今日のJR宇治駅前広場では、「ミモザ・マルシェ」と銘打ったイベントが開催されていました。今日の勉強会の会場であるシェア型書店HONBAKO京都宇治も、ミモザにちなんで「黄色い本」の古本を並べていました。この駅前での宣伝効果があったようで、今日は書店にも来店者が途切れず大盛況です。
さて、2階のフリースペースでの『源氏物語』の変体仮名を読む会は、まずは[誤解されている「変体仮名」]と題して、2022年12月7日に放映されたドラマ『相棒 コイノイタミ』において、「変体仮名」に関して大きな勘違いをした内容だったことを取り上げました。また、その1年後に刊行された『相棒21上』(第8話、朝日文庫、2023年10月)には、その勘違いがそのまま活字化されていたことを、次の引用文を提示してお話しました。
「本書は二〇二二年十月十二日〜二〇二三年三月十五日にテレビ朝日系列で放送された「相棒 シーズン21」の第一話〜第八話の脚本をもとに、全七話に構成して小説化したものです。小説化にあたり、変更がありますことをご了承ください。」(2頁)
「右京と薫は遺体が横たわっていた場所にしゃがみこんだ。カーペットの上に、文字のようなものが書きなぐられている。遺体の下から見つかったもので、いまわの際に被害者が残した血文字だと思われた。
「なるほど。たしかに『えつ』と読めますねえ」
右京の言うとおり、それが文字だとするとひらがなの「え」と「つ」のように見えた。」(362頁)
「問題は被害者が残した血文字の『えつ』。このダイイングメッセージがなにを意味するかです。」(364頁)
「右京はその頃、〈慶明大学〉を訪ね、櫂象仙研究の第一人者である機部昭夫教授と面会していた。
教授室で待っていると、磯部が数冊の書物を持って現れた。
「お待たせしました。こちらが櫂象仙の資料です。こちらが当時の文献、こちらが最新の研究書です」(380頁)
「可能性を次々否定されて薫がしょんぼりするなか、右京は借りてきた資料の中の古文書を手に取った。
しばらくして、右京の眼鏡の奥の目がキラリと輝いた。
「亀山くん、大久保さんの残したダイイングメッセージの意味がわかりました」(384頁)
「おや、衣川さんならば、すぐにピンとくると思ったのですがねえ。『えつ』は平仮名でもカタカナでもない、変体仮名だったんですよ」
「変体仮名?」衣川には予想外の答えだった。
「変体仮名とは現在使われている平仮名とは字体の異なる平仮名で、平安時代から明治時代まで様々な場面で使われてきました。古文書にも、古美術品を納めた箱や書き付けの類にも変体仮名が多く用いられています」(387頁)
「あんたたちには馴染みのあるものなんでしょうがね」薫が尻ポケットから折りたたんだ紙片を取り出した。広げると変体仮名と現代の文字の対応表が現れた。「いやあ、ややこしいことしてくれましたよ。『え』は漢字の『衣』を崩したもの、『つ』は漢字の『川』を崩したもの」
右京がとどめを刺す。
「すなわち『えつ』とは衣川さん、あなたのことだったんですよ」
衣川がその場にくずおれたとき、パトカーのサイレンが聞こえた。」(389頁)
ここではその説明を繰り返す余裕はないので、資料だけを上に引いておきました。要は、「『えつ』は平仮名でもカタカナでもない、変体仮名だったんですよ」(387頁)とあることに尽きます。「えつ」は変体仮名ではなく、現在の五十音図の中にもあるれっきとした平仮名です。変体仮名とは、1900年(明治33年)にその五十音図からはずされた200数十字の仮名文字なのです。ドラマでも、活字化された本でも、共に間違った理解のままの表現となっています。つまり、このドラマでは「変体仮名」は直接は関係ないのに、その詳しい説明があるのです。「字母」ということであれば、平仮名「えつ」の字母は「衣川」なのでいいのです。しかし、そこに「変体仮名」という概念が間違って引き摺り出され、その用語に関する蘊蓄が縷々語られたことが、脚本における失態だったのです。
本日、印刷物として提示した画像も、参考までに引いておきます。説明及び出典は、ここでは省略します。
前回に引き続き丹念に仮名文字を追いかけ、折々に参会者から出て来る質問に答えながら進めました。今日の勉強会は前回同様にお2人の女性から、疑問に思われたことなどに関して次々と質問が出ました。これがあるので、この集いは活気があり楽しい勉強会になっています。さまざまな話題で参会者のみなさんと盛り上がりました。前回は和気靄々と会話を交わしながらも、実質的には3行しか進めませんでした。今日は、少し多くて1頁半ほど進みました。
