2019年11月30日

紫風庵で三十六歌仙と源氏物語の変体仮名を読む(第7回)

 大徳寺に近い「紫風庵」で、「源氏物語と三十六歌仙を変体仮名で読む会」の第7回となる学習会を開催しました。主催は、NPO法人〈源氏物語電子資料館〉です。

 明日から師走。通りを吹き抜ける風を、肌寒く感じるようになりました。「紫風庵」の背後に建つ建勲神社では、大河ドラマの関係か多くの人が集まっています。紅葉もみごとです。

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 「紫風庵」は、いつものように優しく迎え入れてもらえます。

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 今日は、10人集まった中で初めての方が4名もお出でだったので、自己紹介から始めました。
 お一人は生まれつき目が見えない方です。五十音図のひらがなは何とか書けるそうです。歴史と古典に興味があり、昨年から現代語訳の古典を読んでいるとのことです。初めて仮名文字の触読に挑戦ということになります。私との出合いは、今月2日に東京で開催された「バリアフリーかるた全国大会2019」でした。いろいろなお話をするうちに、お住まいが京都で「紫風庵」に近いということもあり、変体仮名が読めるように一緒に勉強しましょう、ということになりました。優しい旦那様がいつも一緒なので、道中も安心です。今日も、先日お送りした立体コピーの資料を丹念に指でなぞっておられました。時間がかかっても、着実に読める文字が増えていくことでしょう。横では、過日一緒に東京の大会に行った吉村君に、付ききりで進行に合わせて的確な説明というか同時通訳をしてもらいました。そのみごとなアシスタントぶりに、参会者のなみさまは感心しておられました。確かに、変体仮名の学習に合わせて、目が見えない方に同時進行で説明できる人は、この日本には彼しかいないと言えるでしょう。
 もう一人は、過日発見された定家自筆本「若紫」に関する藤本孝一先生の講演会に行った後、インターネットで私の変体仮名を読む学習会のことを知り、急遽今日参加してくださった方です。古文書は勉強しておられるようなので、仮名文字に慣れるのも早いことでしょう。
 さらに、しばらくお休みだった方で、一昨年の夏、ご一緒にハーバード大学へ『源氏物語』の写本や源氏画帖を調査に行った仲間も加わりました。お忙しい方なので、機会を見てこの「紫風庵」にも足を運んでいただけたらと思っています。

 各自の紹介の後は、配布したA4版のプリント5枚を見ながら、今日の内容の確認からです。
 今回も、襖に貼られた三十六歌仙の絵と和歌を、プリントの写真で確認する予習から始まります。今回は、「清原元輔」「坂上是則」「藤原元真」の三名です。

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 南面左から一領目の襖の上段に貼られているのが「清原元輔」です。

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■清原元輔 音なしの河とぞつひにながれける 言はでもの思ふ人の涙は (拾遺和歌集 七五〇)

  右     清原元輔
      【音】那しの
い者帝
         【河】と楚
【物】お          徒ゐ
   もふ          丹
【人】の      な可連
   【涙】盤     いつる


 この和歌については、一般的には第3句が「ながれける」となっています。しかし、この「紫風庵」の歌は「ながれいづる」です。これと同じ和歌が書かれているのは、中院通茂筆「三十六歌仙画帖」や鹿島神社「参拾六歌仙和歌」があることがわかりました。この件は、今後さらに詳しく調べていきます。ご教示いただけると幸いです。

 中段には「坂上是則」が貼られています。

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■坂上是則 み吉野の山の白雪つもるらし ふるさと寒くなりまさるなり (古今和歌集 三二五)

 左   坂上是則
三よし【野】ゝ【山】能
  志ら【雪】徒も流羅し
  【故郷】さむく
     な〈判読〉里万佐流
            △〈剥落〉り


 下段には「藤原元真」が貼られています。

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■藤原元真 夏草はしげりにけりな玉鉾の 道行く人もむすぶばかりに (新古今和歌集 一八八)

