終戦から3年、京都の白川に住み出してからの話です。
南禅寺の金地院での、錚々たる狂言師の贅沢な舞台の様子を語ります。そして、千作翁が月を愛でながら「木幡山路にゆきくれて月を伏見の草枕、……」と唄を吟誦すると、参会者一同があとを付けて合唱するなど、優雅な謡いの遊びになっていきます。「月はおぼろに東山……」と祇園小唄が出た頃には、谷崎も一緒に加わって謡うのでした。
月が中天に懸かる頃には、酒の勢いもあり座が盛り上がります。隠し芸だとばかりに、地歌や狂言で満座は大喝采や大爆笑の渦となります。芸達者な人々が繰り広げる伝統芸能は、自由な雰囲気の中でその楽しさが活写されています。
谷崎が好んだお座敷は、こんな感じだったのでしょう。芸人が芸の出し惜しみをすることなく、気さくな振る舞いは、東京にはない芸尽くしのおもしろさだったと言います。落語や漫才も出たというのですから、余興も大いに盛り上がっての月見の宴が終わります。
記念すべき宴が、こうして記し残されることとなりました。【3】
初出誌:『中央公論』昭和24年1月号
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