三島由紀夫が、吉行淳之介の『暗室』は谷崎潤一郎の『卍』に「遠く呼応するものであろう。」という選評をしていることを、宮城まり子さんが紹介しています(『淳之介さんのこと』「飛行機雲」、228頁)。そうだったのかと思い、読む順番を前後させて読み直すことにしました。
味覚と聴覚の話で始まります。
主人公は妻の事故死について、自殺だったのではないか、という疑いを少しだけ持っています。ただし、このことは、その後は特に何かと関係していくことはありませんでした。
そして触覚。さらに色覚。
話題の一つとしてあがる天才理学博士の内山虎雄には、2人の兄妹がいました。共に精神を病み、屋根裏部屋に住んでいました。兄は目が見えない、というのです。その田舎での静養は、20日ほどでした。目が見えないことに関しては、3箇所(48頁、50頁、87頁)に触れられています。このことは、別の機会に書くつもりです。
マキとタエという2人の女性は、共に同性愛者という関係を楽しんでいます。そのことを、日記のスタイルで書こうとします。男性同性愛者と女性同性愛者について、冷静な目で客観的に分析していきます。吉行がよく見せる一面です。
ここでは、マキが書いた同性愛に関するメモが、話を引っ張っていきます。
主人公で語り手であるライターの中田は、マキとの会話で同性愛者について、そのマキのメモの内容を仲立ちにして議論します。そして、中田は観察者としてマキと旅館に入ります。
交通事故で亡くなった圭子、その後は多加子、マキ、由美子が去った後は、夏枝との関係が続いています。
読み終えて、若かった頃に本書を読んだ記憶を探り出そうとしました。しかし、まったく手掛かりが見つかりません。読んだ記憶は、所々にあります。しかし、ほとんど思い出せません。描かれている世界が、あまりわからなかったのでしょう。今回も、次第にわからなくなりました。とくに後半の、夏枝に絞り込まれていくあたりから、それまでの吉行が構築した世界の全体像が輪郭を持ち出したのです。女と性というものを、明らかにしていることは実感できます。読み取れたように思います。しかし、それがそれまでの〈物語〉とは接点を持たないのです。
読後感は、まだ私にはよくわからない、ということになります。
冒頭で触れた、三島由紀夫が『暗室』は谷崎潤一郎の『卍』に通うものがあると言った点については、まだよくわからないままです。この谷崎潤一郎の選評は、吉行の谷崎賞贈呈式の1週間後の1970年11月25日に三島が市ケ谷で自決したため、三島にとって最後の文学賞の選評となったものです。この作品は、またあらためて読み直すことになりそうです。【3】
なお、この暗室をめぐる興味深い話はいろいろとあります。特に、「自由人の系譜 吉行淳之介「闇のなかの祝祭」と「暗室」(7)」(2018年04月23日)では、この『暗室』のモデルをはじめとして、いろいろな情報を提示しています。この作品の背景を知るのに参考になります。
■初出誌:『群像』1969年1月〜12月、連載12回)
単行本『暗室』(1970年3月、講談社)
※第6回谷崎潤一郎賞受賞
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