2019年09月14日

日比谷で源氏の橋本本を読む(15)[新規講座の紹介]

 今日は日比谷で『源氏物語』の写本を読む講座がある日です。昨夜は、明け方まで今日の資料作りをしていたので、新幹線の中ではずっと寝ていました。
 会場の日比谷図書文化館へは、新橋駅から行きます。着くとすぐに、地下のダイニングで昼食を摂ります。受講生の方がホールにいらっしゃったので、写本の翻字作業の中で疑問の箇所について、問われるままにお答えしました。しばらくすると、待ち合わせをしていた、科研とNPOの活動を一緒にやっている淺川さんが来てくれました。私が手広く活動しているので、打ち合わせることはたくさんあります。

 今日の「古文書塾 てらこや」の講座では、今朝方までかかって作成した、15枚1セットのプリントを配りました。その中身は、以下の通りです。
・今日の問題点に関する異文資料
・橋本本「若紫」で漢字にすべき「覧」のリスト
・来月10月26日に実施する「時代祭」と『百人一首』のイベントのお誘い
・「視覚リハ大会in盛岡」の発表ポスター(「点字付百人一首」)
・道路標識のひらがなの書体の違いの京都新聞の記事
・平安京の羅城・九条大路初出土に関する京都新聞の記事
・発掘で明らかになった鳥辺野の広がりの京都新聞の記事


 これらのプリントの説明で、1時間もかかりました。
 休憩を挟んで、後半は橋本本「若紫」の45丁ウラ5行目から、変体仮名を確認しながら進みました。
 今日も、お詫びからです。実は、これまでの翻字で、「御覧」の時には【御覧】と、漢字には亀甲記号で挟んでいました。しかし、今日の箇所で出てくるように、「おそろし可覧と」や「あ覧」などの「覧」は、漢字と明示していなかったことに、昨夜気づきました。そこで、大急ぎで「若紫」でのこうした不備のある箇所を一覧できるように整理して、みなさまに説明しました。それは、以下の箇所です。

■橋本本「若紫」で漢字にすべき「覧」のリスト(190914)
 (○は訂正ナシ。×は訂正アリ。→は訂正後の表記)

○【御覧】せさ(4ウL3)
○【御覧】せよと・(15ウL)
○【御覧】し可多くや・(19ウL5)
○【御覧】しゆるさるゝ・(24オL5)
○【御覧】せよと・(24オL10)
○【御覧】しゝらは・(34オL7)
○【御覧】しいれぬ・(38オL1)

×なれ$覧・(7ウL5)
   →なれ$【覧】・
×ものおそろし可覧と・(46オL9)
   →ものおそろし可【覧】と・
×堂てま徒覧と・(46ウL3)
   →堂てま徒【覧】と・
×免さ満し可覧と・(47ウL)
   →免さ満し可【覧】と・
×あ覧(54ウL4)
   →あ【覧】
×あ覧・(55ウL8)
   →あ【覧】・
×きこゑや覧・(59オL5)
   →きこゑや【覧】お・
×ゆ里なる覧/ゆ±可・(63ウL8)
   →ゆ里なる【覧】・


 【覧】とせずに「覧」のままでは、「覧」という変体仮名があることになります。「覧」は一字一音の仮名文字ではないので、ここはどうしても亀甲カッコで括っておく必要があります。なぜ、今までこの文字に限って、漢字にしていなかったのか、我ながら不思議です。この「覧」については、注意力がスッポリと抜けていたようです。

 今日は、48丁オモテの4行目まで見ました。その最後のところに、次のような異文があります。

※【橋本本校訂本文】テキスト P113(48丁オ)
「なぞ恋ひざらん」とうち誦(ず)じたまへるを、若き人々は身にしみて めでたしと思ひきこへたり。

※【大島本校訂本文】『新編全集』(小学館)P242
「なぞ恋ひざらん」とうち誦(ず)じたまへるを、身にしみて若き人々思へり。


 ここで、本講座で用いている橋本本グループが「わかき人々は・みにしみて・めでたしと」とするところを、一般に読まれている大島本グループでは「身にしみて・わかき人々」となっています。この違いについて、「人々は」の箇所で傍記されていた「身にしみて」が、前に混入するか後ろに混入するかによって、2種類の異文が発生したことを説明しました。さらには、橋本本が「めでたし」という語句を引き連れて後ろに傍記が潜り込んでいることから、傍記されていた字句は「人々は」ではなく、ここにこの写本の特異性が見られることも確認しました。
 後半は、大急ぎで48丁オモテの4行目まで行きました。

 これで、今期は終わりです。来月は体験講座があり、再来月から次期の本講座が始まります。
 講座の終了後は、受講生からの翻字に関する質問にお答えした後、いつものように有楽町の高架下で課外講座です。今日は、『源氏物語』は男性が書いた作品であるという視点で読むとどうなるか、ということで議論が盛り上がりました。
 来月からは、午前11時から90分が、新設される『源氏物語』の異文を読む講座です。午後2時からの120分が、これまで通り変体仮名を読む講座となります。
 現在、受講生を募集中です。特に、午前の部は、これまでにその内容を詳しくは誰も読んでこなかった橋本本「若紫」を、参会者と一緒に語り合う内容を予定しています。大島本で『源氏物語』を読むことに飽きた方や、異文の実態を知りたい方は、この午前の部にどうぞお越しください。中身はいいので、とにかく変体仮名が読めるようになりたい方は、午後の部へどうぞ。
 こうしたことに興味のある方の参加を、お待ちしています。

※次の画像をクリックすると精彩画像としてご覧いただけます。

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2019年08月03日

日比谷で源氏の橋本本を読む(14)[削除後の空白箇所は謎]

 日比谷公園では、女性のアイドルグループが歌い、その仮設ステージの前で多くの中年の男性が手を叩いて踊るパフォーマンスが繰り広げられていました。この会場となった一角では、「撮影禁止」の張り紙が至る所に貼られています。「撮影禁止」と書かれた張り紙を写真に撮るわけにもいかず、珍しい光景をただ眺めていました。
 韓国で、香港で、中国でと、日本を取り巻く国々が政治的に騒然となっている時、ここ日比谷では「食と音楽のイベント」が太平楽に催されています。なんとなく擽ったい気持ちになりました。

 今日の橋本本『源氏物語』を読む講座は、中国で7世紀の仏教の写本が見つかったという新聞記事から始めました。『源氏物語』の古写本を探し求める努力も、諦めてはいけません。終戦後、中国で姿を消した従一位麗子本や、インドに渡ったと思っている伝阿仏尼筆本などは、戦禍や災害で焼失したのではなくて、今もどこかで眠っていると思っています。それが夢だとしても、その夢はいつまでも追い求めていきたいものです。いつの日にか、その姿をまた見せてくれることを楽しみにして。

 橋本本は、44丁ウラの冒頭から、変体仮名の字母に注意して確認していきました。
 始まってすぐの2行目に、2文字分の空白があります。

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 その空白の右横に、「徒む」と書き添えられています。この削られた箇所には、その下に「ひく」と書かれていたことが原本の調査でわかっています。上掲の写真からも、その下の文字がかすかに見えています。参考までに他本の本文を見ると、すべてが「なつむ」となっています。つまり、橋本本の「なひく」は、「ひく」を削ることで「なつむ」にしたいようです。ただし、削った後をなぞるのではなく、横に書き添えているのが、これまでの訂正方法と違って謎です。
 次の行にも、1文字分の空白の右横に、「人」という漢字が1文字書き添えてあります。ここは、下にあった削られた文字はまったく読めません。削った意図も不明です。
 さらには、7行目にも、空白が2文字分あり、その右横に「てら」と書かれています。

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 削られた文字は「さと」です。他の写本の本文を参照すると、「山さと」と書き写された橋本本の本文を、「山てら」に変えたいようです。「山さと」は河内本グラープが伝える本文で、「山てら」は大島本グループの本文です。河内本グループから大島本グループへという、本文の変更がなされているのです。
 この本文の異同と、橋本本の本文を削ったことの背景は、もっと証拠を積み上げてこの意味するところを明らかにしたいものです。
 こうした空白は、一体なんなのでしょうか。実は、この橋本本には、最初から何箇所もこうした例がありました。この例のすべてを、以下に列記しておきます。諸本の本文異同も同時にあげます。この文字を削った後に、その右横に字句が書かれている背景には、橋本本とは異なる本文を伝える、現行物語の基準本文となっている大島本グループの存在が大きく関係しているようです。
 これらは、すべてが今後の課題です。

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※今日の検討事項
  削除されて残った空白箇所

「若紫」異文校合 十七本(尾カラー重複)
橋本本・・・・050000
 大島本(1)[ 大 ]
 尾州河内本(1)カラー版[ 尾 ]
 中山本(1)[ 中 ]
 麦生本(1)[ 麦 ]
 阿里莫(1)[ 阿 ]
 陽明本[ 陽 ]
 池田本[ 池 ]
 御物本[ 御 ]
 国冬本[ 国 ]
 肖柏本[ 肖 ]
 日大三条西本[ 日 ]
 穂久邇本[ 穂 ]
 保坂本[ 保 ]
 伏見本[ 伏 ]
 高松宮本[ 高 ]
 天理河内本鉛筆なし[ 天 ]
 尾州河内本(1)[ 尾 ]
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・とくこそ/く〈削〉□=く(1ウ1行目)050042
 とくこそ[大尾中麦阿陽池御肖日穂保高天尾]
 とてこそ[国]
 とてこそ/て$く[伏]

・まう□□たれ盤/さ勢〈削〉□□、う+し(1ウ2行目)050056
 申たれは[大池御国肖日穂保伏]
 まうさせたれは[尾天尾]
 申させたれは[中麦阿陽]
 まうさせたれは/さ〈改頁〉[高]

・志□〈改行〉路し免しな可ら/ろ〈判読・削〉□(14ウ2行目)
   (諸本に大きな異同なし)

・【十】よ【日】□□より/よ△〈削〉□□(14ウ8行目)・051098
 十よ日の[大池御国日伏]
 十よ日より[尾高天尾]
 十日より[中]
 十日よひの[麦阿]
 十日の[陽]
 十よ日の/日よひ〈削〉よ日[肖]
 十余日の[穂]
 十よ日の/の〈改頁〉[保]

・【御】せ□そく/い〈削〉□(28オ2行目)052161
 ナシ[大麦阿池御国肖日穂保伏]
 御せうそく[尾陽高天尾]
 御せうそこ[中]

・な□□/ひく〈削〉□□、前□=徒む(44ウ2行目)053633
なつむ[大尾中麦阿陽池御国肖日穂保伏高天尾]

・□をやと/【事】〈削〉□、=【人】・【事】さら尓(44ウ3行目)053638
 人にやと[大麦阿池御国肖日穂保伏]
 人をやと[尾中陽高天尾]

・【山】□□尓/さと〈削〉□□、前□=てら(44ウ7行目)053656
 山寺に[大麦阿穂]
 山さとに[尾陽高尾]
 山寺らへ[中]
 山てらに[池御肖日保伏]
 やまてらに[国]
 山里に[天]
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※次回以降に検討する用例
・いと□/け〈削〉□・なさ気那く(46ウ4行目)053827
 いと[大尾中麦阿陽池御国肖日穂保伏高天尾]

・うしろめ□多う/て〈削〉□(50オ4行目)054150
 うしろめたなう[大池国日伏]
 うしろめたう[尾中麦阿肖穂保高天尾]
 うしろめたなふ[陽]
 うしろめたなう/な$[御]

・を那しく八・□〈改行〉よろしき/△〈削〉□〈付箋跡〉(50ウ10行目)054218
 おなしくは[大尾麦阿陽池国肖日保伏高天尾]
 をなしうは[中]

・【年】ころよ里も□/△〈削〉□(52ウ8行目)054382
 としころよりも[大尾中陽池御国日穂保伏高尾]
 とし比よりも[麦]
 年ころよりも[阿肖]
 年比よりも[天]

・堂てまつり□/て〈削〉□(53オ8行目)054427
 たてまつり[大尾中陽池御国日穂保高天尾]
 奉り[麦阿]
 ナシ[肖伏]

・【心】□〈改行〉く類しくなんと/く〈削〉□(53ウ7行目)054465
 心くるしうなと[大麦阿池御国肖日穂保]
 こゝろくるしうなんと[尾尾]
 心くるしくなんと[中]
 心くるしふなと[陽]
 心くるしうと[伏]
 心くるしうなんと[高天]

・徒可八春□□/△△〈削〉□□(56ウ7行目)054724
 たてまつれ給ふ[大]
 つかはす[尾中麦阿陽高天尾]
 たてまつれ給[池国肖日伏]
 たてまつれたまふ[御]
 たてまつり給[穂]
 たてまつれ給/〈改頁〉[保]
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 こうした例については、今後とも用例を積み重ねて、誰が、いつ、何の理由で、どのようにして削り、何を参考にして書き添えたのかを明らかにしていく必要があります。今は、今後の検討課題として、問題箇所を明示しておきました。

 なお、今回も、私の翻字の間違いを見つけてくださいました。
 「し可た【気】にて」(44丁裏7行目)の「た」は「多」の誤りでした。
 ここで、翻字の字母が正確に表記できていなかったことを、お詫びして訂正します。

 このブログの記事を書き終えた頃に、新幹線は京都駅に着きました。ドアが開いたので降りようとした時のことです。ものすごい勢いで乗り込んで来られる6、7人のグループが、降りようとする私などを押し退けてでも乗り込もうとされます。私の後から降りようとする方も、この勢いには怯んでおられました。電車は夜ということもありガラガラです。私たちは、満員だったのでデッキに立っていたのではありません。降りるためにデッキにいたのです。
 ここで、中国語を捲し立てて突進して来られる方々と競う気持ちは、毛頭ありません。新幹線の乗り降り口は、人一人が出入りできる幅しかありません。自ずと、この中国からのグループが乗り込まれるのを、これから降りようとしていた私たち数人は、降り口から数歩下がって、旅行客であるみなさまが乗り終わられるのを待つことになります。
 降りる人々を押し倒すようにしてでも乗り込むことは、日本の文化にはありません。降りる人が優先、という暗黙の了解があるのです。他国に来て、自国の論理を押し通すのは、気持ちのいい文化交流にはつながらないと思います。異文化間の人的な交流について、その難しさをこんな所で痛感することとなりました。お互い、気持ち良い交流を心がけたいものです。我先にという自国の文化を背負っての実践的な行動は、少なくとも日本では謹んでいただきたいものです。自国でなさるのはご自由です。しかし、ここは日本なのです。嫌でも日本の流儀に合わそうとするところに、異文化体験を通しての異文化理解が生まれると思います。そんな旅人ならば、温かく迎えて、楽しい旅となることを願って、可能な限りの手助けをしたくなります。相手を理解しようとするところから、お互いの文化の違いがわかり、そこから新しい交流につなげていけると思います。
 今日は、お隣の国の方々の身勝手な行動に、残念な思いをさせられました。
 
 
 
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2019年07月13日

日比谷で源氏の橋本本を読む(13)[講座新設と異文読解]

 日比谷図書文化館で『源氏物語』を読む講座がある日です。ただし、自宅で朝食を食べている時に腹痛に見舞われました。消化管を持たない私にとっては、最近とみによくあることです。食べ残してでも、出かけるしかありません。

 京都駅の構内で、お昼ご飯を兼ねたお弁当を買いました。しかし、それもほとんど食べられないままに、腹痛を我慢しながらの上京となりました。いつものことで慣れているとはいえ、身体には堪えます。出がけに妻が手渡してくれた、副食と化しているチーズと栄養ドリンクでお昼を済ませました。

 今日の資料は、A4版のプリント6枚。日比谷図書文化館のスタッフの方に印刷してもらい、お話をしながら一緒にホッチキス留めをしました。
 始まる前に、写本を翻字してくださっている方からの疑問点にお答えしました。漢字として翻字するのか、変体仮名として字母である漢字を表記するのか、ということです。初めてということで、いろいろと思い悩んだ末の質問でした。数十個の疑問箇所について、その一つ一つの判断の基準を示しながらお答えしました。NPO活動のメイン事業として、「変体仮名翻字版」を作成しています。その作業過程において、翻字にあたっての漢字表記の問題は、面倒なことが多いのです。それでも、漢字と思った文字には隅付き括弧(【 】)で括っておいていただくようにお願いしています。後で括弧を外すのは簡単だからです。

 講座が始まる前とはいえ、頼まれた資料を渡したり、目が見えない学生さんのNPO法人からの奨学金の手続き書類の確認、この1ヶ月間にお願いしたりお願いされたりしたことの回答や報告を受けるなど、何かと慌ただしい対応に追われます。
 受講生のお名前を読み上げて出欠を取った後、過日のブログ(2019年07月07日)に書いた変体仮名の「王」について、プリントを使って確認しました。これは、日常の中にある生きた文字に関する資料の検討です。

 山下智子さんの京ことばで読む『源氏物語』の案内チラシも、このタイミングで確認しました。

 この講座は「翻字者育成講座」です。今秋からは、新しく「異文を多角的に楽しむ講座」を開設することになりました。前回の講座報告(2019年06月08日)で、次のように書きました。
この日比谷図書文化館での講座に関しても、前回同様に橋本本の本文を解釈してその意味をみんなで考える勉強会の設立を、具体的に打ち合わせました。これについては、近いうちに結論を出すつもりです。

 これに関しては、これまで講座が終わってから外で実施していた課外講座を、この古文書塾「てらこや」のプログラムの中で展開するものです。主催者側が認めてくださったので、その募集チラシの素案を提示し、少し説明をしました。まだ検討中の文案ながらも、参考までに引用します。これについて、ご教示いただけると幸いです。

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 これは、来月には広く公開して受講者を募集することになります。新設の「異文を多角的に楽しむ講座」だけの受講者も歓迎します。午後の「翻字者育成講座」と連動するものではあっても、これはこれで単独の講座として扱われます。

 今日のメインは、前回読んだところの続きにある、本文異同の問題点の確認です。橋本本と大島本の2つのグループ間には、さまざまな本文異同があります。この段落ではその違いが顕著な例があるので、日頃は翻字以外はしない方針のこの講座であっても、あえて取り上げることにしました。これは、今秋から始める異文の問題をどのようにして対処するのか、というシュミレーションでもあります。
 以下の資料を配布しました。

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 異文を丁寧に確認し、今この講座で読んでいる橋本本が大島本と大きく違うことを説明しました。
 橋本本が「さまたけとや」とする箇所を、大島本は「ほたしに」とします。「ほだし」と「きずな」について説明しながら、ここでの表現の違いに目を向けてもらいました。続いて、橋本本が「息の下なる御こゑも御(心?)くるしうほのかに絶え絶え聞こえて」とするところを、大島本が「心細げなる御声絶え絶え聞こえて」となっている箇所の意味の違いを考えました。この本文異同については、この講座が終わってから新橋駅前のレストランに集まっての課外講座でも、おもしろかったとの反応があったので、わかりやすい異文の確認となったようです。

 残りの30分は、テキストである写本橋本本の翻字を進めました。44丁裏の最終行まで見終わりました。

 前述のように、レストランに場所を移しての課外講座は、今日の内容の確認と、今秋から始める「異文を楽しく読む講座」の内容について相談しました。さらには幅広い話題で、2時間半以上も語り合いました。さまざまな立場から新鮮な意見が聞けるので、これもいい勉強の場となっています。

 最終の京都行き新幹線に飛び乗り、食事をしようとした時です。また、腹痛と吐き気がしました。緊張感が解けると、今朝の悪夢のような時間に包まれました。今日は体調が良くないようです。新幹線でこの文章を書くと、早々に身体をシートに沈めました。明後日は九州に飛ぶので、明日はひたすら身体を休めることにします。

[追記]
 今日、受講生の中で翻字のお手伝いをしてくださっている方々にお渡しした翻字依頼のための資料は、次のものでした。いつも、どなたにどの写本のどの巻をお願いしたのか、すぐに忘れます。後でメモも探せないこともしばしばです。情けないことです。そこで後々のためにも、ここに記録しておきます。いずれも保坂本です。

09葵(SI氏)・10賢木(SE氏)・12須磨(HM氏)・13明石(HM氏)

 
 
 
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2019年06月09日

春日野での茶道文化講演会で高麗茶碗の話を聞く

 近鉄奈良駅前は、修学旅行生と中国からの観光客でごった返しです。耳に届く言葉の99パーセントは中国語です。修学旅行生の日本語を聴くと、ここが中国の観光地ではなかったことに気付かされます。鹿が至る所にいる町並みと、観光客の大群には、違和感を覚えました。京都での観光客の雑踏とはまったく違う、大らかさの中の混雑です。

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 今年も、東大寺の近くにある奈良春日野国際フォーラム甍で、第53回 茶道文化講演会がありました。演題は「高麗茶碗の話」、講師は野村美術館の谷晃館長です。

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 配布された資料の冒頭には、次のように記されています。

「見て、知って、楽しむ 高麗茶碗」

    2019.06.09 於 淡交会奈良県支部

          谷 晃

高麗茶碗とは何か

主として16世紀初頭から18世初頭にかけて、朝鮮半島南部において生産された施紬陶磁碗で、日本の茶の湯に受け入れられたもの。但伝世品は対馬藩の経営する倭館内の窯で生産されたものが多い。
 青磁系・粉青系・白磁系・その他の系統がある
 初期・中期・後期で性格が異なる
 産地の特定がされつつあるもののまだ十分ではない