     藤原元真
【夏草】は志希り耳
 気里な堂まほこの
 【道】遊く【人】も
   む春婦者閑梨に


 これまでに、和歌の作者名の上に「左・右」が記されていました。しかし、この「元真」と前回の「斎宮女御」にはそれがありません。このことは、すべてを確認し終えてから考えたいと思います。

 以上の確認を、座卓を囲んだ学習形式でやってから、部屋を奥の座敷に移動して、実際の作品を見ました。

 上記の翻字で疑問にしておいた文字に注目して見ました。

(1)清原元輔の「いつる」は確かにそう書いてあります。
 ここは、紙が少し損傷を受けたようで、「い」の周辺の装飾が剥がれています。
 また、「なかれ」の「な」は、次の例と関連する字形です。
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(2)坂上是則の2つの「な」は悩ましい字形や状態を見せています。
 そこで、上記の元輔の「な」の字形を参考にして、一行目は形が崩れた「な〈判読〉」としました。
 行末は、元輔と同じように同じ場所の紙が少し損傷を受けおり、「△り」の周辺の装飾が剥がれています。そのため、本来は「なり」と書かれていたと思われるものの、今は「△〈剥落〉り」としました。
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(3)今回の「元輔」と「是則」の左下の紙に痛みがあることから、貼られている料紙のすべてを丹念に調べる必要が出てきました。これはまた後日報告します。

 時間の合間を見て、古代と近世の文字だけでなく、近代の文字も確認しています。
 前回は福沢諭吉の『学問のすすめ』でした。その前は、谷崎潤一郎の『春琴抄』と『鍵』。
 今日は、樋口一葉の『たけくらべ』を見ました。
 いずれも、巻頭部分です。こうした近代の印刷物に印字された変体仮名からも、いろいろな勉強ができます。文字を読むだけだと言いながら、多彩な内容を扱う勉強会になっています。

 続いて、ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」を読みました。
 今日は、15丁裏1行目からその丁の最終行まで、ちょうど半丁分を確認しました。
 なぞりの部分や、墨ヨゴレの箇所について、説明が長くなったためにあまり進みませんでした。
 また、会員の石田さんが作ってくださった糸罫も、みなさんで再確認しました。このような糸罫を使って写本が書写されていた、という説明をすると、書かれた文字を見つめる注意力が違ってきます。特に、今回の最終行に見られる墨ヨゴレは、糸罫を次の丁に移動させる動作と筆の持ち替えということも生ずる場面です。

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 そうしたことが、この墨ヨゴレとどう関係しているのか、まだ私には明確な説明ができません。墨ヨゴレの下には1文字分の空白があるので、なおさらその理由がわかりません。

 次回は、16丁表1行目から確認を始めます。

 今日の私の説明で、目が見えない方にはわからないことを言っていました。「堂」を「ta」と読むことに関して、いつものように「お堂の堂です」と言っていたのです。ことについて、目が見えない方には「堂」という漢字がわからないので、説明方法を変えた方がいいとのアドバイスを終わってからいただきました。確かにそうでした。「遣」を「ke」と読むことについても、「派遣や遣唐使の遣です。」と、口癖のように言っていました。このことについては、あらためて文字を説明する方法を再検討します。東京の講座では、中途失明の方に対する説明だったので、それでも通じていました。しかし、これからは生まれながらにして見えなかった方への対応なので、漢字での説明には工夫が必要です。しかも、変体仮名の字母を確認しているので、その元になった漢字のことは避けて通れません。いい課題をいただきました。

 次回は、12月はみなさま何かと多忙なので休会とし、新年25日(土)の午後2時から第8回を開催します。
 また、このブログなどでお知らせをします。
 
 
 
posted by genjiito at 23:56| Comment(1) | ◎NPO活動
この記事へのコメント
先生、ブログありがとうございます。今回「明日から師走」は勉強になりました。しはす は 12月のことですね :−) ありがとうございます。
Posted by Surendra kumar at 2019年12月01日 04:05
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