2019年06月19日

「浮かれ源氏」のパンフレットから物語を再現

 先週末に、「谷崎全集読過(33)「鶯姫」「或る男の半日」」(2019年06月15日)をアップしました。その「鴬姫」という戯曲作品に関して、「浮かれ源氏」がミュージカルになっていたことを取り上げたことがきっかけとなり、そのパンフレットを入手する幸運に恵まれました。

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 また、このミュージカルで笠置シズ子が歌った音源が見つかり、CD化されていることもわかりました。
 これは、また後日にして、ここでは、このミュージカルのストーリーが確認できるように、プログラムからその物語展開を再現してみます。谷崎潤一郎の「鴬姫」とはまったく異なる展開の、エンターティンメント性の高いミュージカルであることがわかります。『源氏物語』がこのようにパロディー化されたという受容史の興味深い資料として、以下に掲載します。
 なお、表記にあたっては、仮名遣いはそのままにしつつも、旧漢字は新漢字に書き換えています。



「浮かれ源氏」


 

秦 豊吉



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 歌舞伎、映画、宝塚と至るところ「源氏物語」ばやりとあつては、遅ればせながら、わたくし流の「源氏」を、と頭をひねつてみた。そこで「浮かれ源氏」、英語名「スウィング・源氏」とあつては、どんなものか。
 踊りに「浮かれ坊主」、六代目菊五郎のお得意のもの、パラマウント映画に「浮かれ姫君」、小波山人のお伽噺「浮かれ胡弓」、俗曲に「浮かれ節」とあつては「浮かれ源氏」もおかしくない。
 「源氏」となると、何はともあれ、まず谷崎潤一郎先生に教えを乞わなければならぬ。私が先生の名作「鶯姫」をぜひ舞台でやつてみたいと思つたのは、すでに昭和九年の大昔で、その時先生からお許しを得たまゝ今日に至つた。谷崎先生の源氏研究は、事新しく今日の現代語訳に始まつたのではない。すでに先生の青年時代の小戯曲「鶯姫」に始まつているのだ。処は桜咲く春の京都、ある女学校の国文学の老教師が、平安朝を夢に見るのが話の発端。この教師が生徒の中に、平安朝の姫君のように可愛らしい少女を認め、ほのかな愛着を感じる処へ、夢に鬼が現れ、この時代に連れてゆかれ、この少女そつくりの鶯姫を発見して奪つて羅生門へ逃げ込むと、陰陽師安倍晴明に祈られ、雷神に羅生門の上から蹴落されたと思つたのは、実は校庭で居眠りの椅子からころげ落ちていたという、実に美しく、楽しく、愛らしい小戯曲である。新橋の東おどりが、上演したいと希望したと聞いたが、ご尤もな話である。後年の先生の「源氏」の夢はことごとくこの短篇に溢れている。
 私は先生とお目にかかるたびに、この「鶯姫」上演の遅延の申訳ばかりしていたが、やつと二十年後に、これを果す事が出来る時になつた。私としては実にうれしい。私はその間に、この戯曲を宝塚にも上演を勧めたが、果さなかつた。やつと自分の手にかける事の出来るのは本懐である。
 私はこの夢物語の「鶯姫」を、新しい音楽喜劇にする積りである〈ママ〉そうするには、どうしてもパロデイ化す〈ママ〉ほかはない。この老教授が平安朝を好きなら、一層光源氏に若返つて鶯姫を好いてみたらどんなものか。今日の源氏学者の説によると、平安朝の人間は、どんな女性でも愛人として選ぶことができ、どんなに美しい才能のある女性でも、これを愛人として沢山持つ事によつて、自分の国が栄え富むのだという思想である。これが「色好み」の思想と名付けられたが、そうなると平安朝の日本人の理想は、まさにギリシヤ哲学と同じものではないか。この象徴こそ光源氏であると、諸先生方は云われるのである。
 源氏学者は、この物語を、もののあわれ化しておられるが、十一、二歳で異性の肉体を知り、情欲にかけては何のお叱りもない若い男女が、几帳の陰で一夜を語り明かしたといつても、誰もこれをおしやべりばかりして徹夜したとは考えられない。「源氏」を肉体小説だといつても、決して「源氏」を卑むわけではなく、今日の学説にはひいきのひき倒しが多いが、もつと平安朝の情欲生活を明にして頂くのも人間的ではあるまいか。
 おつと、これは私の悪い癖で、口数が過ぎたようである。桜の庭に遊ぶ女達、鶯、車びき、金色の極楽、昔なつかしい地獄カラクリ〈ママ〉源氏の君の英語御教育、ついでにストリツプ源氏と、私の「浮かれ源氏」を考えるのは、私の最も幸福な時間である。(14〜15頁)