 韓国での調査に関する体験談から始まりました。発掘調査と文献調査をもとにして話は展開します。
 高麗茶碗の5割から8割は、日本で使われることを意識して作られたものだそうです。
 アレっと思ったのは、「先祖を大切にする儀式である祭事が、日本では忘れられてしまったが、韓国では今でも残っている」という表現でした。儒教を語る流れの中だったとはいえ、そう言ってしまうと、日本の伝統行事がないこととなり、話の切り口が変わってしまいます。その後は、茶会記の話に移ったのでよかったものの、茶碗の文化に疎い素人ながら、少し心配をしました。

 最後の30分で、茶碗の写真が映写されました。この時には、多くの方の頭が上がりました。

 今日知った言葉に「倭館窯(対馬藩の韓国出張所)」があります。ここでは、韓国の民生品を中心としたコピーや注文製品が作られていたそうです。1回の窯入れで千個くらい焼けたので、1万点以上が幕府にプレゼントされたり、藩内では贈答に使われたようです。
 お話をうかがいながら、もっと画像を見せていただけないかな、と思いました。

 講演会が終わるとすぐに、近鉄奈良駅から大阪へと移動です。その途中で、興福寺南円堂が見えました。

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 新しい生活が始まったこともあり、6回目の西国三十三所観音霊場巡りを始めようと思っています。今度は、なんにも追い立てられることのない、ゆったりとした旅にするつもりです。そのため、目の前の西国三十三所第九番札所の南円堂には今は立ち寄らず、大阪へと向かいます。伊井春樹先生にお目にかかる予定があったからです。

 今日は蒸し暑い中を、京都・奈良・大阪と、三都を巡る日となりました。
 
 
 
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2019年06月08日

日比谷で源氏の橋本本を読む(12)[盛りだくさんの内容]

 日比谷図書文化館での『源氏物語』の講座は、順調に回を重ねています。
 今日は、国会通り沿いに咲いている花の艶やかさに、つい立ち止まってしまいました。
 後方の赤レンガ色の建物が、日比谷公会堂です。

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 後ろの方にすっくと立っている赤やピンクや白い花は「タチアオイ」、手前の黄色は「ビヨウヤナギ」。どちらも、我が家でも花を咲かせていたものです。京都に移ってからは植えていません。記憶の片隅にこの花の姿があったせいか、懐かしい想いで見ました。奈良の山の中で咲いていた花が、今、国会議事堂のそばで花開いているのです。こんなに見事に咲いているのに、あまり見向きもされない花たち。しばし、見とれてしまいました。

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 今日は、ここまで進みます、と宣言して始めました。いつも、写本を読む前にお話に熱中してしまうので、あまり進まないうちに終わります。これではいけないと、進む目標を決めてのスタートです。これまでの5年間で初めてのことです。

 まずは、山下智子さんの女房語りの案内のチラシを配りました。東京と京都の2箇所のものです。一昨日も山下さんからは、ご一緒に変体仮名と源氏語りのセッションをする計画を楽しみにしている、という連絡をもらっています。しかし、私がいつも出歩いているので、なかなか日程が合いません。今年こそは、と思っています。

 この講座は、特定非営利活動法人〈源氏物語電子資料館〉の活動の一環として開催しています。そのため、会員の多くはこの講座に参加なさっている方々です。NPOの総会の話と、今年度から視覚障害者への奨学金制度を設けたことを報告しました。そのことは、過日のブログ「NPO法人〈源氏物語電子資料館〉の第7回総会の報告」(http://genjiito.sblo.jp/article/186085614.html)に書いたように、次の奨学支援をすることになったことです。

目が不自由な学生等を対象とした「日比谷図書文化館古文書塾てらこや受講生向け奨学金制度」を設立します。これは、障害者手帳と日比谷図書文化館での翻字者育成講座領収書の提出を受けて、受講料の約6割の1万円を本法人が支給することで、勉学の支援をする制度です。本年度から実施します。内規を適用しながらの運用となります。


 該当者でもある2人の若者は、今日も元気に参加しています。みなさまもその熱意を感得しながら、共に変体仮名を読んでおられるので、この制度の意義は理解が得られたと思います。
 視覚障害者との活動を展開なさっている方からも、ブログに触れて次の励ましをいただきました。

日比谷図書館の講座を受講する際の、奨学金制度が出来たことも、すごいことだと思いながら拝読致しました。
口先だけで呼び掛けるのではなく、勉強出来る環境の方を整えて行くというのは、真の支援だと思います。


 とにかく、目が見えないながらも触読で変体仮名を読もうとする若者を、大切に育てていきたいと思います。また、講座に参加なさっている方々も、いろいろと助けてくださいます。いつものように、終わってからの課外講座での話の中で、高校生に付いて来ておられるサポートの方は、講座中はそばでなくて室外の控え室で待っていただいた方が、本人の自覚も高まり、受講生との一体感の中で自立した勉強ができるのではないか、という意見が出ました。なるほど、と思いました。来月は、その提案をしてみようと思います。普通の高校生だって読まない変体仮名です。さまざまな取り組みの中で、多くのことを学んで育ってほしいものです。

 ウクライナ語訳『源氏物語』のことや、大阪大学外国学図書館のこと、さらには「紫風庵」での三十六歌仙のことなど、さまざまな近況報告などをしました。それでも、今日は早々と写本を読むことになりました。

 42丁表の1行目「ましたると」からです。「悲」という変体仮名が、前回同様に出て来ました。「出」とか「書」に間違えやすい字形をしています。
 「可し〈改行〉古新とて」という箇所では、「古」と「新」つなげたところには、書写者の遊び心があるのではないか、という提案をしました。これは、平安時代の作者に遡ってもいいと思います。一案です。
 「个」は今後は筆の流れが一旦右に折れているものは「介」にしたいと提案しました。また、「て」はそのままとして、短く入ってくの字に膨れているものは、「弖」にしたいことも伝えました。
 そんなことを話しているうちに、また脱線してしまいました。そんなこんなで、結局は予定していた興味深い異文のある直前まで辿り着くのがやっとでした。一番肝心の話題になるはずだったことが、できなかったことは、意を決して望んだだけに残念でした。
 ということで、43丁表2行目「みちにも」まで進みました。次は、本文が橋本本グループと大島本グループとで真っ二つに分かれる箇所からとなります。
 終わってから、これからは保坂本の翻字をスタートさせるため、あらかじめ希望をお聞きしていた方々に翻字資料を渡しました。また、今日から参加なさった方とお話をしていたところ、前回からお話を伺っていた変体仮名をパソコンで自由に表示する、かつてはフロントエンドプロセッサと言っていたものを開発し始めた方から、進捗状況を伺いました。一太郎2019に搭載されているとはいえ、この新方式は自由度が高いので楽しみです。ただし、どの変体仮名を組み合わせて1つの単語を構成するのかなどなど、まだ検討する課題は山積しています。それでも、身近なところで、こうして変体仮名を扱うコンピュータのツールが作られているのは、楽しみの多いことです。
 帰りは、新橋に近いレストランで課外講座と称する会合を持ちました。視覚障害に関する話題では、当事者を交えて稔り多い展開がありました。また、この日比谷図書文化館での講座に関しても、前回同様に橋本本の本文を解釈してその意味をみんなで考える勉強会の設立を、具体的に打ち合わせました。これについては、近いうちに結論を出すつもりです。
 充実した1日だったので、新幹線に飛び乗るが早いか熟睡です。気がついたら名古屋でした。
 
 
 
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2019年05月11日

日比谷で源氏の橋本本(11)を読んだ後は共立女子大学へ

 日比谷図書文化館で『源氏物語』を読む講座がありました。
 始まる前に、書道家の宮川保子さんと地下のレストランで会い、ハーバード本『源氏物語』の臨模本のことで確認と打ち合わせをしました。

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 宮川さんは、明後日から共立女子大学で開催される「共立女子大学図書館所蔵貴重和書展示 本の見た目を楽しむ」で、ハーバード本の臨模・複製本を展示なさいます。その前に、見てもらいたいとのことなので、展示する前に完成した臨模本を拝見しました。昨夏、ご一緒に国立歴史民俗博物館と米国ハーバード大学へ足を運び、原本の実見と調査を行なったので、そのことを踏まえての出来具合の確認でもあります。実によく出来ています。
 以下、「須磨」「蜻蛉」「鈴虫」の順に、各巻頭部分と装飾料紙に本文が書写された紙面を掲載します。

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 展示の準備のために、宮川さんは共立女子大学へ、私は橋本本『源氏物語』「若紫」を読む講座のために4階の小ホールへと急ぎました。

 今日の古文書塾「てらこや」での講座は、41丁裏1行目の「八なれぬ」からです。ただし、前回(3月16日)は早く進んだためにお話し忘れていたことの確認をしました。

 41丁表7行目に「【京】古くわ多里な累尓」(京こくわたりなるに)という語句があります。これは今テキストにしている橋本本だけが持つ独自異文です。ここは、中山本が「六条わたりなるに」(「変体仮名翻字版」が未完成なので通行の翻字で引用)とあり、それ以外の15種類の写本が「六条京極わたりにて」としています。つまり、次の三種類の本文が確認できる箇所なのです。

(1)「京極わたり」(橋本本)
(2)「六条わたり」(中山本)
(3)「六条京極わたり」(諸本15本)


 私は、かねてより〈傍記・傍注〉が書写の過程で本行に混入することで異文が発生する、という仮説を提唱しています。その視点から言うと、ここは「京極」か「六条」が本行の本文の右横に書かれており、それが書き写される過程で当該語句の前か後ろに傍記の語句が混入した可能性が高い、と考えるべき用例だと思います。混入した結果が、「六条京極わたり」となるのです。
 ということは、橋本本か中山本が平安から鎌倉時代に伝わっていた本文であり、鎌倉時代以降にそれ以外の諸本のような本文が伝わった、と考えるのが自然でしょう。今読まれている大島本などは、混成後の本文と考えたらどうでしょうか。
 この一例だけでは、単なる思いつきであって、論証したことにはなりません。しかし、私がこれまでにこうした用例をいくつも取り上げて論証して来たように、こうした例を一つずつ積み重ねていくことは、今後の研究基盤を構築する上で大事なことだと思っています。

 また、今日確認した本文の41丁裏には4例の仮名文字「天(て)」があり、「弖・氐」は一例も見当たりません。この前丁の41丁表にも、5例の仮名文字「天(て)」があり、「弖・氐」は一例も見当たりません。しかし、その前後の丁では混在しています。これらは、どのような背景があっての現象なのか、気がついたら教えてください、ということも受講生のみなさまに語りかけました。

 今日は、初めてこの講座に参加する全盲の高校1年生のOさんが来ていました。『変体仮名触読字典』と『触読例文集』を横に置き、テキストを立体コピーにしたものを前にして、必死に触読に挑んでいました。彼女にとっては、まったく初めての体験です。もちろん、彼女の横では触読で大先輩の尾崎さんが手助けをしています。いつものように、土屋さんも後ろからアシストしてくださいました。
 初めての変体仮名を、しかも生まれた時から目が見えなかったOさんにとって、とんでもない世界に置かれた気持ちだったことでしょう。しかし、終わってからの感想は、これからも引き続きこの写本を読むことを続けるという、力強い言葉でした。安堵すると共に、頼もしく思いました。

 とにかく、Oさんには、触読に挑戦するという強い意志が感じられます。過日、5月1日の京都ライトハウスでの「点字付百人一首」の会で初めての出会いがあってから、無事に今日が迎えられたのです。やりたいと思う時にやってみる、ということはいいことです。Oさんはまだ高校1年生です。今は暗中模索でも、きっと一条の光を手繰り寄せて、尾崎さんのように全盲でありながらも写本に書き記された変体仮名が読めるようになることでしょう。その過程を後押ししながら、一緒に触読の道を歩いて行く気持ちを固めました。

 ダメでもともとなのです。1文字ずつ指で触って自分のものにして、知らず知らずのうちに変体仮名が読めるようになっていた、となることを願って、彼女の孤軍奮闘のお手伝いをしていきます。
 講座にお集まりの皆さまも、温かいまなざしで見守ってくださっていました。
 もっと読みたいということで、今後は尾崎さんが機会を作っては一緒に触読の勉強を手助けしてくれることになったようです。尾崎さんは、今春修士課程を無事に終え、教員免許を取得しました。今は、司書の資格を取るための勉強をしています。この二人は、お互いに刺激し合いながら、触読の技術を高めていくことでしょう。頼もしい若者二人と、これから毎月、日比谷で会うことができます。私にとっても、楽しみが増えました。

 そんなこんなで、今日は半丁分、41丁裏の最終行末まで確認しました。
 次は、42丁表の1行目からです。

 講座が終わってからは、宮川さんが臨模された写本が共立女子大学で展示の準備に入ったということなので、講座に出席なさっている十数人の受講生の方々と一緒に駆けつけました。
 きれいに飾り付けてありました。
 来週の中古文学会は共立女子大学が会場校であり、大学ご所蔵の古典籍と一緒に、このハーバード本の臨模本が展示されます。どうぞ、じっくりと見てください。そして、この本がどのようにして書写されたかというプロセスを、展示資料を通して追体験してみてください。
 紙の調達から丁子染めの吹き絵など、何から何まですべてを宮川さんがご自分でなさったのです。その製作工程の詳細は、共立女子大学の展示会場で配布される「『源氏物語』の複製本の製作過程−ハーバード本「須磨」・「蜻蛉」・歴博本「鈴虫」−」に写真付きで解説されています。ぜひ手に取ってご覧ください。写本のための料紙が用意され、その料紙に物語の本文が書写され、綴じられていく様が写真とともにわかりやすく再現されています。解説のプリントを制作された共立女子大学の岡田ひろみさん、ご苦労さまでした。わかりやすいプリントで、ありがたい資料となっています。

 この準備が進む展示会場で、30数年前にコンピュータが縁で知り合った内田保廣先生と出会うことになりました。コンピュータを活用すると、文学・語学の研究が新しい展開を見せるはずだ、という大きな夢を抱えて、研究分野は異にしてもご一緒にさまざまな活動を展開した時の先輩です。内田先生は、国文学研究資料館で私を見かけたとおっしゃいます。しかし、私の方は気付かなかったので、30年ぶりの出会いであり、懐かしくお話をする機会を得ることとなりました。元気に自分のやりたいことができていることは、本当に幸運なことなのだと実感しました。

 その後は、共立女子大学の前にある学士会館で楽しい談話会です。講座の受講生の一人であるSさんが、次回からOさんの横でアシストをしてもいいと申し出てくださいました。ありがたいことです。

 私は、明日は岡山のノートルダム清心女子大学へ行く予定があるので、早めに失礼しました。話題が尽きない仲間とのおしゃべりは、いろいろなヒントがもらえていいものです。新幹線の中では、この文章を書きながら、ゆったりとシートに身体を沈めました。これから、心地よい疲れに身を委ねることにします。
 
 
 
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2019年03月14日

第12回研究会の後に研究室と作業室を撤収退去

 「海外における平安文学」の第12回研究会を、大阪観光大学明浄1号館4階141セミナールームで開催しました。

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 開会の挨拶を私がした後、参会者の自己紹介がありました。

続いて、

(1)大山佳美さん(本科研プロジェクト研究員)から「2018年度の活動報告と2019年度の活動予定」が報告されました。その多彩な活動の中身は、近日中にホームページを通して公開します。

 引き続き研究発表です。

(2)小笠原愛子さん(和歌山工専・講師)が、「桐壺更衣に準えられた后妃たち −『今鏡』の后妃記事に見る『源氏物語』享受の様相−」と題して、歴史物語の新しい見方を示してくださいました。
 『今鏡』は平安時代の秩序と違う書き方をしている、ということから始まり、「桐壺」巻ではできなかった皇妃の扱いが、院政期ではできたことが多い、という指摘がありました。『今鏡』は、あまり読まれない作品です。それだけに、さまざまな切り口があることがわかりました。特に、桐壺更衣に重ねられる美福門院得子などには、翻訳とでも言うべき変容がうかがえて興味深い発表でした。
 質問としては、平安時代に日本書紀が読まれていたけれども、それが中断されてから、『大鏡』はどれだけ読まれていたのか、『今鏡』も当時はどれだけ読まれていたのか? などなど。時代背景に関するやりとりがありました。

 続いて、もう一つ研究発表です。

(3)フィットレル・アーロンさん(大阪大学・講師)は、「本歌取りの翻訳の可能性について」と題して、『新古今集』を中心とした和歌を英訳した場合を例示して、本歌取りに関する英訳の特色と違いを検討するものでした。Honda 訳、Rodd 訳、Mostow訳を比較検討しながら、引歌の認定や解釈の諸相に切り込むものです。あくまでも中間報告としながらも、多彩な観点からの考察です。
 質問としては、翻訳者においてルールがあるのか、とか、西洋の引用などの実態についてや、解釈と美的な視点での格調の違いについて、などがやり取りされました。
 帰りに電車の中でフィトレルさんから、『平安文学翻訳本集成〈2018〉』の翻訳史年表の間違いをいくつか指摘していただきました。忘れない内に、ここにメモとして残しておきます。
1978『枕草子』
 ハンガリー語 → ルーマニア語
1977『枕草子』
 ハンガリー語 → ルーマニア語
1875『土左日記』
 ドイツ語 → 英語

(4)最後は研究協力をしてくれた学生たちです。「2018年度の活動から学んだこと」と題して、アルバイトとしてこの科研での調査や研究に関わって来ての感想を、一人ずつ述べてもらいました。

・街中の変体仮名が気になりだした
・本屋で洋書コーナーに行くようになった
・知らない言語を見るのが楽しくなった
・展示を通して多くのスキルを学んだ
・編集でフォントの違いと扱い方を知った
・仕事の裏側を知って人の苦労がわかった

 とにかく、楽しくディスカッションができる仲間たちと一緒に、いろいろなことに挑戦した2年間でした。今日で、活気に満ちた研究室と作業室は、すべての物を撤収したために何も物がない部屋となりました。幕が下ろされた、というのが一番正しい表現でしょう。
 充電式の掃除機が、途中でバッテリーが切れたために、絨毯などの掃除が完全ではないことが心残りです。それでも、研究生活を支えてくれたフロアには感謝の気持ちを込めて、丁寧に掃除をしました。気持ちよく退去することとなりました。
 8階の研究室と作業室の2部屋の鍵と、私の職員証を事務の担当者に返却したのは、3月14日(木)午後5時半だったことを、ここに記し留めておきます。

 慌ただしく研究室を出て、駅前のインド料理屋での懇親会へと移動しました。多彩なメンバーが寄り集まったこともあり、さまざまな話題で楽しく親しく話ができました。
 8時まで盛り上がったこともあり、家に辿り着いたのは日付が変わる直前でした。
 この科研に関わってくださった方々に、あらためてお礼を申し上げます。
 多くの方々に助けられながらの2年間でした。
 ありがとうございました。
 
 
 
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2019年03月12日

伊藤科研:第12回研究会のお知らせ

 伊藤科研で開催している第12回研究会「海外における平安文学」を、下記の要領で開催します。外部参加も可能です。

■基盤研究(A)課題番号:17H00912■
「海外における平安文学及び多言語翻訳に関する研究」



・日時:2019年3月14日(木)14:00〜17:00
・場所:大阪観光大学(〒590-0493 大阪府泉南郡熊取町大久保南5-3-1/072-453-8222)
  明浄1号館4階141セミナールーム

・内容:海外における平安文学
        14:00~14:05 挨拶(伊藤鉄也)
        14:05~14:20 自己紹介
        14:20~14:30 報告「2018年度の活動報告と2019年度の活動予定」
                            (大山佳美)
        14:30~15:10 研究発表「桐壺更衣に準えられた后妃たち
          −『今鏡』の后妃記事に見る『源氏物語』享受の様相−」
                            (小笠原愛子)
        休憩(20分)
        15:30~16:10 研究発表「本歌取りの翻訳の可能性について」
                       (フィットレル・アーロン)
        休憩(20分)
        16:30~16:50  報告「2018年度の活動から学んだこと」
           (池野陽香、門宗一郎、田中良、松口果歩、松口莉歩)
        16:50~17:00  挨拶(伊藤鉄也)
                連絡事項

※ご出席のみなさまは、ご印鑑(出張書類押印用)を必ずご持参くださいますよう、お願い申し上げます。
※なお、研究会終了後に懇親会を予定しております。
      懇親会 17:30~19:30 【タージマハルエベレスト】
                  〒598-0021 大阪府泉佐野市日根野2496−1
                           イオンモール日根野2F
                       072-467-1139

 
 
 
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2019年02月22日

明浄社会人講座(10)渡部「ディープな大阪 おもしろ散歩」

 昨秋10月から始めた全十回のこの講座も、今回の第10回で終了となります。

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 最後は、渡部美智子先生が講師を務めてくださいました。地元である大阪めぐりをし、おもしろい話を交えてたっぷりと伺いました。
 スライドと配布された地図を見ながら、大阪の知られざる各所の案内から始まりです。

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・「黒門市場と天王寺七坂」の項目では、私が通っていた高校がある一帯が取り上げられました。高校時代に私は、クラブ活動はテニスをしていたので、このあたりの坂道は走り回りました。いや、走らされました。それにしても、あらためてこの地のことを伺うと、知らないことだらけです。じっくりと歩きたいと思いました。

・「コリアンタウン」も、高校があった桃谷・鶴橋の周辺なのでよく知っています。しかし、ここも知らないことだらけです。高校生だったこともあり、あまりディープなところには行かなかったようです。

