今月初めに太宰府にある筑紫女学園大学へ行った折に、村上明香先生からいただいたウルドゥ語訳『源氏物語』を紹介します。パキスタンのカラチで入手した本だとのことです。これまで、探していたものの手元にはなかった本なので、貴重な翻訳本の追加となりました。
これまでに、ないはずのウルドゥ語訳『源氏物語』があったことは、「ウルドゥー語訳をインドで発見」(2009/3/5、http://genjiito.sblo.jp/archives/20090305-1.html)で報告しました。
また、まったくの偶然から「ウルドゥー語訳『源氏物語』の完本発見」(2016/2/19、http://genjiito.sblo.jp/article/179012654.html)という嘘のような話は、村上明香先生と一緒にインドで見つけたことです。
そのウルドゥ語訳『源氏物語』が、今度はパキスタンのカラチにあるラーヒール出版社から54巻の全訳版として刊行され、その本が私の手元に届いたことになります。
まずは、書影をあげます。厚さは 6.5cm、高さは26cm で、総ページ数は1128ページと、とにかく大型の本です。その大きさが尋常でないことを示すために、スケールを添えて撮影しました。
奥付は次のようになっています。
本書に関する参考情報として、「ウルドゥー語研究の家(ウルディー (id:matsudaar))」に掲載されている「『源氏物語』のウルドゥー語完訳」(2021-09-17、https://dar.hatenablog.jp/entry/2021/09/17/010838)があります。以下に、その文章を引きます。
『源氏物語』のウルドゥー語完訳
先月『源氏物語』のウルドゥー語完訳が出版された。計1128ページ、昨今日本で流行りの鈍器本。それ以上にこの超大作の完訳(英語からの重訳ではあるものの)がウルドゥー語で出版されたこと自体奇跡かもしれない。*1
本文は日本のノーベル文学賞作家をウルドゥー語で紹介した翻訳家の故バーカル・ナクヴィー(Baqar Naqvi)氏によるものである。初稿を書き上げた後、本書の出版を見ることなく2019年にお亡くなりになられた。その後、日本・パキスタン文学フォーラム(カラチ)の創設者の一人フッラム・スヘイル氏が本文の修正と注釈を加えて、労苦の末出版に漕ぎ着けたそうである。
岩波文庫と比較して、この偉大なる鈍器本が伝わるだろうか、、、
残念ながら私はそこまで古典の造詣が深くないので、日本語原文と比較してこのウルドゥー語訳を批評することができない。翻訳に際して、『源氏物語』を世界的に有名にしたアーサー・ウェイリー訳と川端康成の『雪国』を行ったことで知られる エドワード・サイデンステッカーの訳を参照しているとのこと。
私の『源氏物語』認識は2009年のアニメ「源氏物語千年紀Genji」で終わっている。与謝野晶子や谷崎潤一郎、田辺聖子、瀬戸内寂聴の現代語訳くらいは読んでおかねばと思った次第である。
Parekh, Rauf. 2021 (September 13). A woman writer’s thousand-year-old Japanese novel translated into Urdu, Dawn.(2021年9月16日閲覧)
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千年前の日本人女性による小説のウルドゥー語訳
2021年9月13日
ラウフ・パーレーク
『源氏物語』は、異論はあるもののしばしば「世界初の小説」と呼ばれることが多い。この日本語の小説は1021年頃、平安時代の高位で皇室の侍女であった紫式部によって書かれた。つまり世界初の小説家は女性だったのである!しかし「紫」は本名ではなく、光源氏に次ぐ主要な人物(紫の上)の名前にちなんで、おそらく彼女のアイデンティティを守るためにつけられた名前である。
原文で使われているのは、古語であり一般の日本人にも理解するのが非常に難しい言葉が使用されているため、女流歌人の与謝野晶子が20世紀初頭に現代日本語に翻訳した。
〔1880年代に末松謙澄による源氏物語の部分英訳が出版されたものの、完訳は〕イギリスの東洋学者アーサー・ウェイリー(Arthur Waley, 1889年-1966年)によって英語化され、1925年に第1巻、1933年に最後の第6巻が出版された。この小説が〔欧州を超えて〕世界的により広く知られるようになったのは、日本の小説家、川端康成による1968年ノーベル賞受賞演説においてこの小説に言及したことがきっかけである。
1976年には、日本学者のエドワード・サイデンステッカー(Edward George Seidensticker, 1921年-2007年)による英語完訳が出版されている。。その後、いくつかの英訳が出ている。
この小説では、光源氏の人生と、彼の様々な女性との数々の恋愛を描いている。光源氏の身分は皇子であったが、異母兄であった[朱雀]帝ににより低い地位に降ろされ、流刑にされた。最終的に光源氏は赦され、当時の日本の首都、京都に戻ってくる。〔建前上は光源氏の父親、桐壺帝の第10皇子で〕実の彼の息子(非嫡出子)[冷泉帝]は光源氏が実の父親であることを知りながら天皇となる。後に光源氏最愛の紫の上が亡くなり、ある章では光源氏の死が示唆されている。
しかし、この小説は突然終わりを迎え、未完のまま終わってしまったような印象を抱くかもしれない。数年前に完結章が見つかったとの噂もある。エドワード・サイデンステッカーによれば、作家は終わりを意図せず、書けるだけ書き続けたとする。しかし在カラチ日本国総領事の磯村利和氏は、この本の簡単な紹介文の中で、より妥当な説明を示唆している。〔作者が生きた〕当時は紙が非常に不足していたため、紙を手に入れるたびに執筆を再開していたのである。これが完成するまでに時間がかかった理由の一つである。非常に面白い!
