2025年10月04日

宇治で相愛本『源氏物語 橋姫』の変体仮名を読む会(5)

 今日はまず、シェア型書店HONBAKO京都宇治に行くと早速、私が箱主となっている2つの本箱の本の入れ替えをしました。

251004_本箱.jpg

 「特集:小野小町」は終了とし、次は「特集:辞典-事典-小百科」に入れ替えました。隣の本箱の「特集:『源氏物語』」は数冊の本を差し替えました。いずれも、私が読んでほしいと思う本を選んでいます。この書店にお出でになる方々の好みが摑み切れないので、試行錯誤の選書です。一カ月毎に特集を組み直して行くつもりです。
 ここは、本好きの方々が集うコミュニティです。楽しい本が並んでいます。私が書店で行かないコーナーにある本がたくさんあるので、今日も2冊いただいてきました。すばらしい、本との出会いの場所であり、人との出会いの場所でもあります。末長く、多くの方々との交流の場になるように、願っています

 今日の勉強会は、相愛大学春曙文庫本『源氏物語 橋姫』の第五丁表から第七丁裏までを、変体仮名に正確に翻字しながら確認を進めました。いろいろな問題点が見え出したので、列記して整理しておきます。

(1)変体仮名「支」(き)、「春」(す)、「身」(み)、「免」(め)、「累」(る)が頻出します。これらは、ハーバード大学本「須磨・蜻蛉」や歴博本「鈴虫」とは異なる現象です。ハーバード本の親本や書写者が、この相愛大学本のグループとは異なることに起因すると思われます。

(2)助詞「登」(と)の多用が見られます。これも、ハーバード大学本「須磨・蜻蛉」や歴博本「鈴虫」とは異なる現象です。

(3)撥音便「ん」(「八んへらん/5ウ」、「へ可んめ累/6オ」)と変体仮名「ん・毛・无」(「とんの/6オ」)の表記が気になります。これもまた、ハーバード大学本「須磨・蜻蛉」や歴博本「鈴虫」とは異なる現象です。

 次に、相愛大学本の写本に書き写された文字の特徴に関して。

(4)相愛大本の「帚木」(キャンパスプラザ京都で読んでいる写本)と「橋姫」の「お」は、ハーバード大本「須磨・蜻蛉」や歴博本「鈴虫」とは字形が異なるものがあります。
 ※相愛「橋姫」5丁表10行目の「お」の字形

250902_春曙橋姫5oL10おき.jpg

 ※相愛「帚木」1丁表2行目の「お」
250926_相愛「帚木」1oL2お.jpg


(5)次の例は、ナゾリ書きの実態から、書写に用いた親本の本文の素性が推測できるものです。
 ここでは、保阪本(重要文化財、文化庁蔵)の独自異文である本文を書写していることがわかります。つまり、保坂本だけが「なへてならす」という本文を伝えている箇所です(『源氏物語別本集成』451869)。相愛本がその保阪本の独自異文と同じ本文を書写している箇所に、後の人が校合結果として「ならす」の上に「おほえ」をなぞって上書きしているのです。これ以外にも、保阪本と相愛大本の近似性が見られる箇所は枚挙に暇がありません。相愛大本「橋姫」は、保阪本のグループに属する本文を伝えていると考えていいと思われます。
 ※相愛「橋姫」5丁裏6行目のナゾリ 「於ほえ/ならす&於ほえ」

250903_春曙「橋姫」5uL6ナゾリ.jpg

(6)次の例は、誤読や誤写が生ずる原因となることの例証に好例となるものです。
 相愛本「橋姫」6丁表9行目の字形は、「を可く」ではなくて「本そく」と読む箇所です。その左横の「をなし」の「を」とよく似ているのでわかりやすいでしょう。「そ」の第一画の横線が「を」のシンニョウと勘違いさせることから、誤読や誤写が生じかねない字形となっているものです。

251004_相愛「橋姫」6oL9本そく.jpg


(7)次の相愛大本の「ゐ」の下に書かれている文字について、今日は検討に時間を割きました。
 何という文字がなぞられたのか、ということです。可能性としては、以下の3点が考えられます。

 @「心△」と書いた上に「ゐ」を書いている
 A直後の「雲」に目移りして「雲」を書きさした状態で、途中から「ゐ」を上書きした
 B左下の「登」の書き始めの文字に似た文字を書いている途中から「ゐ」を上書きした

 これらのうち、「橋姫」6丁裏4行目のなぞられた文字は何か(ゐ堂る尓/△&ゐ)は、今はどれだと確定ができません。今後の課題とします。

251004_相愛「橋姫」6uL4△&ゐ.jpg

(8)用紙に裏写りが激しいことから、紙を砧などで叩く加工の工程が粗く、墨が吸収しやすい状態のものであったようです。ハーバード大学本等はこうした裏写りは少ないので、これは料紙のグループが異なるものだった可能性が高いと思われます。専門家の鑑定を待ちたいところです。

