今日は、まず中之島図書館でスタートする源氏講座のチラシを配り、内容の確認とお知り合いへの広報をお願いしました。
続いて、昨日と一昨日の2日間にアップしたブログ[鷺水庵より]の記事が、ウクライナ語訳『源氏物語』の話であることを報告しました。平安文学との関係からウクライナを取り上げたので、興味を持って聞いていただけました。
橋本本『源氏物語』「若紫」については、最後の折に落丁があることを、列帖装の製本の仕組みから説明しました。持参した中山本の複製本と、『源氏物語 千年のかがやき 立川移転記念 特別展示図録』も見ながら、紙がどのように括られて本の形となっているのかを、念には念を入れて確認しました。
次に、欠落している2ページ分に、どのようなことが書かれているのかを、原文と現代語訳を参照しながら確認しました。このくだりは、私が作成した小見出しで言うと、以下の内容の語りの部分です。
93 少納言の乳母が応対に出るものの光源氏は制止も聞かずに奥へ入る
94 光源氏は父宮の使いであると嘘をついて、寝ている紫の上を起こす
95 二条院へ誰か来るようにと指示して、光源氏は紫の上を連れて行く
こうしたことを踏まえて、表面と裏面に本文が書写されているはずの、欠落した一丁が意味することを、次の3点から私見を述べました。
(1)読者が、光源氏が年若い若紫を拉致する(連れ去る)場面を読みたくなくて、悪意で破り取った。
(2)書かれている内容が興味深いことなので、切り取った後で一紙両面の書写面を「あいへぎ」にして二枚の古筆切れにしてから装丁し直し、お茶席などに飾り観賞用として披露した。
(3)五紙一括りの列帖装の最終折が裏表紙となっていることから、痛んだ最後の丁が剥落し、それと共に内側に折り込まれていたこの一丁がいつしか欠脱した。
また、現在の写本の最終丁に残っている小さな紙片は、本書の凡例で次のように書いた状態にあります。
(15) 本書には、巻末丁(66丁)以降に落丁がある。ただし、66丁表の一行目の数文字だけは断片として残存しており、「かしきも」と読み取れる状態である。この断片は、本書が列帖装であることに起因する、偶然の残存物といえる。
裏表紙に当たる一丁がなくなった後、この一葉は最終丁となったこともあり、さまざまな外的な要因によって無惨にもその大半を失ったと思われます。
ただし、私はもう一つの可能性を夢想しています。それは、大島本の第36巻「柏木」の巻末において、河内本などが伝える長文が、大島本では切り取られた状態で今に伝わっていることを思い合わせるからです。つまり、この橋本本の「若紫」の巻末丁では、今は不明の本文が切除されたているのではないか、という勝手な想像です。これは、今では証明や実証などができないこともあり、学問的ではありません。しかし、こんなことも考える楽しさがあると、写本というものと、そこに書き写されている本文を元にして思いが千年前に溯れば、これもまた新しい読書の一つだといえるでしょう。
この橋本本「若紫」の落丁や破損は、さまざまなことを考えさせてくれる、楽しめる写本です。
そんなことを受講生のみなさんと考えた後、写本に書かれた文字を確認していきました。
今日は、58丁裏5行目「可と・うち多ゝ可勢・【給】へ盤・」から始めました。すぐに落丁がある箇所になります。このことはあらかじめ、本日の最初に確認したことです。
異文については、次の一箇所のみを取り上げました。
本本・・・・050000
大島本(1)[ 大 ]
尾州河内本(1)カラー版[ 尾 ]
中山本(1)[ 中 ]
麦生本(1)[ 麦 ]
阿里莫(1)[ 阿 ]
陽明本[ 陽 ]
池田本[ 池 ]
御物本[ 御 ]
国冬本[ 国 ]
肖柏本[ 肖 ]
日大三条西本[ 日 ]
穂久邇本[ 穂 ]
保坂本[ 保 ]
伏見本[ 伏 ]
高松宮本[ 高 ]
天理河内本鉛筆なし[ 天 ]
尾州河内本(1)[ 尾 ]
--------------------------------------
あさましく/〈改頁〉[橋]・・・・055055
あさましう[大中麦阿池御国肖日穂保]
あさましく[尾陽高天尾]
あさましう/し〈改頁〉[伏]
いかにと[橋=尾陽高天尾]・・・・055056
いかさまにと[大中池御国肖穂保伏]
いかさまにかと[麦阿日]
きこゑあえり[橋=陽]・・・・055057
思ひあへり[大中伏]
きこえあへり[尾高]
思あへり[麦阿国]
おもひあへり[池日保]
をもひあへり[御]
思あへり/あ〈改頁〉[肖]
思あえり[穂]
きこえあへり/あ〈改頁〉[天]
きこへあえり[尾]
ふと[橋=尾麦阿陽高天尾]・・・・055058
ナシ[大池御国肖日穂保伏]
ふとさしよせて[中]
のせ[橋=尾中麦阿陽高天尾]・・・・055059
ナシ[大池御国肖日穂保伏]
たてまつり[橋]・・・・055060
ナシ[大中池御国肖日穂保伏]
たてまつらせ[尾陽高天尾]
奉せ[麦]
奉らせ[阿]
たまふに[橋=尾陽高尾]・・・・055061
ナシ[大池御国肖日穂保伏]
給に[中麦阿天]
わか君も[橋=大御国肖保天]・・・・055062
わかきみも[尾陽池日穂伏尾]
我君も[中]
若君も[麦阿]
わかきみも/も〈改頁〉[高]
あやしと[橋=大尾中麦阿陽池御国日穂伏高天尾]・・・・055063
あやしうと[肖保]
橋本本のグループが伝える「ふとのせたてまつりたまふに」を、大島本のグループは持ちません。若紫をお迎えの車に無理やり乗せることを言うか言わないかは、その写本の本文の評価につながります。私は、元はあったものが、大島本のように本文を校訂した者が不要だと判断して削除したのではないか、と思っています。
今日は、59丁裏6行目「き可へて・の里ぬ」まで進みました。
次回は、それに続く「【二条】の【院】者・ち可遣れ八」からとなります。
今日だけでも、さまざまな問題を提示しました。これらは、明らかな答えがある、というものではありません。〈物語〉の本文を、写本に書かれたままに読みながら、ああでもないこうでもないと楽しみながら読むことを、こうしてみなさんと実践しているところです。研究者の読書会ではないので、自由に参加してもらうことろに意義を感じての講読です。その意味では、この日比谷図書文化館での2時間という時間は、たっぷりとブレーンストーミングができます。
次回は5月になります。
また、みなさまと楽しく自由気ままに写本を読み続けて行きたいと思います。
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