2020年06月20日

読書雑記(289)中村真典『元CA訓練部長が書いた日本で一番やさしく、ふかく、おもしろいホスピタリティの本』

 『元CA訓練部長が書いた日本で一番やさしく、ふかく、おもしろいホスピタリティの本』(中村真典、晃洋書房、2018年3月)を読みました。飛行機の機内での、サービスに関する話です。しかし、それが日常の我々の日々に不思議とリンクします。著者の体験談を通して、多くの生きる知恵をいただける本です。

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 本書は、次の視点で書かれたものです。「はしがき」から引きます。

 以前に電子出版した「CAになりたいあなたへ教えてください! 訓練部長」(ホルス出版、二〇一五年)はありがたいことにご好評いただき、たくさんの人が読んでくださいました。ただ、残念ながらせっかくのエピソードが訓練科目の順番に並べられていたため、私が言いたいホスピタリティ・マインドを十分に伝えきれていないようです。そこでこの本では、あらためて、ホスピタリティがサービス業界において重要視されるようになった経緯に沿ってホスピタリティ・マインドをお伝えすることにしました。
(中略)
 また Column として、私の教官時代のエピソードで、外国人訓練生に関するものを紹介しました。ホスピタリティにおいて相手の立場に立つ時、その相手が外国人の場合は当然その文化への理解が必要です。人種・民族を超えた共通の優しさ・親切さはあるものの、誤解を生みやすいマナー・エチケットの違いがあるのも事実です。ホスピタリティの背景となる異文化交流の一助になれば幸いです。(3〜4頁)


 各節では、短い逸話が語られます。そして、最後に必ず質問として「Q」が置かれています。例えば。

(中略)
 「どうせ○○しても」。便利な言葉です。しかしサービスを担当する者には禁句です。それを言い出すとキリがありません。
 その「どうせ」をなくせ!
 チーフの短い言葉が私にサービスの基本を思い出させてくれました。

Q[日常生活の中で、どうせやってもムダだと思うことはありますか?](28〜39頁)


 これは、語った内容に読者を引きとどめて、自己の体験から理解を深めようとするものです。実に効果的な問いが置かれていきます。

 次々と、さまざまな失敗談で読む者を惹きつけます。さすがは、豊富な経験がものをいう、わかりやすい文章です。
 第2章では、次の一節が気に入りました。こんなフレーズが多いので、楽しく読めます。

 笑顔を絶やさず、「おしぼりでございます」「どうぞ」「おしぼりはいかがですか」と、単調にならずきちんと言葉も添えています。「動作に笑顔と言葉を添えて」の模範のようなサービスです。
 でも、なぜか丁寧な印象を受けません。何が足りないのでしょうか。
 ずっと観察していて、気が付きました。目線がすぐ次のお客さまへ行ってしまうのです。目切りが早い、という言い方もします。「お客さま、おしぼりでございます」と言った瞬間、もう目線が次の列へ移り、結果として、おしぼりを差し上げた側に、自分へという感じがうまく伝わりません。それを繰り返すことによって、結局、丁寧さが感じられないのです。
 リカーサービスの時、私はトマトジュースを頼みました。手際よくレモンスライスを添えたトマトジュースが目の前に出され、塩・コショウの小袋がテーブルの上に置かれたところで、私が「ありがとう」と顔を上げると、彼女の顔は既に反対側の列のお客さまに向いていました。これでは、何か頼もうと思っても、わざわざ声を掛けなければなりません。(54頁、「3 目切りの早さ」)


 「目切り」という言葉を、本書で初めて知りました。そして、この逸話の意味することも得心できました。ここでの末尾は、次の質問が置かれています。

Q[サービスを受けた直後に相手の表情を見たことがありますか? 多くの学びが得られます。]


 これは、次の「4 目切りの遅さ」の節で、「お客様より一秒遅い目切り」(57頁)として、ワンランク上の心がけの例となって語られています。この2節だけで、もう忘れられない本となります。

 京都の老舗旅館の女将から話を聞いた後の質疑応答で、「サービスに当たって、モットーのようなもの、大事にしている言葉があれば、教えてください。」と問われた時のその女将の答えが秀逸です。

「三つあります。
 一つ目は、『誠心誠意』。
 接遇にあたり、これ以上大事な心構えはありません。仕事だからではなく、自分の生き方として、まごころを込めてお客さまのために働く。打算的な考えが入る隙間も与えない。サービスの極意の言葉だと思います。
 二つ目は、『臨機応変』。
 お客さまのためを思っても、それを行動に移せなければ何にもなりません。状況に応じて最善の行動をとることが必要です。発想の柔軟性も必要です。
 三つ目は」
 そこで間を置き、チャーミングな笑顔を見せて、続けました。
 「これは秘中の秘です。何の説明も付けません。よーく聞いて、帰ってください。
 三つ目は、……『うそも方便』です」

 彼女の話の中に「ホスピタリティ」という言葉は一度も出てきませんでした。しかし「三つ」すべてに、ホスピタリティ・マインドが深く関連しています。

Q[なぜ「うそも方便」がサービスに当たって大事な言葉なのですか?](120〜121頁)


 この節を読み、私はしばし天を睨んでその内容を噛み締めました。

 本書を読み終わり、さて、「ホスピタリティ」を日本語ではどう表記すればいいのだろう、と自問しています。これは著者から与えられた課題だと思い、しばらく温めてみます。【5】
 
 
 
posted by genjiito at 19:47| Comment(0) | ■読書雑記
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