2026年01月16日

清張復読(85)「弱気の蟲」(『黒の様式』より)

■「弱気の蟲」
 お役人として、日々平々凡々な生活を送る男は、省内での麻雀のお付き合いで他の職員と接するだけでした。そんな彼が、ふとしたことから外での麻雀に嵌ります。そして、借金地獄に。あの手この手で工面しながらも、どうしてもギャンブル依存症から抜けられません。人間の弱さに端を発した、一人の男の転落する様が描かれています。
 役所での麻雀では、仲間から嘲笑を受け、外では借金で首が回らなくなって脅される。弱気の上に、恐怖感が被さるのでした。さらには、この男は私大出のノンキャリアながら、某本省の課長補佐という立場もあります。情けない男の心情が活写されます。
 後半が秀逸です。殺人事件と麻雀仲間の関係から、警察に疑われるのです。やがて、警察によって追い詰められていきます。自分を守るために、最初についた嘘を守り通そうとする男の心の葛藤が、丹念に描かれていきます。人間を描こうとする作者の粘りが伝わってきました。
 最後に、役人を辞めた後、嘘を突き通したことが麻雀仲間を守ったということに縋り、再就職の相談に行くところで終わります。作者の関心は、殺人事件の犯人ではなくて、人間のつながりにあるのです。
 本作は、後半が読ませます。ただし、犯人にされた麻雀仲間の殺人現場での様子を描くところが、いかにも犯人と思われるような描写になっていました。勇足です。誤誘導と言われかねない部分です。
 それはそれで瑕疵として、前半はぐだぐだと状況説明が続いて少し退屈だったものが、後半は心理劇として楽しめました。【4】


初出誌:『週刊朝日』1967年11月〜68年2月

原題︰「弱気の虫」

※参考資料:『松本清張事典 決定版』(郷原宏、角川学芸出版、平成17年4月)では、本作について次のように言っています。
「弱気な男が麻雀の魅力に取り憑かれて破滅していく過程をリアルに描いたギャンブル小説の力篇。」(174頁)




posted by genjiito at 22:03| Comment(0) | □清張復読
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