2019年06月20日

読書雑記(258)船戸与一『蝦夷地別件(上)』

 船戸与一の『蝦夷地別件(上)』(小学館文庫、2012年1月、588頁)を読みました。これは、全3冊の内の初巻です。

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 長編なので、物語の展開を追うのも大変です。「BOOK」データベースから、その内容紹介を引いて、まずはその流れを押さえておきます。

十八世紀末、蝦夷と呼ばれるアイヌ民族は和人の横暴に喘いでいた。商人による苛烈な搾取、謂れのない蔑みや暴力、女たちへの陵辱…。和人との戦いを決意した国後の脇長人ツキノエは、ロシア人船長に密かに鉄砲三〇〇挺を依頼する。しかし、そこにはポーランド貴族マホウスキの策略があった。祖国を狙うロシアの南下政策を阻止するべく、極東に関心を向けさせるための紛争の創出。一方で、蝦夷地を直轄地にしようと目論む幕府と、権益を死守しようとする松前藩の思惑も入り乱れていた。アイヌ民族最後の蜂起「国後・目梨の乱」を壮大なスケールで描きだす超大作。


 ペリーが浦賀に現れた時へと時間が遡ります。序章には、次のような書簡の一部が引かれています。

 それにつけても、愚僧は貴僧とはじめて御逢いした六十五年まえのあの地が憶いだされます。異国にたいする日本という国家。それがいまのようなかたちを整えはじめたのは愚僧と貴僧が六十五年まえにあの地で見た一連の動きと深い関わりを持ってる。そんな気がしてならないのです。(10頁)


 船戸は、平原や海原や大空を描くのが上手いと思います。さらには、月の光を巧みに取り込んで、夢語りを展開させます。本作にも、随所に見られます。この小説作法が、私は好きです。
 また、音が語りを重層的にしています。話をしている時に、泣き喚く子供の声がやがて遠ざかっていく場面など。
 上巻の後半で、救国ポーランド貴族団の話が出て来ます。唐突に感じたので、ポーランドがこれからこの話にどう関わっていくのか、楽しみになりました。日本の漂流民とかラクスマンなどのことが語られると、大黒屋光太夫などの話が背景にあることがわかります。井上靖や吉村昭の作品が思い出されます。それを殊更詳しく語らないのが、船戸の流儀なのでしょう。とにかく、世界史の知識がフル稼動です。
 アイヌとシャモ(和人)の生き様が、その違いを確認しながらダイナミックに展開します。船戸の筆力は、北の大地を舞台に冴え渡っています。
 アイヌの大地からシャモを追い払うためには、どうしても鉄砲が要ります。その鉄砲が、ロシアから入ってこないことがわかったところで、上巻は終わります。大河の一端を見た、という感じです。【4】
 
 
 
posted by genjiito at 20:40| Comment(0) | ■読書雑記
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