浦島太郎と天の羽衣の伝説を背景に、旅と事件が交錯する物語です。
いろいろと謎かけをしながら展開します。人丸神社の36歌仙の絵の中に小野小町がいないことなどなど。多分にこじつけであっても、話題が多彩なので読み進められます。
次には、補陀落国説話です。ただし、これは失速します。読者の興味を惹きつけるための、話題に留まっただけでした。
『松本清張全集 3』の巻末の解説で、小松伸六氏は次のようにいいます。本作品の要点を突いた説明となっています。
「Dの複合」は、民俗学的な世界と怨念にまつわる殺人事件とをからませた力作である。北は網走、塩釜、東は成田、東京、熱海、戸田、大仁、 三保の松原、西は京都、木津温泉、三朝温泉、鳥取県竹田村、兵庫県の神吉村、明石、淡路島、和歌山県の友が島。 加太岬など全国各地にちらばる土地が選定され、それが一つの線としてむすばれてゆく。「僻地に伝説をさぐる旅」の取材旅行に出る作家の伊瀬は、同行する浜中編集次長がいかなる人物であるかもわからずに、いっしょに旅行するうちに、浦島伝説がのこる網野神社、その木津温泉近くの林のなかに人間の死体が埋めてあるという投書が警察にくる。 事件はこうしてはじまるのだ
が、まさかこれが浜中の仕組んだものとは、私は考えてもみなかった。この意外性には、私はあっと声をあげたほどである。(461頁)
とにかく、スケールの大きな、説話の旅が展開します。
東経135度線と北緯35度線が問題となります。作品名が示す「D」というアルファベットは、次の意味をもったものです。
北緯三五度、東経一三五度を、英語でフルに書くと、North Latitude 35 degrees, East Longitude 135 degree だ。四つのDが重なり合っているから「Dの複合」だ。それに、緯度・経度は地球をタテヨコにそれぞれ二つに割っているから、そのかたちからしてもDの組合わ
せになっている。
将来、この題材で推理小説でも書くとすれば「Dの複合事件」とすることができるな、と伊瀬は思った。(351頁)
終盤の種明かしには、惹き込まれました。ただし、長々と語られることに加えて奇妙な偶然が多いため、読者としては作者に引き摺り回された印象が残りました。【3】
初出誌:『宝石』1965.10〜1968.3
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