2025年05月31日

宇治で相愛本『源氏物語 橋姫』の変体仮名を読む会(1)

 宇治で『源氏物語』の古写本を読む勉強会の、今日は記念すべき第1回でした。
 会場は、JR宇治駅から徒歩3分という至便の場所にある、「シェア型書店HONBAKO京都宇治」の2階です。真新しい内装のきれいな部屋で、しかも設置されたばかりの白木の机を並べて勉強会をしました。

 京都での『源氏物語』の変体仮名を読む会は、京都駅前のキャンパスプラザ京都(京都市大学のまち交流センター)で毎月第4土曜日に開催しています。そして今日からは、宇治十帖を読む場所として念願だった、宇治駅前の地で静かにスタートすることになりました。少なくとも十年は続けたいと思っています。

 本日配布した資料(12頁)の最初に、次の文章を掲げました。


■勉強会の内容
ここ宇治の地では、『源氏物語』の宇治十帖の初発の巻である第45帖「橋姫」に書かれた、鎌倉時代の古写本の仮名文字を読みます。
テキストとする古写本は、鎌倉時代中期に書写された現存最古の古写本の一つであり、美麗な美術品です。具体的には、相愛大学の春曙文庫が現蔵する断簡五冊の内、「橋姫」巻に書写されている文字を変体仮名に注目して確認していきます。
今回使用する資料は、国文学研究資料館から公開されているパブリックドメインの画像です。
かつてこれは、ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』(「須磨」「蜻蛉」)と、国立歴史民俗博物館蔵「鈴虫」(重要文化財)と一緒に伝えられていた古写本でした。春曙文庫に伝わる他の四冊は、第二帖「帚木」・第三三帖「藤裏葉」・第四九帖「宿木」・第五三帖「手習」で、すべて現在は断簡としての本文しか残っていません。
この古写本に書かれている文字が、とにかく読めるようになることを、当面は第一の目的とします。一人でも多くの方が、日本の文化資産である変体仮名が読めるようになることを願って開催する勉強会です。そして、これはデータベースの構築へと展開し、生成AIで分析していきます。

[参考資料]
『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」』(伊藤編著、新典社、2013年)
『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「蜻蛉」』(伊藤編著、新典社、2014年)
『国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」』(伊藤・阿部・淺川 共編、新典社、2015年)
『現代の図書館』(vol.62 no.3、通巻251号、日本図書館協会現代の図書館編集委員会編、2024年)
  相愛大学図書館「春曙文庫」の蔵書とその最新研究/阿尾あすか
  春曙庵主田中重太郎−その人となりと蔵書形成/山本和明
  天理図書館と「源氏物語」古典籍資料−蒐集の経緯・名品の紹介/岡嶌偉久子
  日本古典文学作品とAI・機械翻訳について/淺川槙子


 この勉強会を開催する趣旨と展望は、上に書いた通りです。
 続いて、ハーバード本『源氏物語』「須磨」「蜻蛉」と歴博本『源氏物語』「鈴虫」』について刊行した本を見てもらいながら簡単に説明しました。『源氏物語大成』や『源氏物語別本集成 正・続』についてもその位置づけを解説し、今回の春曙文庫の「橋姫」の意義に及びました。
 配布したプリントには、次の説明文を掲載しました。


■春曙文庫の『源氏物語』に関する説明
リーフレット「春曙庵主田中重太郎その人とことのは」(2024.03_ver.01)
国文研共同研究「相愛大学「春曙文庫」に関する研究−書物と人」の成果として製作

 ◎源氏物語本文について(田中重太郎)
 ところで、源氏物語の本文でも定家の証本がいま定本視されているが、いわゆる別本系の本文と読みくらべると、いまの源氏物語の本文は、なんだかばかに整頓され、みがかれ過ぎた感じがする。架蔵の鎌倉初期書写の源氏物語断簡(昭和三十九年十月刊)を読みかえしていると、こんな本文の源氏物語がすくなくとも平安末期にはあって、読まれていたのだと思い、いま行われている源氏物語の本文と読みあわせると、そらおそろしい気がして来る。(下略)  (清少納言と「ほのかなり」と『平安文学研究』第四十二輯、昭和四十四年六月号、『枕草子三十五年』再掲)
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リーフレット『春曙文庫の名品2 知られざる名品 古筆切・断簡・清少納言の肖像』(2023.03_ver.01)
国文研共同研究「相愛大学「春曙文庫」に関する研究−書物と人」の成果として製作

