なる尓・可の於ほとのゝ/(於ほとのの)・【三位中将】八
【今】八・【宰相】尓・なりて・【人】可ら乃・いと・よ介れ
八・【時】よの・於ほえ・いと・於毛くて・【物】志・【給】へと・よ
乃【中】・あ者れ尓・あちき奈く・毛のゝ/(毛のの)・を
里ことに・こひしく・於ほえ・【給】へ八・こと乃・き
こゑ・あ里て・徒三に・あ多るとも・い可ゝは/(い可可は)・
勢んと・於ほし奈して・尓は可尓・まうて・
【給】へ里・うち三るより・め川らしく・うれ
しきに毛・ひと川・奈三多なら須そ・こ本
れる・すまい・【給】へる・さ満・い者ん可多奈く/く〈次頁〉、(56オ)
--------------------------------------
可ら免い多り・【所】乃・さ満・あ多り・ゑ尓・可き
堂らん・やうなる尓・堂け・あ免る・可き・
志王多して・いしの・はし・【松】の・者しら・
をろそ可なる毛乃可ら・めつら可尓・を可し・
【山】可川めきて・ゆるしいろの・き可ちなる・
あを尓ひ乃・可里きぬ・さしぬき・うち
や徒れ弖・こと佐ら尓・ゐ【中】ひ・毛て奈
し・【給】へるし毛・い三しうみる尓・ゑ万れ・
きよらなり・とり川可ひ・【給】へる・てうとも・
堂ゝ/(堂堂)・可里そ免尓・うちして・於満し【所】なと毛/な〈次頁〉、(56ウ)
--------------------------------------

 1時間の休憩時間を置いて、次は「『百人一首』を2種類の変体仮名で読む」という2つ目の講座になります。

 この時間は、『変体仮名でよむ 百人一首』(伊藤鉄也・吉村仁志 編、新典社、2025年5月)をテキストにして進んでいるものなので、今日はカルタの人物画がどのような性格のもので、どのようにして描かれたものであるのかということを、『探幽筆三十六歌仙』の実見を通して体験してもらいました。『探幽筆三十六歌仙』は画家の工房から出た資料なので、なかなか見られるものではありません。実際に見てもらい、その紙面などの実状をお話しました。
 直前の講座にも出席しておられた方も数人いらっしゃるので、その時よりも詳しい説明をプリントに沿ってしました。
 お話の内容は、「八人会蔵『探幽筆 三拾六哥仙』について」(『大阪明浄女子短期大学紀要 第8号』1994.3.10)(https://genjiito.sakura.ne.jp/t_ito/HTML/R2.3_ronkou/R2.3.1_MJ08kasen.html)に書いたことの要点をプリントにまとめて提示したので、相当詳しく歌仙絵の説明をしたことになります。興味を持ってくださった方が多かったようなので、またいつか、さらに具体的な歌仙絵の話をしようと思っています。

 テキストである『変体仮名でよむ 百人一首』に関しては、37文屋朝康から43権中納言敦忠までの歌仙絵と和歌の説明をしました。

 つい説明に時間をとったこともあり、配布したプリントにあった、自販機に『百人一首』の絵柄が描かれたものの紹介は、まったくできませんでした。これは次回にします。

 終わってからは、今日の宿がある日本橋馬喰町に移動しました。
 連日、慌ただしい日々が続いています。インフルエンザが流行し出した時期でもあり、しっかりとマスクをして街中を歩いています。




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2025年11月22日

キャンパスプラザ京都で相愛大学本『源氏物語 帚木(断簡)』を読む(第3回)

 入口のロビーには、いつものように勉強会の掲示が出ていました。

251122_NPOパネル.jpg

 本日の最初は、京都新聞に掲載されていた2つの情報の確認からです。

(1)今日から24日までの3日間、三十三間堂が夜間特別拝観として、お堂の東側の障子をすべて外して、庭園から堂内の1001体の千手観音菩薩像が一望できるライトアップがなされます。庭園から夜間に堂内を拝観できるのは、今回が初めてだそうです。まさに極楽浄土を体現できるのです(京都新聞、2025年11月22日)。

(2)伊藤園の自動販売機が、『百人一首』のイラストをパネルにまとったバージョンを公開しました(京都新聞、2025年11月20日)。これは、京都の観光客の分散の一環での取り組みだそうです。記事によると、京都駅には2台を設置した、とあります。キャンパスプラザ京都へ行く途中で案内所の方に聞くと、いろいろと調べてもらった結果、新幹線の改札の中に2台とも置かれていることがわかりました。一般の人は、入場券がないと見ることも利用もできない場所なのです。観光客の分散には貢献しない場所なので、何か事情があるのでしょうか。なお、新聞記事は署名入りでした。この記者は、改札内の現場に足を運ばれたのでしょうか。もし新幹線の改札内に入って自販機を確認しておられたら、設置場所が改札内であることを書き添えられたはずです。この記事の文面では、京都駅周辺を探し回る人がたくさん出て来ることが予想されるからです。想像するに、記者は情報だけでこの記事を書かれたようです。間違っていたらすみません。

 帰りに、東本願寺の境内の休憩所に設置されていた自動販売機の写真を撮りました。これは、マンガ『ちはやふる』の絵を配したものです。

251122_ちはやふる自販機.jpg


 次に、街中の変体仮名として、「鎌倉大仏裏の与謝野晶子の歌碑」「熱海の坪内逍遥の歌碑」「法隆寺前の店先の〈安来奈伊【中】〉」の3例を取り上げました。いずれも本ブログに書いた情報なので、ここでは省略します。

 本日のメインである相愛大学本「帚木(断簡)」の「変体仮名翻字版」の翻字について、今回は第5丁裏から第7丁裏までの確認をしました。
 写し間違いと思われる例がたくさん確認できました。これは、未整理の写本を手元に置き、内容の確認もなく大急ぎで書写したためだと思われます。

・堂さう/\し/〈ママ、諸本くちをし〉(5ウ L3)
・あへ可/可±め、〈ママ、諸本あへかめる〉(6オ L2)
・やさか尓/〈ママ、諸本けさやかに〉(6オ L3)
・あとや本能なり/〈ママ、諸本あけほのなり〉(6オ L4)
・ゝこの志那ゝ奈可/〈ママ、諸本なかのしなかな〉(6ウ L3)
・者む多し可らす/〈ママ、諸本よろしう〉(7オ L10)
・れい尓てなむ/〈ママ、諸本たといにて〉(7ウ L3)

 その最たるものが、次の6丁裏の4行目から7行目の箇所です。異文混入や独自異文が、文節番号[4751]から[4752]の間で確認できるのです。

251121_相愛「帚木」6uL4〜7朱入.jpg

「【人】の・いひし・ことの者ゝ/(ことの者者)・け尓と・おほ志あ者
せられて・にしおもての/以下あ介川るマデ4665〜4668混入・かうし・いそき・あ介川
る・け者ゐも/以下ゆ可しかり介りマデ独自異文・さる可多尓・ゆ可しかり介り・
この・ころ八・との尓の三・於者す・なを・可能【人】」
↑↓
「人の言ひしことは、げにと思しあはせられけり。
このほどは大殿にのみおはします。」(『新編日本古典文学全集(1)』105頁)


 このような本文が伝わっていることの意味について、私見としては、物語の本文が確定しない時の草稿の状態の写本の片鱗が、こうした形で伝わっていると思っています。この相愛大学の「帚木」は、『男源氏の物語』と『女源氏の物語』の本文が合流していく段階の、流動していた段階の姿がかいま見える状態の残存だと見ています。まだ思いつきの私見ですが。
 かつて、田中重太郎先生は、次のように言われました。

 ところで、源氏物語の本文でも定家の証本がいま定本視されているが、いわゆる別本系の本文と読みくらべると、いまの源氏物語の本文は、なんだかばかに整頓され、みがかれ過ぎた感じがする。架蔵の鎌倉初期書写の源氏物語断簡(昭和三十九年十月刊)を読みかえしていると、こんな本文の源氏物語がすくなくとも平安末期にはあって、読まれていたのだと思い、いま行われている源氏物語の本文と読みあわせると、そらおそろしい気がして来る。(清少納言と「ほのかなり」と『平安文学研究』第四十二輯、昭和四十四年六月号、『枕草子三十五年』再掲))

 なお、5丁裏から6丁表にかけて、2丁(4頁)分の落丁があります。
 現行5丁裏の最終文字は、『源氏物語別本集成』で設定した文節番号でいうと[4493]です。そして、落丁後の現行6丁表の最初の文字は、『源氏物語別本集成』で設定した文節番号でいうと[4677]です。つまり、この落丁部分は、文節数でいうと、184文節分が脱落していることになります。この文節数は、底本にしている陽明文庫本の本文を単位とするものです。つまり、5丁裏には42文節が書写されており、6丁表には57文節が書写されているので、陽明文庫本で換算しておおよそ2丁(4頁)分の本文が欠脱していることになるのです。

 相愛大学本「帚木」は、いろいろな問題を内包する本文を伝える写本です。今後とも、慎重に翻字を続けていくつもりです。
 本日確認した「変体仮名翻字版」の翻字は、次の通りです。


■相愛大学本「帚木(断簡)」(今回:第5丁裏〜第7丁裏まで)
[変体仮名翻字版] (翻字:辻 義孝/補訂:伊藤鉄也)
   ・翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
     傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、
     補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部( 「 )・末尾( 」 )、
     底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)

--------------------------------------[4452]
なく・さま・いと・あ者れけ奈り・あ奈可
ち尓【心】くるしう八あらねと・ナシ・みさら
ましか者・堂さう/\しからましと/堂さう/\し〈ママ、諸本くちをし〉(堂さうさうしからましと)・於ほ寿・
なくさ免可多う・ナシ・於もへれ者/△&者・なと・可う・うとま
しき・【物】尓八・於ほすへき・於もむき・さ満なる
於こそ・ちきり・ありと八・於もひ奈い・【給】ら免・
むけ尓・よ越・志らぬ・けしきに・於ほされ
堂る・介しきなん・いと・川らきこと・うら
みられて・いと・かう・うき・三能・本との・さ
堂まらぬ・ありしな可らにて・ナシ・かゝる/(かかる)・【御】/以下落丁、(5ウ)
--------------------------------------[4493]
二丁脱落
 4677-4493=184文節
  (5ウ)1丁42文節×4丁=168文節
  (6オ)1丁57文節×4丁=228文節
--------------------------------------[4677]
ほとに/〈ママ、諸本ほのかに〉・みへ・【給】へ累・ナシ・ナシ・み尓・しむ者可り尓・於
もふ川る・すき【心】ともゝ/(すき【心】ともも)・あへ可/可±め、(あへ可め)、〈ママ、諸本あへかめる〉・【月】八・あり
あ介尓て・ナシ・ナシ・かけ・をさまれる【物】可らか本やさか
尓/(やさか尓〈ママ、諸本けさやかに〉)・【見】えて・奈可/\/(奈可奈可)・お可しき・あとや本能なり/〈ママ、諸本あけほのなり〉・奈
に【心】毛那く・そらの・けしきも・堂ゝ/(堂堂)・みる・ひと
可らとの三・ナシ・ゑん尓も・ナシ・【見】ゆるなりけり・【人】志れぬ・
【御心】尓八・いと・むねい多く・ナシ・ナシ・ナシ・かへりみ可ち尓て・いて・
【給】て・との尓・可へり・お八して毛・とみ尓・万とろま
れ・【給】者す・【又】・あひみるへき・可多・なきを・あ
者れ尓・この・【人】の・於もふらんこと八まして・ナシ・ナシ・い可ならんと/と〈丁末左〉、(6オ)
--------------------------------------
【心】く累しう・於ほしやる・ナシ・すくれ多る・ことは・
な介れと・免やすくも/△&免・・みえ川る可那・ゝ
この/こ〈ママ、諸本か〉(那この)・志那ゝ奈可/〈ママ、諸本しなかな〉、(志那那奈可)・くま那う・みあ川むる・
【人】の・いひし・ことの者ゝ/(ことの者者)・け尓と・おほ志あ者
せられて・にしおもての/以下あ介川るマデ4665〜4668混入・かうし・いそき・あ介川
る・け者ゐも/以下ゆ可しかり介りマデ独自異文・さる可多尓・ゆ可しかり介り・
この・ころ八・との尓の三・於者す・なを・可能【人】
の・うち多へて・ナシ・ナシ・於もふらん・こと・【御心】尓・かゝりて/(かかりて)・
くるしきを・おほしわひて・きの可み越・め
し多り・可能・ありし・とう【中納言】・こゝに/(ここに)、(6ウ)
--------------------------------------
ゑさせよ・らうたけ尓・みへしお・み尓・ち可う・
川可ふ・ひと二・せん・うへ尓もわれ・多てまつらん
と・乃【給】へ八・いと・可しこき・於ほせ【事】尓・者へり・
か能あねなる・【人】尓・いひ者へらんと・【申】尓も・
むね川ふれ【給】へと・ナシ・川れ那くて・そ乃・
あねき三八・あそこの・おとゝや/(あととや)・毛堂れ多
る・さ毛・者へらす・この・【二三】ねんこそ・かくて・毛の
し・者へれ・をやの・於きて尓・あらすと・ナシ・古ゝろ
ゆ可ぬ/(古古ろゆ可ぬ)・やう尓なん・きゝ/(きき)・堂まふすと・きこ
ゆれ八・あ者れの・ことや・者む多し可らす/〈ママ、諸本よろしう〉・きこゆる/こ〈次頁〉、(7オ)
--------------------------------------
【人】そかし・まことに・よしやと・の多ま者す
れ八・ことも・なく・者へるへし・いと・もて者那れ・う
と/\しう/(うとうとしう)・者へれ八・【世】・れい尓てなむ/〈ママ、諸本たといにて〉・む川ひ・
者へらぬと・きこゆ・佐てかのこきみは/△&佐・
【五六】・者可りありて・ナシ・ナシ・ゐて・まいれり・こまや
か尓・お可しきこと八・奈介れと・な万めき・
ナシ・あてなる【人】と・みえ多り・めしいれて・いと・な
川可しう・可多らひ・【給】へ八・わら八【心】ち尓・ナシ・
いとうれしと・於もふ・あねき三能・ナシ・【御】ことの・
いとく八しう・とひ・【給】へ八わら八【心】ち尓・さるへき布し/\八いくゑ/へ〈次頁〉、(布し布し八いくゑ)、(7ウ)
--------------------------------------




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2025年11月08日

中之島での『百人一首』(第18回)と『源氏物語 蜻蛉』(第29回)の講座

 淀屋橋のすぐ下を流れる土佐堀川で、狭い水路を大きな観光船が器用にUターンしていました。右端が淀屋橋です。

251108_遊覧船.jpg


 中之島図書館での「新古典塾 平安文学」は、まず「変体仮名で書かれた『百人一首』を読む」〔入門講座〕です。
 今日は、変体仮名を読む前に、『百人一首』の読み札に書かれている歌仙絵が、どのようにして描かれているのかがわかる資料を見てもらいました。
 展示したのは、架蔵の『探幽筆 三拾六哥仙』です。これは、平成5年に私がパリで見つけ、テニス仲間の八人会の協力を得て入手し、現在は私が預かっている物です。その37枚の絵をすべて拡げました。こうして36歌仙のワンセットの絵が一堂に会する展示は、今回が初めてのことです。壮観でした。これは、絵画化するための指示が書き込まれた〈粉本・模本〉なので、いわば下絵です。これで、狩野派は絵の大量生産をしていたのです。絵の工房で使われたものが、明治時代に海外に流出し、それが日本に戻ってきたのです。日本の絵画がどのようにして描かれていたのかがわかる、貴重な文化的資料です。

251108_歌仙絵.jpg


 真ん中に長く拡げたのは、私が全体像を把握するためにコピーをして復元したものです。14メートルあります。また、コンピュータを活用して彩色復元をしたものも見ていただきました。小野小町と在原業平の復元画は、この講座の案内チラシにも使っています。

20251108_チラシ.jpg

 本日配布した資料には、次の拙文を掲載しています。これを適宜読んで、説明をしました。


■『探幽筆三十六歌仙』(架蔵粉本)の実見

(1)「架蔵『探幽筆 三拾六哥仙』の復元」(伊藤鉄也)
 (前略)
 『探幽筆 三拾六哥仙』は、平成5年春に伊藤がパリで見つけ、八人会(大森俊憲・公子、新谷栄一・香代子、井上大治・文、伊藤清子)の理解を得て、幸運にも輸入することができたものです。
 〈『36歌仙紛本画帖』〉と仮に呼ぶ本書は 、平安時代の著名な歌人36人の人物画が、B4版の大きさの和紙に書かれています。それがA3版大の厚紙に貼ってあるので、一枚ずつ手に取って見ることができます。鑑賞できると言いたいところです。しかし、丹念に彩色を施された顔以外は、すべて墨書きとなっています。また、着衣には色付けの参考とするための、細かな色取りの指示が書き込まれています。これは、〈紛本〉とか〈模本〉といわれるものです。
 (後略)


(2)「八人会蔵『探幽筆 三拾六哥仙』について」(『大阪明浄女子短期大学紀要 第8号』1994.3.10)
   はじめに
(前略)
 ソルボンヌ大学のあるカルチェ・ラタンからノートルダム寺院周辺を、一人気侭に散策した。そして、たまたま通りかかった古書店で見かけたのが、ここに紹介する『探幽筆 三拾六哥仙』である。
 (中略)
 これは〈紛本〉とか〈模本〉といわれるものであり、一般には次のように説明されている。
  紛本画巻・紛本画帖
 「紛本」とは下書きの絵のことであるが、修行や後の研究、参考の為に模写したものも、白描の下書き風のものが殆どであるので、これも「紛本」という。江戸時代は勿論、明治期までは、画家の修行の殆どは模写を中心とした所謂紛本主義であったので、今でも時として夥しい「紛本」を見ることがあるわけである。(『日本古典書誌学総説』一二三頁、藤井隆、和泉書院)

    一、八人会本の形態

 洋装仕立ての〈八人会本〉の製本は、実に立派である。
 本の大きさは、縦三九〇mm・横五〇〇mm。背皮には金の箔押しで、"PORTRAITS DES TRENTE-SIX GRANDS POETES JAPONAIS"とある。見返しはマーブル紙。『探幽筆 三拾六哥仙 軒』と記す紙を台紙に貼り付けたものを扉としている。

 扉以外は、背綴じのところから一頁ずつ鋭利な刃物で切り取られていた。展示するための処置であろう。計三十七枚の歌仙画集なのである。
 「探幽」とは、狩野探幽(一六〇二〜一六七四)のことである。狩野派は、江戸幕府の御用絵師として栄えた。特に、探幽以降の江戸狩野派は、臨写を基本とする紛本主義をとったことで知られる一大派閥である。〈八人会本〉の原本の筆者を探幽とする根拠は、今のことろはこの第一紙に「探幽筆」とある記載のみである。探幽は、鎌倉時代の『佐竹本三十六歌仙絵巻』が欠く、凡河内躬恒と紀貫之(位署と和歌)を補写するほどの実力者であった。多くの歌仙絵や縮図を残している。しかし、今はこれ以上に〈八人会本〉の筆者を確定する資料を持ち合わせていないので、「探幽」を伝称筆者名として了解するに留めておく。
 (中略)
 一枚の絵図の大きさは、おおよそ縦二六五mm・横三八〇mmほどで、B4版より一まわり大きいサイズである。この三十六枚の歌仙絵を敷き並べると、ちょうど三畳の部屋を埋める広さとなる。一枚ずつを横に繋いだ絵巻物のスタイルを想定すると、約十四mもの長さになる。この歌仙絵が、縦三四五mm(切断後)・横四八三mmの淡いブルーの厚紙の中央に、一枚ずつ貼ってある。
 (中略)
 人物画は楮紙に書かれている。用紙は少し光沢のある薄い丈夫な紙で、筆の勢いがある時には擦れが出ている。
 人物の顔には、丹念に彩色を施してある。頭髪や眉や髭の一本一本に至るまで、丁寧に書かれている。顔のシワはもとより、瞳まで明瞭に入れてある。人麿には、一本一本の歯まで数えることができる。これに対して、首から下の体の線と衣服は、実にそっけない。原本を見ながら慎重に臨模したらしく、墨跡の滑らかさやスピード感は認められない。衣の模様は、その一部を描いているだけで、後は歌仙絵作成者が自由に仕上げることができるようになっている。図中には、色取りの指定がある。人麿には、「白」「うすきあさき」「うすきゑんしのく」などとある。色名・着色に関する指示は、詳細なものと、比較的簡略なものがある。斎宮女御における夥しい色取りの指示は圧感である。

 保存状態の良くないものが何点かある。一番破損被害の大きいものは平兼盛である。
 この平兼盛の図は、横幅が一番短い。歌仙絵が貼り付けてある台紙も、用紙の周囲がもっとも破損が激しいものとなっている。

    二、配列と巻頭部

 洋装本に仕立て直された"PORTRAITS DES TRENTE-SIX GRANDS POETES JAPONAIS"が、『探幽筆 三拾六哥仙』と呼ばれていた時の原形を考えよう。巻子本か折本か冊子本か、ということである。
 これは、虫損箇所の位置を丹念に調べればよい。もとの形式がわかれば、虫損・切り口・紙シワ・墨汚れなどから、各絵の配列順序が復元できるはずである。
 (中略)
 破損の激しい平兼盛の絵図が、実は本書の巻頭だったことになる(図4)。平兼盛像の右側四分の一が欠損しているのは、表紙が付く以前に、頻繁に本書を取り出すことがあったためであろう。平兼盛の本紙の横幅は、中央の最長部が二七四mm・下部二一〇mmである。〈八人会本〉の各本紙の平均横幅は三八三mmなので、約一一〇mm〜一七〇mm分が欠けていることになる。これはまさに、一般的な巻子本の外周に相当する長さである。
 (中略)
 平兼盛の右端の切断面が不自然なのは、表の軸巻を付ける部分が千切れたためであろう。現存の表紙と見較べると、その幅も切り口もほぼ接合部分が符合する。
 画面下部にある畳を示す線の下に、この平兼盛一枚だけは、波の模様が描かれている。平兼盛以降の歌仙絵でサッと線引きされただけの簡略化された畳とその下部は、この巻頭で指示された通りに描けばよいのである。
 (中略)
 〈八人会本〉の原画と、その紛本としての本書の性格を考えるにあたっては、右の歌仙額の可能性が多分にあるように思われる。なお、記(ママ)友則の左下には、本紙と裏打ち紙との間に、平兼盛の波文の左下端部の断片が貼り込まれている。この小紙片は、平兼盛の左下の欠落を完全に補完するものである(注3)。なぜこんな場所にあるのか、その理由は不明である。

注3 拙稿「伝『探幽筆 三拾六哥仙』の画像データベース化と原本復元」(『人文科学とコンピュータ 研究報告 No.18』平成5、情報処理学会)では、コンピュータを活用して、平兼盛の欠落部分の補完と、猿丸大夫→清原元輔→伊勢→山辺赤人→記友則という配列順の確認をした。また、表紙と平兼盛の接合に関しても、コンピュータ・グラフィックを活用した鏡像処理による左右反転画像を用いて、それらが整合することも検証した。(追記:なお、小野小町と有原業平の彩色復元図は、本〈源氏物語電子資料館〉の第3室-画像・映像・音声コーナーの画廊〈歌仙絵〉に掲載している。)

    三、表紙と表題

 (前略)
 実際に現物をコピーして、〈八人会本〉の巻子本形式の複製版を作ってみた。太さは直径四十五mmほどになった。表紙の横幅は二三〇mmなので、ほぼ一巻半の長さとなる。したがって、この『探幽筆 三拾六哥仙 軒』と書かれた紙は、〈八人会本〉の歌仙絵三十六枚の表紙であったものと見てよかろう。これは、第一番平兼盛の冒頭部の修理にともなって、全三十六枚の裏打ち補強を行なった際に取り付けられたものと推測したことは、前述の通りである。表紙左端の切断面も、平兼盛の裏打ち紙の右端の切断面と一致する。
 (前略)
 もし、探幽筆とされる歌仙絵と関連する冊子本の表紙だったものを、軸巻の表紙に転用したとすると、元の冊子本は、各歌仙の和歌などを記したものだったかもしれない。歌仙絵を描いた後に、その右か上部に和歌を書く職人のための資料だったものではないか。そんな可能性があることも、指摘しておく。

    四、制作過程と伝来形態の変遷

 (前略)
 まず、原画を模写するにあたっては、水を含ませた筆で一枚の楮紙に歌仙の姿をなぞったようである。それは、衣を描いた線の周囲にうっすらと残る輪郭線が確認できるからである。薄くなぞった後に、衣を書いたのである。現在のところ、一応私は、板絵として掲げられていた〈扁額歌仙絵〉を想定している。丁寧に書かれた彩色した顔の筆は、体を描いたものとは明らかに違っている。顔を描いた後に、体を書き、そして色名などの書き込みをしたと思われる。
 (中略)
 また、伊勢の左上端にあたる継目の下に残された墨の汚れは、次の赤人の右上端の汚れの続きが、紙継ぎ後の切断によって残存したものである(注3)。山辺赤人の歌仙名が人物画の六十mm右上にあり、歌仙名の右三十五mmに墨の汚れがある。とすると、この墨の汚れは紙の継ぎ合わせ以前においての、歌仙名を書いた時に付いたものと考えることも可能である。
(中略)
 いずれにしろ、私は次の理由から、最初は五mほどの巻紙三本の形式ではなかったかと想像している。それを、歌仙絵作画の際に、手本・紛本として作業場に置いて利用していたのではないかと。
 そう考える理由は、凡河内躬恒の左端が上から覆うようにして紙片が貼られており、その下部には厚紙が付着していること。その凡河内躬恒と次の藤原仲文の切断面を接合させると、裏打ちに大きなズレが生ずる。また、中務は左端四十五mmを裏から補強しており、その左側は縦に墨の汚れが広がっている。そして、その左端上下が極端に縮まっている。これは、左端に水がかかったためであろうか。さらに源宗于朝臣では、左端に紙継ぎの切断紙片がないのである。これらの状態から、平兼盛から凡河内躬恒までの十二人と、藤原仲文から中務までの十三人、そして紀貫之から源宗于朝臣までの十一人の、都合三巻仕立として利用・保管されていた時期が長かったことを想定してみたい。そうでないと、中務の紙面の左側が極端に黒ずんで汚れていることなどの説明がつかないのである。
 (中略)
 また、本紙の裏には、多くの墨の汚れが残っている。作業場で使用中に、巻かれていた紙の裏側に筆が当たることが、多々あったのであろうか。
 (後略)

    五、歌仙絵の切断

 さて、〈八人会本〉の原形であった〈紛本画巻〉の切断についてである。この一枚ずつの切断面は実に杜撰きわまりない。刃が二度三度と入った跡が顕著に残っている。切り口も、右へ左へとカーブしている。すべてに〈定木〉は用いなかったようである。ここからは海外で行なわれたであろうことは、ほぼ間違いない。切り直しの跡や、紙継ぎのところが捲れたままで切断したりもしている。
 (中略)
 これら一連の作業は、製本をした国(フランス?)でのできごとだと思われる。台紙に歌仙絵を貼り付けるのに、強力なボンドを使用しているところに、本と紙に対する文化的な相違を痛感する。
 このようにして完成した"PORTRAITS DES TRENTE-SIX GRANDS POETES JAPONAIS"と題する『探幽筆 三拾六哥仙』は、その後どのような手を経たかはわからない。とにかくパリの古書店に落ち着き、そして八人会が所蔵するものとなったのである。

    おわりに

 『探幽筆 三拾六哥仙』は、〈三十六歌仙絵巻〉または〈三十六歌仙扁額〉を制作するにあたって用いた、絵の手本としての〈紛本画巻〉だと思われる。狩野探幽は多くの模本を残している。しかし、これはその探幽の手になる模本の一つではなく、〈探幽筆三拾六哥仙絵〉を模写したものと考えられる。もちろん、絵巻からとは限らず、歌仙額からの可能性も高いと思っている。
 〈八人会本〉は保存・備忘・研究のための模本ではなく、実際に利用・活用された紛本である形跡が多々認められた。ただし、この〈八人会本〉をもとにして描かれた一式の歌仙絵は、現在のところは確認できていない。探幽筆とされている背景ともども、さらに検討を続けていきたい。
 本三十六歌仙の構図を子細に見ると、いろいろのことがわかる。
体と顔の向きを、藤原公任が『三十六人撰』であげた順番に並べると、二人ずつが向かい合う形となる。歌仙の配列については、他本の歌仙絵と比較するとおもしろい。各人物における「体の向き」「被り物」「持ち物」および「顔の向き」「視線」「手」「足」「耳」「髭の有無」「座り方」についても、〈佐竹本〉をはじめとする諸本との比較研究は、残された課題である。〈八人会本〉と同じ図様の三十六枚一式の絵画群が、一般に公開されているものの中には見あたらない。その点からも、本書の資料的価値は認められよう。
 探幽自筆の各種歌仙絵と〈八人会本〉との比較は、これも稿を改めたい。探幽自筆『百人一首手鑑』中の小野小町と在原業平は、〈八人会本〉における図様と類似するところがある。〈八人会本〉の小野小町と在原業平との二点を、コンピュータグラフィックを活用して着色を試みた。今は、彩色復元したカラー図版を示して(注4)、推測を重ねることに終始した私見を終えることとしたい。

注4 〈八人会本〉の着色復元の詳細については、情報処理学会 第20回・人文科学とコンピュータ研究会(平成5年11月26日・於岡山大学)で「伝『探幽筆 三拾六哥仙』の画像データベース化と原本復元」と題して研究発表した。注3にあげた拙稿は、その時のものである。また、歌仙絵の画像データベースについては、拙稿「小野小町データベース〈図像編〉私案」(『人文学と情報処理3』平成6、勉誠社)を参照願いたい。
(平成五年十月二十七日脱稿・十二月十九日補訂)


 今日の『百人一首』の確認は、45番歌の謙徳公から51番歌の藤原実方朝臣までを、変体仮名に注目して進めました。


 休憩を挟んで、次は「ハーバード大学本『蜻蛉』巻の仮名文字を読む」です。
 まず、先ほどの『百人一首』の時に見てもらった『探幽筆 三拾六哥仙』を、まだ片付けずに置いておいたので、なかなか見る機会のない物なので簡単に説明をしました。ケンブリッジ大学の故ジョン・コーツ先生が、これと同じ表紙と装丁の『源氏物語』の絵巻詞書をお持ちであったことにも触れました。

