■「内海の輪」
考古学の大学助教授と兄嫁だった女との愛人関係の話です。男の気遣いが、丹念に描かれています。そして、女の新たな夫との関係での分別が、2人のバランスを保っていました。しかし、その女の理性が崩れて男に傾きかかって来た時、男はうろたえます。これは危険なことだと。そして、話はお決まりの、男が女を亡き者にする展開となります。
犯人探しは難渋を極めました。しかし、発掘調査での発見がキーとなり、偶然のことから犯人の目星がつきます。意外にも、タクシーの運転手からでした。有馬温泉の近くの蓬莱峡が印象的です。ここでの展開は、少し強引な幕引きのように思われます。清張らしい、じっくりと詰めていく余裕が、執筆生活であまりの忙しさから時間もなかったかもしれません。
終盤が時々甘くなる、清張の作品の一つと言えそうです。【2】
初出誌:『週刊朝日』1968年2月〜10月
底本︰『松本清張全集 9』(文藝春秋社、1971.12.20)
原題︰「霧笛の町」
※参考資料:『松本清張事典 決定版』(郷原宏、角川学芸出版、平成17年4月)では、本作について次のように言っています。
「緊密な伏線と精妙な心理描写が光る倒叙ミステリーの秀作。」(127頁)
■「死んだ馬」
和風建築が話題として取り上げられます。その社長の妻はバーの叩き上げです。そして、社長の後を乗っ取ろうとして、一人の有能な男を色仕掛けで引き寄せます。
夫は65歳。いろいろな点で衰えが見えたとして、老境という表現がなされています。今との、時代の落差を感じました。
さて、物語は社長が殺され、さらに又別の殺人事件が起きます。犯人の特定に当たっては、一瞬の狼狽が引き金となっています。この、微妙な心理の綾を描き出すのが清張の腕であり、読者がうなづかせられるところです。そして、最後の詰めの的確さに感服しました。【5】
初出誌:『小説宝石』1969年3月
底本︰『松本清張全集 9』(文藝春秋社、1971.12.20)
【□清張復読の最新記事】
- 清張復読(91)「六畳の生涯 」(『黒の..
- 清張復読(90)「書道教授」(『黒の図説..
- 清張復読(89)「鷗外の婢」(『黒の図説..
- 清張復読(88)「分離の時間」(『黒の図..
- 清張復読(87)「速力の告発」(『黒の図..
- 清張復読(85)「弱気の蟲」(『黒の様式..
- 清張復読(84)「二つの声」(『黒の様式..
- 清張復読(83)「微笑の儀式」(『黒の様..
- 清張復読(82)「歯止め」「犯罪広告」(..
- 鳥取の日南町から島根の亀嵩へ
- 清張復読(81)「闇に駆ける猟銃」「肉鍋..
- 清張復読(80)『草の陰刻』
- 清張復読(79)「寝敷き」「断線」(『別..
- 清張復読(78)「形」「陸行水行」(『別..
- 清張復読(77)「事故」「熱い空気」(『..
- 清張復読(76)「不在宴会」「土偶」(「..
- 清張復読(75)「ペルシアの測天儀」「不..
- 清張復読(74)「史疑」「年下の男」「古..
- 清張復読(73)「交通事故死亡1名」「偽..
- 清張復読(72)『砂の器』
