2025年06月28日

キャンパスプラザ京都で尾州家河内本「桐壺」を読む(第31回)−変体仮名が扱えるスマホのこと−

 今日の京都の気温は、36度との予報が出ていました。
 日差しを避けるようにして、会場に入りました。

 今日は、勉強会の後は、同じ部屋でNPO法人〈源氏物語電子資料館〉の理事会と総会が開催されます。1階正面入口にある掲示板には、この2つの集まりの案内が出ています。

250628_パネル.jpg

 今日は、先日届いた、宮川保子さんが書かれた相愛大学蔵春曙本「橋姫」の臨模本作成のための下書きを、参会のみなさんに見てもらいました。断簡とはいえ、ハーバード本の面影を彷彿とさせる、鎌倉時代の『源氏物語』が偲ばれるものです。あと4巻あるので、清書版の臨模本の完成が待たれます。近日中に相愛大学へ原本調査に行く予定なので、この試作品を持参して、詳細に見比べて来るつもりです。

250628_春曙「橋姫」.jpg

 次に、いつものような前置きなしに、尾州家河内本「桐壺」に書き写された『源氏物語』の本文の確認に入りました。これまでの2回分の本文が順送りで積み残しとなっているので、とにかく今日の資料に追いつくのを最優先したのです。
 今日は、尾州家河内本「桐壺」の第20丁表〜第21丁裏までです。
 ただし、進めて行く中で興味深いことが話題となったので、まずはそのことから記します。

 それは、モトローラのスマートフォンに機種変更したところ、変体仮名が表示できるようになった、ということです。確かに、「あ」と入力すると、変換候補の文字の中にユニコード(UTF8)に登録された「あ 阿 愛 惡」の4文字が選択対象の文字として出て来ます。それを私の方にメールで送ってもらうと、私のスマートフォンには六本線の四角の記号が4つ並んで表示されます。つまり、モトローラのスマホで表示できた変体仮名は、アイフォンには正しく送れないようです。他社のスマホとの間では、どのような表示になるのでしょうか。その前に、モトローラ以外の海外のメーカーのスマホでも、変体仮名は表示できるのでしょうか。そして、変体仮名で書いたメールは、どのメーカー同士であればやりとりできるのでしょうか。

 文部科学省は、学校教育への変体仮名の導入は、教育現場を混乱させる、ということで認めていません。経済産業省は、コミュニケーションツールとしての変体仮名は容認しており、この両省のスタンスの違いには興味があります。
 いずれにしても、今日現在、日本で使用可能となっているスマホの一部に、変体仮名が利用、活用できる状況にあることは事実です。この事態を、文部科学省は承知・承認しているのでしょうか。正式な説明がほしいところです。

 私は、変体仮名が読めるようになるための社会人講座で、一日も早く変体仮名が日本で暮らす人が自由に読み書きとまでは行かなくても、少なくとも読める環境を提供すべきであることを力説しています。1900年(明治33年)に文部省は、300近くあった仮名文字を一音一字にするという、愚行でしかない文字改革をしました。学校で教える五十音図がそれです。日本語の教育を受けた人の100%は、平仮名は約50個だと信じて疑いません。しかし、それは、たかだか125年前に文部省が国字政策の一環で押し通したことであり、その時の審議内容は、ほとんどわかっていません。

 そして今、変体仮名が表示でき、メールでその変体仮名をやりとりできる環境が生まれているのです。
 先月刊行した『変体仮名でよむ 百人一首』(伊藤鉄也・吉村仁志 編、新典社、2025年5月)の巻頭の解説で、私は[変体仮名翻字版について]との見出しで以下の文章を掲載しました。

 平仮名は、平安時代から一つの音に対して複数の字体があった。それが、一九〇〇年(明治33年)に一音一字となり、そこから外された仮名文字は変体仮名(異体仮名)と呼ばれるようになる。
 二〇一七年六月に、国立国語研究所の成果として、世界中の文字を国際的に統一する標準規格であるユニコード(Unicode)に二八五字の変体仮名が登録された。しかし、依然として変体仮名は、読めない書けない表示できない文字として、放置されたままである。
 そこで、一人でも多くの方に日本の文化資産である変体仮名がスラスラと読めるようになってほしいとの願いから、東京・京都・大阪の三都三箇所で「変体仮名をよむ」ことをテーマとする社会人講座を開講することになった。(4頁)