9丁裏の最終行から次丁にかけての重複書写から、10丁裏5行目までを確認したのです。
以下に示したのが、今日の成果です。
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(1)相愛大学本『源氏物語 橋姫』第九丁裏〜第九丁裏七行目 [変体仮名翻字]
翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、
補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部( 「 )・末尾( 」 )、
底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)
【給】ふ・さ弖・そ乃・【返事】・【有】介ん葉・【何】と可・三世・【給】身世【給】八さりし/身〈次頁〉、身世【給】〈重複〉、(9ウ)
----(後掲写真参照)----------------------------------
まろならまし可八と・うら見・【給】ふ・
さ可し・い登・さま/\尓/(さまさま尓)・【御】らん春へ可んめる・八し
をた尓そ・三世さ世・【給】者ぬ・可乃・王多り葉・ナシ・いとむ
しん尓・う毛れ多累・三尓・しひ古免弖/古〈ママ〉・やむ
へき・介者ひ尓毛・【侍】ら祢八・可なら春・【御】らん世さ
世八や登・【思】・【給】れ登・い可て可八・堂川祢よら世・【給】へき・
可や春幾【程】こそ・春まゝ本しく八/(春まま本しく八)・い登・よくて・
春きぬへ幾・よ尓て・【侍】介れ・可くろえ・於ほ可免
累【哉】・さ累・可多尓・三登ころ・あ里ぬへき・【女】・毛能
を毛はしく・うちしのひ多累・春見可登ん/(10オ)
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やまさとめい多累・くまさなと尓/さ〈ママ〉・をのつ
可ら・【侍】らんめり・古乃・きこゑさ春・王多り葉・い登・
よ川可ぬ・ひし里さま尓て・こち/\しうそ/(こちこちしうそ)・
あらんと・登し古ろ・【思】あ奈川里て・ナシ・三ゝ越多
尓こそ/△&そ、(三三越多尓こそ)・とゝ免/(とと免)・さりつれ・本の可奈りし・【月】
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今日のポイントを、1点だけあげます。
・9丁裏の丁末にある「三世【給】」と、次丁10丁表の冒頭にある「身世【給】」の重複書写文字に関しては、次のように説明しました。
「三」と「身」の違いについては、親本は「三」であったのに、書写道具の糸罫を移動させ、親本と書写用紙もずらす行為をしている内に、手と目と筆が離れたことで集中力が途切れて気が散り、覚えた文字列の中の字母「三」が「身」入れ替わったということを想定してみました。書写時に、自分が日常的に使い慣れた「身」を書いたと思われます。これは、同じことが親本の段階で発生し、それをそのまま書写したと結果だとも言ってもいいでしょう。
ちょうど終了した時に、この勉強会を見学したいという方が4人ほどお越しになりました。活動内容に興味を持っていただけるのは、一人でも多くの方が日本の文化資産である変体仮名が読めるようになることを願って開催するのが主旨の本会にとっては、ありがたいことです。実際に質問に答えながら、変体仮名をよむおもしろさを説明しました。また、参会者の方々も、昔の仮名文字をよむのは楽しいし、おもしろいですよ、と援護射撃をしてくださいました。主宰者として、ホッとしました。
帰りに、すぐ近くのスナックの看板を見て、日本語のおもしろさを再認識しました。
アルファベットと漢字と平仮名で、お店の名前が表記されているのです。海外の方が、パズル感覚で日本の文字を楽しく勉強しておられる背景には、こうした文字の多彩な表現力と組み合わせの妙があるからなのでしょう。私の文字のコレクションに、この例も加えておきます。
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