法医学の教授だった鳥沢博士は、退職後に奈良の旅を楽しんでいました。そこで、アーケイックス・マイル(古拙の笑い)に興味を持ちます。法隆寺の釈迦三尊、薬師如来、夢殿観音、安居院の飛鳥大仏などを。そして、同じことをテーマとする彫刻家に出会いました。
微笑みと仰月形の唇が話題となって話は進展します。そして、奈良で出会った男が彫った展覧会での彫刻が、死者の顔から取ったデスマスクによるものではないか、という疑いへとつながります。
さらに読者を振り回す巧みな曲折を経て、彫刻の顔とそっくりの女性の殺人事件の背後に、笑気ガスの存在が浮上します。
この笑気ガスは、50年前に私が東京の西日暮里の駅前の歯医者さんで治療を受けていた頃に、笑気アマルガム法という苦痛を伴わない手法が流行っていたので、実感として理解できました。
ただし、現在日本では、アマルガムは2016年4月に保険適用の対象から外され、以来ほとんど使用されていないそうです。「笑気アマルガム」に関して生成AI氏からの情報では、「歯科治療における「笑気吸入鎮静法」と、過去に使用されていた歯科材料である「アマルガム」という、2つの異なる要素を組み合わせたものと考えられます。」とあり、「意識が完全になくなることはなく、ふわふわとした心地よい気分になります。副作用が少なく安全性が高い」とか、「アマルガム除去処置の際に、患者の不安や緊張を和らげる目的で笑気吸入鎮静法が併用されることがあります。」ともあります。
現在、私は地元の歯医者さんから酷い扱いを受けている最中なので、こうした手法が歯科治療で用いられていたことに興味が及びました。
本作における、読者を終始惹きつけて離さない清張の語りは、読み終わってからしばらく放心状態にします。後の、『火の路』(『火の回路』)などの飛鳥を舞台とする古代史ミステリーにつながる作品です。【5】
初出誌:『週刊朝日』1967年4月〜6月
※参考資料:『松本清張事典 決定版』(郷原宏、角川学芸出版、平成17年4月)では、本作について次のように言っています。
「古寺巡礼の法医学者が学術雑誌の報告と飛鳥仏を結ぶ「微笑」をキイワードに奇妙な殺人事件の謎を解く本格推理の秀作」(146頁)
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