 ここで、「しかし、依然として変体仮名は、読めない書けない表示できない文字として、放置されたままである。」としたことは正しくないことになり、補訂すべきであることがわかりました。つまり、現在、一部のスマホでは変体仮名が誰にでも自由に表示できるのです。そして、真面目に五十音図で仮名文字を覚えた多くの方が、その変体仮名が読めないのです。海外から日本に持ち込まれ、現在販売されているスマホを手にした人だけが、自由に変体仮名が扱えることに、私は国民の一人として違和感を覚えます。私が使っているアップルのスマホでは、表示も送信もできないからです。日本国内では扱えない変体仮名が、海外で入手したパソコンやスマホでは扱える問題点を、社会人講座で話題にしてきました。日本語の中でも、仮名文字がこのような状況に置かれていることは、日本語のコントロールが効いていないことになります。海外の方と一部のスマホを手にした人だけが変体仮名を操れる今、このままにして置いていいはずがありません。Tシャツの背中に漢字を書いていた人たちが、明日にでも変体仮名を印刷して歩くことが想像されます。その前に、街中には変体仮名が氾濫していることは、このブログでも、講座でも例示してきました。飲み屋さん街の暖簾や看板やメニューはもとより、和菓子屋さんや和雑貨屋さんでも、変体仮名は目にします。
 国語や国字について、日本という国が今後はどうするのか、変体仮名の扱いを通してしっかりと注視していきたいと思います。

 この変体仮名が自由に扱えるスマホは、河原町四条の家電量販店で手に入るとのことなので、足を運んで実状などを調べてみます。このことは、またあらためて報告します。

 さて、今日の尾州家河内本「桐壺」の「変体仮名翻字版」の確認は、以下のようになりました。
 問題点としては、今日の4頁分の範囲では、「江」が多くて「衣」が一例だけだったこと、2つ打たれた朱は濁音を示すだけか、そして、「ふち川本」と「源氏」の用字は、出て来た2回とも同じであることなどです。持ち越しとなったことは、「多まへと/ま=マ」(20丁裏6行目)と「【御】尓くさも/尓=ニ」(21丁表1行目)の、フリガナとしての片仮名です。これは、今後とも用例を集めて傾向を考えていきます。戸籍謄本の名前の表記に読みがなを片仮名でつけることについても話題が及び、活発な意見交換をしました。