『源氏物語』の断簡(完全な形ではなく、切れ切れとなって不完全な状態で残ったもの)。正方形に近い形の桝形本で、本文は十行書き、列帖装(れっちょうそう)であったと推測される。鎌倉時代中後期の書写と考えられ、筆者は不明だが、五人以上による寄り合い書きである。雁皮紙が使用され、花・鳥・紅葉・月などのぼかし絵が入っている部分がある。
 断簡の本文は、広く読まれている青表紙本(藤原定家が書写や校合に関与した本)系統の『源氏物語』とは異なる部分が多く、別本に分類される陽明文庫本(鎌倉中期書写とされる写本)との一致が見られる。田中重太郎による解説と帚木巻の一部の翻刻を付けて、東風社からコロタイプ印刷による複製が刊行された(一九六四年)。藤裏葉巻と橋姫巻の前半は相愛国文 九・一〇に、柿谷雄三が翻刻を掲載している。
 断簡は、帚木巻・藤裏葉巻・橋姫巻・宿木巻・手習巻の一部からなっている。
(中略)
 橋姫巻・宿木巻・手習巻は、光源氏死後の人々の動向が語られる巻々である。物語の中心人物として匂宮(光源氏の孫)と薫(表向きは光源氏の次男だが、実際は柏木の息子)が据えられる。
 橋姫巻では、薫が宇治に住む八宮の元を訪ね、八宮の娘である大君と中の君を垣間見る場面や、薫が出生の秘密を知る場面が残っている。(後略)             (川渕紗佳・飯田実花)


 こうした説明を踏まえて、まずはハーバード本『源氏物語 須磨』第一丁表の影印画像を見て、[変体仮名翻字版]の実際を通覧しました。これは、これから見る春曙本「橋姫」がハーバード本とツレの写本であるかどうかを考える上で、写本が持つ雰囲気に慣れることでもあります。

 引き続き、春曙本『源氏物語 橋姫』の現存第一丁表・裏の画像を見ながら、そこに書写されている本文を[変体仮名翻字]にした資料で丹念に文字を追いました。その際、『源氏物語別本集成 第12巻』(おうふう、2000年)の校異編の該当頁を参照し、諸本の本文との違いを確認しながら進めました。これは、今まではやってこなかった手法です。

 今日は、京都新聞の案内記事を見てお出でになった方がいらっしゃいました。初めて変体仮名を勉強するとのことだったので、仮名文字の字母を確認し、みんなで一緒に教えあいながら、ゆっくりと丁寧に進めました。

 今日配布した資料としては、第1丁の表裏2頁分を用意していました。しかし、慌てて進むことでもないので、今日は1丁表の7行目までを、時間をかけて進みました。

 今日の特記事項としては、私が「す」としたところを、最近みんなで取り決めたルールに則り、字母の「寸」にしようということになりました。次の画像は、第1丁表5行目の行末にある「堂ま者寸」となる所の「寸」です。最後の線が下に延びず、上向きで点を打つように書かれているので、「す」とせずに「寸」とします。

250531_春曙「橋姫」1oL5「寸」.jpg

 また、春曙本が「としころ(年比)」(4行目)とする所で諸本のほとんどが一致しているのに、麦生本・阿里莫本・中京大本は「としつき(年月)」としていました。また春曙本をはじめとして諸本が「いみしく」(6行目)とする所を、麦生本・阿里莫本・中京大本は欠脱していることから、麦生本・阿里莫本・中京大本は春曙本とは大きく異なる本文を伝えていることがわかります。
 今後とも春曙本がどのような本文を書承しているのかを考える参考とするためにも、こうした諸本との本文異同も確認事項の中に入れたいと思います。

 今日は、変体仮名を読む時間よりも、さまざまな文字の話が多くなりました。みなさん、積極的に発言しておられたので、楽しい勉強会となりました。

 次回は、7月5日(土)です。
 こうしたことに興味と関心をお持ちの方は、一度参加して仮名文字の世界の多様さを楽しんでください。
 その際には、本ブログのコメント欄をご活用ください。

 帰りには、1階に並ぶ100個近い小さな本箱の壁面の前で、さまざまな本を手に取って気ままにお話をしました。本好きが集まる空間として、すばらしいコミュニティの場となっています。ますます人が集まる場となることを願っています。




posted by genjiito at 21:43| Comment(0) | ■講座学習
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