この小説はフィクションではあるが、11世紀の日本の皇族や宮廷人の生活を直接描いたものであり、作者は御所の雰囲気や[宮中の]張り巡らされた陰謀をよく知っていた。現代の読者は約1000年前の日本の貴族の生活を〔本書から〕うかがい知ることができる。
『源氏物語』を一番はじめにウルドゥー語に翻訳したのは、〔インドの元アッラーハーバード大学ウルドゥー語学科長で進歩主義運動を代表する〕著名な文芸評論家であったサイイド・エーフティシャーム・フサイン(Ehtesham Hussain)氏である。彼は1971年に全54章のうち最初の9章を要約したウルドゥー語版を出版している。そしてこの度、全54章がウルドゥー語に翻訳された。
著名な翻訳家・詩人であったバーカル・ナクヴィー(Baqar Naqvi, 1936-2019)氏は、晩年『源氏物語』の翻訳を始め、第一稿を作成していた。そして『源氏物語』をウルドゥー語に翻訳することを彼に提案したフッラム・スヘイル氏に、その原稿を送っていた。しかし、ナクヴィー氏は2019年に亡くなり、フッラム・スヘイル氏は第一稿の最後の仕上げを一人で行わざるを得なかった。
英訳の助けを借りながら、スヘイル氏は初稿を何度も修正し、当初1300ページあった文章を1100ページにまとめることができた。しかし、あまり知られていない日本の文化的歴史的背景の部分はウルドゥー語読者にとって難解であるため、注釈が必要であると彼は感じた。そこで作業を再開し、非常に有益で情報量の多い脚注を付け加えた。
序文を記している〔日本で〕ウルドゥー語を長年教授・研究している大阪大学山根聡教授は、源氏物語のエッセンスを〔以下のように〕簡潔に表現している。
「この小説には、恋愛、結婚、母の愛、仕事、キャリアにおける成功と失敗など、現代文学にも通じるテーマを有している。さらに重要な事として、この小説では善悪の区別をつけていないという事実がある。本書は道徳的、教訓的な作品ではなく、普通の人間の生活を描き、その心理状態、弱さ、無力さ、怒り、幸福、嫉妬、羨望などを如実に反映している作品である」
〔元〕在パキスタン日本大使の松田邦紀氏は、「この名作は、平安時代初期の皇室、貴族、日常文化を読者に紹介する素晴らしい入門書である」と紹介している。
このウルドゥー語完訳版はカラーチーのラーヒール出版社から出版されている。
*1:『源氏物語』をはじめとする海外における平安文学の研究状況を知るサイトとして、「翻訳史-海外平安文学情報」がある。
この末尾にある「翻訳史-海外平安文学情報」というのは、私が運営する科研のサイト[海外へいあんふんかく情報](http://genjiito.org)のことです。
なお、本書には日本語が反転しているページがあります。そのページを左右反転して正したものを作成し、参考までに以下に掲載します。日本語に詳しい方が校正に関わらなかったようです。
以上のことを補う情報が、本ブログの過去の記事にあります。NPO法人〈源氏物語電子資料館〉の会員である吉村仁志氏(事務局長)と淺川槙子氏(名古屋大学)のお2人と、村上明香先生からもたらされた情報を整理したものです。これも、参考情報として次にあげます。
「ウルドゥー語訳『源氏物語』の情報を収集中」
(2022年01月18日、http://genjiito.sblo.jp/article/189280096.html)
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