夏山氏の第1作は、「読書雑記(291)夏山かほる『新・紫式部日記』」(2020年07月30日)で紹介しました。続くこの第2作は、平安文学の核心へと切り込んだ、ミステリー仕立ての作品です。
以下、やや批判的な視点で印象批評を記しています。さらにおもしろい物語を紡いでほしいとの思いからです。視点の新鮮さと平安時代の理解が深い作者のことなので、なおさら希望を記しました。ご寛恕のほどを願います。
■第一章
道長は、太皇太后宮彰子が女院号宣下を受けるのを機に、物語合わせのイベントを企画します。そして、その場に『源氏物語』の第55番目の巻を出して勝とうとします。その巻を探すことを、道長は菅原孝標の女の更科に命じました。さらには、その協力者に紫式部の娘の賢子が指名されたのです。誰も知らない写本探しの始まりです。
女性の言葉遣いに堅苦しさを感じました。作品全体が女性で展開しているので、現代の感覚で言うのはどうかとは思うものの、もっと柔らかい表現と語り口が良いように思いました。
■第二章
賢子が母の紫式部を思い出しながら語るくだりは、いかにも作り話という雰囲気なので違和感を持ちました。具体的な描写がなくて、思いを紡ぐだけのスタイルだからでしょうか。色彩がなくなったようなので、景色や装束などを点綴したら、イメージは違っていたことでしょう。そして、物語の展開も、メリハリを付けようとしてドタバタ劇にしたために、彩りがなくなりました。
また、国司が突然殺された場面での次の行文は、私にはその意味がわかりませんでした。
五十五帖を見つけるというよりは、この世から消すことが主目的なのではないかという気がした。そのために五十五帖のありかを吐かせようとして、国司は殺されたとしたら合点がいった。(105頁)
また、写本のありかも、納得のいく説明ができるようにすると、さらにおもしろくなったことでしょう。
■第三章
清少納言の登場で、物語は俄然おもしろくなります。そして、幻の冊子本一冊の姿がわかります。ここは、平安文学を学ばれた作者の筆だけに、もっとその知識を活かした描写を期待しました。装丁や書写されている文字の特徴なども、存分に語ってほしいところです。
さらには、『枕草子』を書く時に用いられた同じ紙が出て来ます。そこに何が書かれるのか。これから後は、物語を読む楽しさが味わえます。
■第四章
『源氏物語』の第五十五帖をめぐる話が凝縮された章です。作者渾身の一章なので、コメントは控えましょう。
■第五章
一品宮が重要な役を担います。ただし、話が速くなり、付いて行くのが大変です。もう少し言葉を尽くして語られたら、読者は安心したと思います。
■終章
物語の幕は静かに下ります。話の展開に戸惑いながらも、もう一度読み直すだろうな、と思いました。【3】
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