2024年09月14日

中之島で『百人一首』(第6回)と『源氏物語 蜻蛉』(第17回)

 暑い日でした。しかし、中之島図書館へ行く手前の「みおつくしプロムナード」は、風が通る散策路なので暑さを感じません。
 国の重要文化財に指定されている会場は、重厚感に溢れる建物です。

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 まずは、『百人一首』からです。
 最初に、映画『ちはやふる』の一場面を映写しました。平兼盛(40番歌)と壬生忠見(41番歌)の歌が話題になる2分ほどの場面を映し、そこで語られるこの歌の意味と状況を確認することから始めました。

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 この二首は、この講座のために作ったテキストの裏表紙の挿し絵にも使っています。

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 その後、前回に飛ばした2首を確認しました。今日の吉村氏の試訳を、以下にあげます。35番歌から43番歌までです。

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■吉村仁志『百人一首』三五〜四三・試訳 (付・仮名文字に関するメモ:伊藤鉃也)

・吉海直人『百人一首で読み解く平安時代』(角川学芸出版、二〇一二年)の訳(以下、底本の訳)を参考にした。
・高校生を意識して、また耳で聞くだけでもわかりやすく、イメージしやすい訳を心がけた。

〈原文〉【人】八以さ 【心】もしら須 【古郷】八【花】そ無可し能 【香】耳尓本ひ遣る
〈底本の訳〉あなたはさあどうでしょう、お気持ちもわかりませんが、故郷の奈良では梅の花が昔のままに咲き匂っています。
〈試訳〉あなたの心はさあどうだかわからないが、この奈良のふるさとでは、梅の花が昔と変わることなく匂っている。

・「人はいさ心も知らず」の訳し方
→原文通りの順番で訳出すると、相手の心が変わらない梅の花と対比されているのがわかりにくいため、「あなたの心は」とまとめて主語にして訳した。
・「ふるさとは」の訳し方
→「故郷の奈良では」という底本の訳では、その場にある梅の花について詠んでいることが伝わりにくいのではないかと考え、「この奈良のふるさとで」と訳した。
・下の句の訳し方
→この歌の中心は「人」の心が変わっていないかどうかを問うところにあると考え、その対比となる梅の花が昔と変わらないことを明示するため「梅の花が昔と変わることなく」とした。また、「咲き匂っている」という訳では音だけで聞いた時に少しわかりにくいかと思い、「匂っている」のみ訳した。これは「匂っている」という訳のみでも花が咲いていることが伝わると考えたためである。

※仮名文字
 「【心】【花】【香】」の漢字に注意。
「本」に注意。

〈原文〉【夏】のよ八 ま多よひな可ら 【明】ぬるを【雲】農以川こ尓 【月】やとるらん
〈底本の訳〉短い夏の夜は、まだ宵と思っているうちに早くも明けてしまいました。月も西山まで行きつく暇がなかったようなので、雲のどのあたりに宿っているのでしょうか。
〈試訳〉夏の夜は、まだ宵だと思っているうちに、早くも明けてしまった。月は雲のどのあたりに宿りをしているのだろうか。

・初句の訳し方
→底本では「短い」という語が補われている。しかし、二句、三句の訳でそのことは十分伝わると考えたため、取り除いた。
・下の句の訳し方
→底本の訳では「月も西山まで行きつく暇がなかったようなので、」という説明が補われている。これはなくても伝わると思い、取り除いた。

※仮名文字
 「【夏】【明】【雲】」の漢字に注意。
「農」に注意。

〈原文〉しら【露】尓 【風】能婦支し具 【秋】能ゝ八津らぬ支とめ怒 多万そ【散】遣る
〈底本の訳〉草の上の白露に風が吹く秋の野は、糸で留めていない玉が散り乱れるように見えます。
〈試訳〉草の上に置く白露に、風が吹きつける秋の野では、糸で留めていない玉のように、白く光る露が散り乱れている。