・「大正街歩き」は、これまた、私が大正区で高校の教員を9年間やっていたので、懐かしく思い出しながら伺いました。渡船のことは、今も忘れられません。大阪湾に沈む夕焼けの中を、自転車を渡船に乗せて川を渡り、毎日のように毎年百人以上罷める生徒たちの家庭訪問をしたものです。

 最後に、お世話役の堀先生から「家隆忌」のリーフレットが配布されました。

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 この高校では、短歌を作って「家隆」の塚に奉献する行事があるのです。そのことが、このパンフレットの赤丸印の箇所に記されています。そして、この周りの坂についての説明も記されています。今日は、まさに開催場所となった高校と内容もリンクした、興味深い講座だったのです。
 今日も、受講者からいろいろと質問や確認の発言がありました。可能であれば、このやりとりにもっと時間が充てられたら、さらに質の高い講座に発展していくことでしょう。

 これで、無事に社会人講座は終わりました。

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 本当にささやかな集まりの講座でした。しかし、知的な刺激に満ちた、楽しい時間を共にできたことは意義深いことでした。受講生のみなさまからも、幅広い世界の奥深い所を見聞きすることができ、知ることの楽しさを堪能したというご意見をいただきました。
 いろいろな事情があり、予定していた第2期はできません。しかし、こうしたハイレベルな講座としての学習会ができることが実証され、私としても得難い収穫がありました。いわゆる、社会人向けの大学院講座なのです。しかも、講師と自由に意見交換ができるのです。今回の経験は、私にとっては今後のNPO法人〈源氏物語電子資料館〉の活動に活かして行きたいと思います。
 講師のみなさま、お忙しい中にもかかわらず、体験に裏打ちされた楽しい話を開陳していただき、ありがとうございました。当初の趣旨を活かした社会人講座が、立派に成立しました。そして、毎回細やかな気配りでお手伝いをしてくださった国語科の堀先生にも、心よりお礼を申し上げます。
 
 
 
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2019年02月07日

キャリアアップ講座(その16)『源氏物語』のくずし字を読む(最終回)

 今年度最後の勉強会となりました。
 一昨年、2017年4月に私が着任し、すぐの6月から始めた「熊取ゆうゆう大学」の社会人講座「『源氏物語』の古写本を読む」では、『国文学研究資料館蔵 橋本本『源氏物語』「若紫」』(伊藤鉄也・淺川槙子編、新典社)をテキストにして進めました。
 2018年度からは、「キャリアアップ講座」として再スタートです。昨年5月から10ヶ月にわたり、毎月1回のくずし字を読む勉強会を開催して来ました。10名ほどの地域住民の方々と一緒に、古写本の変体仮名を読んで来たのです。

 講座の内容は、『国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」』(伊藤鉄也・阿部江美子・淺川槙子 編著、新典社)を読み進めることで、仮名文字を確認する集まりです。もっとも、私が喋りすぎて、遅々として進みませんでしたが。

 最終回の今日は、それでも残りをすべて確認しようという勢いで臨みました。結果は、あと2丁、4頁分を残して時間となりました。

 今日は最後ということもあり、午後1時半から3時半までと、いつもよりも早く始まりました。しかし、最後ということで名残惜しさもあってか、ついついいろいろな話となり、1時間も延びてしまいました。
 みなさまと楽しい時間を共にできたことを、あらためた感謝いたします。特にSさんとは、私が東京に行っていた間を挟みながらも、23年ものお付き合いとなりました。

 明日、2月8日に新発売となる日本語ワープロ「一太郎」に、異体字や変体仮名が搭載されていることや、日本語の再評価がなされ出した機運の中で、手書きの仮名文字は今後ますます注目されると思います。これまでに勉強してきた変体仮名が、これからは役立つ時代を迎える予感も、みなさまに伝えました。
 一人でも多くの方が、仮名文字としての変体仮名に親しんでほしいものです。古典籍などの原典を読む楽しさを実感していただきたいとの思いは、常に抱き続けています。

 今日は、「支」という変体仮名が2ヶ所も出てきました。赤丸印をつけた文字がそれです。

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 字母を交えて翻字をすると、右側は「佐多免な支」(15丁裏1行目)、左側は「ま本し支越」(16丁裏1行目)となります。
 この「支」は「 k i 」と読む変体仮名です。これは高いレベルの識字感覚を求められる字体で書かれています。
 日常的とまでは行かないまでも、折々に変体仮名を目にしていると、こうした文字は文脈から読めるようになります。

 雑談の中では、いつも話題にするように、答えは一つではない、ということも確認しました。優等生と言われる、言われてきた人こそ、答えはある、一つしかないと思いがちです。しかし、答えはいくつもある、ということを前提にして考えていく方が、より良い解決の道を歩むことができるのではないでしょうか、という私見を、今日も語ってしまいました。
 受講なさっていた方々からも、さまざまな意見をいただきました。意見交換のできる勉強会は、楽しいものです。

 さらには、若者を対象にした学校だけではなくて、社会人を、それも高齢者や心身が不自由な方との交流をも盛り込んだ学校、と言うよりも「学びの場」の必要性も提示しました。知的好奇心に溢れる方が多くなっています。そんな時代だからこそ、一般的なカルチャーセンターとは異なる、数歩踏み込んだ内容を展開する、研究指向の「学びの場」の必要性とその意義を考えたりしました。
 
 
 
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2019年01月25日

明浄社会人講座(8)中村「観光学、大空を翔けめぐる舞台裏」

 第8回となる社会人講座は、中村真典先生の「観光学、大空を翔けめぐる舞台裏」です。
 中村先生は、日航で客室乗員の指導をはじめとして、主要な役職を経て来られた方です。その豊富で多彩な経験を踏まえて、我々には見えない飛行機の中での舞台裏を語ってくださいました。ちょうど1週間後に、私は飛行機の中にいます。お話の1つ1つが、旅人にはすべてが血となり肉となるものでした。
 本年4月より導入される、新型政府専用機ボーイング777型機のサービス訓練の指導を中村先生がなさったことは、私もテレビで拝見しました。意外な経験が次々と話題になっていき、楽しい話の連続でした。
 本日のお話は、昨年3月に刊行された『元CA訓練部長が書いた日本で一番やさしく、ふかく、おもしろい ホスピタリティの本』(晃洋書房)から抜き出された内容をもとにして、そこには書ききれなかったことなどを語ってくださったのです。中でも、飛行機の中にあるトイレの話がもっとも興味深く伺いました。これは、飛行機に乗ったら、特に国際線の場合は誰もがお世話になる場所だからです。シンクと調理場の水は機外に放出し、汚水は空気で後方に吸い上げて水分がない状態で溜めているそうです。トイレのあのヴォーっというバキューム音の理由がわかりました。
 昨年末に「007」シリーズ24作が一挙に放送されました。歴代のジェームスボンドを見比べるのが好きな私は、『007/オクトパシー』と『007/美しき獲物たち』の2作以外は、すべて観ました。夜中も寝ずに。
 その中で、第7作の『007/ダイヤモンドは永遠に』に登場する偽ソムリエと”クラレット”「シャトー・ムートン・ロートシルト」のことも、今日の話題に上りました。私には無縁のファーストクラスなどでは、ワインに関してもいろいろなエピソードがあるのです。
 中村先生のご著書に関わるネタをバラさないようにするためにも、楽しかったお話のことはこれくらいで止めておきます。
 客室乗務は、人間が相手の仕事です。それだからこそ、人間ならではの逸話や感動劇がたくさんあるようです。その一端から、人間が持つ魅力に共感が得られる機会をいただきました。飛行機の中で、日々ドラマは展開しているのです。
 最後は、「知識と情報が仕事を楽にする」という言葉で話を締めくくられました。楽しい、おもしろい話の合間合間に、学ぶことの大切さを教えていただきました。受講者の方からも、話の切れ目切れ目で、さまざまな疑問や質問がでました。それにも、中村先生は丁寧に応えておられました。そうした質問タイムに、なかなか伺えない裏話がいくつも聞くことができました。疑問や質問をストレートにぶつける、というスタイルの講座は活き活きとしてきます。

 前回の講座の帰りには、乗換駅で大怪我をして救急車で運ばれ、手術となりました。そのことが気になっていたので、今日は帰りの経路を変えました。高校の近くのJR美章園駅から天王寺駅→大阪駅→京都駅→地下鉄北大路駅→京都市バスと乗り継いで帰りまた。たしかに、前回のようなトラブルはありませんでした。ただし、最初の美章園駅で一駅(所要時間2分)乗るだけなのに15分の待ち時間、天王寺駅で8分、大阪駅で10分、京都駅で5分、市バスが7分もの待ち時間がありました。通算すると、駅のホームでボーッと45分。さらには、交通費が非常に高くつきました。何事もなかったからいいものの、ある意味ではリスクの高い帰宅経路でした。

 この全10回の社会人講座も、残すところあと2回となりました。
 毎回、興味深い話が展開しています。いつも受講者の方は、知的で贅沢な時間をありがとうございます、と言って帰っていかれます。講師の先生とともに、満足していただけて良かった良かった、と言って会議室の後片付けをして帰ります。参加者は少ないながらも、充実した講座が展開しています。
 この講座が始まるまでは、学校側の無理解と非協力的な対応が続き、いろいろと難儀な思いをしました。しかし今は、挫けずに初心を貫徹してよかった、と思っています。あらためて、知的好奇心が旺盛な受講者と作り上げるレベルの高い社会人講座の意義を、再認識しています。街のカルチャースクールとは異なる、フリー・ディスカッションで盛り上がる社会人講座は、円熟した高齢化社会においては、これからますます求められるものとなることでしょう。
 
 
 
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2019年01月17日

キャリアアップ講座(その15)『源氏物語』のくずし字を読む(現物で実感する)

 まず、江戸時代に本が出版されていたことを実感してもらうために、『古訓古事記』の版木を見てもらいました。

「源氏千年(78)我が家でも版木発見」(2008年12月06日)

 これは、私が持っているものの1枚で、実際に文字が彫られた板を手にすると、これで刷られた様子が体感できます。手書きの写本と木版刷りの版本の違いが、これによって一目瞭然となります。
 次に、エジプトのカイロで手に入れたパピルスを触ってもらいました。ごわごわとした手触りなので、和紙との違いが明らかです。これで、古写本が、日本の独特な文化に支えられていることも納得です。ヨーロッパの羊皮紙があったら、もっとおもしろくなるところです。今度、調達しておきます。
 この熊取地域には、パピルスが生えているそうです。和歌山に近い地域だからでしょうか。意外でした。旅行でカイロに行った方が2人もいらっしゃったので、話が弾みます。
 続いて、六道絵を描いたタンカも広げました。インドで手に入れた何枚かのタンカのうち、細密画がきれいなものを持参しました。じっくりと見てもらいました。
 さらには、歌仙絵の粉本(模本)も見てもらいました。こうしたものは、骨董市などでまだ手に入ります。話は、狩野派の絵の特徴にまで及びました。
 その後は、視覚障害者のみなさまとの『百人一首』のカルタ取りや触読の話になり、問われるままにお答えしているうちに予定の5時となりました。
 結局、写本は1文字も読まないままで終わりとなったのです。この前にも、こんなことがありました。すみません。
 こうした幅広い話題での雑談が楽しいので来ています、とおっしゃるお言葉に甘えて、今日の社会人講座は終わりました。
 次回は、今月末の31日(木)の予定でした。しかし、その日は、私がこの大学の眼下に望む関西国際空港からミャンマーのヤンゴンに飛び立つことになったために、2月7日(木)の13時半からに変更することとなりました。本日お休みだった方は、どうかお気をつけください。そして、それが今年度の最終回となります。
 
 
 
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2019年01月15日

明浄社会人講座(7)本多「京都学、都市と神社の意外な関係」

 新年第1回目の講座は、本多健一先生の「京都学、都市と神社の意外な関係」です。この講座は、先週11日(金)に開催されたものです。本多先生のご著書については、「読書雑記(232)本多健一『京都の神社と祭り』」(2018年07月11日)で紹介しています。

 まず、住んでいる地域の土地の守り神である氏神(産土神)と氏子の地域を地図に示した資料を配布してくださいました。本邦初の、貴重な地図だとのことです。それを踏まえて、京都の神社のことを考えていきました。
 現在の京都市内には約300の神社が登録されています。その京都では、氏神さまの名前が地域住民からはスラスラと出るのに対して、大阪はなかなか出てこない傾向があるそうです。それは、住民の意識以外にも、街の成り立ちが関係しているようです。
 京都で広い地域に氏子を持つ代表的な神社9社は、いずれも平安京の外側にあります。なぜ?、という問いかけがなされました。これは次の分類でもわかる通り、自然信仰と都市生活の違いが関係しているようです。

・平安京以前=賀茂(上下)、松尾、稲荷
  /原始的な自然信仰(神体山、磐座)
・平安京以降=祇園、北野、御霊(上下)、今宮
  /都市生活から生まれた新しい神、都市住民の祈願


 さらには、平安京での糞尿の始末をどうしていたのかが問題にされました。肥料になる前の時代のことです。これは、おもしろいテーマです。
 疫病を起こすのは怨霊・御霊・疫神だと信じ、慰撫のための御霊会を行うようになったのです。『日本紀略』(994年6月27日条)にある船岡での御霊会も平安京の外。これが、今の出雲路の御霊祭や八坂の祇園祭などにつながっていく、疫病対策のお祭りです。
 マンションが建つと、氏子組織が壊されていくようです。そんな中でも、京都では祇園祭ブランドがあるので、保たれているようです。
 氏子を持たない神社もあり、大阪では住吉大社などがそうだとのことでした。
 このようにして、お話が今につながり、納得です。
 今の時代の神社のありようには、興味深いものがあります。そうした問題意識を、いろいろな切り口から刺激してもらえたお話でした。
 
 この講座が終わってからの、帰り道のことでした。地下鉄御堂筋線の淀屋橋駅で乗り換える時に、過日も記したように、自動改札を出た所で人がぶつかって来られたために、頭に強烈な一撃を受ける事故に遭ったのです。夜の9時頃でした。その後、救急車のお世話になり、病院で手術を受けることになりました。まさに、災難は突然やって来ます。多くの方々が親切にしてくださいました。おかげさまで、もう大分よくなりました。注意をしましょう、と言っても無理なことはあります。こんな事故に巻き込まれたら、即座にどのように対処するか、ということは、日ごろから考えておいてもいいと思います。これが、今回得た教訓です。
 
 
 
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2018年12月21日

明浄社会人講座(6)王静「茶文化学、中国と台湾のお茶体験」

 今日の講座は、王静先生の「茶文化学、中国と台湾のお茶体験」です。

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 我々には入手困難で非常に貴重な高級茶葉を使い、しかも王先生が大切な茶器を使って直々に淹れてくださるお茶をいただきながら、中国茶の歴史と文化のお話を聞きました。しかも、ご持参のお茶菓子もいただきながら。
 贅沢な時間の流れの中に身を置くことができました。ありがとうございました。

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 まずは、西湖龍井茶(梅茶坞)という、本日のテーマと密接な意義深いお茶から。
 お湯は100度で、少し時間を置いて淹れてくださいます。

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 お話は、プロジェクターで資料を映写しながら進みました。
 1980年代までは、中国ではそんなに自由にお茶を飲んではいなかった、ということなどを、学問的な視点でありながら、わかりやすく語られました。中国での文化としてのお茶のありようは、意外に新しかったようです。つい、日本の鎌倉時代からのお茶の感覚や、茶道の知識で臨んだので、思いがけない指摘が随所でなされました。政治・経済・文化が、縦横無尽に話題となるお話です。
 王先生のご両親の時代には、お茶のチケットがなかったらお茶は買えなかったそうです。なぜ、王先生の親たちがお茶は身体に良くないと思っていたかが、大きな疑問として投げかけられました。
 その疑問を解くために、中国のお茶の歴史の話となります。
 文化大革命の頃は、お茶を飲んではいけなかったとのことです。それが、革命の中で茶葉の生産がなされます。民族の団結ともつながったのです。お茶の生産力が高まると、ロシア向けとは違う、国内向けの消費の増大が考えられるようになります。飲茶の習慣がない中で、お茶は文化だとして広めようとしたのではないか、というのが王先生の考えです。
 そこで、1981年から茶文化が登場するのです。台湾の茶芸の影響で、中国茶も高級志向となったそうです。

 そんな話をうかがいながら、次々と高価なお茶や紅茶などをいただきました。
タップリと90分。お茶に魅せられた時間を、みんなで共有しました。
 今日は聞けなかった台湾茶芸の話は、また次の機会に聞きたいものです。
 終わってからも、しばしお茶に関する話題で歓談が続きました。
 
 
 
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2018年12月20日

キャリアアップ講座(その14)『源氏物語』のくずし字を読む(実感実証の勉強会)

 新年も間近なので、豪華な『百人一首』のカルタを見てもらいました。複製ながら、近衛家旧蔵のものです。貴族文化の一端がうかがえるカルタで、日本文化の華やかさを実感してもらおうというものです。

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 次に、貝合わせです。これは、学生が作ったものながら、精巧に出来た優品です。貝合わせというゲームをイメージするのに役立ちます。

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 複製であれ、模造品であれ、実物に近いものを触り、間近に見ることは、自分の知見を具体的に定着させます。特に、触ることは大事です。

 今日の仮名文字の特訓は、『国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」』の12丁裏4行目から14丁表最終行末までを確認しました。
 行が揃わないままに書写されている丁があり、なぜ行が曲がっているのかを考えました。結論は、書写にあたって用いていた糸罫が歪んで置かれたままに書き出したからではないか、ということに落ち着きました。

 この講座は、新年に2回開催したら終了です。テキストはあと数丁を残すのみなので、無事に「鈴虫」を終えられそうです。
 次回も、いろいろな物を見てもらう予定を組んでいます。これまで誰にも見てもらっていない、チベットの方が手書きしたタンカの中でも、六道輪廻の図を数本持参するつもりです。また、インドで手に入れた物語絵の実物も数葉用意しています。実物を見てもらい、『源氏物語』の「鈴虫」巻の仏事場面の背景を実感してもらうつもりです。変体仮名を読みながら、実感実証の勉強会となっています。
 
 
 
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2018年12月14日

明浄社会人講座(5)宮野「考古学、摩訶不思議な古代アンデスの建築」

 今日の社会人講座は、宮野元太郎先生の「考古学、摩訶不思議な古代アンデスの建築」です。
 宮野先生には、今夏ペルーの調査では大変お世話になり、現地でいろいろとお話は伺っていました。しかし、やはりご専門のことをあらためて聞くと、奥深い内容に引き込まれてしまいました。
 宮野先生は、アンデス考古学がご専門で、建築の視点から研究をなさっています。ドローンを活用しての遺跡調査では、立体的な再現図が視覚的にもわかりやすく、研究手法の最先端の成果を見せていただくことができました。
 その前に、この古代アンデス社会からインカ帝国までの歴史を、噛み砕いてのわかりやすい説明もありました。
 ナスカの調査権は日本が持っていること。お祭りの時に食べるネズミの唐揚げのこと。これは、宮野先生と一緒にペルーへ行った時にいただいたので、その写真も写しての説明でした。
 1532年に、スペインのピサロがやってきてペルーを征服する話も、おもしろく伺いました。
 1996年12月17日に、ペルーの首都リマで起きたテロリストによる在ペルー日本大使公邸占拠人質事件での裏話では、宮野先生のお友達のことが出てきたこともリアルな展開でした。サンダルや吊り橋、そしてマチュピチュに地上絵の謎など、その起源と今に至る話も興味が尽きません。
 古代アンデス文明もインカ帝国も、共に文字のない社会だったそうです。文字がないことが、文明や文化を発展させる上で、どのような事情や背景があったのか? まさに摩訶不思議なことだらけなのです。
 100枚以上の写真を映写しながらのお話でした。矢継ぎ早の語り口に、知らないことを知りたくなる心理を巧みについた、時間を忘れる講座でした。
 宮野先生、楽しい時間をありがとうございました。
 
 
 
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2018年12月08日

大学コンソーシアム大阪で『伊勢物語』を語る -2018-

 大阪駅前第2ビル4階にある「キャンパスポート大阪」で、特定非営利活動法人 大学コンソーシアム大阪が開催する講座で講義をしてきました。

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 昨年の開講日は、1月下旬ということもあって雪の日でした。今日は年末なので、昨日よりも少し寒いだけです。それでも、日本海側は昨日から雪模様となっているようです。

 今年は「ツーリズムと社会」というテーマでの開講です。私のタイトルは、「『伊勢物語』と大阪」にしました。
 今回の参加者30名の所属は、以下の通りでした。半数は4回生のようです。

大阪市立大学・大阪府立大学・追手門学院大学・大阪経済大学・大阪国際大学・関西外国語大学・近畿大学・相愛大学・阪南大学


 昨年の様子については、次のブログを参照願います。

「「キャンパスポート大阪」で「源氏物語と大阪」と題する講義をして」(2017年07月01日)

「大学コンソーシアム大阪で『伊勢物語』を語る」(2018年01月27日)

 この講座を受講されているみなさんは、文学を専攻している学生さんではありません。昨年の反応を見て、今年は取り扱う作品の内容をもっと丁寧に語ることにしました。
 『伊勢物語』に関しては、今年も第23段の河内高安の里の話である「筒井筒」の段を取り上げました。奈良と大阪を舞台とするので、看板である観光と関係づけしやすいためです。