 次に、44番目となるインドネシア語訳『源氏物語』を回覧しました。

251031_インドネシア語G表紙.jpg

書名:GENJI MONOGATARI
出版元:Boston and New York. Houghton Mifflin Company.
    The Riverside Press Cambridge, 1925年版。
著作権・出版情報:Copyright コピーライトマーク CV. Shinyuu Japanindo
翻訳者:Sutrisno / 編集者:Gafna Raizha Wahyudi
※本書は2024年に出版された。(ただし、2022年と2023年にも出版)
※インドネシア語訳は、アーサー・ウェイリーの英訳(The Tale of Genji, 1925)全6巻の内の、第1巻のみをインドネシア語に訳したものです。他の言語でよくあることです。例えば、インドのサヒタヤアカデミーから出版されたインド語8種類による翻訳は、すべてがウェイリーの英訳の第1巻だけをそれぞれの言語に訳したものです。


 これによって『源氏物語』の翻訳は、次の44種類の言語でなされていることになります。
 古い情報で論文や報告書やコラムなどが書かれているので、これが最新であることを再度確認してください。

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【『源氏物語』が翻訳されている44種類の言語一覧】(2025年10月31日現在)

アッサム語(インド)・アラビア語・イタリア語・【インドネシア語】・ウクライナ語・ウズベク語・ウルドゥー語(インド)・英語・エスペラント・オランダ語・オディアー語(インド)・カタルーニャ語・クロアチア語・ジョージア語・スウェーデン語・スペイン語・スロベニア語・セルビア語・タミル語(インド)・チェコ語・中国語(簡体字)・中国語(繁体字)・テルグ語(インド)・ドイツ語・トルコ語・日本語(現代)・日本点字・ハンガリー語・ハングル・パンジャービー語(インド)・ビルマ語・ヒンディー語(インド)・フィンランド語・フランス語・ベトナム語・ヘブライ語・ペルシャ語・ポーランド語・ポルトガル語・マラヤーラム語(インド)・モンゴル語・リトアニア語・ルーマニア語・ロシア語
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 今日のメインであるハーバード本『源氏物語 蜻蛉』は、残り時間で駆け足で本文の確認をしました。確認し終えた「変体仮名翻字版」を公開します。


■ハーバード大学蔵『源氏物語 蜻蛉』64丁裏〜65丁裏8行目まで
翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部
( 「 )・末尾( 」 )、底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)
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阿らねと/ぬ&ね・ひき者て・【給】者ぬ越・な可/\なりと【心】
いれ多る/い±ら〈薄墨〉、(な可な可なりと、【心】いられ多る)・【人】八・きえ可へり・【思】・わ可・八ゝ/(八八)・三や八・於と
り/と〈判読〉・【給】へき・【人】可八・きさい者らと/よ&さ〈薄墨〉、き$い〈薄墨〉、(きよき者らと)・きこゆる者かり
の・へ多てこそ・あれ・み可との/と〈判読〉・於ほしかしつき
多る・さ万・こと/\ならさりける越/(ことこと)・なを・こ
の・【御】あ多りは・ことなり介るこそ・阿やし介れ・
阿可しのうら八・【心】尓くかりける・【所】可なゝと/(【所】可ななと)・【思】
川ゝくる/(【思】川川くる)・ことと母尓・【我】・寿く世八・いと・やむ
ことなしかれ/れ$し〈薄墨〉、(やむことなしかし)・まして・ならへて・もち・多てま
川ら八やと【思】そ・いと可多きや・[34]【宮】のき三は/(64ウ)
--------------------------------------
この・尓しの多い尓そ・【御】可多・し多りける・王可
き・【人】/\乃/(【人人】乃)・け者い・あま多・して・【月】・めてあへり・いて・
あ者れ・これも・【又】・於なし・【人】そかしと・【思】いて・きこえて・
【御子】の・む可し・【心】よ世・【給】しものをと・いひなして・そな
多へ・於八しぬ・わら八の・於可しき・との井す可多に
て・【二】・【三人】・いてゝ/(いてて)・ありきなと・したり・三つけて・
いる・さ万ともゝ/(さ万ともも)・かゝや可し/(かかや可し)・これそ・よのつねと・
於もふ・三なみ於もての・す三の・万尓・よりて・うちこ
者つくり・【給】へ八・すこし・おとなひ多る・【人】・いてき
多り・ひとしれぬ/〈墨合点〉・【心】よせなと・きこ江させ・【侍】れ八・【中】/\/(【中中】)、(65オ)
--------------------------------------
三な【人】・きこえさせ・ふるし川【覧】・うい/\しき/+【事】を、(【事】を、ういういしき)・
さ万尓て・まねふ・やう尓・なり・【侍】り・万めや可尓
なん・ことより・本可を・もとめられ・八へると・の【給】へ八・
き三にも・いひ川多へす・さかしら多ちて・いと・
於も本し可けさ里し・【御】ありさ万尓・川け
ても・こ三やの・於もひ・きこえさせ・【給】へりし・
【事】なと・於もひ【給】へいてられてなん・かくの三・
於り/\/(於り於り)・きこ江させ【給】なる【御】しりうことも

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 帰りには辺りは薄暗くなっていました。図書館と淀屋橋駅までのみおつくしプロムナードは、光のイルミネーションで飾られていました。

251108_イルミネーション.jpg 




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2025年11月01日

宇治で相愛本『源氏物語 橋姫』の変体仮名を読む会(6)

 雨は上がったものの、寒い1日でした。
 HONBAKO京都宇治の本棚は、みなさんが小まめに本の入れ替えをなさっているので、華やかさが増しました。

 相愛大学本『源氏物語 橋姫』(断簡)の勉強会は、順調に確認を進めています。

 まず、一昨日の京都新聞に掲載された記事の紹介から。
 大田垣蓮月が茶道具に仮名文字で自作の和歌を彫った茶器が、屋敷があった京大病院の敷地内で発掘されているニュースです。仮名文字が茶道具の表面を飾っていることに、今後とも注目していくための情報提供です。

 さて今日は、8丁表から9丁表までを、変体仮名に注視しながら古写本を見ていきました。
 問題となったのは、ナゾリとミセケチが混在する箇所を、データベース化するためにはどのように記述するか、ということでした。
 9丁表7行目の「个り」という語句の扱いです。

251031_春曙「橋姫」9oL7个り.jpg

 ここは、「【給】へ〈改行〉里」と書いた後、「へ」の上から「个り」となぞったものの、何か不満だったようで、なぞった「个り」と次行行頭の「里」の3文字をミセケチにした上で、「个り」の右横に「个り」と傍記している例です。
 ここを、次のようにして、データベース化したいと思います。

 乃【給】り里/へ&り、り$り、里$

 また、一般的には「介」とする文字を「个」と表記していることも、特記すべきことだと思います。この「个」はめったに見られない文字だからです。

 なお、その前の行の「【御】とふらひ・【】能」の変体仮名「野(の)」についても、少し説明をしておきます。

251101_相愛「橋姫」9oL6野山.jpg

 ここで、変体仮名の「野」を助詞として用いているのは、書写者が「【野山】」という語句が意識下にあって書いたものだと思われます。もちろん、関戸本や元永本古今集にわずかに変体仮名の「野」の例があるとはいえ、鎌倉時代の物語の古写本にはあまりにも唐突に出て来るからです。
 参考までに、『かな字解』(関口研二、芸術新聞社、2014年12月)に次の説明があるので、こうした考えの補足として引用しておきます。

「野」は真仮名の時代には用例が多いが、かな古筆の中では僅少で、限定的である。関戸古今は草、元永本は行書。(116頁)

 なお、8丁裏と9丁表の間には、『源氏物語別本集成』の文節番号をもとにして換算すると、約1,000文節もの文章が脱落しています。これは、一括りの丁が5紙で綴じられていて、半丁(1頁)毎に約40文節が書写されているので、20頁分が欠脱していることになります。つまり、ちょうど一括り分がなくなっているのです。
 相愛大学本『源氏物語』が丁の脱落による断簡の姿で残っている現在、その元の写本の姿を想定する時に、この目安は今後の参考になるはずです。

 以下、本日の「変体仮名翻字版」で確認した本文をあげます。


■春曙文庫本『源氏物語 橋姫』第八丁表〜第九丁表[変体仮名翻字]

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可多より・可く【人】・を者須登・徒け・き
こゆる・【人】や・あらん・春多れ・越ろして・
み奈・いりぬ・をとろき可越尓八・あら寸・
の登や可尓・毛て奈して・や越ら・可く
礼ぬる・介者ひ登母乃・きぬの・越登
毛・世須・いと・奈よや可尓/可〈判読〉・古ゝろく累し
うて/(古古ろく累しうて)・い三しう・あて尓・三やひや可奈
累越・あ者れと・【思】・【給】ふ・やをら・堂ち
いてゝ/(堂ちいてて)・【京】尓・【御】く累ま・いて・まいるへく・【人】/\尓/(【人人】尓)・
しら世・つ可八して・あ里川累・さふらひ尓/(8オ)
--------------------------------------
越里あしう・まいり・【侍】尓介れ登・な可/\/(な可な可)・
宇れしう・【思】・【事】・春古し・なくさ免て
なん・可く・【候】・よし・きこゑよ・い堂く・
ぬれに堂る・可とも・きこ衛さ世ん可し
登・の多まへ葉・まいり弖・きこ遊・
可く・三ゑや・しぬらんと・於ほし
毛・よらて・うち登介堂り川累・【事】
とも越・きゝや/(ききや)・し・【給】ぬら無と・ナシ・い身志
う・八川可し・あやしう・可う者しう・
尓本ふ・可勢能・ふき川累越・【思】可けぬ/以下落丁、(8ウ)
〔←452108〕--------------------------------------[→453104]
毛てなひ・【給】八ん毛・【中】/\/(【中中】)・う多て・あらむ・
れいの・王可【人】尓・ゝぬ(尓ぬ)・古ゝろ者へなんめる
を/(古古ろ者へなんめるを)・な可ら無・能ち毛奈と・ひと【事】・うち
本の免可してし可葉・さやう尓弖・【心】そ・
と免堂らんなと・の多まひ遣る・【御】三つ
可らも・佐ま/\乃・【御】とふらひ野・【山】能・
い者や尓・あま里し・【事】なと・乃【給】个り
里/へ&个り、个り$个り、里$・まうてんと・【思】弖於毛ひ弖/【思】弖$・【三宮】乃・
可やう尓・をくまり多らん・あ堂り能・三
まさり・世んこそ・越可し可り遣れ登・あらまし【事】尓/ら〈次頁〉、(9オ)
--------------------------------------


 終わってから、1階のラウンジでアロマセラピストの方が香りとマッサージの実演をなさっていました。妻も、プロの方にアロマセラピーをやってもらったことがないとのことで、しばし癒やしの時間に身を置いていました。なかなか得難い体験ができたようです。
 このシェア型書店HONBAKO京都宇治では、今日はアロマセラピーを、先月は占いをするなど、地域や来店者などとの交流を促進するコミュニティサロンとして機能することも、大いに意識して運営されています。もし宇治にお越しの際には、JR宇治駅前のこの書店に立ち寄って見てください。オープンして半年が過ぎました。ブラリといらっしゃる方が増えてきているようです。
 毎月第1土曜日の14時から16時までは、私が2階で『源氏物語』の古写本に書かれた変体仮名を読んでいますので、こちらにもご参加ください。突然の参加も大歓迎です。

 帰りに宇治橋通りで、揚げたての抹茶コロッケを店内でいただきました。狭い店内の長イスに座って、アツアツのコロッケをフーフー言いながら口に入れます。至福の時でした。




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2025年10月25日

キャンパスプラザ京都で相愛大学本『源氏物語 帚木(断簡)』を読む(第2回)

 キャンパスプラザ京都(京都市大学のまち交流センター)の正面ロビーの掲示板には、いつものように案内が表示されています。前回から読む写本が変わり、相愛大学本『源氏物語』(断簡)となっています。

251025_京都でG.jpg

 今日は、相愛大学本『源氏物語 「帚木」』(断簡)の本文があまりにも現在流布している大島本と違うので、脳トレのような意見交換の場となりました。そして、多くの収穫が得られました。

 例えば、次の例はどのような経緯で生まれた本文なのか、いろいろと考えました。

※「相愛本」2丁裏の最終行から3丁表の3行目まで。

251025_相愛「帚木」2u末.jpg

のうち・いれ・【給】尓・あやしく所毛ちより多れと免川る/て&所、多&毛、ちより多れと/$、八&と、(あやしくて多ちより多れ八、毛と免川る)、ち/〈次頁〉、(2ウ)
--------------------------------------
ちより多れと免川る・【中将】めく・【物】・
きたるき多る・やゝと/(ややと)・能ひ尓/ひ〈ママ、諸本【給】〉・あやし
くて・堂ちよりたれ八・ナシ・に本ゐ・きて・


 ここは、2丁末の「あやしく所毛/て&所、多&毛」と3丁表の2行目の「あやしくて・堂ちよりたれ八」の目移りにより、その間の文が脱落していることに気付いた書写者が、3丁表の冒頭の「ちより多れ八」まで書き写した所でナゾリ書きやミセケチで本文を正した、と見ました。
 詳しく説明しましょう。
 当初、2丁末行は「あやしくて多」で終わり、使用していた糸罫を左に移動して3丁表を「ちより多れ八」と書きました。しかし、ここで3丁2行目の「あやしくて堂ちよりたれ八」に目移りして1行分を書き飛ばしていることに気付いたのです。そこで、2丁末行末尾の「て多」を「所毛」となぞり、3丁行頭の「ちより多れ八」をミセケチにし、そこで「八」を「と」となぞり書きすることで、「あやしく所毛と免川る」となるように補正したのです。
 ここで、「多・堂・た」の字母に異同が見られることは、親本に書かれていた字母が頭の中で音の入れ替えが起き、こうした不統一の表記になったと思われます。なお、これは別の問題でもあるので今は置きます。
 また、3丁表2行目の「能ひ尓」の「ひ」は、諸本では「給」となっているところです。この「ひ」については、別途考える必要があります。

※さらには、「相愛本」が「いとこより八可りいて【給】こと尓そ・あらん」(3丁裏7行目・源氏物語別本集成文節番号4344)とするところについては、現在流布する校訂本文の「大島本」(『新編日本古典文学全集』小学館)では「いとほしけれとれいのいつこよりとうてたまふことのはにか・あらむ」(100頁)となっています。

※また、「相愛本」が「な可/\・い者れし堂るいと・うたてあり介る」(4丁裏1行目・源氏物語別本集成文節番号4389)とするところについては、「大島本」では「なかなか・おしなへたるつらにおもひなしたまへるなむ・うたてありける」(101頁)となっています。

 この相愛大学本『源氏物語 帚木』(断簡)の本文は、一体何を言おうとしているのか、今後の検討に俟ちたいと思います。

 相愛大学本『源氏物語 帚木』(断簡)には、現在読まれている「大島本」と多くの本文の異同が確認できます。それらはすべて今後の課題として、今は正確な「変体仮名翻字版」をまずは作成して提供することに専念したいと思います。以下に、本日の成果を掲載します。


■相愛大学本「帚木(断簡)」(今回:第2丁裏〜第5丁表まで)
[変体仮名翻字版] (翻字:辻 義孝/補訂:伊藤鉄也)
  ・翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
    傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、
    補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部( 「 )・末尾( 」 )、
    底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)
[4274]--------------------------------------
者へ免れと・いふもいふも・いきの・した
なり・き江まとへ累・けしき・いと・古
こ新/〈ママ、諸本こゝろくるしく〉・らうたけ奈れ八・於可しう於
ほさる・ナシ・ナシ・堂可うへうも・あらぬ・【心】の/の〈墨ヨゴレ〉・
し累へ・なる越・於も者す尓も・於ほ
免い・【給】める可那・すき可ましう八・
ナシ・ナシ・みえ・多てまつらし・於もふ・ことこゝに
て/(ことここにて)・すこし・きこゆへきとて・いと・さゝ
やか奈れ八/(ささやか奈れ八)・かきい多きて・さう新
のうち・いれ・【給】尓・あやしく所毛ちより多れと免川る/て&所、多&毛、ちより多れと/$、八&と、(あやしくて多ちより多れ八、毛と免川る)、ち/〈次頁〉、(2ウ)
--------------------------------------
【中将】めく・【物】・
きたるき多る・やゝと/(ややと)・能ひ尓/ひ〈ママ、諸本【給】〉・あやし
くて・堂ちよりたれ八・ナシ・に本ゐ・きて・
か本尓も・かゝ類/(かか類)・古ゝち/(古古ち)・すれ八・於もひ
よりぬ・あさましや・こ者・い可なる・こと
そと・於もひ・さわ可るれと・きこゆ
へき・可多毛・なし・な三/\の/(な三な三の)・【人】奈ら八
こそ・あら免羅か尓も/免$(あら羅か尓も)・ひきかなく
羅免・堂れ多尓/堂〈ママ、諸本そ〉・【人】の・あまた・志らん八/の&志、(のらん八)・
いと越し可るへき・ナシ・ナシ・【見】さわきて・したひきたれと/ひ〈次頁〉、(3オ)
--------------------------------------
と可・なくて・おくなる・越
まし尓・ふし・【給】ぬ・さうし・ひきた
てゝ/(ひきたてて)・ナシ・【御】む可へに・おものとれよと・の【給】へ八・
【女】き三・【心】あ八せて可ゝるとしもやと/も〈判読〉(可可るとしもやと)・
ひとの・於もふらんと・ナシ・ナシ・わりなく於もふ尓/尓〈行末右〉・
な可れぬ者可り尓・あせ尓・なりて・いと・
なやまし介尓さへみゆ・いとこより
とりいて【給】こと尓そ/いとこより〈ママ〉、こと&いと・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・あらん・としころ
もすこし川へうあな可ちなる
ま尓て【物】を/尓&後な・ナシ・ナシ・の多まひ川くすへか免れと/か〈次頁〉、(3ウ)
--------------------------------------
なを・いと・わ可/\新き古
こちし者へる八/(わ可わ可新き)・う川ゝとも/(う川川とも)・於もふ【給】
へられ数こそ/【給】&【給】・かすならぬ・みな可ら
かう・おほしくたしけ類/れ&類、(おほしくたしけれ)・【御心】の/八&【御】・ほと
八・い可ゝわ/(い可可わ)・あ佐ましうと・於もふ・【給】遍し
羅さらん/(【給】遍し羅さらん)、し〈行末左〉・八と/八〈ママ、諸本い〉・可うような累・き者ゝ/(き者者)・
き八とこそ・者へなれとて・於したち・
【給】へ累・なさけなさお・ナシ・うしと・於もへ
るも・け尓・いと越しう・者つ可しけな
れ八・ナシ・その・き八/\毛/(き八き八毛)・【又】・於もひ志らぬ・う井こと奈れ八/う〈次頁〉、(4オ)
--------------------------------------
な可/\/(な可な可)・い者れし堂る
いと/者〈判読〉・ナシ・ナシ・ナシ・うたてあり介る・おの川から・き・た
まう・やうも・あらむ・あな可ち尓・
すきかましき【心】と八・さらに・ならぬ
を・さるへき尓や・志ふ/〈ママ、諸本け尓〉・可く・あ者め
られ・多てま川るもいとわ里なう・
ことわりなる尓・ナシ・三川からも・あやし
きまて那んと・ま免多ちて毛・す
へくよろ川尓・の【給】へと・いと者つ可し
け尓・たくひなき・【御】介者いの・いよ/\/(いよいよ)/よ〈判読〉(4ウ)
--------------------------------------
うちとけ・きこ江んも・ナシ・者つ可し介れ八・
すくよ可尓・【心】川きなしと八・みへ・堂て
ま川るとも・さる・可多に・いふ可ひなくて
も・すくしてむと【心】川よう・於もひな
して・川れなく・もて那す・ひと本【上】の/本【上】〈ママ、諸本から〉・
堂をや可なる尓・川よい・【心】を・志ひ
て・く者へ多れ八・奈よたけの・【心】ち・して・
さす可尓・越くへくも・あらす・ふしこと
に・【心】やましうて・あやにくけなる・
【心】さまを・いふ可ひなしと・於もひて/(5オ)
--------------------------------------[4451]




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2025年10月18日

日比谷で「須磨」(29)と『百人一首』(6)を読む

 今日は、日比谷公園で「日比谷公園ガーデニングショー2025」が賑やかに開催されていました。

251018_ガーデニング板.jpg

251018_日比谷公園.jpg

 出展テント数は35店、キッチンカーが9台も出ていました。
 大の花好きである妻は大喜び。ただし、京都に帰るのは明日になるので、花を持って帰れないことを理由にして気持ちを抑えていました。

 日比谷図書文化館の入口には、いつものように本日のイベントが掲示されています。

251018_掲示板.jpg

 今日も、次の2つの講座を担当します。
 @「ハーバード大学本『源氏物語 須磨』の変体仮名を読む」 13:00〜14:30
 A「『百人一首』を2種類の変体仮名で読む」  15:30〜17:00

 まず、ハーバード大学本「須磨」です。
 今日は、[「天」と「弖」について]という資料を用意していました。しかし、前置きの話が長くなったために、来月に回すことにしました。
 本文については、、第53丁裏2行目〜55丁表5行目までを、「変体仮名翻字版」で確認しました。
 本文の画像をここに提示して説明をする例は、今回はありませんでした。また、本日から参加なさっていた方もいらっしゃったので、少しゆっくりと丁寧に進めました。


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ま者ゆき満弖・志川らひ・可し
徒介り・【251018_ココカラ→】者ゝきみ/(者者きみ)・なと可・めて多くとも・
【物】の・者しめ尓・川三尓・あ多り・な可され・を
八し堂らん・【人】をし毛・於もひ可介ん・
佐ても・こゝろ/(こころ)・とゝめ/(ととめ)・【給】へくはこそ八/八〈ママ〉・
あら免・堂王ふれ尓ても・あるま
しき・こと可なと・いふを・いと・い多く・ふや
く/±つ、(つふやく)・川み尓・あたる・ことは・毛ろこし尓毛・
王可・み可と尓毛・可く・よ尓・すくれ・【人】尓・こと
なる尓・なりぬる・ひとの・可奈らす・ある/(53ウ)
--------------------------------------
【事】なり・い可尓・毛し/〈ママ、諸本ものし〉・【給】・き三そは/は〈ママ〉・かの・
者ゝ/(者者)・三やす【所】八・をの可・をち尓・毛のし・
堂満ひし・あ勢ちの【大納言】の・むす免
なり・いと・可うさら那る・な・と里て・三や徒可へ
尓・い堂し多て・堂まへりし尓・可くは・
すくれ弖・ときめ可し・【給】な可らひな可り
し・本とに・【人】の・そ祢三・於ほくて・う勢・【給】
尓し可と・この・【君】乃・とまり・【給】へる尓・いと・
免て多し可し・【女】者・【心】・多可く・徒可ふへき・
【物】なり・をのれ・可ゝる/(可可る)・ゐ【中】【人】とゝ/ゝ〈ママ〉、(ゐ【中】【人】とと)・なりき多れと/れ〈次頁〉、(54オ)
--------------------------------------
え・於ほし寿てしなと・いひ井堂
里/た&堂、(いひ井た里)・[30]こ乃・む須免・すくれて毛・あらぬ可多ち
奈れと・け奈川可しく・あて者可尓・【心】者勢・
ある・さ満奈とそ・遣尓・【宮】こ乃・やむこ
と那き・【人】尓毛・於とるまし可里ける・【身】
の・あ里佐ま越・くち越しき・毛の尓・
於毛ひし里て・堂可き・【人】尓・王れを・
な尓の可春とん・於ほさし・本と尓・徒
け堂る・【世】越・者多・さら尓・三し・いのち・
奈可くて・於もふ・ひと/\尓毛/(ひとひと尓毛)・於くれ奈八/(54ウ)
--------------------------------------
堂ゝあま尓毛/(堂堂)・なり奈ん・う三の・そこ尓
毛・いり奈んとそ・【思】ひける・ちゝ【君】/(ちち【君】)・【所】世く・
【思】ひ可し徒きて・とし尓・ふ多ゝひ/(ふ多多ひ)・す三よ
し尓・まうてさせ介り・【神】乃・【御】志る
志を・とく【見】者やとそ・於もひける・[31]す満尓八・
--------------------------------------


 1時間の休憩時間には、古写本の翻字に関する質問を受けました。その他にも、いくつか質問や確認があったので、その対応もしました。

 次は『百人一首』です。
 まず、山科の元慶寺にある 12番歌 僧正遍昭と 21番歌 素性法師の歌碑に刻まれている変体仮名を確認しました。
 続いて、過日確認した、京都の雲林院にある 12番歌 僧正遍昭の歌碑の文字も、元慶寺の文字と比べながら再確認しました。

 テキストである『変体仮名でよむ 百人一首』は、28番歌の源宗干朝臣から36番歌の清原深養父までの、カルタに書かれている文字を、変体仮名に気をつけながら確認しました。
 《陽明カルタ》の文字が独特な字体となっている例が散見します。それに比べて《鶴丸カルタ》は親しみやすい流れるような線で書かれているのが特徴でしょうか。
 この講座でも、今日から参加なさった方がいらっしゃったので、雑談を挟みながら文字に関する情報は、いつもより少なめにしました。

 終わってからは、新橋駅から鎌倉駅へJRで移動し、鎌倉駅から江ノ島電鉄に乗り換えて由比ヶ浜駅のすぐ近くにある今日の宿に入りました。
 鎌倉は、京都よりも数段寒いように感じます。




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2025年10月15日

相愛大学本『源氏物語』(断簡)の勉強会の進捗状況

 お問い合わせがあったので、相愛大学(春曙文庫)本『源氏物語』(断簡)の変体仮名を確認する勉強会の進捗状況を整理して報告します。
 現在、相愛大学本『源氏物語』(断簡)については、京都駅前と宇治駅前の2箇所で、別々の巻を読み進めています。まだスタートしたばかりであり、また断簡ということもあり、どの回からの参加でも可能です。

 古写本の影印資料は、国文学研究資料館からパブリックドメインとして公開されている以下のサイトで確認できます。

国文学研究資料館 国書データベース

 以下のリストは、各回の活動の記録です。当日問題にしたことや、確認した範囲と翻字本文を、欠席者や国内外から遠方でリモートの学習をなさっている方々のために、予習や復習用として掲載しているものです。

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【1】京都駅前のキャンパスプラザ京都(京都市大学のまち交流センター)で第2巻「帚木」(断簡)を読む

※次回〈第2回〉は、11月22日(土)です

「キャンパスプラザ京都で相愛大学本『源氏物語 帚木(断簡)』を読む(第1回)」
(2025年09月27日)

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【2】宇治駅前のシェア型書店HONBAKO京都宇治で第45巻「橋姫」(断簡)を読む

※次回〈第6回〉は、11月1日(土)です。

「宇治で相愛本『源氏物語 橋姫』の変体仮名を読む会(5)」
(2025年10月04日)

「宇治で相愛本『源氏物語 橋姫』の変体仮名を読む会(4)」
(2025年09月06日)

「宇治で相愛本『源氏物語 橋姫』の変体仮名を読む会(3)」
(2025年08月02日)

「宇治で春曙本『源氏物語 橋姫』の変体仮名を読む会(2)」
(2025年07月05日)

「宇治で春曙本『源氏物語 橋姫』の変体仮名を読む会(1)」
(2025年05月31日)

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 今後は、大阪府立中之島図書館でのハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「蜻蛉」が本年末に終わる予定であることを受けて、年明けからは相愛大学本『源氏物語 手習』(断簡)を資料にした講座にする予定です。

 また、来年早々には、日比谷図書文化館でのハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」が終わる予定なので、その次は相愛大学本『源氏物語 宿木』(断簡)を対象にした講座にする予定です。

 相愛大学本『源氏物語』(断簡)5帖の内、残った第33巻「藤裏葉」は、上記4会場の内で最初に終わった所で翻字を確認する対象資料にします。

 この相愛大学本『源氏物語』(断簡)とハーバード大学美術館蔵『源氏物語 須磨・蜻蛉』及び国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語 鈴虫』との関係がいまだ詳らかになっていないこともあり、根気強く変体仮名に注目して翻字の確認を通して本文の素性を考えていきたいと思います。書き写されている本文が、現在の流布本となっている江戸時代の校訂本文である「大島本」とは内容が微妙に異なる鎌倉時代の古写本なので、慎重に本文の確認を続けているところです。
 江戸時代の『源氏物語』ではなく、平安・鎌倉時代の『源氏物語』の本文の実態に興味と関心をお持ちの方の参加をお待ちしています。
 『源氏物語』の本文については、わからない事だらけです。まだまだ、『源氏物語』の本文について自由に意見を交わして考える必要があると思われます。そのためにも、基礎資料となる鎌倉時代の現存本文の確認作業に関して、一人でも多くの方の参加をお待ちしています。
 一緒に、鎌倉時代の『源氏物語』の本文の森を散策しませんか。
 質問や疑問に関しては、本ブログのコメント欄を利用してお知らせください。
 電子メールであれば[genjiito@gmail.com]宛にお願いします。




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2025年10月11日

中之島での『百人一首』(第17回)と『源氏物語 蜻蛉』(第28回)

 涼しい日だったので、出がけにブレザーを羽織るかどうかで迷い、結局は着ないままに中之島図書館へ行きました。必要はなかったものの、来月は必要になることでしょう。感じとしては、1ヶ月遅れの温暖化に伴う気候だと思えばいいようです。

 さて、本日の最初は「変体仮名で書かれた『百人一首』を読む」〔入門講座〕です。
 最初に、在原行平の歌が刻まれた須磨にある歌碑の写真をもとに、変体仮名で刻まれている和歌を読みました。

■16番歌 在原行平の歌碑(須磨・松風村雨堂の境内 関守稲荷神社の近く)
【中納言 行平卿詠】 【立】ち和賀連以な波能【山】乃【嶺】尓おふる
            萬徒登し【聞】可婆【今】か遍り古舞

 「【聞】可婆」(聞かば)の「婆」はあまり見かけない仮名文字です。私は京都の三条寺町にある蕎麦屋さんの例しか思いつかない話をしました。

251011_御曽婆と甼.jpg


 なお、「寺甼」の「甼」は「町」の異体字です。
 この「甼」の例は、西洞院通の突き当たりにある茶道の武者小路千家の官休庵西館の前にある、「甼内安全」と町名の「西無車小路町」が思い出されます。街中を歩くと、さまざまな文字と出会えます。

251011_甼と無車.jpg

 次に、『百人一首』のカルタに描かれた図様で、後ろ向きの姿の比較(試案)を一覧にしたものを提示しました。これは、《陽明》《鶴丸》《光琳》の3種類のカルタを例にして整理したものです。

