キャンパスプラザ京都(京都市大学のまち交流センター)の玄関ホールには、いつものようにNPO法人〈源氏物語電子資料館〉主催の勉強会の告知がなされています。
今日は、相愛大学本『源氏物語 帚木(断簡)』が先月終わったことを受けて、急遽語彙索引を作成したので、その確認をしました。
最初に扱った、「街中の変体仮名」と「宮川保子さんの仕事場から」のことは、今回は省略します。
さて、語彙索引を作成するために使った基礎データは、これまで本ブログで公開したものに拠っています。
配布した資料は、「変体仮名翻字索引 相愛本「帚木」(断簡)全文 池田本「帚木」 文節単位の対校」と題するものです。今回[変体仮名翻字版]で確認をし終えた相愛大学(春曙文庫)本『源氏物語「帚木」』(断簡)の全文を、文節単位で並べ替えたデータが基本となります。そのデータに、このキャンパスプラザ京都で数年前に取り組んだ、池田本(鎌倉時代、重要文化財、天理大学付属天理図書館蔵)のデータを、文節単位で対比した資料を、私が暫定簡易版として作成しました。
この「帚木」の資料は、異なり文節数が755例あり、「帚木」の全5212文節の内の14%にあたるものが検討対象となります。
なお、元のデータの付加情報はすべて削除しています。また、池田本は日比谷図書文化館の講座に参加しておられたFさんが作成してくださった[変体仮名翻字版]を、初校データとして使用しました。これらは、今後さらに手を加えて、より正確な検討資料としていく予定のものです。
まずは、相愛大学本『源氏物語 帚木(断簡)』がどのような本文を伝える写本であるかを、とりいそぎ文字レベルで傾向を見ました。[重出]とあるのは、同じ用例が別の字母の項目にも出て来ることを示します。
(1)【相愛本 > 池田本】
相愛本がよく使う字母の確認です。
《者》次の3例ともに相愛本だけが「者」を使っています。
池田本には「あ者れ」の表記はなく、「あ八れ」が2例あります。
あ者れけ奈り あ八れ【也】
あ者れ尓 満して [重出]
あ者れの あ八れの
《介》これは、圧倒的に相愛本が多く使う字母です。この項目の末尾に「※」を付して掲出したように、池田本だけが使う例は「※けしき 介しき」だけで、後の3例は両本共に使っています。
ありあ介尓て 【有】あ遣にて [重出]
あ介川る ナシ
あし介れ八 む徒可ら連て
うたてあり介る う堂てあ里遣る [重出2]
於もひ可へ寿なり介り 【思】可へすな里遣り [重出2]
於もひ介り 於もへ里 [重出]
【御】介者いの 【御】あ里さま乃 [重出]
き可せ介ると しら世て遣累と [重出]
介しきなん 【給】なむ
さゝさり介り さゝ佐里遣里 [重出3]
し介く 志遣閑らむ [重出]
堂の毛し介なく 堂のもし気なく
奈介れと な遣れと [重出]
なまわ川ら八し介れと な満わつら八し遣れと
なやまし介尓さへ 奈や満し遣なる [重出2]
者つ可し介れ八 王ひ志遣れ半 [重出]
者川かし介れ八 八徒可し遣に [重出]
へ尓介る」 へ尓ける」
ゆ可しかり介り ナシ
※けしき 介しき
※※あり介ん あ里介ん [重出]
※※な介れと な介れと
※※あり介ん あ里介ん [重出2]
次に、池田本がよく使う字母の確認です。
(2)【相愛本 < 池田本】
池田本では、[満 32例・遣 48例・里 61例]の3つの文字の用例が極端に偏在しています。この3字は池田本の専用文字と言っていいものです。例外としては、「里」の表記において、両本共にあるのが1例で、相愛本のみが2例です。
《満》これは、すべて池田本のみで使われています。
あ者れ尓 満して [重出]
あさましき尓 あさ満しき尓
あさましや あさ満しう
あやしきまて那んと あやしき満てなんなと
あら堂ゝすましき あら多徒満しき
ありさまを あ里さ満を [重出]
うとましき うと満しき
於者す 於者し満須
なまわ川ら八し介れと な満わつら八し遣れと [重出2]
なやまし介尓さへ 奈や満し遣なる [重出2]
多て万つり弖 堂て満徒里て毛 [重出]
堂万へりそと 満い里 [重出]
なとお あ里さ満盤 [重出]
の【給】者せし越 能堂満八さ里し [重出]
まいれり 満いれ里 [重出]
まうけ【給】へ累そかし 堂満ふ奈め里 [重出]
こゝろてこしつきゑり 満う遣て [重出]
【御】可きさま奈れと 【御】可きさ満裳
き江まとへ累 きえ満とへる
な万めき な満めき堂る
八ひまきれて 八飛満き連
ふしことに 満こと尓
多てま川るも 堂て満つる毛
まいるとて 満いるとて
まことに 満ことに
まちいて堂る毛 満ちいて堂るも
まちくらして 満ちくらしゝを
万とろまれ 満とろまれ
まゝ者ゝ能 満ゝ者ゝ乃
みさらましか者 見さら満し可盤
わ可/\新き あさ満しき尓
をさまれる【物】可ら 於さ満れるもの可羅
《遣》これも、池田本のみで使われています。
ありあ介尓て 【有】あ遣にて [重出]
あとや本能なり あ遣本の【也】
うたてあり介る う堂てあ里遣る [重出2]
於もひ可へ寿なり介り 【思】可へすな里遣り [重出2]
き可せ介ると しら世て遣累と [重出]
