2026年01月31日

清張復読(86)「内海の輪」「死んだ馬」(『黒の様式』より)

■「内海の輪」
 考古学の大学助教授と兄嫁だった女との愛人関係の話です。男の気遣いが、丹念に描かれています。そして、女の新たな夫との関係での分別が、2人のバランスを保っていました。しかし、その女の理性が崩れて男に傾きかかって来た時、男はうろたえます。これは危険なことだと。そして、話はお決まりの、男が女を亡き者にする展開となります。
 犯人探しは難渋を極めました。しかし、発掘調査での発見がキーとなり、偶然のことから犯人の目星がつきます。意外にも、タクシーの運転手からでした。有馬温泉の近くの蓬莱峡が印象的です。ここでの展開は、少し強引な幕引きのように思われます。清張らしい、じっくりと詰めていく余裕が、執筆生活であまりの忙しさから時間もなかったかもしれません。
 終盤が時々甘くなる、清張の作品の一つと言えそうです。【2】


初出誌:『週刊朝日』1968年2月〜10月

底本︰『松本清張全集 9』(文藝春秋社、1971.12.20)

原題︰「霧笛の町」

※参考資料:『松本清張事典 決定版』(郷原宏、角川学芸出版、平成17年4月)では、本作について次のように言っています。

「緊密な伏線と精妙な心理描写が光る倒叙ミステリーの秀作。」(127頁)




■「死んだ馬」
 和風建築が話題として取り上げられます。その社長の妻はバーの叩き上げです。そして、社長の後を乗っ取ろうとして、一人の有能な男を色仕掛けで引き寄せます。
 夫は65歳。いろいろな点で衰えが見えたとして、老境という表現がなされています。今との、時代の落差を感じました。
 さて、物語は社長が殺され、さらに又別の殺人事件が起きます。犯人の特定に当たっては、一瞬の狼狽が引き金となっています。この、微妙な心理の綾を描き出すのが清張の腕であり、読者がうなづかせられるところです。そして、最後の詰めの的確さに感服しました。【5】


初出誌:『小説宝石』1969年3月

底本︰『松本清張全集 9』(文藝春秋社、1971.12.20)





posted by genjiito at 21:12| Comment(0) | □清張復読
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