 物語本文は、男と女の恋愛心理を丹念に読み解き、その気持ちの揺れ動きを詳しく追っていきました。日ごろは、こうした文学との接点が薄い学生が多いせいか、その反応は十分には読み取れませんでした。しかし、終了後に話に来た学生がいたので、興味の一旦はくすぐったのではないか、と思っています。

 今回も、『伊勢物語』の複製の影印本2種類を回覧しました。これは、古典文学作品を扱う時の、私の流儀です。活字で作品を読むことになるにしても、元々は写本であったことの確認は大事なことの一つにしているのです。そして、『伊勢物語』にも異文が伝わっていることも、忘れることなく話しました。

 今年の大学コンソーシアム大阪での講座は、今回の一回だけです。昨年は二回ありました。これは意義深い連続講座だと思います。しかし、大学としてはこの取り組みは今年までとして、来年度からは実施しないとのことです。縮小し、消滅していくイベントとなるようです。こうした催しは、大学の存在や、先生方の研究内容を知っていただくためにも、よい機会だと思います。それがなくなるのは、もったいないことです。何らかの形で、社会人講座も含めて、積極的に社会に問いかけていくことが大事です。あらためての企画に期待したいと思います。
 
 
 
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2018年12月06日

キャリアアップ講座(その13)『源氏物語』のくずし字を読む(書写者の交代)

 昨日(12月5日)の京都新聞に、国宝の『源氏物語絵巻』が修復を終え、額面装に改装されていたものを、あらためて本来の巻物装に作り変えて展示されていることが報じられていました。83年ぶりに巻物に仕立て直したとのことです。

 この記事を受けて、今日の社会人講座では、まずは巻物がどのようなものであるのかを、架蔵の巻子を持参して見てもらいました。巻物の表装や大きさ、重さ、長さ、紙質などは、実際に触って見ないとわかりません。とにかく、我が身の五感を使って実感することが大事です。この講座では、その実践活動もしています。

 また、林望氏の『謹訳 源氏物語』を回覧し、その背表紙を外すと現れる造本のおもしろさも、実見してもらいました。書店でカバーを外すことはしないので、これには驚いておられました。
 いつものことながら、たくさんの質問をいただき、私がお答えできる範囲で説明しました。みなさん、知的好奇心が旺盛な方々なので、楽しい意見交換ができます。

 写本を読む本来の講座では、前回が1行半しか見られなかったこともあり、今日はとにかく進みました。10丁裏2行目の「志の者累ゝ」からです。

 順調に字母を確認しながら変体仮名を読み進めて行き、12丁裏に入ったところで書写が不正確なものが目立つ所で立ち止まりました。そして、その見開き左右頁(12丁裏、13丁表)に書き写されている文字の雰囲気が異なることを、時間をかけて確認しました。

 私の意見は、右丁にあたる12丁裏だけは書き手が違うのではないか、ということです。
 その推測の理由を以下に記しておきます。

 12丁表の最後に「とうさい【将】」と書いてから紙をめくって次の裏丁(12丁裏)に「なと」と書き出します。この改丁後に「なと」と書く時に別人とバトンタッチし、そのまま12丁裏を書き写したと思われます。前の丁末で黒々と「とうさい【将】」と書いてあるのに、次の丁の「なと」は墨が薄くなっています。ここにしばらくの時間差があったことは明らかです。書き手の交代の間に少し時間を要した、と思われます。
 次の写真をご覧ください。これは、12丁裏から13丁表に丁が変わる所の3行を抜き出し、画像処理をしたものです。白黒反転して、文字のエッジを明確にしてみました。

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 この写真の右側3行が、12丁裏の最終3行です。この丁末にあたる「堂ゝ【人】さ満尓」と書いた書写者は、次の紙の13丁表を書く時に元の書写者と入れ替わって「おほし可へ里て」と書き始めたのではないか、と考えてみたいのです。左右の文字の形や雰囲気の違いが、この写真だけからもわかります。
 私がよく言う、トイレに行ったのか、来客があったのか、何か用事があったために、一時的に弟子か家族に筆写を交代したのではないか、という想定です。
 この前後の書写状態で確認できるように、丁が変わる時の丁末の文字の濃淡や書写ミスと、次の丁のはじめの文字の墨色や書写ミスが多くなっていることなどが、その書写者の一時的な交代という可能性の高さを見せています。

 写本を読む時には、ただ単に文字を追いかけていくだけでは飽きます。書写されているその現場を思い浮かべながら文字を見ていくことで、書写者が置かれている環境や背景などがいろいろと想像できて楽しめます。そんな楽しさを、どうぞ味わってみてください。新しい写本の読み方につながると思います。
 
 
 
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2018年11月22日

キャリアアップ講座(その12)『源氏物語』のくずし字を読む(白熱した討議)

 早くも学内の一角には、クリスマスツリーが飾られています。

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 今日の社会人講座は体調不良の方が多く、男性3人と女性2人の6人で始まりました。

 まず『拾遺和歌集』の複製本を見てもらいました。前回に引き続き、日本の古典籍の実態を実見してもらおうと思ってのことです。列帖装の装丁や表紙のありようを、じっくりと見てもらいました。

 次に、ちょうど今日は千年前に、藤原道長が「この世をば我が世とぞ思ふ望月の〜」と詠んだ日だということで、そのことを報じた今朝の京都新聞を配って確認しました。昨夜の満月を見たという方がいらっしゃいました。皆さまと一緒に、窓を開けての月見ができなかったことが残念です。

 スムースに『国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」』(伊藤鉄也・阿部江美子・淺川槙子 編、新典社、2015年10月)を読み進んでいた時でした。読み始めて1行半のところに出てきた、「いとゝ」の踊り字の説明をしているうちに話が脱線し、日本の文化が海外の方々に正しく理解されているのか、という問題にまで及びました。近隣諸国の日本理解に始まり、イエスかノーの2つに分けられない日本的な発想について等々、まさに自由な意見交換の場となりました。つまるところ、過去の歴史を今のモノサシで測るのはいかがなものか、ということだったかと思います。

 1時間以上、参加者のみなさまが想い想いの意見を述べながら、年中行事の話で落ち着きました。ハロウィンは定着するのか、という問題も含めて。

 熊取町には、まだ町内会が機能していて、地蔵盆や鬼灯市が残っているそうです。日本文化を語り合うには格好のメンバーが揃っていたのです。そんなこんなで、語り尽きせぬ想いを温めながらの散会でした。

 次回は、巻物を見てもらうことにしました。
 『源氏物語』を読み進めなかったことはそれとして、50、60、70台の熟年世代が意見交換の楽しさを満喫できたことは、貴重な時間の共有となりました。得難い時間となったことも、今日の収穫です。

 3時間半をかけての帰り道、途中の乗り換え駅である梅田から、観覧車越しに優雅な満月を望めました。

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 京都の自宅前からも、澄み切った夜空にきれいなまんまるのお月さまが見えました。

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 千年の時が、一気に身近なものとして感じられました。
 期せずして、今日は「いい夫婦の日」でもあります。
 平凡な日々の中で、満ち足りたお月見となりました。
 
 
 
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2018年11月16日

明浄社会人講座⑷谷口「文化人類学、人種や民族をめぐって」

 今日は、高校の授業が午後4時に終わってから、生徒の面接練習の相手を2時間ほどしました。場所は、1階入口正面にある応接室。明日が入試で、面接試験がある生徒の特訓です。
 私はいつも、面接の時には自分のことを具体的に語り、他の優等生的な答えとの違いで勝負をするように言っています。そのためには、自分らしいネタをいくつか用意しておくのです。受け答えの中では、やる気と誠意を存分にぶつけるための秘策を、いくつか伝授しました。

 それからすぐに、今日の社会人講座の会場の準備に向かいました。隙間の時間に、夕食を兼ねた軽食を口にしました。

 今日の社会人講座は、谷口裕久先生の「文化人類学、人種や民族をめぐって」と題するものです。
 スライドとプリントを見ながら、楽しい話を伺いました。

 まずは、「人種」の概念のあいまいさからでした。「あなたは何民族ですか?」という質問には、なかなか答えられないことがよくわかりました。

 グルジアやアルメニアの映像を見ながら、ノアの箱船がたどり着いた中央アジアなどに思いを馳せました。ワールドワイドな展開です。

 日本人とは何かという説明の中で、テニスプレーヤーの大坂なおみが例に出ました。「ナオミ」は旧約聖書の「ツル記」に出てくる名前でもあるのだとか。これは意外でした。

 中国からベトナムなどの調査旅行での写真は、実際のフィールドワークの時に撮影したものだったので、興味深く見ました。映画の一部を映写しての説明も、理解を深めるのに役立ちました。

 普段はあまり「人種」や「民族」について考えることはないので、視野が開ける楽しい話を伺いました。受講者の方々も、海外での調査活動の大変さに思いをはせつつも、やはり身体が丈夫でないと、という感想に落ち着きました。

 今回も、みなさまと充実した時間を共有できました。講師の谷口先生、ありがとうございました。

 次回は、アジアから南米のチリへと飛びます。これも、また、楽しみです。

第5回 12月14日(金)国際交流学部 講師/宮野 元太郎
     「考古学、摩訶不思議な古代アンデスの建築」
 
 
 
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2018年11月10日

日比谷で橋本本「若紫」を読む(2018年度-その6、また誤表記発見)

 朝早くから新幹線で上京。日比谷図書文化館で源氏の講座がある日です。
 京都駅は、先日の渋谷のハロウィン状態です。この人混みは尋常ではありません。京都市内に流入する人々を制限すべきです。京都の機能が麻痺し、街が大混乱に陥っています。
 商売をなさっている方はホクホク顔でしょう。しかし、京都の文化破壊や住民感情の苛立ちは、確実に観光名目の闖入者を受け容れ難くしています。行政側にお願いします。あの通行に邪魔となっている膨大な数の大きなスーツケースを、駅とホテルの間でスピーディに移送するシステムを作ってください。そして、旅行者に対しては、所構わずゴミを投げ捨てないようなルールの指導を徹底してください。さらには、何でもかんでも手近な所にある物を勝手に持って行かないような、観光地でのマナーを最初に指導してから街に入ってもらってください。

 今日は、富士山がきれいに見えました。いつ見ても、気持ちのいい山です。

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 今回も、講座が始まるまでの時間は、日比谷図書文化館の地下にあるダイニングで、科研の研究協力者である淺川槙子さんと、今後の打ち合わせをしました。数多くの成果が上がっているので、それをどうまとめていくか、ということについて意見交換をしました。
 まずは、昨春のスタート当初に依頼した業者であるK社が、何もしないで無責任に投げ出したホームページについて、一日も早く立ち上げることです。
 次に、昨春から始めた翻訳本の展示に関する解説書の完成。
 それを受けて、今春行ったミャンマーでの調査結果の報告書。
 さらには、『海外平安文学研究ジャーナル 第7・8合併号』の刊行。
 それぞれに、膨大な作業を伴うものです。とにかく、コツコツと進めていって形にしたいと思います。

 今日の源氏の講座は、新しい方々を加えて30人の方が集まっておられました。今年度下半期の、第1回目の講座です。

 上半期から引き続き、『国文学研究資料館蔵 橋本本『源氏物語』「若紫」』(伊藤鉄也・淺川槙子編、新典社、2016.10)を読みます。読むといっても、鎌倉時代の古写本を、変体仮名にこだわって読み進みます。34丁表の6行目「きこ江さする尓」からです。「江」は「ひ」や「須」と紛らわしい形をしているので、気をつける文字の一つです。
 文字を削って上からなぞって書いている箇所では、墨の色などから、その修正過程がわかります。この写本の筆者は、間違いに気付いたらすぐに直しています。こうした訂正箇所の対処から、結構神経を張り詰めて書き写していることがわかります。

 「【御】こと【葉】」(34丁裏6行目)と書写されている所で、「【葉】」を漢字としているのは「言葉」の一部と見ての対処であることを説明しました。

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 今は漢字表記としておき、この「【葉】」が漢字の意味を喪失した変体仮名の「は」とした方がいいことがわかったら、その時点で、この漢字を示す記号の【 】を外すつもりである、と言いました。後でこの記号を付けるのが大変だからです。
 この説明をした時、すぐに受講生の方から、ここは「【御】こと葉」とすべきではないか、との異見が出ました。校訂本文にすると「御事は」となり、ここでの「は」は助詞と見るのです。「葉」は「言葉」の一部としての漢字表記ではない、ということです。
 前後の意味から考えても、その方がいいことは、すぐに納得できました。私の翻字と説明が間違っていたことをお詫びして、この箇所の訂正をしました。
 前回も、34丁裏の4行目にあった「思」に、漢字表記であることを示す【 】をつけ忘れていることの不備を指摘されました。あの時もすぐに訂正して、ブログ「日比谷で橋本本「若紫」を読む(2018年度-その5、誤植発見)」(2018年09月01日)でも詳細に報告をしました。

 本日は、さらに致命的なミスをしていることがわかりました。続いての間違いに、本当に申し訳ないことです。そして、こうした間違いに気付き、指摘してくださることのありがたさを噛み締めています。確かな目を持った受講生の方々が集まっておられることに感謝しています。

 講座が終了してから、もう一つ質問を受けました。それは、私が「これ八・ま多」(34丁裏6行目)としているのは、「これ・いま多」ではないか、ということでした。

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 「これは」という表現をあまり見かけないから、というのがその理由です。
 すぐに、手元にあった諸写本の校合資料で確認したところ、「大島本」などのグループでは、「これは」という字句を持たないことがわかりました。つまり、写本が「また」とすることを全写本での共通本文と認め、その前の「これは」は、橋本本を始めとする河内本の本文の特徴を持つ写本グループ特有の語句だと考えられる、という私見を伝えました。
 もっとも、ここは、「これは・また」「これ・いまた」「また」という3種類の本文があった可能も否定できません。しかし、今はまだ「変体仮名翻字版」という翻字データがほとんどない状況です。そのため、現在私が校合資料としている旧態依然とした翻字データによる不正確な資料では、橋本本のグループにおいて「これは」となっているその「は」の部分が、他の写本でもみな「これ八」なのか、あるいは「これ者」「これは」「これい」となっているかの確認が必要です。今、翻字作業がそこまで手が届いていないので、今後の課題とさせていただきました。

 この質問によって、また新たな検討課題が生まれました。一つでも多くの写本の「変体仮名翻字版」を、一日も早く作らなければ、本文研究は一歩も前に進めません。抱えている作業と課題の重さを、ひしひしと感じることとなりました。
 今日質問してくださった方は、NPO法人〈源氏物語電子資料館〉が取り組んでいる「変体仮名翻字版」の作業を、会員になって手伝ってくださっている方です。明治33年に制定された五十音図の範囲に限定した平仮名で翻字をするという、現行一般に流布する写本に忠実ではない翻字ではなくて、ごまかしのないより正確な「変体仮名翻字版」の理解者からの質問だったので、ありがたいことだと思っています。

 今日は、35丁表の8行目「いひしら勢・【給】」まで確認し終えました。

 講座が終了した後は、国文学研究資料館で一緒に仕事をしていた仲間も合流して、いつものように有楽町で課外の学習会となりました。これは、講座での勉強に飽き足りない方々十数名が、場所を変えて少しお酒を口にしながら『源氏物語』のことを語り合う集まりです。

 恒例となったこの会で、今日は新しい提案がいくつかありました。その一つが、国文学研究資料館蔵橋本本『源氏物語』の本文を現代語訳しよう、という当初のこの自主参加の集まりの趣旨が、大きく実を結ぶという展開になったのです。

 いつも全盲の受講生のお世話をしてくださっている土屋さんが、渋谷栄一氏の現代語訳『源氏物語』を参考にして、橋本本「若紫」を現代語に訳してくださったのです。
 この渋谷訳の『源氏物語』を含む壮大な本文データベースは、ご本人からNPO法人〈源氏物語電子資料館〉にその権利が委譲されています。「渋谷版ウエブサイトのNPO法人〈GEM〉への譲渡契約が成立」(2014年02月19日)
 その意味からも、以下の企画は、渋谷氏のご厚意をさらに有用なものへと育てることにつながります。現在、渋谷氏はNPO法人〈源氏物語電子資料館〉の監査役でもあります。願ってもない展開となっていきそうです。

 このプロジェクトの提案をしてくださった土屋さんは、理系の方であって文学がご専門ではありません。しかし、鎌倉時代の『源氏物語』の本文がまったく読まれていない実態をこの日比谷の講座で知り、広く読めるようにする意義を痛感された方です。この有楽町駅前周辺の居酒屋で行なっている課外講座も、土屋さんの熱意があってのものです。ハーバード大学行きでもご一緒した星野さんという、頼もしい大先輩も、後ろからしっかりと支えてくださっています。
 来月からは、この土屋訳をみんなで検討することになりました。もっとも、このメンバーには、文学はもとより研究者と言える方は一人もいらっしゃいません。これが、この集まりの魅力でもあります。

 また楽しいプロジェクトがスタートしました。
 このプロジェクトに興味をお持ちの方がいらっしゃいましたら、来月12月15日(土)の午後4時半に日比谷図書文化館の4階にお越しいただければ、この課外講座だけでも参加していただけます。参加費は無料で、お酒とおつまみの自己負担分として、2500円くらいを頂戴しています。それ以上の寄付は大歓迎です。

 有意義な一日を過ごし、京都へ帰る最終の新幹線の中で、この記事を書いています。愉しい仲間に恵まれていることを実感しています。東京はもとより、京都でも、大阪でも、多くの方々と一緒に古写本『源氏物語』に書き写された変体仮名を読み解きながら、コツコツと前に進んでいます。研究とか勉強というのではなく、人と人とのつながりの中で古典文学を読み進む楽しさを、こうしてみなさんと共有しているのです。

 京都駅に降り立つと、日付が変わろうとしているのに、多くの観光客の方でごった返しています。駅前の京都タワーも、戸惑いを隠せぬ色で街を見つめているようです。

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2018年11月08日

キャリアアップ講座(その11)『源氏物語』のくずし字を読む(落ち着かない書写態度)

 勉強会が始まる前に、NPO法人〈源氏物語電子資料館〉が所蔵する『絵入源氏物語』を、直接手に取って見てもらいました。併せて、『古今類句』も出しました。この本については、「NPO設立1周年記念公開講演会のご案内」(2014年03月12日)に書いています。江戸時代の版本とはいえ、「漆山文庫」という由緒正しい印を持つ『源氏物語』です。

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 みなさんには、本の大きさ、綴じ方、54巻の分量、紙の質や感触などを、自由に体感してもらいました。やはり、自分の五感を使うことが、理解には一番の近道です。今日は、そのことを実感していただくことができたと思います。

 写本を読む方は、いつもよりハイペースで進みました。

 今日読んだ部分は、書写者がどうも集中して書いていないのではないか、と思える箇所が目立ちました。文字が紙面をはみ出したり、何度もなぞったり、書き飛ばした文字を補入するなど、書写態度が落ち着きません。文字が崩れて、形が不自然なものも散見します。「万」などは、単独の文字としては判読に苦しみます。
 私がよく説明で使う、このあたりはトイレを我慢しながら書き継いでいるのではないか、とする状況下が想像できます。

 また、「春」よりも「寿」の方が多く出てきます。この使用文字のばらつきなどは、「変体仮名翻字版」の資料がもっともっと増えることで、多くの問題に解答の糸口が見いだせることにつながることでしょう。

 今回は、進みました。
 次回は、11月22日です。
 
 
 
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2018年10月26日

明浄社会人講座(2)伊藤「写本学、崩し字で源氏物語を読む」

 明浄学院高校の授業が16時に終わり、18時から社会人講座が始まります。
 第2回は私が担当です。掲げた題目は「写本学、崩し字で源氏物語を読む」で、鎌倉時代に書写された『源氏物語』を読む勉強会です。

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 今日の参加者は4名でした。前回同様に、熱心に聞いてくださいました。終了後の感想も満足していただけたようなので、担当者としては安堵しています。

 『源氏物語』の古写本の複製本を見てもらい、実際の大きさなどを実感してもらいました。平安時代から鎌倉時代の枡形本は、見開きでA4版の大きさになります。人間の視界は、これが最適なのでしょう。
 また、いろいろな写本があることを、『源氏物語 千年のかがやき 立川移転記念 特別展示図録』(国文学研究資料館編、2008年10月、思文閣出版)を見ながら確認しました。

 古写本の基礎的なことを確認してから、写本に書かれた文字を読み取ることの難しさに移りました。書かれた文字を読み取る難しさではなくて、書かれた文字のどこをどのように読み、それがどのようなものであるのかを確定することの難しさです。

 参考資料として配布した、「転移する不審−本文研究における系統論の再検討−」(中川照将、『源氏物語の本文 第7巻』、おうふう、平成20年)に書かれていることを追いながら、「みるこ」という人物は一体誰なのかを考えていきました。『千年のかがやき』に収録した大島本「胡蝶」の次の画像を横においての確認です。

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 また、私が『千年のかがやき』に書いた次の文章も参照しながら、話を進めて行きました。