・読点について
→短く読点で区切ることで、歌の情景を順番に想像しながら読める(聞ける)ようにした。
・結句の訳し方について
→「白く光る」という語を補うことによって、玉に見立てられた露が乱れ散る、美しい情景を想像しやすくした。

※仮名文字
 「【露】【秋】【散】」の漢字に注意。
「支」に注意。

〈原文〉和春ら累ゝ 【身】を者【思】八す 【誓】ひ弖し【人】農いのち能 於し具も【有】可那
〈底本の訳〉忘れられる私のことなど何とも思いません。ですが神前にお誓いになったあなたのお命がなくなるのではと惜しまれてなりません。
〈試訳〉〉あなたに忘れられる自分のことなど、別に何とも思わない。しかし、私のことを思い続けると神に誓ったあなたは、命がなくなってしまうのではないかと、大変惜しく思われることだ。

※仮名文字
 「【身】【誓】【有】」の漢字に注意。
「春」「累」「弖」「農」に注意。

〈原文〉【浅】ちふの を能ゝ志の【原】 【忍】ふ連とあまり弖な登可 【人】農古ひしき
〈底本の訳〉浅茅が生えている小野の篠原、その「しの」ではありませんが、もうこれ以上忍びきれません。どうしてこんなにあなたのことが恋しいのでしょうか。
〈試訳〉浅茅が生えている小野の篠原、その「しの」ではないが、あなたへの恋を忍ぼうとしても、思いがあり余ってしまう。どうしてこんなにも、あなたが恋しいのだろうか。

※仮名文字
 「【浅】【原】【忍】」の漢字に注意。
「連」「弖」「登」「農」に注意。

〈原文〉【忍】ふ連と 【色】耳【出】尓介り 【我】こひ八毛のやおもふ登 ひとのとふま弖
〈底本の訳〉忍びに忍んでも、私の恋心はついに顔に出てしまったようです。誰かを恋しているのかと、人が尋ねるほどまでに。
〈試訳〉心の奥底に秘めていたのに、私の恋心はついに顔に出てしまったようだ。恋をしているのかと、人が尋ねるほどまでに。

・初句の訳し方
→「しのんでも」と直訳すると音だけで聞いた時にわかりにくいのではないかと思い、「心の奥底に秘めていたのに」と意訳し、二句の「顔に出てしまった」という訳と対比させた。

※仮名文字
 「【忍】【色】【我】」の漢字に注意。
「連」「耳」「登」「弖」に注意。

※次の歌と共に有名 →補足説明あり

〈原文〉【恋】春てふ 【我名】八ま多幾 【立】尓介里【人】志礼春こそ おもひそめし可
〈底本の訳〉恋をしているという私の噂は、早くも世間に広まってしまいました。人に知られないように心の中でこっそりと思い初めたのに。
〈試訳〉私が恋をしているという噂は、早くも世間に広まってしまった。人に知られないように心の中でこっそりと思い始めたのに。

・初句の訳し方
→音で聞いた時のわかりやすさを考慮して、「恋をしているという私の噂」という底本の訳を「私が恋をしているという噂」に改めた。

※仮名文字
 「【恋】【我】【立】」の漢字に注意。
「春」「幾」「禮」「お」に注意。

※前の歌と共に有名 →補足説明あり

〈原文〉【契】きな 可多三耳そ弖を 志本りつゝ春衛農まつ【山】 【波】こさしとは
〈底本の訳〉約束しましたよね。お互いに何度も袖をしぼって、あの末の松山を浪が越えることがないように、二人の仲も末長く変わらないと。それなのに。
〈試訳〉約束したよね。お互いに涙に濡れた袖をしぼりながら、あの末の松山を浪が越えるなんてあり得ないように、浮気心を持つことなんてあり得ないと。それなのに、あなたは。

・下の句の訳し方
→「君をおきてあだし心を我が持たば末の松山浪も越えなむ(古今集一〇九三番)」という本歌から、「末の松山を浪が越える」というのはあり得ないことの例えである。そのことを明示するために、「あり得ない」という言葉を使って訳した。また、最後に「あなたは」と付け加えることで、相手への恨みが伝わりやすいようにした。

