あいにくの雨の1日でした。
今日の大阪府立中之島図書館での「新古典塾 平安文学」は、まず「変体仮名で書かれた『百人一首』をよむ」からです。
新しいテキストである『変体仮名でよむ 百人一首』は、今日から使うことになります。
最初の4首は先月プリントで確認はしていたので、さっと見た後、5番歌の猿丸大夫と6番歌の中納言家持の変体仮名に注目して見ました。
その前に、生成AIによる陽明文庫カルタと国文学研究資料館カルタの文字の分析結果を、プリントをもとにして通覧しました。これは、ブログ「たつみのいほり より」に2025年06月09日に公開した記事「人工知能の支援により国文学者の研究環境が激変することを実感」(http://genjiito.sblo.jp/article/191380601.html)を見ながら、人工知能が『変体仮名でよむ 百人一首』を解析した結果を示し、今回扱うカルタに書かれている文字の傾向を見ておこうとしたものです。
まだ私自身が詳細に傾向の分析をしていないので、あくまでも生成AIはこんな結果を瞬時にだしました、という現在の人工知能の働きぶりを紹介したものです。当たっているとおもわれるものもあり、勘違いしていると思われる所などをコメントとしてお話しました。私が気になったのは、生成AIは漢字と平仮名と変体仮名の区別がついていないと思われることです。これは、さらに人工知能に指示をして、より正確な理解で推論を展開するように仕向ける必要があります。今日のところは、まずはこんな意見を生成AIが出していますよ、という紹介に留めておきました。
30分の休憩を置いて、次はハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「蜻蛉」の仮名文字を読むことに移りました。あと5回ほどでこの「蜻蛉」を見終わる予定なので、今年中には終われるかと思います。
今日は、55丁表から56丁裏までを確認しました。なぞって修正した箇所が多かったので、写本の拡大写真を使ってナゾリの説明しました。
まず、55丁裏9行目の「於も本しつ可八んせ【給】八んと/と&せ、(於も本しつ可八んと)」とある箇所です。
この箇所をどう読み解くかということで、私は「つかはんと」と書き写した後、「と」の上から「せ」をナゾリ書きしたのもだと判断しました。文字で記述すると「八んと/と&せ」となります。
その傍証として、『源氏物語別本集成 第十五巻 蜻蛉−夢浮橋』(伊井・伊藤・小林編、おうふう、2002(平成14)年、227頁にハーバード本を追記)を引いて、その書写状況が説明できることを話しました。ハーバード本がまず書き写した「於も本しつ可八んと」は高松宮本と国冬本が持つ文字列です。それが、大島本などの諸本の「おほしつかはせ」に補訂されたということです。
次に、ハーバード本の「【給】八んとの多万者せ介り」は、保阪本が伝える「給はんとのたまはせけり」と同じように「給はんと」が追補された本文となっているので、独自異文ではなく指示される本文があったということです。いずれも、鎌倉時代の写本であり、今は重要文化財となっている古写本です。つまり、ハーバード本の本文は、より古い本文に支えられている本文である、ということになります。
底本 陽 源氏物語(陽明文庫蔵)
校異 大 源氏物語 大島本(古代学協会蔵)
高 源氏物語 高松宮本(国立歴史民俗博物館蔵)
保 源氏物語 保坂本(東京国立博物館蔵)
国 源氏物語 国冬本(天理図書館蔵)
麦 源氏物語 麦生本(天理図書館蔵)
阿 源氏物語 阿里真本(天理図書館蔵)
尾 源氏物語 尾州家河内本(名古屋市蓬左文庫蔵)
ハ 源氏物語 ハーバード本(ハーバード大学美術館蔵)
おほしつかはせー(陽保)・・・・・・・・525364
おもほしつかはんと[高国]
めしつかはせんと[麦阿]
おほしつかはんと[大尾]
→於も本しつ可八んせ/と&せ[ハ]
給けりー(陽)・・・・・・・・・・・・・・・・525365
の給はせけり[大高麦阿尾]
給はんとのたまはせけり[保]
の給けり[国]
→【給】八んとの多万者せ介り[ハ]
2つ目は、ハーバード本の56丁表3行目の「そしろ八春/万&そ〈薄墨〉、ろ八〈ママ〉、(万しろ八春)」とした箇所です。
ここは、「万しろ八春」と書き写した後に「万」の上に少し横向きの「そ」が薄墨で書かれています。「そしろ八春」にしたいようです。次の諸本の本文異同からわかるように、ここは諸本が「そしらす」とする所なので、ここでのハーバード本の本文は「ましらはす」とする陽明文庫本と保坂本の仲間となるものです。ここでも、ハーバード本は現在流布本となっている本文とは異なる、平安・鎌倉時代の本文を伝えているのです。
底本 陽 源氏物語(陽明文庫蔵)
校異 大 源氏物語 大島本(古代学協会蔵)
高 源氏物語 高松宮本(国立歴史民俗博物館蔵)
保 源氏物語 保坂本(東京国立博物館蔵)
国 源氏物語 国冬本(天理図書館蔵)
麦 源氏物語 麦生本(天理図書館蔵)
阿 源氏物語 阿里真本(天理図書館蔵)
尾 源氏物語 尾州家河内本(名古屋市蓬左文庫蔵)
ハ 源氏物語 ハーバード本(ハーバード大学美術館蔵)
