対面会場は早稲田大学戸山キャンパス33号館が用意され、通信環境も良好でした。私は、開会から閉会までの7時間、宇治の自宅に居ながらにして zoom で参加し、さまざまな刺激をいただきました。近年遠ざかっていたアカデミックな感触に、本当に久しぶりに身を置くことができ、文明の利器の重宝さを再認識しました。
数日前に、英国在住の中村久司先生から、今回の研究会に関する私見を記したメールをいただきました。ひとことで言えば、和歌の翻訳には限界があり本質的には不可能である、という持論です。中村先生は、私のブログで何度も紹介している平和学博士であり和歌の研究者です。私の科研では、ケンブリッジ大学で研究集会を開催した時にも、和泉式部の和歌に関する研究発表をしていただきました。「ケンブリッジでの国際研究集会」(http://genjiito.sblo.jp/article/178934196.html)
この翻訳に関する課題を抱えて、本日の発表と討議のすべてを拝聴しました。
確かに、和歌は物語と違って多彩な切り口があります。しかも、言葉数に制限があるので、翻訳というよりも言葉の置き換えに無限の組み合わせがありそうです。そこに、異文化理解という難題がついてまわります。今回、和歌の翻訳とは何か、ということを痛感しました。詞書や本歌の解釈を多言語で解釈したり説明することは可能でしょう。それを、5 7 5 7 7の音節などを意識した翻訳を試みるということになると、これは次元の異なる領域に入ります。こうした理解と対処についての整理が、あらかじめ発表や討議での共通理解が必要だと思いました。
なお、後半の取り組みにあった、和歌の13ヶ国語への先行翻訳を見比べる試みは、聞いていてしだいに興味を掻き立てられました。日本語による現代語訳も多種多様なものがあるように、外国語においてもさまざまな訳が例示されると、それぞれの違いをさらに知りたく思います。さらには、その外国語訳に日本語で逐語訳などがついていると、この逐語訳も人によってはまた別の日本語訳をするのかと思うと、もうその楽しさは際限もなく拡がっていきます。
こうした堂々巡りも、翻訳を楽しむ一つだと言えます。
冒頭に書いた中村久司先生からのメイルの内容は、あらかじめ本研究会の主催者であるフィットレル先生と土田先生には、その要点をお伝えしてありました。今回は時間の都合もあるので、次回の課題としてくださるようです。今後、機会を得て「和歌の翻訳の限界と可能性」について、世界各国の方々と楽しい討議ができることを心待ちにしたいと思います。和歌の翻訳については、その限界が専門を異にする私にも少しは想像できます。その歌の成立事情などが、一首の和歌の中には込められていないのです。その点では、物語の中の和歌は物語展開の中に置かれているため、歌を支える状況がわかるのです。物語の中の和歌の翻訳は、その物語の前後を読者が引き込むことで、呼び込むことで、歌の真意は伝わりやすいと思います。
このことを意識しながら、私も平安物語文学の翻訳に関する研究と討議の場を、ホームページ[海外平安文学情報](http://genjiito.org)を更新する中で、今後とも提案していきいたいと思います。
本日の研究会の開催にあたられた関係者のみなさま、お疲れさまでした。
私は懇親会には参加できませんでしたので、第3回の報告書で今回の発表と討議を確認できることを、楽しみに待ちたいと思います。
本日の内容は以下の通りでした。
(1)『後拾遺和歌集』25番歌の各言語への翻訳とその紹介
「ひきつれてけふはねの日のまつにまたいまちとせをぞのべにいでつる」
(春上・25・和泉式部)
韓国語:イム・チャンス
中国語@:金中
中国語A:黄夢鴿
タイ語:イーブン美奈子
チェコ語:カレル・フィアラ
ポーランド語:アダム・ベドゥナルチク
ロシア語:土田久美子
ハンガリー語@:カーロイ・オルショヤ
ハンガリー語A:フィットレル・アーロン
イタリア語:エドアルド・ジェルリーニ
スペイン語:高木香世子
フランス語:飯塚ひろみ
英語:ローレン・ヴォーラー
ドイツ語:フィットレル・アーロン
(2)『古今和歌集』938番歌の各言語への先行翻訳の紹介
「わびぬれば身をうき草のねをたえてさそふ水あらばいなむとぞ思ふ」
(雑下・938・小野小町)
韓国語:イム・チャンス
中国語@:金中
中国語A:黄夢鴿
ウクライナ語:土田久美子
スロヴァキア語:カレル・フィアラ
チェコ語:カレル・フィアラ
ポーランド語:アダム・ベドゥナルチク
ロシア語:土田久美子
ハンガリー語:カーロイ・オルショヤ
イタリア語:エドアルド・ジェルリーニ
スペイン語:高木香世子
フランス語:飯塚ひろみ
英語:ローレン・ヴォーラー
ドイツ語:フィットレル・アーロン
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