2026年02月21日

日比谷で「須磨」(33)と『百人一首』(10)を読んだ後は、AIの文学研究参加を体験する

 今日の東京は暖かさが伝わってくる気候でした。
 今朝5時起きで出掛けて来たので、東京には10時頃には着いています。有楽町駅の南にある交通会館の前ではマルシェと銘打って、東北などの名産品を売る小さなお店がたくさん並んでいました。
 交通会館には、アンテナショップとして「秋田ふるさと館」があり、時々妻の故郷のかおりに惹かれて立ち寄っています。

260221_秋田ふるさと館.jpg

 千代田区立日比谷図書文化館の入口には、今日の案内が出ています。

260221_掲示板.jpg


 まず、「ハーバード大学本『源氏物語 須磨』の変体仮名を読む」からです。
 テキストである『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」』(伊藤編著、新典社、2013年)は、残っている6頁半を確認するとこの巻は終わりです。

 先週は、大阪府立中之島図書館で読み進めていた『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「蜻蛉」』(伊藤編著、新典社、2014年)が終わったので、その索引をまずはブログに提示して字母の使い分けを報告しました。
 時期を同じくして、この日比谷図書文化館での「須磨」も、今日で終わりました。来月には、この「須磨」の索引を提示して、変体仮名が語句の中でどのように確認できるかを報告することになりました。

 今日の収穫を一つだけあげると、巻末部分にあるナゾリの文字が判明したことがあります。

260221_63オL3計&里.jpg

 これは、写本の紙面には「那里け里」と書いてある所です。2文字目の「里」の下には「計」と書かれていることが読み取れます。この、まずは「計」の字が書かれ、そこで書写は中断し、その下に書かれた「計」の上から「里」をなぞっているのです。これを、現在作成中の「変体仮名翻字版」で表記すると、「那里け里/計&前里」となります。この「計」が判読できるまでに、15年という長い時間がかかりました。実に気の長いことをやっているのです。

 以下に、本日確認した60丁表〜63丁表(巻末)までの「変体仮名翻字版」をアップします。

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■ハーバード大学蔵『源氏物語 須磨』60丁表〜63丁表 巻末まで

翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、
補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部( 「 )・末尾( 」 )、
底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ)、 翻字不可・不明(△)