源氏各説



☆とにかく源氏は人間ですよ。彼は聖人ではないただの人間なのだ。しきりに気まぐれな恋愛をやる。 −池田亀鑑−

☆十一二歳で結婚した平安朝貴族の男女の精神年齢は今日の常識では律し得ない。 −池田亀鑑−

☆源氏を見ますと、人間の一番立派な美しい徳は、色好みであるという事になつております。 −折口信夫−

☆ほんとうの色好みは、日本人の理想でした。宮廷の理想であり、公家の理想、それが又庶民の最もあこがれた美しい夢になりました。 −折口信夫−

☆心も容貌もとりどりに捨つるべきものなく、と苦しがりながらも、どんな女性にも何等かの取柄を見出して愛しないでいられないし、またどんな女性に満足し切れないのである。 −関みさを−

☆青春の日に読んだ源氏物語は、若き源氏の愛の生活の香のやうに映じた。 −久松潜一−

☆今人から考へれば、平安朝人は、性欲の点に就いては、殆ど粗野な自然人であつたといわねばならぬ。 −津田左右吉−

☆男子が正室の外、多くの婦人に通じていた当時の習慣は事新しくいうには及ばぬ。その正室よりも、初めから正室と定まつてはいずまた初めから男の家へ迎えられたのでない場合が多いという風であるから、正室ならぬ婦人の情交が必ずしも永続しないのは不思議ではない。 −津田左右吉−

☆男には幾人でも妻を持つ事が許されて、女は惨めに泣いて暮すのね。 −大映「源氏物語」−


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第四回帝劇ミユージカルス

浮かれ源氏



 二部二十三景


  − 谷崎潤一郎作「鶯姫」のパロデイー −

   第一部

  プロローグ


 ここはストリツプ劇場。今しも「ストリツプ源氏」の幕が上る。ヌード居並び十二単衣をきた女が唄いながら着物を脱ぐ。見物中の女学校国文学教諭大伴先生は憤慨して思わず「やめろ、やめろ!」と怒鳴る。
  大伴先生 榎本健一
  オーケストラ指揮者 三木のり平
  歌う十二単衣の女 マリア・ローザ
  絵の女 X・小夜

 (中略)

  第二景 或る学会


 王朝文学の研究会に大伴先生が出席して今日観てきた「ストリツプ源氏」は平安朝文学を侮辱するも甚だしいと憤慨しながら話す。そこへ紅式部が現われて−野暮なことを云わないで、社会科の参考に「ストリツプ源氏」を観ていらつしやい−と云う。
  大伴先生 榎本健一
  紅式部 松田トシ

 (中略)

  第三景 女学校々庭


 放課後である。大伴先生がストリップを見物に行つたことが生徒の間に問題となる。生徒壬生春子は噂の真疑を心配するが、先生から文学の参考にみに行つたに過ぎないときかされてホツとする。けれど、大伴先生は壬生という名前から大宮人を連想し、王朝を憧れるあまりとかく壬生をヒィキにするので京極を初め他の生徒たちが嫉妬するのであつた。壬生が置いて行つた鶯の籠の傍で、大伴先生は源氏物語をヒモトイているうちについ眠つてしまう。と、羅生門の青鬼が現われて、神通力により大伴先生を憧れの平安朝時代へつれて行く。
  大伴先生 榎本健一
  女学生京極文子 笠置シヅ子
  同 壬生春子 筑紫まり