ましらはすー(陽保)・・・・・・・・525379
そしらす[大高国麦阿尾]
→そしろ八春/万&そ〈薄墨〉、ろ八〈ママ〉、(万しろ八春)[ハ]
『源氏物語別本集成 第十五巻 蜻蛉−夢浮橋』(伊井・伊藤・小林編、おうふう、、2002(平成14)年、229頁にハーバード本を追記)
3つ目は、「なけき」の「け」という仮名を〈判読〉にしたことです。
この文字は、今は「け」としておき、今後の課題の1つにします。
本日確認した範囲の「変体仮名翻字版」は、以下の通りです。
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■ハーバード大学蔵『源氏物語 蜻蛉』55丁表〜56丁裏
翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、
補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部( 「 )・末尾( 」 )、
底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)
--------------------------------------
かの可多【身】尓/【身】〈ママ〉、(可多身尓)・阿可ぬ・可なしさ越も・の多万
ひい川ゝき/(の多万ひい川川き)、ゝ$へ、(の多万ひい川へき)・【人】さへ・なき越・多いの【御】可多八可りこそ
八・あ者れなと・能【給】へと・ふ可く・三・【給】八さりける・うちつけ
の・む川ひなり介れ八・いと・ふ可くしも・い可て可八・あら
む・【又】・於ほ須・万ゝに/(万万に)・こひしや・い三しやなと・の【給】
者ん尓八・可多八らい多介れ八・かしこ尓・あ里し・
志ゝうをそ/(志志うをそ)・れいの・む可へさせ・【給】介る・三な【人】とも
を者・いちりて/いち〈ママ〉・めのとゝ/(めのとと)・この・【人】・ふ多りなん・とり
わきて・於ほし多りしも・わ春れ可多くて・
阿りふる尓/くて〈行間〉、しゝう八〈行間〉(ししう八)、よそ【人】なれと〈行間〉、なを〈行間〉、可多らい弖、弖マデ行間・よ川可ぬ・可はの・をとも・うれしき世もや阿ると/世〈次頁〉、さ&世〈薄墨〉、(さもや)、(55オ)
--------------------------------------
多のみし・本とこそ・なくさみ介
れ・【心】うく・い三しう・もの於そろしくの三・おほえ
て・きやう尓・阿やしき・【所】尓・このころ・きて・
ゐ多りける・多つねいて・【給】て・さふらへと・の多万へと・
【御心】八・さる・もの尓て・【人】/\の/(【人人】の)・い者ん・ことも・さる・す
ちの・こと・万し里ぬる・阿多り八・きゝくへき/(ききくへき)、ゝくへ$き尓く、(きき尓くき)・【事】も・
あらんと・【思】へ八・うけひき・ゝこえす/(きこえす)・きさいの三や二・
万いらんとなん・於もむ介多れ八・いと・よ可んなり・
さて・【人】しれ春・於も本しつ可八んせ【給】八ん
せ/と&せ、(於も本しつ可八んと)・の多万者せ介り・【心】本そく・よるへ・なきも/き〈次頁〉、(55ウ)
--------------------------------------
なくさむやとて・しる/多&る、(し多)・たより・もとめ
て・万いりぬ・き多な介なくて・よろしき・【下】らう
なりと・ゆるして・【人】も・そしろ八春/万&そ〈薄墨〉、ろ八〈ママ〉、(万しろ八春)・【大将殿】も・
川年尓・万いり・【給】ふ越・三る・多ひ尓・ものゝみ/(もののみ)・
あ者れなり・いと・やむことなき・ものゝ/(ものの)・ひめ【宮】
の三・於ほく/△&於・万いり川とひ多る・三やと・【人】も・いふ
を・やう/\/(やうやう)・めとゝめて/(ととめて)、めて&めて・三れと/こ&三、(これと)・な越・三・多て万つり
し/く&て、(多く万つりし)・【人】尓・尓る八・な可り介りと・【思】あ里く・[29]この・
者る・うせ・【給】ぬる・【式部卿】能【宮】の・【御】む春免を/を&を・ま
ま八ゝの/(まま八八の)・き多の可多・ことに・あいをも者て/て&て・せうとの/と〈次頁〉、(56オ)
--------------------------------------
む万の可み尓て【人】可らも・ことなる・こと・
なき・【心】・可け多る越・いとをしうなとも・【思】多
えて・さるへき・さ万尓なんと・ちきると・きこ
しめ春・多より・ありて・いとをしう・ちゝ/(ちち)・【宮】
の・い三しう・かしつき・【給】介る・飛免【宮】を・い多川
らなる・やう尓・もてなさん・ことなと・の多万者
せ介れ八・いと・【心】本そう能三/△&三・於もひなけき/け〈判読〉・【給】・
ありさまにて・な川可しう・かく・多つね/し&つね、(多し)・
【給】八する越なと・【御】せうとの・【侍従】も・いひ弖・
このころ・む可へさせ・【給】てける・飛め三やの/(56ウ)
--------------------------------------(250614_ココマデ)
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