今日も、最初の90分は「変体仮名で書かれた『百人一首』を読む」〔入門講座〕です。
配布したプリントは、次の2枚でした。
2枚目の「包装紙に描かれた『百人一首』」は、現行の五十音図の平仮名以外の文字、つまり変体仮名をサッと見分ける練習用として配布したものです。みなさん、区別は手早くできていました。これは易しかったようです。
今日の2種類の『百人一首』の確認は、52番歌の藤原道信朝臣から58番歌の大弐三位までを終えました。
判別しにくい文字として、「支(き)」「王(わ)」「弖(て)」「帝(て)」「希(け)」「遣(け)」「盤(は)」がありました。
なお、テキストである『変体仮名でよむ 百人一首』(伊藤鉄也・吉村仁志 編、新典社、2025年5月)において、57番歌である紫式部の作者欄に「『源氏物語』を編纂」と記載していることに関して、私は紫式部を『源氏物語』の作者だと特定していないことの補足説明をしました。
30分の休憩時間を挟んで、次は「ハーバード大学本『蜻蛉』巻の仮名文字を読む」になります。
まず、次の2枚のプリントを配りました。
この講座では、いつも古写本の話ばかりしています。そこで今日は気分転換も含めて、江戸時代の版本に関する資料を持参しました。目で見ることが主体となっている現代の文化を、今日もいま一度見直しましょう、というアピールです。先月は、『探幽筆三十六歌仙』という人物画の作成に使われた模本(粉本)の実物を見て触っていただきました。
前掲の写真は、架蔵の『略解 ○古訓古事記巻中』の版木です。版木の実物を触ることはなかなかないので、貴重な体験となったことでしょう。写真の上は現物そのものの板面。その下は、コンピュータグラフィックで左右を反転して、刷り上がった状態がわかるように加工したものです。写真をクリックしていただくと、精細な写真が表示されるので文字がよく見えると思います。
版木の重さのみならず、文字が精細に彫られていることが、目で見るだけでなく、指で触って実感できたことは、こうした印刷物の理解が深まったはずです。
2枚目の資料の『絵入源氏物語』の版本は、現在はNPO法人〈源氏物語電子資料館〉が所蔵しているものです。山本典子氏より寄贈されたものです。この山本春正編『絵入源氏物語』(漆山文庫旧蔵)の版本は、江戸時代・慶安三年(一六五〇年)の版であり、旧蔵者山本節氏は山本春正のご子孫です。山本典子氏によると、約五〇年以上茶箱に保管されていたものだということなので、編者である山本春正の手元にあった初版本である可能性が高いものです。宇治十帖を持参して並べ、実際に手に取って見ていただいたので、受講者のみなさまには版本の実態が体感できたかと思います。興味津々で、袋とじの本をご覧になっていました。
ハーバード大学蔵『源氏物語 蜻蛉』を[変体仮名翻字版]で確認することは、今日で巻末まで行く予定でした。しかし、版本の閲覧と実見で時間を取ったために、67丁表6行目までを確認して時間が来ました。あと1頁文が残りました。年明けには、最後まで終えることになります。
今日問題となったのは、次の2例です。
(1)65丁裏9行目 「きこ江さ勢/え【給】&江さ勢、江=え」
「え【給】」の上から「江さ勢」とナゾリ、その「江」の右横に「え」を傍記しています。
本行の中でのナゾリなので、書写者自身がナゾッていると思われます。
(2)67丁表5行目 「うち/△&う」
ナゾッている文字の「う」の下の文字が、私にはどうしても読めません。そこで不読文字として「△」を用いて、「うち/△&う」としました。今後の課題として残すことになりました。
今日確認したハーバード大学蔵『源氏物語 蜻蛉』の「変体仮名翻字版」は、以下の通りです。
--------------------------------------
■ハーバード大学蔵『源氏物語 蜻蛉』65丁裏9行目〜67丁表6行目
翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部
( 「 )・末尾( 」 )、底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)
--------------------------------------
よろこひきこ江さ勢/え【給】&江さ勢、江=え、(きこえ【給】)・【給】めると・いふ・な三/\
の/(な三な三の)・【人】めきて・【心】ちなの・さ万やと・ものうけれ八/(65ウ)
--------------------------------------
もとより・於ほしす川ましき・すちよりも・いま八・
