2020年02月17日

藤田宜永通読(37)『大雪物語』

 『大雪物語』(藤田宜永、講談社、2016年11月)を読みました。

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 前回の「藤田宜永通読(36)『ラブソングの記号学』」(2020年02月01日)に続いて、追悼の2回目となります。

 本作のキャッチコピーには、「想定外の雪が生んだ、奇跡の出会い」とあり、著者は「得がたいあの経験が、これらの物語を紡がせてくれた」と言います。さらに、「ドカ雪に閉じ込められ、雪かきに奮闘した著者が描くハートフル・ヒューマンストーリー」とか、「○●○記録的な積雪に見舞われたK町・6つの"心の記録"●○●」とも添えられています。

 この掌編集の位置づけがわかりやすいように、冒頭に置かれた「序」を引いておきます。

二〇一×年二月中旬、九州の南で発生した低気圧が発達しながら本州南岸を通過し、近畿から東北にかけ、記録的な大雪をもたらした。
 関東甲信越の至るところでも、これまでの観測記録を上回る豪雪となった。
 長野県K町も例外ではなかった。
 公式発表によると九十九センチの積雪ということだが、場所によっては一メートルを遥かに超えていて、発表を鵜呑みにした地元民はひとりもいないと言っても過言ではない。
 多くの別荘地を有し、避暑地として全国に名を馳せているK町だが、ここにもいろいろな人間が生きている。そんな人たちの暮らしに、想像だにしていなかった豪雪がちょっとした混乱をもたらした。
 出会い、再会、別れ……。ここに描かれている六つのエピソードは、思わぬ変化に遭遇した老若男女の心の"記録"である。(4頁)


 以下、各短編ごとの私見を記します。

☆「転落」
 雪に振り込められた信州の別荘地で、ひったくりを繰り返す犯罪をして逃げる31歳の若者と、一人で暮らす82歳の老婆との、見ず知らずの者の心の交流を描きます。作者は、心温まる物語にしようとしています。ただし、私には嘘が目立ちすぎて作者の苦心しか伝わってきません。老婆の気持ちが描けていません。いつものように、着地が決まりません。【1】
 
 
☆「墓掘り」
 遺体を搬送中に、大雪に閉じ込められた話です。運転手と亡くなった母とその娘。閉ざされた状況での、人間の行動と心理を描こうとします。静かな物語に、遺体を絡めて変化をつけようとするものの、これといって工夫がないので読後感は淡白です。それを狙ってなのか、思うように展開しなかったのか、雪以外に色のない物語です。遺体を運び終わってからの、男と女の物語は不発です。煩わしい人間関係になることを避けたのでしょう。【2】
 
 
☆「雪男」
 愛犬を探しに出た女子高校生が途中で道に迷い、帰宅困難になります。犬が訪れたと思われる同級生の修の家に向かいます。しかし、修とは今は冷え切っています。その理由を知りたい思いのまま、犬を探します。その途中で、今井という一人の男に助けられます。
 結局、修がなぜ冷たくするのか、その理由は語られないままです。そして、今井の家を探し当てても、そこにいた女は今井のことを、もう関係ない人だと言うだけです。2人の男が女に対して抱いている気持ちを語らないまま、描かれないままに終わります。女の状況がよく理解できていないために、対する男の気持ちも書けなかったのではないのでしょうか。
 雪に降り込められた中での物語として、表面的にはきれいな話にまとまっています。残念でした。【2】
 
 
☆「雪の華」
 大雪の中を、かつての彼女が避難するためにやってきました。男は、今は花屋をやっています。気まずさの中で、妻と一緒に元彼女は、これまた避難してきた修学旅行生のために温かい麺を作ります。2人の女を前にして、微妙な時間が流れます。その心のバランスが巧みに描かれています。人の情と人間関係が、バランスよくソフトに語られています。温かみのある物語に仕上がっています。【4】
 
 
☆「わだかまり」
 18年ぶりに姉を見つけました。自衛隊員として孤立した街の除雪活動の最中に。その姉弟の間に生まれる肉親の情愛が、温かく伝わって来ます。
 親を巡っての血縁関係の話は、あまりにも作り過ぎです。しかし、単純なだけに読み流せます。もっとおもしろい設定にできなかったのかと、心残りなままに読み終えました。
 これは、長編小説としてさらにいいものに仕上げることができます。まだ私は、すべての藤田宜永の作品を読み終えていません。この話に類する物語と、どこかで出会えそうな気がします。【4】
 
 
☆「雨だれのプレリュード」
 最初の1頁で、物語の展開と結末が見えたと思いました。その通りに進むのかどうかを確かめるようにして、読み進めることになりました。
 さすがに、思った展開ではありませんでした。恋愛話と離婚話が真ん中にデンと座り、大雪と娘が味付けをします。
 シカゴに住む別れた妻に聞かせるピアノ曲は、電話やメールを使っている2人にとって、通信でリアルタイムに届けられます。しかし、そうではなかったことから、物語の破綻を実感しました。
 心温まる世界を、ことばで築き上げながら、細かな設定で崩れたことは残念でした。これも再構築すれば、もっといい作品になります。もっとも、先月、1月30日に藤田氏は69歳で亡くなっているので、書き直しは叶わない願いとなりました。ご冥福をお祈りいたします。【2】
 
 
初出誌:『小説現代』2014年9月号、2015年3月号、6月号、9月号、12月号、2016年4月号。
追記:本作は「第51回 吉川英治文学賞」を受賞(2017.03.03)しています。
 
 
 
posted by genjiito at 19:03| Comment(0) | □藤田通読
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