251011_百人-17後ろ姿_2.jpg

 結論は出ないものの、《陽明》カルタに左向きの姿が多いことや、横や後ろ向きの姿は61番歌の後に多いことなど、さらには89番歌の式子内親王だけは《鶴丸》では上半身が隠れていて見えない図様であることなどを、思いつくままにお話しました。

 『百人一首』は、35番歌の紀貫之から44番歌の中納言朝忠までを、変体仮名に注目して文字の確認をしました。


 30分の休憩をおいて、次は「ハーバード大学本『蜻蛉』巻の仮名文字を読む」です。書家の宮川保子さんが臨模を進めておられる相愛大学本『源氏物語』の「手習」巻の下書きと清書を見てもらい、平安から鎌倉時代の写本のありようや、書写の実態に及ぶ話をしました。

 その後は、変体仮名の「天」と「弖」について多くの例を示して、詳細な説明をしました。今日からは、この2文字をみなさんは識別できるようになります、ということを強調しました。
 なお、国文学研究資料館蔵「橋本本 若紫」の38丁表8行目にある、「弖」の上に「て」となぞっている例を提示し、書写にあたって最初に書き写した「弖」をわざわざ削って「て」と書き直しているのは、明確に字母の違いを意識し区別していたことの例証として紹介しました。この写真は、高精細の顕微鏡を使って撮影したものです。

251011_橋本本「若紫」弖&て.jpg

 スクリーンには、次にあげる私のブログの記事を映写し、さまざまな例を見てもらいました。そして、私がこの「天」と「弖」を明確に区別して翻字をしだしたのが「2017年12月10日」からであることも今回確認しました。
 以下に、「天」と「弖」に関する私のブログの記事のアドレスを列記して、これまでの検討を振り返る資料とします。

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(1)「変体仮名の字母─「天」と「弖」は見分けられるか」

 ※「京洛逍遥(427)高校駅伝と猿回しと終い天神と-2016」

(2)「ひらがな「て」の字母とされている「天」と「弖」の区別について」

(3)「平仮名「て(天)」と変体仮名「弖・氐」について(その2)」

(4)「平仮名「て」の字母に関する資料を検討中」

 ※「日比谷での源氏講座で香道の話を聞く」

(5)「平仮名「て」と「弖」の直前に書かれている「り」と「里」について」

 ※「日比谷図書文化館で橋本本「若紫」を読む(2017-第7回)」
 (「筆の入り方が「て」のようにはっきりとした横線ではなく、筆を突いてすぐに下に流れ、さらに「く」の線を描く仮名は、「天」ではなくて「弖」を字母とするものにしたいと思います。」)

(6)「熊取ゆうゆう大学:「若紫」を読む(その9)「天」と「弖」の対処」

(7)「熊取ゆうゆう大学:「若紫」を読む(その10)ひらがなの「天・弖・氐」」

(8)「日比谷で橋本本「若紫」を読む(2018年度-その1、触読・「弖」・糸罫)」

 ※「池田本「桐壺」を変体仮名で読む(No.1)」
 (「今後は、「介」と「弖」をこれまでの「个」や「天」と区別して、厳密に字母を明示していくことにします。」)

 ※「池田本「桐壺」を変体仮名で読む(No.2)」
 (「翻字に関する注意事項として、今後は「介」と「个」、「弖」と「て」を厳密に読み分けていくことを確認しました。これから翻字作業に参加してくださる方がいらっしゃったこともあり、この点は強調しました。」)

 ※「オンラインセミナー「デジタル時代の変体仮名」に参加して」
 (「高田智和氏(国立国語研究所)は、ユニコードに変体仮名の字形を登録するにあたり、「天」と「弖」については「天(て)」の方に無理やり決めた、とのことでした。また、「弖」は「ユミイチ」と読んでおられるようです。」)
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 次は、ハーバード大学本「蜻蛉」の本文を「変体仮名翻字版」で翻字するメインの学習となります。
 今日は、ハーバード大学蔵『源氏物語 蜻蛉』の63丁表8行目から64丁表までを見ました。

 問題にしたことを、いくつか列記して記録とします。

(1)細かなことながら、次の「す」(64丁表4行目)の文字の背後には何か別の文字が書かれているようです。赤の矢印で示した突き出た線が左下に降り、それが右に折り返していることまでは確認できます。しかし、それが何という文字を書こうとしていたものなのかは、このままではわかりません。

251011_ハーバード「蜻蛉」64oL4△&す.jpg

(2)次の例も、「なる」(64丁表6行目)の下に書かれている、なぞられている文字とその理由がわかりません。

251011_ハーバード「蜻蛉」64oL6△&る.jpg

 「すそろなる・なけきの」の「る」の下に書かれている赤矢印で明示した線は何という仮名文字なのか、今は見当もつきません。

(3)「あふ【時】と/【時】$、(あふと)・きこゆ累/△&累」(64丁表10行目)では、「あふ【時】と」の「【時】」にミセケチ記号があるので、後にこの文字はなかったことにする意味を示しています。なぜ「【時】」という漢字を書いてしまったのかを考えました。

251011_ハーバード「蜻蛉」64oL10時・累.jpg

 ここは丁の最終行であり、書写の道具として使っている糸罫は料紙の上からは外し、次のページの書写に移るために親本のページも捲る動作が伴っているところです。ということは、書き写す行為の気持ちの集中が途切れるところです。そして、書写している文字列は「あふときこゆ累」であり、気持ちの緩みから「と」と「き」が潜在意識に残ったままだったために、「【時】」という漢字をつい書いたのではないでしょうか。行末や丁末ではよくある、集中力が途切れるときに起きる現象の一つだと思われます。
 また。この文字列の最後の「きこゆ累」の「累」の下には、何か文字があります。ハーバード大学では原本を3回調査をしています。高精細の顕微鏡などを用いて現場で実見しても、その時から読めなかった文字です。残念な思いが、今も残っています。

 こうした判読に困難が伴う箇所については、再度ハーバード大学で原本を閲覧する機会が得られたなら、正確を期するためにもこうした点などを、他の多くの疑問点も含めてじっくりと確認したいと思っていることをお話しました。

 以下、本日確認した「変体仮名翻字版」の翻字の確定版です。

--------------------------------------
翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部
( 「 )・末尾( 」 )、底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)
--------------------------------------
と/(すきものなら八八やと)・【思】尓・いま八な越・川きなし・【251011_ココカラ→】[33]れいの尓しの・
わ多【殿】を・阿りしに・ならひて・わさと於八し多るも・
あやし・ひめ三や・よる八・あな多に・わ多らせ・【給】介れ八/(63オ)
--------------------------------------
【人】尓/尓$/\〈薄墨〉、(【人人】)・川き・三るとて・この・わた【殿】尓・うちとけ・
【物】可多り・する・本となり介り・志やうのこと・いとを可
しう・ひきすふる・川ま於と/こと&於と、(川まこと)・きこゆ・於もひ可介ぬ二・
より於者して・なと・可く・ね多まし可本尓・川ま
ならし・【給】と・の多万う尓・三な・於とろ可るへ
可めれと・すこし・あけ多る・す多れを・うちをろ
しなとも・せ須・於き阿可りて・尓るへき・この可
三や八・ゝへるへきと/(八へるへきと)・いらふる・こゑ・【中将】の【御】もと
ゝ可や/(と可や)・いひしなり介り・まろこそ・【御】八ゝ可多の/(【御】八八可多の)・
於ちなと・者可なき・こと越・の多万ひて・れいの/(63ウ)
--------------------------------------
あな多に・於八し万すへ可りめり/け&め、(於八し万すへ可りけり)・なに王さ
を可・この・【御】さとす三の・本と尓八・せさせ・【給】
なと・あちきなく・とひ・【給】・い川く尓ても・【何事】
を可者・多ゝ可やう尓てこそ八/(多多)・すくさせ/△&す・【給】
めれと・いふ尓・於可しの・【御身】の・本とやと・於もふ尓・
すそろなる/△&る・なけきの・うちわすれてし川
るも・あやしと・於もひよる・【人】もこそと・万きら
八し尓/+八つら八しき〈ママ、薄墨〉・さしいて多る・【和琴】を/△&【琴】・多ゝさな可ら/(多多)・
可きなら志・【給】・里ちの・しらへ八・あやしう・於
里に・あふ【時】と/【時】$、(あふと)・きこゆ累/△&累・こゑなれ八・きゝ尓くゝも/も〈丁末左〉、(きき尓くくも)、(64オ)
--------------------------------------


 図書館を出た中之島公園の中央公会堂前では、「北浜蚤の市」が開催されていました。アンティークやアクセサリーや雑貨など、若者向けのお店が130店ほど出店しています。

251011_蚤の市.jpg


251011_公会堂.jpg

 若者向けの品物ばかりだったので、残念ながら手に取って見るものはありませんでした。もう少し時代と興味をずらしてもらえると、楽しく参加できたのですが。
 今日から3日間、この3連休中の開催です。興味のある方は、足を運んで見られたらいかがでしょうか。多くの若者が各出店に集まり、さまざまな小物を買っておられました。




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2025年10月04日

宇治で相愛本『源氏物語 橋姫』の変体仮名を読む会(5)

 今日はまず、シェア型書店HONBAKO京都宇治に行くと早速、私が箱主となっている2つの本箱の本の入れ替えをしました。

251004_本箱.jpg

 「特集:小野小町」は終了とし、次は「特集:辞典-事典-小百科」に入れ替えました。隣の本箱の「特集:『源氏物語』」は数冊の本を差し替えました。いずれも、私が読んでほしいと思う本を選んでいます。この書店にお出でになる方々の好みが摑み切れないので、試行錯誤の選書です。一カ月毎に特集を組み直して行くつもりです。
 ここは、本好きの方々が集うコミュニティです。楽しい本が並んでいます。私が書店で行かないコーナーにある本がたくさんあるので、今日も2冊いただいてきました。すばらしい、本との出会いの場所であり、人との出会いの場所でもあります。末長く、多くの方々との交流の場になるように、願っています

 今日の勉強会は、相愛大学春曙文庫本『源氏物語 橋姫』の第五丁表から第七丁裏までを、変体仮名に正確に翻字しながら確認を進めました。いろいろな問題点が見え出したので、列記して整理しておきます。

(1)変体仮名「支」(き)、「春」(す)、「身」(み)、「免」(め)、「累」(る)が頻出します。これらは、ハーバード大学本「須磨・蜻蛉」や歴博本「鈴虫」とは異なる現象です。ハーバード本の親本や書写者が、この相愛大学本のグループとは異なることに起因すると思われます。

(2)助詞「登」(と)の多用が見られます。これも、ハーバード大学本「須磨・蜻蛉」や歴博本「鈴虫」とは異なる現象です。

(3)撥音便「ん」(「八んへらん/5ウ」、「へ可んめ累/6オ」)と変体仮名「ん・毛・无」(「とんの/6オ」)の表記が気になります。これもまた、ハーバード大学本「須磨・蜻蛉」や歴博本「鈴虫」とは異なる現象です。

 次に、相愛大学本の写本に書き写された文字の特徴に関して。

(4)相愛大本の「帚木」(キャンパスプラザ京都で読んでいる写本)と「橋姫」の「お」は、ハーバード大本「須磨・蜻蛉」や歴博本「鈴虫」とは字形が異なるものがあります。
 ※相愛「橋姫」5丁表10行目の「お」の字形

250902_春曙橋姫5oL10おき.jpg

 ※相愛「帚木」1丁表2行目の「お」
250926_相愛「帚木」1oL2お.jpg


(5)次の例は、ナゾリ書きの実態から、書写に用いた親本の本文の素性が推測できるものです。
 ここでは、保阪本(重要文化財、文化庁蔵)の独自異文である本文を書写していることがわかります。つまり、保坂本だけが「なへてならす」という本文を伝えている箇所です(『源氏物語別本集成』451869)。相愛本がその保阪本の独自異文と同じ本文を書写している箇所に、後の人が校合結果として「ならす」の上に「おほえ」をなぞって上書きしているのです。これ以外にも、保阪本と相愛大本の近似性が見られる箇所は枚挙に暇がありません。相愛大本「橋姫」は、保阪本のグループに属する本文を伝えていると考えていいと思われます。
 ※相愛「橋姫」5丁裏6行目のナゾリ 「於ほえ/ならす&於ほえ」

250903_春曙「橋姫」5uL6ナゾリ.jpg

(6)次の例は、誤読や誤写が生ずる原因となることの例証に好例となるものです。
 相愛本「橋姫」6丁表9行目の字形は、「を可く」ではなくて「本そく」と読む箇所です。その左横の「をなし」の「を」とよく似ているのでわかりやすいでしょう。「そ」の第一画の横線が「を」のシンニョウと勘違いさせることから、誤読や誤写が生じかねない字形となっているものです。

251004_相愛「橋姫」6oL9本そく.jpg


(7)次の相愛大本の「ゐ」の下に書かれている文字について、今日は検討に時間を割きました。
 何という文字がなぞられたのか、ということです。可能性としては、以下の3点が考えられます。

 @「心△」と書いた上に「ゐ」を書いている
 A直後の「雲」に目移りして「雲」を書きさした状態で、途中から「ゐ」を上書きした
 B左下の「登」の書き始めの文字に似た文字を書いている途中から「ゐ」を上書きした

 これらのうち、「橋姫」6丁裏4行目のなぞられた文字は何か(ゐ堂る尓/△&ゐ)は、今はどれだと確定ができません。今後の課題とします。

251004_相愛「橋姫」6uL4△&ゐ.jpg

(8)用紙に裏写りが激しいことから、紙を砧などで叩く加工の工程が粗く、墨が吸収しやすい状態のものであったようです。ハーバード大学本等はこうした裏写りは少ないので、これは料紙のグループが異なるものだった可能性が高いと思われます。専門家の鑑定を待ちたいところです。

 本日確認した第五丁表から第七丁裏までの[変体仮名翻字版]は、以下の通りです。
 国文学研究資料館から公開されている相愛大学春曙文庫本「橋姫」の写本の画像は、以下のアドレスで確認することができます。

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於本ゆれ者・【人】・き可ぬ・と支は・
あ遣くれ・可くなん・あそ者勢登・志
毛【人】尓て毛・身や古の・可多より・まいり・
堂ちまし累・悲と・【侍】・ときは・
をと母・世さ世・【給】者春・於ほ可多・可く
て・【女】堂ち・越八しま春・【事】越者・
可くさ勢・【給】ふ・奈へ弖の・【人】尓・志
ら世・堂てま川らし登・於ほし・の多
ま葉するなり登・【申】世は・うち王らひ
て・ありきおき・【御物】可くしなり・し可/(5オ)
--------------------------------------
しのひ・【給】奈礼登・み奈【人】・あ里
可多き・【世】乃・堂免し尓・きこゑい
徒免る越登・の多まひ弖・な越・し累へ
世よ・王可れ者/可$、(王れ者)・春き/\しき/(春き春きしき)・心なと・奈支・
【人】そ・可くて・越者しま春ら無・【御】あり
さま能・あやしう・介尓・なへ弖/弖±二・於ほえ/ならす&於ほえ、(ならす)・
堂ま者ぬなり登・万免や可尓・乃多ま
へ葉・あ奈・可しこ・古ゝろ奈き/(古古ろ奈き)・やう尓・
のち能・きこゑや・八んへらん登て・あ奈
堂の・越まへ八・【竹】の・春い可き・し古免弖/古〈次頁〉、(5ウ)
--------------------------------------
み奈・へ堂弖・【事】奈免る越・ゝ
しへよ世/(越しへよ世)・堂弖ま川礼里・【御】とんの・
【人】八・尓し乃・らう尓・よひ春ゑ弖・こ能・
【殿】井【人】・あひしらふ・あ奈多尓・可よふへ可
んめ累・春い可/〈ママ〉・と越・春こし・越しあ介弖・
身・【給】へ八・ナシ/+月・を可し支・【程】尓・きり王多れ累越・
な可免弖・春多れ越・三し可く・まきあ遣て・
【人】〻/(【人人】)・井堂り・すのこ尓・いと・佐むけ尓・【身】・
本そく・な衛者免累・王ら八・【一人】・
を奈し・さまなる・於と那毛・井堂り/堂〈次頁〉、(6オ)
--------------------------------------
うち那累・【人】・ひとり者・ゝし
ら尓/(者しら尓)・すこし・ゐ可くれ弖・ひ者越・
まへ尓・越きて・者ちを・てまさくり尓・
し川ゝ/(し川川)・ゐ堂る尓/△&ゐ・【雲】・可くれ堂りつる・
【月】乃・【俄】・い登・あ可く・さしいて
堂れ者・あふきならて・古礼して
毛・徒き葉・ま祢き川へ可り介り登
て・佐し能そき堂累・可を・い身
しう・らう堂け尓・尓本ひや
可なるへし・そひふし堂累/堂〈次頁〉、(6ウ)
--------------------------------------
【人】八・【事】能・うゑ尓・可多ふ支
可ゝ里弖/(可多ふ支可可里弖)・い累・ひを・可へ春・八ち
古そ・あ里け礼・佐ま・【事】尓毛・【思】
越よひ・【給】・【御心】可奈登て・うち王ら
ひ堂る・け者ひ・い満・すこし・
を毛里可尓・よし徒き堂里・越よ
者春とん・古れ毛・【月】尓・者那累ゝ/(者那累累)・【物】
可葉なと・者可奈き・【事】・うちと
遣・の堂まひ可八し堂累・介者い
登母・さら尓・よそ尓・【思】や里し尓八・尓す/(7オ)
--------------------------------------
い登・あ者れ尓・な川可しう・越可し・
む可し毛の可多里奈と尓・可多里川堂
へ・わ可き・【女房】なと乃・よむ越毛・
きく尓・可奈ら春・可やう能・【事】越・
いひ堂累・佐し毛・あらしと・尓くゝ/(尓くく)・
をし八可るゝ越/(をし八可るる越)・介尓・あ者れな累/り&累、(あ者れなり)・
【物】ゝ具ま毛/(【物】の)・あ里ぬへ可り介りい/い〈ママ、諸本と〉・古ゝろ/(古古ろ)・
う川里ぬへし・幾里・ふ可介れ八・
さや可尓・身ゆへく毛・あら春・ま多・
【月】・さしいてなと/(ぬと&なと)、(さしいてぬと)・於ほ春・【程】尓・越く能/(7ウ)←【251004_ここまで】
--------------------------------------

 天気予報は雨でした。しかし、宇治駅前までの往復で濡れることなく帰れました。
 相変わらず、駅前には多くの観光客がおられます。宇治橋通り商店街は大混雑です。
 今日も、抹茶コロッケをいただいて帰りました。




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2025年09月27日

キャンパスプラザ京都で相愛大学本『源氏物語 帚木(断簡)』を読む(第1回)

 1階正面入口にある掲示板には、いつものように案内が出ています。
 ただし、タイトルが「河内本源氏物語を変体仮名で読む」とあるのは間違いです。正しくは、「相愛大学蔵源氏物語「帚木(断簡)」を変体仮名で読む会」です。3ヶ月前に予約を取った時の、申請書類に書いたままで掲示されました。訂正を忘れていました。次回からは気をつけます。

250927_掲示板.jpg

 今日はまず、扱う資料が新しくなったために、これからの内容について確認しました。配布資料には、次のように2つの項目に分けて説明文を記しました。
 最初に、扱う資料の概要についての説明です。

(1)勉強会の内容
 ここでは、『源氏物語』の第2帖「帚木」に書かれた、鎌倉時代の古写本の断簡の仮名文字を読みます。
 テキストとする古写本は、鎌倉時代中期に書写された現存最古の古写本の一つであり、美麗な美術品です。具体的には、相愛大学の春曙文庫が現蔵する断簡五冊の内、「帚木」巻に書写されている文字を変体仮名に注目して確認していきます。
 今回使用する資料は、国文学研究資料館から公開されているパブリックドメインの画像です。
 かつてこれは、ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』(「須磨」「蜻蛉」)と、国立歴史民俗博物館蔵「鈴虫」(重要文化財)と一緒に伝えられていた古写本でした。春曙文庫に伝わる他の四冊は、第三三帖「藤裏葉」・第四五帖「橋姫」・第四九帖「宿木」・第五三帖「手習」で、すべて現在は断簡としての本文しか残っていません。
 この古写本に書かれている文字が、とにかく読めるようになることを、当面は第一の目的とします。一人でも多くの方が、日本の文化資産である変体仮名が読めるようになることを願って開催する勉強会です。そして、これはデータベースの構築へと展開し、生成AIで分析していきます。
 [参考資料]
『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」』(伊藤編著、新典社、2013年)
『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「蜻蛉」』(伊藤編著、新典社、2014年)
『国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」』(伊藤・阿部・淺川 共編、新典社、2015年)
『現代の図書館』(vol.62 no.3、通巻251号、日本図書館協会現代の図書館編集委員会編、2024年)
  相愛大学図書館「春曙文庫」の蔵書とその最新研究/阿尾あすか
  春曙庵主田中重太郎−その人となりと蔵書形成/山本和明
  天理図書館と「源氏物語」古典籍資料−蒐集の経緯・名品の紹介/岡嶌偉久子
  日本古典文学作品とAI・機械翻訳について/淺川槙子

 次に、相愛大学本の本文についての説明です。
 ここで、田中重太郎先生が「いま行われている源氏物語の本文と読みあわせると、そらおそろしい気がして来る。」とおっしゃっていることに関連して、この相愛大学の本文が通行の流布本である大島本といかに違うものであるかを、私見をもとに補足説明をしました。鎌倉時代に読まれていた『源氏物語』の本文の内容が、今とは違うものがあることを体感しましょう、という主旨での話をしたのです。大島本は、あくまでも室町時代の写本に江戸時代の書き込みがなされたものを取り込んだ本文です。私は、鎌倉時代の本文が読める環境作りを心がけて、まずは正確な鎌倉時代の『源氏物語』の本文の実態を書かれている文字に忠実な表記で確認しているところです。

(2)春曙文庫の『源氏物語』に関する説明
 リーフレット「春曙庵主田中重太郎その人とことのは」(2024.03_ver.01)
  国文研共同研究「相愛大学「春曙文庫」に関する研究−書物と人」の成果として製作

■源氏物語本文について(田中重太郎)
 ところで、源氏物語の本文でも定家の証本がいま定本視されているが、いわゆる別本系の本文と読みくらべると、いまの源氏物語の本文は、なんだかばかに整頓され、みがかれ過ぎた感じがする。架蔵の鎌倉初期書写の源氏物語断簡(昭和三十九年十月刊)を読みかえしていると、こんな本文の源氏物語がすくなくとも平安末期にはあって、読まれていたのだと思い、いま行われている源氏物語の本文と読みあわせると、そらおそろしい気がして来る。(下略)  (清少納言と「ほのかなり」と『平安文学研究』第四十二輯、昭和四十四年六月号、『枕草子三十五年』再掲)
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リーフレット『春曙文庫の名品2 知られざる名品 古筆切・断簡・清少納言の肖像』(2023.03_ver.01)
  国文研共同研究「相愛大学「春曙文庫」に関する研究−書物と人」の成果として製作

『源氏物語』の断簡(完全な形ではなく、切れ切れとなって不完全な状態で残ったもの)。正方形に近い形の桝形本で、本文は十行書き、列帖装(れっちょうそう)であったと推測される。鎌倉時代中後期の書写と考えられ、筆者は不明だが、五人以上による寄り合い書きである。雁皮紙が使用され、花・鳥・紅葉・月などのぼかし絵が入っている部分がある。
 断簡の本文は、広く読まれている青表紙本(藤原定家が書写や校合に関与した本)系統の『源氏物語』とは異なる部分が多く、別本に分類される陽明文庫本(鎌倉中期書写とされる写本)との一致が見られる。田中重太郎による解説と帚木巻の一部の翻刻を付けて、東風社からコロタイプ印刷による複製が刊行された(一九六四年)。藤裏葉巻と橋姫巻の前半は相愛国文 九・一〇に、柿谷雄三が翻刻を掲載している。
(以下略)(川渕紗佳・飯田実花)


 なお、相愛大学本『源氏物語』(断簡)の全画像は、国文学研究資料館からパブリックドメイン(https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100386667/1?ln=ja)として公開されているので、全丁が自宅で自由に確認できます。

250927_NIJL相愛『源氏物語』表紙.jpg


250927_NIJL相愛『源氏物語』木箱.jpg

250927_NIJL相愛『源氏物語』1表.jpg


 さて、本日は「帚木(断簡)」の第1丁表から第2丁表までの3ページ分の本文を[変体仮名翻字版]で確認しました。『新編日本古典文学全集(1)』(小学館)では98〜99頁にあたり、光源氏が空蝉の部屋に忍び入る場面です。

 本日、問題にしたのは以下の事例です。8項目に整理して列記します。
 本文異同の例示に当たっては、次の順に記します。
 ※丁数と表裏/行・源氏物語別本集成文節番号「相愛本」 「大島本」
 なお、本文の表示は諸本のほとんどが「変体仮名翻字版」になっていない現状を鑑みて、ここに限っては現行の平仮名で対校しています。

(1)1オ/1・4119 「ねたる」 「ふしたる」

(2)1オ/1・4121 「いとこにそ」 「いつこにそ」

(3)1オ/2・4123 「とおかき」 「とをき」

(4)1オ/4・4132 「いとふなり」 「いらへすなり」

(5)1オ/9・4158 「からかつ」 「からひつ」

(6)1ウ/5・4179 「おんなは たゝ よひつる」 「もとめつる」

(7)2オ/1・4203 「そてのさはりておともきこえす」 「きぬのさはりてをとにもたてす」

(8)2オ/9・4234 「あさましうこゝにはさへき人もはへらすなととかへにこそ」  
「こゝに人ともえのゝしらす心ちはたわひしくあるましきことゝ思へはあさましう人たかへにこそ」

 (2)〜(5)は、単純な異同のように見えても、いろいろな事情や背景が見え隠れしているものです。
 (1)(6)(7)は、用語や表現が異なるものです。(6)に関して、私は当初「ただよひつる」で「漂ひつる」の意味で異同を理解しようとしていました。しかし、本日の参会者から「ただ、呼びつる」の意味ではないか、との指摘を受け、自分の勘違いを知らされました。いつもながら、教えられることの多い集まりです。
 (8)は、あまりにも異なる本文異同の行文なので、丁寧に読み解いて行かなくてはなりません。大島本の方が、長い文章になっているところです。(1)(6)(7)は、相愛大本の方が大島本よりもわかりやすい本文になっているのではないか、という指摘がありました。しかし、この(8)は大島本の方が長文なので、相愛大本の解釈しだいでは、大島本がわかりやすくなっているということになる可能性があります。いずれにしても、詳細な検討は後日に、とします。

 また、「心見尓」(1オ7行目)は「【心見】尓」としたことを、特記しておきます。

 本日確認した「変体仮名翻字版」は、以下のようになります。

■相愛大学本「帚木(断簡)」(今回:第1丁表〜第2丁表まで)
[変体仮名翻字版]

・翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
  傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、
  補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部( 「 )・末尾( 」 )、
  底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)
※〈朱点〉の有無から、複合語を認めていない場合を集めるとおもしろい。

[024119]--------------------------------------
て・ね堂るへき/〈ママ〉・【中将】のき三八・いとこに
/と〈ママ、諸本つ〉、そ&に、(いとこそそ)・【人】け・とお可き/可〈ママ〉・【心】ち・して・【物】むつ可し
きひと・いふなれ八・なけしの・し毛に・
【人】/\/(【人人】)・ふして・いとふ/と〈ママ、諸本ら〉・なり・志も尓なん・ゆき・
をりて・堂ゝいまなん/(堂堂いまなん)・まうのほらん
と者へり川と・いふ・三那・し川まりぬる・け
者ゐ奈れ八・ナシ・かけかねお・者那ちて・【心見】
尓・ひきみれ八・ナシ・あなたより八・さゝさり介
り/(さささり介り)・き【丁】越・さうしくち尓/う〈ママ〉・さして・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・から
可川堂つ/可〈ママ、諸本ひ〉・【物】・をきて・み多りか者しきお/お〈次頁〉、者&者、き〈丁末左〉、(1オ)
--------------------------------------
ナシ・わけいり・【給】て・け者ゐ・する・本とに・
より・【給】へれ八・ナシ・ナシ・いと・さゝや可尓て/(ささや可尓て)・ふし
堂りひ八本のくらきに・なまわ川
ら八し介れと・うへなる・きぬを・お
しやり【給】尓於んな八堂ゝ/(堂堂)・よひ川
・【人】と・於もひ介り・いと・しのひて・【中将】・
免し川れ八・【人】志れぬ・於もひの・志るし・
ある・【心】ち・してと・いふ越・と可う毛・
於もひ・わ可れす・もの尓・おそ者るゝ/(おそ者るる)・
古ゝち/(古古ち)・して・やゝと/(ややと)・おひゆれ八と・可本尓/(1ウ)
--------------------------------------
そて能・さ者りて・於とも・きこ江寿
うち川けに・布可ゝらぬ/(布可可らぬ)・【心】と・ナシ・ナシ・於ほさん
も・こと者りなれと/八&後と・としころ・於もひわ
多る・【心】の・うちも・きこ江志らせんとて・
かゝる/(かかる)・於りを・まちいて堂る毛・さらに・
あさう八・あらしと・於もひなし・【給】へ
と・いと・や者らか尓て・お尓か三も・あら
堂ゝすましき/(あら堂堂すましき)・け者ゐなれ八・者し
たなう・あさましうこゝに八さへき/八さへき〈ママ〉、(あさましうここに八さへき)・
【人】毛者へらすなと/△&毛・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・堂可へ尓こそ/(2オ)
[4246]--------------------------------------


 終了後は、駅前を散策しました。
 最近は抹茶が海外の方も含めて大人気で、なかなか手に入らなくなっているとのことなので、帰りに、京都駅前の伊藤久右衛門でお徳用の「宇治抹茶」をいただきました。これは、3ヶ月毎に買っている抹茶です。
 品物を渡してくださった店員の方に、宇治のお店によく行くことと、私の父の名前は伊藤忠右衛門というんですよ、と言うと、ご縁があってうれしいです、とおっしゃってくださいました。そして、価格が高くなっていますね、と聞くと、最近は抹茶ブームのため、量も減り値段も上がり、私たちもびっくりしています、とのことでした。
 そうなんです。今日の抹茶は「70g \3,121」でした。手元に4月6日に宇治駅前店で購入した時のレシートがあり、それを確認すると、同じ商品が「100g \1,836」とあります。7月のレシートが見つからないものの、同じ値段だったか少し高かったかも知れません。
 つまり、4月初めにグラムあたり「18.4円」だった抹茶が、9月末には「44.6円」に高騰したのです。なんと「2.4倍」です。
 おりおりに自宅では、食後にお気に入りの茶碗を出して、シャカシャカと茶筅を振っています。私は黒い楽、妻は金継ぎをした赤い楽。しかし、こんなに抹茶が高くなってのでは、気楽に飲むことがためらわれます。抹茶の製造過程を知っているだけに、急に増産というわけにもいかないでしょう。いやはや、困ったことです。

