2019年11月07日

京博で開催中の「佐竹本三十六歌仙展」へ行く

 時間がとれなかったため、なかなか行けなかった「佐竹本三十六歌仙」の展覧会に行ってきました。京都国立博物館で開催されている特別展「流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美」は、大人気のようです。

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 この佐竹本は、佐竹家に収まる前には下鴨神社にあったものなので、氏子としては親近感を抱いていました。これまでは、いくつかの絵を五月雨式に見ただけだったので、やっと、一堂に会した絵の数々が見られました。

 佐竹本に辿り着くまでに、いろいろな絵や書で気持ちを高めていく展示の構成となっています。

 重文である寸松庵色紙「ちはやふる」(伝紀貫之筆)は、最近とみに見えにくくなった目で小さな文字を追いました。とにかく現在の姿をよく見ておいて、後で図録でよく確認するのです。図録に掲載されている写真は、鮮明に文字が読めます。それにしてもよくできた、見ていて飽きない図録(336頁)です。

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 国宝本阿弥切『古今和歌集』巻第十二残巻 伝小野道風筆の説明文では、巻頭歌を「思ひつゝ〜」としています。しかし、目の前の原本を字母に忠実に翻字すると、次のようになります。漢字で表記されている「人」は【人】としています。

  多いしら寿 をのゝこ万遅
お裳日つゝぬ連者や【人】のみえつらん
遊免としりせ者さめさら万し越


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 いつものことながら、「お裳日つゝ」と書かれているものを「思ひつゝ」と翻字することには、非常に違和感を覚えます。観覧者は、まず絵を観て、そして書を読もうとする人が多いようです。とすると、現代語訳を添えることも大事だとは思うものの、やはり翻字をどこかに添えてほしいと思いました。自分の目で1文字1文字を追おうとする方が大多数だからです。その次に、余裕のある方は、その意味は何だろうと思われることでしょう。書かれている和歌の意味を知りたいと思う前に、次の作品に移動しておられます。
 その際、やはり字母を明示してもらいたいものです。実際には変体仮名交じりで「お裳日つゝ」と書かれているのに、説明文では「思ひつゝ」と表記していては、それはうその翻字になります。また、文字を読みたいと思う人を裏切り、だますことになります。日本語の本当の姿を知ろうとする海外の方々にも失礼だと思います。
 実は、海外の方々は、実際に書かれている文字が、それを翻字した文字列と違うことを知った時に、なぜ不正確な情報を与えるのだろうと疑問に思っておられます。やはり、字母を明示した正確な翻字をすることで、変体仮名を日本の文化として大事に守り伝えて行きたいものです。
 しつこいくらいに繰り返します。実際に書かれている文字を、翻字では別の現代の文字に置き換えて提示をするごまかしの行為は、もうやめませんか。明示33年に言語統制された結果としての五十音図にあわせた表記に、いつもでもこだわる必要はないと思います。教育現場が混乱するから、変体仮名は教えないというのは、もうやめませんか。変体仮名はユニコードに収録され、世界が認めている日本の文字です。日本人がそれを認めないのは、恥ずべきことだと思います。

 絵巻の所蔵者が持っていた茶碗や茶入れや茶杓が、その横に展示されていたのは、その絵を所持して伝えられて来た文化的な意味と背景に思いを馳せることとなり、なかなかいい展示方法になっていると思いました。茶会と説明がリンクしていたのは、まさに日本の美術品を所有しようとした人たちの文化的な背景が見えてきます。重層的な日本の文化を、こうした折に実感することになります。

 描かれた絵は、全体的に薄く見えたのは、私の目の調子が良くないからでしょうか。色の鮮やかさはともかく、迫りくるものを感じなかったのも事実です。いや、ガラス越しに、1メートル以上離れて眺めるという見方だったからでしょうか。こうした絵や書は、個人的な鑑賞を想定してできており、巻物は肩幅に拡げて1点ずつ見るものなのです。やはり、50センチ位内の近さで見たいものです。その意味から言えば、今回の図録はその疑似体験をさせてくれるほどの、精度の高い印刷をこの価格(三千円)で作製されたことに感謝しています。

 田中訥言の模本は、『探幽筆 三拾六哥仙』の模本を持っている者としては興味深い資料でした。書き込まれた指示や模様の断片などは、絵巻を伝えようとする人の熱意が伝わってくるものとなっています。

 帰ろうと思って1階に降りると、仏像などが並ぶ展示会場に入りました。しかし、そのまま帰らずにしばらく歩いていくと、また三十六歌仙関連の絵や書がありました。こちらも、貴重な作品がならんでおり、贅沢な作品を堪能することができました。
 帰り際、ロダンの「考える人」越しに、夕景の中に京都タワーが見えました。

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 もう一度行くつもりでいます。会期の前半に行けなかったことが残念です。
 
 
 
posted by genjiito at 23:33| Comment(0) | ■変体仮名
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