2022年08月04日

清張復読(46)「月光」「粗い網版」「種族同盟」

 今日は、松本清張の祥月命日で没後30周年になります。
 清張は、1909年12月21日に広島県に生まれ、1992年8月4日(82歳没)に東京女子医科大学病院で亡くなりました。
 出生地については、一般的には九州の小倉生まれとされているものの、最近の研究では広島県とされています。私も父親松本峯太郎の出生地である鳥取県日野郡日南町(文学碑がある)で、小倉生まれではなく広島生まれであることを確認しています(「読書雑記(102)足羽隆著『松本清張と日南町』の奨め」(2014年07月10日))。
 清張が活動したのは、私が生まれた前年の1950年から、大学の教員になった1992年までの40数年になります。活躍の時期が私とほぼ同時代だったこともあり、そのほとんどの作品を読んでいます。この「清張復読」は、その作品をもう一度読み直してメモを記しているところです。没後40周年となる2032年までには、少なくとも『松本清張全集 全66巻』(文藝春秋社)は読み終えたいと思っています。
 
 
■「月光」
 俳人の話です。須田不昂と羽島悠紀女の二人の人生を、その私生活の赤裸々な部分まで探りを入れながら洗い出し、丹念に追い求めていきます。特に、複雑に入り組む男女関係には、容赦なく想像を豊かにして語るのです。
 語り手である作者は表面に出ないようにうまく身を隠し、二人の俳人の生きざまを炙り出す役に徹しています。この手法が功を奏しています。別々に亡くなるところで、その状況の説明が生き生きとしているだけに、結婚とは何か? 生きるということは何か? というテーマをあらためて考えさせられます。【5】


初出誌:『別冊文藝春秋96号』(昭和41年6月)
原題:「花衣」

※『松本清張全集 38』(文藝春秋社、1974.5.20)の巻末に収載されている著者自身による「あとがき」には、次のようにあります。
「月光」は原題「花衣」。杉田久女の句「花衣脱ぐやまつはる紐いろいろ」を橋本多佳子の作と思い込んで題名としてしまったもので、このたび「月光」と訂正することにした。
 美貌の女流俳人橋本多佳子は、小倉に在住していた。ただし、当時のわたしは彼女に会ったことがなかった。 その贅沢な、優雅な「文化生活」を話に聞いていただけだった。
 わたしが東京に出てきてからはじめて多佳子と接触する機会があった。そのとき彼女は女流現代俳句の第一人者になっており、そのあでやかな容姿もまた鳴り渡っていた。多佳子の九州時代の師が杉田久女である。久女をモデルにした小説「菊枕」を書くために、奈良の多佳子の家を訪れたのが最初の出会いである。(497頁下段)



※参考資料:『松本清張事典 決定版』(郷原宏、角川学芸出版、平成17年4月)には、次のようにあります。
「美貌の女流俳人橋本多佳子との交流を中心にした自伝的モデル小説。」(57頁)



■「粗い網版」
 福岡県の特高課長から京都府の特高課長に転任させられた秋島は、新興宗教団体の調査をされられます。教団を弾圧する方策を見つけろ、ということです。次第に探索組織が大きくなりました。
 石山寺の近くに調査をするアジトを作ります。秘密裏に教団の研究を進めるためです。
 治安維持法違反と不敬罪を組み上げて犯罪を立証する背後で、歴史は確実に政治家の襲撃が始まっていたのです。不穏な時代の背後で動く警察と憲兵隊(軍部)の姿が、丹念に彫り刻まれています。【3】


初出誌:『別冊文藝春秋98号』(昭和41年12月)


※『松本清張全集 38』(文藝春秋社、1974.5.20)の巻末に収載されている著者自身による「あとがき」には、次のようにあります。
「粗い網版」というのは、印刷写真版から思いついた題名である。一読して分るように、これは昭和十年十二月、京都府綾部に本部のあった大本教の第二次検挙 (第一次は大正十年)を題材にした。(498頁上段)



※参考資料:『松本清張事典 決定版』(郷原宏、角川学芸出版、平成17年4月)には、次のようにあります。
「大本教弾圧事件の真相を警察側の視点から描いた作品。長篇『神々の乱心』でも同じテーマが扱われている。」(14頁)



■「種族同盟」
 強盗・強姦・殺人事件の国選弁護を、仲間から引き受けた弁護士の話です。
 犯人の無罪を証明し、一審と二審で共に無罪を勝ち取ります。そこまでが前半。後半になると、一転して話の流れが変わります。
 単純な構成ながら、わかりやすい推理で読者を楽しませる作品です。【3】


初出誌:『オール讀物』(昭和42年3月)


※『松本清張全集 38』(文藝春秋社、1974.5.20)の巻末に収載されている著者自身による「あとがき」には、次のようにあります。
この作中の弁護士のことは続篇を書くつもりでいたが、そのままになってしまった。 しかしこれはこれで独立した短篇である。(498頁下段)



posted by genjiito at 20:46| Comment(0) | □清張復読
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