 京都駅の中央口改札前に、新たなモニュメントができました。一昨日、除幕式があったものなので、早速行って来ました。京都ロータリークラブが創立100周年記念として造られたものです。私は、造形物よりも先月102歳でお亡くなりになった裏千家の前家元の千玄室さんが揮毫した「未来 今から一歩」という言葉を見たかったのです。モニュメントのデザインは、現代彫刻家の吉田和央さんだそうです。

250927_モニュメント.jpg


 この新設された場所は、希望の広場と名付けられ、待ち合わせの場所となって行くことが期待されています。しかし、すぐ前がバス停のターミナルなので、ここに人々が集まると、改札前からバス停への、人の行き来に差し障りが起きそうです。待ち合わせの場所と言わずに、モニュメントと書を見て楽しむ、ということでいいと思っています。




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2025年09月20日

日比谷で「須磨」(28)と『百人一首』(5)を読む

 日比谷図書文化館での講座は、次の2つです。
@「ハーバード大学本『源氏物語 須磨』の変体仮名を読む」 13:00〜14:30
A「『百人一首』を2種類の変体仮名で読む」  15:30〜17:00

 いつも朝早く宇治を発ち、最寄り駅の有楽町にはお昼前に着くようにしています。
 今日はいつもより早く着いたので、駅前のビックカメラの中のスシローで早めの食事をし、近くの馬場先門前にある静嘉堂文庫美術館へ立ち寄りました。玄関のガラス戸の向こうが皇居です。

250920_静嘉堂.jpg

 今回のテーマは「絵画よくわかる神仏と人物のフシギ」でした。
 重要文化財である明治生命館の1階は、格調の高さと清潔感に満ちた会場でした。初めて入った美術館なので、少し圧倒される雰囲気を感じます。展示には、イラストを配したかわいいフリップが効果を発揮していて、観覧者に語りかける口調で問いかけて来ます。よく考えられた配慮です。レベルの高い美術館でした。
 なお、期待した国宝の曜変天目茶碗は出品されていませんでした。

 日比谷公園の芝生を、一人黙々と芝刈りをするロボットと出会いました。暑い中を、と言おうとして、今日の東京は肌寒い程に涼しいことに気づきました。

250920_芝刈り機.jpg


 日比谷図書文化館の入口には、いつものように本日のイベントが掲示されています。

250920_掲示板.jpg


 まず、ハーバード本「須磨」です。
 今日は、51丁裏から53丁裏2行目までを確認しました。

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あはれ尓て・
「ともちと里・もろこゑ尓・奈く・あ可【月】八・
ひと里・祢さ免乃・とこ毛・多の毛し」・【又】・越き
堂る・【人】毛・奈介れ八・【返】〻/(【返返】)・ひとりこち
弖・ふし・【給】へ里・【夜】・ふ可く・【御】てう川・まい
り弖・【念】すなと・し・堂満ふ毛・めつ
らしき・ことの・やう尓よろ川のこと・
めて多くの三・みえ・多満へ八・え・み・多てま川
里・すてゝ/(すてて)・【人】や里那らす・【亰(京)】へ・あ可ら佐万
尓毛・えいてさり介り・[29]あ可し乃うら八/(51ウ)
--------------------------------------
堂ゝ/(堂堂)・者ひ王多る・本と奈り遣れ八・
よしきよは・可乃・【入道】乃・む須免越・
於もひいてゝ/(於もひいてて)・ふ三なと・や里けれと・【返
事】毛・勢す・ちゝの【入道】そ/(ちちの【入道】そ)・きこゆへき・
こと那ん・ある・あ可ら佐ま尓・多いめんも
可那と・いひ堂り介れと・うけひ可さら
む尓・と可くゆき可ゝ里て/い&ゆ、(いき可可里て、ゆき可可里て)・む奈しく・可へ
らん・うしろ毛・をこなるへしと・くし
い多くて・於もひ川ゝむ/(於もひ川川む)・よ尓・しらす・【心】
堂可く・於もへる尓・くに乃・うちは・可三乃/(52オ)
--------------------------------------
ゆ可りの三こそは・可しこき・もの尓八・
寿免れと・ひ可免る・【心】は・さら尓毛・【思】八て
とし【月】を・へ介る尓・こ乃・【君】・かく弖・
をはすと・きゝて/(ききて)・者ゝのき三に/(者者のき三に)・可多らふ・
やう・き里徒本乃可うい乃・【御】者ら
乃・【源氏】・ひ可るきみこそ・於ほやけ二・
可しこまりて・す満乃うらに・毛のし・
堂まふ奈れ・あこ乃・【御】寿く勢
尓て・於ほえぬ・ことの・あるなり・い可て・可
かる・川いて尓・こ乃・【君】尓・多てま川里てむと/む〈次頁〉、(52ウ)
--------------------------------------
いふ・者ゝ【君】/(者者【君】)・いて・あ奈・可多王や・【宮】こ
乃・【人】こと尓・可多る越・き介は・やむこと奈
き・【御】めを/=ミ、(みめを)・いと・於ほく・毛・多満ひての・あま
里尓・み可との・【御】めをさへ・志のひ/\尓/(志のひ志のひ尓)・あや
まち・【給】て・可く毛・さは可れ・【給】なる・【人】八・ま
さ尓・可ゝる/(可可る)・【山】可川を・【心】・とゝ免/(とと免)・【給】てんや
と・いふ・者ら多ちて・いて・え・し里・堂満者
し・於もふ・【心】・こと那里・さる・【心】を・し・【給】へ・
古ゝ尓/(古古尓)・於者しませむと/ま±さ、(於者しまさせむと)・王可・【心】を・やり
て・いふ毛・可多く奈者しく・三ゆ・け尓・あ里さま八/さ〈次頁〉、(53オ)
--------------------------------------
ま者ゆき満弖・志川らひ・可し
徒介り・          (53ウ)

--------------------------------------

 今日も、翻字の不備を指摘していただきました。凡例が詳細になってきて、当の私が時々新しい方針を失念するために、ポツリポツリとミスが出ます。大変失礼しました。

 また、「京」(51丁裏9行目)という漢字について、京都駅の南北通路に出る改札口の前に掲示されている「亰」を例にして、ここの「京」は「亰」と翻字した方がいいのではないか、という話題になりました。さらには、東京が「京」なので京都は「亰都」にしては、ということも提示しました。これには、興味をもっていただけたようです。

 終わってから、いくつかの質問を受けてから、地下のラウンジへ移動して、現在5巻の相愛大学蔵春曙文庫本の臨模本を作成中の宮川保子さんと、作業手順を含めた今後の方針などを打ち合わせました。装飾料紙の作成や、判読しにくい文字などについての、意見交換が中心です。
 私からは、最近かかりきりの「橋姫」巻の本文を確認する中で気付いたことを、何点かお伝えしました。今回の相愛大学本は、ハーバード本よりも判読に時間がかかる変体仮名が多いのです。写し手が、平安時代の仮名文字の多様な字形を、よく理解していないままに書き写しているのではないか、と思える箇所が散見します。ハーバード本「須磨」「蜻蛉」や、歴博本「鈴虫」を書写した人たちとは違う写し手集団が関わったのではないか、と今は勝手に思っています。いずれ、こうした違和感の原因を整理します。

 今日は、「手習」の下書きと清書をお預かりしたので、これまでの「帚木」「藤裏葉」「宿木」と共に、文字から受ける印象の違いを含めて、複眼的に写本の様態と本文の実相を考えて行きたいと思います。
 少しでもいい臨模本ができるように、宮川さんの書写活動のお手伝いをしているところです。

 時間になったので、大急ぎで4階のセミナールームに戻りました。

 次は、『百人一首』です。
 まず、変体仮名の「愛(あ)」について、江戸時代以前の用例を私はまだ見かけていないことをお話しました。
 また、雲林院にある僧正遍昭の歌碑と、宮道神社にある藤原定方の歌碑について取り上げました。

 歌は、21番歌の素性法師から、27番歌の中納言兼輔までを確認しました。

 終わってから、前の『源氏物語』の時に話題にした「京」と「亰」について、さらに詳しい情報を受講者の方からいただきました。「亰」という文字は、中国でも多くの用例があるようです。明治時代には、東京で「東亰」としていた時があったとか。しかし、次第に立ち消えになったようです。このことは、さらに詳しく調べると、いろいろとおもしろいことが見つかりそうです。

 今日は息子が出張中のため、私は妻と共に蔵前に泊まることにしました。かつて、モンゴルのことから白鵬さんの関係者に会うために、息子に連れられて蔵前に来たことがあります。しかし、泊まったことはありません。明日はどこを散策しようかと、地図を見ながら計画を練っています。




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2025年09月13日

中之島での『百人一首』(第16回)と『源氏物語 蜻蛉』(第27回)の講座

 今日の大阪府立中之島図書館は、どんよりとした雲を背後にして佇んでいました。暑くなかったので、快適な1日でした。

250913_図書館.jpg


 まず、入門講座としての「変体仮名で書かれた『百人一首』を読む」からです。
 変体仮名の「愛(あ)」がなかなか見当たらないことをお話ししました。特に、平安と鎌倉時代の例が手元にありません。江戸時代と現代の3例をあげます。この文字は、今後とも気をつけて集めたいものです。どなたか、ご教示をお願いします。

(1)「愛遊割烹」朝日新聞2025.8.23
250909_朝日「愛遊」.jpg

(2)「愛しろ【木】」 光琳カルタ 64番歌の「愛」
250913_光琳「愛」.jpg


(3)シャープの携帯電話(アンドロイド15)の「愛」
250702_シャープあ赤入り.jpg


 次は、12番歌の僧正遍昭の歌碑が、大徳寺の近くの雲林院にあることを紹介しました。特に「餘」が読みにくいことを確認しました。

250911_雲林院の遍昭の歌碑-切抜.jpg

 僧正遍昭
 【天】つ【風雲】のかよ比
千ふき登ぢ餘

 をと免の【姿】しば
  しとゝめ無


 『百人一首』は、22番の文屋康秀から34番の藤原興風までを確認しました。陽明文庫カルタと国文研の鶴丸カルタで、使われている字母の違いを確認しながら進めました。
 わかりやすい違いとしては、陽明カルタが「あ」とするところを、鶴丸カルタは「阿」と表記することがほとんどでした。
 人物画については、陽明カルタの春道列樹が後ろ向きに描かれていることを指摘しました。
 収録した2種類のカルタで、横向きではなく後ろ向きは次の人々です。しかも、陽明カルタが圧倒的に多いのです。

僧正遍昭、大中臣能宣朝臣、藤原実方朝臣、清少納言、大納言経信(2種共)、権中納言匡房、法勝寺入道前関白太政大臣、皇嘉門院別当(2種共)、式子内親王(鶴丸は姿も見せず)、前大僧正慈円、

 こうした図様の違いは、他のカルタと比較するとおもしろいかと思います。今後の課題です。

 30分の休憩を置いて、次はハーバード本『源氏物語 蜻蛉』です。
 まず、書家の宮川保子さんが進めておられる相愛大学所蔵の春曙本『源氏物語』の臨模試作写本3冊(帚木 ・藤裏葉・宿木)を見てもらいました。平安鎌倉時代の『源氏物語』の写本の実態を知る上で、原本に近い姿の写本を見ることは、臨模本であっても貴重な勉強になります。今日は、写本の扱い方もお話ししました。こうした講座では、実感することを大事にしています。

 「蜻蛉」の本文については、61丁裏から63丁表8行目までを確認しました。
 〈貼紙〉やなぞった文字の箇所を、時間をかけて説明しました。
 次の画像は、61丁裏7行目に、【心】の上に【思】の貼紙をしている例です。この「蜻蛉」には4箇所に貼り紙があります。詳しくは、拙著『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「蜻蛉」』(新典社、2014年)の「凡例(15)」(9頁)に書いていますので、確認をなさりたい方は参照願います。

250912_ハーバード「蜻蛉」61uL7〈貼紙〉.jpg

 また、ハーバード本の書写者は、「者」の崩し方に特徴があることの確認もしました。

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者川可しめさせ・【給】・於ほ可多の・ゝへ者/者〈判読〉、(のへ者)・さ可しら
ぬそ/ぬ〈ママ、諸本「をこ」〉・きこえさすれと・いふ・八可なき・こと越・多ゝ/(多多)・
すこし・能多万ふも・【人】八・能こり・き可万本しう
の三・【思】・きこえ多り・【心】ちなし・三ち・阿け・【侍】奈
んや・王きても・かの・【御】もの八ち能・ゆへ・阿りぬへき・
於り尓そ/も&そ、(於り尓も)・あんめるとて・多ちいて・【給】へ八・をし
なへて・かく・能こり・な可らんと・【思】ひやり/〈【心】ニ【思】ノ貼紙〉・【給】つるこそ・
【心】う介れと・於もへる・【人】も・阿り・[32]ひん可し能・かうらん
尓・於しかゝりて/(於しかかりて)・ゆふ可け尓・なる・まゝ尓/(まま尓)・【花】の・ひ
もとて/て〈ママ〉、諸本ひもとく・【御前】の・【草】むら越・三王多し・【給】・ものゝみ/み〈次頁〉、(もののみ)、(61ウ)
--------------------------------------
あ者れなる尓・な可尓川いて・八らわ多・ゝゆる八/八〈行末左〉、(多ゆる八)・
これ・【秋】のと/の〈墨削〉=のてん、(【秋】のてんと)・いふ・こと越・しの日や可尓・しゆし
川ゝ/(しゆし川川)・井・多万へり・阿りつる・きぬの・をとなひ・
志るき・け者い・して・もやの・【御】しやうしより・と
越りて・あ那多に・いるなり・【宮】の・あゆ三於者
して・これより・あな多に・万いり川る八・多そと・ゝ
ひ/(とひ)・【給】へ八・かの・【御方】の・【中将】の【君】と・きこゆ奈り・なを・
阿やしの・王さや・多れ尓可とかりそめ尓も・うち
【思】・【人】尓・や可て可く・ゆ可しけ那くきこゆる尓/ゆる&ゆる・【名】さ
しよと・いと越しう・この・【宮】尓八・三な・免なれて/三&免、(62オ)
--------------------------------------
於ほえ・【給】つるへ可免るも・くちをし・あ奈
かちなる・【御】もてなしに・【女】・さもこそ/し&こ、(さもしそ)・万け/万$ま、(まけ)・多て
万川ら免・【我】・さま・くちをしく・この・【御】ゆ可り
尓八・ね多く・【心】うく能三・ある可な・い可て・この・わ多り
尓も・め川らしからん・れいの/±【人】の、(【人】のれいの)・【心】いれて・さ者
き・【給】八ん者・可多らひとりて・王可・於もひしや
う尓・や春可らすと多に・於も者せ・多て万つらん・
万ことに・【心】者せ・阿らん・【人】八・わ可・ゝ多にそ/(可多にそ)・よる
へきやと・されと・可多いもの可な・【人】の・【心】八と・【思】尓
川介て・多いの【御】可多の・かの/$・【御】ありさ万越八/(62ウ)
--------------------------------------
ふさ者しからぬ・もの尓・於もひ・きこゑて・いと・ひな
き・む川ひ尓・なりゆき・於ほ可多の・於ほえ越八・
くるしと・於もひな可ら・な越・さし八なち可多き・も
の尓・於ほしゝ里多るそ/(於ほしし里多るそ)・あ里可たく・あ者れな
累/し&累、累=さやうなる〈薄墨〉、(あ者れなし)・【心】者せ/【心】&【心】・阿る・【人】八・【心】ちの/【心】$こゝ〈薄墨〉、(こゝちの)・な可尓・阿らんや・いり
多ちて・ふ可く・三ね八・しらぬそかし・ねさめ
かち尓/れ&ね、(れさめかち尓)・つれ/\なる越/(つれつれなる越)・すこし八・すきものなら八ゝや
と/(すきものなら八八やと)・【思】尓・いま八な越・川きなし・←[250913_ココマデ][33]れいの尓しの・
わ多【殿】を・阿りしに・ならひて・わさと於八し多るも・
あやし・ひめ三や・よる八・あな多に・わ多らせ・【給】介れ八/(63オ)
--------------------------------------


 終わってからは、いつもの淀屋橋駅ではなくて、大阪駅に向かって帰りました。阪神タイガースが早々と優勝し、阪神百貨店で優勝記念セールをしているので、賑わいを求めての散策です。数十年来の阪神ファンなので、何か楽しいことはないかと思って行ったのです。

250913_阪神記念セール.jpg

 しかし、優勝記念セールの会場である阪神タイガースショップは大盛況で、入場制限がかかっていて長蛇の列です。オリジナルグッズは来週の17日からです。肩透かしだったので、阪神名物のイカ焼きを買いに行くと、ここも大行列です。小学生の頃には、母に連れられて阪神のイカ焼きを食べに来たものです。大人になってからも、何度かいただきました。十枚くらい抱え込んで、口一杯に頬張っているおじさんがいました。相変わらずの人気です。
 またいつか、ということにして、近くにあった海鮮丼のお店で腹ごしらえをしました。3時間以上しゃべり詰めだったので、腹ぺこだったのです。私には珍しく、丼1杯を時間はかかったものの完食しました。

 大阪駅から京都駅に行くためにJRに向かっていると、街頭演説をして訴えておられる方が目に留まりました。主旨は、以下のことでした。

面倒でやっかいなマイナ保険証は 使う必要も つくる必要も ありません! 期限が来ても ほっておいて大丈夫です!


250913_マイナ保険証廃止.jpg

 マイナンバー制の廃止には、私も賛同します。時間がなかったのでじっくりは聞けませんでした。チラシだけは受け取りました。反対しておられる主旨が政治的だったので、少し違うな、とは思うものの、廃止すべきものであるというところは一致します。
 私は、ブログにマイナカードの無意味さを2度ほど書きました。行動は起こしていません。こうして街頭に立って訴えておられる方がおられることを知り、新鮮な思いを抱きました。私とは視点が異なる論調だったので、機会があれば私の考えを質問してみたいと思いながら、帰途につきました。





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2025年09月06日

宇治で相愛本『源氏物語 橋姫』の変体仮名を読む会(4)

 猛暑の中、宇治も多くの人で賑わっていました。8割方は海外からの観光客のようです。

 今日のシェア型書店HONBAKO京都宇治での勉強会は、写本の画像を映写して確認しながら進めました。
 まず、この相愛大学の「橋姫」はハーバード大学の「須磨」「蜻蛉」、国立歴史民俗博物の「鈴虫」とは感触が異なる写本のように思われる、という個人的な感想から始めました。

 文字が書き写された料紙は、古筆家の宮川保子さんがおっしゃるように鎌倉時代のものだと思われます。しかし、そこに書かれている文字は、ハーバード本などとは違うグループが作成した写本のように思われるのです。そして、書写に当たって用いた『源氏物語』の親本も、ハーバード本の時とは違うように思われます。まだ確証を得るまでに至っていないので、問題点を少しずつ提示しながら考えていきたいと思います。

 例えば、今日見た3丁表から4丁裏までの3ページ半の範囲で言えば、絃楽器の「琴」を「事」と表記するものが四例あります。「きん」と書くのが一例だけありますが。どのような事情からこのような表記になったのかはともかくとして、他の写本ではほとんど見かけない、相愛大学本特有の例です。ただし、相愛大学の他の4巻は未確認です。
 また、「祢とん」(音ども、二例)、「八んへらん」(侍らん)の撥音便の表記も注意したいところです。

 「奈ま多く奈しき」(3丁裏10行目)は諸本が「なまかたくなしき」とするところです。「ま」と「多」の間にあるはずの「か」が脱落しています。
 同じ例として、「な尓」(4丁表3行目)は諸本が「なにか」とあり、ここでも「か」が脱落しています。
 もう一例。「免堂く」(4丁裏10行目)は諸本が「めてたく」とするところであり、「て」が脱落しています。
 さらに注意したいのは、「奈ま多く奈しき」と「免堂く」は、共に料紙の裏丁の丁末行にあたります。
 糸罫という道具を料紙の上に載せて書写していて、最終行になるところで糸罫を次の丁に移動するため、紙と手と目と筆が動くことで、書写の緊張感が解ける時です。本書の書写者には、集中力が緩むと注意力が落ちる習性か性癖があるのかもしれません。

 「み」と読む仮名文字に「三」(三例)と「身」(三例)があり、特に「身」を使うのはこの写本の特徴です。

 こうした書写者の特徴を追って行くと、ハーバード本と同じような料紙を使っていながらも、書写を担当しているグループはハーバード本のグループとは異なるように感じます。また、この相愛大学本の書写時の親本は、ハーバード本を書写した時の親本と違うセットの写本群だったのではないか、という思いを強くしました。

 なお、二例のなぞった箇所について紹介します。

250905_春曙「橋姫」3uL6-7&.jpg

 これは、3丁裏6行目にある「奈」と、そのすぐ左の7行目の「遊」の例です。
 右側の「奈」の下に書かれている文字は判別できませんでした。しかし、左側の「遊」の下には「ゑ」と書かれていることがわかりました。後日、相愛大学へ原本を熟覧するために行くので、その時にこうしたなぞった文字についても詳しく確認してきます。

 以上のことは、今後とも相愛大学本が持つ本文を「変体仮名翻字版」で翻字をして行くことで、問題点が明らかになる中で解明されていくはずです。今は、とにかく翻字を進めて行くことに専念したいと思います。

 本日確認した「変体仮名翻字版」は、以下の通りです。


相愛大学春曙文庫本『源氏物語 橋姫』第三丁表六行目〜第四丁裏
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可く・なる・【程】尓・【250906_ココカラ→】その・【事】ゝ毛/(【事】と毛)・きゝ王可
礼ぬ/(きき王可礼ぬ)・毛のゝ祢とん/(毛のの祢とん)・い登・春こ遣尓・支
こ遊・徒祢尓・可く・あそひ・【給】と・きく越・
ついて・奈くて・古乃・【御】きんの・祢の・奈多可き越毛・ナシ・
き可ぬそ可し・よき・越里那累へし登/(3オ)
--------------------------------------
於毛ひ川ゝ/(於毛ひ川川)・い里・【給】へ八・ひ者能・こゑ乃・ひゝ
きなり遣り/(ひひきなり遣り)・王うしきてう尓・
しらへ弖・よの川祢乃・可きあ者世奈ら
祢登・ところ可ら尓や・ゝな礼ぬ/(三三な礼ぬ)・古ゝち/(古古ち)・志て・
可き【返】・者ち乃・越と・毛のきよけ尓・越毛
新ろし・さう乃【事】・あ者れ尓・ま免き
堂る/△&奈・こゑ・して・堂ゑ/\/(堂ゑ堂ゑ)・きこゑ&遊・志八し・
き可ま本しき尓・しのひ・【給】へと・【御】け八ひ・
し累く・きゝ徒け弖/(きき徒け弖)・と乃ひ【人】めく・をのこ・
奈ま多く奈しき/ま多(〈ママ〉諸本なまかたくなしき)・いてき堂り/(3ウ)
--------------------------------------
し可/\し奈無/(し可し可し奈無)・古毛り越八しま春・
【御】勢う登越こそ・きこゑさ世免
と・【申】春・な尓/諸本なにか・し可・ゝ幾里/(可幾里)・ある・【御】をこ奈
ひ乃・本とゝ/(本とと)・まきら八し・きこゑさせん
尓・あい奈し・可く・ぬ礼/\/(ぬ礼ぬ礼)・まいりきて・
い堂川ら尓・可へらん・うれ越・ひ免
きみ乃・【御】可多尓・きこゑ弖・あ者
礼登・の多ま者世は奈ん・奈くさむ
へきと・の多まへ八・尓くき・可本越・
うち江弖・【申】させ・八んへらんとて/と〈次頁〉、(4オ)
--------------------------------------
堂川を・し八しや登・めしよせて・
とし古ろ・い登徒弖尓乃/い〈ママ〉・きゝて/(ききて)・
ゆ可しう・於毛ふ・【御事】乃・祢とんを・
う礼し幾・をり可奈・春こし・ち可く・
堂ち可くれ弖・きくへき・毛のゝ/(毛のの)・く万
者・あ里や・こち奈く/諸本こゝちなく・さ新すきて・
まいりよらぬ・本と・那・【事】・や免・堂満
ひ弖八・いと・本ひ奈可らん登・乃堂まふ・
遣者ひ・可本可多ち能・さ累・な越/\し
き/(な越な越しき)・古ゝち尓母/(古古ち尓母)・い登・免堂く/諸本めてたく・可多し遣奈く/遣〈次頁〉、(4ウ)←【250906_ここまで】
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 次回の宇治での勉強会は、10月4日(土)です。
 興味と関心をお持ちの方の参加をお待ちしています。




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2025年08月25日

平安文学リレー講座の第7回は「谷崎潤一郎と『源氏物語』」

 本日は、大阪府立中之島図書館の重要文化財となっている大広間で、同志社女子大学の大津直子さんの「谷崎潤一郎と『源氏物語』」と題する講演会が開催されました。
 その概要は、「中之島図書館での谷崎潤一郎と『源氏物語』に関するご案内2件」(2025年07月16日、http://genjiito.sblo.jp/article/191420655.html)に記した通りです。

 本日の講演者については、私の後輩に当たることや、谷崎潤一郎の書き込み原稿の鬱蒼とした森に分け入り、余人が知らなかったことを次々と明らかにしている、新進気鋭の研究者であることを中心にして紹介しました。

 大津さんの講演は、2回目の現代語訳となる新版谷崎源氏の書き込み原稿を中心とした調査報告がなされました。興味深い問題点の指摘と、謎解きに似たたのしい話が展開しました。
 谷崎訳に関する原稿は膨大なもので、しかも夥しい書き込みがあります。「ウィキペディア」(https://ja.wikipedia.org/wiki/谷崎潤一郎訳源氏物語)から摘記します。

・玉上による書き入れのある旧訳本
・山田による書き入れのある旧訳本
・谷崎による書き入れのある旧訳本
・山田書き入れタイプ原稿
・玉上書き入れタイプ原稿
・谷崎書き入れタイプ原稿

 この6種類の原稿を管理する國學院大學の出身である大津さんは、紆余曲折があった中で、恵まれた環境下で調査を進め、途中報告とでも言うべき成果を『谷崎源氏の基礎的研究』(武蔵野書院、2024年)にまとめて刊行しました。

 その成果をもとにして今日は、歯切れのいい口調で、わかりやすく谷崎訳の背景と谷崎の訳出にあたっての問題点を浮き彫りにしました。
 どのように訳すかに注力し、文学的翻訳を目指す姿勢を提示していました。
 難しい問題を抱えるテーマを、きれいに整理して語ってくれました。わからないことがまだまだあるので、今後の展開が自身でも楽しみなようです。聞き手の我々も、この先の報告が聞きたくなります。

 発表の後半で、「旧訳は原文よりも一文が長い」という指摘は、谷崎の文体を考える上でも、私には新鮮だったので、しっかりとメモをしました。

 参考までに、私が持っている愛蔵本・特製桐箱入りの『潤一郎訳 源氏物語』を展示し、講演会が始まる前と後で参会者に自由に触っていただきました。これは、触って実感することの大切さを感得していただくために、私が心がけていることです。

250825_愛蔵本谷崎G.jpg


 そして、この愛蔵本に関する資料をA4判で2枚のプリントにまとめて配布しました。
 講演の中で、大津さんは何度かこの旧版の訳文となる愛蔵本の本文の意義に触れていました。

250820_谷崎g見本巻頭.jpg

250820_谷崎g見本巻末.jpg

 本日の講演は、若さ溢れるエネルギッシュな話で、参会者はみなさん満足してお帰りになったようです。好評で、続きをまた聞かせてほしい、という声を何人もから聞くことができました。大盛会となりました。

 次回は、本年12月の初旬に、「歌舞伎と『源氏物語』」と題して開催する予定です。
 また、多くの方のお越しをお待ちしています。

 大津直子さん、本日は有意義で楽しい話を、ありがとうございました。




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2025年08月23日

キャンパスプラザ京都で尾州家河内本「桐壺」を読む(第33回)

 キャンパスプラザ京都(京都市大学のまち交流センター)の1階正面入口にある掲示板には、いつものように案内が出ています。

250823_掲示板.jpg

 今日はまず、中国から来日中の庄婕淳(恵州学院大学)さんに参加してもらえたので、自己紹介から始まりました。
 庄さんは、NPO法人を設立してまもなく、同窓生のKさんの紹介でワックジャパンでの源氏講座に早速参加していただいた方です。当時は立命館大学大学院生で、学位(博士・文学)を取得してからは中国で大学の教員をしておられます。2019年12月20〜22日に中国広東省にある広東外語外貿大学でのシンポジウムでは、私が所属していた大阪大学との共催で国際研究集会が開催されました。そこに参加した折には、日本側の代表者である私と共同研究者の仲間たちを、庄さんは丁重にもてなしてくれました。その時の報告書が『海外平安文学研究ジャーナル《中国編2019》』(伊藤編、大阪大学国際教育交流センター、2021年2月)です。その広東から帰国直後には、日本をはじめとして世界中でコロナウイルスが蔓延したことは、記憶に新しいことです。
 大阪観光大学と恵州学院大学との学術交流協定の締結では、庄婕淳さんがネット会議を取り仕切り親睦を深めたりました。コロナ以後は直接の交流ができなかったこともあり、6年ぶりの今日は久しぶりに話ができました。

 さて、本文の確認を進めている尾州家河内本「桐壺」は、今日が最終となります。
 その前に、「変体仮名翻字版」の意義をあらためて確認しました。鎌倉時代の『源氏物語』の原本の本文を、変体仮名のレベルでデータベース化することにより、本文研究を深めて行くための基礎資料の作成に取り組んでいることです。特に、生成AIによる新しい研究に対応するために作成したデータは、他に例を見ないデータ群であり、気長に取り組む意義のあるものであることを、みんなで確認しました。

