2019年12月17日

読書雑記(276)岩坪健『源氏物語といけばな 源氏流いけばなの軌跡』

 『源氏物語といけばな 源氏流いけばなの軌跡』(岩坪健、ブックレット〈書物をひらく〉20、平凡社、2019年11月)を読みました。

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 まったく知らなかった世界を教えてもらうことは楽しいものです。
 本書の内容を理解するためには、著者と本テーマとの出会いから語られている、「あとがき」から読まれることをお薦めします。そうでないと、『源氏物語』と生花と著者がスムースにつながらないからです。
 さて、多くの人が初めて聞く「源氏流いけばな」について、平易な説明で語られていきます。18 世紀後半の江戸で、千葉龍卜が始めた花道は『源氏物語』を取り入れたことで一世を風靡したそうです。ただし、2代目で断絶したために、今は資料も何もないことになっていたのです。それを掘り起こした著者は、冒頭で次のように言います。

 ところが実際には子孫は帰郷して家業を伝承し、また先祖伝来の秘伝書も保管していたのである。本書では発見された資料をもとに、幻とされていた源氏流いけばなを取りあげる。とりわけ当流の特徴でありながら、資料がないため実態不明であった、『源氏物語』との関係を明らかにして、いけばなにおける『源氏物語』の享受を明らかにしたい。(6頁)


 図版がふんだんに添えてあります。そのため、内容が生花のことなのに、素人にもイメージしやすくて助かります。また、関連文献を博索しての説明であることがよくわかり、安心してついていけました。
 源氏流は2代で途絶えたとされてきました。しかし、著者は次のように新たな見解を示します。

なぜ龍弐と龍弎の存在は世に知られなかったのか。それは龍子以後は故郷の赤穂に戻り、当地で活躍したため、当流はいわば地域限定になってしまったからであろう。また龍子の具体的な足跡については不明な点が多いが、これも龍トが江戸で華々しく活躍したのに対して、龍子は帰郷したため、知名度が他国では高くなかったからであろう。(26頁)


 本書の内容は、著者の『源氏物語の享受 −注釈・梗概・絵画・華道』(和泉書院、2013年、第15回紫式部学術賞受賞)が背後に控えているので、さらに詳しく知りたい方はそちらも確認されたら、この本の魅力が倍増することでしょう。
 そのことは、著者自身が「小著(『源氏物語の享受』)では不明であった箇所が、龍卜自筆本により解明された。そこでその成果を踏まえて、本書を執筆した次第である。」(92頁)と言っていることからもわかります。
 本書は、生花に関するものです。著者のことばで言えば「古人は『源氏物語』を、五感で堪能していた」ことの一面があぶり出されたのです。しかしそれに留まることなく、私は書籍や文書を読み解いて考えていく基本的な態度を伝えていることに注目しています。これが、このブックレットの中に収まったのも、そうしたことがあるからだと思っています。
 
 
 
posted by genjiito at 19:58| Comment(0) | ■読書雑記
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