 本日確認した第五丁表から第七丁裏までの[変体仮名翻字版]は、以下の通りです。
 国文学研究資料館から公開されている相愛大学春曙文庫本「橋姫」の写本の画像は、以下のアドレスで確認することができます。

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於本ゆれ者・【人】・き可ぬ・と支は・
あ遣くれ・可くなん・あそ者勢登・志
毛【人】尓て毛・身や古の・可多より・まいり・
堂ちまし累・悲と・【侍】・ときは・
をと母・世さ世・【給】者春・於ほ可多・可く
て・【女】堂ち・越八しま春・【事】越者・
可くさ勢・【給】ふ・奈へ弖の・【人】尓・志
ら世・堂てま川らし登・於ほし・の多
ま葉するなり登・【申】世は・うち王らひ
て・ありきおき・【御物】可くしなり・し可/(5オ)
--------------------------------------
しのひ・【給】奈礼登・み奈【人】・あ里
可多き・【世】乃・堂免し尓・きこゑい
徒免る越登・の多まひ弖・な越・し累へ
世よ・王可れ者/可$、(王れ者)・春き/\しき/(春き春きしき)・心なと・奈支・
【人】そ・可くて・越者しま春ら無・【御】あり
さま能・あやしう・介尓・なへ弖/弖±二・於ほえ/ならす&於ほえ、(ならす)・
堂ま者ぬなり登・万免や可尓・乃多ま
へ葉・あ奈・可しこ・古ゝろ奈き/(古古ろ奈き)・やう尓・
のち能・きこゑや・八んへらん登て・あ奈
堂の・越まへ八・【竹】の・春い可き・し古免弖/古〈次頁〉、(5ウ)
--------------------------------------
み奈・へ堂弖・【事】奈免る越・ゝ
しへよ世/(越しへよ世)・堂弖ま川礼里・【御】とんの・
【人】八・尓し乃・らう尓・よひ春ゑ弖・こ能・
【殿】井【人】・あひしらふ・あ奈多尓・可よふへ可
んめ累・春い可/〈ママ〉・と越・春こし・越しあ介弖・
身・【給】へ八・ナシ/+月・を可し支・【程】尓・きり王多れ累越・
な可免弖・春多れ越・三し可く・まきあ遣て・
【人】〻/(【人人】)・井堂り・すのこ尓・いと・佐むけ尓・【身】・
本そく・な衛者免累・王ら八・【一人】・
を奈し・さまなる・於と那毛・井堂り/堂〈次頁〉、(6オ)
--------------------------------------
うち那累・【人】・ひとり者・ゝし
ら尓/(者しら尓)・すこし・ゐ可くれ弖・ひ者越・
まへ尓・越きて・者ちを・てまさくり尓・
し川ゝ/(し川川)・ゐ堂る尓/△&ゐ・【雲】・可くれ堂りつる・
【月】乃・【俄】・い登・あ可く・さしいて
堂れ者・あふきならて・古礼して
毛・徒き葉・ま祢き川へ可り介り登
て・佐し能そき堂累・可を・い身
しう・らう堂け尓・尓本ひや
可なるへし・そひふし堂累/堂〈次頁〉、(6ウ)
--------------------------------------
【人】八・【事】能・うゑ尓・可多ふ支
可ゝ里弖/(可多ふ支可可里弖)・い累・ひを・可へ春・八ち
古そ・あ里け礼・佐ま・【事】尓毛・【思】
越よひ・【給】・【御心】可奈登て・うち王ら
ひ堂る・け者ひ・い満・すこし・
を毛里可尓・よし徒き堂里・越よ
者春とん・古れ毛・【月】尓・者那累ゝ/(者那累累)・【物】
可葉なと・者可奈き・【事】・うちと
遣・の堂まひ可八し堂累・介者い
登母・さら尓・よそ尓・【思】や里し尓八・尓す/(7オ)
--------------------------------------
い登・あ者れ尓・な川可しう・越可し・
む可し毛の可多里奈と尓・可多里川堂
へ・わ可き・【女房】なと乃・よむ越毛・
きく尓・可奈ら春・可やう能・【事】越・
いひ堂累・佐し毛・あらしと・尓くゝ/(尓くく)・
をし八可るゝ越/(をし八可るる越)・介尓・あ者れな累/り&累、(あ者れなり)・
【物】ゝ具ま毛/(【物】の)・あ里ぬへ可り介りい/い〈ママ、諸本と〉・古ゝろ/(古古ろ)・
う川里ぬへし・幾里・ふ可介れ八・
さや可尓・身ゆへく毛・あら春・ま多・
【月】・さしいてなと/(ぬと&なと)、(さしいてぬと)・於ほ春・【程】尓・越く能/(7ウ)←【251004_ここまで】
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 天気予報は雨でした。しかし、宇治駅前までの往復で濡れることなく帰れました。
 相変わらず、駅前には多くの観光客がおられます。宇治橋通り商店街は大混雑です。
 今日も、抹茶コロッケをいただいて帰りました。




posted by genjiito at 22:29| Comment(0) | ■講座学習
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