■「事故」
トラックの物損事故が、殺人事件と絡み合いながら、意外な方向へと展開します。
そして、別件で殺人事件が起きます。当然、この2つは無関係のはずなのに、作者は丹念に2つの話を続けます。どのような接点から解決の道が開くのか、興味深く読み進みました。まったく関係のなかった刑事が、知り合いの事故の話から真相を手繰り寄せるのでした。理屈では繋がっても、読んでいた読者としては何となくスッキリしません。いかにも作られた話である、という読後感が消えません。【2】
初出誌:『週刊文春』1963年1月〜4月
※参考資料:『松本清張事典 決定版』(郷原宏、角川学芸出版、平成17年4月)には、次のようにあります。
「依頼者と関係を持った興信所長が秘密を守るために自分の部下を殺すという事件を倒叙法で描いた犯罪サスペンスの傑作。」(76頁)
■「熱い空気」
家政婦の実態が詳しく披露されます。作品を理解するのに役立ちます。そして、家政婦の信子は配属先の家族に、日頃の鬱憤を晴らすための復讐をするのでした。その心理の動きと手口が、巧みに語られます。人間や家庭のありようの脆さを、上手く描き出していきます。
信子は、他人の不幸の傍観者を徹底します。人格を無視された家政婦の悲哀と、家庭への羨ましさや嫉みが、その根底に横たわっているのです。そして、家庭の破壊までも。大学教授への蔑みも、背景にあります。
しかし、物語は意外な方向に向かい、信子自身に災いが降りかかります。この結末に、何か不完全燃焼を感じました。丁寧に語り続けできたものが、子供から悪戯という復讐を受けることで、突如打ち切られたように思ったからです。
私は、信子がチフスにかかる展開を想定していました。それが、違っていたのです。作者は、筆を擱くことを急いだかのようです。それまでの登場人物が置いてきぼりです。これでは、読んで来た読者も置き去りにされた気持ちになります。丹念に復讐劇が組み立てられていただけに、後味がすっきりしない作品でした。【3】
初出誌:『週刊文春』1963年4月〜7月
※参考資料:『松本清張事典 決定版』(郷原宏、角川学芸出版、平成17年4月)には、次のようにあります。
「家政婦の眼を通して上流家庭の内幕をのぞき見るというホームドラマ風のサスペンスで、結末のひねりが効いている。」(12頁)
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