2024年04月28日

昨日の池田本「桐壺」の記事で「火んさ」と「ムスメ」に関する補訂

 昨日の本ブログ「キャンパスプラザ京都で池田本「桐壺」を読む(第17回)」(2024年04月27日、http://genjiito.sblo.jp/article/190874213.html)に関して、訂正と新たにわかったことを追記します。

【その1】「火んさ」のこと
 池田本「桐壺」の27丁裏8行目に「火んさ」(冠者)という表記があり、その「火」について、次のように指摘しました。

「これは、手近な仮名文字字典には見当たりません。陽明文庫本にはあるようです。貴重な文字だと言えるでしょう。」

池田本「桐壺」27ウL8火んさ.jpg


 しかし、ここには私の思い違いがありました。昨日の講座に参加しておられた淺川さんから、陽明文庫本にはこの語句が欠脱していることと、諸本の異同状況をご教示いただきました。
 そこで、あらためて手元の本文データベースで確認したことを、以下に報告します。
 ただし、この手元のデータ群で[変体仮名翻字版-2023]に補訂したのは、「池田本」と「尾州本」の2本だけです。それ以外は、2013年12月時点のデータであり、変体仮名を無視した不正確な旧データです。さらに正確を期して言えば、『源氏物語別本集成 続 第1巻』(おうふう、2005年5月)を刊行した時の元データに対して、部分的に[変体仮名翻字版]に補訂しつつあるものです。ほとんどが従来の旧翻字方法で作成したものであるため、今となっては不正確なものです。しかしながら、ここで問題とする箇所については、ほぼ実状が確認できるので、その書写状況を知ることには問題はないと考えます。
 旧データながら、今回確認した諸本がこの文節番号「012543」の箇所(池田本「火んさ」)をどのように表記しているかは、次のように整理できます。括弧内は同一本文を伝える写本名です。波線の上下で、本文の分別ができそうです。これは、従来より「『源氏物語』の本文は2つにしか分別できない。」としてきた私見を支えるものとなっています。そして、「火」を「か」という変体仮名の仲間としていいのか、という参考資料となります。文字に関する専門家のご意見がいただけると幸いです。

陽明本 → ナシ (仏阿仏(室伏)・慈鎮本(室伏))
池田本 → 火んさ (明融本)
尾州本 → 火さ (高松宮本・平瀬本)
議会本 → かさ
御物本 → かくわん
--------------------------------------
大島本 → くわんさ (国文研三条西本・書陵部三条西本・日大三条西本・国冬本・大正大本・絵入源氏・京女大正徹本・国文研正徹本・天理河内本・肖柏本・保坂本・尊経閣前田本・九大古活字版・湖月抄)
阿里莫 → くはんさ
麦生本 → くはさ (首書源氏)
穂久邇 → くわさ
伏見本 → 冠者の

 私が構築を進めている翻字データベースには、旧方式の翻字データが混在しています。変体仮名を意識して翻字したデータは、残念ながら今のところは「池田本」と「尾州本」の2本だけです。こうしたおもしろいことがわかるのですから、今後とも鋭意[変体仮名翻字版-2023]の作業を進めて行くことの重要性を痛感しています。


【その2】「ムスメ」のこと
 昨日の記事のコメントで、この「ムスメ」については次のように記しました。

「女」に「ムスメ」という読み仮名を振っています。カタカナで記されているので、この注記は親本に書かれていたものか、後の人が書いたものなのか、調べてみる必要があります。

240429_ムスメ28丁裏5行目.jpg


 これについても、淺川さんからご教示をいただきました。

・池田本「おほん女/女=ムスメ」
・明融本「おほん女」
・議会本「おほんむすめ」
・高松宮本「御むすめ/む=葵上」
・前田家本「おほむむすめ/す=葵ノ上ノコト」
・国冬本「御いつきむすめ」

 これ以外の写本には「御むすめ」「おほんむすめ」とあります。
 「女」を「ムスメ」と読み、表記することに関して、当座の情報として紹介しておきます。




posted by genjiito at 23:55| Comment(0) | ■変体仮名
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