 (中略)

  第四景 羅生門


 青鬼と一緒に羅生門の楼上に立つた大伴先生は、葵祭りの賑いをみて、あの美しい姫たちのところへつれて行つてくれと頼む。
  大伴先生 榎本健一

 (中略)

  第五景 車争い


 葵祭の賑い。市女笠の踊り。雑色の唄。そこで牛車の衝突事件が起る。車争いの主は片や左大臣家の鶯姫、片や右大臣家の京極姫であるから面倒だ。青鬼に伴われてきた大件先生は、鶯姫が壬生春子そつくりなのに吃驚する。.
  大伴先生 榎本健一
  京極姫 笠置シヅ子
  鶯姫 筑紫まり
  父左大臣 三木のり平

 (中略)


  第六景 約束


 大伴先生はなんとかして、この壬生によく似た鶯姫と言葉を交してみたいと、青鬼にたのむ。青鬼は、鶯姫と契りを結ばないと誓うのなら、大宮人にしてやろう。しかも女にモテる光源氏にしてやろうと云う。
  大伴先生 榎本健一

 (中略)


  第七景 朧月夜


 紅学会々員山田先生が、紅式部から源氏物語の中の朧月夜のところを教えてもらつている。
  紅式部 松田トシ

 (中略)


  第八景 太子昇殿


 光源氏にして貰つた大伴先生は殿上人に迎えられる。先生は日頃の含蓄を傾けて大和言葉で話しかけ、一寸ガクのある処をみせる。
  光源氏 榎本健一

 (中略)


  第九景 宮中歌合戦


 成年に達した源氏は、帝の御諚により、歌により妃を選ぶことになつた。京極姫を初め我れと思わん姫君たちによつて一大歌合戦が宮中に開かれた。最後に登場した鶯姫の声をきくと、源氏の君は思わず「壬生春子さん」と叫んで大宮人を吃驚させてしまう。
  光源氏 榎本健一
  京極姫 笠置シヅ子
  鶯姫 筑紫まり
  父左大臣 三木のり平
  紅式部 松田トシ
  末摘花姫 山田周平

 (中略)


  第十景 太子御教育


 大伴先生の源氏は鶯姫ばかりを追つかけるので、これでは原作の源氏物語と筋が違うと殿上人は噂とりどり。一方愛される帝になるべく、プリンス源氏は紅式部先生に就いて英語を勉強する。
  光源氏 榎本健一
  京極姫 笠置シヅ子
  紅式部 松田トシ
  末摘花姫 山田周平

 (中略)


  第十一景 苦しい時の鬼頼み


 京極姫に追い駆けられて、源氏はほとほと困り果て青鬼に助力を頼む。鬼は自分も源氏になつて京極姫のお相手を勤め様と云う。
  光源氏 榎本健一
  京極姫 笠置シヅ子

 (中略)


  第十二景 池のほとり


 やつと二人きりになれた源氏と鶯姫は池のほとりで恋を囁く。片方では鬼の源氏が京極姫に、恋愛の定義について語つたりしている長閑かな春の日−源氏はその夜鶯姫の部屋へ忍んで行くことを約束する。
  光源氏 榎本健一
  京極姫 笠置シヅ子
  鶯姫 筑紫まり
  父左大臣 三木のり平

 (中略)


  第十三景 御簾の前


 御簾の赤い房を目印しに忍び込んだ源氏は両方の部屋に赤い房が下つているので大いにマゴつく。
  光源氏 榎本健一
  京極姫 笠置シヅ子
  鶯姫 筑紫まり

 (中略)


  第十四景 女の部屋


 首尾よく鶯姫の部屋で甘い恋の睦言を交わしたのも束の間、嫉妬にかられた京極姫に騒がれる。鶯姫の部屋にいたのは小野小町という和歌の先生だが、これが怪しげな人物であつたため大騒動となる
  光源氏 榎本健一
  京極姫 笠置シヅ子
  鶯姫 筑紫まり
  父左大臣 三木のり平

