キャンパスプラザ京都(京都市大学のまち交流センター)の正面ロビーの掲示板には、いつものように案内が表示されています。前回から読む写本が変わり、相愛大学本『源氏物語』(断簡)となっています。
今日は、相愛大学本『源氏物語 「帚木」』(断簡)の本文があまりにも現在流布している大島本と違うので、脳トレのような意見交換の場となりました。そして、多くの収穫が得られました。
例えば、次の例はどのような経緯で生まれた本文なのか、いろいろと考えました。
※「相愛本」2丁裏の最終行から3丁表の3行目まで。
のうち・いれ・【給】尓・あやしく所毛ちより多れと免川る/て&所、多&毛、ちより多れと/$、八&と、(あやしくて多ちより多れ八、毛と免川る)、ち/〈次頁〉、(2ウ)
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ちより多れと免川る・【中将】めく・【物】・
きたるき多る・やゝと/(ややと)・能ひ尓/ひ〈ママ、諸本【給】〉・あやし
くて・堂ちよりたれ八・ナシ・に本ゐ・きて・
ここは、2丁末の「あやしく所毛/て&所、多&毛」と3丁表の2行目の「あやしくて・堂ちよりたれ八」の目移りにより、その間の文が脱落していることに気付いた書写者が、3丁表の冒頭の「ちより多れ八」まで書き写した所でナゾリ書きやミセケチで本文を正した、と見ました。
詳しく説明しましょう。
当初、2丁末行は「あやしくて多」で終わり、使用していた糸罫を左に移動して3丁表を「ちより多れ八」と書きました。しかし、ここで3丁2行目の「あやしくて堂ちよりたれ八」に目移りして1行分を書き飛ばしていることに気付いたのです。そこで、2丁末行末尾の「て多」を「所毛」となぞり、3丁行頭の「ちより多れ八」をミセケチにし、そこで「八」を「と」となぞり書きすることで、「あやしく所毛と免川る」となるように補正したのです。
ここで、「多・堂・た」の字母に異同が見られることは、親本に書かれていた字母が頭の中で音の入れ替えが起き、こうした不統一の表記になったと思われます。なお、これは別の問題でもあるので今は置きます。
また、3丁表2行目の「能ひ尓」の「ひ」は、諸本では「給」となっているところです。この「ひ」については、別途考える必要があります。
※さらには、「相愛本」が「いとこより八可りいて【給】こと尓そ・あらん」(3丁裏7行目・源氏物語別本集成文節番号4344)とするところについては、現在流布する校訂本文の「大島本」(『新編日本古典文学全集』小学館)では「いとほしけれとれいのいつこよりとうてたまふことのはにか・あらむ」(100頁)となっています。
※また、「相愛本」が「な可/\・い者れし堂るいと・うたてあり介る」(4丁裏1行目・源氏物語別本集成文節番号4389)とするところについては、「大島本」では「なかなか・おしなへたるつらにおもひなしたまへるなむ・うたてありける」(101頁)となっています。
この相愛大学本『源氏物語 帚木』(断簡)の本文は、一体何を言おうとしているのか、今後の検討に俟ちたいと思います。
相愛大学本『源氏物語 帚木』(断簡)には、現在読まれている「大島本」と多くの本文の異同が確認できます。それらはすべて今後の課題として、今は正確な「変体仮名翻字版」をまずは作成して提供することに専念したいと思います。以下に、本日の成果を掲載します。
■相愛大学本「帚木(断簡)」(今回:第2丁裏〜第5丁表まで)
[変体仮名翻字版] (翻字:辻 義孝/補訂:伊藤鉄也)
・翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、
補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部( 「 )・末尾( 」 )、
底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)
[4274]--------------------------------------
者へ免れと・いふもいふも・いきの・した
なり・き江まとへ累・けしき・いと・古
こ新/〈ママ、諸本こゝろくるしく〉・らうたけ奈れ八・於可しう於
ほさる・ナシ・ナシ・堂可うへうも・あらぬ・【心】の/の〈墨ヨゴレ〉・
し累へ・なる越・於も者す尓も・於ほ
免い・【給】める可那・すき可ましう八・