※仮名文字
 「【契】【波】」の漢字に注意。
「耳」「弖」「衛」「農」「つ・川」に注意。

〈原文〉あひ三ての 【後】能【心】耳 くら婦れ者む可し八毛のを 於も者さり遣里
〈底本の訳〉あなたと契りを結んだ今の恋しさに較べると、以前の物思いなど無きに等しいものでした。
〈試訳〉あなたと契りを結んだ後の、今の恋しさに比べると、あなたと結ばれる前の物思いなど、無きに等しいものだった。

・上の句の訳し方
→契りを結ぶ前と後の対比が明確になるように、「契りを結んだ後の」と訳した。
・下の句の訳し方
→上の句と同様の理由で「結ばれる前」と訳した。

※仮名文字
 「【後】【心】」の漢字に注意。
「耳」「毛」「遣」に注意。
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 いろいろな話をしたこともあり、今日は43番歌までしか確認できませんでした。
 今回できなかった44番歌以降の歌は、次回に回します。

 休憩の後は、ハーバード本「蜻蛉」の仮名文字の確認です。
 「街中の変体仮名」は、以下のものを取り上げました。

240914_街中の変体仮名.jpg

 「蝶」を「ひらり」と読むことは、戸籍にふりがなを付けるようになるので、今後はキラキラネームと共に減って行くかも知れません。「おぼ古」の「古」の崩し字の説明は、今ではできなくなっていると思われます。そば屋さんで「御曽婆」と表記しているものは初めて見ました。貴重な例ではないでしょうか。

 『源氏物語』の翻訳本の回覧は、ハングル訳(田溶新訳)です。この本については、8月24日のキャンパスプラザ京都での講座で回覧し、その説明資料も当日のブログに掲載したので、ここでは省略します。私が持っている源氏絵がその表紙に無断で盗作されている上、切り抜いて反転させて掲載されていることを問題にしました。また、韓国では朴光華先生の正確な翻訳が進んでいるものの、まだまだ先の長い仕事です。それ以外では、柳呈訳、金鍾徳訳、李美淑訳、があります(参照:https://genjiito.org/genji_infomation/genji_history/)。しかし、『源氏物語』全巻をしっかりとハングルで翻訳したものが見当たらないことが、非常に残念であることにも触れました。お隣の国なのに、『源氏物語』を正しく読んでもらえない現状が続いていることについては、今後の若手に期待したいところです。

 今日は、ハーバード大学本「蜻蛉」の38丁表から40丁表までの翻字の確認をしました。その過程で、以下の文字について、画像を提示しながら詳しく検討しました。

■38丁裏1行目「いと」
 この「と」については紛らわしい仮名となっているので、〈判読〉という付加情報を付けることにします。

240912_蜻蛉38uL1いと.jpg

■38丁裏9行目「か年」
 線を追いかけると、「か年」と読めます。

240913_蜻蛉38uL9か年.jpg

■39丁裏6行目「个り」
 「介」がほとんどの中で、ようやく「个」が見つかりました。これで、数例の「个」が見つかったことになるので、近々その例を整理して提示したいと思っています。「介」と「个」は明らかに異なった字形で書かれています。あえて、この「个」に付加情報として〈ママ〉を付けました。