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「堂川き/き=可〈左傍記〉、(堂川可)・なき・【雲】井尓・ひとり・祢をそ・
奈く・徒者佐・奈らへし・とも越・こひ川ゝ」
と/(こひ川川」と)・ある・こと・可ゝる/(可可る)・【事】の・於里に毛・可多し
け奈く・奈れ・きこゑさせ・ならひて・いとゝ
毛と/ゝ〈ママ、諸本し〉、(いとと毛と)・くやしく・【思】・【給】へらるゝ/(【給】へらるる)・をり毛・於ほ
くなむとく/後く〈ママ、諸本ナシ〉・志めや可尓毛・あら須・可へり・【給】
ひぬる・奈こり・いと・可那しくて・奈可めくらし・
【給】・[33]【三月】乃・川ひ多ち尓・いてき多る・みのひ・
介ふなん・かく・於ほす・こと・ある・【人】八・みそ
き・し・【給】へきと・奈まさ可しき/(60オ)
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【人】・きこゆれ八・う三乃・徒ら尓も/尓&尓、尓$二、(徒ら二も)・ゆ可しう
て・いて・【給】・いと・越ろそ可尓・せむしやう八可り
越/せ〈左濁点〉、む=【軟障也】、し〈濁点〉、う&う・ひきめくらして・於者須・その・く尓・可よ
ひし希る・【陰陽師】/=オムミヤウシ・めして・者らへ・勢せ
勢/せ〈ママ、諸本さ〉・【給】・こと/\しき/(ことことしき)・【人】可多なと・徒くりて・
ふ祢尓・の勢て・な可すを・み・【給】も・【身】尓・
よそへられ弖・
「しらさり志・う三の者ら尓/±【大】、(【大】う三乃者ら尓)・可れきて/±な、(な可れきて)・
ひと可多尓やは・【物】八・可那しき」とて・井・多
まへる・【御】さ満・さる八れに/い&に、(さる八れい)・いてゝ/(いてて)・いふ・よし/し〈次頁〉、(60ウ)
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奈く・【見】ゆ・う三乃・越毛て□/□〈空白〉・
うら/\と/(うらうらと)・奈き・王多りて・ゆくへ毛・志
らぬ尓・きし・可多・ゆく・さき・於毛本し
徒ゝけられて/(於毛本し徒徒けられて)・
「や於よろ徒・【神】毛・あ者れと・【思】らん・
を可勢累・川三乃・それと・奈けれ八」と・能
【給】ふ・【程】尓・に者可尓・【風】・いみしく・ふきい
てゝ/(ふきいてて)・そら・可きくれぬ・【御】八らへを毛・志八てす・
堂ち佐者き堂り/△&者・ひち可さあ免
と可・ふりて・いと・あ八多ゝし遣れ八/(あ八多多し遣れ八)・三那・可へ里・【給】奈んと/奈〈次頁〉、(61オ)
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する尓・可さ毛・とりあえす・さる・
【心】毛・奈き尓・よろ川・ふきちらして・
【又】奈き・可せなり・奈三・いと・い可免
しく・堂ちきて・【人】/\の/(【人人】の)・あし毛・
そらなり・う三の・於もて八・ふ春満を・ひ
き者り多らん・やう尓・ひ可り・三ちて・
【神】・奈りひら免きて・於ち可ゝ
累/(於ち可可累)・こゝち/(ここち)・して・いと・いみし・
可らふして・堂とりきて・満多・可ゝる/(可可る)・
免八・三す毛・ある可那・【風】なと・ふけけと/けけ〈ママ〉、後け〈次頁〉、(61ウ)
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介しき徒きてこそ・あれ・あさ
ましく・めつら可なりと・まとふ尓
【神】・な越・やま春・奈り三ちて・あ
免乃・あし・あ多る・【所】八・と越里ぬへ
く・八ら免きを川・可くて・よは・ゝて
ぬる尓やと/(はてぬる尓やと)・【心】本そく・【思】まとふ尓・き
み八・のとや可尓・きやう・うちしゆして・
於者須・ひ・くれぬれ八・【神】八・すこし・
奈りし徒まりて・【風】・【猶】・【夜】毛・ふく・
於ほく・堂て徒る・くわんの・しるしなるへし/な〈次頁〉、(62オ)
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いま・し八し・可くあらは・
奈三尓・ひ可れ弖・いりぬへ可り介り・
堂可し本と・いふ・毛乃尓奈ん/乃&乃・登
里毛あえす・【人】・そこな者るとは・
きけと・いと・可ゝ累/(可可累)・【事】八・三き可す
と・いひあへ里・[34]あ可【月】可多尓・うち
や春三て/△&三・【君】毛・いさゝ可/(いささ可)・祢・【給】へれ八・
その・さ満とん・三へぬ・毛の・きて・奈
と可・【宮】より・免す尓・まいり・【給】者ぬとて・
そ免きあ里くと・三ゆる尓・於とろきて/き〈次頁〉、(62ウ)
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佐ら八・う三乃・【中】乃・【龍王】乃・い多
く・毛の免て・する・毛の尓て・三いれ
堂る那里け里と/計&前里、(三いれ堂る那計け里と)・於ほす尓・いとゝ/(いとと)・
毛乃む川可しく・こ乃・す満井・
堂へ可多く・於ほしなりぬ/(63オ)
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 これで、ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」の「変体仮名翻字版」の確認は終了しました。

 最後に、本文の末尾以降の料紙に捺された朱印の説明をしました。

260103_月明+拝土.jpg

■「月明荘」(テキスト143頁)と「拝土蔵書」(150頁)の朱印の説明

「月明荘」
 反町茂雄(1901〜1991)
 昭和期の書誌学者、古書籍商。弘文荘代表取締役、文庫の会会長、東京古典会会長、明治古典会会長を歴任。自身を描いた「一古書肆の思い出」(平凡社、1986-1992) や「定本・天理図書館の善本稀書」などを著した。

