2024年12月05日

清張復読(74)「史疑」「年下の男」「古本」(「死の枝」より)

■「史疑」

 冒頭で「もう六十七の老人である。」とあり、七十三になる私は、時代感覚の違いを痛感しました。この後、「自分はすでに六十七だ、あとそう長くはない、」(355頁)ともあります。

 さて、物語は歴史学者の犯罪を扱ったものです。急転直下、犯人が炙り出されたのは、一人の郷土史家の推理からです。新井白石の『史疑』があったのか否かよりも、それを見たい学者の心理が描かれます。そして、偶然の行為が後年明るみになると言う、見事な推理が展開します。短編ながら、読ませる作品です。【5】



初出誌:『小説新潮』1967年5月

※参考資料:『松本清張事典 決定版』(郷原宏、角川学芸出版、平成17年4月)には、次のようにあります。
「一級史料への執着が殺人に結びつくという、歴史家清張ならではの会心作。」(76頁)



■「年下の男」

 12歳年下の男と結婚をする直前に、夫の浮気を知ります。電話交換手という仕事がなくなった今の社会でも、その職種の内容は容易に想像できます。仕事を通して、男が相手の女との通話を盗み聞きしたことが、事件の発端です。

 男の死を願う中で、高尾山での滑落死を考えます。そのために、カメラを買いました。そのことから、犯行がわかったのです。トリックが単純なだけに、意外性が乏しい話でした。【3】



初出誌:『小説新潮』1967年6月

※参考資料:『松本清張事典 決定版』(郷原宏、角川学芸出版、平成17年4月)には、次のようにあります。
「カメラと昆虫を小道具に使った小味な本格推理。」(126頁)


■「古本」

 地方で見つけた古本が、作家に復活の息吹を与えます。世間から、高い評価を得ます。しかし、その裏には古本をなぞっただけの盗作に近いという負い目があるのです。そこへ、古本の著者の孫がやって来て、恐喝を繰り返すのです。

 そんな中で、恐喝する男の死に関して、蓋然性の期待が殺意につながるか、ということが物語の底流に設置されます。そして、古本の写真版が復刊されることとなり、一人の男の死が炙り出されることになります。

 今では、参考文献は最後に明らかにされます。この清張の時代にはどうだったのでしょうか。

 それはともかく、人間の心の中を抉り出した、完成度な高い物語といえます。【5】



初出誌:『小説新潮』1967年7月

※参考資料:『松本清張事典 決定版』(郷原宏、角川学芸出版、平成17年4月)には、次のようにあります。
「稀覯書をテーマにした盗作ミステリーの佳篇。」(158頁)





posted by genjiito at 23:59| Comment(0) | □清張復読
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