この連休中は、ほとんど伏せっていました。おかげで、いろいろなことを考え、これまでのことを整理できました。その一例を書き残しておきます。
現在、京都・宇治・大阪・東京の4か所で、『源氏物語』の本文データベースの作成を進めています。数年前から、従来の五十音に置き換えたデータ作りとは決別し、[変体仮名翻字版]と名付けた再現性の高い、平仮名の字母に拘った翻字形式に取り組んでいます。写本に書き写されている文字そのままの文字で翻字する、という方針を守っています。そのため凡例が複雑になり、お手伝いしてくださる方々にはご迷惑をおかけしています。
例えば、写本に「阿者連」という変体仮名で書かれていれば、現在通行している翻字方法の「あはれ」とはしません。
1900年に文部省が仮名文字改革として着手した、現行の平仮名に置き換えた翻字では、その写本に書き写されている文字の時代性が切り捨てられ、正確性もなくなり、今読むための文字列に変えることになるのです。現行の五十音図に縛られない、世界共通の文字コードである変体仮名を導入したユニコード(UTF-8)がすでにあるのですから、写本に書き写されている文字に寄り添った本文データベースを構築することは長い目で見ても正しい判断だと思います。そうでなければ、これから取り組むことになる生成AIを導入した研究など、基礎資料が不正確では意味をなさなくなります。
一例をあげます。
「須磨」の巻に、古来愛唱される「須磨にはいとど心づくしの秋風に〜」と語られる場面があります。
この「須磨には」というところを、ハーバード大学美術館蔵『源氏物語 須磨』(40丁表4行目)では次のように書写しています。
これを、一般的には「すまには」と平仮名で翻字し、さらに「須磨には」と漢字を当てます。しかし、「すまには」は五十音の平仮名に置き換えたものです。実際には、変体仮名で「春満尓八」と書写されているのです。こうした、書かれている文字の字形や字体を無視して、何でも五十音の平仮名に変換したのでは、書写の実態が隠されてしまいます。これを何とか克服して、より実態に即した翻字を実現しようとするのが、私が提唱している「変体仮名翻字版」です。
この翻字が進むと、日本語がどのような文字で書かれたかがわかるようになります。その使われ方や、書写における親本の素性などもわかります。このことは、生成AIを活用することによって、おもしろいことがわかる時代が来るでしょう。
遅々として捗らない、時間と手間のかかる作業です。しかし、近年の生成AIの進展を意識して、大量の基礎データの構築を目指して、日夜取り組んでいることろです。
生成AIの分野で仕事をする息子のアドバイスを得て、今は500万字の翻字データを用意することを、当座の目標としています。もっとも、まだ10万字にも満たない段階なので、まだまだ実証実験すらできません。
15年前まで、『源氏物語別本集成 正・続』(全二十二巻、桜楓社・おうふう、1989年〜2010年)という本文資料集を刊行していました。しかし、嘘の翻字を後世に残したくないので、刊行を中断しました。その時の弁明は「『源氏物語別本集成』中断の弁」(2010年06月24日、http://genjiito.sblo.jp/article/178934604.html)に書きました。
正編15巻については、総勢80人が376帖の写本を読み、各帖を3人が読んで確認したので、約10億字を読んだことになります。続編は3倍の分量の写本を対象としていたので、約30億字を読む計画でした。しかし、上記の理由で道半ばの続編の第7巻で打ち切りました。『源氏物語別本集成 正・続』のプロジェクトで得られた約20億字以上の翻字データは、現行の平仮名に置き換えた翻字であったために、今回の「変体仮名翻字版」には、参考にはなってもデータとしては使えません。
『源氏物語別本集成 正・続』では、お手伝いしていただいた方々のお名前を各巻の冒頭に掲載し、感謝の気持ちに代えました。それが、最近は、NPO法人〈源氏物語電子資料館〉を介したプロジェクトになっているため、薄謝をお支払いして、「変体仮名翻字版」の翻字作業を進めてきました。しかし、今後も増え続ける翻字データの対処について、NPO活動に限界を感じています。資金が足りないからです。官民からの活動支援を得て、対処すべきでしょう。しかし、100年計画のどこまでをどのように進めるのか、と言う展望を整理する必要が直近の課題となっています。
幸い、NPO法人〈源氏物語電子資料館〉という組織がデータベースを構築・公開し、古写本が読める方を一人でも多く育てる、という使命を持っているので、このNPO活動の有効活用をまずは考えて進むことになります。その前提として、これまでの薄謝での対応ではなく、『源氏物語別本集成 正・続』の時のように、お名前を随時ネットに掲載することでの対応が、このプロジェクトの末長い展開のためにはいいのではないか、と思うようになりました。
こうしたことは、近日中に開かれる総会で、提起して議論したいと思います。
いろいろな方からの助言を得て、さらに一歩ずつ進んでいくつもりです。
より一層のご支援を、お願いします。
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