ナシ・ナシ・みえ・多てまつらし・於もふ・ことこゝに
て/(ことここにて)・すこし・きこゆへきとて・いと・さゝ
やか奈れ八/(ささやか奈れ八)・かきい多きて・さう新
のうち・いれ・【給】尓・あやしく所毛ちより多れと免川る/て&所、多&毛、ちより多れと/$、八&と、(あやしくて多ちより多れ八、毛と免川る)、ち/〈次頁〉、(2ウ)
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【中将】めく・【物】・
きたるき多る・やゝと/(ややと)・能ひ尓/ひ〈ママ、諸本【給】〉・あやし
くて・堂ちよりたれ八・ナシ・に本ゐ・きて・
か本尓も・かゝ類/(かか類)・古ゝち/(古古ち)・すれ八・於もひ
よりぬ・あさましや・こ者・い可なる・こと
そと・於もひ・さわ可るれと・きこゆ
へき・可多毛・なし・な三/\の/(な三な三の)・【人】奈ら八
こそ・あら免羅か尓も/免$(あら羅か尓も)・ひきかなく
羅免・堂れ多尓/堂〈ママ、諸本そ〉・【人】の・あまた・志らん八/の&志、(のらん八)・
いと越し可るへき・ナシ・ナシ・【見】さわきて・したひきたれと/ひ〈次頁〉、(3オ)
--------------------------------------
と可・なくて・おくなる・越
まし尓・ふし・【給】ぬ・さうし・ひきた
てゝ/(ひきたてて)・ナシ・【御】む可へに・おものとれよと・の【給】へ八・
【女】き三・【心】あ八せて可ゝるとしもやと/も〈判読〉(可可るとしもやと)・
ひとの・於もふらんと・ナシ・ナシ・わりなく於もふ尓/尓〈行末右〉・
な可れぬ者可り尓・あせ尓・なりて・いと・
なやまし介尓さへみゆ・いとこより
とりいて【給】こと尓そ/いとこより〈ママ〉、こと&いと・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・あらん・としころ
もすこし川へうあな可ちなる
ま尓て【物】を/尓&後な・ナシ・ナシ・の多まひ川くすへか免れと/か〈次頁〉、(3ウ)
--------------------------------------
なを・いと・わ可/\新き古
こちし者へる八/(わ可わ可新き)・う川ゝとも/(う川川とも)・於もふ【給】
へられ数こそ/【給】&【給】・かすならぬ・みな可ら
かう・おほしくたしけ類/れ&類、(おほしくたしけれ)・【御心】の/八&【御】・ほと
八・い可ゝわ/(い可可わ)・あ佐ましうと・於もふ・【給】遍し
羅さらん/(【給】遍し羅さらん)、し〈行末左〉・八と/八〈ママ、諸本い〉・可うような累・き者ゝ/(き者者)・
き八とこそ・者へなれとて・於したち・
【給】へ累・なさけなさお・ナシ・うしと・於もへ
るも・け尓・いと越しう・者つ可しけな
れ八・ナシ・その・き八/\毛/(き八き八毛)・【又】・於もひ志らぬ・う井こと奈れ八/う〈次頁〉、(4オ)
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な可/\/(な可な可)・い者れし堂る
いと/者〈判読〉・ナシ・ナシ・ナシ・うたてあり介る・おの川から・き・た
まう・やうも・あらむ・あな可ち尓・
すきかましき【心】と八・さらに・ならぬ
を・さるへき尓や・志ふ/〈ママ、諸本け尓〉・可く・あ者め
られ・多てま川るもいとわ里なう・
ことわりなる尓・ナシ・三川からも・あやし
きまて那んと・ま免多ちて毛・す
へくよろ川尓・の【給】へと・いと者つ可し
け尓・たくひなき・【御】介者いの・いよ/\/(いよいよ)/よ〈判読〉(4ウ)
--------------------------------------
うちとけ・きこ江んも・ナシ・者つ可し介れ八・
すくよ可尓・【心】川きなしと八・みへ・堂て
ま川るとも・さる・可多に・いふ可ひなくて
も・すくしてむと【心】川よう・於もひな
して・川れなく・もて那す・ひと本【上】の/本【上】〈ママ、諸本から〉・
堂をや可なる尓・川よい・【心】を・志ひ
て・く者へ多れ八・奈よたけの・【心】ち・して・
さす可尓・越くへくも・あらす・ふしこと
に・【心】やましうて・あやにくけなる・
【心】さまを・いふ可ひなしと・於もひて/(5オ)
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