さゝさり介り さゝ佐里遣里 [重出3]
し介く 志遣閑らむ [重出]
奈介れと な遣れと [重出]
なまわ川ら八し介れと な満わつら八し遣れと [重出2]
なやまし介尓さへ 奈や満し遣なる [重出2]
者つ可し介れ八 王ひ志遣れ半 [重出]
者川かし介れ八 八徒可し遣に [重出]
いみしかりける い三志可里遣る [重出]
うさそひ堂りけるを うちそへ里遣るを [重出]
【見】ゆるなりけり みゆるな里遣り [重出]
わけいり わ遣い里 [重出]
こゝろなれ八 あ里遣は [重出2]
うち川けに うちつ遣尓
うちとけ うちと遣
うちとけ堂る うちと遣堂る
おほ志あ者せられて 於ほしあ者勢ら連遣り
おほしくたしけ類 於本しく多し遣累
於もひ川ゝけ 【思】徒ゝ遣て
およすけ多る 於よす遣堂累
【御】けはひ 【御】遣八飛
かけかねお 可遣かねを
か本 可遣
けしきも 遣しき毛
け尓 遣に
け尓と 遣にと
け者ゐ奈れ八 遣者ひなれ半
け者ゐなれ八 遣者ひなれ半
こゝろてこしつきゑり 満う遣て [重出]
ことも 遣しうは
さま越 遣しきなとの
志ふ 遣に
なけしの な遣し能
なけれ八なと な遣れ半なと
なさけなさお なさ遣那く
奈よたけの なよ多遣能
ひきひろけ多り ひろ遣堂り
ひきみれ八 日き阿遣
【人】け 【人】遣
みえ川る可那 もて徒遣て裳
みゆ いと於し遣れと
むけ尓 む遣尓
【物】を なさ遣/\しく
らうたけ奈れ八 らう堂遣れ半
《里》末尾に掲出した3例以外は、池田本のみが使用しています。
ありさまを あ里さ満を [重出]
あへ可 あ免里
ありく あ里く
あり介ん あ里介ん [重出2]
うたてあり介る う堂てあ里遣る [重出2]
於もひ可へ寿なり介り 【思】可へすな里遣り [重出2]
於もひ介り 於もへ里 [重出]
【御】介者いの 【御】あ里さま乃 [重出]
あり介ん あ里介ん [重出]
ありさまを あ里さ満を [重出]
ありし あ里し
ありしな可らにて あ里しな可ら能
ありて あ里て
ありやと あ里やと
いとこより い徒こよ里
いみしかりける い三志可里遣る [重出]
うさそひ堂りけるを うちそへ里遣るを [重出]
於ほしやる 【思】や里
於もひよりぬ 【思】日よ里ぬ
於もへりし 於もへ里志
於もへるも 【思】い里堂るさ毛
をりて 於里て
於りを 於里を
かゝりて 可ゝ里て
かゝ類 くゆ里可ゝ累
かきりなし 可き里奈志
かけ ひ可里
可へり かへ里
かへりみ可ち尓て 可へ里三可ち尓て
きり弖 き里弖
こゝろなれ八 あ里遣は [重出2]
【心】より 【心】よ里
こと者りなれと こと八里奈れと
ことわりなる尓 こと八里なる
さゝさり介り さゝ佐里遣里 [重出3]
さゝさり介り さゝ佐里遣里 [重出3]
したなり し多な里
し川まりぬる し徒万里ぬる
しむ者可り尓 しむ八可里
そへむ と里そへむ
堂ちより 堂ちよ里
堂ちよりたれ八 さく里より堂る尓そ
多て万つり弖 堂て満徒里て毛 [重出]
堂万へりそと 満い里 [重出]
【給】へり 堂まへ里
【給】へり あ里
なとお あ里さ満盤 [重出]
なり す奈里
のこりなう の古里那く
の【給】者せし越 能堂満八さ里し [重出]
者へり 【侍】な里
ふし い里
ふし堂り ふし堂里
本の可那りし 本の可な里し
まいれり 満いれ里 [重出]
まうけ【給】へ累そかし 堂満ふ奈め里 [重出]
み多りか者しきお 三た里可八しき
【見】ゆるなりけり みゆるな里遣り [重出]
めし多り めし堂里
もて那す もてなし多里
より い里
わけいり わ遣い里 [重出]
わりなく わ里奈き尓
※見しかゝめ里なと みし可か里奈んと
※ち里毛 ちりも
※わ里なう ナシ
なお、【漢字表記の書き分け】は、次の2字において顕著です。
※「事」は13例中、両本共にあるのは1例、池田本のみは12例。
※「思」は24例中、両本共にあるのは0例、池田本のみは23例。
【仮名表記の書き分け】
※「阿」は3例すべて相愛本のみ。
※「江」は6例すべて相愛本のみ。
※「ゑ」は9例中、相愛本のみは8例。
※「お」は27例すべて相愛本のみ。
※「於」は112例中、両本共・相愛本のみ・池田本のみは均等に出現。
※「須」は8例すべて池田本のみ。
こうした傾向は、鎌倉時代の古写本において、書承の経路と書写者の違いが影響していると思われます。今後は、さらに使用されている文字の傾向を分析して、写本の仕分けのモノサシとしたいと思っています。
次は、相愛大学(春曙文庫)本『源氏物語「帚木」』(断簡)の本文が、現在読まれている大島本とあまりにも違いすぎるので、その本文の内容の違いを確認する予定です。
これについては、2種類の校訂本文を作成し、その本文を対比することで、物語世界の違いを見たいと思います。
今回の書写されている文字のことに留まらず、次の本文異同についても先学の研究が少ないので、今は五里霧中の状況に身を置いているつもりで、一歩でも前に進んで行くしかありません。
折々にご教示を、よろしくお願いします。
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