異端の画家と言われた名和薛治をめぐる話です。その名和から芦野信弘へと展開します。そこには、清張がかねてより抱いていた疑問がありました。芦野が伝記作者になった、と言うところから話は急展開です。さらには、名和はなぜ晩年になって崩れた生活に陥ったのかについて、鋭い観察眼が縦横に光ります。芦野の娘の登場が、この話の転回点だと言えるでしょう。
天才画家と不幸な友人の人間関係を、清張はあらん限りの想像と連想を綯い交ぜにして語ります。人間観察が実を結んだ秀逸な物語が誕生したのです。【5】
初出誌:『文藝春秋』(昭和33年6月)
※『松本清張全集 37』(文藝春秋社、1973.7.20)の巻末に収載されている著者自身による「あとがき」には次のようにあります。
発表当時、モデルは岸田劉生ではないかと言われたが、劉生がモデルでないにしても、それらしい性格は取り入れてある。もっとも、劉生らしきもののみならずいろいろな人を入れ混ぜてあるから、モデルうんぬんにはいささか当惑する。(552頁上段)
※参考資料:『松本清張事典 決定版』(郷原宏、角川学芸出版、平成17年4月)には、次のようにあります。
岸田劉生をモデルにした一種の評伝小説で、このテーマはのちに『岸田劉生晩景』(『藝術新潮」65.2〜4)に結実する。(106頁左)
■「巻頭句の女」
癌を胃潰瘍だと言って知らされなかった女が、話の中心に置かれます。病院や医者や愛人などが出入りする話の中で、殺人事件があったことがあぶり出されます。ただし、いかにも作り話だという内容です。清張も、ネタに困って無理やりこじつけて書いた作品だと思いました。【1】
初出誌:『小説新潮』(昭和33年7月)
※『松本清張全集 37』(文藝春秋社、1973.7.20)の巻末に収載されている著者自身による「あとがき」には次のようにあります。
自作が俳句雑誌の巻頭を占めるかどうかは、投稿者仲間の重大な関心事となっている。『ホトトギス』の虚子選で巻頭をもらうと、地方名士になったという話があるくらいだ。(553頁上段)
■「紙の牙」
温泉地で、自分の存在を知られたくない男の心理が巧みに描かれて始まります。
それを見かけた市政新聞の記者に脅されます。市役所に勤める男は、職をなくすことを怖れ、言いなりになるのでした。安泰を願う人間の弱みが語られます。
終始、憎たらしいまでの悪党がリアルにる描かれています。作者は、こうした人々を見てきたからこそ書けるのでしょう。【4】
初出誌:『日本』(昭和33年10月)
※『松本清張全集 37』(文藝春秋社、1973.7.20)の巻末に収載されている著者自身による「あとがき」には次のようにあります。
「紙の牙」は、じつはモデルがあって、地方のある自治体政界での出来事なのだが、このような事情は今でも中央、地方を問わず行なわれているに違いない。能吏がつまずくのはほとんどがスキャンダルである。(553頁上段)
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