2025年10月11日

中之島での『百人一首』(第17回)と『源氏物語 蜻蛉』(第28回)

 涼しい日だったので、出がけにブレザーを羽織るかどうかで迷い、結局は着ないままに中之島図書館へ行きました。必要はなかったものの、来月は必要になることでしょう。感じとしては、1ヶ月遅れの温暖化に伴う気候だと思えばいいようです。

 さて、本日の最初は「変体仮名で書かれた『百人一首』を読む」〔入門講座〕です。
 最初に、在原行平の歌が刻まれた須磨にある歌碑の写真をもとに、変体仮名で刻まれている和歌を読みました。

■16番歌 在原行平の歌碑(須磨・松風村雨堂の境内 関守稲荷神社の近く)
【中納言 行平卿詠】 【立】ち和賀連以な波能【山】乃【嶺】尓おふる
            萬徒登し【聞】可婆【今】か遍り古舞

 「【聞】可婆」(聞かば)の「婆」はあまり見かけない仮名文字です。私は京都の三条寺町にある蕎麦屋さんの例しか思いつかない話をしました。

251011_御曽婆と甼.jpg


 なお、「寺甼」の「甼」は「町」の異体字です。
 この「甼」の例は、西洞院通の突き当たりにある茶道の武者小路千家の官休庵西館の前にある、「甼内安全」と町名の「西無車小路町」が思い出されます。街中を歩くと、さまざまな文字と出会えます。

251011_甼と無車.jpg

 次に、『百人一首』のカルタに描かれた図様で、後ろ向きの姿の比較(試案)を一覧にしたものを提示しました。これは、《陽明》《鶴丸》《光琳》の3種類のカルタを例にして整理したものです。

251011_百人-17後ろ姿_2.jpg

 結論は出ないものの、《陽明》カルタに左向きの姿が多いことや、横や後ろ向きの姿は61番歌の後に多いことなど、さらには89番歌の式子内親王だけは《鶴丸》では上半身が隠れていて見えない図様であることなどを、思いつくままにお話しました。

 『百人一首』は、35番歌の紀貫之から44番歌の中納言朝忠までを、変体仮名に注目して文字の確認をしました。


 30分の休憩をおいて、次は「ハーバード大学本『蜻蛉』巻の仮名文字を読む」です。書家の宮川保子さんが臨模を進めておられる相愛大学本『源氏物語』の「手習」巻の下書きと清書を見てもらい、平安から鎌倉時代の写本のありようや、書写の実態に及ぶ話をしました。

 その後は、変体仮名の「天」と「弖」について多くの例を示して、詳細な説明をしました。今日からは、この2文字をみなさんは識別できるようになります、ということを強調しました。
 なお、国文学研究資料館蔵「橋本本 若紫」の38丁表8行目にある、「弖」の上に「て」となぞっている例を提示し、書写にあたって最初に書き写した「弖」をわざわざ削って「て」と書き直しているのは、明確に字母の違いを意識し区別していたことの例証として紹介しました。この写真は、高精細の顕微鏡を使って撮影したものです。

251011_橋本本「若紫」弖&て.jpg

 スクリーンには、次にあげる私のブログの記事を映写し、さまざまな例を見てもらいました。そして、私がこの「天」と「弖」を明確に区別して翻字をしだしたのが「2017年12月10日」からであることも今回確認しました。
 以下に、「天」と「弖」に関する私のブログの記事のアドレスを列記して、これまでの検討を振り返る資料とします。

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(1)「変体仮名の字母─「天」と「弖」は見分けられるか」

 ※「京洛逍遥(427)高校駅伝と猿回しと終い天神と-2016」

(2)「ひらがな「て」の字母とされている「天」と「弖」の区別について」

(3)「平仮名「て(天)」と変体仮名「弖・氐」について(その2)」

(4)「平仮名「て」の字母に関する資料を検討中」

 ※「日比谷での源氏講座で香道の話を聞く」

(5)「平仮名「て」と「弖」の直前に書かれている「り」と「里」について」

 ※「日比谷図書文化館で橋本本「若紫」を読む(2017-第7回)」
 (「筆の入り方が「て」のようにはっきりとした横線ではなく、筆を突いてすぐに下に流れ、さらに「く」の線を描く仮名は、「天」ではなくて「弖」を字母とするものにしたいと思います。」)

(6)「熊取ゆうゆう大学:「若紫」を読む(その9)「天」と「弖」の対処」

(7)「熊取ゆうゆう大学:「若紫」を読む(その10)ひらがなの「天・弖・氐」」

(8)「日比谷で橋本本「若紫」を読む(2018年度-その1、触読・「弖」・糸罫)」

 ※「池田本「桐壺」を変体仮名で読む(No.1)」
 (「今後は、「介」と「弖」をこれまでの「个」や「天」と区別して、厳密に字母を明示していくことにします。」)

 ※「池田本「桐壺」を変体仮名で読む(No.2)」
 (「翻字に関する注意事項として、今後は「介」と「个」、「弖」と「て」を厳密に読み分けていくことを確認しました。これから翻字作業に参加してくださる方がいらっしゃったこともあり、この点は強調しました。」)

 ※「オンラインセミナー「デジタル時代の変体仮名」に参加して」
 (「高田智和氏(国立国語研究所)は、ユニコードに変体仮名の字形を登録するにあたり、「天」と「弖」については「天(て)」の方に無理やり決めた、とのことでした。また、「弖」は「ユミイチ」と読んでおられるようです。」)
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 次は、ハーバード大学本「蜻蛉」の本文を「変体仮名翻字版」で翻字するメインの学習となります。
 今日は、ハーバード大学蔵『源氏物語 蜻蛉』の63丁表8行目から64丁表までを見ました。

