早速、読みました。墨字30頁と点字88頁の合綴本です。点字が読めない私は、墨字の頁だけしか読めませんが……
巻頭の「発刊にあたって」に、桜雲会理事長である一幡良利氏の次のようなことばがあります。
本企画は、視覚障害のある人に介護体験を語っていただき、それらをまとめた貴重なものです。当事者3人の方々の、それぞれの違った立場でのご苦労がよくわかります。誰もが安心して介護ができるための、持続可能な社会保障制度への手助けにもなれば幸いです。(1頁)
目の見えない方が介護をする立場に立っての体験談、という点が特徴です。
続く、桜雲会理事の甲賀佳子氏による「はじめに」には、本書の全体像が語られているので、その全文を引きます。
私たちは、これまで、見えないあるいは見えにくい人が主人公となり介護をするということを、真剣に真正面から考えてみたことがあったでしょうか?
残念ながら、視覚に障害があると、ともすれば常に保護される立場、何かをしてもらう対象にしかならないと考えられてきたように思います。
この本は、それぞれ立場の異なる3人の視覚障害者に、インタビューという手法でアプローチを試み、堅苦しくない率直な自らの介護体験を語っていただき、それをもとに、経験豊富なライターによって描き出された人間の記録です。
この本を通して、多くの方が「障害を持つ人が介護をする」という問題を、積極的に考えていただけるきっかけとなれば幸いです。(2頁)
確かに、以前の私は、目の見えない方々は何かをしてもらう立場にある、という視点で認識していました。しかし、「点字付百人一首」を楽しんでおられる「百星の会」などの参加者のみなさま方とお付き合いが広がるにつれて、受け身ではなくて積極的にものごとに立ち向かっておられることが実感できたのです。そこから、関場さんたちの活動のお手伝いをするようになりました。さらに今、本書によって、介護をする立場での目が見えない方々の思いが伝わってきて、新たな気付きをいただくことができました。本書により、またあらたに新鮮な理解へと導いていただけたことに感謝しています。これは、人に語らずにはいられない、という思いで、ここに紹介します。
本書では、3人の方の体験談が展開します。
その冒頭に掲げられた3人それぞれの紹介文を引きます。ここからさらに詳しく知りたいと思い、本書を手にしていただくきっかけになれば幸いです。
1.藤田薫さんの場合
30代の弱視の女性、藤田薫さんは、会社勤めをしながら、ともに70代後半の両親を介護しています。父には肢体不自由があり、母は認知症のため、平日の昼間はデイサービスなどを上手に利用しながら、仕事と介護を両立させています。
見えにくいなかでの介護には苦労も多く、母の症状も確実に進行していますが、真摯に向き合うことで、あらためて親子の絆を深めています。(3頁)
この記事の中で、以下の2箇所が私の心に留まりました。摘記します。
「昔は母の行動や言葉にイライラしたりカッとしたりして、取っ組み合いをしたり、ときには羽交い絞めにしたことも。“くそばばあ”と思ったこともあります」と振り返る薫さんだが、母の異変を感じてから約6年。「今は少しずつ対応の仕方も分かり、私自身も成長できています」と感慨深げに話す。
これまでの経験を通し、さまざまな工夫も生まれている。例えば、弱視の薫さんが母の介護で最も困っているのは、「表情が見えないこと」。外見から母の症状を推し量ることができないからだ。だが、その代わりに最近は、帰宅するとまず母を抱きしめるようにしている。
「体温を感じ、体の匂いも分かります。目では見えない代わりに、触れ合うことで体調管理ができます。母も落ち着くようです」(9頁)
「毎日の世話は大変なこともありますが、母も父も、私にはかけがえのない存在です。1日でも長生きしてほしいと、心から願っています」
これからも、薫さんなりに精一杯の愛情と接し方で、寄り添っていこうと誓っている。(11頁)
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2.渡辺勝明さんの場合
渡辺勝明さんは、幼少期から全盲の50代の男性です。高校の同級生と結婚し、2人の息子にも恵まれ、穏やかで幸せな日々を過ごしていました。
しかし、結婚14年目に突然、妻が末期がんと診断されます。約1年8カ月の懸命な闘病の末、妻は先立ちました。
勝明さんは、「僕が在宅で介護したのは最後の1週間だけ。ほとんど何もしていないです....…」と謙遜しますが、妻と交わした約束を、勝明さんは今も忘れず叶え続けています。(12頁)