 今日の活動内容としては、第25丁表から第26丁裏までを確認し終えました。
 以下の通りです。

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わ可く・於可しきを・【右】乃於とゝの/±〈朱点〉(【右】乃於ととの)・【御】な可八・よ可ら
ねと・江【見】すくし/△〈削〉【見】、【見】=【見】〈削〉、±〈朱点〉・多ま八て・いと/±〈朱点〉・可なしく/±〈朱点〉・志・【給】・
【四】乃【君】尓/±〈朱点〉・あ八せ/±〈朱点〉・多てまつり・【給】て・於とら春/±〈朱点〉・もて
かしつき/±〈朱点〉・堂まへ八・あらま本しき/±〈朱点〉・【御】あ者ひ尓
なん/±〈朱点〉・【源氏】のき三は/±〈朱点右〉・うへの/へ&へ、±〈朱点〉・徒ね尓・於ほつ
可な可り/±〈朱点〉・めしま川八勢八/±〈朱点〉・【心】やすく/±〈朱点〉・さとす三
も/±〈朱点〉・江/±〈朱点〉・し・堂ま八春・【心】の/±〈朱点右〉・うち尓八・堂ゝ/±〈朱点〉、(堂堂)・ふち川
本乃/±〈朱点〉・【御】可多ち・あ里さまを・多くひなしと/±〈朱点〉・
【思】・起こ江・【給】て・さやう那らん/±〈朱点〉・【人】をこそ・みめ
古ゝら/古±〈朱点〉、(古古ら)・ナシ・【見】る・よ尓・阿り可たく/可&り、±〈朱点〉・於八し遣類可な/ま&遣、、±〈朱点〉、(於八しま類可な)・ナシ・ナシ・於ほ
いとのゝ飛めきみ/△〈削〉み、±〈朱点右〉、(於ほいとのの飛めきみ)・いと/±〈朱点〉・於可し遣尓/り$〈削〉尓、±〈朱点〉、(於可し遣り)・かしつ可礼堂流/堂〈次頁〉、±〈朱点〉、(25オ)
--------------------------------------
ナシ・【人】と・【見】ゆ礼と/△〈削〉【見】、【見】=【見】〈削〉・い可なる尓可/±〈朱点〉・【心】尓も/±〈朱点〉・つ可春・於
本江・堂まひ弖・於さ那き/±〈朱点〉・本との・こゝろ日とつ尓/(こころ日とつ尓)・
をきところ/±〈朱点〉・那く・ゝるしきまて/±〈朱点〉、(くるしきまて)・【思】ありき【給】/±〈朱点〉・
於と那耳なり/±〈朱点右〉・【給】て・能ち八・ありし/±〈朱点〉・やう尓も・み
すの/±〈朱点〉・うち尓も・い礼・多ま八春・【御】あそひなとの/±〈朱点〉・
於里/\尓//\=〈朱傍点〉、尓$〈墨朱〉、(於里於里尓、於里於里)・こと・ふ江の・ね尓・起ゝかよひ、(起起かよひ)・本乃可
なる/±〈朱点〉・ナシ・【御】遣八ひ八可里を・ナシ・那くさめ尓て・【内】す三
乃三/±〈朱点〉・古乃ましう/古+ん〈ママ〉・於本江・【給】へ八・【五六日】/±〈朱点〉・さふらひ/±〈朱点〉・
【給】て八・於本いとの尓/±〈朱点〉・【二三日】なと・多江/\尓/(多江多江尓)、±〈朱点〉・ま可て・
【給】へと・多ゝいま八/±〈朱点〉、(多多いま八)・於さ那き/±〈朱点〉・【御】本と尓・よろ川/±〈朱点〉・
つ三・那く・於ほしなして・ナシ・いと那三/±〈朱点〉・かしつき・多て万川り/万〈次頁〉、(25ウ)
--------------------------------------
【給】【御】可多の/【御】±〈朱点右〉・【人】/\、(【人人】)・ナシ・ナシ・ナシ・よに/±〈朱点〉・をしなへ多らぬ
を・江里とゝのへ/(江里ととのへ)・すくりて・さふら八せ/±〈朱点〉・【給】・【御心】尓/±〈朱点右〉・
徒くへき・あそひを・し・於本那/\/±〈朱点〉、(於本那於本那)・於本しい
堂川く/±〈朱点〉・さま・をろ可なら須/±〈朱点〉・【内】尓八/±〈朱点右〉・もとの/±〈朱点〉・し
遣いさを/=【淑景舎】、±〈朱点〉・【御】さうし尓て/±〈朱点〉・こみやすむところ能/±〈朱点〉・
【御方】乃・【人】〻/(【人人】)・ま可てちら春/±〈朱点〉・さふら八せ/±〈朱点〉・【給】・さとの/±〈朱点右〉・
と乃八もく/も±〈朱点〉、も=【木工】・すり/=【修理】、±〈朱点〉・堂く三つ可さなと尓/【見】$〈削〉三、三=三〈削〉、±〈朱点〉・せんし/±〈朱点〉・く多
里て・尓那く/±〈朱点〉・あら多め/±〈朱点〉・川くら勢・【給】・もとの/±〈朱点右〉・こたち・
【山】乃/±〈朱点〉・堂ゝすま井/(堂堂すま井)・於もしろき/±〈朱点〉・ところなり遣る
を・ナシ・いとゝ/±〈朱点〉、(いとと)・い遣乃【心】/±〈朱点〉・日ろう/±〈朱点〉・しなし・めて多う/±〈朱点〉・つくり
のゝしる/(つくりののしる)・かゝ流/±〈朱点右〉、(かか流)・ところ尓・於もふ/±〈朱点〉・やうならん・【人】を/±〈朱点〉、(26オ)
--------------------------------------
すゑて・すま者やとな遣可しう/±〈朱点〉、な±〈朱点〉・於ほしわ多る・
飛可るきみといふな八/±〈朱点右〉・こまうと能/±〈朱点〉・めて起こ江
て・徒遣/±〈朱点〉・堂て万つりけるとそ・いひ徒多へ多
流となん/±〈朱点〉、(26ウ)
--------------------------------------

 次に、文字の使い分けに関する見通しを考える上で、一例となるものを私から提示しました。それは、「乃」「能」「の」の直前に書かれている語句の漢字の表記です。あくまでも叩き台です。
 [ ]は何例あるかを示します。


■尾州本の「の」「乃」「能」の直前に書かれている漢字
--------------------------------------
なに【事】の
くるしき【事】の三
【人】の
なき【人】の
【時】の
【御時】の
【心】の
【物】の三
【物】ゝふあ多
【源氏】のき三[2]
【源氏】の【君】
【蔵人】の【少将】尓て
--------------------------------------
【人】乃[16]
【事】乃[2]
【世】乃[4]
【山】乃
【物】乃ねを
【大床子】乃
【心】乃と可尓
【草】乃
【身】乃
【風】乃
【月】乃
【女御】乃
【内侍】乃すけ乃
【内侍】乃す遣[2]
【一】乃三やの【女御】八
【一】乃三や能
【一】乃【宮】を
【宮】乃[2]
わ可【宮】乃
【故大納言】乃
【右近】乃
【右大弁】乃
【春宮】乃
【兵部卿】乃【宮】なとも
【源氏】乃
【大臣】乃
【右】乃於とゝ能[3]
【御方】乃
【四】乃【君】尓
--------------------------------------
い尓しへ【人】能
【右大臣】能
【御方】能
【人】能
【物】能[2]
【事】能八も
わ可【宮】能
【長恨歌】能
【亭子院】能
とし【月】能
との井【申】能
【事】能
【親王】能
【先帝】能
【四】能【宮】
【更衣】能
【三代】能
きさい乃【宮】能
【宮】能
【君】能[2]
【春】【東宮】能
【日】能
【春宮】能[2]
【所】能
【源氏】能【君】
--------------------------------------


 そして、参考までに、すでに変体仮名による本文の翻字を終えている池田本の例を提示しました。


■池田本の「の」「乃」「能」の直前に書かれている漢字
--------------------------------------
【右近】の
【御方】の
【北】の【方】[2]
「【雲】の
【心】の[3]
【子】の
【五六日】の
【三代】の
【三位】の
【先帝】の
【亭子院】の
【春宮】の[2]
【春宮】の【女御】の
【時】の
【年】の[2]
【殿】の
【女御】の
【人】の[5]
【宮】の
【物】の
【楊貴妃】の
【世】の[2]
【一】乃【宮】の
【一】の【宮】を
【右】の於とゝ乃
於佐免【殿】の
【更衣】の
きさい乃【宮】の
くら【人所】の
【外尺】の
【源氏】のき三
【源氏】の【君】は
【心】のと可尓
【事】の【葉】も
【四】の【宮】能
【内侍】のす遣乃
【内侍】のすけ八
【右】の於とゝ乃
--------------------------------------
【秋】乃
【池】乃
【一】乃みこの【女御】は
【一】乃み古盤
【一】乃【宮】の
【右大臣】乃
【右大弁】乃
【宇多】乃み可と乃
【内】能【内】乃
【大臣】乃[2]
【御方】乃
【御元服】乃
【御時】乃
かゝやく【日】乃【宮】と
【風】乃
【北】乃【方】
【雲】乃
【源氏】乃きみ八
【故大納言】乃
【四】乃【君】尓
【先帝】乃
【長恨歌】乃
【月】乃
【帝王】乃
【春宮】乃
【年月】乃
と乃ゐ【申】乃
【内侍】乃す遣の
【女房】乃
八ゝみやす【所】乃
【人】乃[17]
【兵部卿】乃みこなと
【松】乃
【親王】乃
【道】乃
みやす【所】乃[3]
【宮】乃
【虫】乃
【物】乃
【物】乃ねを
【物】乃婦
【楊貴妃】乃
【山】乃
【世】乃[4]
【世中】乃
わ可【宮】乃[2]
--------------------------------------
【内】能【内】乃
【風】能
【草】能
【四】の【宮】能
【春宮】能
【人】能
【日】能
【身】能
【宮】能
--------------------------------------


 まだ未整理のデータです。しかし、河内尾州家本と池田本の文字使いが違うことは明らかです。
 その際、「の」と「乃」は、使う者にとっては区別をせずに無意識に流れの中で書いた文字が、たまたま「の」となり「乃」ではないのか、という意見がでました。ここでの出現例を見ていると、そのような見方も可能であることを示しているようです。ただし、その「の」と「乃」とは異なる「能」は、明らかに使い方に違う意味合いがありそうです。今日は、その点は詰められませんでした。しかし、こうした例の検討を重ねることで、平安時代から鎌倉時代にかけての仮名文字の使い分けや、文字列の組み合わせのパターンを明らかにしていきたいと思います。
 次は、生成AIを活用した検討結果を提示できるようにしたいと思っています。

 今日から、昨日購入したプロジェクターを使用して映写しました。大きく、はっきりと映し出せたので、これからも大いに活用して行くことにします。

 終わってからは、すぐ近くのホテルの中にあるバイカルという洋菓子屋さんのカフェで、庄婕淳を交えて四方山話に花を咲かせました。




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2025年08月16日

【写真追補】日比谷で「須磨」(27)と『百人一首』(4)の講座の後は神宮外苑で花火大会を観る

 日比谷図書文化館の正面入口には、いつものように講座の案内が出ていました。

250816_掲示板.jpg


 まずは、ハーバード本「須磨」を変体仮名に注目して読む講座からです。

 回覧した本は、『あさきゆめみし』の豪華愛蔵版と中国語訳版です。これは、先週の大阪府立中之島図書館での報告に記したことと同じなので、ここでは省略します。

 私の手違いから、受講者の木村さんから先月指摘を受けていた翻字の修正が、どうしたことか配布したプリントには反映されていませんでした。私がコピーを間違えたようです。確認しながら、該当箇所の修正をしました。また、和歌の終わりに閉じるカギカッコを付けることも忘れていました。
 いろいろと不備のある資料を配布し、申し訳ないことです。

 今日確認した「変体仮名翻字版」は、次の通りです。

--------------------------------------
ナシ/+【世中】尓・めてられ・【給】へ八・きさき乃
【宮】/後き$い、(きさい乃【宮】)・きこし免して・いみしう・の多まひ
け里・於ほやけの・可う志なる・【人】は【心】尓満
可勢て・こ乃【世】の・あち者ひを多尓・しる・
こと・那くこそ・あむ奈れ・(→以下250816より確認)を毛しろき・い
ゑ井・して・勢うよう新川ゝ/(新川川)・ナシ・ナシ・ゐ・【給】へる・こと・
【世中】を・毛ときて・可の・し可を・むまと・いひ
けん・やう尓・毛てひ可める・ひとの・可く・徒いそう
するなりなと・あしき・ことゝ毛/(ことと毛)・きこゑ
介れ者・王つら者しうて・堂えて・せうそく/そ〈次頁〉、(48ウ)
--------------------------------------
きこゑ・【給】・【人】毛・那し・[27]【二条院】乃
ひめ【君】八・【程】・ふる・満ゝ尓/(満満尓)・なくさむ・可多・
奈し・ひ可んしの堂い尓/可ん〈ママ〉・【候】し・【人】〻毛/(【人人】毛)・三奈・
王多り・まいりし・八しめ八・奈尓可・佐し毛・
あらてと・於もひし可と・み・多てま川里・奈
るゝ/(奈るる)・満ゝ尓/(満満尓)・奈川可しき・ナシ・【御】あ里佐ま尓て・
ま免や可なる・可多の・【御】こゝろ者へ毛/(【御】こころ者へ毛)・【思】や里・ふ
可く・あ者れ奈れ者・ま可てちる毛・那し・
をしなへ堂らぬ・ナシ・き者の・【人】/\尓八/(【人人】尓八)・本の三
えなと毛・し・【給】・そこらの・【御中】尓・すくれ堂る/堂〈次頁〉、(49オ)
--------------------------------------
【御心】さし毛・こと者りなり介り
と・み・多てま川る・[28]可の・やまさと尓八・ひさし
く・なる・満ゝ尓/(満満尓)・え・祢んすくし【給】
ましく/んす〈ママ、諸本んしす〉・於ほえ・【給】へと・王可・三多尓・あさま
しき・すく勢と・於ほゆる・すま井奈る尓・
い可て可・うちくして八・毛のし・【給】者んと・
徒き那可らむ・【御】あ里佐ま越・【思】可へし・
【給】・【所】尓・徒介て八・よろ川の・こと・佐ま・可者
里・み・【給】へ・しらぬ・しも【人】の・こゑを毛さま
を毛・み【給】日なら八ぬ・【御心】ち・めさましく/(49ウ)
--------------------------------------
可多しけ奈く・【身】つ可ら毛・於ほさる・けふりの/の〈行末左〉・
いと・ち可う/ゝ&ち、(ゝ可う、と可う)・とき/\/(ときとき)・堂ちくるを・これ
や・し本・やくと・於ほし王多る八・を八し
ま春・うしろの・【山】尓・志はと・いふ・毛乃・
ふ春ふるなり介り・めつら可尓て・
「やまか川乃・い本り尓・堂ける・志八/\毛/(志八志八毛)・
ことゝひこ奈ん/(こととひこ奈ん)・こふる・さとひと」・【冬】尓・なり
て・ゆき・ふ里あれ多る・ころ・そら能・介し
き毛・ことすこく・奈可免・【給】て・きむ越・
ひきすさひ/前ひ$〈ママ〉・【給】弖・よしきよ尓・う多・/\は勢【給】/は〈次頁〉、(う多は勢)、(50オ)
--------------------------------------
【大輔】尓・ふえ・ふ可勢て・あそ
ひ・多まふ・【心】・とゝ免弖/(とと免弖)・あは礼
なる・て奈と・ひき・堂満へる尓・こと【物】
乃・祢八・三那・や免弖・奈三多越・のこひ
あへ里王う勢うくむ可・【胡】乃く尓へ・
ゆき介ん・於も本四や里弖・ま
して・い可那里介ん・こ乃よ尓・
王可・於もひ・きこゆる・【人】奈とを・さやう
尓・者那ちや里多らむ・ときなと・於も
ふ毛・あらん・こと乃・やう尓・ゆゝし/(ゆゆし)、(50ウ)
--------------------------------------
【胡角一声】/【角】=カク・志毛の・ゝち乃/(のち乃)・ゆめと・いとい多くす
ましてすんし・【給】・【月】・いと・あ可く・さしいりて・
者可那き・堂ひの・をまし【所】は・いく万
て/い=於、(於く万て)・くま那し・ゆ可の・うへ尓・【夜】ふ可き・
そらも・三ゆ・いり可多乃・【月】可け・すこく・三
ゆる尓・堂ゝ/(堂堂)・これ・尓しに・ゆくなりと・ひ
とりこち・【給】弖・
「い川可多乃・【雲】ち尓・王礼毛・まとひ
奈ん・【月】の・三るらん・こと毛・者川可し」・れ
いの・万とろ万ぬ・あ可【月】のそら尓・うらちとり/ら&ら・(51オ)
--------------------------------------

 1時間の休憩時間に、翻字に関する質問を5件ほど受けたので、翻字方針をお伝えしてデータの補訂をしました。

 次は、『百人一首』の講座です。
 最初に、在原行平と藤原定方の歌が刻まれた歌碑の変体仮名を読みました。

250816_100人日比谷4回_1.jpg

250816_100人日比谷4回_2.jpg

 そして、《陽明》と《鶴丸》の2つのカルタに書かれた文字列を見比べながら、それぞれの変体仮名の特徴を確認しました。

 今日は、17番歌の在原業平から20番歌の元良親王までを確認し終えました。
 脇道にそれた話について、反応があったので意見を聞きながらも、「答えは一つではない」という持論を展開しました。

 終了後も質問があったので、いろいろなパターンの仮名文字についてお答えしました。

 息子の所へ移動しようとしたら、今夜は神宮外苑で花火大会が開催されるので、少し時間をずらさないと大変だとのことだったので、新橋駅で時間調整をしてから向かいました。

 東京メトロ銀座線の青山1丁目駅を出ると、とにかく人で埋め尽くされています。何度か紹介しているイチョウ並木の上に、大輪の花火が打ち上げられていました。
 今日はちょうど、京都では五山の送り火があります。東京の神宮外苑で花火大会を見ながら大文字の賑わいを思い、両親をお見送りしました。

250816_花火1.jpg


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2025年08月09日

中之島での『百人一首』(第15回)と『源氏物語 蜻蛉』(第26回)の講座

 今日は、昨日までの暑さが嘘だったかのような、気持ちのいい爽やかな風を感じながら、涼しい公園の散策路を歩いて近くの駅に向かいました。まさに秋です。

250809_木立.jpg


 京阪で淀屋橋に着くと、大阪も連日の熱暑とは違う優しい風に包まれながら、中之島図書館の別館へ行きました。今日の講座は、本館ではなくて別館での開催です。

 まず、「変体仮名で書かれた『百人一首』をよむ」の15回目から。

 「平仮名で脳活」と「宝塚の役者名のこと」は、すでに日比谷図書文化館の報告に書いたので、今ここでは省略します。

 『百人一首』は、12番歌の僧正遍昭の歌から、2種類のカルタに書かれている変体仮名の確認を進めました。
 「あまつかぜ〜」の歌の説明で、宝塚の伝説的なトップスターだつた「天津乙女」に触れました。また、大徳寺の近くにある雲林院の境内に、この歌を刻んだ歌碑があることも話題にしました。そして、「ふきとぢよ」の「よ」がわからずに、後で「餘」であることが調べてわかった話をしました。ただし、その時にはすぐにその写真をスクリーンに映すことができなかったので、今ここにそのことを書いた記事をあげます。失礼しました。

「京洛逍遙(79)雲林院の歌碑」

 今日は、2種類のカルタに書かれている変体仮名の字母の違いなどを中心にして、21番歌の素性法師まで確認しました。

 のんびりとではあっても、少しずつ書かれている文字を中心に進めています。

 30分の休憩をしてから、次は「ハーバード大学本『蜻蛉』巻の仮名文字を読む」の26回目です。
 最初に、2冊のマンガ本を回覧しました。次の写真の上は和装本、下は中国語版です。
 内容はまったく一緒です。和装本の手触りとその製本の妙を、中国語版の吹き出しなどが翻訳されていることなどを、手に取って見ていただきました。私の講座では、可能な限り触って実見し感得していただくことを大切にしています。

250807_あさきゆめみし和本.jpg


『源氏物語 あさきゆめみし 豪華愛蔵版 三 炎の章』
  (大和和紀、講談社、1988年12月13日第1刷、1989年8月23日第2刷)
『源氏物语 あさきゆめみし 3 炎之章』
  (大和和紀、文字翻译:章吾一・ 章世菁、山东文艺出版社、2000年10月第1版)

 ハーバード大学蔵『源氏物語 蜻蛉』の「変体仮名翻字版」の確認は、59丁表2行目〜61丁表までを見ました。

 次の3箇所については、プリントに拡大した画像を掲載して、なぞられた文字や訂正の方法について説明しました。

(1)60丁裏2行目_「ゐ多累/ゐ$ゐ、る&累、累=る」

250808_「蜻蛉」60uL2_る&累.jpg

 ここでは、「ゐ」という文字をミセケチにして、その横に同じ「ゐ」を書いていることの意味がわからないことを指摘しました。これまでにも何箇所にもあったことなので、書いた文字が気に入らなかったとして片づけられない例です。書家の方に伺って解決したいものです。
 次の文字の「累」の下には「る」が書かれており、その横に「る」が傍記されたものと判断しました。

(2)61丁表1行目_「堂た/り&た」

250808_「蜻蛉」61oL1可&た_.jpg

 ここは、「堂」の次に「り」と書き、その「り」の上に「累」をなぞった例としました。下に書かれている「り」の字形については、他の箇所での文字を参照して確定したことも付け加えました。

(3)61丁表10行目〈貼紙〉「△なに/〈△ニ貼紙、「△なに」ヲ隠ス〉」

250808_「蜻蛉」61oL10〈貼紙〉.jpg

 ここに貼り紙があるのは、その下に書かれた「△なに」が前の行の末尾の「花二」を二度書きしたため、後の方の「はなに」に貼紙をしてこの語句がなかったものとして隠すものです。実は、今日は進めなかった次の丁に、もう一例、貼り紙の例があります。〈貼紙〉という方法で文字の訂正がなされていることを確認しました。
 すでに見終わった所にも、二例あります。
 ・30丁表2行目「よろつに・つかひ」の「に」と「つ」の右横に小紙片「あ」を貼る。
 ・45丁表2行目「心けれは」の「け」の右横に小紙片「う」を貼る。
 今日の講座では、このことを説明することを失念しました。次回に、補足の説明をすることにします。これまた、大変しつれいしました。

 さらに、「お」という平仮名と、その字母とされる「於」について貴重な例を指摘しました。
 これは、61丁表4行目に「おもと」と書かれている例です。

250808_「蜻蛉」61oL4お.jpg

 私は、「お」の字母は「於」ではないのではないか、という疑念をずっと抱え持っています。こうした例を少しずつ集めているので、いつか整理します。とにかく、この例は明らかに「お」であり、その他のほとんどで確認できる「於」ではないことを、あらためて指摘しておきます。


 以下に、本日確認し終えた「変体仮名翻字版」の翻字を掲載します。
 講座に参加できないために自学自習しておられる方のためにも、これまでと同じルールによるデータをあげます。参考になさってください。

--------------------------------------
■ハーバード大学蔵『源氏物語 蜻蛉』59丁表2行目〜61丁裏
翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部
( 「 )・末尾( 」 )、底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)
--------------------------------------
い川可多尓も/\/(い川可多尓もい川可多尓も)・よりて・めて多き・【御】すく
せ・みえ多る・さ万尓てそよに・於八せまし
かし・あさ満しく・八可なく・【心】うかりける・【御心】可
奈なと・【人】尓八・その・王多りの・こと・かけても・し
里可本尓・い者ぬ・ことなれ八・【心】日と川二・あ可春・
むね・い多く・【思】・【宮】八・うちの・【御】もの可多りなと・
こ万や可尓・きこえ・【給】へ八・いま・【一所】八・多ちいて/ち&ち・
【給】・みつけられ/△&み・多て万川らし・【御】者てをも・すく
さ春・【心】あさしと・みえ・多て万つらしと・【思】へ八・
かくれぬ・[31]ひん可しの・わ多【殿】尓・あきあい多る/(59オ)
--------------------------------------
とくち尓・【人】/\/(【人人】)・ゐて・もの可多りなと・する・【所】尓・
於者して・なにかし越そ・【女房】八・む川可し
う/可=ま、(む川ましう)・於ほすへきや・【女房】多に・かく・【心】や春き八・
あらし可し・さるへ可らん/±さす可尓・こと八・於しへ・きこ
えぬへくも・阿り・やう/\/(やうやう)・三し里・【給】へ可免れ八・
いとなん・うれしきと・の多万へ八・いといらへ尓くゝ/(いらへ尓くく)・
於もふ・【中】尓・【弁】のをもとゝて/(【弁】のをもととて)・なれ多る・於と
なそ・む川可しう・於もひ・きこゆへき・ゆへ
なき・【人】の・八ち・きこえ・八へらぬ尓や・もの八・
さこそは・【中】/\/(【中中】)・八へり介れ・可ならす・その・ゆへ・多つねて/つ〈次頁〉、(59ウ)
--------------------------------------
うちとけ・【御】らんせらるゝにしも/(【御】らんせらるるにしも)・【侍】ら
ねと・か者可り尓・於もなく・川くりそめてける・
【身】尓・於者さらんも・可多八らい多くてなんなと・
きこゆれ八・ゝ川へき/ゝ&へ、(八川へき、八川川き)・あえ/あ$ゆ、(ゆえ)・【侍】らしと・【思】さ多
めて/て$、・多万ひてけるこそ・くちをし介れ
なと・能【給】川ゝ/(能【給】川川)・三れ八・からきぬ八・ぬきすへし・
於しや里・うちと介て・ゝならひしけるなるへし/(てならひ)・
すゝりの/(すすりの)・ふ多川尓/川$、(ふ多尓)・すへて・【心】もとなき・八なの・す
江/\/(す江す江)・於里て・もてあそひけ里と/ひ&そ、(もてあひひけ里と)・三ゆ・可多へ八・
きちやうの・あな多に・春へり可くれ・あるい八(60オ)
--------------------------------------
うちそむき・於し阿介多る・との・可多尓・
万きゝ八し川ゝ/前ゝ$ら、(万きき八し川川、万きら八し川川)・ゐ多累/ゐ$ゐ、る&累、累=る・可しらつきともゝ/(可しらつきともも)・を可
しと・三王多し・【給】て・すゝり/(すすり)・ひきよせ弖・
「於三なへし・三多るゝ/(三多るる)・【野】へ尓・ましると母・
川ゆの・あたなを・王れ尓・可介免や」・【心】や春く
者・於ほさてと・多ゝ/(多多)・この・しやうしに・うしろ・
志多る・【人】尓・三せ・【給】へ八・うちみしろきなと
も・せ須・のとや可なるもの可ら・いと・ゝく/(とく)・
「いなと/い$八、(八なと)・いへ八・なこそ・あ多なれ・於三なへし・
なへての・川ゆ尓・三多れや八・する」と・可き多る/多〈次頁〉、(60ウ)
--------------------------------------
て・堂た/り&た・可多そ八なれと・よしつきて・
於ほ可多・めや春介れ八・多れならんと・三・【給】・いま・ゝ
うの本り介る/(まうの本り介る)・三ちに・ふ多遣られて・とゝこ本り
い多るなるへしと/(ととこ本り)・三ゆ・【弁】のおもと八・いと・けさ
や可なる・於きな【事】尓て・八へりとて・
「たひね・して・な越・【心】三よ・【女】へし・さ可り能
さ可りの/さ可りの〈ママ〉・いろ尓・う川り・うつら春」・さて・のち・さ
多め・きこえさせんと・いへは・
「やと・可さ八・【一夜】八・ねなん・於ほ可多の・【花】二
△なに/〈△ニ貼紙、「△なに」ヲ隠ス〉・うつらぬ・【心】なりと母」と/【心】&【心】・阿れ八・な尓可は(61オ)
--------------------------------------





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2025年08月02日

宇治で相愛本『源氏物語 橋姫』の変体仮名を読む会(3)

 『源氏物語 橋姫』を読む勉強会の会場である「シェア型書店HONBAKO京都宇治」は、「GOLDEN GATE」の看板の下にあります。

250802_本箱入口.jpg


 入ると、ギッシリと本が並んでいます。

250802_本箱.jpg

 私がお借りしている本箱は2つ。その2つ共に、今日は本の総入れ替えをしました。これまでの「『源氏物語』その@」と「『源氏物語』そのA」を、「特集『源氏物語』」と「特集《小野小町》」に変更し、並べる本を刷新しました。大学の卒業論文が、私は『源氏物語』、妻が『小野小町』だったので、遊び心から並べてみました。
 店主の山本さんが、小野小町の1冊をパラパラの見て、これはエロ本ですね、私にはとても読めなくて、と仰っていました。実は前回の『源氏物語』でも、その手の本を紛れ込ませていました。どなたも手にされなかったようです。

 今日も、多くの方が出入りしておられ、賑わっていました。まだ、どのような本が求められているのかわかりません。もうしばらくは、様子見です。

 本の入れ替えの整理をしていたら、某放送局の方がカメラを回し、いろいろと聞いてこられました。店主の山本さんからは、今日の取材の確認が事前にあったので、丁寧に対応したつもりです。

 2階のフリースペースでの勉強会も、取材対象になりました。後日、放送日などを本ブログでお知らせしますので、楽しみにしてください。
 もっとも、昨夏の日比谷図書文化館での講座を取材してニュースの形で放映された内容は、切り取られた場面がインパクトのない内容だったせいもあり、みなさまから不評でした。さて、今回はどのようにまとめてくださるのでしょうか。

 今日は、次の2枚の資料を配布して、前回の資料と合わせて進めました。

250802_橋姫-03_1.jpg

250802_橋姫-03_2.jpg

 「(1)スマホ(Android15)に表示される変体仮名」では、現在販売されているスマホに表示される変体仮名の確認をし、どのような文字が変体仮名としてユニコードに登録されているかということについて、少し問題点の指摘をしました。これは、またあらためて報告します。

 「(2)回覧:春曙文庫本『源氏物語 橋姫』(宮川保子氏作断簡の臨模試作)
       ハーバード大学本『源氏物語 須磨』(宮川保子氏作成の臨模本)
       糸罫(NPO法人〈源氏物語電子資料館〉理事の石田弥寿子氏作製)
         宮川氏お手製の糸罫」は、今日から参加なさった方のために、古写本がどのようなもので、どのようにして書写されているかを、実物を見て、触ってもらい、わかりやすく説明しました。

 「(3)ハーバード大学本の兄弟本(淺川槙子氏の報告)」は、ここで読むのが相愛大学本の「橋姫」なので、それがどのような本であり、他にどのようなものがあるかということを説明しました。これも、今回初めて参加された方のための、基礎的な情報を共有するための確認事項です。