【14】大島本『源氏物語』
  古代学協会蔵
  室町時代後期写
  袋綴五三冊
  二七・五×二〇・九センチ

 室町時代に書き写された『源氏物語』の写本である。「浮舟」巻を欠き、「桐壺」巻と「夢浮橋」巻は後補の写本群。池田亀鑑により〈いわゆる青表紙本〉の最善本として『源氏物語大成』の底本とされた。現在流布するすべての活字校訂本の基準本文となっている。ただし、大島本には膨大な書き込みと補訂がなされている。それらの後補を取り込んで校訂された本文が提供されて来たため、大島本とは何か、〈いわゆる青表紙本〉とは何かという問題が、近年の本文研究の進展にともない浮上してきた。一例をあげる。「胡蝶」巻で、流布する活字校訂本文が「みるこ」とする箇所がある。しかし、「胡蝶」巻の一五丁表の五行目には、「てこそを」に朱のミセケチと傍記がある。現行の活字校訂本は、この朱の補正を採用して「みるこをぞ」とする。「みるこ」は玉鬘付きの童女の名前とされる。これは、同巻の二六丁表九行目の「みてこそかたよりに」の解釈にも影響する。現在我々が読んでいる活字校訂本は何なのか。『源氏物語』の本文を再検討する上でも、興味深い例である。(伊藤鉄也)


 次に、拙稿「源氏物語古写本における傍記異文の本行本文化について−天理図書館蔵麦生本「若紫」の場合−」(『古代中世文学研究』、和泉書院、平成13年)を読みながら、傍記されていた文字列がいつの頃からか本行に取り込まれていく過程を確認しました。
 この、傍記が本行に吸い込まれていく姿は、参加なさっていた方からおもしろかったと好評でした。しかも、傍記対象の文字列の前に潜り込むか後ろに潜り込むかに法則性があることにも、興味をもったとのことでした。

 今日も、時間をオーバーして終わりました。終了後にいろいろとお話ができたことも、この講座の特色でもあります。

 次回は、予定通り次の講座があります。スポットでの参加も可能です。「大阪天王寺地域で新しく社会人講座がスタートします」(2018年09月12日)の記事を参照の上、一週間前には連絡をお願いします。

第3回 11月9日(金):観光学部 教授 / 中村 忠司
         「観光行動学、『物語性』と観光」
 
 
 
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2018年10月25日

キャリアアップ講座(その10)『源氏物語』のくずし字を読む(1文字欠落箇所)

 まずは、谷崎潤一郎が訳した『源氏物語』の中でも、昭和14年に愛蔵版(非売品、限定千部)として配布された桐箱入りの本を見てもらいました。なかなか見る機会のないものなので、架蔵の本を持参したのです。これからは、折々にこうした珍しい本を見てもらおうと思います。

 今日の枕としてのお話は、昨日の満月がみごとだったことから始めました。現在読んでいる「鈴虫」が、ちょうど2000円札に印刷された「【十五夜】の〜」の場面であることを意識してのものです。この熊取、日根野地区からも、きれいに満月が見えたそうです。

 その満月の話題と、来週11月1日が「古典の日」であることに関連させて、本日の京都新聞に掲載された「文遊回廊 第13回 紫式部日記」(荒木浩・国際日本文化研究センター)の記事を、みんなで確認しました。道長の「望月の欠けたることのなしと思へば」という歌や、古歌「君が代」のことにまで言及しました。また、廬山寺についても話題にしました。

 さらには、オリンピックでメダルを取った女性が「生物学的には女性ではない」という記事を読みながら、女と男の違いについて討論しました。これは、男性ホルモンの「テストステロン」の値による研究をもとにしたニュースによるものです。平安時代には、男と女の違いをどの程度意識していたのか、という視点での意見交換です。男と女の違いがよくわからなくなった、という意見を聞き、これは今後とも引き続き話題の一つにしていきたいと思います。

 『源氏物語』の本文については、今日は、7丁裏7行目「あ可つきの」から8丁裏5行目「能多満衛は・三や」までを読みました。この部分では、特に問題とすべき変体仮名は出てきませんでした。
 気になったのは、今日の3頁分の中で、1文字を書き写し漏らした所が4箇所もあったことです。テキストの翻字では、「(ママ)」とした部分です。

(1)「遊くれ」(諸本は「ゆくれ」)
    →「ふ」欠落
(2)「こ遊」(諸本は「こゆ」)
    →「き」欠落
(3)「【大】ゆ」(諸本は「【大】ゆ」)
    →「し」欠落
(4)「葉な可尓」(諸本は「はなかに」)
    →「や」欠落
(5)「ませて」(諸本は「ませて」)
    →「か」欠落


 いずれも語中の1文字を欠くという、非常に単純なミスです。この書写者は、この丁を書写する時には、集中力を欠いていたということでしょうか。私がよく喩えに使う、「トイレにいきたかったのでしょうか?」「お客さんが来たのでしょうか?」「奥さんから食事だから冷めない内に早く来てください、と呼ばれていたのでしょうか?」という状況を思わせるところです。
 
 
 
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2018年10月13日

明浄社会人講座(1)池田「言語学、英語をやさしく身にまとう」

 今秋から開催することになった社会人講座の第1回が、大阪観光大学の併設校である明浄学院高校で、昨日12日(金)午後6時より無事に開催できました。
 今回の講座は、全10回通しの受講者は3名です。今日は、そのうちのお2人がお越しで、もう1人は仕事の調整がつかずにお休みとの連絡をいただきました。
 今回は、高校の英語科の先生2名も参加です。

 最初ということもあり、受講者を校門に出迎え、2階の会場にご案内しました。今回の社会人講座のお手伝いをしてくださることになっている高校国語科の堀先生は、高校側から了承をいただいているということもあり、ご一緒に校門付近で受講者をお待ちしていました。当初予定していた第1会議室は広過ぎるので、10人以内に最適な第2会議室に変更しました。そのこともあって、玄関先まで出迎えに行ったのです。
 玄関には、事務の田村さんが掲示板を設置してくださっていました。お昼に更衣室で出会った時、この日の社会人講座のことを心配していてくださり、ご好意で作っていただいた案内板です。まさに文化祭ののりで、何もかもが見よう見真似の手作りイベントです。

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 急遽部屋を変更したこともあり、講義をしていただく池田和弘先生は、パソコンと音声の調整に大忙しです。本当に申しわけありません。

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 講座を開始するにあたり、代表世話人を務めている私から、簡単にご挨拶をしました。この講座の意義と、今後の展開への協力のお願いです。小さく産んで大きく育てる、ということです。

 第1回となる今日は、池田和弘先生の「言語学、英語をやさしく身にまとう」です。
 言語学の基礎知識の確認から始まりました。わかりやすい話でした。
 少し話が進んだ頃に、講師の問いかけに応える形で、受講者から質問が出ました。それに池田先生が丁寧にご自分の考えを答えられ、その後は、参加者の意見を聴きながら進めていかれました。

 この講座が始まって30分もしないうちに、私はこの部屋の熱気にただならぬものを感じ出しました。受講者が学ぼうとなさる意識の高さが、スクリーンを見つめるその視線と講師の話に聴き入る姿から、自ずと伝わってきたからです。知的好奇心が旺盛で、理解力があり、疑問点と共感を覚える点が即座に整理でき、それが質問という形で発せられ出したからです。また、池田先生の問いかけに対する答えが、自分の考えを控え目ながらも織り交ぜてなされていたことにも驚きました。

 この企画とプランニングは昨年12月に着手し、本年4月中旬にできあがりました。しかし、その後の動きが後手後手だったために、ポスターとチラシができ、正式な案内を公にしたのは先月、9月の中旬でした。このことは、すでに本ブログの「大阪天王寺地域で新しく社会人講座がスタートします」(2018年09月12日)と、「高校での入試前の授業と社会人講座の広報活動」(2018年09月14日)でお知らせした通りです。

 その広報での対応が遅きに失したこともあり、宣伝活動がほとんどできなかったという事態の中で、昨日の開講に漕ぎ着けたしだいです。
 それが、少数ながらも予想外といえば受講者に失礼ながら、驚くべきレベルの高さの講座となったのです。聞き手の意識が、講座の内容に如実に反映しだしたのです。また、受講者の疑問に的確な説明をなさる池田先生にも、日頃のお付き合いの中では気づかなかった、専門家としての奥深い経験と知識の蓄積を知る機会ともなりました。

 イギリスのケンブリッジ大学にいらっしゃったピーター・コーニツキ先生とは、16年間にわたって共同研究として「コーニツキ版欧州所在日本古書総合目録データベース」に取り組んできました。打ち合わせなどでの訪英も、十数回にも及びます。「「コーニツキー版欧州所在日本古書総合目録」がリニューアル(その1)」(2018年07月20日)に、その経緯などを整理しています。
 そのお付き合いの中で、ピーター先生の授業がマンツーマンの討議であることを知りました。理想的な教育と研究が展開する場だったのです。今日は、そのピーター先生の講座の雰囲気を思い出させる、人と人とが知識と知恵と敬意を背景にして交流する、熱気溢れるものだったのです。

 さらに余談を。
 「コーニツキ版欧州所在日本古書総合目録データベース」の公開は2001年でした。当初は、あくまでも私が館長命令で取り組むデータベースの構築であり、国文学研究資料館の業務として認められたものではありませんでした。時間と共にアクセス数が多くなり、その意義が館内で認められ出した2011年から、館で公認のデータベースとなり、予算も正式に付くようになりました。つまり、自主的な活動が認められるまでに、10年を要したことになります。この経緯については、本ブログの「「コーニツキー版欧州所在日本古書総合目録」がリニューアル(その3)」(2018年07月30日)にまとめています。

 今回の明浄学院高校を会場とする社会人講座も、今はまだ認知を受けていない自主的な講座です。講師を引き受けてくださった先生方も、校務としての講義ではないことを承知で協力してくださっています。上記にも引用した本ブログの「大阪天王寺地域で新しく社会人講座がスタートします」(2018年09月12日)の「開講の趣旨」で、次のように記しました。

 明浄学院高等学校は、創立100周年に向けて、2021年4月に文の里新校舎が完成する予定である。その新館に、大学のサテライトが入ることとなっている。そこで、それまでの3年間に現校舎の施設を活用して、以下の10講座をスタートさせることにした。


 つまり、今回スタートした自主的な社会人講座が認知を受けるまでには、少なくとも3年はかかると思っての開催なのです。

 もっとも、今日の講座は、もう社会人講座の域を超えて、学びたいという受講生の熱意と、その気持ちに応えようとする池田先生の、丁々発止のやり取りの場となっていたのです。それにつられて、私も飛び入りでいくつか素人なりの質問をしました。
 巷には、カルチャースクールやカルチャーセンターと言われる社会人講座が数多くあります。しかし、今日、この文の里にある明浄学院高校の2階で展開していたのは、大学院レベルの討議と言うか、お互いが啓発し合う意見交換の様相となっていたのです。

 この展開の中で私は、今後の講座運営に向けての、刺激的な示唆をいただきました。全国至る所で展開している初心者向けの講座とは一線を画した、これからの研究成果が待ち望まれるような討議をする講座があってもいいのではないか、と思うようになったのです。

 こうなると、次回の講師である私としては、この受講者の求めに応えられる内容にしなければなりません。プレッシャーがかかります。しかし、この社会人講座のもともとには、大学の講義では語りきれなくて、語ると止まらない講座を意識したものだったのです。その意味では、ハイレベルの情報を基にして、受講者と一緒に考える講座があってもいいのです。
 まだ1回目が終わったばかりです。今後のことは、もう少し考えさせてください。

 さて、池田先生の講座の内容について、私なりのメモを通して簡単な記録を残しておきます。

・「エマージェント・グラマー」という第三の文法については、まだ知られていない考え方だそうです。英語から脱落した私にとっては、新しい物の見方や考え方には、大いに興味があります。

・バーチャル空間におけるバイリンガルが例示されました。話を聞いていると、私にも英語が話せるようになるのかな、と思いました。錯覚でしょうか?

・同時通訳者は何語で考えているか? ということで、受講者とのやりとりが活発に行われました。概念的に存在しないものは訳せない。言語の意味がイメージできないと訳せない。ということが確認されました。

・言語の獲得装置と普遍文法のギャップについても、受講生を交えてやりとりがありました。

・文法は発信のためにあるのか、受信の中にあるのか。これについての質問と意見は、参加者からいろいろな考えが出てきました。
 どうやらこの講座では、受講者とコミュニケーションをとりながら進めていくといいようです。

・池田先生の英語指導は、日本語を重視して活用しているとのことです。概念が分かっているなら、日本語の中に英語を入れてやる、とも。

・人間の脳の働きにあった英語教育の方法についても、わかりやすい説明がありました。

・「マイクロラーニング」には可能性があるとも。

 本日の講座には、明浄学院高校の英語科の先生がお2人も参加しておられました。熱心に聞いておられたので、講座の最中や終了後に、いろいろな感想やアドバイスを伺うことができました。

 定刻を15分もオーバーして終わりました。
 心地よい知的な刺激を堪能できた1時間半でした。

 終了後、みなさんがお帰りになってから部屋の片付けをしました。しかし、私が机の並べ方と椅子の配置を前後逆にしていたとのことで、この講座のお手伝いをしてくださっている堀先生が、元あったように並べ直してくださったとのことでした。勝手のわからない中で、不手際をフォローしていただき感謝します。

 このような講座に興味と関心をお持ちの方は、残り9回ありますので、全10回通しで参加していただくことは可能です。大阪観光大学の事務に連絡をいただければ、ご要望に対応いたします。また、特定の講座をスポットで参加なさる方は、1週間前までに連絡をください。こうした刺激的な時間を、ご一緒に共有しましょう。

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2018年10月11日

キャリアアップ講座(その9)『源氏物語』のくずし字を読む(悩ましい「る」と「日」)

 今日は、この社会人講座の直前にあった授業で中国からの留学生と話し合った、年齢の数え方やミドルネームのことから始めました。いつもは、この脱線から本線に戻れなくなるので、あまり寄り道をせずに写本を読み進めました。

 6丁裏の2行目「こと・ひろこり遣累」から7丁裏7行目「多てまつ累とて・なら寿」までを確認しました。

 次の例は「ける越」という語句です(6丁裏4行目)。しかし、一見「は越」と書いてあるように見えるので、真ん中の「る」を見過ごしてしまいそうです。

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 次はどうでしょうか。

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 最初の行の「けなる」(6丁裏7行目)の「る」は「り」のように見えます。
 次の行(左隣)の「返ける」(6丁裏8行目)の「る」の方は迷いません。この2つは、共に「る」です。
 一番左側の行は「八可りも」と読みます。「八」と「可」は、この「鈴虫」の書写者の書き癖に慣れないと、立ち止まってしまいます。そして、この前後の意味を考えて、正しく読むことができるようになる例です。

 次の「る」はどうでしょうか。

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 まず1行目です。ここは、「多可日ぬへし」(7丁表5行目)と書いてあります。
 「る」のように見える文字は、前後の意味や他の写本を参照すると「日(ひ)」と読むことになる文字です。「日」と「る」の読み分けは、なかなか判定が微妙な例です。迷ったら、言葉の意味を考えて決めます。
 この「ひ」と読む変体仮名の「日」については、「キャリアアップ講座(その6)『源氏物語』のくずし字を読む(字母まで正確に書写)」(2018年07月19日)でも取り上げています。参照していただけると、変体仮名を読むおもしろさと悩ましさを実感していただけるかと思います。
 次の行の「ある」の「る」は、今と同じ平仮名です。
 4行目は「給つる」と読むのではなくて、「給つゝ」と読みます。「る」のように見える文字は、ここでは踊り字の「ゝ」にした方が、他の写本との関係で自然なことばとなります。ただし、この「ゝ」は「る」という字形になっているので、テキストである『国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」』(伊藤鉄也・阿部江美子・淺川槙子 編著、新典社、2015年10月)では、この「ゝ」の右横に「(ママ)」と注記を書き添えておきました。さらに検討を要する文字だと思っているからです。

 今日は、「る」という一文字でもいろいろな形で書かれていることを確認できました。
 無限に姿形を変える変体仮名です。それだけに、読んで意味を考える楽しさが増します。
 
 
 
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2018年09月28日

キャリアアップ講座(その8)『源氏物語』のくずし字を読む(性を討議)

 昨日の社会人講座では、ペルーで買ってきたコカ茶を、参会者のみなさまと飲みながら始めました。
 スクリーンには、リマ市内にある日秘文化会館において、ペルー日系人協会出版基金から刊行されたスペイン語訳『源氏物語』をはじめとする、多くの日本文学作品のスペイン語訳を映写しました。日系人を中心として、多くの方に日本文学がスペイン語で読まれていることが、その多彩な蔵書から感じ取っていただけたと思います。
 また、ハーバード大学の話では、現在読んでいる『国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」』とかつては一緒になっていた「須磨」と「蜻蛉」の2冊を調査している様子を、写真で見てもらいました。700年前に書き写された写本が、日本とアメリカに別れ別れで大切に保存されているのです。ハーバード大学でのスライド写真から、そんなことも実感してもらえたと思います。

 この講座でテキストとしている「鈴虫」の変体仮名は、6丁オモテ1行目から6丁ウラ2行目「に者可尓那ん〜」までを確認しました。
 ただし、毎度のことながら、話はあちこちへと飛びます。今日は、頻繁に出てくる「可」「尓」「多」という変体仮名が、明治33年には出現回数の少ない「か(加)」「に(仁)」「た(太)」の平仮名に統一されたことの背景を考えました。
 また、ジェンダーに関する問題も話題にしました。「LGBTX」のことから、男と女の2分類が揺らぎ出した現代において、どのようなことが考えられるかをテーマとするものです。フリートーキングだったこともあり、特に男性からの発言が多く、時間をオーバーして大いに盛り上がりました。
 こうした意見交換は、社会人講座だからこその醍醐味です。今後とも、こうした機会を作りたいと思います。

 次回は、10月11日午後3時からです。
 なお、本講座は年度途中からの参加も可能です。興味と関心をお持ちの方の参加をお待ちしています。
 来週から、また颱風が襲来するようです。
 9月の災害を教訓にして、身の回りでも被害のないように細心の注意をはらいましょう。
 
 
 
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2018年09月14日

高校での入試前の授業と社会人講座の広報活動

 今日は、少し蒸し蒸しするかと思わせながらも、秋の気配を十分に感じる一日でした。

 高校での授業は、「インフォームド・コンセント(患者が自分の病気と医療行為について説明を受けたうえで、同意をすること)」のあり方について考えました。生徒が提出した小論文を添削した例を示して、気付いた点を解説しました。

 来月からは大学受験の推薦入試が始まります。今後の個別指導のために、各自の受験スケジュールと、予定している自己ピーアールのポイントを書いてもらいました。
 これを参考にして、今後とも一人一人に対処していきます。

 来月から開催する社会人講座の広報については、高校の副校長とチラシの配布方法を中心とする打ち合わせをしました。講座の内容については、一昨日の記事「大阪天王寺地域で新しく社会人講座がスタートします」(2018年09月12日)に記した通りです。

 先生方や全生徒には、副校長からの一斉メールなどで連絡が行き渡っていました。用意したチラシは、各クラスの担任を通して帰りの終礼で全生徒に配布してもらいました。先生方全員にも、チラシをお渡ししました。

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 高校周辺地域の自治会の皆様にも、副校長のご尽力により、チラシを配布していただけることになりました。大学の方には早速、チラシを800枚ほどを刷り増ししてもらえるように依頼しました。
 地域に貼るポスターは、A3版をラミネート加工してくださることになり、これも大学から大至急データを送ってもらい、お願いをしました。ご理解とご高配に感謝しています。
 さらには、ありがたいことに、京都学を担当なさる本多健一先生のご協力で、高校の近くにある阿倍王子神社の境内にビラを貼ってもらえることになりました。

 この社会人講座も、少しずつ広報活動が広がってきています。さまざまなことから出遅れた取り組みでした。しかし、このようにして手助けしてくださる方が増えてきたのです。感謝感謝です。
 この社会人講座に何人の方が集まってくださるのかは未定ながらも、広報活動は今後のためにも積極的に展開していくつもりでいます。
 さらなるご協力をいただけることを願っています。

【追記】
 明浄学院高等学校のホームページの中にある「明浄ニュース」で、「お知らせ」として、この社会人講座のことが紹介されました。参考までに追加情報とて記します。

「【地域における学びの拠点を目指す】社会人講座を開設します!」(2018年09月14日)
 
 
 
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2018年09月12日

大阪天王寺地域で新しく社会人講座がスタートします

 来月10月12日(金)から、大阪の天王寺地域を舞台として、新しく社会人講座が始まります。この場をお借りし、参加者の募集を兼ねてお知らせします。
 次の画像をクリックしていただくと、高精細な画像となり文字も読みやすくなります。

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この講座について、当初の趣意文は次のとおりのものでした。

■開講の趣旨■
 大阪観光大学の社会人講座については、大阪市内を舞台として広く開かれた形で実施することに意義があるとの認識のもとに、複数の教員が理解を共有するにいたった。その観点から、天王寺にほど近い、阿倍野区文の里にある明浄学院高等学校を会場とする社会人講座の開講を立案し、ここに提案するものである。
 明浄学院高等学校は、創立100周年に向けて、2021年4月に文の里新校舎が完成する予定である。その新館に、大学のサテライトが入ることとなっている。そこで、それまでの3年間に現校舎の施設を活用して、以下の10講座をスタートさせることにした。
 この社会人講座では、大学の授業やゼミではできないことで各教員が語り出したら止まらない内容を盛り込み、受講者と共に楽しく考える場を創出することを目的とする。併せて、大阪観光大学の名前を近畿圏に広く告知する場になればとの願いもある。