万して・さるへき・ことに・川介ても・於ほし多つ
ねんなん・うれしかるへき・うと/\しく/(うとうとしく)・【人】川
てなとに・もてなさせ・【給】八ゝ/(【給】八八)・江こそと・能【給】尓・
け尓と・いひさ者きて/=【思】〈薄墨〉、(【思】さ者きて)・【君】を・ひきゆるかすへ
介れ八/す〈虫損〉・万川も・む可しのと能三/も&能、(む可しのとも三)・な可めらるゝも/ゝ±二、(な可めらるるも、な可めらるる二も)・
もとよりなと・能【給】ふ・すちは・万めや可尓・多のも
しくこそ八と・【人】川てとも・なく・いひなし・
【給】へる・こゑ・いと・王可や可尓・あいきやうつき・
やさしき・【所】・そひ多り・堂ゝ/(堂堂)・なへ弖の・かゝる/(かかる)・す三可の/三〈次頁〉、(66オ)
--------------------------------------
【人】と・於も八ゝ/(於も八八)・いと・於可しかるへきを・
多ゝいま/(多多いま)・い可て可八・か者可りも・【人】尓・こゑ・きか
すへき・ものと・ならひ・【給】介ん・な万うしろ
め多し・か多ちも・いといま免可しからんと・み
ま本し幾・け者いの・したる越・この・【人】そ・
【又】・れいの・【御心】・三多るへき・川万なめると・
於かしうも・阿り可多のよやとも【思】い多ま
へり・[35]これこそは・可きり・なき・【人】の・かし
つき・於ほし多て・【給】える/介&え・ひめきみ・【又】・
か者可りそ・於ほく八・あるへき・あやしかりける/(66ウ)
--------------------------------------
【事】葉・さ累・ひし里乃・【御】あ多里尓・【山】能・
ふ登古ろより・いてき堂る・【人】〻の/(【人人】の)・可多本
なる葉・な可り介累こ楚・古の/古〈虫損〉・者可奈し
や・可ろしや奈登・於もひ奈須・【人】毛・可や
うの・うち身累/△&う・介し支八・い身しう楚・
を可し可里し可登・…………途中まで(67オ)
--------------------------------------
帰りは、大阪駅まで歩きました。途中で、曾根崎心中でよく知られている「お初天神」の境内を通ることになり、久しぶりに「露天神社」にお参りすることになりました。
ここに来るのは数十年ぶりになります。「恋人の聖地」となっていて、若者がたくさんいました。私が知っていた「お初天神」が明るく様変わりしていたので、とにかく驚きました。
大阪駅前の阪神百貨店の地下には、いか焼きで有名なお店があります。小さい頃に何度か行って以来なので、懐かしさも手伝ってその場で妻と一緒に立ち食いをし、持ち帰りのお土産もいただいて帰りました。以前は、あまりにも長い行列のために諦めました。551の蓬莱といい勝負です。大阪の粉モン文化は健在です。
大阪駅からJRで京都駅に出て、その駅前のキャンパスプラザ京都(京都市大学のまち交流センター)に立ち寄りました。3月分の予約をしたままで教室の利用料金の支払いが終わっていなかったので、済ませるためです。
今日のスケジュールは、これで無事に終わりました。
京都駅の構内は、相変わらずの雑踏となっています。中国語が飛び交う状況は一変し、多くの東南アジアの方々と擦れ違いました。日本人の観光客は、まだ京都を敬遠しておられるようです。しかし、年末年始は京洛各地で日本古来の文化を背景にした行事が多くなるので、日本の方々が増えることでしょう。
【■講座学習の最新記事】
- 日比谷で「須磨」(32)と『百人一首』(..
- 中之島での『百人一首』(第20回)と『源..
- キャンパスプラザ京都で相愛大学本『源氏物..
- 日比谷で「須磨」(31)と『百人一首』(..
- 宇治で相愛本『源氏物語 橋姫』の変体仮名..
- 中之島図書館での歌舞伎と『源氏物語』の講..
- 日比谷で「須磨」(30)と『百人一首』(..
- キャンパスプラザ京都で相愛大学本『源氏物..
- 中之島での『百人一首』(第18回)と『源..
- 宇治で相愛本『源氏物語 橋姫』の変体仮名..
- キャンパスプラザ京都で相愛大学本『源氏物..
- 日比谷で「須磨」(29)と『百人一首』(..
- 相愛大学本『源氏物語』(断簡)の勉強会の..
- 中之島での『百人一首』(第17回)と『源..
- 宇治で相愛本『源氏物語 橋姫』の変体仮名..
- キャンパスプラザ京都で相愛大学本『源氏物..
- 日比谷で「須磨」(28)と『百人一首』(..
- 中之島での『百人一首』(第16回)と『源..
- 宇治で相愛本『源氏物語 橋姫』の変体仮名..
- 平安文学リレー講座の第7回は「谷崎潤一郎..
