2025年11月22日

キャンパスプラザ京都で相愛大学本『源氏物語 帚木(断簡)』を読む(第3回)

 入口のロビーには、いつものように勉強会の掲示が出ていました。

251122_NPOパネル.jpg

 本日の最初は、京都新聞に掲載されていた2つの情報の確認からです。

(1)今日から24日までの3日間、三十三間堂が夜間特別拝観として、お堂の東側の障子をすべて外して、庭園から堂内の1001体の千手観音菩薩像が一望できるライトアップがなされます。庭園から夜間に堂内を拝観できるのは、今回が初めてだそうです。まさに極楽浄土を体現できるのです(京都新聞、2025年11月22日)。

(2)伊藤園の自動販売機が、『百人一首』のイラストをパネルにまとったバージョンを公開しました(京都新聞、2025年11月20日)。これは、京都の観光客の分散の一環での取り組みだそうです。記事によると、京都駅には2台を設置した、とあります。キャンパスプラザ京都へ行く途中で案内所の方に聞くと、いろいろと調べてもらった結果、新幹線の改札の中に2台とも置かれていることがわかりました。一般の人は、入場券がないと見ることも利用もできない場所なのです。観光客の分散には貢献しない場所なので、何か事情があるのでしょうか。なお、新聞記事は署名入りでした。この記者は、改札内の現場に足を運ばれたのでしょうか。もし新幹線の改札内に入って自販機を確認しておられたら、設置場所が改札内であることを書き添えられたはずです。この記事の文面では、京都駅周辺を探し回る人がたくさん出て来ることが予想されるからです。想像するに、記者は情報だけでこの記事を書かれたようです。間違っていたらすみません。

 帰りに、東本願寺の境内の休憩所に設置されていた自動販売機の写真を撮りました。これは、マンガ『ちはやふる』の絵を配したものです。

251122_ちはやふる自販機.jpg


 次に、街中の変体仮名として、「鎌倉大仏裏の与謝野晶子の歌碑」「熱海の坪内逍遥の歌碑」「法隆寺前の店先の〈安来奈伊【中】〉」の3例を取り上げました。いずれも本ブログに書いた情報なので、ここでは省略します。

 本日のメインである相愛大学本「帚木(断簡)」の「変体仮名翻字版」の翻字について、今回は第5丁裏から第7丁裏までの確認をしました。
 写し間違いと思われる例がたくさん確認できました。これは、未整理の写本を手元に置き、内容の確認もなく大急ぎで書写したためだと思われます。

・堂さう/\し/〈ママ、諸本くちをし〉(5ウ L3)
・あへ可/可±め、〈ママ、諸本あへかめる〉(6オ L2)
・やさか尓/〈ママ、諸本けさやかに〉(6オ L3)
・あとや本能なり/〈ママ、諸本あけほのなり〉(6オ L4)
・ゝこの志那ゝ奈可/〈ママ、諸本なかのしなかな〉(6ウ L3)
・者む多し可らす/〈ママ、諸本よろしう〉(7オ L10)
・れい尓てなむ/〈ママ、諸本たといにて〉(7ウ L3)

 その最たるものが、次の6丁裏の4行目から7行目の箇所です。異文混入や独自異文が、文節番号[4751]から[4752]の間で確認できるのです。

251121_相愛「帚木」6uL4〜7朱入.jpg

「【人】の・いひし・ことの者ゝ/(ことの者者)・け尓と・おほ志あ者
せられて・にしおもての/以下あ介川るマデ4665〜4668混入・かうし・いそき・あ介川
る・け者ゐも/以下ゆ可しかり介りマデ独自異文・さる可多尓・ゆ可しかり介り・
この・ころ八・との尓の三・於者す・なを・可能【人】」
↑↓
「人の言ひしことは、げにと思しあはせられけり。
このほどは大殿にのみおはします。」(『新編日本古典文学全集(1)』105頁)


 このような本文が伝わっていることの意味について、私見としては、物語の本文が確定しない時の草稿の状態の写本の片鱗が、こうした形で伝わっていると思っています。この相愛大学の「帚木」は、『男源氏の物語』と『女源氏の物語』の本文が合流していく段階の、流動していた段階の姿がかいま見える状態の残存だと見ています。まだ思いつきの私見ですが。
 かつて、田中重太郎先生は、次のように言われました。

 ところで、源氏物語の本文でも定家の証本がいま定本視されているが、いわゆる別本系の本文と読みくらべると、いまの源氏物語の本文は、なんだかばかに整頓され、みがかれ過ぎた感じがする。架蔵の鎌倉初期書写の源氏物語断簡(昭和三十九年十月刊)を読みかえしていると、こんな本文の源氏物語がすくなくとも平安末期にはあって、読まれていたのだと思い、いま行われている源氏物語の本文と読みあわせると、そらおそろしい気がして来る。(清少納言と「ほのかなり」と『平安文学研究』第四十二輯、昭和四十四年六月号、『枕草子三十五年』再掲))

 なお、5丁裏から6丁表にかけて、2丁(4頁)分の落丁があります。
 現行5丁裏の最終文字は、『源氏物語別本集成』で設定した文節番号でいうと[4493]です。そして、落丁後の現行6丁表の最初の文字は、『源氏物語別本集成』で設定した文節番号でいうと[4677]です。つまり、この落丁部分は、文節数でいうと、184文節分が脱落していることになります。この文節数は、底本にしている陽明文庫本の本文を単位とするものです。つまり、5丁裏には42文節が書写されており、6丁表には57文節が書写されているので、陽明文庫本で換算しておおよそ2丁(4頁)分の本文が欠脱していることになるのです。