          2018年04月16日
          代表世話人:大阪観光大学国際交流学部・伊藤鉄也

■開講期間と日時■
 第1期は、2018年10月より2019年2月までとする。
 原則、毎月第2・4金曜日の午後6時より90分の講座とする。

■受講料■
 全10回の講座を1セットとし、受講料は15,000円とする。
 ただし、個別の講座だけを受講する場合は、1講座3,000円とする。


 本年3月に準備が整い、ようやく来月から実施の運びとなりました。
 大阪市内にお住まいの方や、仕事帰りに立ち寄れる方、興味のある講座だけなら受講したいなどなど、多くの方が参加していただけるように用意を進めて来たものです。

 明日からポスターの掲示とチラシの配布を始めます。
 お知り合いの方などへ、伝言などでお勧めいただけると幸いです。

 第2期は、来年5月からスタートする予定です。
 
 
 
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2018年08月02日

キャリアアップ講座(その7)『源氏物語』のくずし字を読む(フリーディスカッション)

 少し暑さは弱まったと言っても、今日の大阪は36度。社会人講座として写本の勉強会で使っている大阪観光大学のセミナールームは、エアコンも何とか頑張って涼しくしてくれていました。

 今日は、参会者がいつもの半分です。学生たちも、試験期間中のために欠席。今日使う予定だった資料を見ながらフリートーキングとなり、写本は1文字も読めませんでした。

 まずは、平安時代の発音で『源氏物語』を読むとどうなるか、ということから。
 金田一春彦先生の監修、関弘子さんが朗読なさったものを、iPhone のスピーカーを通して聴いていただきました。
 併せて、「ハ行音」に関する説明文もお渡ししました。一般的には「ハ行転呼音」と言われているものです。ただし、専門的にならないように気をつけて説明しました。特に、「ハ行」の音が「ファ」「フィ」という音で耳に届いたことは、驚きだったようです。かつては今の「ハ行」とは違った音だったことを実感していただいたので、みなさまの記憶に留まる印象的な朗読になったかと思います。

 その後は、観光と国際的な文化交流などに話題を振りました。
 私は、日本のことを語れることが、国際交流の基本だと思っています。決して、英語を流暢に操ることではない、というのが持論です。そして、観光に来られた方々には、案内する自分が生活している範囲内で日常生活を見てもらい体験していただくことが、民間人が参加できる生きた国際交流につながることだ、ということも強調しました。

 泉州の水茄子やタオルなどなど、地元のものでのおもてなしがいい例でしょう。すでに、この地元の熊取町で取り組んでおられるとのことです。いかに効率よく実現するかを、若者たちと一緒になって取り組み、気長に継続することが大事ではないでしょうか。大学の学生たちを含めて、若者たちのエネルギーをいかに利活用するかが、この盛り上がりに大きく影響することだと思っています。
 この点では、参加者のみなさまの賛同がいただけたかと思っています。

 この学習会に参加なさっている方からも、大阪観光大学の先生のお世話になって、観光に関わる仕事を立ち上げた話をしてくださいました。これは、大学の広報担当の方にまではまだ伝わっていない事例のようなので、近日中に伝えようと思います。
 社会人の方々と接していると、いろいろと勉強になるお話が伺えます。多彩な情報が入ってきます。得難いコミュニケーションの場となっています。

 学校は、若者たちだけを相手にするのではなくて、こうした経験豊富な方々との交流の中から、お互いが見識を高め合う素晴らしい場となることを再認識すべきだと思っています。特に大学は、幅広い受け皿となって行くべきです。そんな思いを抱きながら、みなさまとフリートーキングをしました。

 次回は、約2ヶ月後の9月27日(木)です。秋風に爽やかさが感じられる頃になっているといいのですが。そして、颱風がやってこないことを、今から祈っています。
 
 
 
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2018年07月19日

キャリアアップ講座(その6)『源氏物語』のくずし字を読む(字母まで正確に書写)

 暑い中を、今日も熊取周辺地域の皆さまが、大阪観光大学に集まってくださいました。いつものように、まずは世間話から。

 祇園祭の前祭の写真を見ていただき、見物の位置どりや見どころなどをお話ししました。
 また、「コーニツキ版 欧州所在日本古書総合目録」がリニューアルしたことも。
 これは、ケンブリッジ大学のピーター・コーニツキ先生と、足掛け16年をかけて構築したデータベースです。また機会をあらためて詳細な記事として書きます。
 これに関連して、「国文学論文目録データベース」についても、紹介をしました。これについても、またあらためて。

 今日は、今回のテキストにしている『国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」』が、書写にあたって元にした親本を、いかに正確に書き写そうとしているかを確認しました。

 次の2例は、最初に書いた「日」が、親本で「ひ」となっていたことに気付き、すぐに書き直したと思われるものです。

(1)「よそ日尓」と書いた後、「日」をミセケチにしてその右横に「ひ」と書いています。
 傍記の「志やうそく【也】」は注記です。(5丁裏6行目)

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(2)「むす日」と書いた後、「日」の上から「ひ」を重ね書きしています。(6丁表3行目)

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 共に、「日」と書いてしまい、親本が「日」ではなくて「ひ」だったことに気づいて、その字母を変更した補正です。この写本を書写している人は、字母にまで気を配って、親本を忠実に書き写していることがわかります。そして、この書写者は日常的には「ひ」ではなくて「日」という変体仮名をよく使っていたようです。そのため、つい「日」と書いてしまったと思われます。一種の変体仮名の書き癖とでも言うべきものです。

 また、糸罫がずれたままの状態で書写を続けていたため、6行目までがズレていることも確認しました(5丁裏)。
 このことは、京都での勉強会でも、ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」においても見られた現象です。
「[町家 de 源氏](第9回)(【画像変更】糸罫が動いた結果)」(2018年05月26日)

 こうして、細やかながらも、筆写されている情況を自由に想像しながら、写本が生まれる過程を確認して進んでいます。

 今回は、6丁表3行目の「むすひ」までを見ました。
 次回は、2週間後の8月2日(木)です。
 
 
 
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2018年07月05日

キャリアアップ講座(その5)『源氏物語』のくずし字を読む(書き手の交代)

 大雨の中、通勤の長い道中で、スマートフォンは8回も避難警告が鳴り響きました。画面に「緊急速報 避難勧告 発令」「緊急速報 避難準備 高齢者等避難開始発令」「緊急速報 避難勧告 土砂災害」などが表示されるのを横目に、ただただ大阪市内を南下して和歌山方面に向かいました。大学では、意外と雨風は強くなかったのでホッとしました。
 この記事を書いている今も、京都市左京区では「避難勧告」のけたたましい警報が少しの間を置いて鳴り響いています。指定緊急避難場所は「京都工芸繊維大学」と表示されているので、私の住んでいる地域からはもっと北の、京都五山の送り火で言うと、「妙」「法」の文字が焚かれる地域のようです。今また「避難指示(緊急)」がスマホの画面に表示されました。今夜は、この警報とお付き合いとなりそうです。賀茂川が氾濫しないか心配です。

 さて、大学でのキャリアアップ講座は順調に回を重ねています。

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 今日も、さまざまな資料を配りました。

◆池田本「桐壺」巻頭部分
 これは、重要文化財になったばかりの、鎌倉時代に書写された写本です。現在読んでいる鎌倉時代の歴博本「鈴虫」の巻頭部分とその雰囲気が似ていないか等々、見比べました。

◆変体仮名「て」の墨跡一覧
 現在一般的に使っている「て」の字母は「天」です。しかし、「く」の長いものをどうするかで、「弖」だけではなくて「氐」があることを、多くの例をあげて考えました。

◆山下智子さんの女房語りのチラシ
 内容を見ながら、ご一緒にコラボレーションする機会がなかなかないことや、美しい京都弁のことなどを話しました。

◆御茶の水女子大学が2020年から「女性自認」の男性を受け入れる新聞記事
 「LGBT」に「Xジェンダー」が加わる時代となりました。男らしさや女らしさについてフリーディスカッションで盛り上がりました。この講座は、年齢が50台から60台を中心とした集まりで、その中に4人の20歳の学生がいるという構成なので、この話はヒートアップします。ここぞとばかりに、男性4人の意見がポンポンと出る場面となります。これが、社会人講座の最大のおもしろさだと言えます。物語や文学作品を読む時に、男と女という枠を取り払って読むと、人と人との関係を男女に決めつけない、また別の読み方ができるのではないか、という提言をしました。


 今日は、テキストである写本は、4丁表から4丁裏の最終行までを確認しました。
 特に、写し手が途中で変わっているのではないか、ということを話題にしました。流れるような筆遣いから、途端につっかえつっかえ、それも頻繁に墨継ぎをして書写間違いが頻出するとなると、これはどうしても書き手が交代したと考えるのが普通です。巻頭部の1丁表裏を見て、そして2丁表に進むと、明らかな筆遣いが違うことが素人目にもわかります。
 一文字一文字を見ていくと共に、視野に入る紙面全体を見ることも忘れていません。この講座では、好き勝手に写本を見て読んでいく楽しさを満喫しています。

 次回は、再来週の7月19日(木)午後3時からです。
 場所は、今日と同じ、1号館4階のセミナールーム1です。
 
 
 
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2018年06月21日

キャリアアップ講座(その4)『源氏物語』のくずし字を読む(し・人・ん・尓・の)

 国宝『源氏物語絵巻』の「鈴虫」巻に関する追加の資料を配布して始めました。

 まず、「し」が文字間の調節に用いられていることを、次の緑囲いの部分(2丁裏〜3丁表)の5例で確認しました。

180621_si.jpg

 行末の「人」と「ん」については、上の写真の赤囲いの部分の例で確認できます。
 これは、糸罫を使っていたために上に引き上げられた形であり、まさにマット上で開脚したような形になっています。

 ユニコードに採択された「尓」は、その崩れ方から2種類の文字が登録されています。今回も、その2パターンが近接したところに見られたので、やはり2つのフォントとして国際基準の文字に認められてよかったと思いました。次の青囲いの「尓」(2丁裏)がそれです。

180621_ni.jpg

 ただし、翻字する側の者としては、「尓」1文字では、この2パターンが区別できないので問題が残ります。とはいえ翻字の現場で、同一仮名の字母において複数の字形を認めると、その織別の煩雑さは倍加します。

 明治33年に、平仮名は「の」という1文字に国策として制限統制されました。しかし、実際の表記は「乃」の場合も橙囲いの字形に見られるように、2つの形が認められます(3丁裏)。

180621_no.jpg

 これを区別するとなると、「変体仮名翻字版」による翻字データベースがさらに複雑になって、作成に手間取るだけです。
 翻字における字母の表記は、当面は1文字の漢字に留めておいた方がよさそうです。コンピュータの表示能力と分析技術がさらにレベルアップした時に、人間のアシスタントとして成長した時に、こうした細分化した字母で翻字をすればいいと思います。今は、平仮名1文字に制限された旧態依然たる翻字方針を脱却することを目標としています。まだ、コンピュータは未成熟です。さらに高度な処理ができるようになったら、翻字の技術も上がるはずです。その時代に合わせてステップアップをしながら、字母を交えた古典籍の本文データベースを構築していくつもりです。これは、次世代に託すことになりますが。
 それにしても、明治33年に断行されたあの仮名文字の国策統制は、思い切ったものであったことを実感しています。

 今日は、3丁裏の最終行まで確認しました。
 次回は、再来週の7月5日(木)午後3時からです。
 場所は、今日と同じ、1号館4階のセミナールーム1です。
 
 
 
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2018年06月07日

キャリアアップ講座(その3)『源氏物語』のくずし字を読む

 キャリアアップ講座で歴博本「鈴虫」を読んでいます。この社会人講座も3回目。受講者の皆さまのご意見を伺いながら、一緒に勉強する部屋を、今回も変更しました。これで3つ目の部屋です。どうやら、この部屋であれば、今後とも快適に勉強ができそうです。

 さて、今日は最初に、40頁分のプリントを製本したものを配布しました。これは、今後とも使う予定の資料をまとめたものです。

(1)「鈴虫」巻33本の写本の本文異同を整理したもの
(2)拙著『源氏物語の異本を読む−「鈴虫」の場合−』(臨川書店、2001年)から長文異同があることを論じた部分
(3)変体仮名を視覚障害者や日本語を勉強したい方に音声で説明するときの文案
(4)ユニコードに採択された変体仮名の説明文

などなどです。
 1冊ずつ製本機でバインドしたので、毎回持参してもらいやすくなっていると思います。製本のお手伝いをしてくださったみなさま、ありがとうございました。

 その配布資料の確認をした後、ユニコードに変体仮名が認定された話を詳しく語りました。マスコミなどがこのことを無視しているので、この話を小まめにするようにしています。日本語の基幹部分をなす仮名文字について、もっと国民として興味を持ち、わが事としてとらえてもいいはずです。言葉に鈍感になると、文化は次世代に継承されなくなります。このことは、今後とも機会を見つけては言い続けたいと思っています。同じ話を何度も聞かされる方には申し訳ないことです。ご理解をお願いします。

 写本を読むことに関しては、前回の続きである2丁表の1行目から読み出しました。
 快調に進んでいたところで、はたと立ち止まりました。テキストが次のようになっている箇所でした。

180607_houwo.jpg

 「ほうを」のところで、その右横に(判読)とあります。私の翻字方針については、このテキストの巻頭部分の凡例に書いています。この「(判読)」の項目を引きます。

(12) 書写されている文字が明瞭に読み取れなくても、文字の一部と文章の流れから類推して読める場合には、「(判読)」と明示して読み取ったものがある。
    (判読)
  例 ほうを
 ここで「う」(2オ3行目)は、単独では判然としない字形となっている。その前後の文脈から「う」と判断したものである。


 つまり、ここでの翻字で「(判読)」としたのは「う」に関することでした。
 ところが、今日の受講者からの質問は、その真上の文字についてでした。

180607_hauwo.jpg

 ここは、「はうを」ではないか、ということです。配布した校訂本文では、「法を」とあり、そのルビは「はう」となっているのです。これを見て、私はすぐにここは「ほう」ではなくて「はう」が正しい翻字ですね、と応えました。
 ところが、家に帰ってから諸本を調べたところ、「はうを」と書いた写本は一本もありません。「ほうを」が32例、「方を」が2例ありました。つまり、ここでの翻字は、「ほうを」でいいようです。上の写真の文字を見ても、「ほ」でも「は」でもどちらとも読み取れる形をしています。そこで、私としての結論は、「ほうを」のままでいい、ということにしたいと思います。
 本日の講座に参加なさっていたみなさま、二転三転ですみません。

 また、「く」のように見える「て」の字母は、もう「弖」とすることを公言しました。今後は、この「弖」を使った翻字に変えていきます。
 「个」か「介」については、まだ「介」にすることには抵抗があります。保留です。

 こんな調子で、1頁半ほど読み進みました。
 終わってから参加なさっていた方が、目と頭がクラクラするほど疲れました、とおっしゃっていました。
 とにかく、頭の中がフル回転の講座の様相を呈してきているようです。
 これは、願ってもないことです。

 次回は6月21日です。
 
 
 
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2018年05月25日

キャリアアップ講座(その2)『源氏物語』のくずし字を読む

 5月の第2週から隔週で始まったキャリアアップ講座「古写本『源氏物語』のくずし字を読む」の第2回です。初回は図書館で行ないました。しかし、予想外に参加者が多かったので、狭いと感じるようになりました。そこで、勉強会の場所を、明浄3号館2階にある国際交流サロンに移しました。

 お一人欠席だったものの、17人で『国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」』を読みつなげました。

 前回は、巻頭の3行分だけを、字母を丁寧に確認しながら、変体仮名を読みました。
 今回は、変体仮名の字母としてぜひとも覚えておくべき平仮名文字の確認からです。
 それは、以下のものです。
 これらは、鎌倉時代の写本によく出てくる仮名文字を中心とするものであり、室町時代や江戸時代にはまた別の文字がよく使われるようになります。時代によって、変体仮名の好みも流動していくのです。

あ(安) 阿 愛
い(以) 伊
う(宇) 有
え(衣) 盈 江
お(於)
か(加) 可 閑 賀
き(幾) 支 起
く(久) 九 具
け(計) 个 遣 希 気
こ(己) 古
さ(左) 散
し(之) 志 新 四
す(寸) 須 春 寿
せ(世) 勢
そ(曽) 所 處
た(太) 多 堂
ち(知) 地 遅
つ(川) 徒 都 津
て(天) 帝 亭 氐
と(止) 登 東
な(奈) 那
に(仁) 尓 耳 二 丹
ぬ(奴)
ね(祢) 年
の(乃) 能 農
は(波) 者 盤 八 半 葉
ひ(比) 飛 悲 日
ふ(不) 布 婦
へ(部) 遍
ほ(保) 本
ま(末) 万 満 萬
み(美) 見 三 身
む(武) 無 无 牟 六
め(女) 免
も(毛) 无 母 裳 茂
や(也) 夜 屋 野
ゆ(由) 遊
よ(与) 夜
ら(良) 羅
り(利) 里 梨 李
る(留) 類 累 流
れ(礼) 連
ろ(呂) 路 露
わ(和) 王
ゐ(為) 井
ゑ(恵) 衛
を(遠) 乎 越


 今回は、1丁裏まで終わりました。次回は、2丁表の「や可尓・ち井さく」から読みます。まだ始まったばかりなので、あまり突っ込んだ問題は取り上げていません。今は、目慣らしの段階です。

 またまた会場の変更のお知らせです。
 今回の国際交流サロンよりもっといい部屋が見つかりました。明浄1号館4階のセミナールーム1(エレベータを降りて左側)です。
 次回からは、この部屋に移ります。二転三転でご迷惑をおかけします。
 講座の中身はもとより、みなさまが快適に勉強していただくことも大事なことだと思っています。ご理解をお願いします。
 今後のスケジュールを掲載します。
 この講座は、途中からでも参加が可能です。興味と感心をお持ちの方々が、幅広く参加してくださることを願っています。


第1  5/10(木)
第2  5/24(木)
第3  6/ 7(木)
第4  6/21(木)
第5  7/ 5(木)
第6  7/19(木)
第7  8/ 2(木)
■夏季休暇
第8  9/27(木)
第9 10/11(木)
第10 10/25(木)
第11 11/ 8(木)
第12 11/22(木)
第13 12/ 6(木)
第14 12/20(木)
■冬季休暇
第15 1/17(木)
第16 1/31(木)


 これは、あくまでも予定です。
 変更がある場合は、直前の講座でお知らせします。
 緊急連絡のための連絡網を作りたいと思います。
 ご協力のほどを、よろしくお願いします。
 
 
 
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2018年04月04日

キャリアアップ講座と熊取ゆうゆう大学とで『源氏物語』を開講

 本年度(平成30年)の大阪観光大学では、学内の学生向けに「キャリアアップ講座」が開講されます。私は、「[初心者講座]古写本『源氏物語』のくずし字を読む」という科目を担当します。これは、国立歴史民俗博物館が所蔵する国の重要文化財『源氏物語 鈴虫』(講師が編集したカラー版の複製本)を教科書として、平仮名の元となった漢字(字母)を確認しながら読み進むものです。この「鈴虫」の写本は、米国ハーバード大学が所蔵する『源氏物語 須磨・蜻蛉』と兄弟本であり、鎌倉時代中期に書写された現存最古の写本の一つです。完成度の高い美術品でもあります。それを教科書として、初めて変体仮名を読む学生たちと一緒に、丁寧に説明しながら読んでいきます。

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 また、一般向けの社会人講座として、上記の「キャリアアップ講座」と連携する形で、熊取ゆうゆう大学の講座として「『源氏物語』の古写本を読む」というものも公開します。これは、同じ時間帯に同じ部屋で開催します。
 なお、この「熊取ゆうゆう大学 入学案内」の説明文の中で、今回使用する教科書が『国文学研究資料館蔵 橋本本『源氏物語』「若紫」』となっているのは、上記の『源氏物語 鈴虫』の間違いです。昨年度のものをそのまま印刷してしまいました。お詫びをして訂正いたします。

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 これは、昨年度から実施している講座を継続するものです。
 これまでの内容は、以下のブログで確認してください。

「生涯学習講座「『源氏物語』の古写本を読む」のお誘い」(2017年07月07日)

(中略)

「熊取ゆうゆう大学︰「若紫」を読む(その4)」(2017年10月05日)

「熊取ゆうゆう大学︰「若紫」を読む(その5)」(2017年10月19日)

「熊取ゆうゆう大学︰「若紫」を読む(その6)」(2017年11月02日)

「熊取ゆうゆう大学:「若紫」を読む(その7)」(2017年11月16日)

「熊取ゆうゆう大学:「若紫」を読む(その8)「盤」という文字」(2017年11月30日)

「熊取ゆうゆう大学:「若紫」を読む(その9)「天」と「弖」の対処」(2017年12月14日)

「熊取ゆうゆう大学:「若紫」を読む(その10)ひらがなの「天・弖・氐」」(2018年01月11日)

「熊取ゆうゆう大学:「若紫」を読む(その11)ひらがなの「盤・半」」(2018年01月25日)

「熊取ゆうゆう大学:「若紫」を読む(その12)言葉と文字にこだわる」(2018年02月08日)

 
 
 
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2018年02月08日

熊取ゆうゆう大学:「若紫」を読む(その12)言葉と文字にこだわる

 大阪観光大学の図書館で読み進めている変体仮名の勉強会は、今日が2017年度の最終回であり、初年度の一区切りとなります。次は2018年度となり、5月の連休明けから始めます。

