2019年11月24日

翻訳文を日本語に訳し戻すにあたっての方針

 一昨日、平安文学に関する翻訳文を日本語に訳し戻すことを書きました。

「平安文学の翻訳から見たポケット翻訳機への期待」(2019年11月22日)

 今から33年前に、文学研究にコンピュータを導入する意義と具体例を、『新・文学資料整理術パソコン奮戦記』という本にまとめました。その時、コンピュータに文学などわかるはずがない、という批判をいただきました。電気で動く単なる機械に、過剰なまでの期待をもってのご意見でした。
 私が提示したのは、情報文具とい道具をどう文学研究に活用するか、という問題提起でした。それを、コンピュータが人間の思考活動に対峙するものとして、あるいは置き換わるものとして捉えられたのです。この反応は数年続きました。今なら、そんなことを言う人はもういないと思います。

 一昨日、平安文学の翻訳文を日本語に訳し戻すことを書きました。いらっしゃらないとは思うものの、機械翻訳など使い物にならない! 何を愚かなことを! とおっしゃる方がおられるのではと危惧します。そこで、訳し戻しは文学的な表現で日本語に戻すものではないことを、あらためてここで確認しておきます。無用な批判を避けるためです。

 現在、訳し戻しをお願いする時に、次の方針を提示しています。

■訳し戻しの依頼内容■



〈概要〉
 世界各国37種類の言語で翻訳された『源氏物語』に関する翻訳書を整理し、その中から特定の巻を日本語に訳し戻して比較検討の基礎資料とするのが、今回の翻訳依頼の主旨です。
 この各国語翻訳を日本語に一元化したものを通して、日本文化が変容して伝えられていく諸相と実態を確認し、研究者等との共同研究で考察していきます。各国にどのような表現で『源氏物語』が、ひいては日本文化が伝えられているのか、ということを調査研究しようとするものです。
 日本文学を通して日本文化が海外にどう伝わっているか、ということが本研究で最終的に取り組む課題となります。
 そのため、文学的な名訳は求めません。
 現地にお住まいの方に伝わる感覚で、現地の方々が理解できるレベルでの、ごく普通の逐語訳にしてください。日本語を母語とする人に向けての日本語訳ではないことを、充分に理解して取り組んでいただきたいと思います。

〈注意事項〉
(A)日本語へ訳し戻すにあたっての各国語訳の本文資料は、PDFでお渡しします。それを日本語に訳し戻していただき、プレーンテキストで返信してください。

(B)受け取ってから1ヶ月ほどで完成したものを返送してください。完成した日本語訳を公開するときには、訳者のお名前を公表させていただくことをご了承ください。

(C)人選は、各言語につき2名(原則としてネイティブの方1名と日本語を母語とする方1名)を、本科研の研究代表者である伊藤鉄也が適任と思う方にお願いします。

(D)お渡しした資料のうち、「刊記」「まえがき」「序章」「あとがき」等を参照し、当該翻訳文が(1)何時(2)どこの国で刊行(3)誰が(4)どのようなテキストを基にして(5)どのような方針で訳したのか、を整理した文章を、A4版1枚くらいを目安にした分量で、訳し戻し文とは別のファイルで提出してください。

(E)「脚注・後注」も、翻訳者が読者に日本文化をどう伝えようとしているのか、という貴重な資料となります。これも日本語に訳し戻して、訳し戻し文とは別ファイルとして提出してください。

(F)訳し戻しをしていただくにあたり、問題と思われた、もしくは手間取った、または苦労した箇所に関するメモも、訳し戻し文とは別ファイルとして提出してください。日本文化がどのように伝えられているのか、ということを検討する上で、大切な資料になるためです。

(G)文学作品の翻訳書を日本語に訳し戻した著作物や、多言語翻訳を担当した方には、その翻訳に関わる権利を、本科研の共同研究の成果として公開するものであることを理解していただき、作成者個人の権利以外は本科研の基盤研究機関である大阪大学に委譲することを原則とします。これは、日本学術振興会に研究計画を申請した際に申告したことです。


 ここに明示している通り、名訳を期待しているのではなくて、文化の変容を検討するために、可能な限り原語に忠実に日本語へ移し替えてもらうことに力点があります。訳し戻されたものが、日本語として多少おかしくても構わないのです。日本の文化が相手の国にどのような言葉として伝えられようとしたのかを知る資料になればいいのです。
 その意味では、ポケット翻訳機は格好の情報文具となりそうです。
 このテーマが、おもしろい展開となることを期待しています。
 
 
 
posted by genjiito at 21:00| Comment(0) | ■科研研究
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。