2025年09月06日

宇治で相愛本『源氏物語 橋姫』の変体仮名を読む会(4)

 猛暑の中、宇治も多くの人で賑わっていました。8割方は海外からの観光客のようです。

 今日のシェア型書店HONBAKO京都宇治での勉強会は、写本の画像を映写して確認しながら進めました。
 まず、この相愛大学の「橋姫」はハーバード大学の「須磨」「蜻蛉」、国立歴史民俗博物の「鈴虫」とは感触が異なる写本のように思われる、という個人的な感想から始めました。

 文字が書き写された料紙は、古筆家の宮川保子さんがおっしゃるように鎌倉時代のものだと思われます。しかし、そこに書かれている文字は、ハーバード本などとは違うグループが作成した写本のように思われるのです。そして、書写に当たって用いた『源氏物語』の親本も、ハーバード本の時とは違うように思われます。まだ確証を得るまでに至っていないので、問題点を少しずつ提示しながら考えていきたいと思います。

 例えば、今日見た3丁表から4丁裏までの3ページ半の範囲で言えば、絃楽器の「琴」を「事」と表記するものが四例あります。「きん」と書くのが一例だけありますが。どのような事情からこのような表記になったのかはともかくとして、他の写本ではほとんど見かけない、相愛大学本特有の例です。ただし、相愛大学の他の4巻は未確認です。
 また、「祢とん」(音ども、二例)、「八んへらん」(侍らん)の撥音便の表記も注意したいところです。

 「奈ま多く奈しき」(3丁裏10行目)は諸本が「なまかたくなしき」とするところです。「ま」と「多」の間にあるはずの「か」が脱落しています。
 同じ例として、「な尓」(4丁表3行目)は諸本が「なにか」とあり、ここでも「か」が脱落しています。
 もう一例。「免堂く」(4丁裏10行目)は諸本が「めてたく」とするところであり、「て」が脱落しています。
 さらに注意したいのは、「奈ま多く奈しき」と「免堂く」は、共に料紙の裏丁の丁末行にあたります。
 糸罫という道具を料紙の上に載せて書写していて、最終行になるところで糸罫を次の丁に移動するため、紙と手と目と筆が動くことで、書写の緊張感が解ける時です。本書の書写者には、集中力が緩むと注意力が落ちる習性か性癖があるのかもしれません。

 「み」と読む仮名文字に「三」(三例)と「身」(三例)があり、特に「身」を使うのはこの写本の特徴です。

 こうした書写者の特徴を追って行くと、ハーバード本と同じような料紙を使っていながらも、書写を担当しているグループはハーバード本のグループとは異なるように感じます。また、この相愛大学本の書写時の親本は、ハーバード本を書写した時の親本と違うセットの写本群だったのではないか、という思いを強くしました。

 なお、二例のなぞった箇所について紹介します。

250905_春曙「橋姫」3uL6-7&.jpg

 これは、3丁裏6行目にある「奈」と、そのすぐ左の7行目の「遊」の例です。
 右側の「奈」の下に書かれている文字は判別できませんでした。しかし、左側の「遊」の下には「ゑ」と書かれていることがわかりました。後日、相愛大学へ原本を熟覧するために行くので、その時にこうしたなぞった文字についても詳しく確認してきます。

 以上のことは、今後とも相愛大学本が持つ本文を「変体仮名翻字版」で翻字をして行くことで、問題点が明らかになる中で解明されていくはずです。今は、とにかく翻字を進めて行くことに専念したいと思います。

 本日確認した「変体仮名翻字版」は、以下の通りです。


相愛大学春曙文庫本『源氏物語 橋姫』第三丁表六行目〜第四丁裏
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可く・なる・【程】尓・【250906_ココカラ→】その・【事】ゝ毛/(【事】と毛)・きゝ王可
礼ぬ/(きき王可礼ぬ)・毛のゝ祢とん/(毛のの祢とん)・い登・春こ遣尓・支
こ遊・徒祢尓・可く・あそひ・【給】と・きく越・
ついて・奈くて・古乃・【御】きんの・祢の・奈多可き越毛・ナシ・
き可ぬそ可し・よき・越里那累へし登/(3オ)
--------------------------------------
於毛ひ川ゝ/(於毛ひ川川)・い里・【給】へ八・ひ者能・こゑ乃・ひゝ
きなり遣り/(ひひきなり遣り)・王うしきてう尓・
しらへ弖・よの川祢乃・可きあ者世奈ら
祢登・ところ可ら尓や・ゝな礼ぬ/(三三な礼ぬ)・古ゝち/(古古ち)・志て・
可き【返】・者ち乃・越と・毛のきよけ尓・越毛
新ろし・さう乃【事】・あ者れ尓・ま免き
堂る/△&奈・こゑ・して・堂ゑ/\/(堂ゑ堂ゑ)・きこゑ&遊・志八し・
き可ま本しき尓・しのひ・【給】へと・【御】け八ひ・
し累く・きゝ徒け弖/(きき徒け弖)・と乃ひ【人】めく・をのこ・
奈ま多く奈しき/ま多(〈ママ〉諸本なまかたくなしき)・いてき堂り/(3ウ)
--------------------------------------
し可/\し奈無/(し可し可し奈無)・古毛り越八しま春・
【御】勢う登越こそ・きこゑさ世免
と・【申】春・な尓/諸本なにか・し可・ゝ幾里/(可幾里)・ある・【御】をこ奈
ひ乃・本とゝ/(本とと)・まきら八し・きこゑさせん
尓・あい奈し・可く・ぬ礼/\/(ぬ礼ぬ礼)・まいりきて・
い堂川ら尓・可へらん・うれ越・ひ免
きみ乃・【御】可多尓・きこゑ弖・あ者
礼登・の多ま者世は奈ん・奈くさむ
へきと・の多まへ八・尓くき・可本越・
うち江弖・【申】させ・八んへらんとて/と〈次頁〉、(4オ)
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堂川を・し八しや登・めしよせて・
とし古ろ・い登徒弖尓乃/い〈ママ〉・きゝて/(ききて)・
ゆ可しう・於毛ふ・【御事】乃・祢とんを・
う礼し幾・をり可奈・春こし・ち可く・
堂ち可くれ弖・きくへき・毛のゝ/(毛のの)・く万
者・あ里や・こち奈く/諸本こゝちなく・さ新すきて・
まいりよらぬ・本と・那・【事】・や免・堂満
ひ弖八・いと・本ひ奈可らん登・乃堂まふ・
遣者ひ・可本可多ち能・さ累・な越/\し
き/(な越な越しき)・古ゝち尓母/(古古ち尓母)・い登・免堂く/諸本めてたく・可多し遣奈く/遣〈次頁〉、(4ウ)←【250906_ここまで】
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 次回の宇治での勉強会は、10月4日(土)です。
 興味と関心をお持ちの方の参加をお待ちしています。




posted by genjiito at 22:22| Comment(0) | ■講座学習
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