 そして、「(4)春曙文庫本『源氏物語 橋姫』現存第二丁表〜第三丁表[変体仮名翻字]」です。
 ここでは、前回(七月五日・第二回)配布したプリントを元にして、書写されている本文の1文字ずつを確認しました。

--------------------------------------
於毛ひいて・きこゑ・堂まふ・
遣累まゝ尓/(まま尓)・あ里あ遣乃・【月】ま多・よ
ふ可く・さ志い川累・【程】二・いて堂ちて・いと・志
のひ弖・【御】と母尓・【人】奈と毛・なくて楚・や川
礼弖・を八し介り・可は乃・こな多奈れ八・
布祢なと母・わ川ら八て・【御】むま尓て・
奈り遣り・いり・もていく・まゝに/(ままに)・き里ふ多可
里て・みち毛・三ゑぬ・し遣き・【野中】越・
わ遣・【給】尓・い登・あらましき・可勢乃・き
をひ尓・本ろ/\登/(本ろ本ろ登)・をちみ多累ゝ/(をちみ多累累)・こ能者乃/者〈丁末左〉、乃〈次頁〉、(2オ)
--------------------------------------
【露】乃・越ち可ゝ累毛/(越ち可可累毛)・い登・ひやゝ可尓/(ひやや可尓)・【人】
や里奈ら春・い堂く・ぬ礼・堂まひぬ・
可ゝ累/(可可累)・あ里き奈ん登母・於さ/\/(於さ於さ)・なら
ひ・【給】者ぬ・古ゝち尓/(古古ち尓)・【心】本そく・を可
しう・於ほえ【給】・
「【山】をろし尓・堂えぬ・【木】春ゑ能・
【露】より毛・あや奈く・毛ろき・【我】・奈み多【哉】」・
やま可川乃・越とろく毛・うるさし
と弖・ゆいしむの/ゆ〈ママ〉諸本「す」・をと母・世さ世・
【給】者春・し葉能・ま可き越・王けつゝ/(王けつつ)(2ウ)
--------------------------------------
そこ者可登なき・【水】・奈可礼とも越・ふ三し多く・
こま乃・あし越登母・【猶】・しのひ弖・よ
う井志・【給】へ累尓・可くれ奈き・【御】尓本ひ八・
可勢尓・し堂可ひ弖・ぬ志・ゝらぬ/(志らぬ)・可と・
をとろく・祢さ免乃・いゑ・あ里け累・ち
可く・なる・【程】尓・←(20250803_ココマデ)(以下次回)
--------------------------------------


 帰りに宇治橋通りに行くと、ビール祭りということで、大賑わいでした。この通りがこれだけの人で埋め尽くされるのは、初めてみました。みなさん、楽しそうです。7割方は海外の方々のようでした。

250802_祭り.jpg


 平等院表参道で食事をしてから帰りました。熱暑のせいか、帰りの足取りは気怠さを引き摺りながらのウォーキングとなりました。




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2025年07月26日

キャンパスプラザ京都で尾州家河内本「桐壺」を読む(第32回)

 キャンパスプラザ京都(京都市大学のまち交流センター)の1階正面入口にある掲示板には、いつものように本日の会合の案内が出ています。NPO法人〈源氏物語電子資料館〉では、基本的には5階の第5演習室をお借りするようにしています。

250726_掲示板.jpg

 今日はまず、吉村氏から問題提起された前回の課題に関して、私が追跡調査した報告から始めました。
 Android 15を搭載した OS では、変体仮名が基本的にサポートされていることを、さらに量販店の店頭で確認した話です。
 また、「白舟書体「教育漢字版」フォント」と「NINJAL変体仮名フォント」についても説明しました。
 こうしたことが、今後とも日本国内でどのように認知されて行くのか、というところで話は終えています。まずは、店頭に並んでいる変体仮名が表示できるスマホがこのまま販売され続けるのか、興味深いところです。ある日突然、店頭から消えるのではないか、と個人的には想像しています。

 さて、尾州家河内本「桐壺」の本文を「変体仮名翻字版」で作成した資料で確認する勉強は、今日は第22丁表から第24丁裏までを行いました。
 特定の単語にどのような変体仮名を用いて表記するのか、ということについて、相変わらず疑問符をつけながら進めています。

 今日の範囲で言えば、「【源氏】の【君】」(23丁表10行目)と「【源氏】能【君】」(24丁表9行目)の場合に、「の」と「能」のにはどんな使い分けがあるのか、などなど、これまでにも問題となったことを思い合わせました。
 本日確認した「変体仮名翻字版」の本文は次の通りです。


-------------------------------------- 
【春】【東宮】能・【御】遣んふく能・【南殿】尓/±〈朱点〉・ありし・き志
き・よそ本し可里し【御】ひゝき尓/±〈朱点〉、(【御】ひひき尓)・於とさせ・多ま
八寸・ナシ・ナシ・ところ/\能/±〈朱点右〉、(ところところ能)・きやう/=△〈削〉饗・くら川可さ/±〈朱点〉、=内蔵寮・こくさうゐなと/±〈朱点〉、=穀倉院・
ナシ・於本や遣【事】尓/±〈朱点〉・ナシ・ナシ・つ可う万つ礼るれいの於ろそ可なる/れ±〈朱点〉・
【事】も・と里王き多流/±〈朱点〉・於本世【事】/±〈朱点〉・あ里て・ナシ・をの/\/±〈朱点〉、(をのをの)・
きよらを・つくして徒可うまつ礼り/徒±〈朱点〉・於八しま春/±〈朱点右〉・
てん乃・日ん可し能・飛さし尓・日ん可しむき尓/±〈朱点〉・【御】
いし/±〈朱点〉、い=倚子・堂てゝ火さ能【御座】/±〈朱点〉、火±〈朱点〉、(堂てて)、火=冠者・飛きいれの/±〈朱点〉・【大臣】乃・
【御】さ・【御前】尓/±〈朱点〉・阿り・【時】なりて/±〈朱点右〉・【源氏】/±〈朱点〉・まいり・多まふ・
三つら/±〈朱点右〉・ゆひ・多まへる・つらつき/±〈朱点〉・可本の/±〈朱点〉・尓本ひ・さま/±〈朱点〉・
可へ・堂まはむ/へる&はむ・【事】・於し遣なり/±〈朱点〉・【大蔵卿】/±〈朱点右〉・三蔵人/三$〈墨〉、±〈朱点〉(22オ)
--------------------------------------
つ可う万川る/±〈朱点〉・いと/±〈朱点右〉・きよらなる/±〈朱点〉・【御】くしを/±〈朱点〉・そく/±〈朱点〉・本と・
【心】くるし遣なり/±〈朱点〉・うへ者/±〈朱点右〉・三やすところ能/±〈朱点〉・【見】多万
八まし可八と/み〈削〉【見】、【見】=【見】〈削〉・於本しいつる尓/±〈朱点〉・いと多へ可多き越/±〈朱点〉、江〈削〉へ・
【心】徒よく/±〈朱点〉・於本し可へ春・かうふりし/±〈朱点右〉・【給】て・【御】や春三
ところ尓/±〈朱点〉・ま可て/±〈朱点〉・堂まて・【御】そ/±〈朱点〉・多てまつり可へ弖・
於里弖/±〈朱点〉・八いし/±〈朱点〉、=拝・多て万つり・【給】・さま尓そ・三那【人】/±〈朱点〉・
な三多・於とし/±〈朱点〉・多まふ・み可と八/±〈朱点右〉・まし弖/±〈朱点〉・江/±〈朱点〉・多へさせ・
堂ま八春・於本しま起るゝ/±〈朱点右〉、(於本しま起るる)・於里も・阿り遣類/±〈朱点〉・
む可しの/±〈朱点〉・【事】・と里可へし・ナシ・可奈しう/±〈朱点〉・於も本さる・
いと/±〈朱点右〉・可う/±〈朱点〉・き飛わなる/±〈朱点〉、き=〈朱傍点〉、飛=〈朱傍点2〉、わ=〈朱傍点〉・本と八・あけをとりもやと/±〈朱点〉・う
多可八しく/±〈朱点〉・於ほされつるを/±〈朱点〉・ナシ・ナシ・あさましう/±〈朱点〉・ゝ川くし遣さ/く〈次頁〉、(う川くし遣さ)、(22ウ)
--------------------------------------
そひ・多まへり・飛きいれの/±〈朱点右〉・【左大臣】・
みこ八ら尓/±〈朱点〉・堂ゝ/±〈朱点〉、(堂堂)・日とり・可し川き/±〈朱点〉・【給】・【御】むすめ/±〈朱点〉・【春
宮】よりも/±〈朱点〉・【御】遣しき/±〈朱点〉・あるを/±〈朱点〉・於本し王つらふ/±〈朱点〉・【事】・
ありける・こ乃/±〈朱点〉・【君】尓・多て万つらん能・【心】・ふ可きなり
遣り・うへ尓/±〈朱点右〉・【御】遣しき・堂ま八らせ・【給】遣れ八・
【御】とき/±〈朱点〉・よくて・さら八/±〈朱点〉・や可て・こ乃・おり能・うしろ
三・な可めるを・そひふしにもと/±〈朱点〉・毛よ本させ/±〈朱点〉・【給】
遣れ八・さ/±〈朱点〉・於ほし多り・さふらひ尓/±〈朱点右〉・ま可て・【給】て・
ナシ・【御】みきなと/±〈朱点〉・まいる・本と・みこ多ちの/±〈朱点〉・【御】さの・すゑ
耳・【源氏】の【君】/±〈朱点〉・つき・【給】へり・於とゝ/±〈朱点右〉、(おとと)・遣しき八三・
【給】・【事】・あれと・八つ可しくて/±〈朱点〉・と可くも/±〈朱点〉・あへしらひ起こ江/±〈朱点〉、起〈次頁〉、(23オ)
--------------------------------------
堂ま八春・【御前】より/±〈朱点右〉・【内侍】/±〈朱点〉・世んし/=宣旨・うけ
堂ま八り・徒多へ弖・於とゝ/±〈朱点〉、(於とと)・まいり・【給】へき・め志・
阿れ八・万いり/±〈朱点〉・【給】・ろく乃/±〈朱点〉・【物】・うへの命婦/±〈朱点〉・と里て/±〈朱点〉・
多まふ・しろき/±〈朱点右〉・於ほうちき尓・【御】そ/±〈朱点〉・日とく
堂り・連いの/±〈朱点〉・【事】なり・【御】さ可川きの/±〈朱点右〉・ついて尓・
「いときな起・八つもと遊ひ尓・な可き・よ越・
ちきる・【心】八・む春ひこめつや」と・【御心】八へ/±〈朱点〉・阿りて・
於とろ可さ勢/±〈朱点〉・【給】・
「む春ひつる・【心】も・ふ可き・もとゆひ耳・
古き・むらさきの・いろし・あせす八」と・そうして/±〈朱点〉、=奏、=して〈左傍記〉・
ナシ・な可八しより/±〈朱点〉、=長階・於りて・ふ多うし/=舞踏・【給】・飛多り能つ可さの/±〈朱点右〉、能〈次頁〉、(23ウ)
--------------------------------------
【御馬】・くら【人】ところ能/±〈朱点〉・堂可・すゑて・
たま八り/±〈朱点〉・【給】・み八しの/±〈朱点右〉・もと尓・みこ多ち/±〈朱点〉・可む多ち
め/±〈朱点〉・徒らねて/±〈朱点〉・ろくとも/±〈朱点〉・新那/\/±〈朱点〉、(新那新那)・堂ま八り/±〈朱点〉・【給】・
そ乃/±〈朱点右〉・【日】能・於まへ能・ナシ・於りひ川【物】こものなと/こ±〈朱点〉、こ=籠物・
【右大弁】なん/±〈朱点〉・う遣堂ま八りて/±〈朱点〉・つ可う万徒ら勢
遣る/±〈朱点〉・としき/±〈朱点右〉、=屯食・ろく能/±〈朱点〉、=禄・可らひ川ともなと・ゝ古ろせ
きまて/±〈朱点〉、(と古ろせきまて)・【春宮】能/±〈朱点〉・【御元服】尓・可寸・まさり弖・な可/\/±〈朱点〉、(な可な可)・
かきり・なく・い可めしくなん/±〈朱点〉・あり遣る・や可て/±〈朱点右〉・【所】能・
【夜】・於とゝ能/(於とと能)・【御】さと尓・【源氏】能【君】/±〈朱点〉・ま可てさせ・多て
万川り・【給】・さ本う/±〈朱点右〉・よ尓/±〈朱点〉・めつらしきまて/±〈朱点〉・もて可し
つき/±〈朱点〉・ナシ・多まへり・いと/±〈朱点右〉・き飛わ尓て/±〈朱点〉・於八し多流を/±〈朱点〉、(24オ)
--------------------------------------
ゆゝしう/±〈朱点〉・ゝ川くしと/±〈朱点〉、(う川くしと)・於本春/±〈朱点〉・ナシ・ナシ・をん那【君】八/±〈朱点右〉・すこ
し/±〈朱点〉・すくし/±〈朱点〉・堂まへる本と尓・いと/±〈朱点〉・わ可う/±〈朱点〉・於八春連
八・尓けなう/±〈朱点〉・八つ可しと/±〈朱点〉・於本し多り/±〈朱点〉・こ乃/±〈朱点右〉・おとゝ乃/(おとと乃)・
【御】於ほ江・いと/±〈朱点〉・やむ【事】なく/±〈朱点〉・於八する尓/±〈朱点〉・者ゝ【宮】八/±〈朱点〉、【宮】±〈朱点〉、(者者【宮】八)・
み可との/±〈朱点〉・日と川きさい八ら尓なん・ナシ・ナシ・ナシ・於八し遣礼八/±〈朱点〉・
いつ可多尓/±〈朱点〉・つ遣ても・いと/±〈朱点〉・八那や可なる尓/±〈朱点〉・こ乃/±〈朱点〉・
【君】さへ/へ〈削〉へ・かく於八しそひぬれ八/±〈朱点〉、於±〈朱点〉・【春宮】能/±〈朱点〉・【御】於ほ
ち尓て・つ井尓/±〈朱点〉・【世】乃な可を・しり・【給】へき・【右】乃
於とゝ能/±〈朱点〉、(【右】乃於とと能)・【御】いきをひ者・ナシ・【物】尓も/±〈朱点〉・あら寸・をさ
れ/±〈朱点〉・堂まへり・【御】ことも/±〈朱点右〉・八ら/\尓/±〈朱点〉、(八ら八ら尓)・あま多/±〈朱点〉、多&多・ナシ・【物】し・
【給】・ナシ・【宮】乃/±〈朱点右〉・【御】八ら尓八・【蔵人】の【少将】尓て/±〈朱点〉・またいと/±〈朱点〉、い±〈朱点〉、(24ウ)
--------------------------------------


 尾州家河内本「桐壺」は、次回で終わる予定です。これまでの資料で索引をつくることで、どのような字母で言葉が構成されているのかが、明らかになることも多いかと思います。
 さらには、このキャンパスプラザ京都では池田本「桐壺」の本文を変体仮名で確認し終えているので、あわせて写本における字母の使い分けのおおよその傾向がわかるはずです。
 いずれも、詳しくは次回に、ということで終わりました。

 帰りに、変体仮名が表示されるスマホを買いに、駅前のヨドバシカメラに寄りました。吉村氏が購入したものと同じ機種にする前に、店員の方にこの Android 15を搭載したスマホ同士で、変体仮名を交えた言葉をメールでやりとりができるのか、ということと、その言葉を印刷できるのか、ということを質問しました。
 今日は違う方に聞いたにもかかわらず、前回同様、話にならない対応でした。とにかく、スマホに表示される文字に関する知識がないし、ピンボケの対応です。機械を売ることにしか関心はなく、機能に関する説明は仕事ではないと思っておられるようです。お店の方で、Android 15のスマホを持っている方2人にやりとりをしてもらえないか、と聞くと、他の方と相談するために出たり入ったりした揚げ句に、いろいろな理由を付けて、できないとのことでした。別のコーナーの方にも同じようなことを聞いても、とにかく社員の勉強不足で話になりません。何人もの社員がおられるのにまともな対応ができない日本の若者に、とにかく失望しました。みなさん、機械を作った会社に聞いてくれ止まりです。ここまでが、今の京都での現状です。ちょうど1週間前の、東京の有楽町駅前にあるビックカメラでの対応と変わりません。

 店員の意識の根底には、日本語がどのようにして表示されるのか、などにはまったく興味がないのです。まあ、問題意識がないので仕方のないこととはいえ、いつかどこかで説明してくださる方との出会いを楽しみにしています。
 こうした現実を、マスコミも興味がないのでしょう。ネットのニュースなどにもみかけません。日本語の中でも、仮名文字が無責任に放置されています。もうすこし待ってから、こうしたことを専門とする方に聞いてみようと思っています。




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2025年07月19日

日比谷で「須磨」(26)と『百人一首』(新3)を読み、スマホと変体仮名のことに及ぶ

 午前中に東京駅に着くと、有楽町駅前のビックカメラに行きました。京都で確認した、スマホに変体仮名が表示されることを、東京ではどうなのかを調べるためです。
 当然のことながら、売り場の方はそんなことはまったくご存知ありません。社員の方も含めて皆無です。そこで、通信のことは切り離して、機器だけの担当の方に話を聞きました。いろいろなスマホをテストしてもらう内に、Android15 だけが変体仮名が出ることがわかりました。Android14 では変体仮名が出ないのです。担当者の方は、変体仮名が表示されることの意味は理解できないし、正直なところわからないことだらけだ、とのことでした。

 上の階で食事をしながら生成AIにいろいろと質問をして、以下の情報を得ました。

 「Gemini」の回答から。以下の緑字の引用文の中の赤字の部分に注目したいと思います。特に「Noto Hentaigana」については、「NO more TO-fu」から来ているそうです。フォントが正常に描画されない時に、代わりに四角い記号が表示されることがあります。それを「豆腐」と言っています。「Noto」は、豆腐がない、と言う意味をもっているのです。このことは、この後の講座の中で私がこの話をしている時に、受講生の方が教えてくださいました。ありがとうございました。私も、こうして時代に変化に何とか着いて行けています。

スマホで変体仮名が表示される機種とされない機種があるのは、主に以下の理由によります。
 * OSの対応状況とフォントの搭載:
   * 変体仮名のUnicode対応: 変体仮名は、現代の平仮名とは異なる字形を持つため、Unicodeという文字コード規格で個別の文字として定義される必要があります。Unicodeに対応していなければ、そもそも文字として認識されません。
   * OSのフォント搭載: スマートフォンのOS(iOSやAndroid)が、変体仮名を表示するためのフォントを標準で搭載しているかどうかが重要です。古いOSや、変体仮名に対応していないフォントしか搭載していない機種では、表示することができません。
   * 最近の動き:
     * Googleは、あらゆる文字を表示できるようにする「Noto」プロジェクトの一環として、**「Noto Hentaigana」**という変体仮名フォントをリリースしています。
     * Android 15からは、標準の日本語フォント(NotoSansCJK)がバリアブルフォントになり、変体仮名がデフォルトでサポートされることが発表されています。これにより、Android 15以降を搭載する機種では、変体仮名が表示されるようになるでしょう。
     * iOSでも、変体仮名アプリなどが提供されており、フォントのアップデートによっては表示が改善されている可能性があります。
 * アプリ側の対応:
   * OSが変体仮名に対応していても、使用しているアプリがそのフォントを呼び出して表示する仕組みになっていなければ、表示されないことがあります。例えば、特定のWebサイトや電子書籍アプリなどが、独自のフォント設定をしている場合などです。
 * Webフォントの利用:
   * 一部のWebサイトでは、変体仮名を表示するために「Webフォント」という仕組みを利用している場合があります。Webフォントは、サイトを閲覧する際に一時的にフォントをダウンロードして表示するため、端末のOSが直接フォントを搭載していなくても表示されることがあります。
要するに、変体仮名の表示には「OSが変体仮名を文字として認識し、それを表示できるフォントを持っているか」が最も大きな要因となります。新しいOSバージョンや、変体仮名対応のフォントを搭載した機種では表示され、そうでない機種では表示されないという状況になっています。

 続いて、チャットGPT の回答の一部を紹介します。

以下は、変体仮名フォントを提供している代表的な2つのフォントと、その入手方法です

1. 白舟書体「教育漢字版」フォント(無料版)

教育漢字1026字対応のOpenTypeフォントで、変体仮名にも一部対応しています。無料でダウンロードできますが、J‑Font.comへの会員登録が必要です。

2. NINJAL変体仮名フォント(特化型)

国立国語研究所(NINJAL)が学術目的で提供している、変体仮名専用フォントです。

 国立国語研究所の変体仮名専用フォントについては、その選定の段階から知っていました。しかし、こうした流れの中での理解はしていませんでした。私が付いて行けていなかったことになります。
 白舟書体「教育漢字版」フォントについては、京都の自宅に帰ってから確認します。
 こうした件については、今後もさらに追究していきます。

 日比谷では、今日も私が大好きなゴジラが吠えています。

250719_ゴジラ.jpg

 身体の火照りを覚ますため、帝国ホテルに立ち寄りました。ロビーの中央には、ヒマワリが咲き誇っています。

250719_ヒマワリ.jpg

 日比谷図書文化館の入口には、いつものように本日の講座の掲示があります。

250719_掲示板.jpg

 今日の最初は、「ハーバード大学蔵『源氏物語 須磨』を読む(二六)」です。
 本題に入る前に、過日のブログで取り上げた、「変体仮名が今のスマホ社会で認知されていることを知って」(2025年07月02日、http://genjiito.sblo.jp/article/191406349.html)をもとにして、現在スマホで変体仮名が表示されることの意味についてお話しました。先ほど言ったビックカメラでの話しもしました。すると、2人の方から自分が使っているスマホに変体仮名が表示されるとの報告を受けました。ただし、変体仮名が表示されることがどのような意味を持つのかは、これまで考えても見なかった、とのことです。お話してよかったと思いました。

 ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」に関しては、48丁表と48丁裏の5行目までしか進めませんでした。スマホと変体仮名の話しが長くなったことと、今日から参加なさっていた方が6名もいらっしゃったので、ゆっくりと丁寧な説明を心がけたこともあります。
 この講座の主旨は、変体仮名が読めるようになることにあるので、ゆっくりと進んだことはお許しいただくことにしましょう。
 今日確認した箇所は、以下の通りです。

【入道宮】八・【春宮】の・【御】こと越・ゆゝし
うの三/(ゆゆしうの三)・於も本す尓・【大将】も・可く・佐すらへ・【給】
を・い三しう・於毛ほ世登・い可ゝは/(い可可は)・勢ん・多いら可
尓堂尓・越八しすくして・こと毛・よろしう・
奈ら八なと・於もす・いと・毛乃者可那き・【程】尓・を
八しま須そ・多の毛しけ奈き・【心】ち・志・
多満ひける・【御】八ら可ら能・みこ多ち・む川
ましう・きこゑ可多らひ・【給】ひし・【上達部】・
者し免徒可多八・さふらひ・きこゑ奈と・ナシ・あ
里き・ナシ・ナシ・あ者れ奈る・ふ三越・徒くり可しそれ尓徒け弖/れ〈次頁〉、可し〈ママ、諸本かはし〉、(48オ)
--------------------------------------
ナシ/+【世中】尓・めてられ・【給】へ八・きさき乃
【宮】/後き$い、(きさい乃【宮】)・きこし免して・いみしう・の多まひ
け里・於ほやけの・可う志なる・【人】は【心】尓満
可勢て・こ乃【世】の・あち者ひを多尓・しる・
こと・那くこそ・あむ奈れ

 ここでは、48丁表の最終行にある「徒くり可しそれ尓徒け弖/れ〈次頁〉、可し〈ママ、諸本かはし〉」について、凡例に新たに追加することになる、ということを説明しました。それは、「徒くり可し」とある箇所は脱字があると思われ、諸本を見比べると本来は「徒くり可はし」とあるべきだと思われるからです。そのため、付加情報に「〈ママ、諸本かはし〉」という記述を加え、これを凡例に追記することにしたのです。
 凡例が次第に増えて来て、その整理が大変になりました。しかし、しっかりとした方針で「変体仮名翻字版」を作るためにも、この凡例は厳密なものを作成する必要があります。そうした思いで「変体仮名翻字版」を作りつつ、凡例も更新をしているところです。

 1時間の休憩時間には幾つかの質問を受け、軽食を食べて『百人一首』の講座に臨みました。

 最初に話題にしたスマホに変体仮名が表示できる話は、『源氏物語』の「須磨」の時よりも詳しくしました。反応が良かったので、つい長話になりました。
 『百人一首』に関しては、まず「宝塚の方の芸名が『百人一首』と関係あること」と「落語と『百人一首』」の2つの資料で、『百人一首』への興味と関心を深めてもらうことにしました。これは、新たに受講される方が多かったために、こうした内容にしました。
 なお、このことは機会をあらためて報告しますので、ここでは省略します。

 『百人一首』については、11番歌の参議篁から16番歌の中納言行平までを、変体仮名に注意しながら和歌の文字を丹念に追いました。

 終了後も、何人かの質問があり、その対応をしてから終わりました。




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2025年07月12日

中之島での『百人一首』(第14回)と『源氏物語 蜻蛉』(第25回)の講座

 淀屋橋から大阪府立中之島図書館を望んでシャッターを切ると、左手上空を伊丹空港に向かう飛行機が写っていました。今日は、万博会場を中心にして、ブルーインパルスが大阪上空を編隊飛行する日です。午後3時前後の予定とのことなので、ちょうど講座のまっ最中になります。見られなくて残念です。

250712_図書館.jpg

 本日の『百人一首』の講座で使用したプリントは5枚です。その内の4枚を、画像として引きます。

250712_中之島・百人-14_1.jpg


250712_中之島・百人-14_2.jpg

250712_中之島・百人-14_3.jpg

250712_中之島・百人-14_4.jpg

 まず最初の3枚の資料は、すでにブログで報告したことを取り上げて、現在問題があると思っていることをお話しました。ブログでは、「■スマホで変体仮名が送受信できる時代に突入していること(2025年06月30日、「http://genjiito.sblo.jp/article/191404255.html」)と題して書いたことです。

 次の1枚は、これもブログで報告した記事の「■変体仮名が今のスマホ社会で認知されていることを知って
(2025年07月02日、「http://genjiito.sblo.jp/article/191406349.html」)の要約です。
 私の講座は、変体仮名が読めるようになることを主眼とするものです。そこへ、変体仮名が表示できるスマートフォンが販売されている現実がわかりました。これは、相容れない状況が起きているので、どうしても無視できないために、実状の報告とそれに対するコメントをしました。いずれは、どこからか圧力がかかって、変体仮名が表示できるスマホは市場から姿を消すと思っていますが。

 メインの『変体仮名でよむ 百人一首』をテキストとする勉強は、7番歌(安倍仲麻呂)から11番歌(参議篁)までの5首を扱いました。陽明文庫と国文研の二種類のカルタに書かれている変体仮名の和歌を、その字母の違いに留意しながら確認しました。


 30分の休憩時間に、ブルーインパルスの編隊飛行が大阪城の上を飛んでいるところを、図書館の窓から撮影した方がいらっしゃいました。見せてくださった写真には、はっきりとブルーインパルスが白煙を引いて飛んで行く姿が写っていました。なかなか見られないものなので、思い出の写真となることでしょう。


 次は、ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「蜻蛉」の変体仮名を読む時間です。
 ここでも、スマホで変体仮名が表示される現在の状況を、簡単にお話しました。
 そして、すぐに宮川保子さんが相愛大学の写本の臨模本を手がけておられることに触れ、実際に試作版の資料を見てもらいました。800年前の古写本の実態がわかる資料なので、紙質や文字や装飾料紙をじっくりと見てもらいました。まさに、実感実証の体験を伴った勉強会となっています。

 ハーバード大学蔵『源氏物語 蜻蛉』は、57丁表から59丁表の1行目までを確認しました。
 今日は、同じ文字をなぞっている箇所がいくつもあったので、その理由がよくわからないことを伝えました。また、変体仮名の「者(は)」や「王(わ)」そして「を」が認識しにくい字形であることの確認もしました。
 現在使っているテキストは白黒写真であり、よくわからない箇所に関して、カラー画像を拡大したものを提示して、詳しく見ました。次の例がそれです。
 まず、58丁表9行目の「万いら△給」とあるところです。11年前に刊行したテキストでは、「まいらせ給」として「せ」の横に「(判読)」と付記しました。しかし、次の写真を見てもわかる通り、赤く囲った箇所を「せ」と読むには大いに疑問があります。そこで、「万いら△給」として無理に読まないで不読文字の△で翻字することにしました。

250711_「蜻蛉」58oL9_万いら△.jpg

 もう1例。上記の次の行である58丁表10行目「さ可り/$ころ」とした箇所には、ミセケチの点があることです。カラー写真で見るとわかるように、本行の文字の左横に点が打たれていることが確認できます。その右横に書かれた「ころ」は、墨の色からも後に傍記として書き込まれた文字のようです。