240913_蜻蛉39uL6个.jpg


 本日確認した結果を、以下にあげます。


■ハーバード大学本「蜻蛉」[変体仮名翻字版-2023]第38丁表〜40丁表

※翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、
補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部( 「 )・末尾( 」 )、
底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)
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すてゝ/(すてて)・うせ・【給】尓介る【人】可な・於の
れも・【殿人】尓て・万いり川可う万つれともち可く・
めしつ可ひ【給】・ことも・奈く・いと・け多可く・於八す
る・とのなり・王可き・【物】ともの・【事】・於ほ世
られ多るは・いと多のもしき・ことになんなと・
よろこふ越・三る尓・万して・於八勢まし可八
と/し&勢、(於しまし可八と)・於もふ尓・ふし万ろひて・な可る・か三も・
いまなん・うちなきける・さるは・於八せまし・
【世】可は・な可/\/(な可な可)・かゝる/(かかる)・多くひの・【人】/\/(【人人】)・多つね・【給】
へき尓しもあらす可し・【我】・阿や万ち尓て/(38オ)
--------------------------------------
うしなひ川るも・いとをし/と〈判読〉・なくさめんと・於
ほす尓よりなん・【人】の・そしるを・ねんころ尓・多川
ねしと・於ほしける・[19]【四十九日】の・わさなと・
せさせ・【給】とても・かくても・川三・うましき・
ことなれ八・いと・しのひて・かの・りしの・てらにて
なん/なん&なん・せさせ・【給】介る・【六十】所うの・ふ世なと・於ほき
に・於ほし於きてられ多り・者ゝ【君】も/(者者【君】も)・ふ多り
いて/〈ママ〉・こととも・所へ多り・【宮】より八【右近】可もとに・
しろか年の・川本尓・こかね・いれて・【給】へり・【人】・
三と可む者可り・於ほきなる・わさ八・江し・【給】八春/八〈次頁〉、(38ウ)
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【右近】可・【心】さし尓て・したりけれ八・【心】し
らぬ・【人】八・い可て・可くなんなと・いひける・【殿】ゝ/(【殿】の)・【人】
と母・む川ましき・かきり・あま多・【給】へり・あやし
う・於とも・せさり川る・【人】の・者て越・かく・あ川
か者せ・【給】・多れならんと・いま・於とろく・【人】の三・於
ほ可る尓・飛多ちのか三・きて・【心】も・なく・ある
しかりをるなん・あやしと・【人】/\/(【人人】)・三ける・【少将】の・
こ・う万せて/△&う・い可めしき・【事】・せさせんと万とい・
いゑの・【中】二・な幾/け&幾、(なけ)・もの八・すくなく・もろこし・ゝ
らきの/(しらきの)・可さり越も・し川へき二・かきり・阿れ八・いと/(39オ)
--------------------------------------
あやしかりける・この・【御法事】の・しのひ多るやう
尓/のひ多る〈墨ヨゴレ〉・於ほし多れと・け者い・こよなき越・三る尓・
いき多らまし可八・【我】・こ尓八・ならふへくも・あらぬ・
【人】の・【御】すくせなりけりと【思】・三やのうへも・しゆ
きやうし・多万ひて・【七】所うの・万への・【事】も・せ
させ・【給】个り/个〈ママ〉・いまなん・かゝる/(かかる)・【人】・も・多万へりけりと・
み可と万て・きこしめして・於ろか尓も・あらさ
里介る・【人】を・【宮】尓・かしこ万り・きこえて・
かくし於き・【給】へりける越・いと於しと・於ほしける・
ふ多りの・【人】能・【御心】の・【中】・ふりす・可なしう/う+【宮】八・あや尓くなりし/や〈次頁〉、(39ウ)
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【御思】の・さかり尓・かき多へては・
いといみし介れとあ多なる【御心】八・なくさむやと・
【心】三・多万ふ・こともやう/\/(やうやう)・阿り介り・かの・との者・か
く・とりもちて・な尓や・かやと・於も本して・のこり
の・【人】越・八くゝ三【給】ても/(八くく三)・な越・いふ可ひなき・こと
を・わ春れ可多く・於ほ春・[20]きさいの三やの・
【御】う八ふくの/【御】&【御】、う八$きやう、(【御】きやうふくの)・本とは・な越・可くて・於八し万す尓・
【二宮】なん・【式部卿宮】二・なり・【給】尓ける・越も於も
しうて・つね尓しも・万いり・【給】八春・この・【宮】八・
さう/\しう/(さうさうしう)・【物】あ者れなる・まゝに/(ままに)・【一品】の三やの【御】可多越/三〈次頁〉、(40オ)
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posted by genjiito at 22:08| Comment(0) | ■講座学習
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