2020年10月02日

読書雑記(299)高坂晶子『オーバーツーリズム』

 『オーバーツーリズム 観光に消費されないまちのつくり方』(高坂晶子、学芸出版社、2020年3月)を読みました。非常にわかりやすい説明がなされている本です。

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 設定したテーマを広く見回してから、問題点を具体的に丹念に追っています。提示する情報の出所が明確なので、安心して読めました。この手の本にありがちな、情熱からの思い込みや熱弁は、適度にセーブされています。文章もわかりやすく、質の高い本に仕上がっていると思います。
 特に、多くの図表が内容を的確にまとめています。極端なことを言えば、この図表をじっくりと眺めているだけで、著者の言わんとすることは伝わって来ます(29頁など)。
 オーバーツーリズムの問題点が、具体的な事例で示され、その対処策が示されていきます。何が問題で、どうすれば解決の糸口へのヒントがあるのか、よくわかります。
 よくわかる具体例として、海外の場合は、スペインのバルセロナ、アメリカのハワイ、タイやフィリピンの島、スイスのツェルマット、エクアドルのガラパゴス諸島、ネパールのヒマラヤ山脈が検討の対象となっています。国内の場合は、京都からはじまり、続いて、神奈川の鎌倉、沖縄の恩納村、富士山、北海道美瑛町。それぞれの問題点を提示し、その対処策を考えて行きます。わかりやすい展開です。
 また、SNSへの投稿内容をオーバーツーリズムの対策に活用することは、今後ともこの問題を考える上で有効です。問題点の指摘の後に、それぞれの対処策が提示されています。これは、本書のテーマを理解する上で助かります。
 最終章である「8章 レスポンシブル・ツーリズム」で、著者は「観光客の意識」の節で次のように言います。「レスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)」と「サステイナブル・トラベル(旅行先の環境やコミュニティに配慮した旅行)」の違いに言及し、その問題点を整理しています。少し長くなるのを厭わず、引用します。

 レスポンシブル・ツーリズムにおける観光客は、一方的にもてなされる立場ではなく、応分の責務や役割を担う存在である。観光地の自然・社会環境、住民(特に原住民)の生活・文化等に対して敬意を払ったり、保全に寄与する人物像が想定される。
 では、観光客自身は、レスポンシブル・ツーリズムについてどの程度意識しているのであろうか。世界的な宿泊予約サイトである「ブッキングドットコム(Booking.com)」が2019年に実施した「サステイナブル・トラベル(旅行先の環境やコミュニティに配慮した旅行)」に関するインターネットアンケート(世界8カ国、8歳以上で2018年中に旅行した男女約1万1千人を対象)によると、「次世代のために地球を守るには、人々はすぐに行動しサステイナブルな選択を行う必要がある」と回答した比率は、全世界では72%、日本では40%であった。また、「宿泊施設がエコに配慮していることを知った場合、その施設を予約する可能性は高くなるだろう」との回答者は、全世界では70%、日本では36%であった(表1)。
 総じて日本の旅行者のサステイナブル・トラベルに対する配慮・意識は、世界全体と比較すると低い傾向にあるが、その理由として、日本人の34%が「旅行は特別な時間であり、サスティナビリティについて考えたくない」と回答しており、責任ある観光よりも旅の特別感、解放感を優先する傾向が見てとれる。これには、日本人の旅行日数がアンケート対象国のうち最短であり、リラックス優先となりがちなことが関係していよう。あるいは、「よりサステイナブルな旅行を行う方法がわからない」とする日本人の比率は49%と、全世界の37%を上回っており、情報の少なさが影響している可能性もある。(240〜242頁)


 これは、今の日本実状を示しているように思われます。ただし、次の住民に対する2つの課題を解決することには、新型コロナウイルスに直面している今の日本ではハードルが高く、相当の時間が必要だと思われます。

 すなわち、オーバーツーリズム現象に対して住民が諦めつつ距離を置くかつての状況は変化しつつあり、日本でも観光と住民の関係性を問い直す時期が到来している。今後は、住民の観光(客)に対する受容力を向上させることが課題となろう。住民の観光受容力が重要な理由として、以下の2点が挙げられる。
 一つは、観光客の嗜好の変化に対応していく必要性である。観光客、とりわけインバウンドの間では、景勝地や伝統的建造物の見物だけでは飽き足らず、ユニークな体験をする「コト消費」や地元の日常生活に価値を置く傾向があることはすでに指摘した。この場合、必然的にコミュニティとの接触・交流が生じるため、住民の観光受容力が極めて重要となる。
 実際、観光客が街を散策するような場合でも、住民が友好的に受け入れる雰囲気の有無は観光客のはの満足度を左右する。ましてや観光客が道に迷ったり、天災等のトラブルに遭遇した場合、周囲からの声掛けや手助けの有無は、当該地域ひいては訪問国全体に対する彼らの心象を左右する結果となろう。これらのイメージがSNSで拡散し、大きな影響力を持つことは6章で指摘した通りであり、軽視はできない。
 もう一つは、地域の観光開発やまちづくりを適切に管理していく必要性である。近年のインバウンドブームを受けて各地で観光開発が進んでおり、著名観光地やリゾートではホテルや娯楽施設の建設ラッシュと地価の高騰が報じられている。これらの開発は観光客の受け皿整備として必要な側面もあるが、古くからの街並みに変容をもたらし、本来は観光振興のために保持すべき資源すら毀損される恐れがある。今後は、無秩序な開発に陥らず、住民生活にとっても、また観光にとっても好ましいまちづくり、地域開発が重要となるが、そのためには住民の観光に対する理解と地域の意思決定への主体的な参画が必要不可欠である。(249〜250頁)


 本書は、本年3月に刊行されたものです。ちょうど新型コロナウイルスが拡がりつつあった時であり、著者はこれに続く私論の構想を温めておられることでしょう。読みやすい本だけに、続編の観光が待たれます。【4】
 
 
 
posted by genjiito at 23:17| Comment(0) | ■読書雑記
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