朝から怪しい天気で、午後は崩れる予報でした。
いつものように、絵画館前のイチョウ並木を見てから出発です。
少し早めに出たので、久しぶりに銀座散策にしました。銀座の近くに住んでいたので、昨日の渋谷と同じように、勝手知ったる街です。方向音痴の妻も、ここは一人で歩けると自信満々です。もっとも最近はその自信も幾分揺らいでいるのか、安全な場所を選んでるようです。
歩いているうちに、小雨が肌に感じられるようになり、やがて強く降るようになりました。これは大変と、帝国ホテルで雨宿りをさせてもらい、小降りになった頃を見計らって日比谷図書文化館に入りました。
事務の方に、資料を送り届けることで昨日は大変迷惑をかけたことを詫び、今回の顛末を説明しました。私が送った資料を開いてしまったので、ウイルスなどの問題がないかを心配しておられたので、その点では問題がないことも説明しました。
今日の「相愛大学本『源氏物語 宿木』の変体仮名をよむ(3)」の資料は6枚です。
まず、「夏越しの祓」と和菓子「水無月」のことを、京都新聞の記事を使って説明しました。今月末の6月30日が夏越しの祓だからです。その時に合わせて食べるお菓子が「水無月」で、これは平安時代からのもの。今も京都では、スーパーでも売っている馴染みのお菓子なのです。
続いて、街中の変体仮名として6例をあげました。
相愛大学本「宿木(断簡)」の[変体仮名翻字版]については、前回の続きとなる第2丁表8行目から第2丁裏までを確認しました。新しい凡例の説明を詳しくしたので、なかなか進めません。急ぐ旅でもなし、確実に一歩ずつ前に向かって進めています。
相愛大学本「宿木(断簡)」(今回:第2丁表8行目〜第2丁裏まで)
[変体仮名翻字版](翻字:辻 義孝、確認:伊藤鉄也)
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(前略)
おほ世【事】八・つ可八せなんとそ・あ累・[260620_ココカラ]よくも・
川れなく・【書】・【給】へる・ふ三可な・満ろ・あり
とそ・きゝ川【覧】と/(きき川【覧】と)・の【給】も・す古し八・け尓/(2オ)
--------------------------------------
・さもや・あ里川羅ん・【女君】八・ことなきを・
うれしと・【思】・【給】尓・あな可△に/△$ち(あな可ちに)・閑く・の【給】
を・王りなしと・おほして・うちえんして・
井・【給】へる・【御】さ満・よろ川の・川三・ゆるしつ
遍く・を可し・【返事】・【書】/〈判読〉・【給】へ・三しやとて・
本可さ満へ・三むき・【給】へり・あまえて・可ゝさら
むも/(可可さらむも)・あやしけれと・【山里】乃・【御】ありき
の・うらや満しくも・【侍】可な・可しこは・
遣尓・さやう尓て古そ・よくと・【思】・【給】しを・
ことさらに・【又】・い者本乃・【中】・もとめんよ里八/よ〈次頁〉、(2ウ)
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今日のトピックは「書」という文字です。2丁表の9行目と2丁裏の5行目に、次の文字があります。
※2丁表9行目
※2丁裏5行目
これを、最初に私は「事」として翻字しました。しかし、先月、受講生のお一人から指摘を受けて、2丁裏の5行目は「書」とすべきであると訂正しました。さらに今日は、2丁表の9行目に関しても「書」とすべきであるとの意見がお二人から出たこともあり、これも「書」とすることにしました。
そして、このような文字は、ハーバード本「須磨」と「蜻蛉」、そして歴博本「鈴虫」には見られなかったことから、この相愛大学本は鎌倉時代以前の本文の姿をその字形に留めているのではないか、という私見を述べました。平安時代の写本の雰囲気を伝えている、ということです。この視点で、今後はこの相愛大学本を見ていきたいと思います。
1時間の休憩時間に、翻字を進めておられる方からの質問に対応したので、そのまま次の「『百人一首』を二種類の変体仮名で読む(一四)」に移りました。
まず、配布した3枚の資料に掲載した《「訴う」から「歌う」へ 病床の夫に付き添った義姉の記録》を取り上げました。これは、昨日まで秋田にいた間に、義姉から見せてもらった亡夫への想いを思いつくままに、折々に綴った短歌を列記したものです。歌が生まれる機会を考えるのに、非常にいい例だと思われるからです。