250711_「蜻蛉」58oL10_$.jpg

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■ハーバード大学蔵『源氏物語 蜻蛉』57丁表〜59丁裏
翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部
( 「 )・末尾( 」 )、底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)
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【御】く尓て・いと・こよな可らぬ・【御程】の【人】なれ八・や
むことなくて・佐ふらひ・【給】・可きり・あれ八・三や
のきみなと・うちいひて・も者可り・ひき可け・
【給】そ・いと・あ者れなり介る・【兵部卿】の三や/【式】&【兵】、(【式部卿】の三や)・
この・きみ者可りや・こひしき・【人】尓・於もひ・よ
そへ徒へき・さま・し多らん・ちゝ/(ちち)・みこ八・者ら
からそ可しなと・れいの・【御心】八・【人】を・こひ・【給】尓・
川けても・【人】の・ゆ可しき・【御心】・やまて・い川し可と・
【御心】可け・【給】て介り・【大将】も・もとかしき万て・
ある王さ可な・【昨日】・介ふと・いふ者可り・【春宮】尓やなと/や〈次頁〉、(57オ)
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於ほし・王れ尓も・けしき八万せ・【給】
きかし・かく・者可奈き・よの・於とろ江・【思】尓八/八〈行末左〉・
【水】の・そこ尓・【身】を・し川めても・ゝと可し可らぬ/(もと可し可らぬ)・
王さにこそなと/な&な・【思】川ゝ/(【思】川川)・【人】より八・【心】よせ・きをゑ/を〈ママ、諸本こ〉・
【給】へり・この・【院】尓/尓&尓・於八し万春を八・【内】よりも・
ひろく・於もしろく・す三よき・もの尓して・つね
尓・【候】八ぬ・【人】ともゝ/(【人】ともも)・三な・うちと介・春三川ゝ/(春三川川)・
八る/\と/(八る八ると)・於ほ可る・多いとも・らう・王た【殿】尓・み
ち多り・【右】の於ほ【殿】ゝ/(【右】の於ほ【殿】の)・む可しの・【御】け者い尓も・
於とらす・すへて・可きり・なく・いとな三・川かく万川里・/く$う、万〈次頁〉、(川かう万川里)、(57ウ)
--------------------------------------
【給】・い可めしう・なり尓多る・【御】そうな
れ八・な可/\/(な可な可)・い尓しへよりも・い可めしき・こと八・まさ
里てさへなん・阿りける・この・【宮】・れいの・【御心】な
羅八/れ&羅、(【御心】なれ八)・【月】ころの・本とに・い可なる・すきことと母を・
しいて・【給】八まし・こよなう・し川まり・【給】弖・
【人】め尓八・をいな本りし・【給】可なと・三ゆる越・こ
のころは・【又】・三やのきみ尓/多&き、(三やの多み尓)・【本上】・あら八れて・
かゝ川らひ阿りき/(かか川らひ阿りき)・【給】介る・[30]すゝしう/(すすしう)・なりぬと
て・三や・うち尓・万いら△・【給】なと・すれと・あきの・さ可り・も
みちの・さ可りなと越/さ可り$ころ、(ころなと越)・みさらんこそと具ちをしかりて/△&具、か〈次頁〉、(58オ)
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王可き・【人】/\なと/(【人人】なと)・三な・川とひまいり
多る・ころなり・【水】尓・なれ・【月】を・三てゝ/三〈ママ、諸本め〉、(三てて)、(めてて)・【御】
あそひ・多へ須・つねよりも・いまめ可しけれ八・この・
三や八・かゝる/(かかる)・すち八・いとこよなう・もて八やし・
【給】・あさゆふ尓/い&ゆ、(あさいふ尓)・三ても・な越・つね尓/尓&尓・三ん・八
川八奈の・さま・し・【侍】多る尓・【大将】のきみ八・いと・さ
しも・いり多ちいり多ちなら八・し・【給】八ぬ本とにて・
者川可しう・【心】ゆるひ・なき・もの尓・三な・【思】多り・
れいの・布多【所】母・いり・【給】へり・【御前】尓・於八する・
本とに/本&本・【侍従】八/±可の・ものより・のそきて・三・多て万つる尓/尓〈次頁〉、(58ウ)
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い川可多尓も/\/(い川可多尓もい川可多尓も)・よりて・めて多き・【御】すく
(2025/07/13 ココマデ)


 今日も、鎌倉時代に書き写された『源氏物語』の本文を、字母に注意しながら丹念に見ました。みなさん、800年前の仮名文字に少しずつ慣れてこられたようで、文字を追っておられる姿を拝見していて、スキルがアップしてきていることを実感する場面が何度かありました。和歌と違い、物語の文字列は読みにくいものが多いと思われます。それでも、コツコツと読み続けていくと、自然に読めるようになります。確実に変体仮名が読めるようになっていることを自覚して、さらにさまざまな字形の文字を読む訓練をし、挑戦してほしいものです。終わってから、いろいろと質問もあるので、折々にお手伝いをしています。




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2025年07月05日

宇治で相愛本『源氏物語 橋姫』の変体仮名を読む会(2)

 シェア型書店HONBAKO京都宇治の中には、本がギッシリと並んでいます。本好きの方が集まるコミュニケーションの場として、本格的に稼働しだしています。

250705_本箱.jpg

 2階のシェアスペースをお借りしての勉強会は、今回が2回目です。前回、京都新聞の「まちかど」欄に掲載された案内の記事を見てお出でになった方は、2回目の今日も参加してくださいました。ありがたいことです。

 今日はまず、書家の宮川保子さんが進めておられる春曙文庫蔵『源氏物語』(断簡)5帖の内、「橋姫」の臨模本の試作版が2折分届いているので、そこで宮川さんが書かれている文字に疑問符をつけておられる箇所の確認から始めました。
 疑問とされている箇所は、次の1例を除いてすべて解決しました。その問題の箇所は、次のように書かれている場所です。16丁裏2行目行末「可多□□」(『源氏物語別本集成』の文節番号で「453726」)とあるところです。

250705_春曙「橋姫」16ウL2「かたし」.jpg

 今日、宇治の会場での検討では保留となったこの箇所を、自宅に帰ってから大きなモニタや各種資料を見比べていると、次のように書かれているはずだ、ということに思い至りました。

 可多可り/し&可り
(「可多し」と書いた後、「し」の上から「可り」とナゾルことで「可多可り」と読ます)

 これには、保坂本が「かたし」となっていたことがヒントになっています。『源氏物語別本集成 正・続』(22巻)は、五十音に置き換えた不正確な翻字であったことから、書物もデータもお蔵入りにしたはずなのに、今回たまたま当たりをつけるのに出番が巡ってきたのです。せっかく多くの方々の協力を得て刊行した資料集なので、今後は参考情報として折々に再利用してもいいか、と思うようになりました。

 これで、宮川さんから質問されていた問題箇所は、すべて解消しました。

 その後宇治では、あらためて現存「橋姫」の最初(『源氏物語別本集成』の文節番号で「451496」の「して」)から確認していきました。

 まず、「としころ」(1丁裏4行目)・「い身しう」(1丁裏6行目)・「ま川」(1丁裏9行目)の本文異同から、春曙本は「麦生本」「阿里莫本」「中京大本」とは明らかに異なる本文を伝えていることが確認できました。
 また、全体的に「保阪本」に近似する傾向があるものの、明らかに異なる本文も伝えています。これらは今後の検討課題です。


春曙文庫本『源氏物語 橋姫』現存第一丁表・裏[変体仮名翻字]
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〔『源氏物語別本集成 第15巻』の文節番号[451496]〕
して・本と・ふる・【時】者・古ひしく・
於ほえ・【給】・古乃・きみの・可く・堂う登可
里・きこゑ・堂まえ八・れん世い【院】より八・
徒祢尓・【御】世うそく・あ里弖・としこ
ろ・をと尓母・をさ/\/(をさをさ)・きこゑ・堂ま者寸・
い身しう・さひし介那里志・【御】
す三可尓・やう/\/(やうやう)・ひと免・身累・【時】尓・あ里・←0531_ココマデ
をりふし尓・とふらひ・きこゑ・【給】・【事】・い
可めしうて・こ乃・きみ毛・ま川・さ累
へき・【事】尓・徒け川ゝ/(徒け川川)・を可しき・やう尓も/(1オ)
--------------------------------------
ま免や可尓毛・ナシ・古ゝろよせ/(古古ろよせ)・徒可うまつり・
堂まふ・【事】・【三年】者可り尓・なりぬ・【秋】能・
春え川可多・【四】き尓・あてゝ/(あてて)・し・堂まふ・
【御念仏】を・古乃・可は徒ら葉・あしろの・奈
身毛・古乃古ろ八・い登ゝ/(い登登)・みゝ可ましう/(みみ可ましう)、可ま〈ママ〉・志つ可
奈らぬ越と弖・可乃・あ佐里能・春無・てら能・
堂う尓・う川ろひ・堂まひ弖・【七日】の・
【程】・越こなひ・【給】・ひめきみ堂ちは・い登・
古ゝろ本そく/(古古ろ本そく)・徒礼/\//\〈薄墨〉、(徒礼徒礼)・まさりて・な可め・【給】
け累・ナシ・【中将】乃き身・ひさしく毛・満いらぬ【哉】登/ぬ〈次頁〉、(1ウ)
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 まだ「橋姫」の確認は始まったばかりなので、さまざまな角度で本文を見ています。密林の中をさまようように、本文の森を探検する旅に出立した、という感触の中で今日も時間となりました。「あっ! もう?」という思いを抱きながら、散会となりました。

 下の本箱の前では、七夕飾りが置かれていました。短冊に、求められるままに各自が言葉を書いて、笹に結びつけました。

250705_七夕.jpg

 結びつけるのに、紙縒り(こより)を使いました。高校の教員をしていた頃、試験の後のザラ半紙の回答用紙の束は、角に小さな穴をあけて紙縒りを差し込んで綴じていました。懐かしい文房具です。

 目の前の百個の本棚を見ていると、ほしい本が2冊みつかりました。早速いただきました。このシェア型書店HONBAKO京都宇治では、書店や図書館ではなかなか見かけない本との出会いがあります。




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2025年06月28日

キャンパスプラザ京都で尾州家河内本「桐壺」を読む(第31回)−変体仮名が扱えるスマホのこと−

 今日の京都の気温は、36度との予報が出ていました。
 日差しを避けるようにして、会場に入りました。

 今日は、勉強会の後は、同じ部屋でNPO法人〈源氏物語電子資料館〉の理事会と総会が開催されます。1階正面入口にある掲示板には、この2つの集まりの案内が出ています。

250628_パネル.jpg

 今日は、先日届いた、宮川保子さんが書かれた相愛大学蔵春曙本「橋姫」の臨模本作成のための下書きを、参会のみなさんに見てもらいました。断簡とはいえ、ハーバード本の面影を彷彿とさせる、鎌倉時代の『源氏物語』が偲ばれるものです。あと4巻あるので、清書版の臨模本の完成が待たれます。近日中に相愛大学へ原本調査に行く予定なので、この試作品を持参して、詳細に見比べて来るつもりです。

250628_春曙「橋姫」.jpg

 次に、いつものような前置きなしに、尾州家河内本「桐壺」に書き写された『源氏物語』の本文の確認に入りました。これまでの2回分の本文が順送りで積み残しとなっているので、とにかく今日の資料に追いつくのを最優先したのです。
 今日は、尾州家河内本「桐壺」の第20丁表〜第21丁裏までです。
 ただし、進めて行く中で興味深いことが話題となったので、まずはそのことから記します。

 それは、モトローラのスマートフォンに機種変更したところ、変体仮名が表示できるようになった、ということです。確かに、「あ」と入力すると、変換候補の文字の中にユニコード(UTF8)に登録された「あ 阿 愛 惡」の4文字が選択対象の文字として出て来ます。それを私の方にメールで送ってもらうと、私のスマートフォンには六本線の四角の記号が4つ並んで表示されます。つまり、モトローラのスマホで表示できた変体仮名は、アイフォンには正しく送れないようです。他社のスマホとの間では、どのような表示になるのでしょうか。その前に、モトローラ以外の海外のメーカーのスマホでも、変体仮名は表示できるのでしょうか。そして、変体仮名で書いたメールは、どのメーカー同士であればやりとりできるのでしょうか。

 文部科学省は、学校教育への変体仮名の導入は、教育現場を混乱させる、ということで認めていません。経済産業省は、コミュニケーションツールとしての変体仮名は容認しており、この両省のスタンスの違いには興味があります。
 いずれにしても、今日現在、日本で使用可能となっているスマホの一部に、変体仮名が利用、活用できる状況にあることは事実です。この事態を、文部科学省は承知・承認しているのでしょうか。正式な説明がほしいところです。

 私は、変体仮名が読めるようになるための社会人講座で、一日も早く変体仮名が日本で暮らす人が自由に読み書きとまでは行かなくても、少なくとも読める環境を提供すべきであることを力説しています。1900年(明治33年)に文部省は、300近くあった仮名文字を一音一字にするという、愚行でしかない文字改革をしました。学校で教える五十音図がそれです。日本語の教育を受けた人の100%は、平仮名は約50個だと信じて疑いません。しかし、それは、たかだか125年前に文部省が国字政策の一環で押し通したことであり、その時の審議内容は、ほとんどわかっていません。

 そして今、変体仮名が表示でき、メールでその変体仮名をやりとりできる環境が生まれているのです。
 先月刊行した『変体仮名でよむ 百人一首』(伊藤鉄也・吉村仁志 編、新典社、2025年5月)の巻頭の解説で、私は[変体仮名翻字版について]との見出しで以下の文章を掲載しました。

 平仮名は、平安時代から一つの音に対して複数の字体があった。それが、一九〇〇年(明治33年)に一音一字となり、そこから外された仮名文字は変体仮名(異体仮名)と呼ばれるようになる。
 二〇一七年六月に、国立国語研究所の成果として、世界中の文字を国際的に統一する標準規格であるユニコード(Unicode)に二八五字の変体仮名が登録された。しかし、依然として変体仮名は、読めない書けない表示できない文字として、放置されたままである。
 そこで、一人でも多くの方に日本の文化資産である変体仮名がスラスラと読めるようになってほしいとの願いから、東京・京都・大阪の三都三箇所で「変体仮名をよむ」ことをテーマとする社会人講座を開講することになった。(4頁)

 ここで、「しかし、依然として変体仮名は、読めない書けない表示できない文字として、放置されたままである。」としたことは正しくないことになり、補訂すべきであることがわかりました。つまり、現在、一部のスマホでは変体仮名が誰にでも自由に表示できるのです。そして、真面目に五十音図で仮名文字を覚えた多くの方が、その変体仮名が読めないのです。海外から日本に持ち込まれ、現在販売されているスマホを手にした人だけが、自由に変体仮名が扱えることに、私は国民の一人として違和感を覚えます。私が使っているアップルのスマホでは、表示も送信もできないからです。日本国内では扱えない変体仮名が、海外で入手したパソコンやスマホでは扱える問題点を、社会人講座で話題にしてきました。日本語の中でも、仮名文字がこのような状況に置かれていることは、日本語のコントロールが効いていないことになります。海外の方と一部のスマホを手にした人だけが変体仮名を操れる今、このままにして置いていいはずがありません。Tシャツの背中に漢字を書いていた人たちが、明日にでも変体仮名を印刷して歩くことが想像されます。その前に、街中には変体仮名が氾濫していることは、このブログでも、講座でも例示してきました。飲み屋さん街の暖簾や看板やメニューはもとより、和菓子屋さんや和雑貨屋さんでも、変体仮名は目にします。
 国語や国字について、日本という国が今後はどうするのか、変体仮名の扱いを通してしっかりと注視していきたいと思います。

 この変体仮名が自由に扱えるスマホは、河原町四条の家電量販店で手に入るとのことなので、足を運んで実状などを調べてみます。このことは、またあらためて報告します。

 さて、今日の尾州家河内本「桐壺」の「変体仮名翻字版」の確認は、以下のようになりました。
 問題点としては、今日の4頁分の範囲では、「江」が多くて「衣」が一例だけだったこと、2つ打たれた朱は濁音を示すだけか、そして、「ふち川本」と「源氏」の用字は、出て来た2回とも同じであることなどです。持ち越しとなったことは、「多まへと/ま=マ」(20丁裏6行目)と「【御】尓くさも/尓=ニ」(21丁表1行目)の、フリガナとしての片仮名です。これは、今後とも用例を集めて傾向を考えていきます。戸籍謄本の名前の表記に読みがなを片仮名でつけることについても話題が及び、活発な意見交換をしました。

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■尾州家河内本「桐壺」(今回:第20丁表〜第22丁裏まで)
[変体仮名翻字版]
・翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
  傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、
  補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部( 「 )・末尾( 」 )、
  底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)
※〈朱点〉の有無から、複合語を認めていない場合を集めるとおもしろい。
■翻字に関する佐藤さんからのメモ (要・第1回と第5回の〈朱点〉の再点検)
〈朱点〉を使って、原文をいかに正確に読み取るかという工夫が、尾州家河内本などでは随所に見受けられる。
  ※本行の文字間に打たれた読点としての朱点は、補入記号のない補入として、[/±〈朱点〉)]を原則とする。
ただし、朱点が削除されいてる場合は[±〈朱点削〉]又は[±〈朱点削?〉]とする。朱点が文字の左右に打
たれている場合は[/■±〈朱点右〉]又は[/■±〈朱点左〉]とする。特に朱点が右上に打たれている場合
は、文章の切れ目を示す句点の意味を持っている。
濁点やミセケチなどで朱点が2個あれば、[■=〈朱傍点2〉]とする。なお、ミセケチはおおむね左上に打
たれる傾向がある。
(1)句読点代わりに用いている場合
   @読点・・「/±〈朱点〉」とし、文節の途中にある場合は「■±〈朱点〉」とする。
   A句点・・文の最後につくもので、「±〈朱点右〉」「±〈朱点左〉」とする。
ただし、行末にある句点は、便宜上、次の文節の末尾に「±〈朱点〉」として明示したので要注意。
   B朱点が複数個ある場合は、「ち=〈朱傍点〉」「飛=〈朱傍点2〉」「飛=〈朱傍点3〉」とする。
     例 【野】王起堂ち弖/±〈朱点右〉、堂=〈朱傍点2〉、ち=〈朱傍点〉 (7ウL2)
(画像省略)
(2)傍点を用いて後の解釈に利用したと思われる例
   @強調・・文字の左側につくので傍書にならい、「いとと=〈朱傍点〉」
   A不明・・・右につく場合で「と=〈朱傍点右〉」としたがミセケチの可能性も?
 (3)「見」はなぞり書きされることが多い。次の表記を付加情報の基本とする。
今は、【見】の左横にはミセケチ記号はないものとする。
      例 △〈削〉【見】、【見】=【見】〈削〉 (6オL6)
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新・【給】て・於ほん【心】なとも/±〈朱点〉・なくさむへくと/±〈朱点〉・於毛
本しなりて/±〈朱点〉・ナシ・万いら勢/±〈朱点〉・多てまつり・堂まへり・ナシ・
ふち川本と起こゆ/±〈朱点右〉、起±〈朱点〉・遣尓【御】可多ち/±〈朱点右〉、【御】±〈朱点〉・ありさま/±〈朱点〉・
ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・あやしき万てそ/±〈朱点〉・於ほ江/±〈朱点〉・堂まへる・これ者/±〈朱点右〉・
【人】乃/±〈朱点〉・【御】き八・まさり/±〈朱点〉・於もひや里/±〈朱点〉・めてたくて/±〈朱点〉・多れも/±〈朱点〉・
江/±〈朱点〉・於もひ於としめ・起こ江・堂ま八ね八・う遣八り
て/±〈朱点〉、う遣=〈朱傍点〉、八=〈朱傍点2〉、りて=〈朱傍点〉・あ可ぬ/±〈朱点〉・【事】・なし・可礼八/±〈朱点右〉・【人】も/±〈朱点〉・ゆるし/±〈朱点〉・起こ江さ里
し尓いとゝ/い±〈朱点〉、(いとと)・於本ん【心】さし能/±〈朱点〉・あやにくなりしそ
かし・於本しま起ると八/±〈朱点右〉・な遣れと・をのつ可ら/±〈朱点〉・【御
心】う川ろひて/±〈朱点〉・ナシ・ナシ・こよ那う/±〈朱点〉・於ほしなくさむ/±〈朱点〉・やうなるも/も〈行末左〉・
あ八れなる/±〈朱点〉・わさなり遣り・【源氏】のき三八/±〈朱点右〉、【見】$〈削〉三、三=△〈削〉・【御】あ多り/±〈朱点〉、り〈丁末左〉、(20オ)
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さ遣さ勢/±〈朱点〉、=不遠也、さ遣=〈朱傍点〉・多ま八ぬ本と尓・し遣う/±〈朱点〉・わ多ら勢/±〈朱点〉・【給】・
可多八・まして/±〈朱点〉・江・かく礼あへさせ・多ま者須・いつ
れの/±〈朱点右〉・【御方】も・わ礼/±〈朱点〉・【人】尓/±〈朱点〉・於とらんと・於本し多流や八/±〈朱点〉・
ナシ・ある・と里/\尓/±〈朱点〉、(と里と里尓)・いと/±〈朱点〉・めて多うこそ八・於八寿礼と・みな/±〈朱点〉・
うちをと那飛/±〈朱点〉、をと那=〈朱傍点〉、飛〈朱傍点2〉・ナシ・多まへる尓・ナシ・いと/±〈朱点〉・王可う/±〈朱点〉・ゝ徒くし
け尓て/±〈朱点〉、(う徒くしけ尓て)・せち尓/±〈朱点〉・かく礼/±〈朱点〉・多まへと/ま=マ・あさ遊ふ尓/±〈朱点〉・さふら
ひ・多まへ八・をのつ可ら/±〈朱点〉・ナシ・【見】/±〈朱点〉、み$〈削〉【見】、【見】=△〈削〉・多てまつり・【給】尓・八ゝ/±〈朱点〉、(八八)・
みや春ところ・可遣多に/±〈朱点〉・於ほ江/±〈朱点〉・堂ま八ぬを・ナシ・
いと/±〈朱点〉・よう/±〈朱点〉・に/±〈朱点〉・ナシ・多まへりと・【内侍】乃す遣の/±〈朱点〉・起こ江
遣るを・於さ那き/±〈朱点〉・於ほむ【心地】尓/±〈朱点〉・いと/±〈朱点〉・あ八礼と/±〈朱点〉・
於もひ/±〈朱点〉・きこ江【給】て・つね尓/±〈朱点〉・【見】/±〈朱点〉、△〈削〉【見】、【見】=【見】〈削〉・多てまつらま本しく/く〈次頁〉、(20ウ)
--------------------------------------
なつさひち可う/±〈朱点〉、ち±〈朱点〉・まいら八やと/±〈朱点〉・於ほえ/±〈朱点〉・多まふ・
うへも/±〈朱点右〉・可きり那幾/±〈朱点〉、く&幾、(可きり那く)・【御】於もひとちにて/±〈朱点〉・な/±〈朱点〉・う
と三・【給】そ・あやしう/±〈朱点〉・よそへ/±〈朱点〉・きこ江徒へき【心地】
なん/【心地】±〈朱点〉・する・なめしと/±〈朱点〉・於本さて/±〈朱点〉・らうたう/±〈朱点〉・し・【給】へ・つら
つき/±〈朱点〉・まみなと能/±〈朱点〉・いと/±〈朱点〉・よう/±〈朱点〉・に多里し/±〈朱点〉・ナシ・ゆへ・可よひ/±〈朱点〉・き
こ江多めるも・に遣那可ら春/±〈朱点〉、春+と、傍とノ下ニ〈朱点〉(に遣那可ら春と)・つね尓・きこ江さ勢/±〈朱点〉・
【給】を・於さ那きこゝち尓も/±〈朱点〉、こ±〈朱点〉、(ここち)・う礼しく/±〈朱点〉・於もひて・
八可那き/±〈朱点〉・【花】/±〈朱点〉・もみち尓・つ遣ても/±〈朱点〉・於可しき/±〈朱点〉・さま尓・
【心】さしを【見】江堂て万つり/±〈朱点〉、【見】±〈朱点〉、△〈削〉【見】、【見】=△〈削〉・こよ那う/±〈朱点〉・【心】よ世/±〈朱点〉、△〈削〉よ、△〈削〉せ・
起こ江・堂まへれ八・こきてんの【女御】八/±〈朱点〉・【又】/±〈朱点〉・こ能/±〈朱点〉・【宮】を・
【心】/±〈朱点〉・よ可ら須・於もひきこ江【給】/±〈朱点〉・ゆへ尓うちそへ弖/う±〈朱点〉、(21オ)
--------------------------------------
もとよりの/±〈朱点〉・【御】尓くさも/尓=ニ、(【御】二くさも)・堂ちいてゝ/±〈朱点〉、(堂ちいてて)・ナシ・【物】しと/±〈朱点〉・
於ほし多り/±〈朱点〉・よ尓なう/±〈朱点〉・堂くひなしと/±〈朱点〉・ナシ・【見】/±〈朱点〉、△〈削〉【見】、【見】=【見】〈削〉・多て
まつり・ナシ・な多可う/±〈朱点〉・於八春流/±〈朱点〉、し&春、(於八し)・【宮】能/±〈朱点〉・【御】可多ち尓も・
なを/±〈朱点〉・この/±〈朱点〉・【君】能・尓本八しさ八・まさりて/±〈朱点〉・ナシ・ナシ・多とへん/±〈朱点〉・
可多・那くう川くし遣那るを/う±〈朱点〉・よの/±〈朱点〉・【人】・飛可る
【君】と/±〈朱点〉・きこゆ/±〈朱点〉・ふち川本の/±〈朱点右〉・ナシ・ナシ・【御】於ほ江・と里/\
なりと尓や/(と里と里なりと尓や)・かゝやく飛能【宮】と/±〈朱点〉、飛±〈朱点〉、(かかやく)・きこゆめ里し/し〈左傍記〉・
【源氏】乃/±〈朱点〉・【君】能・【御】王ら八す可多・いと/±〈朱点〉・可へまうく/±〈朱点〉・
於ほ世と/±〈朱点〉・【十二】尓て/±〈朱点〉・ナシ・ナシ・ナシ・【御元服】・ナシ・し多まふ・み可登/±〈朱点右〉・
よろ川尓/±〈朱点〉・井多ち弖/±〈朱点〉、=居起〈付箋〉・於本しい多川き・かきり/±〈朱点〉・
ある・【事】尓・【事】を/±〈朱点〉・く八へさ勢・ナシ・ナシ・ナシ・多まふ・飛とゝ世能/±〈朱点右〉、(飛とと世能)、能〈次頁〉、(21ウ)
--------------------------------------

 この勉強会が終わってからは、少し休憩を置いて、NPO法人〈源氏物語電子資料館〉の理事会と総会となりました。このことは、議事録の整理が出来てから、追って報告します。




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2025年06月21日

日比谷で『源氏物語』と『百人一首』の体験講座

 今日21日は二十四節気の「夏至」。1年で最も昼が長いとか。と言うことは、今日は非常に暑い1日になることでもあります。完全に夏モードの覚悟で東京に降り立ちました。京都に負けず劣らず、東京も人ひとヒト。

 有楽町駅前のビックカメラで回転寿司を昼食とし、東京ミッドタウン日比谷の前のゴジラスクエア日比谷で雄姿を見せているゴジラにご機嫌伺いの挨拶をしました。

250621_ゴジラ.jpg

 そして、帝国ホテルのラウンジで身体の火照りを覚ましてから、日比谷公園の日陰を選って日比谷図書文化館に入りました。

 入り口には、いつものように講座の掲示があります。

250621_掲示板.jpg

 今日の講座は体験講座です。これから勉強してみようかな、と思っておられる方々を対象としたものなので、4ヶ月毎の体験講座の内容は基本的にはいつも同じようにしています。季節や時世に合うように、少し味付けを変えるくらいです。

 「ハーバード大学美術館蔵『源氏物語 須磨』を読む」では、2年前に放映されたドラマ「相棒 コイノイタミ」(2022.12.7 -ABCで放映)の問題点(変体仮名への理解がまったくないドラマ)を、画像を映写しながら説明しました。
 劇中での変体仮名の説明と内容が、馬鹿らしくて呆然とするほど⽭盾だらけなのです。「⾐川」は現⾏平仮名の「え」と「つ」の字⺟であって、変体仮名ではないのです。それなのに、変体仮名だとして何度も強調されるのです。この台本を書いた方は、日本語をよくご存知ない方のようです。
 また、映し出された資料の「変体いろは歌」が、これまたデタラメであり意味不明のものです。どうして、こんなものが放映されたのでしょうか。制作スタッフが、ことごとく仮名文字に関して無知であることをさらけ出したドラマでした。
 こんな恥ずかしい思いをしないようにしましょう、変体仮名を正しく学びましょう、と話を進めました。

 続いて、ハーバード大学の『源氏物語』の来歴など、写本についての話の後に、「須磨」の冒頭部分を「変体仮名翻字版」で確認し、この資料を横に置いて学習すると、確実に変体仮名が読めるようになることを強調しました。

 終了後に何人かの方の質問などにお答えし、少し休憩してから『百人一首』に移りました。

 2種類のカルタの話をし、映画「ちはやふる」をスクリーンに映写して、歌合わせと40番歌・41番歌のカルタに書かれている仮名文字を確認しました。
 また、三島由紀夫の『春の雪』の映画のことにも及び、『百人一首』がさまざまな媒体で活用されていることを説明しました。

 この講座でも、終了してからいろいろな質問を受けました。みなさん、知的好奇心が旺盛な方なので、本講座に参加してくださることが楽しみです。

 日比谷図書文化館を出てから、今日はかつて住んでいた門前仲町に宿を取っているので、すぐそばの地下鉄丸ノ内線の霞が関駅から大手町駅経由で東西線で門前仲町駅に行こうとしていた時です。運が悪いことに、東西線でトラブルがあり、運転見合わせとのことです。こうしたトラブルに、私はよく出くわします。
 しかたがないので、大手町駅から半蔵門線で清澄白河駅に出て、そこから大江戸線に乗り換えて門前仲町駅に行きました。このあたりは、以前9年間も住んでいたことがあり、熟知したエリアだったので、臨機応変に乗り継いで移動できました。それにしても、日比谷図書文化館を出てから電車のトラブルに遭うことが何と多いことか。また一つエピソードが増えました。




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2025年06月14日

中之島での『百人一首』(第13回)と『源氏物語 蜻蛉』(第24回)の講座

 あいにくの雨の1日でした。
 今日の大阪府立中之島図書館での「新古典塾 平安文学」は、まず「変体仮名で書かれた『百人一首』をよむ」からです。

 新しいテキストである『変体仮名でよむ 百人一首』は、今日から使うことになります。
 最初の4首は先月プリントで確認はしていたので、さっと見た後、5番歌の猿丸大夫と6番歌の中納言家持の変体仮名に注目して見ました。

 その前に、生成AIによる陽明文庫カルタと国文学研究資料館カルタの文字の分析結果を、プリントをもとにして通覧しました。これは、ブログ「たつみのいほり より」に2025年06月09日に公開した記事「人工知能の支援により国文学者の研究環境が激変することを実感」(http://genjiito.sblo.jp/article/191380601.html)を見ながら、人工知能が『変体仮名でよむ 百人一首』を解析した結果を示し、今回扱うカルタに書かれている文字の傾向を見ておこうとしたものです。
 まだ私自身が詳細に傾向の分析をしていないので、あくまでも生成AIはこんな結果を瞬時にだしました、という現在の人工知能の働きぶりを紹介したものです。当たっているとおもわれるものもあり、勘違いしていると思われる所などをコメントとしてお話しました。私が気になったのは、生成AIは漢字と平仮名と変体仮名の区別がついていないと思われることです。これは、さらに人工知能に指示をして、より正確な理解で推論を展開するように仕向ける必要があります。今日のところは、まずはこんな意見を生成AIが出していますよ、という紹介に留めておきました。

 30分の休憩を置いて、次はハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「蜻蛉」の仮名文字を読むことに移りました。あと5回ほどでこの「蜻蛉」を見終わる予定なので、今年中には終われるかと思います。