 問題にしたことを、いくつか列記して記録とします。

(1)細かなことながら、次の「す」(64丁表4行目)の文字の背後には何か別の文字が書かれているようです。赤の矢印で示した突き出た線が左下に降り、それが右に折り返していることまでは確認できます。しかし、それが何という文字を書こうとしていたものなのかは、このままではわかりません。

251011_ハーバード「蜻蛉」64oL4△&す.jpg

(2)次の例も、「なる」(64丁表6行目)の下に書かれている、なぞられている文字とその理由がわかりません。

251011_ハーバード「蜻蛉」64oL6△&る.jpg

 「すそろなる・なけきの」の「る」の下に書かれている赤矢印で明示した線は何という仮名文字なのか、今は見当もつきません。

(3)「あふ【時】と/【時】$、(あふと)・きこゆ累/△&累」(64丁表10行目)では、「あふ【時】と」の「【時】」にミセケチ記号があるので、後にこの文字はなかったことにする意味を示しています。なぜ「【時】」という漢字を書いてしまったのかを考えました。

251011_ハーバード「蜻蛉」64oL10時・累.jpg

 ここは丁の最終行であり、書写の道具として使っている糸罫は料紙の上からは外し、次のページの書写に移るために親本のページも捲る動作が伴っているところです。ということは、書き写す行為の気持ちの集中が途切れるところです。そして、書写している文字列は「あふときこゆ累」であり、気持ちの緩みから「と」と「き」が潜在意識に残ったままだったために、「【時】」という漢字をつい書いたのではないでしょうか。行末や丁末ではよくある、集中力が途切れるときに起きる現象の一つだと思われます。
 また。この文字列の最後の「きこゆ累」の「累」の下には、何か文字があります。ハーバード大学では原本を3回調査をしています。高精細の顕微鏡などを用いて現場で実見しても、その時から読めなかった文字です。残念な思いが、今も残っています。

 こうした判読に困難が伴う箇所については、再度ハーバード大学で原本を閲覧する機会が得られたなら、正確を期するためにもこうした点などを、他の多くの疑問点も含めてじっくりと確認したいと思っていることをお話しました。

 以下、本日確認した「変体仮名翻字版」の翻字の確定版です。

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翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部
( 「 )・末尾( 」 )、底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)
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と/(すきものなら八八やと)・【思】尓・いま八な越・川きなし・【251011_ココカラ→】[33]れいの尓しの・
わ多【殿】を・阿りしに・ならひて・わさと於八し多るも・
あやし・ひめ三や・よる八・あな多に・わ多らせ・【給】介れ八/(63オ)
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【人】尓/尓$/\〈薄墨〉、(【人人】)・川き・三るとて・この・わた【殿】尓・うちとけ・
【物】可多り・する・本となり介り・志やうのこと・いとを可
しう・ひきすふる・川ま於と/こと&於と、(川まこと)・きこゆ・於もひ可介ぬ二・
より於者して・なと・可く・ね多まし可本尓・川ま
ならし・【給】と・の多万う尓・三な・於とろ可るへ
可めれと・すこし・あけ多る・す多れを・うちをろ
しなとも・せ須・於き阿可りて・尓るへき・この可
三や八・ゝへるへきと/(八へるへきと)・いらふる・こゑ・【中将】の【御】もと
ゝ可や/(と可や)・いひしなり介り・まろこそ・【御】八ゝ可多の/(【御】八八可多の)・
於ちなと・者可なき・こと越・の多万ひて・れいの/(63ウ)
--------------------------------------
あな多に・於八し万すへ可りめり/け&め、(於八し万すへ可りけり)・なに王さ
を可・この・【御】さとす三の・本と尓八・せさせ・【給】
なと・あちきなく・とひ・【給】・い川く尓ても・【何事】
を可者・多ゝ可やう尓てこそ八/(多多)・すくさせ/△&す・【給】
めれと・いふ尓・於可しの・【御身】の・本とやと・於もふ尓・
すそろなる/△&る・なけきの・うちわすれてし川
るも・あやしと・於もひよる・【人】もこそと・万きら
八し尓/+八つら八しき〈ママ、薄墨〉・さしいて多る・【和琴】を/△&【琴】・多ゝさな可ら/(多多)・
可きなら志・【給】・里ちの・しらへ八・あやしう・於
里に・あふ【時】と/【時】$、(あふと)・きこゆ累/△&累・こゑなれ八・きゝ尓くゝも/も〈丁末左〉、(きき尓くくも)、(64オ)
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 図書館を出た中之島公園の中央公会堂前では、「北浜蚤の市」が開催されていました。アンティークやアクセサリーや雑貨など、若者向けのお店が130店ほど出店しています。

251011_蚤の市.jpg


251011_公会堂.jpg

 若者向けの品物ばかりだったので、残念ながら手に取って見るものはありませんでした。もう少し時代と興味をずらしてもらえると、楽しく参加できたのですが。
 今日から3日間、この3連休中の開催です。興味のある方は、足を運んで見られたらいかがでしょうか。多くの若者が各出店に集まり、さまざまな小物を買っておられました。




posted by genjiito at 23:26| Comment(0) | ■講座学習
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