大好きなキャラメル喜び三個も食べた
入院前の夫を見つめる
入院するヤセた夫の後姿
笑顔の帰りを願って見送る
十分の面会短かく「あと行くのか
何とした病院だ」などと言うさみしい笑顔
澄んだ秋空真青な空に魅せられて
深く深く呼吸してみる
退院した夫は体調よくならず
「カマッてくれるな」とそっぽを向いた
スイカ、ナシ、ブドウとリンゴ、ヨーグルト
これでは力つかないよ体の中は熱っぽいか
昨日よりやつれた夫
新米炊いたらおいしそうに食べた
どこに行く一人ではさみしくて死ねない
そばに居てくれ急な夫の気弱な言葉
「ありがとう難儀かけます」低い声で言う夫
気にしなくていいのにな
なかなか死ねないもんだなあボソッとつぶやく
夫の本音聞こえないフリをした
ベットの上でじっと前をみている夫
「楽しい本でもやろうか」と言うと「何にも楽しくねえもの」
「アイスを買ってきてあげる」「ケッ」と言って笑った
「楽しいところへ連れて行ってあげよう」
「動けば苦しくてどこにも行きたくない」
「直らないんなら死ぬのもバカくさい」
「んだらまず死ぬのはやめよう」
「ハハハ」と笑って終わった会話
歌人の作品ではありません。湧き上がってくる思いを言葉にしただけです。それだけに、途切れ途切れの言葉の連なりが持つ力を、我々は感得できると思います。これが歌かどうかはわかりません。しかし、訴えるものがストレートに伝わってくる、不思議な雰囲気を醸し出しています。
次に、前回に引き続き、お菓子屋さんの小倉山荘の壁に掛かっていた、大きなパネルの『百人一首』(その2、右半分)を取り上げました。以下、[変体仮名翻字版]であげます。
わ連ても
とそ 春衛耳
【思】ふ あ者ぬ
【瀬】を者や三
【岩】尓せ
可類ゝ
【瀧川】の
77崇徳院
7安部仲麿
あまの
【原】
婦りさけ
【見】連八かす可
なる
【三 いてし
笠】 【月】
可毛
の 【山】耳
【大江山】
いくのゝ【道】能
とを
介れ者
60小式部内
ま多
婦三も
【見】須
あまの者し
多て/多〈*〉
29凡河内躬恒
【心】あ弖尓
おら
者や
於らん
【初霜】の
をき 志ら
きく
まと の
者な 者世類
志 【御祓】
類し
なり そ
介る 【夏】の
か世所よく
【奈】らの
を可八の
【夕暮】盤
98正三位家隆
おし 【人】の
く毛
ある い乃
可那 ち能
38右近
わ春ら類ゝ
【身】を八
【思】八須
ち可ひてし
屋くや
もし本能
【身】毛
こ可れつゝ
97権中納言定家
古ぬ【人】を
ま川
ほの【浦】乃
【夕】なき尓
わ可 世し
ま尓
【身】
な よに
可め 婦る
【花】能【色】盤
【移】り耳
遣りな
い多つらに
9小野小町
【音】丹きく
多可しの/多〈*〉
【浜】能
あ多
な三八
72祐子内親王家紀伊
ぬ連 可遣し
も や
こ所
すれ そて能/能〈判読〉
6中納言家持
【鵲】の
わ多
世類
【橋】尓をく【霜】の
志ろきを
【見】連八
【夜】楚【更】耳
介る
【今】 【一】多ひ
の
【御幸】
ま多なん
【小倉山】三ねの
【紅葉】者
古ゝろ
あら八
26貞信公
おほ遣なく
うきよの
【民】尓
お本ふ【哉】
95前大僧正慈円
す三 わ可
そめ 多川/た〈*〉
の【袖】 【杣】耳
最後に、テキストである『変体仮名でよむ 百人一首』の96番歌・入道前太政大臣から最後の100番歌の順徳院までの確認をしました。終わりに、索引のページを使ってカルタ取りの説明もしました。
なかなか盛りだくさんだったので、大幅に時間が超過しました。みなさま、お疲れさまでした。
終わってからは、3階の閲覧室で読書をしていた妻と合流しました。そして、息子と食事をする場所である外苑前駅の海鮮居酒屋「佐かな」まで、地下鉄霞ケ関駅から赤坂見附駅経由で移動しました。
このお店のロゴはおしゃれです。「佐かな」の「な」の文字が絵文字風で気に入りました。遊び心満載です。
その居酒屋で、お酒をまったく飲まない三人がとりとめもない話に興じる姿は、周りの方には不思議に思われたことでしょう。しかし、こちらは楽しく珍しい海鮮料理に舌鼓を打ちながら、いろいろな話題で談笑していました。
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