 今日は、55丁表から56丁裏までを確認しました。なぞって修正した箇所が多かったので、写本の拡大写真を使ってナゾリの説明しました。

 まず、55丁裏9行目の「於も本しつ可八んせ【給】八んと/と&せ、(於も本しつ可八んと)」とある箇所です。

250613_蜻蛉55uL9と&せ.jpg


 この箇所をどう読み解くかということで、私は「つかはんと」と書き写した後、「と」の上から「せ」をナゾリ書きしたのもだと判断しました。文字で記述すると「八んと/と&せ」となります。
 その傍証として、『源氏物語別本集成 第十五巻 蜻蛉−夢浮橋』(伊井・伊藤・小林編、おうふう、2002(平成14)年、227頁にハーバード本を追記)を引いて、その書写状況が説明できることを話しました。ハーバード本がまず書き写した「於も本しつ可八んと」は高松宮本と国冬本が持つ文字列です。それが、大島本などの諸本の「おほしつかはせ」に補訂されたということです。
 次に、ハーバード本の「【給】八んとの多万者せ介り」は、保阪本が伝える「給はんとのたまはせけり」と同じように「給はんと」が追補された本文となっているので、独自異文ではなく指示される本文があったということです。いずれも、鎌倉時代の写本であり、今は重要文化財となっている古写本です。つまり、ハーバード本の本文は、より古い本文に支えられている本文である、ということになります。

底本 陽 源氏物語(陽明文庫蔵)
校異 大 源氏物語 大島本(古代学協会蔵)
高 源氏物語 高松宮本(国立歴史民俗博物館蔵)
保 源氏物語 保坂本(東京国立博物館蔵)
国 源氏物語 国冬本(天理図書館蔵)
麦 源氏物語 麦生本(天理図書館蔵)
阿 源氏物語 阿里真本(天理図書館蔵)
尾 源氏物語 尾州家河内本(名古屋市蓬左文庫蔵)
    ハ 源氏物語 ハーバード本(ハーバード大学美術館蔵)
おほしつかはせー(陽保)・・・・・・・・525364
おもほしつかはんと[高国]
めしつかはせんと[麦阿]
おほしつかはんと[大尾]
→於も本しつ可八んせ/と&せ[ハ]
給けりー(陽)・・・・・・・・・・・・・・・・525365
の給はせけり[大高麦阿尾]
給はんとのたまはせけり[保]
の給けり[国]
→【給】八んとの多万者せ介り[ハ]

 2つ目は、ハーバード本の56丁表3行目の「そしろ八春/万&そ〈薄墨〉、ろ八〈ママ〉、(万しろ八春)」とした箇所です。

250509_ハーバード「蜻蛉」56oL3そ.png


 ここは、「万しろ八春」と書き写した後に「万」の上に少し横向きの「そ」が薄墨で書かれています。「そしろ八春」にしたいようです。次の諸本の本文異同からわかるように、ここは諸本が「そしらす」とする所なので、ここでのハーバード本の本文は「ましらはす」とする陽明文庫本と保坂本の仲間となるものです。ここでも、ハーバード本は現在流布本となっている本文とは異なる、平安・鎌倉時代の本文を伝えているのです。

底本 陽 源氏物語(陽明文庫蔵)
校異 大 源氏物語 大島本(古代学協会蔵)
高 源氏物語 高松宮本(国立歴史民俗博物館蔵)
保 源氏物語 保坂本(東京国立博物館蔵)
国 源氏物語 国冬本(天理図書館蔵)
麦 源氏物語 麦生本(天理図書館蔵)
阿 源氏物語 阿里真本(天理図書館蔵)
尾 源氏物語 尾州家河内本(名古屋市蓬左文庫蔵)
    ハ 源氏物語 ハーバード本(ハーバード大学美術館蔵)

ましらはすー(陽保)・・・・・・・・525379
そしらす[大高国麦阿尾]
→そしろ八春/万&そ〈薄墨〉、ろ八〈ママ〉、(万しろ八春)[ハ]
『源氏物語別本集成 第十五巻 蜻蛉−夢浮橋』(伊井・伊藤・小林編、おうふう、、2002(平成14)年、229頁にハーバード本を追記)


 3つ目は、「なけき」の「け」という仮名を〈判読〉にしたことです。

250614_「蜻蛉」56uけ〈判読〉.jpg

 この文字は、今は「け」としておき、今後の課題の1つにします。

 本日確認した範囲の「変体仮名翻字版」は、以下の通りです。

--------------------------------------
■ハーバード大学蔵『源氏物語 蜻蛉』55丁表〜56丁裏
翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、
補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部( 「 )・末尾( 」 )、
底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)
--------------------------------------
かの可多【身】尓/【身】〈ママ〉、(可多身尓)・阿可ぬ・可なしさ越も・の多万
ひい川ゝき/(の多万ひい川川き)、ゝ$へ、(の多万ひい川へき)・【人】さへ・なき越・多いの【御】可多八可りこそ
八・あ者れなと・能【給】へと・ふ可く・三・【給】八さりける・うちつけ
の・む川ひなり介れ八・いと・ふ可くしも・い可て可八・あら
む・【又】・於ほ須・万ゝに/(万万に)・こひしや・い三しやなと・の【給】
者ん尓八・可多八らい多介れ八・かしこ尓・あ里し・
志ゝうをそ/(志志うをそ)・れいの・む可へさせ・【給】介る・三な【人】とも
を者・いちりて/いち〈ママ〉・めのとゝ/(めのとと)・この・【人】・ふ多りなん・とり
わきて・於ほし多りしも・わ春れ可多くて・
阿りふる尓/くて〈行間〉、しゝう八〈行間〉(ししう八)、よそ【人】なれと〈行間〉、なを〈行間〉、可多らい弖、弖マデ行間・よ川可ぬ・可はの・をとも・うれしき世もや阿ると/世〈次頁〉、さ&世〈薄墨〉、(さもや)、(55オ)
--------------------------------------
多のみし・本とこそ・なくさみ介
れ・【心】うく・い三しう・もの於そろしくの三・おほえ
て・きやう尓・阿やしき・【所】尓・このころ・きて・
ゐ多りける・多つねいて・【給】て・さふらへと・の多万へと・
【御心】八・さる・もの尓て・【人】/\の/(【人人】の)・い者ん・ことも・さる・す
ちの・こと・万し里ぬる・阿多り八・きゝくへき/(ききくへき)、ゝくへ$き尓く、(きき尓くき)・【事】も・
あらんと・【思】へ八・うけひき・ゝこえす/(きこえす)・きさいの三や二・
万いらんとなん・於もむ介多れ八・いと・よ可んなり・
さて・【人】しれ春・於も本しつ可八んせ【給】八ん
せ/と&せ、(於も本しつ可八んと)・の多万者せ介り・【心】本そく・よるへ・なきも/き〈次頁〉、(55ウ)
--------------------------------------
なくさむやとて・しる/多&る、(し多)・たより・もとめ
て・万いりぬ・き多な介なくて・よろしき・【下】らう
なりと・ゆるして・【人】も・そしろ八春/万&そ〈薄墨〉、ろ八〈ママ〉、(万しろ八春)・【大将殿】も・
川年尓・万いり・【給】ふ越・三る・多ひ尓・ものゝみ/(もののみ)・
あ者れなり・いと・やむことなき・ものゝ/(ものの)・ひめ【宮】
の三・於ほく/△&於・万いり川とひ多る・三やと・【人】も・いふ
を・やう/\/(やうやう)・めとゝめて/(ととめて)、めて&めて・三れと/こ&三、(これと)・な越・三・多て万つり
し/く&て、(多く万つりし)・【人】尓・尓る八・な可り介りと・【思】あ里く・[29]この・
者る・うせ・【給】ぬる・【式部卿】能【宮】の・【御】む春免を/を&を・ま
ま八ゝの/(まま八八の)・き多の可多・ことに・あいをも者て/て&て・せうとの/と〈次頁〉、(56オ)
--------------------------------------
む万の可み尓て【人】可らも・ことなる・こと・
なき・【心】・可け多る越・いとをしうなとも・【思】多
えて・さるへき・さ万尓なんと・ちきると・きこ
しめ春・多より・ありて・いとをしう・ちゝ/(ちち)・【宮】
の・い三しう・かしつき・【給】介る・飛免【宮】を・い多川
らなる・やう尓・もてなさん・ことなと・の多万者
せ介れ八・いと・【心】本そう能三/△&三・於もひなけき/け〈判読〉・【給】・
ありさまにて・な川可しう・かく・多つね/し&つね、(多し)・
【給】八する越なと・【御】せうとの・【侍従】も・いひ弖・
このころ・む可へさせ・【給】てける・飛め三やの/(56ウ)
--------------------------------------(250614_ココマデ)




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2025年05月31日

宇治で相愛本『源氏物語 橋姫』の変体仮名を読む会(1)

 宇治で『源氏物語』の古写本を読む勉強会の、今日は記念すべき第1回でした。
 会場は、JR宇治駅から徒歩3分という至便の場所にある、「シェア型書店HONBAKO京都宇治」の2階です。真新しい内装のきれいな部屋で、しかも設置されたばかりの白木の机を並べて勉強会をしました。

 京都での『源氏物語』の変体仮名を読む会は、京都駅前のキャンパスプラザ京都(京都市大学のまち交流センター)で毎月第4土曜日に開催しています。そして今日からは、宇治十帖を読む場所として念願だった、宇治駅前の地で静かにスタートすることになりました。少なくとも十年は続けたいと思っています。

 本日配布した資料(12頁)の最初に、次の文章を掲げました。


■勉強会の内容
ここ宇治の地では、『源氏物語』の宇治十帖の初発の巻である第45帖「橋姫」に書かれた、鎌倉時代の古写本の仮名文字を読みます。
テキストとする古写本は、鎌倉時代中期に書写された現存最古の古写本の一つであり、美麗な美術品です。具体的には、相愛大学の春曙文庫が現蔵する断簡五冊の内、「橋姫」巻に書写されている文字を変体仮名に注目して確認していきます。
今回使用する資料は、国文学研究資料館から公開されているパブリックドメインの画像です。
かつてこれは、ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』(「須磨」「蜻蛉」)と、国立歴史民俗博物館蔵「鈴虫」(重要文化財)と一緒に伝えられていた古写本でした。春曙文庫に伝わる他の四冊は、第二帖「帚木」・第三三帖「藤裏葉」・第四九帖「宿木」・第五三帖「手習」で、すべて現在は断簡としての本文しか残っていません。
この古写本に書かれている文字が、とにかく読めるようになることを、当面は第一の目的とします。一人でも多くの方が、日本の文化資産である変体仮名が読めるようになることを願って開催する勉強会です。そして、これはデータベースの構築へと展開し、生成AIで分析していきます。

[参考資料]
『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」』(伊藤編著、新典社、2013年)
『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「蜻蛉」』(伊藤編著、新典社、2014年)
『国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」』(伊藤・阿部・淺川 共編、新典社、2015年)
『現代の図書館』(vol.62 no.3、通巻251号、日本図書館協会現代の図書館編集委員会編、2024年)
  相愛大学図書館「春曙文庫」の蔵書とその最新研究/阿尾あすか
  春曙庵主田中重太郎−その人となりと蔵書形成/山本和明
  天理図書館と「源氏物語」古典籍資料−蒐集の経緯・名品の紹介/岡嶌偉久子
  日本古典文学作品とAI・機械翻訳について/淺川槙子


 この勉強会を開催する趣旨と展望は、上に書いた通りです。
 続いて、ハーバード本『源氏物語』「須磨」「蜻蛉」と歴博本『源氏物語』「鈴虫」』について刊行した本を見てもらいながら簡単に説明しました。『源氏物語大成』や『源氏物語別本集成 正・続』についてもその位置づけを解説し、今回の春曙文庫の「橋姫」の意義に及びました。
 配布したプリントには、次の説明文を掲載しました。


■春曙文庫の『源氏物語』に関する説明
リーフレット「春曙庵主田中重太郎その人とことのは」(2024.03_ver.01)
国文研共同研究「相愛大学「春曙文庫」に関する研究−書物と人」の成果として製作

 ◎源氏物語本文について(田中重太郎)
 ところで、源氏物語の本文でも定家の証本がいま定本視されているが、いわゆる別本系の本文と読みくらべると、いまの源氏物語の本文は、なんだかばかに整頓され、みがかれ過ぎた感じがする。架蔵の鎌倉初期書写の源氏物語断簡(昭和三十九年十月刊)を読みかえしていると、こんな本文の源氏物語がすくなくとも平安末期にはあって、読まれていたのだと思い、いま行われている源氏物語の本文と読みあわせると、そらおそろしい気がして来る。(下略)  (清少納言と「ほのかなり」と『平安文学研究』第四十二輯、昭和四十四年六月号、『枕草子三十五年』再掲)
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リーフレット『春曙文庫の名品2 知られざる名品 古筆切・断簡・清少納言の肖像』(2023.03_ver.01)
国文研共同研究「相愛大学「春曙文庫」に関する研究−書物と人」の成果として製作

『源氏物語』の断簡(完全な形ではなく、切れ切れとなって不完全な状態で残ったもの)。正方形に近い形の桝形本で、本文は十行書き、列帖装(れっちょうそう)であったと推測される。鎌倉時代中後期の書写と考えられ、筆者は不明だが、五人以上による寄り合い書きである。雁皮紙が使用され、花・鳥・紅葉・月などのぼかし絵が入っている部分がある。
 断簡の本文は、広く読まれている青表紙本(藤原定家が書写や校合に関与した本)系統の『源氏物語』とは異なる部分が多く、別本に分類される陽明文庫本(鎌倉中期書写とされる写本)との一致が見られる。田中重太郎による解説と帚木巻の一部の翻刻を付けて、東風社からコロタイプ印刷による複製が刊行された(一九六四年)。藤裏葉巻と橋姫巻の前半は相愛国文 九・一〇に、柿谷雄三が翻刻を掲載している。
 断簡は、帚木巻・藤裏葉巻・橋姫巻・宿木巻・手習巻の一部からなっている。
(中略)
 橋姫巻・宿木巻・手習巻は、光源氏死後の人々の動向が語られる巻々である。物語の中心人物として匂宮(光源氏の孫)と薫(表向きは光源氏の次男だが、実際は柏木の息子)が据えられる。
 橋姫巻では、薫が宇治に住む八宮の元を訪ね、八宮の娘である大君と中の君を垣間見る場面や、薫が出生の秘密を知る場面が残っている。(後略)             (川渕紗佳・飯田実花)


 こうした説明を踏まえて、まずはハーバード本『源氏物語 須磨』第一丁表の影印画像を見て、[変体仮名翻字版]の実際を通覧しました。これは、これから見る春曙本「橋姫」がハーバード本とツレの写本であるかどうかを考える上で、写本が持つ雰囲気に慣れることでもあります。

 引き続き、春曙本『源氏物語 橋姫』の現存第一丁表・裏の画像を見ながら、そこに書写されている本文を[変体仮名翻字]にした資料で丹念に文字を追いました。その際、『源氏物語別本集成 第12巻』(おうふう、2000年)の校異編の該当頁を参照し、諸本の本文との違いを確認しながら進めました。これは、今まではやってこなかった手法です。

 今日は、京都新聞の案内記事を見てお出でになった方がいらっしゃいました。初めて変体仮名を勉強するとのことだったので、仮名文字の字母を確認し、みんなで一緒に教えあいながら、ゆっくりと丁寧に進めました。

 今日配布した資料としては、第1丁の表裏2頁分を用意していました。しかし、慌てて進むことでもないので、今日は1丁表の7行目までを、時間をかけて進みました。

 今日の特記事項としては、私が「す」としたところを、最近みんなで取り決めたルールに則り、字母の「寸」にしようということになりました。次の画像は、第1丁表5行目の行末にある「堂ま者寸」となる所の「寸」です。最後の線が下に延びず、上向きで点を打つように書かれているので、「す」とせずに「寸」とします。

250531_春曙「橋姫」1oL5「寸」.jpg

 また、春曙本が「としころ(年比)」(4行目)とする所で諸本のほとんどが一致しているのに、麦生本・阿里莫本・中京大本は「としつき(年月)」としていました。また春曙本をはじめとして諸本が「いみしく」(6行目)とする所を、麦生本・阿里莫本・中京大本は欠脱していることから、麦生本・阿里莫本・中京大本は春曙本とは大きく異なる本文を伝えていることがわかります。
 今後とも春曙本がどのような本文を書承しているのかを考える参考とするためにも、こうした諸本との本文異同も確認事項の中に入れたいと思います。

 今日は、変体仮名を読む時間よりも、さまざまな文字の話が多くなりました。みなさん、積極的に発言しておられたので、楽しい勉強会となりました。

 次回は、7月5日(土)です。
 こうしたことに興味と関心をお持ちの方は、一度参加して仮名文字の世界の多様さを楽しんでください。
 その際には、本ブログのコメント欄をご活用ください。

 帰りには、1階に並ぶ100個近い小さな本箱の壁面の前で、さまざまな本を手に取って気ままにお話をしました。本好きが集まる空間として、すばらしいコミュニティの場となっています。ますます人が集まる場となることを願っています。




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2025年05月24日

キャンパスプラザ京都で尾州家河内本「桐壺」を読む(第30回)

 キャンパスプラザ京都(京都市大学のまち交流センター)の入口正面のロビーには、いつものように『源氏物語』の講座の案内が大画面に表示されていました。

250524_掲示板.jpg

 今日は最初に、NPO法人〈源氏物語電子資料館〉がこれから夏にかけて予定・協力している3つのイベントの確認をしました。詳細は、随時このブログで告知します。

(1)【シェア型書店HONBAKO京都宇治】 (JR宇治駅より徒歩3分)
   第1土曜日 5/31、7/5、8/2、9/6、10/4、11/1、12/6、
  「宇治で古写本『源氏物語 橋姫』の変体仮名を読む会」 14:00〜16:00

(2)6月15日(日)NPO主催の宇治散策

(3)8月25日(月)「新古典塾 平安文学リレー講座」大阪府立中之島図書館
   同志社女子大学 大津直子
   「谷崎潤一郎と『源氏物語』」+谷崎潤一郎記念館のパネル展

 次に、[■街中の変体仮名「お可毛登」or「お可无登」]として、次の表札の変体仮名をどう読むか、という問いかけをしました。

250524_お可毛登.jpg

 この、左から3文字めの仮名文字を「Mo」と読むことは、その横にあった表札からわかっています。それでは、この仮名文字の字母は何だろうか、と考えた時に、「毛」なのか「无」なのか迷います。
 参考までに、『携帯かな字典』(角川書店)の「も」の例示から、その一部を引きます。

250524_かな毛无.jpg

 これを見ても、その字母を特定するのに戸惑います。一応、私は「毛」としておくことにしました。専門家のご教示をお願いします。

 さらには、写真と資料をあげて、『源氏物語別本集成 正・続』(全二十二巻、桜楓社・おうふう、1989(平成元)年〜2010(平成22)年)を第七巻で中断した説明と、今後は変体仮名で翻字したデータを生成AIで分析するプロジェクトに移行する意義と、今後の展望と課題についてお話しました。

■『源氏物語別本集成 正・続』の刊行の経緯今後の問題点
 15年前まで、『源氏物語別本集成 正・続』(全二十二巻、桜楓社・おうふう、1989年〜2010年)という本文資料集を刊行していました。しかし、嘘の翻字を後世に残したくないので、刊行を中断しました。その時の弁明は「『源氏物語別本集成』中断の弁」(2010年06月24日、http://genjiito.sblo.jp/article/178934604.html)に書きました。
 正編15巻については、総勢80人が376帖の写本を読み、各帖を3人が読んで確認したので、約10億字を読んだことになります。続編は3倍の分量の写本を対象としていたので、約30億字を読む計画でした。しかし、上記の理由で道半ばの続編の第7巻で打ち切りました。『源氏物語別本集成 正・続』のプロジェクトで得られた約20億字以上の翻字データは、現行の平仮名に置き換えた翻字であったために、今回の「変体仮名翻字版」には、参考にはなってもデータとしては使えません。。
 『源氏物語別本集成 正・続』では、お手伝いしていただいた方々のお名前を各巻の冒頭に掲載し、感謝の気持ちに代えました。それが、最近は、NPO法人〈源氏物語電子資料館〉を介したプロジェクトになっているため、薄謝をお支払いして、「変体仮名翻字版」の翻字作業を進めてきました。しかし、今後も増え続ける翻字データの対処について、NPO活動に限界を感じています。資金が足りないからです。官民からの活動支援を得て、対処すべきでしょう。しかし、100年計画のどこまでをどのように進めるのか、という展望を整理する必要が直近の課題となっています。「生成AIを意識したデータベース構築のために」(2025年05月06日、http://genjiito.sblo.jp/article/191343538.html

 このことは、折々に話題にしていきます。

 本日のメインである尾州家河内本「桐壺」の本文の確認は、第19丁表2行目から19丁裏までを扱いました。尾州家本特有の、朱による句読点の扱いについて、今日は傍記に打たれた朱の読点をどう扱うかで、予想外に時間を取りました。そのために、2頁分しか進みませんでした。

 問題となったのは、「・いふ可う/±〈朱点〉、い+と、傍とノ下ニ〈朱点〉・」(19丁裏9行目)とした箇所です。

250524_尾州「桐壺」19裏L9+と.jpg


 「い」と「ふ」の間に補入記号の「◦」を付して書かれた、傍記の「と」の下に打たれた朱点について、本文のデータベース化にあたってどう記述するか、という問題です。
 これについては、ありのままに「い+と、傍とノ下ニ〈朱点〉」としました。
 これと同じ例は、この後、21丁表6行目に「と」が補入されてその下に朱点が打たれているので、来月また取り上げます。

 以下、本日確認した「変体仮名翻字版」の翻字結果をあげます。

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於ほしめ志む春本ゝれ多里/±〈朱点〉、流〈削〉里、(む春本本れ多流)・【先帝】
能/±〈朱点右〉・【四】能【宮】・ナシ/+【御】可多ちよに、よ±〈朱点〉・ナシ/+春くれ弖・ナシ/+きこえ・ナシ/+堂可う・ナシ/+於八しま須(「須」ノ右下ニ朱点)・八ゝきさ起、(八八)・よ尓なう/±〈朱点〉・かしつき/±〈朱点〉・ゝ古江/(き古江)・
【給】を・うへ尓/±〈朱点〉・さ布ら婦・【内侍】乃す遣/±〈朱点〉・せん多い乃/±〈朱点〉・
【御時】の・【人】尓て・可能/±〈朱点〉・【宮】尓も・新多しく・万いり気
礼八/±〈朱点〉・い盤けなく/±〈朱点〉・於八しましける/±〈朱点〉・【時】より・【見】/±〈朱点〉、△〈削〉【見】、【見】=【見】〈削〉・多て
まつり遣り・いまも/±〈朱点右〉・本乃【見】・多てまつりて・う勢/±〈朱点〉・
【給】尓し・【更衣】能/±〈朱点〉・【御】可多ち尓・ゝ/±〈朱点〉、(尓)・多まへる・【人】を・【三代】
能/±〈朱点〉・三や徒可へ尓・ナシ・江/±〈朱点〉・【見】/△〈削〉【見】、【見】=【見】〈削〉・多てまつり・つ遣ぬ尓・きさい
乃【宮】能/±〈朱点〉・飛め【宮】こそ・いと/±〈朱点〉・よう・於本江弖/±〈朱点〉・於ひい
てさ勢/±〈朱点〉・多まへれ・ナシ・あり可多き/±〈朱点右〉・【御】可たち尓なんと/±〈朱点〉・
そうし遣る尓/±〈朱点〉・ナシ・まこと尓やと/±〈朱点〉・【御心】/±〈朱点〉・とまりて・ナシ・まいら勢/±〈朱点〉、ら〈次頁〉、(19オ)
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堂てまつり/へ〈削〉つ・【給】へき・よし・ねんころ尓/±〈朱点〉・きこ
江・堂まひ遣るを・八ゝきさ起/±〈朱点〉、(八八)・あ那/±〈朱点〉・於そろし
や・とうく乃女御の/±〈朱点〉・み【心】・いと・さ可那くて・起りつ本能
かういの/±〈朱点〉・あら八尓・八可那う/±〈朱点〉、く〈削〉う、う=う〈削〉・もてなされ尓し・多
めし毛/±〈朱点〉・ゆゝしうと/(ゆゆしうと)・於本しつゝ三弖/±〈朱点〉、(つつ三弖)、【見】$〈削〉三、三=△〈削〉・す可/\しうも/±〈朱点〉、=速ゝ(速速)、も〈行末左〉、(す可す可しうも)・
於本し多ゝ佐り遣る/±〈朱点〉、(多多佐り遣る)・本と尓・起さき/±〈朱点〉・うせ・【給】
ぬ・【心】本そくて/±〈朱点〉・於八しま春らんを・多ゝ/±〈朱点〉、(多多)・王可をん
那みこ多ち能/±〈朱点〉、=我・於なし・つら尓・於もひ/±〈朱点〉・起こ江ん
なと・いふ可う/±〈朱点〉、い+と、傍とノ下ニ〈朱点〉・起こ江/±〈朱点〉・たまふ・さふら婦/±〈朱点右〉・【人】/\/±〈朱点〉、(【人人】)・【御】うし
ろ三多ち/し〈行末左〉、±〈朱点〉・【御】せうと能/±〈朱点〉・【兵部卿】乃【宮】なとも・遣尓/±〈朱点〉・
かう/±〈朱点〉・【心】本そくて/±〈朱点〉・於八しまさむより八/±〈朱点〉・【内】す三も/±〈朱点〉、も〈次頁〉、(19ウ)
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 本日も、慌ただしく終わりました。大急ぎでテーブルを片づけて退室しました。時間に厳しい管理がなされているので、終盤は駆け足になることが多いように思います。90分ではなくて、あと30分、120分の講座にしたいところです。今後の課題とします。




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2025年05月17日

日比谷で「須磨」(24)と『百人一首』(新1)を読む

 京都で降っていた雨は、新幹線と共に東京へも付いて来たようで、日比谷図書文化館に着いた時にもかなり降っていました。
 入口には、いつものように本日のイベントの掲示がありました。

250517_掲示板.jpg

 まず、ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」巻の写本を読む講座からです。
 今日は、『源氏物語別本集成 正・続』(全二十二巻、桜楓社・おうふう、1989(平成元)年〜2010(平成22)年)を刊行してきたことと、それを中断した経緯について説明しました。今この講座で取り組んでいる変体仮名に拘った翻字の確認をしているのが、どのような意味を持つのかをわかっていただくためです。

 その後、ハーバード大学蔵『源氏物語 須磨』の45丁裏から46丁表までを確認しました。2頁分しかできなかったのは、いつもより丁寧に字母の説明をし、翻字の意味を詳しく確認したためです。
 以下が、本日の確認分です。

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き多の可多は・ふ祢尓て・の本る・うら徒多ひ
尓・勢うえう・し川ゝ/(し川川)・くる尓・ほ可より毛・
於もしろき・王多里奈れ八・いとゝ
【心】/(いとと)・と満る尓・【大将】・可くて・於者寿と・き
く尓・あいなく・すい多る・む春免とも八・ふ祢
乃・うちさへ・者川可しく・【心】けさうせらる・まし
て・可乃・【五】勢ち乃き三八・徒奈弖・ひきすく
る毛・くち越しき尓・きむの・こゑ・【風】尓・
川きて者る可尓・きこゑ多り・【所】・さ満・【人】の・
【御程】・毛のゝ/(毛のの)・祢乃・【心】本そさ・とりあ徒免て/て〈次頁〉、(45ウ)
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【心】・ある・可き里は・三那・ゝきに介り/(那きに介り)・そ
ちは/=帥〈左傍記〉・【御】勢そく/勢±う、(【御】勢うそく)・きこゑ堂り・者る可
奈る・本とよ里・ま可里の本らん尓は・いつ
し可毛・満川・まいり【候】ひて/て&【候】、(まいりて)・【宮】こ乃・
【御物】可多り毛とこそ・【思】・【給】徒れ・於もひ
の・本可尓・かくてを八しま新ける・【御】やとり
を・可く万可里すくる・可多し介奈く・可奈
しう毛・【侍】る可那・あひし里て・【侍】る・【人】
と毛・ナシ・かれこれ・万て・きむ可ひて・あま多・る
いして・【侍】れ八・【所】勢佐尓・於もふ・堂満へ/(46オ)
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 また、6月15日(日)にNPO法人〈源氏物語電子資料館〉が主催して宇治の散策をする予定を連絡しました。この件は、来月さらに詳しくお誘いのチラシを配ってお知らせする予定です。

 1時間の休憩時間に、ハーバード大学本「須磨」・「蜻蛉」と歴博本「鈴虫」の臨模本作製された宮川さんがお越しになったので、控え室で相愛大学所蔵の写本について、詳細な打ち合わせをしました。相愛大学本はハーバード大学本などのツレなので、この臨模本も作製するためです。6月下旬に相愛大学へ調査に行くことになりました。

 引き続き、『百人一首』の仮名文字を読む時間となりました。
 今回から、できあがったばかりの『変体仮名でよむ 百人一首』(伊藤鉄也・吉村仁志 編、新典社、2025年5月)を使って、確認を進めました。
 ここでも、変体仮名による翻字が持つ意義をお話ししました。
 今日は、第4番歌の山辺赤人まで見たので、次回は第5番歌の猿丸大夫からです。テキストが新しくなると、気分も新鮮に取り組めます。最後にいくつか質問が出たので、詳しいお話をしました。日比谷図書文化館での講座は質問が多いので、前に進めることよりも、その時々の疑問点にお答えすることを優先しています。
 終わってからも、狂歌との関連の質問があったので、私の課題として次回にお答えすることにしました。みなさん熱心に取り組んでおられるので、こちらも緊張感をもって対応しています。

 終わってから外に出ると、雨は上がっていました。内幸町の交差点から北を見ると、国会議事堂の尖塔が雨上がりのスッキリとした空気の中で臨めました。今までで一番きれいに見えたので、写真に収めました。日比谷公園の中の野外音楽堂の横に建つ日比谷図書文化館が、国会議事堂のすぐ近くにあることを、あらためて気付かされました。

250517_議事堂.jpg

 今日は、上野公園のそばに泊まります。息子が海外出張のためにいないので、都内で探したところ、やっと見つかったのが上野だったのです。
 晩ご飯は、すぐ近くのアメ横でいただきました。京都の錦市場や、大阪の黒門市場とは違う、多くの海外からの若者が集う渾沌極まりない地域でした。東京に長くいた私も、ここに来るのは初めてです。とにかく、活気とは異なる、お祭り騒ぎに近い賑わいでした。これも、東京の一つの姿なのでしょう。楽しい街であることは確かです。みなさん、大盛り上がりで、食べたり飲んだりしておられました。

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