 20数年前、大阪観光大学の前身である大阪明浄女子短期大学で、私は社会人を対象にした『源氏物語』の自主講座をやっていました。そこに参加なさっていたTさんから、久しぶりに帰ってきた私に会いたいけれども、手術後で体調が思わしくなくて残念だ、とのお手紙を昨日いただきました。
 今日ご参加のSさんは、Tさんがかつて一緒に参加しておられたことを覚えておられました。自宅に行ったこともある、とのことでした。人のつながりの妙を実感しています。
 またご一緒に、楽しく勉強ができる日が来ることを楽しみにしています。

 さて、今日も9名の参加者によって始まりました。学生の田中君が担当者となり、快調に変体仮名を読み進んでいます。しだいに説明も滑らかになり、一回生にしては古文に対する理解があることが、言葉の端々から感じられます。学生たちに任せて良かった、と安堵しています。

 いつものように雑談が花開いていた時でした。
 消しゴムで文字を消した後に出るゴミをなんと言うか、ということで盛り上がりました。田中君が「消しクズ」と言ったことに関して、他の学生たちは「消しカス」だろう、と大阪のノリで突っ込みます。いろいろな意見が出るうちに、私もわからなくなりました。

 「酒カス」「油カス」「削りカス」など、「カス」がつく言葉が飛び交います。そして、「星くず」や「ごみくず」「削りくず」など「くず」が付く言葉も連想ゲーム式に出てきます。
 「あほ ボケ カス、と言うから……」というあたりからは、さすがに関西弁の世界での議論、とでもいうべきものになっていきました。

 専門的には誰かが整理しておられることでしょう。それはさておき、日常生活の延長からの問題をネタにして討論することは、各自がそれなりに参加できるので、楽しく止め処なく話題が膨らんでいきます。素人ならではの、妄想が許される激論が展開します。これが楽しいのです。

 変体仮名に関して、本行に「し侍」とある箇所で、傍記の「をき帝」(7丁表2行目、明治33年以来の表記では「をきて」)は、本行を書き映している人とは違う、別の環境の文化で文字を使っていた別人による書き込みではないか、という提案を私からしました。

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 これは、橋本本「若紫」の本行の本文には1字も出てこない変体仮名「帝(Te)」をめぐる、新しい問題提起です。もちろん、傍記本文でも「帝」はこの1例だけしかありません。これは、他の写本での確認が必要です。また、このように1例しか確認できない変体仮名を抽出していくと、おもしろいことが見つかるかもしれません。

 疑問に思う文字が出てきた時、すぐに確認することを根気強く続けることで、一歩ずつ写本の文字を読む感覚が磨かれていくことでしょう。
 これからが楽しみな若者たちが、こうしてコツコツと変体仮名と格闘し、歩んでいることを報告しておきます。
 
 
 
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2018年01月27日

大学コンソーシアム大阪で『伊勢物語』を語る

 我が家の周りは朝から雪です。

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 琵琶湖の方から来るJRの電車は、天候が不順の日は京都駅に10分くらい遅れて来るのはいつものことです。移動が多い私にとって、路線の選択は大事なことになっています。

 今日は大阪駅前第2ビル4階「キャンパスポート大阪」で開催される、38大学間連携事業で単位互換となっている講座を担当する日です。行きの経路の選択肢はJR一つしかありません。電車の遅延という無駄な時間を背負っての、早め早めの移動を心掛けました。

 今日は「センター科目 世界と日本のツーリズム」の第14回の講義です。私は「伊勢物語と大阪 河内高安の里の話 筒井筒の段」と題する授業を行いました。

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 この講座の前期7月には、『源氏物語』の「澪標」巻を扱いました。

「「キャンパスポート大阪」で「源氏物語と大阪」と題する講義をして」(2017年07月01日)

 後期の今日は、『伊勢物語』の「筒井筒」の段を扱います。
 この話は、高校で習っているはずだということと、私が河内高安で中学生時代を送ったので、やりやすい教材です。ただし、関西以外の高校の出身者がこの話を知っているか、というと微妙です。例えば、秋田県出身の妻は、授業では教わらなかったようです。
 そんな事情があるので、丁寧に物語の確認をしました。
 その前に、世界的な視点から観光学に関するテーマが設定されている講座なので、『日本古典文学翻訳事典1・2』の『伊勢物語』に関する項目を確認してから始めました。この『日本古典文学翻訳事典』は2冊共にウェブ上に公開していて、自由にダウンロードしてもらえるようになっています。不特定多数の方々に紹介する時は、この資料提供のことを紹介すればいいので便利です。

「ダウンロード版『日本古典文学翻訳事典 1・2』のお詫びと再公開」(2017年05月25日)

 『日本古典文学翻訳事典』の2冊を回覧し、海外で翻訳されている『伊勢物語』は、どのような言語があるのかを確認しました。
 また、『伊勢物語』の複製の影印本2種類も回覧しました。これは、古典文学作品を扱う時の、私の流儀です。活字で作品を読むことになるにしても、元々は写本であったことの確認は大事なことの一つにしているのです。
 この講座の受講生は、日本文学が専門ではない大学生がほとんどです。古文は参考程度に示すことに留めて、俵万智の『恋する『伊勢物語』』を参照しながら進めました。一人の男と二人の女の恋物語を、今みなさんはどう読みますか? ということです。物語の舞台は、信貴生駒連山を挟んだ大和と河内です。観光学の視点からは、「筒井筒」は限定された地域における恋物語であり、和歌のやり取りを楽しみましょう、ということです。

 受講生のみなさんは、この講座に文学ネタを期待して参加しておられるのではありません。そのために、平安時代と現代という時間を隔てた異文化理解と、日本と海外という地域を異にする文化圏のありようと理解の違いもお話しました。

 真剣に聞いていただけたようなので、こちらの意図することは伝わったと思います。
 90分という短い時間で、しかも一回きりという読み(聴き)切りの講座なので、何かと制約があります。お話できなかったことは、興味がわけばもっと深められるように10頁の資料を配布して対処しました。

 受講生のみなさんは、この「筒井筒」の話をどのように理解されたのでしょうか。それを聞くゆとりのないままに終わったことが残念です。来年度は、反応を確認できるような講座の構成にしたいと思います。
 
 
 
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2017年11月30日

熊取ゆうゆう大学:「若紫」を読む(その8)「盤」という文字

 今日も大学の図書館の一角で、学部1年生を担当者として、橋本本「若紫」の写本を変体仮名に忠実な読みをしながら勉強しました。
 この勉強会は、社会人の方と学生とがテーブルを囲み、一緒に変体仮名を読む集まりです。あくまでも、自主的に開催している課外学習です。今日の参加者は7名でした。

 ちょうど、付箋跡がある所が出て来たので、私がこの「若紫」を実見した時のことを話しました。この付箋跡は、書写した写本の本文を、跡で修正や追記するための目印だと思われます。もっとも、書写した人とは違う、別の人の仕業かもしれません。あるいは、後の人が他本と校合しながら、補訂箇所に付箋を貼ったのかもしれません。
 いずれにしても、後でまとめて手を入れる作業をするため、その行頭に目印として付箋を貼り付けた箇所であり、剥がした跡なのです。
 原本の紙面を、懐中電灯の光を斜めに当てて仔細に見ると、付箋の痕跡がはっきりと確認できます。このことは、昨秋、日比谷図書文化館の講座を受講しておられた皆さんと、原本を閲覧した折に確認したことでもあります。テキストとして使っている『国文学研究資料館蔵 橋本本『源氏物語』「若紫」』(伊藤鉄也・淺川槙子編、新典社、2016.10)では、こうした痕跡も忠実に再現できるように注記しています。

 橋本本「若紫」を読み進めていると、「盤」を字母とする文字は濁る音に使われていることが多いのではないか、ということが想定できるようになってきました。このことに、参加者は大いに興味を示しました。ささやかなことながらも、この集まりとしては一つの発見なのです。
 今日見た本文では、次の「【見】ゆれ盤」という文字列がその例の一つです。

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 手元にあるデータベースでこの「盤」が出てくる箇所を確認すると、この文字の使われ方の傾向がわかるはずです。来週にでも、テキストを作成した時の基礎資料が手元のにあるので、そのデータベースを使って、学生たちに調査してもらおうと思っています。疑問点や仮説が生まれたら、すぐに調べ、暫定的であっても何らかの結論を得ておく、という訓練をしてもらうつもりです。この勉強会に集まっている1年生は、まだ研究の意義も手法もわからない状態にいます。そうであるからこそ、こうした疑問を抱いたその時が、解決するための方策を模索する格好のタイミングなのです。そうした態度を、試行錯誤の中で身に付けてくれたら、という期待を込めて調査してもらおうと思います。

 もし、すでにこのことを記した書籍や論文などをご存知の方がいらっしゃいましたら、ご教示いただけると幸いです。
 
 
 
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2017年11月02日

熊取ゆうゆう大学︰「若紫」を読む(その6)

 明日から、大阪観光大学では大学祭「第12回 明光祭」が始まります。学内は、その準備のために喧騒状態にあります。この場を借りて宣伝を兼ね、大学祭のパンフレットをアップします。興味のある方は、ダウンロードしてご覧ください。

大学祭パンフレット.pdf

 そのような中で、図書館の一角を借りて、学外の方や学生さんと共に、『源氏物語』「若紫」の写本を読みました。
 今日は、前回の復習をブログの報告記事を見ながら行いました。「新」や「登」などの変体仮名は、この2週間ですっかり忘却の彼方のようでした。根気強く繰り返し変体仮名を見て、目慣らしをする努力は怠らないことです。常に意識して、文字を見る習慣を身につけてほしいと思っています。

 さて、今日集まったのは、昨日、広島大学へ行った学生が中心だったので、タチアナ先生のお仕事の凄さなどが話題となりました。いわば、日本文学を広く見渡しての話に終始しました。

 たまたま話がコンピュータのことに及んだ時のことです。参加なさっている社会人の方が、かつて私がこの大学の前身である大阪明浄女子短大で開催した、パソコンを使おう、という講座に参加なさっていたのだそうです。
 そうなんです。今から20数年前に、この大学では、全国でも最先端のコンピュータ教育を展開していたのです。しかも、アップルのマッキントッシュ50台をネットワークでつなげて。
 その最先端の技術を駆使した教育を、私は推進していました。社会人を対象にした公開講座も実施し、毎年40名もの方々が、コンピュータなるものを触ってみようと、お出でになっていたのです。マスコミや教育関係者の話題にもなっていました。
 また私は、マルチメディア部や、ワールドワイドリサーチ部を作り、学生たちとホームページを作ったりして活動を展開していました。

 私が東京に異動してからは、新しい情報処理を導入した教育は、次第に他大学にマネをされ、特色のないものになったようです。
 その、一番華やかな頃に足を運んでくださっていた方が、今は古写本を読む講座にお出でになっているのです。驚きとご縁の深さに、感慨深く思い出話をしてしまいました。
 このことは、またいつか、当時の資料がみつかれば書きます。

 際限もなく話題が発展したので、今日のところは前回の復習だけで、それ以上には写本を読むことはできませんでした。
 ちょうど、テーブルに映像を投影するプロジェクタがあったので、手元のiPhone の画像を映写し、みんなで覗き込みながら、まさにフリートーキングの講座となりました。

 次回は、2週間後の11月16日(木)午後4時半から、いつものように図書館の入口右横の特設コーナーで、『源氏物語』の写本をテキストにして変体仮名を読んでいます。参加は自由です。立ち寄ってみてください。
 
 
 
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2017年10月19日

熊取ゆうゆう大学︰「若紫」を読む(その5)

 今日も、熊取ゆうゆう大学の講座では、8人で橋本本「若紫」の写本を読みました。
 テキストは、『国文学研究資料館蔵 橋本本『源氏物語』「若紫」』(伊藤鉄也・淺川槙子編、新典社、2016.10)です。
 今回は、変体仮名に慣れた学生さんに読み進めてもらい、私がその合間合間に話をつなげました。
 前回は巻頭部の最初の一行だけで終わっていたので、今日は少しペースを上げ、第一丁の裏まで進みました。
 しばらく間が開くと忘れがちな変体仮名は、以下の通りでした。
「堂」「新」「累」「多」「気」「万」「春」「登」「古」「者」

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 また、「を」「遣」「世」のくずし字の字形が紛らわしいことも、要注意です。

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 さらには、踊り字の「ゝ」や「/\」がなかなか識別できないことに対して、ぼやきながらの勉強会です。
 なお、「登」の説明で、箸袋に書かれている「御手茂登」(おてもと)や、「者」の説明で「楚者”」(そば)の例をあげても、若者たちにはまったく通じません。普通の平仮名で書かれたものしか見たことがない、とのことです。
 学校の周辺で、変体仮名を使った言葉の表記を、これから探してみることにします。そうでないと、信じてもらえないのです。次回は、この実例報告からとなります。
 社会人のお二人は、関西の学生特有のツッコミで私を困らせる、その軽妙さとおもしろさに、終始笑い転げておられました。
 次回は、11月2日(木)午後4時半から6時まで、大阪観光大学図書館で気ままに読み進んでいきます。
 以前7月にお知らせした日時と異なりますので、参加希望の方はお気をつけください。
 
 
 
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2017年10月05日

熊取ゆうゆう大学︰「若紫」を読む(その4)

今日の熊取ゆうゆう大学の講座は、11人で橋本本「若紫」の写本を読みました。今年度の4回目です。大阪観光大学の図書館の一角を借り、午後4時半から6時まで、じっくりと変体仮名で書かれた文字を追いかけました。
社会人の方お2人と、大阪観光大学の1回生8人が参加しての、自由に取り組んでいる課外の勉強会です。今日は、3人の留学生が参加しました。マレーシア、中国、韓国と、なかなか得難い若い仲間です。
新しい仲間が増えたこともあり、自己紹介や鎌倉時代に書写された『源氏物語』の話など、これまでのことを繰り返し振り返りながら進みました。
中国から参加してもらうと、変体仮名の読み方で中国語の発音が参考になるので大助かりです。今日も、「王」「堂」「徒」の読みを説明するときに、中国語で発音してもらうことでみんなが納得です。さらには、「蝶」「今日」「母」「父」などの発音へと発展し、興味深い話題へと際限もなく広がりました。
結局は、今日も一行しか進めませんでした。
とにかく初心者の集まりなので、何を急ぐこともなく、牛の歩みで進めています。
学外の方を含めて、参加は自由です。こうした取り組みに興味のある方は、大学に足を運んでみてください。



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2017年07月07日

生涯学習講座「『源氏物語』の古写本を読む」のお誘い

 大阪観光大学の図書館の一角を借りて、『源氏物語』の古写本を読み始めました。

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 これは、「熊取ゆうゆう大学」の中で大阪観光大学が展開する[キャリアアップ講座]の一つです。熊取町の生涯学習推進課が広報し、申込窓口は大阪観光大学キャリアセンターとなっています。
 ただし、すでに締め切られているので、参加を希望される方は直接、このブログのコメント欄を利用していただくか、大阪観光大学の庶務課に連絡をしていただければ大丈夫です。

 募集にあたっては、以下の内容を広報誌に寄せました。

[講座名]『源氏物語』の古写本を読む


[講師]伊藤鉄也
[日時](原則)各月 第1・3水曜日、午後3時半〜5時
[登録料]2,000円
[教材]『国文学研究資料館蔵 橋本本『源氏物語』「若紫」』(新典社、2016年)
[講座のポイント]
 初心者向けの勉強会です。『源氏物語』の古写本を読む技術の習得と、『源氏物語』の異文の世界を楽しみます。活字による現代の読書体験との違いを実感してください。今回使用するは、講師が編集した教科書です。


 今週5日(水)は、第2回目でした。午後3時半から1時間、橋本本「若紫」を、前回の復習として読みました。鎌倉時代に書き写された古写本を、変体仮名の文字に注意しながら読み進めています。一文字ずつ丁寧に、平仮名の元となった漢字を確認しながら、ゆっくりと読んでいきました。
 次回以降は、次のようなスケジュールとなっています。
 8月2日だけが開始時間が異なります。ご注意ください。

 7月19日(水) 午後3時半から5時まで
 8月 2日(水) 午後1半から3時まで
 9月27日(水) 午後3時半から5時まで
10月11日(水) 午後3時半から5時まで
10月25日(水) 午後3時半から5時まで
11月 8日(水) 午後3時半から5時まで
11月22日(水) 午後3時半から5時まで
12月 6日(水) 午後3時半から5時まで
12月20日(水) 午後3時半から5時まで


 初心者を対象とした社会人講座なので、どなたでも自由に参加できます。人数は特に制限していません。今からでも大丈夫です。
 仮名文字で書かれた『源氏物語』の写本を読んでみたい方は、お気軽にお越しください。
 大阪観光大学までの経路は、以下の大学のホームページで確認してください。

http://www.tourism.ac.jp/concept/access.html
 
 
 

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2017年07月01日

「キャンパスポート大阪」で「源氏物語と大阪」と題する講義をして

 今日から、八坂神社に近い四条河原町は、祇園祭一色になりました。
 通りでは、コンチコチンの音色が降り注いでいます。
 バス停は、ミストシャワーで涼しそうです。

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 今日は、大阪駅前第2ビル4階にある「キャンパスポート大阪」で、「『源氏物語』と大阪」と題する講義をして来ました。
 これは、NPO法人「大学コンソーシアム大阪」が主催する「大学間連携事業」の一つで、その中の「単位互換事業」として実施されているものです。

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 パンフレットの文言を引きます。
大阪の大学の
」が集積する
価値創造拠点


 これに参加している大学は、以下の42大学です。

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 簡単に言うと、他大学の科目を履修した学生に、単位を認定する制度です。この講座を受講して試験に合格すると、自分の大学で修得した単位として認められるのです。
 今日、私が受け持った講座は、大阪観光大学が担当する地域学を中心としたセンター科目「大阪観光学」の中の1講座です。

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 今回の講座の受講生は25名で、大学別に見ると次のようになっています。
大阪市立大学
大阪経済大学
近畿大学
相愛大学
帝塚山学院大学
梅花女子大学


 今日お話したことは、『源氏物語』「澪標」巻の中に語られている、光源氏と明石の君が住吉神社へ参詣するくだりです。大阪に関係する観光地として、住吉にしました。
 最初に、先月下旬に新聞に報じられていた「住吉大社の神輿 関空を行く」という記事を提示して、その意味を考えることにしました。
 以下、『新編全集 源氏物語「澪標」』(小学館)に「その秋、住吉に詣でたまふ。」とある部分より7頁分を見ながら、お話と住吉及び大阪の地のことを確認していきました。
 また、このくだりの背景を知るのに最適な『国文学解釈と鑑賞別冊 源氏物語の鑑賞と基礎知識 No.24 澪標』(日向一雅編、至文堂、平成14年)の中から、「源氏ゆかりの地を訪ねて 住吉明神の霊験」(浅尾広良)を紹介しました。

 配布した資料はA4で32枚分です。
 理工系の学部で勉強する方が半数以上で、文学部に所属している学生さんはおられません。しかも、1時間半という短い持ち時間で1回きりの担当です。興味が湧いた時に確認できるように、と思って、少し詳しめの資料を渡しました。

 いろいろな分野の方に、観光という視点から『源氏物語』を逆照射してもらえたら、という思いでお話をしてきたところです。

 昨日は研究会があったため夜遅くに帰り、今日は午前中の講義だったということもあり、少し疲れました。
 久しぶりに、今日は早めに休むことにします。
 
 
 

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2017年02月05日

京都府立京都学・歴彩館で開催された陽明文庫の源氏講座

 昨年末に一部がオープンした京都府立京都学・歴彩館の大ホールで、オープニング事業として「陽明文庫講座」が開催されました。


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 掲げられたテーマは「陽明文庫所蔵『源氏物語』をめぐって」です。
 講演は次の2題でした。


「近衛家の『源氏物語』諸本について」
  名和修(公益財団法人陽明文庫常任理事・文庫長)

「陽明文庫本重要文化財『源氏物語』の読みの楽しみ」
  伊井春樹(大阪大学名誉教授・阪急文化財団理事・館長)


 名和先生は、陽明文庫蔵『源氏物語』10種類を、スライドを使って丁寧に解説してくださいました。
 配布された「近衛家の『源氏物語』諸本について」という資料に掲載されていたリストを、記録として引きます。


《陽明文庫に現存する写本》

@重要文化財・陽明文庫本

 五十四帖・筆者目録ほか
 鎌倉中期写の三十三帖を基幹に、鎌倉後期写本、さらに近世前期補写本を加えた五十四帖からなる。列帖装。縦一五・二〜一六・五糎、横一四・八〜一五・九糎。一面八〜一三行書。表紙中央に巻名を打付書。付属の筆者目録は冷泉為綱(一六六四〜一七二二)の筆跡鑑定書。

A後柏原院他寄合書本

 五十二帖(早蕨・夢浮橋欠)・筆者目録一通
 室町中期写。列帖装。茶褐色表紙。縦一七・○糎、横一七・五糎。表紙中央に打付書外題「きりつほ(巻名)」。一面一〇行書。扉紙右上に各巻筆者の札を押す。花宴巻末に「件本以京極黄門 定家卿 自筆校合畢云々」とある。昭和二十一年九月に二帖欠巻が発見された。

B筆者不明寄合書本

 〈近・82・1〉五十四帖
 室町中期写。袋綴冊子本。浅葱色表紙。表紙中央に白色題簽「きりつほ(巻名)一」(巻序を示す漢数字は後筆)。外題題簽は三条西実隆(一四五五〜一五三七)筆。縦二一・五糎、横一九・○糎。一面九行書。一部の巻末に花押がある。行間の書き入れの一部は、近衛信尹・近衛信尋筆。