 相愛大学本「帚木」は、いろいろな問題を内包する本文を伝える写本です。今後とも、慎重に翻字を続けていくつもりです。
 本日確認した「変体仮名翻字版」の翻字は、次の通りです。


■相愛大学本「帚木(断簡)」(今回:第5丁裏〜第7丁裏まで)
[変体仮名翻字版] (翻字:辻 義孝/補訂:伊藤鉄也)
   ・翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
     傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、
     補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部( 「 )・末尾( 」 )、
     底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)

--------------------------------------[4452]
なく・さま・いと・あ者れけ奈り・あ奈可
ち尓【心】くるしう八あらねと・ナシ・みさら
ましか者・堂さう/\しからましと/堂さう/\し〈ママ、諸本くちをし〉(堂さうさうしからましと)・於ほ寿・
なくさ免可多う・ナシ・於もへれ者/△&者・なと・可う・うとま
しき・【物】尓八・於ほすへき・於もむき・さ満なる
於こそ・ちきり・ありと八・於もひ奈い・【給】ら免・
むけ尓・よ越・志らぬ・けしきに・於ほされ
堂る・介しきなん・いと・川らきこと・うら
みられて・いと・かう・うき・三能・本との・さ
堂まらぬ・ありしな可らにて・ナシ・かゝる/(かかる)・【御】/以下落丁、(5ウ)
--------------------------------------[4493]
二丁脱落
 4677-4493=184文節
  (5ウ)1丁42文節×4丁=168文節
  (6オ)1丁57文節×4丁=228文節
--------------------------------------[4677]
ほとに/〈ママ、諸本ほのかに〉・みへ・【給】へ累・ナシ・ナシ・み尓・しむ者可り尓・於
もふ川る・すき【心】ともゝ/(すき【心】ともも)・あへ可/可±め、(あへ可め)、〈ママ、諸本あへかめる〉・【月】八・あり
あ介尓て・ナシ・ナシ・かけ・をさまれる【物】可らか本やさか
尓/(やさか尓〈ママ、諸本けさやかに〉)・【見】えて・奈可/\/(奈可奈可)・お可しき・あとや本能なり/〈ママ、諸本あけほのなり〉・奈
に【心】毛那く・そらの・けしきも・堂ゝ/(堂堂)・みる・ひと
可らとの三・ナシ・ゑん尓も・ナシ・【見】ゆるなりけり・【人】志れぬ・
【御心】尓八・いと・むねい多く・ナシ・ナシ・ナシ・かへりみ可ち尓て・いて・
【給】て・との尓・可へり・お八して毛・とみ尓・万とろま
れ・【給】者す・【又】・あひみるへき・可多・なきを・あ
者れ尓・この・【人】の・於もふらんこと八まして・ナシ・ナシ・い可ならんと/と〈丁末左〉、(6オ)
--------------------------------------
【心】く累しう・於ほしやる・ナシ・すくれ多る・ことは・
な介れと・免やすくも/△&免・・みえ川る可那・ゝ
この/こ〈ママ、諸本か〉(那この)・志那ゝ奈可/〈ママ、諸本しなかな〉、(志那那奈可)・くま那う・みあ川むる・
【人】の・いひし・ことの者ゝ/(ことの者者)・け尓と・おほ志あ者
せられて・にしおもての/以下あ介川るマデ4665〜4668混入・かうし・いそき・あ介川
る・け者ゐも/以下ゆ可しかり介りマデ独自異文・さる可多尓・ゆ可しかり介り・
この・ころ八・との尓の三・於者す・なを・可能【人】
の・うち多へて・ナシ・ナシ・於もふらん・こと・【御心】尓・かゝりて/(かかりて)・
くるしきを・おほしわひて・きの可み越・め
し多り・可能・ありし・とう【中納言】・こゝに/(ここに)、(6ウ)
--------------------------------------
ゑさせよ・らうたけ尓・みへしお・み尓・ち可う・
川可ふ・ひと二・せん・うへ尓もわれ・多てまつらん
と・乃【給】へ八・いと・可しこき・於ほせ【事】尓・者へり・
か能あねなる・【人】尓・いひ者へらんと・【申】尓も・
むね川ふれ【給】へと・ナシ・川れ那くて・そ乃・
あねき三八・あそこの・おとゝや/(あととや)・毛堂れ多
る・さ毛・者へらす・この・【二三】ねんこそ・かくて・毛の
し・者へれ・をやの・於きて尓・あらすと・ナシ・古ゝろ
ゆ可ぬ/(古古ろゆ可ぬ)・やう尓なん・きゝ/(きき)・堂まふすと・きこ
ゆれ八・あ者れの・ことや・者む多し可らす/〈ママ、諸本よろしう〉・きこゆる/こ〈次頁〉、(7オ)
--------------------------------------
【人】そかし・まことに・よしやと・の多ま者す
れ八・ことも・なく・者へるへし・いと・もて者那れ・う
と/\しう/(うとうとしう)・者へれ八・【世】・れい尓てなむ/〈ママ、諸本たといにて〉・む川ひ・
者へらぬと・きこゆ・佐てかのこきみは/△&佐・
【五六】・者可りありて・ナシ・ナシ・ゐて・まいれり・こまや
か尓・お可しきこと八・奈介れと・な万めき・
ナシ・あてなる【人】と・みえ多り・めしいれて・いと・な
川可しう・可多らひ・【給】へ八・わら八【心】ち尓・ナシ・
いとうれしと・於もふ・あねき三能・ナシ・【御】ことの・
いとく八しう・とひ・【給】へ八わら八【心】ち尓・さるへき布し/\八いくゑ/へ〈次頁〉、(布し布し八いくゑ)、(7ウ)
--------------------------------------




posted by genjiito at 23:18| Comment(0) | ■講座学習
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