この記事の中では、以下の箇所が私の心に留まりました。摘記します。
妻は普段から周囲にとても気を遣う人で、「すいません」「ごめんね」が口グセだった。その日も勝明さんの献身的な介護に対し、「ごめんね」ばかりを繰り返した。だから、勝明さんは優しく伝えた。
「そういうときはね、『ありがとう』って言えばいいよ。『ごめんね』よりも、ずっとスマートだよ」
思いやりあふれる言葉は妻にも響いたようだった。
「そうだね。ありがとう!」
それが、2人で穏やかに過ごした最後のひとときとなった。その日の夕方、妻の病状が急変し昏睡状態に陥った。在宅医の診療を受けたが、意識は戻らないまま、4日後に妻は静かに息を引き取った。(16頁)
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3.信子さんの場合
全盲の信子さんは、2019年の春、91歳だった最愛の母を看取りました。幼いころから重度の弱視だった信子さんを愛し、さまざまなことを教え、見守ってくれた母は、80歳を前に認知症を発症。信子さんは母と同居し、仕事と両立させながら献身的に介護して12年。ある日、母の体調が急変し、突然のお別れとなりました。
認知症発症前の母は信子さんに対してかなりの過保護で、ともすれば過干渉にも感じ、信子さんは家を出て母と離れて暮らしたいと思ってきましたが、今は「母を介護できてよかった」としみじみと感じています。(19頁)
この記事の中では、以下の2箇所が私の心に留まりました。摘記します。
ずっとそばにいたのに何か足りなかったかもしれない。私の目が見えていたら母の異変にもっと早く気づいて違う対応ができたのではないか。信子さんは「最後の日に関しては悔いが残っています」と唇をかむ。
実は救急搬送時にもトラブルがあった。救急車に信子さんも乗ろうとしたら、盲導犬は断られた。「以前も乗ったことがある」と押し問答になったが、一刻を争う状況を思って諦め、タクシーで行こうとした。その後、なぜか一転して同乗を許可されたが「これで母の処置が少し遅れたのでは」と思うと今でも切なさが込みあげる。(25頁)
改めて感謝の思いも強くしている。幼いころ、母は信子さんにさまざまなモノを触らせ、その名を教えた。花や野菜、布地……。旅行先では土産屋で陶器や漆器、織物など工芸品を一つひとつ手渡して詳しく説明してくれた。おかげで全盲になった今でも、名前を聞いたり手で触るだけでイメージがパッと広がり、1人でも楽しむことができている。
母はまた、「お酒を嗜みなさい」「洋画を観なさい」「着物を楽しみなさい」という3つを信子さんに説いた。「どれも人生を楽しくさせてくれるからと。見えない娘に多くを伝え、人生を少しでも豊かに楽しめるように『いろいろ世界を広げてあげるのが私の役目』と思っていたのでしょう」と信子さんは感謝する。
今でもまだ、ふとしたときに喪失感に押しつぶされそうになることもある。そんなとき、母が言った「死なないでね」という言葉を思い出す。「母の愛情に報いるには私自身が楽しく充実した日々を生き抜くことだ」と思えるようになった。(28頁)
巻末に置かれた松谷詩子氏の「監修のことば」から、私の記憶に残った箇所を引きます。障害と介護という観点から、いろいろなことを考えさせてくれる本です。
家族の介護の本質は、完ぺきな介護テクニックではなく、介護を受ける人の「心」に丁寧に耳を傾けて、安全に、そして安心してその人らしく日々を送ることを、総合的に支援することであると、本書は改めて示していると思うのです。(29頁)
介護の課題を家庭内に閉じ込めたことにより、不幸な結果に至ってしまうケースが報道されるたび、「介護の社会化」の重要性が論じられます。介護とは、その担い手が孤独に取り組む課題ではなく、人々の連携のもとに「社会で支えるもの」であるというのは、きわめて一般的な命題です。
(中略)
本書は自身の視覚障害を克服して挑戦した介護の記録ではなく、大切な人がどのような状況にあっても、与えられた条件の中でその人らしく生き抜くことを支えたいという、きわめて自然な「人間の願い」の記録であると思うのです。その願いは、障害の有無にかかわらず、大切な人との関係性の中で育まれていくものであることを、一人ひとりの体験談は静かに、そして力強く語り掛けています。(30頁)
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