 (中略)


  第十五景 極楽への道


 愛する源氏とも逢えなくなつた鶯姫は、窮屈な宮中を抜け出す。跡を追つた源氏は、易者に鶯姫の居所を占つて貰う。
  光源氏 榎本健一
  鶯姫 筑紫まり
  父左大臣 三木のり平

 (中略)


  第十六景 キヤバレー・極楽


 キヤバレー・極楽は女人ばかりの楽園であつた。飲んで唄つて淋しさをまぎらわせていた源氏は、鶯姫を発見する。再び逢えた二人は永遠に変わらぬ愛を誓う。余りの嬉しさに青鬼と約束した愛の限度を越したため、哀れ源氏は地獄へ堕ちなければならない。
  光源氏 榎本健一
  鶯姫 筑紫まり

 (中略)

− 休憩 −

  第二部


  第十七景 地獄の門


 地獄に堕ちた源氏が裁かれる日である。地獄ではその噂さでもち切りである。特に女鬼たちは一張羅の虎の皮のスカートをはいたりして、大めかし。源氏はどこまでも人気がある。
  ニユーフアツシヨンの女鬼 マリア・ローザ
  同 X・小夜

 (中略)


  第十八景 源氏裁判


 閻魔大王裁判長によつて地獄法廷が開かれ、源氏の好色の件が取調べられる。源氏物語は文学であつても、光源氏の所業は倫理規程に反すると、鬼検事は有罪を論告する。弁護人側の主張は浮かれ源氏は光源氏に非ず大伴先生であるという。結局源氏の所業を浄玻璃の鏡にかけてみると、鴬姫と契りを結び、青鬼との約束を破つたことがわかる。そこで源氏は地獄の責苦を加えられ、赤鬼にされてしまう。
  光源氏 榎本健一
  検事 笠置シズ子

 (中略)


  第十九景 参道


 源氏の君の行方がわからないので鶯姫は清水様へ願をかける。その途中で赤鬼になつた源氏にさらわれようとする。この危難を救つたのは一寸法師である。一寸法師は赤鬼から買つた打出の小槌で忽ちに大きくなる。
  赤鬼 榎本健一
  鶯姫 筑紫まり

 (中略)


  第二十景 藤の花の宴


 左大臣家で藤の花の宴が催される。大きくなつた一寸法師即ち渡辺少将と鶯姫の縁組みの催しである。赤鬼になつた源氏は鬼女となつて鶯姫をさらつて行く。このこと知つた陰陽師阿倍晴明は雷神に祈つて鬼を退散させようとする。
  赤鬼 榎本健一
  鶯姫 筑紫まり
  父左大臣 三木のり平
  阿倍晴明 如月寛多

 (中略)


  第二十一景 雷神


 阿倍晴明に呼び出された雷神がその偉力をたたえて跳躍する。
  雷神 笠置シヅ子
  阿倍晴明 如月寛多

 (中略)


  第二十二景 羅生門


 羅生門の楼上に、赤鬼の源氏が鶯姫をさらう。そこへ雷神が現れて大格闘となる。そして赤鬼は楼上から突き落されてしまう。
  赤鬼 榎本健一
  雷神 笠置シヅ子
  鶯姫 筑紫まり


  エピローグ


 いままではすべて大伴先生の夢であつた−大伴先生は椅子から落ちて目を覚ます。
 春の花の校庭はやはり長閑かである。大伴先生は籠の中の鶯を放してやる。鶯も春を謳いながら飛び去つた。それに和するように若い女生徒たちの歌声が春の悦びを歌つている。
  大伴先生 榎本健一
  女学生京極文子 笠置シヅ子
  同 壬生春子 筑紫まり

 (後略)

 (挿入歌の歌詞は省略)

 
 
 
posted by genjiito at 23:57| Comment(0) | □谷崎読過
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