2019年05月31日

清張全集複読(34)「剥製」「危険な斜面」「願望」

■「剥製」
 鳥を呼び寄せる名人といわれる男が取り上げられます。雑誌記者とカメラマンが取材に行きます。しかし、失望して帰ります。
 後半は、すでに勢いをなくした美術評論家のことへと移ります。文筆家や研究者を見る冷めた目の語り手は、まさに清張そのものです。ただし、作品としては2つの話がうまく連携できずじまいだったように思えます。【2】
 
初出誌:『中央公論 文芸特集号』(昭和34年1月)
 
※『松本清張全集 37』(文藝春秋社、1973.7.20)の巻末に収載されている著者自身による「あとがき」には次のようにあります。
年末の忙しいさなかで、後半を締切ぎりぎりに印刷所で書いた。前半をホテルで書いたのだが、ほかの仕事に追われて、ふらふらしながらあとをつづけたのをおぼえている。たしか、看護婦を呼んで注射を打ってもらったと思っている。その有様を見て嶋中鵬二氏がたいへんだな、と眩いた。(553頁下段)


※参考資料:『松本清張事典 決定版』(郷原宏、角川学芸出版、平成17年4月)には、次のようにあります。
執筆量の限界を試してみようと積極的に仕事を引き受けた結果、この年後半から書痙になる。以後約9年間は福岡隆を専属速記者とし、口述筆記した原稿に加筆するという方法をとった。(中略)10月時点では前年からの継続分も含めて連載だけで11本という驚異的な執筆量を記録した。(281頁)

 
 
 
■「危険な斜面」
 秋葉文作は歌舞伎座のロビーで、その昔関係を持っていた野関利江と、10年ぶりの再会をしました。利江は、今は秋葉の会社の会長の愛人なのです。巧みな人物設定で、物語展開が楽しみになります。
 恋愛関係において、相手を器具と見るか恋人と思うかの違いから、破綻が生まれます。しかも、清張が得意な時刻表を活用したトリック。そして、最期の場面。うまい構成です。【4】
 
初出誌:『オール讀物』(昭和34年2月)
 
※『松本清張全集 37』(文藝春秋社、1973.7.20)の巻末に収載されている著者自身による「あとがき」には次のようにあります。
企業の機構の中にいる人間の出世欲が転落の斜面に足をかけているというのがテーマ。いまではこういう筋のものが多くて珍しくなくなったが、女の心理の変化まで読みとれなかった自信過剰男が書きたかった。(553頁下段)

 
 
 
■「願望」
 下積みから身を成した者が、一気に願望を満たす話が、江戸の本に書かれているそうです。その中から2つの話を引き、人間の心の内にある願望を語ります。物語というよりも、コラムに近い性格の掌編です。【1】
 
初出誌:『週刊朝日別冊 時代小説傑作特集』(昭和34年2月)
 
※『松本清張全集 37』(文藝春秋社、1973.7.20)の巻末に収載されている著者自身による「あとがき」には次のようにあります。
「願望」は、作品じたいのなかに「解説」が書きこまれている。「塵塚物語」と「慶長見聞集」からとった。はじめから小品むけである。(553頁下段)

 
 
 
posted by genjiito at 20:44| Comment(0) | □清張復読
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