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■尾州家河内本「桐壺」(今回:第20丁表〜第22丁裏まで)
[変体仮名翻字版]
・翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
  傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、
  補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部( 「 )・末尾( 」 )、
  底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)
※〈朱点〉の有無から、複合語を認めていない場合を集めるとおもしろい。
■翻字に関する佐藤さんからのメモ (要・第1回と第5回の〈朱点〉の再点検)
〈朱点〉を使って、原文をいかに正確に読み取るかという工夫が、尾州家河内本などでは随所に見受けられる。
  ※本行の文字間に打たれた読点としての朱点は、補入記号のない補入として、[/±〈朱点〉)]を原則とする。
ただし、朱点が削除されいてる場合は[±〈朱点削〉]又は[±〈朱点削?〉]とする。朱点が文字の左右に打
たれている場合は[/■±〈朱点右〉]又は[/■±〈朱点左〉]とする。特に朱点が右上に打たれている場合
は、文章の切れ目を示す句点の意味を持っている。
濁点やミセケチなどで朱点が2個あれば、[■=〈朱傍点2〉]とする。なお、ミセケチはおおむね左上に打
たれる傾向がある。
(1)句読点代わりに用いている場合
   @読点・・「/±〈朱点〉」とし、文節の途中にある場合は「■±〈朱点〉」とする。
   A句点・・文の最後につくもので、「±〈朱点右〉」「±〈朱点左〉」とする。
ただし、行末にある句点は、便宜上、次の文節の末尾に「±〈朱点〉」として明示したので要注意。
   B朱点が複数個ある場合は、「ち=〈朱傍点〉」「飛=〈朱傍点2〉」「飛=〈朱傍点3〉」とする。
     例 【野】王起堂ち弖/±〈朱点右〉、堂=〈朱傍点2〉、ち=〈朱傍点〉 (7ウL2)
(画像省略)
(2)傍点を用いて後の解釈に利用したと思われる例
   @強調・・文字の左側につくので傍書にならい、「いとと=〈朱傍点〉」
   A不明・・・右につく場合で「と=〈朱傍点右〉」としたがミセケチの可能性も?
 (3)「見」はなぞり書きされることが多い。次の表記を付加情報の基本とする。
今は、【見】の左横にはミセケチ記号はないものとする。
      例 △〈削〉【見】、【見】=【見】〈削〉 (6オL6)
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新・【給】て・於ほん【心】なとも/±〈朱点〉・なくさむへくと/±〈朱点〉・於毛
本しなりて/±〈朱点〉・ナシ・万いら勢/±〈朱点〉・多てまつり・堂まへり・ナシ・
ふち川本と起こゆ/±〈朱点右〉、起±〈朱点〉・遣尓【御】可多ち/±〈朱点右〉、【御】±〈朱点〉・ありさま/±〈朱点〉・
ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・ナシ・あやしき万てそ/±〈朱点〉・於ほ江/±〈朱点〉・堂まへる・これ者/±〈朱点右〉・
【人】乃/±〈朱点〉・【御】き八・まさり/±〈朱点〉・於もひや里/±〈朱点〉・めてたくて/±〈朱点〉・多れも/±〈朱点〉・
江/±〈朱点〉・於もひ於としめ・起こ江・堂ま八ね八・う遣八り
て/±〈朱点〉、う遣=〈朱傍点〉、八=〈朱傍点2〉、りて=〈朱傍点〉・あ可ぬ/±〈朱点〉・【事】・なし・可礼八/±〈朱点右〉・【人】も/±〈朱点〉・ゆるし/±〈朱点〉・起こ江さ里
し尓いとゝ/い±〈朱点〉、(いとと)・於本ん【心】さし能/±〈朱点〉・あやにくなりしそ
かし・於本しま起ると八/±〈朱点右〉・な遣れと・をのつ可ら/±〈朱点〉・【御
心】う川ろひて/±〈朱点〉・ナシ・ナシ・こよ那う/±〈朱点〉・於ほしなくさむ/±〈朱点〉・やうなるも/も〈行末左〉・
あ八れなる/±〈朱点〉・わさなり遣り・【源氏】のき三八/±〈朱点右〉、【見】$〈削〉三、三=△〈削〉・【御】あ多り/±〈朱点〉、り〈丁末左〉、(20オ)
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さ遣さ勢/±〈朱点〉、=不遠也、さ遣=〈朱傍点〉・多ま八ぬ本と尓・し遣う/±〈朱点〉・わ多ら勢/±〈朱点〉・【給】・
可多八・まして/±〈朱点〉・江・かく礼あへさせ・多ま者須・いつ
れの/±〈朱点右〉・【御方】も・わ礼/±〈朱点〉・【人】尓/±〈朱点〉・於とらんと・於本し多流や八/±〈朱点〉・