C近衛信尹他寄合書本

 五十四帖・筆者目録一通
 慶長元年(一五九六)から同十三年(一六〇八)にかけての写。列帖装。胡粉塗白鼠色雲母刷り波千鳥文表紙。縦二三・七糎、横一七・六糎。表紙中央に白題簽を押し、巻名を墨書。外題は八条宮智仁親王(一五七九〜一六二九)。一面一〇行書。筆者目録の題と巻名は近衛信尹筆。

D近衛尚嗣筆本

 〈近・97・1〉三十三帖(帚木〜若菜上)
 近世前期写。列帖装を装訂する前の仮綴。縦一七・七糎、横一九・六糎。各巻を楮紙で包み、それぞれの書写の開始と終了の年月日を書く。包紙上書と本文は近衛尚嗣筆。

E近衛基凞筆本

 五十四帖・付属文書一帖
 近世前期写。列帖装。縦一八・○糎、横一八・○糎。白茶厚手斐紙に金銀泥で草花等描の表紙。表紙中央に金砂子蒔紋題簽を押し、巻名を墨書。外題、本文は近衛基凞筆。手習巻末の識語から、後西院御本を院近臣の平松時量(一六二七〜一七〇四)が写した本を近衛基凞が転写したとわかる。後西院御本の親本は、三条西家証本(日本大学蔵、岩波古典大系の底本)の転写である後陽成天皇本(宮内庁書陵部蔵)。「源氏物語書写校合日数目録」一冊が付属する。

F伝鷲尾隆量筆本

 五十四帖
 近世前期写。列帖装。縹色表紙。縦二五・○糎、横一八・○糎。表紙中央に金泥紋題簽を押し、巻名を墨書。一面一〇行書。鷲尾隆量(一六〇六〜一六六二)筆とする天保七年(一八三六)初春の古筆了伴極めがある。

G伝宗昏筆本

 五十四帖・系図一帖
 近世前期写。列帖装。薄縹色表紙。縦二三・七糎、横一七・五糎。一面一〇行書。表紙中央に金泥描紋題簽を押し、巻名を墨書。南都連歌師宮村宗昏筆と伝えるが、寄合書。系図巻末に「寛永拾六年(一六三九)己卯 林鐘(六月)仲旬 稲墻休也書之」とある。

H法橋常知筆本

 五十四帖
 近世前期写。列帖装。縦一五・六糎、横一六・三糎。色変わりの無地表紙。表紙中央に淡青色地金泥縞文様題簽を押し、巻名を墨書。一面一〇行書。夢浮橋巻末に「寛文十三年(一六七三)丑三月日 八拾五歳筆法橋常知」と書く。

I伝大炊御門経孝筆本

 五十四帖・系図一帖
 近世前期写。列帖装。縦二二・一糎、横一七・三糎。緑色地網目花菱文鍛子裂表紙。表紙中央に金銀砂子蒔題簽を押し、巻名を墨書。一面一〇行書。大炊御門経孝(一六一三〜一六八二)筆とする天明七年(一七八七)初秋の古筆了意の極めがある。

※このほか、室町中期頃書写の零本(花宴・紅葉賀・松風・夕霧・御法)、慶長年間刊古活字版(五十七冊)、寛永元年(一六三四)刊古活字版(五十四冊)がある。


 古典籍に対する慈しみの思いが溢れた、わかりやすいお話でした。

 休憩を挟んでの伊井先生のお話は、『源氏物語』の本文についての説明の後、大島本と陽明文庫本の本文を引いて読み比べることで、異本・異文を読む楽しみを展開してくださいました。
 陽明文庫本の本文は、登場人物に寄り添って語っており、大島本は客観的な語り口になっている傾向がある、というご指摘です。また、陽明文庫本は詠嘆的な表現が見られ、大島本は情緒的なものを切り捨てているのではないか、ともおっしゃいました。
 いつもの伊井語りが会場を包み込んでいました。

 本日は400人もの人が会場を埋める、大盛会でした。

 陽明文庫の協力を得て、東京大学史料編纂所と京都府との提携により、京都府立京都学・歴彩館で陽明文庫所蔵近衛家伝来資料のデジタルデータの閲覧が今春より順次公開されるそうです。楽しみが増えました。

 空き時間に、名和先生と伊井先生に、今後の『源氏物語』に関する取り組みについてお話をすることができました。詳細は、またあらためてご説明するつもりです。

 閉会後、NPO法人〈源氏物語電子資料館〉で理事をしておられる石田弥寿子さんと、会場でおめにかかった女房語りの山下智子さんを、会場から歩いて8分の我が家にお招きしました。
 私がお気に入りの豆を挽いて淹れたコーヒーと京菓子で、いろいろな楽しいお話をしました。時の経つのも忘れて、なんと2時間も話し込んでしまいました。
 山下さんは、京ことばで『源氏物語』を読んでおられます。来月3月12日(日)の午後2時から、粟田口にある国際交流会館和風別館で「花宴」を語られます。
 今回も私は参加できません。よろしかったら予定に入れてみてください。

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「京ことば 源氏物語 花宴」

 NPO活動のことなどを含めて、今後とも山下さんとは可能であればご一緒にイベント活動をしたいと思っています。実現しましたら、またお知らせします。
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2017年01月21日

江戸漫歩(151)「表記研究会」で清泉女子大学へ行く

 清泉女子大学で開催された「表記研究会」に行ってきました。
 最寄り駅である五反田駅前には、今も郵便ポストが2つ並んでいました。


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 このポストのことは、「江戸漫歩(4)怪しい郵便ポスト」(2008年01月19日)に書きました。この時のポストは、もっと寄り添っていました。向かって左側のポストが、さらに左に引き離されたようです。

 清泉女子大学は、閑静な住宅地の中にあります。


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 この近くには来たことがあります。しかし、キャンパスに入るのは初めてです。

 ここで教員をしている、大阪大学で一緒に勉強した研究仲間の藤井由紀子さんが、あらかじめ守衛さんに連絡してもらっていたので、迷わずに行けました。


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 藤井さんに学内を案内してもらいました。100年の重みを感じる、素晴らしい環境です。映画やテレビの撮影でも使われるそうです。

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 研究会が始まる前に、藤井さんにお願いして、この研究会の司会進行役である今野真二先生を紹介してもらいました。今野先生の本はほとんど読んでいたので、私にとっては旧知の研究者です。ただし、初対面です。

 最初から質問をしました。明治33年にひらがなを決めた事情を明らかにしてほしいと。
 しかし、当時の資料がないので、そのことはほとんどわからない、とのことでした。
 これは、当時の資料を丹念に調べるしかありません。

 そうこうするうちに、中部大学の蜂矢真郷先生がいらっしゃいました。
 日比谷図書文化館で『源氏物語』を読む講座を受講なさっている方が2人お出ででした。

 研究会は、3人の発表で進みました。一人30分の発表です。
 配布された資料から、発表を聞いて確認できたことを抜き出しておきます。
 
(1)「かたちからみた仮名の自立」
     愛媛大学  佐藤 栄作氏


仮名(真仮名@、草体仮名、省画仮名)が新たな文宇体系であると確認するためには、真名に見られない「かたちに関わるふるまい」が観察されるか否かがポイントになる。


 なお、ひらがなの「ま」は用例からは、下の線が長いとのことでした。
 
(2)「仮名の資格」
     関西大学  乾 善彦氏


漢宇の「形(ケイ)」を残す限り、意味への抽象性はみとめられても、完全に意味から脱却することはできない。その点で、万葉集仮名書歌巻の仮名は、「仮名」に近い性格を持ちながらも、仮名の資格にかける。逆に文書中の仮名は独立して日本語をあらわさないかぎりにおいて、仮名の資格にかけるが、ひらがなに連続するものと考えられる。漢字の「形(ケイ)」からの脱却が、「仮名」への第一歩と考えるが、基層の仮名と実用の仮名との関係を考えることが求められているのだろうか。

 
(3)「平安期の仮名資料からみた仮名の成立」
     山梨大学  長谷川千秋氏


仮名と漢字は、判断・評価などの微妙なニュアンスを伝達する箇所を仮名が請け負い、手続きや事態の経過など叙述的な面を漢字が請け負い、伝達内容によって漢字列と仮名列の切り替えが起きているように見受けられる。仮名は、表音的な機能をもつことから、
 
 
このことから、土左日記で漢詩を漢字で書かないということは、文学的行為としての選択であり、日用的な書き様とは切り離して考えるべきところであろうと思われる。こうした漢字列を排除する表記態度の延長に十一世紀の和歌表記が位置づけられていくと推測する。

 
 その後の「全体討論」であるシンポジウム「仮名の成立」については、あらためて別に記します。
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2016年10月12日

連続講座(その7)「くずし字で読む『百人一首』」

 国文学研究資料館主催の連続講座「くずし字で読む『百人一首』」がありました。
 本年度第7回目は、私が担当しました。
 各回毎に研究部の教員が一人ずつ代わる代わる登壇する、まさに駅伝の襷リレーのような公開イベントです。受講者のみなさまは、毎回違う味が楽しめます。その意味からも、おもしろい企画だといえます。

 日比谷図書文化館で『源氏物語』の写本を読んでいる要領で臨みました。私は、割り振られた『百人一首』の和歌4首(63〜66)を、字母を確認しながら読み進めました。くずし字を読むことが主旨であり、歌の意味や作者についてはまったく触れず、テキストとなっている版本の文字にだけを注目していきます。

 全回使用するテキストは、国文学研究資料館が所蔵する江戸時代中期の版本『錦百人一首あつま織』です。これは、勝川春草の手になる極彩色の歌仙絵を添えた版本で、安永4年(1775)に刊行されたものです。

 ただし、版本の印刷体の文字だけではおもしろくないと思い、複製版の『陽明文庫旧蔵 百人一首』(有吉保、おうふう、昭和五十七年十二月)もテキストに加え、独特の書体のくずし字も同時に読みました。
 休憩時間には、持参した複製版の陽明文庫のカルタを、受講者のみなさまに触っていただきました。

 2種類の字体が異なる『百人一首』を、4首だけとはいえ仮名の字母にこだわって読んだので、多くの方が興味を持って参加してくださったと思います。
 みなさまにはアンケートを書いていただいたので、後日その結果を見るのが、怖さ半分の楽しみです。

 こうして、多くの方々がくずし字に興味を持ってくださることはいいことです。しかも、男性が予想外に多かったことで、私のこれまでの思いが嬉しい誤算となりました。

 おまけの資料として、福沢諭吉の『学問のすゝめ』(明治4年)と、谷崎潤一郎の『春琴抄』(昭和8年)も、その冒頭部分を変体仮名に注意して読みました。これも、受講されていたみなさまにとって、意外な体験となったようです。

 さらには、宮川保子さんが書いてくださった、視覚障害者のための触読用の『百人一首』の立体コピーをお一人一枚ずつ配り、目を瞑って指だけで読む体験もしていただきました。これも、意外な体験となったことでしょう。

 短い時間ながらも、一緒に楽しくくずし字を読むことができました。
 私にとって最後の公開講座でもあり、十分に手応えがありほっとしています。

 参加なさったみなさま、長時間お疲れさまでした。
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2016年05月18日

古書販売目録に関する講演会のお知らせ

 千代田区立千代田図書館で、古書販売目録に関する講演会が開催されます。

 いつもお世話になっている、千代田図書館で企画等を担当なさっている河合さんの広報のお手伝いを、ここで少しだけさせてください。

 この「古書販売目録コレクション」については、私も『源氏物語』に関する記事を調査して収集するという作業を進めています。しかし、何かと諸事に手と時間を取られて、なかなか調査に行けないのです。

 一人でも多くの方に、このような資料が眠っていることを知っていただきたいと思っています。興味と関心を持って、目録を見てみようと思っていただけたら幸いです。

 私に連絡をいただければ、最初のうちはご一緒に調査のお世話をいたします。連絡には、このブログのコメント欄を使ってください。

 河合さんからいただいた情報を、以下に引用します。


 このたび、八木書店さんと連携して古書目録に関する講演会を開催することになりましたので、とりあえず概要をお知らせします。

 文学、書誌学、歴史等をテーマとする研究者の皆様、そして、大学図書館・研究所図書室の職員の皆様向けの講演会です。

 事前申込制ですが、受付方法などは調整中です。

 もしご興味がございましたら、ご予定いただけますと幸いです。

1. 開催概要
 日時:2016年7月30日(土)14:00〜16:30
 会場:千代田区役所4階 401&402会議室
 演題:古書目録の学問的な意味
 講師:尾上陽介氏(おのえ・ようすけ、東京大学史料編纂所准教授 古文書・古記録部門)
 定員:60〜70名(事前申込制)
 尾上氏の講演(約60分)終了後に、下記のプログラム設ける
 ミニ講演「反町茂雄と弘文荘」(約20分、八木壮一氏)
 「Web版 弘文荘待買古書目」の活用方法案内(約20分、恋塚嘉氏)
 代表的な古書販売目録の自由閲覧(約20分)

2. 講演内容
 古書目録から具体的にどのような学問的成果が得られるのか、『明月記』(藤原定家の日記、鎌倉時代)の研究事例を紹介。
 さらに、国内外の研究者から高く評価されている「弘文荘待賈古書目」について、その学問的な意義をお話しいただく。

 詳細が決まったら、またご連絡します。
 よろしくお願いいたします。
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2015年10月30日

放送大学で歴博本「鈴虫」を読む(その1)

 快晴の朝、地下鉄丸の内線の茗荷谷駅前にある放送大学東京文京センターで、専門科目の講座を担当して来ました。

 東京文京センターは、筑波大学東京キャンパス文京校舎との合同庁舎の中にあり、放送大学の受講施設の中でも最大規模の学習センターです。
 次の写真は、帰りに写したものです。


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 正門前のオブジェがかわいいので、この小さな公園からの風景が気に入っています。


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 放送大学は、何よりも受講生のみんさんの意欲と熱気が直に伝わって来る、すばらしい教育環境の中にある学習センターです。

 東京の宿舎では、放送大学のチャンネルが3つ受信できるので、折々に講座を視聴しています。
 日本にこうした施設と教育システムがあることは、もっと多くの方々に知っていただきたいと思います。そして、多くの方が大いに利用し、自分の生涯学習のためにも活用なさったらいいと思います。

 私は昨年度に引き続き、「専門科目:人間と文化」の中で「歴博本源氏物語「鈴虫」を読む」という科目を担当しています。

 この日のために私が用意したテキスト『国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」』が、書店に注文したのに今日までに届かなかった、という方が何人かいらっしゃいました。
 どうしましょう、と言われても私には名案が浮かばないところを、事務の方がうまくサポートして対処してくださいました。本当にありがとうございました。
 お陰さまで、みなさまの手にテキストが行き渡り、安心して講義が始められました。

 最初に10種類のプリントを配布して、みなさまの反応を見ながら内容を組み立てて進めました。

今日の内容は、以下の通りです。


【概要(シラバス)】
 千葉県佐倉市にある国立歴史民俗博物館が所蔵する、重要文化財『源氏物語 鈴虫』を読みます。これは、米国ハーバード大学が所蔵する『源氏物語 須磨・蜻蛉』と兄弟本で、鎌倉時代中期に書写された現存最古の写本の一つです。完成度の高い美術品とも言えるものです。
 今回は、その「鈴虫」を全頁カラー印刷した影印本を使い、平仮名の元となった字母を確認しながら読みます。翻字は、本邦初といえる「変体仮名翻字版」です。これについても詳しく説明します。写本を読む技術と異文についても一緒に考えていきます。

【メッセージ】
 鎌倉時代の人が書写した『源氏物語』の写本である、ということを強く意識して読んでみましょう。現代の読書体験との違いを実感してください。また、長大な異文についても、一緒に考えてみましょう。

【テキスト】
『国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」』(伊藤鉄也・阿部江美子・淺川槙子 編著、新典社、2015年10月)

【テーマ】
◎十月三十日(金)
第1回 二千円札紙幣に描かれた『源氏物語』の絵と本文から見える問題
第2回 米国にある『源氏物語』−ハーバード大学本と米国議会図書館本−
第3回 歴博本「鈴虫」を読む(1)−平仮名と変体仮名のおもしろさ−
第4回 歴博本「鈴虫」を読む(2)−「変体仮名翻字版」の翻字とは−


 午前中は、ひらがなに関する理解と問題意識を広げてもらうことに集中しました。
 これまでのひらがなの歴史と、これからネットワーク社会で展開する変体仮名について、予定していた内容を少し変更してお話しました。

 午後は、鈴虫の本文を変体仮名に注視しながら読みました。
 反応がよかったので、予定した分量以上に進むことができました。

 私がこの写本の筆者について、その人間像を勝手に想像していることも話しました。
 例えば、第1丁オモテ丁末に、「おなし」の「し」が次のように書写されています。


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 このように、「し」という文字で隅をぐるりと囲うような例はめずらしいものです。おそらく、この書写にあたっては檜製の糸罫という道具を使って、行がまっすぐになるように書いていると思われます。四角い空間に糸で縦の境界を作り、その間に文字を写し取っていくのです。

 その左下の枠を特に意識したかのような「し」には、この筆者の拘りがあるように思うのです。
 遊び心を持って、書写を楽しんでいるようです。

 ここに例は挙げませんが、縦長の「し」で字間を調節する場面が散見するのも、そうした意識のあらわれだと思います。

 また、第2丁オモテに「可多み尓・みちひき」とあるところで、「み」を連続して書き、しかもその字形を微妙に変えているところがあります。これなどは、筆写者の自信溢れる書写意識の一端を、意図的なものとして垣間見させるところではないでしょうか。


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 「新」「勢」「徒」「葉」など、画数の多い変体仮名も多用しています。

 私は、こうした点に、この書写者が持つ顕示欲の一部を見たような気がしています。
 と、そんなことを話すと、すかさず「親本通りの字母で書いていないのですか?」という質問を受けました。

 ツレであるハーバード大学本の「須磨」と「蜻蛉」は、親本通りの字母で書写する傾向がありました。字母を親本と違えて書いたときなどには、わざわざ字母を訂正してなぞったりしています。
 しかし、この歴博本「鈴虫」では、そのような兆候は最初を見る限りではうかがえません。

 勝手な想像で恐縮ながら、この写本の書写者は、親本どおりというよりも、自分の美意識が勝った書写態度のように見受けられます。あくまでも、想像の域を出ない、勝手な妄想ですみません。

 その他、いろいろな質問もいただきました。とにかく、みなさん熱心です。
 目が見えないお知り合いをお持ちの方からの相談を受けました。
 私にとっても、充実した大変貴重な時間でもありました。

 次回は、次の内容を用意して臨むことにしています。


◎十一月六日(金)
第5回 古写本はどのようにして書写され、製本され、伝えられて来たのか
第6回 歴博本「鈴虫」を読む(3)−長大な異文を持つ「国冬本」−
第7回 歴博本「鈴虫」を読む(4)−書写者の意識と無意識のミスと−
第8回 古写本を読むことと、市販の活字による校訂本文を読むことの違い
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2015年10月01日

歴博本「鈴虫」をカラー版で「変体仮名翻字版」として刊行

 本日、『国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」』という本の最終校正が無事に終わり、印刷の段階に入りました。
 この本の書誌は、次の通りです。


書名:『国立歴史民俗博物館蔵 『源氏物語』 「鈴虫」』
発行日:2015年10月30日
編著者名:伊藤鉄也・阿部江美子・淺川槙子
出版社:新典社
定価:1800円(本体)
頁数:152p(内、カラー48p)
ISBN:978-4-7879-0637-3



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 昨年と一昨年に、鎌倉時代中期に書写された古写本の影印版として、『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」』(新典社、二〇一三年)と『同「蜻蛉」』(同、二〇一四年)を刊行しました。
 今回の歴博本「鈴虫」は、この本のツレと思われる写本であり、国立歴史民俗博物館が所蔵するものです。日本に残った、貴重な古写本なのです。

 特に今回は、この歴博本「鈴虫」巻をカラー版で刊行できました。
 これにより、日本の古典文化を体感できる鎌倉時代の古写本が、影印本として3冊も提供することが叶ったのです。
 所蔵機関と出版社に感謝しています。

 本書では、前著二冊のハーバード本「須磨・蜻蛉」とは異なり、影印の下段に「変体仮名翻字版」で翻字したものを添えました。


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 そして、巻末の資料として、既刊の「須磨」と「蜻蛉」の「変体仮名混合版」も収載しています。

 松尾聡氏が「写本の本文を現行活字に改めて印行して、それを相互比較しつつテキストクリティクをあげつろうなどということは、すでにナンセンスではないか。」(『天理図書館善本叢書 月報38』「新版「校異源氏」夢物語」(三頁、松尾聡、八木書店、一九七八年一月)と指摘されたことを意識しての、本邦初とでも言うべき資料集です。

 過日の記事、「電子テキストを一括置換した痛恨のミス」(2015年09月23日)で告白したように、本来ならば今春にも刊行できたはずなのに、私のミスから今に至ってしまいました

 いろいろな方が待っておられることは知っていました。また、今月末から始まる、放送大学での講座のテキストに指定していたこともあり、急き立てられるようにして本日の下阪に向けて作業をしていました。今月末の中古文学会でも、みなさんに見ていただけます。

 とにかく間に合いました。
 本当に、お待たせしてすみません。
 刊行まで、もうしばらくお待ちください。
posted by genjiito at 20:55| Comment(0) | ■講座学習