「拝土蔵書」
 ドナルド・ハイド(1909年〜1966年)
 アメリカの著名な弁護士であり、世界屈指の稀覯本・写本コレクター。1966年に56歳で逝去。収集したコレクションは現在も研究者に広く活用されている。

 「須磨」の最後となる次回の講座では、今日で終わった「須磨」の語句索引を提示して、変体仮名の使われ方の確認をします。

 1時間の休憩の後、今度は「『百人一首』を2種類の変体仮名で読む」の講座となります。

 最初は、大阪府立中之島図書館で取り上げた資料と同じものを使って、『百人一首』が書かれた茶碗二客と徳利を紹介しました。
 一つは、東寺の初弘法で見かけた全百首が書かれた茶碗と、山部赤人の歌が書かれた茶碗、そして僧正遍昭の歌が書かれた徳利です。もう一つは、ハーバード大学にある『百人一首』です。『百人一首』が、さまざまな分野で意匠の一つとして活用されている例として見てもらいました。

 メインテーマである『変体仮名でよむ 百人一首』は、65番歌の相模の歌からです。和歌の背景を含めてお話をしながら進めたので、76番歌の藤原忠通まで確認しました。

 帰りは、地下鉄銀座線の虎ノ門駅までブラブラと歩きました。途中で、夕陽を浴びる国会議事堂がきれいに見えました。

260222_国会議事堂.jpg


 駅の上にあるカフェで喉を潤してから息子の所へ向かいました。3つ目の駅なので、ものの5分です。便利なところにいるので助かります。

 息子には、研究で使える開発エージェントツールとして10日前に公開されたという、「OpenAI製 : Codex」と「Anthropic製 : Claude Code」を使い、過日公開したハーバード本「蜻蛉」のフルデータを使って、詳細な分析方法を教えてもらいました。その詳細な分析能力には驚きました。語学と統計学を専門とする若手の研究助手が、ゆうに50人はこの研究の助っ人として付いてくれていることを体感しました。しかも、ものの30分もしない内に、発見といえるレベルでの提案をいくつもしてくれます。

 ただし、データを誤解して解析している部分があったので、その修正を指示しました。それは、AI氏がカタカナのデータを対象にしていたことです。AI氏に確認したところ、扱った文字体系であるユニコードの蔭に隠された部分のデータを読み取っての、画面を見ていただけでは見えない所に起因する誤判断でした。表面的には見えない、コンピュータが扱う文字コードの問題がその背景にあることがわかったのです。AI氏に仕事を依頼した時には、その過程をしっかりと見張っていないと、とんでもない結果を含んだ報告をしてくる可能性があります。やはり、専門家としての人の目と直感が必要だ、といういい勉強になりました。

 それにしても、思った通り、従来の文学研究は、こうしたツールを使いこなせば、近日中に予想だにしなかった驚異的な変化を見せることでしょう。
 今私が取り組んでいるのは、文学研究の基礎となる本文、テキストを操作する段階での研究です。活字化された校訂本文だけを読んでの研究は、私の視野には入っていません。これが、読みの問題にも入り込むと、人間は何をしたらいいのか、白紙に立ち返って研究とは何かを考えさせられるはずです。

 おもしろい時代が来ました。勝手に、思いつきで本文を読んでいた文学研究は、これから別次元の世界には入っていくであろうことを実感させられました。
 そのためにも、自分が今読んでいる本文は、どのようなものであるのかを充分に理解していないと、足下を掬われます。
 このAIを活用した手法について行けない人は、研究ではなくて評論文や感想文の世界からいかに脱するかで、立ち往生をすることでしょう。

 新しい研究が始まる予感がすることを、まずは慶事として取り上げて、今日の体験をこうして文字にして記し残しておきたいと思います。




posted by genjiito at 23:57| Comment(0) | ◎情報社会
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