ナシ・ある・と里/\尓/±〈朱点〉、(と里と里尓)・いと/±〈朱点〉・めて多うこそ八・於八寿礼と・みな/±〈朱点〉・
うちをと那飛/±〈朱点〉、をと那=〈朱傍点〉、飛〈朱傍点2〉・ナシ・多まへる尓・ナシ・いと/±〈朱点〉・王可う/±〈朱点〉・ゝ徒くし
け尓て/±〈朱点〉、(う徒くしけ尓て)・せち尓/±〈朱点〉・かく礼/±〈朱点〉・多まへと/ま=マ・あさ遊ふ尓/±〈朱点〉・さふら
ひ・多まへ八・をのつ可ら/±〈朱点〉・ナシ・【見】/±〈朱点〉、み$〈削〉【見】、【見】=△〈削〉・多てまつり・【給】尓・八ゝ/±〈朱点〉、(八八)・
みや春ところ・可遣多に/±〈朱点〉・於ほ江/±〈朱点〉・堂ま八ぬを・ナシ・
いと/±〈朱点〉・よう/±〈朱点〉・に/±〈朱点〉・ナシ・多まへりと・【内侍】乃す遣の/±〈朱点〉・起こ江
遣るを・於さ那き/±〈朱点〉・於ほむ【心地】尓/±〈朱点〉・いと/±〈朱点〉・あ八礼と/±〈朱点〉・
於もひ/±〈朱点〉・きこ江【給】て・つね尓/±〈朱点〉・【見】/±〈朱点〉、△〈削〉【見】、【見】=【見】〈削〉・多てまつらま本しく/く〈次頁〉、(20ウ)
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なつさひち可う/±〈朱点〉、ち±〈朱点〉・まいら八やと/±〈朱点〉・於ほえ/±〈朱点〉・多まふ・
うへも/±〈朱点右〉・可きり那幾/±〈朱点〉、く&幾、(可きり那く)・【御】於もひとちにて/±〈朱点〉・な/±〈朱点〉・う
と三・【給】そ・あやしう/±〈朱点〉・よそへ/±〈朱点〉・きこ江徒へき【心地】
なん/【心地】±〈朱点〉・する・なめしと/±〈朱点〉・於本さて/±〈朱点〉・らうたう/±〈朱点〉・し・【給】へ・つら
つき/±〈朱点〉・まみなと能/±〈朱点〉・いと/±〈朱点〉・よう/±〈朱点〉・に多里し/±〈朱点〉・ナシ・ゆへ・可よひ/±〈朱点〉・き
こ江多めるも・に遣那可ら春/±〈朱点〉、春+と、傍とノ下ニ〈朱点〉(に遣那可ら春と)・つね尓・きこ江さ勢/±〈朱点〉・
【給】を・於さ那きこゝち尓も/±〈朱点〉、こ±〈朱点〉、(ここち)・う礼しく/±〈朱点〉・於もひて・
八可那き/±〈朱点〉・【花】/±〈朱点〉・もみち尓・つ遣ても/±〈朱点〉・於可しき/±〈朱点〉・さま尓・
【心】さしを【見】江堂て万つり/±〈朱点〉、【見】±〈朱点〉、△〈削〉【見】、【見】=△〈削〉・こよ那う/±〈朱点〉・【心】よ世/±〈朱点〉、△〈削〉よ、△〈削〉せ・
起こ江・堂まへれ八・こきてんの【女御】八/±〈朱点〉・【又】/±〈朱点〉・こ能/±〈朱点〉・【宮】を・
【心】/±〈朱点〉・よ可ら須・於もひきこ江【給】/±〈朱点〉・ゆへ尓うちそへ弖/う±〈朱点〉、(21オ)
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もとよりの/±〈朱点〉・【御】尓くさも/尓=ニ、(【御】二くさも)・堂ちいてゝ/±〈朱点〉、(堂ちいてて)・ナシ・【物】しと/±〈朱点〉・
於ほし多り/±〈朱点〉・よ尓なう/±〈朱点〉・堂くひなしと/±〈朱点〉・ナシ・【見】/±〈朱点〉、△〈削〉【見】、【見】=【見】〈削〉・多て
まつり・ナシ・な多可う/±〈朱点〉・於八春流/±〈朱点〉、し&春、(於八し)・【宮】能/±〈朱点〉・【御】可多ち尓も・
なを/±〈朱点〉・この/±〈朱点〉・【君】能・尓本八しさ八・まさりて/±〈朱点〉・ナシ・ナシ・多とへん/±〈朱点〉・
可多・那くう川くし遣那るを/う±〈朱点〉・よの/±〈朱点〉・【人】・飛可る
【君】と/±〈朱点〉・きこゆ/±〈朱点〉・ふち川本の/±〈朱点右〉・ナシ・ナシ・【御】於ほ江・と里/\
なりと尓や/(と里と里なりと尓や)・かゝやく飛能【宮】と/±〈朱点〉、飛±〈朱点〉、(かかやく)・きこゆめ里し/し〈左傍記〉・
【源氏】乃/±〈朱点〉・【君】能・【御】王ら八す可多・いと/±〈朱点〉・可へまうく/±〈朱点〉・
於ほ世と/±〈朱点〉・【十二】尓て/±〈朱点〉・ナシ・ナシ・ナシ・【御元服】・ナシ・し多まふ・み可登/±〈朱点右〉・
よろ川尓/±〈朱点〉・井多ち弖/±〈朱点〉、=居起〈付箋〉・於本しい多川き・かきり/±〈朱点〉・
ある・【事】尓・【事】を/±〈朱点〉・く八へさ勢・ナシ・ナシ・ナシ・多まふ・飛とゝ世能/±〈朱点右〉、(飛とと世能)、能〈次頁〉、(21ウ)
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 この勉強会が終わってからは、少し休憩を置いて、NPO法人〈源氏物語電子資料館〉の理事会と総会となりました。このことは、議事録の整理が出来てから、追って報告します。




posted by genjiito at 23:21| Comment(0) | ■講座学習
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