本日、『香道と文学−伝書にみる古典受容−』(武居雅子、新典社研究叢書371、令和6年1月18日)が刊行されました。『源氏物語』を香道から論じた成果で、それも専門的なものとしては希有なものだと思います。
私が初めて武居雅子さんと会ったのは、総合研究大学院大学文化科学研究科日本文学研究専攻の博士後期課程の入学試験日でした。当時入試委員長をしていた私は、緊張した武居さんに口頭試問をしました。いろいろな観点から、研究の核を問いました。その時の私はとても怖かった、と今でもおっしゃっています。以来、今に至る12年間、専門外ではあるものの気長なお付き合いが続いています。そしてついに、博士(文学)学位論文が一書として実を結び、今日18日に日の目を見ることとなりました。我が事のように嬉しく、さっそく紹介の文章を書くことにしました。
武居さんのことをご存知の方は、ほんの一握りの限られた世界の方々です。著書の奥付けから、その一端を引いておきます。
・2012年3月 京都造形芸術大学大学院(通信教育)芸術研究科芸術環境専攻修了
・2017年3月 総合研究大学院大学文化科学研究科日本文学研究専攻博士課程修了
・学位 博士(文学)
・現職 毎日書道展かな部会友(浜田紅雅)、カリグラフィック アトリエみやび 主宰、よみうりカルチャーセンター他にて書道講座・香道講座の講師歴任、遠州流茶道上席師範(若水庵 浜田宗雅)として茶道教授
武居さんは香道・書道・茶道のスペシャリストです。そして、香道と文学との接点を、学問的に究明された研究成果が本書『香道と文学−伝書にみる古典受容−』です。
この成果が生まれるまでの経緯が、巻末の「あとがき」に記されています。総合的な視野からの研究は一人でできるものではなく、多くの方々からの支援を得て、コミュニケーションを通じて成果が見えて来ることを示す好例と言えるでしょう。ご専門の芸道における関係者への謝辞は、ここでは引かず、文学に関する記述がある文章だけを引いていることを、まずはお断わりします。
あとがき
本書は、二〇一七年三月、総合研究大学院大学文化科学研究科日本文学研究専攻に提出し、博士(文学)の学位を授与された論文「香道と文学―江戸中期の香道伝書による文学受容の研究―」に加筆訂正をし、改題したものである。
総合研究大学院大学入学以来、主査の日本文学研究専攻教授落合博志先生、副査の同教授伊藤鉄也先生、神作研一先生には、様々にご教示を賜った。落合先生には、『総研大文化科学研究』に掲載していただけた初めての論文から、博士論文にいたるまでの五年間、詳細にわたっての執筆指導を日々賜り、博士論文提出にも立ち会っていただいた。先生にお伴した神田神保町、古書店での香道伝書実見は貴重な体験となった。伊藤鉄也先生には、幾度か京都での実地調査にお連れいただいた。同志社大学での文化情報学部教授矢野環先生、同大学文学部教授岩坪健先生、そして当時同大学文化情報学部専任講師福田智子先生(現教授)とのお目もじが叶ったのも伊藤先生のお導きである。卒業後も常にお見捨てなく、怠慢な私の背中を押して、この度の出版への道筋をお示しくださった。
神作先生は、入学間もない私を国会図書館古典籍資料室に伴い、書誌学の基本から懇切丁寧にご教示くださった。さらに近世文学会第一二八回春季大会での研究発表の機会を得させていただいたのも先生のお導きによる。新入生というには、薹の立った私を博士課程修了まで牽引してくださった落合先生、伊藤先生、神作先生に賜った学恩に、心より感謝申し上げる。博士論文でご指導いただいた入口敦志先生からは、近世文芸研究における私の考えの至らなさをご指摘賜り、それは今も、これからも私の課題である。
博士論文審査にあたっては、茨城キリスト教大学教授の堀口悟先生、専修大学准教授の濱崎加奈子先生にお世話になった。口頭試問でのお二方からのご指摘が私の大きな糧となっている。先生方に厚く御礼申し上げる。
また二〇一七年当時、日本文学研究専攻長をつとめられた山下則子先生を初め、諸先生方からご薫陶を賜ったことに感謝申し上げる。(397〜398頁)
次に、本書の構成とその内容がわかる「目次」を引きます。
目 次
凡例
香道の専門用語
序章
第一部 大枝流芳の香道伝書を通して
第一章 『心遠斎香道叢書』と大枝流芳
第二章 大枝流芳による刊本香道伝書四書と文学
第三章 『香名引歌之書』T−香名と引歌、和歌を中心に−
第四章 『香名引歌之書』U−香名と引歌、漢詩を中心に−
第五章「香道深緑」考
第二部 菊岡沾涼の香道伝書を通して
第一章 『香道蘭之園』の成立と概要
第二章 『香道蘭之園』組香と文学
第三章 『香道蘭之園』組香と『夫木和歌抄』−『夫木和歌集抜書』との関係について−
第四章 「源氏千種香」の依拠本を探る
第五章 「名香古歌古詩」−香名と引歌−
終章
また、本書には、香道と文学に馴染みが薄い方々に向けて、各所に図版が挿入されています。
さらには、索引が秀逸です。私は、索引のない書物は読み本であり、研究書は索引が必須であることを何度も言ってきました。それが、本書では専門外からの利活用を意識した、詳細な索引が収載されています。お見事です。そして、助かります。これなら、専門外の私でも、興味の赴くままに、この索引を手がかりにして香道と『源氏物語』の世界を散策できます。
索引
人名索引
『心遠斎香道叢書』関連事項索引
『香道蘭之園』関連事項索引
その他の香道伝書索引
書名・作品名索引
『源氏物語』巻名及び関連事項索引
『源氏小鏡』巻名及び関連事項索引
組香名及び関連事項索引
香名及び関連事項索引
「源氏千種香」の聞きの名目と『源氏小鏡』の寄合索引
取り急ぎ、手にした書籍をなぞるだけの紹介で恐縮します。本来は書評を記すべきです。しかし、それは私の任には重すぎるので、ご専門の方に譲ります。
とにかく、慶事をいち早く広報するために記しました。
日本古典文学の奥深さを知ることができる研究成果の結実として、本書は図書館などにご配架いただきたい書籍です。
なお、これまでに武居さんの研究に関して、本ブログで取り上げた記事を列記しておきます。
中でも、「聞香の体験会で裏を読みすぎたこと」という記事が、香道と武居さんの研究テーマが感得できるものと思われるので、まずはその記事をあげます。以下、時間を溯る順に一覧できるように並べました。
(2015年06月04日)
「聞香の体験会で裏を読みすぎたこと」
(2017年06月10日)
「日比谷での源氏講座で香道の話を聞く」
(2017年03月07日)
「茶道資料館で筒井先生に武居さんの学位取得を報告」
(2014年04月26日)
「一仕事終えた後お茶のお稽古で新緑の平群へ」(冒頭部のみ)
(2014年04月25日)
「京洛逍遥(316)京都における香道関係の調査に同行」
(2013年05月02日)
「茶道資料館で香道具を見たあと筒井先生にお目にかかる」
(2013年05月01日)
「同志社大学でお香談義」
(2012年11月29日)
「充実していた総研大学院生の研究発表会」
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