2025年07月27日

清張復読(79)「寝敷き」「断線」(『別冊黒い画集』より)

■「寝敷き」
 ペンキ職人が仕事中に屋根から見た隣家の情事の話から始まります。そしていつしか、2人の女性との危うい生活となります。さらには、若い娘とのことが拗れた挙句に、泥沼にはまります。男の苦悩が、事細かに語られます。睡眠薬による心中に展開したあたりから、清張らしい推理劇となっていくのです。
 最後に、情死する女がスカートを寝敷きしていたことに関して、心中にはそぐわない、という考えと、女性のたしなみとする意見が提示されます。そして、警察の判断は次のようにたしなみ説を取り、異議は却下されます。

「……このように女性が情死の前夜衣服を寝敷きしたからといって、必ずしも擬装情死とは決められない。A子は自分の死後、形見分けとしてスカートが生前の知己に渡されるのを考え、女性のたしなみとして寝敷きしていたのである」(260頁)

 しかし、清張はたしなみではないという考えを刑事に抱かせたまま、話を閉じているのです。後半になるにつれて読ませる、完成度の高い作品です。【5】


初出誌:『週刊文春』1964年3月〜4月




■「断線」
 男の恋愛遍歴が語られる中で、2人の愛人を殺します。1人目はうまく隠しおおせたものの、2人目で露見するところで終わります。
 前半はよくある展開です。しかし、後半になるにつれて緊迫し、最後まで読ませます。もっともつれる展開にしてもよかったのでは、と思いました。途中で結末が透けて見えたからです。
 そうだとしても、清張の文章は読ませます。つい、読み込んでしまいました。【3】


初出誌:『週刊文春』1964年1月〜3月


 『松本清張全集7』(文藝春秋社、1972.8.20)の巻末に収載されている荒松雄氏による「解説」では、次のように清張の作品を分析しています。同感です。

「「寝敷き」のペンキ職人源次や「断線」の主人公田島光夫と女たちとの関係がそうである。それは、少しずつエスカレートしてゆき、やがて、のっぴきならない羽目に落ちこんでゆく。しかも、このエスカレーションの契機は、多くの場合は、突発事件や事故という外的条件よりは、むしろ日常生活における「普段の心理」の増幅によって与えられるものであり、その心理にちょっとした迷いや狂いがでてきたときに拍車をかけられる、つまり、きわめて日常的な性格のものなのだ。読者は、いつなんどき自分の周辺でも起るかもしれないと切実に思いこんだり、ヤジ馬根性を満たされたりしてよろこぶのである。清張推理は、長編でも短編でも、その導入部から展開部にかけては実に見事なものが多く、ほぼ完璧に近い。
 その反面、清張作品には、後半や結末の部分でつまらなくなるものがある」(464頁)




posted by genjiito at 20:47| Comment(0) | □清張復読
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