先週11月2日(土)は、九州太宰府にある筑紫女学園大学の公開講座があり、『源氏物語』の翻訳本のお話をしました。本ブログには、豪雨で会場入りが遅れたことだけを書き、翌日からは連日めまぐるしい日々の出来事を書くのが精一杯で、やっと今日になって九州でのことを書くことができます。関係者のみなさま、遅くなり大変失礼しました。
とにかく、新幹線が豪雨で運休したことにより、講演会は2時間近く遅れて始まりました。参会者の皆様には、長時間お待たせして本当に申し訳ありませんでした。あらためて、お詫び申し上げます。
今回の公開講座は、次のようなテーマで開催され、私に与えられた題目は以下のものでした。
筑紫女学園大学 公開講座 クロスオーバーアジア塾 2024
「越境する『源氏物語』〜日本・アジア・世界〜」
2024年11月2日(土)
於・筑紫女学園 警固キャンパス水月ホール
43種類の言語に翻訳された『源氏物語』
−アジアを歩いた調査報告−
伊 藤 鉃 也
NPO法人〈源氏物語電子資料館〉代表理事
■報告趣旨:日本文学が海外で読まれている現状の報告から、書物が人を呼び込むことと今後の研究に及ぶ
■報告基盤:科研(A)「海外における平安文学及び多言語翻訳に関する研究」
(課題番号︰(H13)25244012+17H00912、研究代表者・伊藤鉃也・国文学研究資料館+大阪大学)
■配布冊子:3冊
(1)『日本古典文学翻訳事典2〈平安外語編〉』
(伊藤編、国文学研究資料館、2016年、259頁)
(2)『海外平安文学研究ジャーナル《インド編 2016》』
(伊藤編、国文学研究資料館、2017年、248頁)
(3)『海外平安文学研究ジャーナル《中国編2019》』
(伊藤編、大阪大学国際教育交流センター、2021年、133頁)
■情報公開:[海外へいあんぶんがく情報](http://genjiito.org)(伊藤科研の公開ホームページ)
[たつみのいほり より](http://genjiito.sblo.jp/)(伊藤のブログ、毎日書き続けて18年)
■報告概要:日本の古典文学の中でも、平安文学は多くの国々で翻訳され、広く読まれています。
例えば『源氏物語』は、43種類もの言語で翻訳されているのです(2023年9月23日現在)。
本日は、その翻訳本に関する南アジアにおける調査・収集活動の来歴を紹介し、そこから見えてくる今後の新しい研究テーマを提案します。
その過程で、書籍は探し求めている人に対して「おいで おいで」をする、という私が体験した事例もお話します。
具体的な研究手法の一例を提示しましょう。
さまざまな外国語に翻訳されている平安文学の作品から、まず日本語への〔訳し戻し〕をします。
次に、文化に関する情報を取り出して比較することから、2国間の異文化情報の検討を始めます。
その成果は、今後の海外の諸国との異文化交流において、大いに活かされることが期待できます。
さて、始めるにあたり、あらかじめ配布した三冊の報告書について、それが伊藤の科学研究費補助金(A)の報告書であることを説明しました。
さらには、その研究には、今回お声掛けいただいた筑紫女学園大学の村上明香先生と、会場にもお越しの福岡大学(元筑紫女学園大学)の須藤圭先生が研究協力者であったことをお伝えしました。私の研究は、個人研究ではなくてコラボレーション(共同研究)という手法で取り組んでいることも、本日のお話の背景にあることを付け加えました。
今回お配りしたレジメは、A4判9枚です。
以下、適宜引用しながら、とりまとめてその報告をつづります。関連する話を記している私のブログの題目とアドレスを元にして、スクリーンに映写しながら進めました。
最後の項目の「【提案】平安文学作品の翻訳本を日本語に[訳し戻し]すること」は、本日の私からの結論しての解決策の一つの提示です。このことと、本は求める者に「おいで おいで」をする、ということが、私から伝えたかった2本柱となるものです。
【自己紹介をかねて、これまでの調査報告】
・日本語だけで海外を歩く(現地の日本語語が堪能な先生・図書館司書・学生を頼りにして)
・イタリアの本屋で「ゲンジモノガタリプリーズ」/「ヴェネツィアから(9)イタリア本」(2008/9/14)
・ないはずのウルドゥ語訳『源氏物語』があった/「ウルドゥー語訳をインドで発見」(2009/3/5)
・まったくの偶然から/「ウルドゥー語訳『源氏物語』の完本発見」(2016/2/19)
・ルーマニア語訳の生原稿/「ホンドル先生のご自宅で伺った興味の尽きないお話」(2019年03月09日)
・2013年11月に刊行されたオランダ語訳の分類は「horror」(ホラー・恐怖)
・海を渡った『源氏物語』
(1)米国議会図書館本『源氏物語』 「米国議会図書館での調査」(2010年01月29日)
(2)ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」「蜻蛉」の閲覧と調査
「ハーバードのフォグミュージアムで古写本『源氏物語』の調査」(2018年08月29日)
(3)ハーバード本の複製本3冊を刊行
『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」』(伊藤著、新典社、185頁、2013年)
『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「蜻蛉」』(伊藤著、新典社、210頁、2014年)
『国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」』(伊藤・阿部・淺川 共著、新典社、2015年)
(4)ハーバード本の臨模本を作成
「日比谷で源氏の橋本本(11)を読んだ後は共立女子大学へ」(2019年05月11日)
