キャビンアテンダントの方や機長や整備士の方が書かれた本は、いろいろと気の赴くままに読みました。しかし、本書はそれらとは視点を異にする、空港職員であるグランドスタッフの方の接客の心遣いを浮き彫りにしたものです。おもてなしの極意が、聞き取り調査によって集めてあります。
同じような趣旨や、よく似た視点で語られた事例や心構えが重なって出てくるので、もっと整理をしていただきたいという印象を持ちました。また、取材された関係者の方々の人数は10人以上とあるので、あまり多くないとも言えます。さらに多方面からの質問や切り口でまとめると、また違った印象の本になることでしょう。
それはさておき、とにかくここでは、JALが掲げる「JALフィロソフィ」の精神を体現する事例を中心にした、そのすばらしさを堪能することができました。そして、そのJALフィロソフィには「答え」は書かれていない、ということが要点のようです。JALは、経営破綻から奇跡の復活を果たしたと言われています。この、JALの背景にあるJALフィロソフィは、破綻から再生への支柱でもあったと言えるようです。
以下、私がチェックした箇所を、本書から引きます。
・ JALを大きく変え、JALのサービスを大きく変えたJALフィロソフィ。いかがだったでしょうか。
ざっと斜め読みをしてしまうと、正直、それほど特別なことが書いてあるわけではない、という印象を持たれるかもしれません。果たして、これをベースに行動することで、本当に会社や仕事が大きく変わるのか、と感じた人もいるでしょう。
実はJALの社内でも、JALフィロソフィ教育が始まった当初は、そんな空気が流れていました。どうして、今さら大の大人がこんな当たり前のこと、道徳のようなことを学ばなければいけないのか、と。
しかし、やがて気づいていくことになったのです。こんな当たり前のことが、実はできていなかったのではないか、と。教育を通じて、だんだんとそれがはっきりわかっていったのです。
実際、特別なことが書かれているわけではない、と思えるわけですが、よくよく読んでみると、果たしてこれらのことを自分自身がきちんとできているかどうか、考えさせられます。
自分の仕事に照らし合わせたとき、本当にこの通りに行動ができているかどうか。JALフィロソフィを実践するには、どんな仕事の仕方や考え方をすればいいか。
JALでは実際に、このJALフィロソフィの項目をどう体現したか、共有する場も作られています。日々の仕事に、JALフィロソフィをどうおとし込んでいくか。どうすれば、自分の仕事でJALフィロソフィを体現できるか。そこまで意識が向くようになって初めて、JALフィロソフィは浸透した、と言えるのです。
そしてJALでは、役職が上になるほど、JALフィロソフィ教育をたくさん受けることになります。空港本部長の阿部さんは語ります。
「管理職 3500人は、年1~2回、2時間半のリーダー教育を受けます。部長級社員や役員は、毎月3時間のリーダー勉強会も受けています」
部下に「JALフィロソフィを実践しなさい」と言っているのに、上司が実践できていないのでは、JALフィロソフィは浸透しません。むしろ、役職が上になるほど、率先垂範する必要がある。そんなカルチャーになっているのです。(30〜31頁)
・ それこそ、要望を聞かれて、「あ、それはできません」と答えているだけでは、サービスにはなりません。たとえ95%ノーだと思っても、5%の可能性があるのであれば、「いったん、お調べします」と言えたとしたらどうなるのか。
あるいは、要望をそのまま叶えることは無理でも、それに近いものを探し出すことができたらどうなるのか。
これこそが、「お客さまに寄り添う」こと。たとえ、結果がノーだったとしても、「いったん、お調べします」とギリギリまで粘って考えてくれたサービスと、「それはできないので」と簡単にノーを伝えられるのとでは、受け取る印象は全く変わってくるのです。(51頁)
・ 笑顔でいることがいかに大事か。教官が語っていたのは、「顔の表情を笑顔にすることで、声も笑顔に乗って出てくる」ということ。これを、「笑声(えごえ)」と呼びます。
逆に、暗い表情でしゃべっていると、声まで暗いトーンになってしまう。イライラしていたり、怒っていたりすると、実は声もそうなってしまいます。表情と声は連動している。ダブルで印象を作ってしまうということです。
だからこそ、笑顔でいることが大切。普段から笑顔でいる意識を持っておくことで、声のトーンまで明るくなっていくのです。(66頁)
・ ちなみに間違ってもやってはいけないのは、一本の指で指し示してしまうことです。最近では、タッチパネルを触ることも増えていますが、ここでも指一本だけで操作するのは、美しくない。
タッチパネルの場合は、手の甲を上に向けることになりますが、すべての指を揃えて、中指だけでタッチする。普段からこれが意識できるよう、スマートフォンのタッチパネルにどう触れるか、というところから指導する教官もいます。美しく見えるスマートフォンの使い方、意識してみる価値があります。(71頁)
・ 人は基本的に話したい生き物です。その意味で、自然に自分も言葉が出せるようなコミュニケーション、会話ができるようなコミュニケーションは、とても好印象になると思います。
では、グランドスタッフが何をしているのかというと、相手から言葉が返ってこないような発信はできるだけしないのです。
例えば、「いらっしゃいませ」から始めない。「いらっしゃいませ」と言われても、こちらから返す言葉はありません。
これがもし「おはようございます」なら、どうでしょうか。こちらも、「おはようございます」と返していくでしょう。一方的に確認をするというより、引き出すようなコミュニケーションを目指すのです。
もちろん、「イエス・ノー」を確認するコミュニケーションもありますが、とりわけ入り口は「イエス・ノー」で終わらないようにする。キャッチボールができるような会話の入り方をするのです。(84〜85頁)
巻末の「文庫版あとがき」は、次のことばで締めくくられています。
2018年1月に刊行され、好評をいただいた本書ですが、それから3年を経ずして世界は想像もしていなかった事態に見舞われることになりました。新型コロナウイルスの世界的流行です。
国内はもちろん世界中の経済が大きなダメージを受けました。中でも大きな影響を被ったのが、航空業界でした。人の移動が滞り、便数はギリギリまで減ることになりました。飛行機を使う機会がまったくなくなってしまった、という人も少なくないかもしれません。私もその一人です。
こうなると、空港で働くグランドスタッフの皆さんの心地良い接客やサービスを体感することができません。
しかし、たくさんのグランドスタッフに取材することで、その心髄を残すことができた本書があります。ぜひ、グランドスタッフのホスピタリティを思い出していただけたらと思います
そして早くコロナ禍が去り、かつてのような日常が戻って、世界の、日本の空港で大勢のグランドスタッフの皆さんの爽やかな笑顔に、素敵なサービスに再び会える日を心待ちにしています。(222頁)
本書を読み終えて、あらためてJALのグランドスタッフの皆様の対応を自分の目で確認してみたくなりました。
あれだけ世界中を駆け巡ってきた私も、一昨年の師走に中国へ行って以来、もう一年半も飛行機に乗っていません。今は関西国際空港へ40分で行けるところに職場があるのにもかかわらず、です。次はいつ乗れるのでしょうか。空港へ、飛行機に乗るために足を向けるのはいつになるのか、楽しみになってきました。
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