2020年04月13日

清張全集復読(39)『葦の浮船』

 『葦の浮船』(松本清張、角川文庫、昭和49年3月)を読みました。

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 この帯には、次のように記されています。

大学の腐敗した派閥問題をとらえた
松本清張の野心的問題作 !
R大学史学科に籍を置く二人の助教授、折戸と小関。
正反対の性格をもつ二人の心理的葛藤を見事なコントラストで描きつつ、大学の腐敗した派閥問題を鋭くえぐった野心作 !


 金沢の大学で開催された歴史に関する学会の様子から始まります。学問の世界でも、学会が陳腐化したことが語られます。清張の批判精神が早速見られます。
 そして、古代史の折戸二郎助教授と通信教育の生徒だった人妻の笠原幸子との密会へと展開します。一方、同門で中世史の小関久雄助教授は、近村達子と調査中に出会います。この2つの話が綯交ぜになって展開するのです。
 状況と情景の描写は、いつものように丹念です。清張の文章は、手を抜くということがありません。いかにも、今生起している話として伝わって来ます。
 さらに、今回もう一度本作を読んでみて、情事の場面の描写が想像以上に事細かでリアルであることに気づきました。清張らしくない、若手新人の作家の息遣いが感じられました。
 二股をかける折戸の心理を、克明に描きます。女性をモノとしか思っていない男の生態を炙り出そうとしているのです。
 この男と女の問題と共に、大学の派閥争いや昇進問題も並行して展開します。ここでは、清張独自の学者への怨念とでも言うべき私観が、随所に語られています。
 わがまま勝手な折戸を弁護する小関は、最後まで人のいい研究者です。いろいろな事件があった末に、主人公である小関は鳥取の大学の教授となります。最後の近村達子への手紙は、清張らしくない、負け犬の遠吠えのような内容です。気迫も迫力もない終わり方に、肩透かしを喰わされた思いで読み終えました。
 なお、この作品は、昭和50年に読んでいました。ちょうど大学を卒業し、大学院博士前期課程に入学した時です。学問の世界に身を置くようになり、身辺とその環境に目を配るようになった頃です。その時のメモが、読んだ本に記されていたので引いておきます。三鷹の書店で購入し、その日の内に一気に読み終えています。

折戸が少し悪役すぎる。全体に二人の助教授の考え方がスッキリしない。人間味が乏しい。また、大学の体制批判にも鋭さがない。S50.7.15

 
初出誌:『婦人倶楽部』(昭和41年1月〜42年4月)
 
 
 
posted by genjiito at 20:36| Comment(0) | □清張復読
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