『フェイク ウソ、ニセに惑わされる人たちへ』(中野信子、小学館新書、2022年6月)を読みました。
本書は、ウソやフェイクを上手く活用して、生きるためのスキルを磨くことが大切な時代だ、ということを優しく語っています。
私がチェックした箇所を引きながら、勝手なコメントを付けておきます。
「はじめに」で次のように言います。
正義の顔をしたフェイク、善意を装って大げさに誇張された括弧付きの「真実」を目にするたびに痛感させられることは、私たちは、意外なほど「ウソに弱くできている」という事実です。
なぜなら、ウソのほうを心地よく感じ、フェイクのほうを美しく見てしまうのが、私たちの脳の性質だからです。(14頁)
このことに関しては、人間が物語の楽しさを求めていることにつながっているからではないか、と私は思っています。自分が物語を作る中で、ウソやフェイクが巧く利用されるのではないのでしょうか。
「脳は騙されたがっている」という項目では、次のように言います。
脳は、酸素の消費量が人間の臓器の中で最も多く、その占める割合は、身体全体で消費する酸素量のおよそ4分の1です。
ですから、基本的にあまり働かないように、つまり思考しないようにして脳の活動を効率化し、酸素の消費を抑えようとします。
最も効率のいいリソース節約術と言えば、人からの命令に従うことです。
そのため脳は自分でゼロから決めていくよりも、命令されることを心地よく感じる傾向があります。自分で考えずに、誰かからの命令に従うことは、脳の省エネ策であり、人間の本能、生理的機能の表れでもあるのです。(49頁)
社会には、指示待ち人間が多くいます。これは、脳の省エネで生きている人のことだと言えるでしょう。
また、次の説明は誰でも体験し、見聞きしたことなので納得します。
私たちは自分の先入観に沿う情報だけを集め、その集めた情報を自分の都合のよいように解釈して書き換えてしまうという現実があります。
これが「確証バイアス」です。与えられる情報の中で、自分に都合のよいものだけを選択し、都合の悪い情報は無意識に排除してしまうのです。さらに、冷静に検証すればそれが詐欺であると気付くことでも、この「確証バイアス」により、自分に都合のよい情報だけを付加し、そして自らウソを補強する思考をしてしまうことによって、その枠組みから抜け出せなくなってしまうのです。(54頁)
次の説明も、ウソをつく背景を知る手がかりになります。脳が長い文脈を省略することで、話が捻じれていくことを想定すると、ウソが生み出される現場が想像できます。
もし、記憶の細胞間コミュニケーションが100%の確率で起きるのであれば、私たちは見たもの、聞いたことを全部忘れないはずです。しかし、脳はハードディスクのように確実に記録されるようにはできていません。
細胞同士が情報を伝えるときに、すべてを伝えず、適当に伝えている。つまり「ウソ」をついている状態があるということがとても興味深く、不思議な現象として、むしろ美しく感じられるのです。(84頁)
ウソでもいいから相手を褒めることは有効です。ただし、その際には次の注意点があるとのことです。少しだけ、味付けが必要だそうです。
期待感は本人に伝えても効果があると考えられます。ただしそのとき注意したいのは、「頭がいいね」ではなく、「期待しているよ」「君ならできるよ」と伝えること。もしくは「よく頑張ってるね」と伝えること。
「頭がいいね」と言われた子は、「頭がいい」という評価を失いたくないために、失敗を恐れて確実に成功できるタスクばかりを選択するようになる可能性があるからです。(103頁)
(中略)
この研究結果では、「頭がいいね」と褒められた子供は萎縮してしまい、挑戦する意欲を失い、さらには失敗を隠そうとウソをつく傾向が高いことが示されています。
そして研究チームは、褒め方には注意が必要であり、結果だけを褒めるのではなく、チャレンジする姿勢、工夫に対して評価することが、失敗を恐れない心を育て、その子の能力を伸ばすと結論づけています。(105頁)
ウソの効用については、プラシーボ効果(偽薬効果)の例が示されています。日本では、戦時中に兵隊さんがお腹の病気になった時に軍医がハミガキ粉を飲ませるだけで直った、ということがあったようです。これは、馬の医者であった父の体験談でもありました。直ればいいのです。
本来なら薬効のないはずの偽薬を飲んでも、患者自身が「この薬は本物であり、効果がある」と信じ込むことで、実際に病気が治ってしまうという現象です。
これは1955年にハーバード大学の麻酔学者ビーチャーによって明らかにされ、広く知られるようになりました。
例えばその薬が砂糖の塊といったまったくの偽薬であっても、「これを飲めば絶対に自分はよくなる」と信じて飲んでいれば、症状が改善されることが統計的に確かめられているのです。
さらに、偽薬の服用をやめたとたん症状が悪化するといった、プラシーボとの逆の効果もあることが分かっています。これが「ノーシーボ効果」と言われるものです。
ある研究では、「自分は心臓病にかかりやすい」と信じている女性の死亡率は、心臓病にかかりやすいと信じていない女性の4倍に上ったということです。
脳にはそもそも思い込みがあるとはいえ、ウソによって生死さえも左右されてしまうというこの結果を見ると、騙されることの効用、上手によいウソをつく意義について検討されてもよいのではないかと思ってしまいます。(106〜107頁)
そして著者は、次のように言います。
人生を振り返り、あの時、うまいウソが言えていれば面倒なことにはならなかったのに、という場面はたくさんあると思います。
この本を読まれた方には、ウソをすべて否定するのではなく、上手に使い、楽しく、賢く生きていただきたいものです。(110頁)
本書で語られている中で、ウソに関して役立つ知恵を、1例だけあげます。
「Youメッセージ」ではなく「Iメッセージ」で伝える、ということです。
もしも、相手に「自分はあなたのウソで傷ついた」ということを理解してもらい、後悔してもらいたいのならば、言い方を工夫してみましょう。
例えば浮気の圧倒的な証拠があったとしても、もし関係性を継続することを望むのであれば、相手を主語にして糾弾する「Youメッセージ」ではなく、「私はあなたに女として見てもらえなくなったと思うと悲しい」などと、自分を主語にする「Iメッセージ」で伝えるほうが、信頼関係を壊さずに自分の思いを伝え、ちゃんと相手に後悔させることができるでしょう。(178頁)
優しい語り口で話題が展開するので、読みやすい本だと思います。
本書から私は、次の三点についてヒントをいただきました。
「人は何のためにウソをつくのか」
「なぜ人は騙されるのか」
「ウソとの付き合い方と生き方」
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