・ウルドゥ語訳『源氏物語』に関する新情報/「ウルドゥ語訳『源氏物語』の情報を収集中」(2022年01月18日)
■『源氏物語』が翻訳されている43種類の言語一覧(2023年9月23日現在)
アッサム語(インド)・アラビア語・イタリア語・ウクライナ語・ウズベク語・ウルドゥー語(インド)・英語・エスペラント・オランダ語・オディアー語(インド)・カタルーニャ語・クロアチア語・ジョージア語・スウェーデン語・スペイン語・スロベニア語・セルビア語・タミル語(インド)・チェコ語・中国語(簡体字)・中国語(繁体字)・テルグ語(インド)・ドイツ語・トルコ語・日本語(現代)・日本点字・ハンガリー語・ハングル・パンジャービー語(インド)・ビルマ(ミャンマー)語・ヒンディー語(インド)・フィンランド語・フランス語・ベトナム語・ヘブライ語・ペルシャ語・ポーランド語・ポルトガル語・マラヤーラム語(インド)・モンゴル語・リトアニア語・ルーマニア語・ロシア語
※参考情報:[海外で通用する日本語](諸外国との異文化交流のためのメモ)
源氏物語・和歌・俳句・漫画・ひらがな・カタカナ・歌舞伎・能・琴・相撲・着物・津波・薩摩・折り紙・弁当・寿司・刺身・わさび・味噌・醤油・納豆・枝豆・昆布茶・抹茶・生け花・将軍・忍者・絵文字・畳・整理券・金継ぎ・アイドル・オタク・カラオケ・カワイイ・根回し・生きがい・改善・先輩・達人・過労死・交番・少年・少女・お父さん・お母さん・いただきます・おまかせ・もったいない などなど(順不同)
・英訳『源氏物語』の〔訳し戻し〕
■『ウェイリー版 源氏物語 全4巻』(佐復秀樹訳、平凡社ライブラリー、2008年〜9年)
『源氏物語 A・ウェイリー版 全4巻』(毬矢 まりえ, 森山 恵、左右社、2017年〜19年)
【提案】平安文学作品の翻訳本を日本語に[訳し戻し]すること
・各国語に翻訳された文章を日本語に一元化する。
・それを通して、日本文化が変容して伝えられていく諸相と実態を確認。
・次に、研究者等と共同研究の形で考察していく。
・各国にどのような表現で平安文学・日本文化が伝えられているのか、ということを調査研究する。
・日本文学を通して日本文化が海外にどう伝わっているかの究明が、最終的に取り組む課題となる。
・その成果は、今後の海外の諸国との異文化交流において、大いに活かされることが期待できる。
村上明香先生とは、インドで2回もお世話になりました。その内、2016年2月19日の「アラハバード大学で偶然ウルドゥ語訳『源氏物語』を見つける」という出来事は、その発見の経緯について村上先生にも説明に加わっていただきました。
この時に使用した資料は、「【補訂】キャンパスプラザ京都で池田本「桐壺」を読む(第16回)末尾に画像追補」(2024年03月23日、http://genjiito.sblo.jp/article/190827596.html)に掲載しているものなので、興味と関心をお持ちの方は参照願います。
ミャンマー(ビルマ)語訳『源氏物語』については、以下の書影と関係するブログの題目とアドレスを提示しました。
【ミャンマー(ビルマ)語訳『源氏物語』の紹介】
■ビルマ語訳『源氏物語』に関するブログの記事一覧
「【速報】『源氏物語』で34番目の言語となるビルマ語訳を確認」(2018年03月08日、http://genjiito.sblo.jp/article/182616889.html)
「ネーピードーの国立図書館で確認したビルマ語訳の日本文学関連の書籍群」(2018年03月12日、http://genjiito.sblo.jp/article/182646935.html)
「【速報】ビルマ語訳『源氏物語』4冊を入手」(2018年03月13日、
「ビルマ語訳『源氏物語』を訳し戻す相談をして帰国の途に」(2018年03月17日、http://genjiito.sblo.jp/article/182720528.html)
「ビルマ語訳『源氏物語』の翻訳者ケィンさんと大阪駅で面談」(2018年03月26日、http://genjiito.sblo.jp/article/182809213.html)
「お茶の特訓の後はビルマ語訳源氏について語り合う」(2018年03月29日、http://genjiito.sblo.jp/article/182830509.html)
「【書影追加】科研の研究会で翻訳に関する多彩な発表と活発な論議」(2018年06月17日、http://genjiito.sblo.jp/article/183567812.html)
「ビルマ語の研究者と念願の面談をして」(2019年08月13日、
このミャンマー(ビルマ)語訳『源氏物語』に関しては、須藤圭先生の指摘からその存在がわかり、帰国後に日本で翻訳者と会うという経緯が生まれました。翻訳者には、私の研究会にお越しいただき、発表もしていただきました。
とにかく、人と人との出会いから生まれた翻訳本との物語を、わかりやすくお話しました。
終了後は、5人の方から質問を受けました。これまでに私が調査してきた国に関するものが中心でした。具体的な事例を上げながら、お答えしました。例えば、どこの国の調査が印象深いか、ということには、ペルーのことを挙げました。
こうして無事に公開講座が終わった後は、大学の近くでお食事をしながら、さらなる話で盛り上がりました。中でも、多川孝央先生は情報科学がご専門で、コンピュータの初期の話ができる貴重な方でした。
学科長の小林知美先生、いつもお世話になる村上明香先生、そしてNPO法人〈源氏物語電子資料館〉で理事をしていただいている須藤圭先生、楽しく語らう機会を作っていただき、ありがとうございました。
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